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羊文学


日本のロックバンド、羊文学が、台湾のアーティスト・LUCYとのコラボレーションによって制作した楽曲「OH HEY」を配信リリースしました。かねてより羊文学の音楽が好きだったというLUCYからアプローチをかけ、さらに羊文学の3人がLUCYの音楽性に深い共感をおぼえてことで本コラボレーションが実現しました。

Lucy

今回のシングルは、台湾、日本という