シカゴ発 インディーレーベル 「TOUCH&GO」 選りすぐりの名盤をピックアップ!!


シカゴのインディペンデントレーベル、Touch and Go Records



アメリカ、イリノイ州シカゴに本拠地を置くレコード会社「TOUCH&GO」は、歴史のある老舗インディーレーベルで、1981年に設立。

このレーベルは、シアトルの「Sub Pop」と共に、1980年代から米国のインディーズの音楽シーンを牽引してきた存在。

イギリスの名門レーベル「ラフ・トレード」「4AD」と同じく、その影響というのはアンダーグラウンドシーンにとどまらないで、メインストリームのミュージックシーンにも新鮮な息吹をもたらしたレコード会社です。

「TOUCH and GO」のリリースラインナップとしては、最初期の1980年代は、Necros、Die Kreuzen、Negative Appriachを始め、ハードコアパンクバンドのリリースを主として行っていましたが、徐々にアーティストの方向性を広めていき、多岐に渡るジャンルの作品リリースを推進していくようになります。

このレーベルの主な功績としては、ポスト・ロックというジャンル概念を生み出したことにあるでしょう。

二千年代になってから世界的に流行するようになったPost RockーMath Rock(”数学的”で、複雑な音楽構成をなすことから、このような呼称が名付けられた)というジャンルの概念を生み、その近辺の音楽性を持つアーティストをいち早く世に送り出していったのがタッチ・アンド・ゴーというレーベル。

その後、1990年代に入ってから、シカゴ界隈の音楽シーンは盛り上がりを見せ、様々な人種の織りなす多種多様な文化概念を反映したミュージックシーンを形成していく。これというのは、元々このシカゴという地域がハウス・ミュージックの発祥であり、ニューオーリンズのように、音楽そのものが街の生活の一部として染みついているからこそこういったシーンが生まれたのでしょう。

その後、1990年代から2000年代に差し掛かると、シカゴ音響派、別名”エレクトロニカ”という造語も出来、まさに音楽の聖地としてのシカゴ、そんなふうに呼び習わしても言い過ぎでない大きな流れが出てくるようになりました。

この四十年にも及ぶ「Touch and GO」のリリースカタログから見いだせる特徴は、パンク、オルタナティヴ、ダンス、ポストロック、マスロックといったコアなミュージシャンを輩出するだけにとどまらず、近年では、Battlesの前身であるDon Cabalello、TV on the Radio、Yeah Yeah Yeahs、Blonde Redhead、というように世界的な知名度を持つメジャーバンドも続々とシーンに送り出し続けている。

そもそも、このタッチ・アンド・ゴーは、才覚ある若手バンドの潜在能力を見抜くスカウト能力が他のレーベルに比べて抜群に際立っていて、荒削りでありながらも異彩を放つ若手アーティストを積極的に発掘して、作品リリースを重ねながら育てていくというのがレーベル体質としての際立った特色でしょう。また、換言すれば、米国のミュージックカルチャーの土壌を耕し、育て、盛り上げていくコーチ的役割も担ってきたのが、このシカゴのレーベル、タッチアンドゴーの偉大さ。

今回は、個人的にも思い入れのあるこの「Touch and Go」の四十年近いレーベルの歴史の中から、選りすぐりの名盤を、おすすめするものから順繰りに、いくつかピックアップしていきましょう。

 

 

Slint 「Spiderland」 1991

 


 

この作品は、タッチアンドゴーレコードの代表的な名盤というに留まらず、ミュージックシーンを完全に塗り替えてしまったといえる歴史的な名盤。驚くべきなのは、この数奇な音楽が、十代の少年たちが家のガレージで長年にわたりジャムセッションを胆力をもって続ける上で生み出された青春の産物であること。 この後、無数のポストロック、マスロックのフォロワーを生み出していながら、彼等の存在を超えるアーティストはいまだ出てきていないと言っておきましょう。気の遠くなるような時間を音楽のミューズに捧げつくしたからこそ生まれた必然の産物といえ、学業やその他の学生生活、または恋愛に向けられるべき情熱を全て音楽に捧げた結果なのでしょう。

もちろん、この作品「spiderland」が音楽としてリリースされた頃には、スリントのメンバー四人は、ティーンネイジャーではなくなっていますが、アルバムの最後に収録されているロック史の伝説、英国の詩人コールリッジの詩に音楽をつけた「Good morning, captain」の構想というのは、彼等のドキュメンタリーフィルムを見るかぎり、十代の頃出来上がっていたものと思われます。


スリントの四人が立ち泳ぎをしながら顔を突き出した写真というのも非常に印象的。そして、その音楽性についてもきわめて先鋭的、個性的であり、どこから影響を受けて生まれ出たのかよくわからない、ましてや、どういった意図を持って作られた音楽なのか解せないような作品が、たった四人のティーンネイジャーによって生み出されてしまうのが実に信じがたいものがあります。これは日本やイギリスといった土地ではまず生まれ出ない、これぞアメリカといったロック音楽。これはまた、米国のガレージ文化が生み出したモンスターアルバムだともいえます。  


静と動の織りなす激烈な曲展開。そこにクールに乗せられる、一貫して冷ややかなポエトリーリーディングを思わせるボーカルスタイル。それが、曲の展開に、一瞬にして激情的なスクリームに変貌してしまうありさま。これはまるでルー・リードの時代に返ったかのような姿勢であり、時代の流行り廃りから完全に背を向けているからこそ、生み出しえた数奇な表現といえるでしょう。


さながら何十年もスタジオミュージシャンと務めてきたような風格のある職人的なタメの効いたドラミング、ノンエフェクトからの狂気的に歪んだギターのディストーションへの移行。そして、その土台を支えるきわめてシンプルなベースライン。これら三要素が一体となってがっちりと組み合わされているのがスリントの特色。


そして、このアルバムには、その後のグランジムーヴメントを予見させるような雰囲気も滲んでいて、アメリカの表の音楽世界とはまたひと味ニュアンスの違った裏側の音楽世界が広がっている。


この作品が後世のロックミュージシャンに与えた影響というのは計りしれず、日本のToeやLiteといったポストロック、マスロックも、このバンドなしには成り立たなかった伝説的な存在で、その原型を形作ったのがスリントという数奇なロックバンドといえ、全ロックファン必聴。


Don Cabarello「American Don」2000

 

  

 

ドン・キャバレロは、1991年、デイモン・チェを中心としてピッツバーグにて結成。のちのバトルスのギタリストとして活躍するイアン・ウィリアムズも在籍していたバンド。


このバンドの音楽というのは、アメリカのインテリジェンス性の飛び抜けて高い大学生が、数学的な頭脳を駆使し、実験的な音に取り組んだという印象。キャバレロを聴くと、あらためて作曲をするのに最も必要なのは、数学的な才覚であると分かります。ここには、後のバトルスの完成度高いダンスミュージックへの布石も感じられる。このバンドは、二千年代以降のポストロック・マスロックの流行りの型を作ったという功績は無視できず、その点でも音楽史に果たした役割というのは大きい。


ドン・キャバレロの作風としては、ジャムセッションの延長線上にあり、ジョン・アダムスやスティーヴ・ライヒが提唱した”ミニマル・ミュージック”(短い楽節を変奏を繰り返しながら展開していく楽曲の作風)の概念をさらに先に推し進め、それを現代的なロックの解釈としてアレンジメントしたもの。 


アナログディレイの機器に、ギターやベースからシールドによって配線をつなぎ、電子の弦楽器をシンセサイザーのような使用法をしている。そして、ベースの出音をあえて早めることにより、ドリルのような連続的クラスター音を発生させている。いかにも、その音の構成というのはシュトックハウゼンから引き継がれたものをロックでやってのけてしまったという革新性。ディレイという装置の細かな時間のタイムラグをうまく駆使することにより、細かな音をつなぎわせ、アンビエントの境地にまで運んでいってしまったのが、このバンドの凄まじい特徴です。

このアルバム「American Don」は、ライブセッションのようなみずみずしい彼等の演奏が聴く事が出来、ひとつの完成形を見たという印象。ここでめくるめくような形で展開されるのはロックとしてのフリージャズ。

二曲目収録の「Peter Cris Jazz」は、彼等の美麗なメロディセンスが発揮された名曲。ここで繰り広げられるベースのドリル音のようなサウンド処理というのは音楽の革命の一といえるでしょう。あらためて、ロック音楽の中には、知的なバンドも中には存在するのだという好例を、彼等はこの作品で見せつけてくれている。いわゆるミュージシャンの参考になるアーティスト、決して聞きやすくありませんけれども、既存のロックに飽きてしまった人には目から鱗と言える数奇的な傑作。

 Big Black 「RICHMAN'S EIGHT TRACK TAPE」1987

 


 

ビッグブラックは、オルタナティヴ界の裏の帝王ともいえる鬼才スティーブ・アルビニの激烈な宅録テクノ・ハードコアバンド。

のちに、アルビニがニルヴァーナの「イン・ユーテロ」の作品を手掛け、世界的なプロデューサーとなるのはまだ数年後まで待たねばならない。さらに、そのまたのちに、ジミーペイジ&ロバート・プラントの作品のエンジニアをつとめるようになるなんて大それた話は、少なくとも彼の最初のミュージシャンとしての活動形態、このビッグブラックを聴くかぎりでは全然想像出来ないでしょう。

ビックブラックの活動というのは太く短くといった表現が相応しく、スタジオ・アルバムを二枚リリースしているのみで、後はライブ・アルバムや、細々としたサイドリリースとなっています。この「RICHMAN'S EIGHT TRACK TAPE」は、いわばビッグブラックのベスト盤的な意味合いのある作品。この宅録ハードコアバンドの主要な楽曲を網羅し、そして、初期のレアトラックを集めた、スティーヴ・アルビニの若き日の音楽に対する情熱がたっぷりと詰まった作品。

この作品において見られる、古いMTR(マルチトラックレコーダー)の8トラックで、少ないトラック制限がある中、音を丹念に重ねて録音し、入念にマスタリングをしていくというきわめて初歩的なレコーディングの手法が、後のスティーヴ・アルビニの天才的エンジニアとしての素地を形作り、また、ここにはその有り余るほどの鮮烈な才覚の芽生えが顕著に見えることでしょう。

ビックブラッグの音楽性については、非常にストイックで、ハードコア・パンクを下地にしながらライムの風味すら感じられる硬派なギャングスターハードコアといえるもの。精密で冷ややかなマシンビートが刻まれる中、のちのアルビニサウンドの原型をなす硬質な鉄のような狂気的でギターサウンドの際立った存在感、そして、アルビニのすさまじい猛獣のような咆哮、さらには、奇妙な色気のあるシャウト、まさにコテコテのお好み焼きのような要素がギュウギュウ詰めになっています。

ここには、年若いアルビニ青年のありあまるほどの音楽への情熱が感じられ、それが比類なきハードコア世界の深みを形成しています。ここには、およそアメリカの最深部の音楽世界がマリアナ海溝よりも深く充ち広がっており、その海底に入り込んだら抜け出せなくなるような、危なっかしい魅力が満載です。スティーヴ・アルビニのプロデューサーとして性格だけでなく、ミュージシャンとしての表情がはっきりと見える貴重な記録的な作品となっていて、このアルビニ・ワールドというのは、さらに、その後の彼の活動、RapemanーShellacへと引き継がれていく。

 

Black Heart Procession「Amore del Tropico」2002

 


 

40年という長きに渡るTouch and Goのリリースカタログ中でも、際立って風変わりなアーティストと呼べるBlack Heart Procession。カルフォルニアのサンティエゴ出身のバンドです。

このアルバムは、キャッチーでポップ性が高いとはいえません。しかし、それでも、ここには、独特なダンディーでクールな渋い漢の世界が広がっている。スパニッシュ風の音の雰囲気が心なしか漂っており、ブエナビスタ・ソシアルクラブやジプシー・キングスのような民族音楽色が滲んだ渋みある作風です。

表題がイタリア語であることから、何かしら、名画「ゴッドファーザー」に対する憧憬も感じられ、イタリアンマフィアのダンディズムに満ちた世界観ともいうべき概念が音楽によって入念に組み立てられている印象。

また、ここには、一貫してストーリ性のようなものが貫かれており、 映画のサウンドトラックの影響を感じる、SEのような楽曲もあり、映像シーンのひとこまを音によって印象的に彩るようなロックソングもありと、彼等の多彩な付け焼き刃でない音楽の広範なバックグラウンドが伺える。

ブラック・ハート・プロセッションの曲調というのは、「Tropics of Love」をはじめとして、短調の曲が多く、明るさの感じられる作風ではありませんが、ここで展開されている癖になるようなリズムと、女性のバックコーラスの味わいは、独特な渋みが見いだせるはず。 「The Water #4」で見せるような仄暗い渋い質感というのも、黒ビールを飲みながら聴きたいような曲。

そんな中、最終トラックの名曲「The One who has Disappeared」では、古いトラッドなアメリカンフォーク、ジョニー・キャッシュを彷彿とさせるような激渋の楽曲もあり、それほど知られていないバンドが、こういった良質な曲をあっけらかんと書いてしまうあたり、アメリカの音楽文化の奥行き、ロックと言う音楽の幅広さ、深みのようなものを感じずにはいられません。

 

Blonde Redhead 「Melody Of Certain Damaged Lemons」2000

 


 

イタリア人兄弟、日本人移民カズ・マキノによって、NYで結成された前衛ロックバンド、ブロンド・レッドヘッド。

音楽性としては、ジャズ、ダンス、そして、古典音楽のエッセンスを織り交ぜ、ロック音楽として昇華しているのが特徴です。

彼等の楽曲の雰囲気は一貫してアンニュイであり、女性らしからぬ激情性が感じられる辺りが、妖艶な華やかさをこのバンドの全面的な印象に添えています。

紅一点の女性ボーカル、カズ・マキノが、ライオット・ガールのように華やかなフロントマンとして君臨し、実験的、前衛的な不協和音を前面に押し出した音を奏でるという点では、同郷、ソニック・ユースに比するものがありますが、彼等三人の音楽というのはメロディに重きを置いているのが特色。 

今作、通算五作目となるアルバム「Melody of Certain Damaged Lemons」は、次作からイギリスの名門レーベル「4AD」に移籍する直前の、最も勢いのある瞬間を捉えた名作で、三人のこの後の音楽の方向性を明瞭に決定づけた作品。ここに現れ出ているイタリアバロック音楽からの色濃い影響を受けた性質は、この次の「Misery Is A Butterfly」で大輪の花を咲かせます。

このアルバムは彼等の活動の分岐点ともいえ、最初期からのノーニューヨークを現代に蘇らせたような激しいノイズロック色の強い実験的な音楽、さらに、この後に引き継がれていく古典音楽からの要素が見事に融合しているのが際立った特徴です。  

また、ビートルズの「Because」を彷彿とさせる「Loved Despite of Great Faults」、古典音楽からの影響を色濃く感じさせる「For the Dameged」。続曲「For The Damaged Coda」あたりに、カズ・マキノしか紡ぎ出しえない特異な詩情が、男性のダンディズムと対極にある女性の”レディズム”ともいえる概念が引き出され、音楽史上において異質な輝きを放ちつづけている。  

さらには、初期からのバンドの前衛性を引き継いだ「Mother」の激烈なクールさというのも、ニューヨークのバンドならでは。

また、近年のこのバンドの主な音楽性を形作っているダンスミュージック色の強い名曲「This is Not」。このどことなくファッショナブルな雰囲気のあるポップソングというのも聴き逃がせません。

  

TV On The Radio 「Desperate Youth, Blood Thirsty Babes」2004 

 


 

その後、世界的な活躍を見せるようになるニューヨーク、ブルックリンの四人組バンド、TV on The Radioの鮮烈なデビュー作。

このバンドの音楽性の特徴というのは、ブラック・ミュージックをドリーム・ポップ的な雰囲気を交え、クールに解釈した辺りが、それ以前のバンドにはなかったみずみずしい輝きを放っています。 

彼等の音楽は、ヒップホップとまではいわないまでも、近現代のソウルミュージックの奥深い音楽性をしっかりと受け継ぎ、現代的なポップス、ロックという形で表現している。ブラック・ミュージック性を誇り高く打ち出して、ロックを新しい時代に推し進めた先駆的存在です。

このアルバムでは、実験的な音楽を奏でていますが、ここには、ダンスミュージックとして聴いても秀逸な魅力が感じられ、ボーカルのトゥンデ・アデビンペのボーカルスタイルの純粋なクールさというのも際立っている。

このアルバム二曲目に収録されている「Staring at the Sun」は、インディーロック史に語り継がれるべき名曲といえ、遅まきながら二千十年代になってMyspaceで愛好家の間で話題を呼んでいた楽曲。

シンセサイザーのベース的なフレージング、サンプラーのビート、ギターカッティング、また、このボーカルスタイルの洗練された革新性の空気が感じられるはず。そして、このアルバム全体には、ニューヨークの都会的なスタイリッシュな雰囲気が漂い、そこが新鮮かつクールに感じられるはず。



Brainac 「Electro Shock for President」1997

 


 

後に、ダフト・パンクの築き上げたなSci-fiロックともいうべき、革新的なジャンルを打ち立てて見せたブレイニアック。タッチアンドゴーのポストロック色の強いリリースからするとかなり異端的存在といえるでしょう。

このアルバムは、EP「Internationale」に比べ、より主体となる音楽性が明瞭となり、この後の方向性であるギターサウンドを前面に打ち出していき、音楽としてのSF色をさらに強めていくようになるブレイニアックの作風の契機ともなった重要な作品。

翌年の名作「Hissing Pigs in static Couture」に比べ、ダンスフロアで鳴らされることを想定したような趣のあるクラブミュージックよりの音楽。

一曲目からUKのプライマル・スクリームの傑作、「Kill All Hippies」を彷彿とさせるエレクトロの楽曲からしてクールとしかいいようがなく、アメリカのバンドとして異質な雰囲気が滲んでおり、アメリカのクラブシーンに対する反応というより、UKのロンドンやブリストルのダンスフロアシーンに対しての反応といえ、それをアメリカ的な雑食さで独特にアレンジしたような楽曲。

「Flash Ram」に代表されるような楽曲、ヴォコーダーを活用したクラフトヴェルクのドイツの電子音楽に対する現代的回答もあり、このあたりがブレイニアックのクラブミュージックに対する深い造詣が伺えるよう。

「Fashion 500」 「The Turnover」では、グリッチに対する接近も見られ、一辺倒にも思える作品全体に非常に異質な雰囲気と、通好みにはたまらないコアな雰囲気を醸し出すことに成功している。 

また、「Mr.Fingers」で繰り広げられるような荒々しいプリミティヴなガレージロック風味のあるブレイクビーツスタイルというのも、新しいジャンルを確立したといっても過言ではないはず。

 ここには、クラブミュージックとロックンロールを融合、それをさらに未来に進化させたSci-fiロックという究極型がダフト・パンクとはまた異なるアプローチによって見事に展開されています。

 

YEAH YEAH YEAHS 「Yeah Yeah Yeahs」 2002

 


 

数々のミュージックアウォードの受賞実績を誇り、名実ともにタッチアンドゴー出身のバンドとしては一番の出世頭、ヤー・ヤー・ヤーズ。

00年代からのガレージロックリバイバルのシーンの流れにおいて見過ごすことのできない最重要アーティストといえ、ストロークス、ホワイト・ストライプスの系譜にあるスタイリッシュなガレージロックバンド。

このデビューEPは、ヤー・ヤー・ヤーズのみずみずしくフレッシュな初期衝動が発揮された名作といえ、彼等のその後の洗練された作品とはまた異なるプリミティブな魅力がたっぷりと味わいつくせるはず。

このロックバンドのとくに目を惹く特徴は、ライオット・ガールとしてフロントマンに君臨するカレン・Oのキュートな華やかさ、そして、ボーカリストとしての比類なき力強さにあるでしょう。

一曲目の「Bang」からして、フルテンの直アンから出力したような轟音ギターサウンド。往年のガレージロックバンド、The Sonicsを彷彿とさせるような、荒々しくプリミティブなド直球のストレートなロックンロール。また、ここには、スリーピースバンドとしての音のバランスの良さ、そして、ベルヴェット・アンダーグラウンドやストゥージズから引き継がれるクールでスタイリッシュな音楽性を引き継いで、それがダンサンブルな掴みやすい楽曲として昇華されている。

四曲目収録の「Miles Away」は、往年のNYロックンロールの真髄を知る者にこそ生み出しうるヒットナンバー。「Art Star」では、カレンOがスクリーモに果敢に挑戦しているのも聞き所。アルバム全体の雰囲気には、その後の彼等の華々しい活躍と成功が想像でき、そして、また、その後の完成形の萌芽ともいえる、荒削りな音楽フリーク的な彼等の趣向を見いだせるはず。

アルバム全編通して一切妥協なしの十三分。再生を始めると、嵐のようにヒットチューンが目の前をすまじい早さで通り過ぎていく 。

2000年代以降のニューヨークシーンの一時代を彩ったガレージロックリバイバルを完成させた最後の大物、それがヤー・ヤー・ヤーズ。

後の三人の作品を聴いて好きになったという方にとどまらず、ホワイト・ストライプスやストロークスのファン、言わずもがな、ミッシェル・ガン・エレファント好きは絶対に必聴です。


Dirty Three 「Whatever You Love,You Are」2000

 


 

この名盤紹介において最後に挙げておきたいのは、オーストラリア出身の三人衆、ダーティー・スリー。

タッチ・アンド・ゴー・レコードの四十年というリリースにおいて、レーベルの芸術的な性格を最も特色づけているアーティストです。

ギター、弦楽器、ドラムというシンプルなトリオ編成で、弦楽器をジャズフュージョンのようにバンド編成中に取り入れた硬派で前衛派の音楽グループです。他のポストロックバンドに比べ、彼等の音楽性の特異なのは、ドラムやギターが脇役であり、弦楽器のハーモニーが主役とはっきり主張しているところでしょう。

この後、スコットランドのモグワイ、カナダのゴッド・スピード・ユー・ブラック・エンペラーがロック音楽に弦楽器を本格的な導入を試みて成功し、弦楽奏者をバンド内で演奏させるスタイルが今日においては、ごくごく自然な形として確立された感があります。よく、レビュー誌などでは上記のバンドが先駆者としてよく挙げられますけれど、私の知るかぎりにおいて、世界で一番最初に弦楽合奏をロック音楽として取り入れたのは、このオーストラリアの前衛派のバンド、ダーティー・スリーでした。

今作「Whatever You Love,You Are」は、彼等の通算二作目となるスタジオ・アルバム。デビュー作「Ocean Songs」に比べて、弦楽のハーモニクスの美麗さがより際立ち、楽曲の良さと魅力が分かりやすく引き出されたという理由で、彼等の名作のひとつに挙げておきたい。

特に、このアルバムの特異なのは、バイオリンのピチカート奏法の多用を、はじめてロック音楽として取り入れている点。

なおかつ、その音楽性というのも、ジプシーが流浪のはての街頭で奏でるような哀愁あるバイオリンのパッセージ、そして、その心細さを両側からしっかり支えているのが、ギターのシンプルで飾り気のない質素なアルペジオと、そして、さらに、ドラムのジャズ的なフレージング。これらががっちりと組み合うことにより、このバンドの音楽の全体的な音の厚みを形成しています。

このアルバム「Whatever You Love,You Are」の表向きの楽曲の印象というのは、先にも言ったように、ロック音楽を聴いているというよりかは、どこか異国の街角をあてどなく歩いている際に、ふと、ジプシー民族のリアリティのある流しの演奏が耳にスッと飛び込んでくるような異国情緒があって、そのあたりに、はかなげで、ほんのりと淡い哀愁が漂っているように思えます。

ときに、それは、完成された楽曲というより、即興音楽のような雰囲気を持って心にグッと迫ってくるはず。

上品で洗練されたバイオリンを中心とした楽曲の世界は徹底して抑えの効いた静かな雰囲気によって統一され、最初から最後のトラックまで、丹念に音の世界がゆったりと綿密に構成されていく。

そして、このアルバム中、いや、タッチ・アンド・ゴーの四十年という歴史で、最も秀逸な楽曲のひとつ、最終トラックにエピローグのような形で有終の美を飾っている「Lullabye for Christie」。

このポストロック屈指の名曲は、全面的な奥行きのある音響世界が、上質で淡い弦楽器のハーモニクスを中心としてミニマルな楽節の構成によって綿密に紡がれていく。アンビエントという概念が、あまりにも今日のミュージックシーンにおいて安売りされすぎている感があるため、ここでは、彼等のクラシック色あふれる良質な楽曲をそういうふうに呼ぶのを固く禁じておきたい。

そして、ここで、モーリス・ラヴェルのボレロのマーチングのようなドラミングによって音の奥行き、楽曲に内包される叙情性が深められ、きわめて心地よい音響世界の拡がりの様子を見てみると、必ずしも反復という楽曲上の特性は、単調さだけを生み出すにとどまらず、時に、方法論によって発展性の呼び水になりうるということを、ダーティー・スリーはこの楽曲において誇らしく示してくれています。

これは、その後の、ポストロックの誕生を完全に予見するような深いエモーションにとんだ堂々たる名曲。

最後にひとつ、このダーティー・スリーの名盤を聴かずしては、タッチ・アンド・ゴーを素通りすることは出来かねると言っておきましょう。


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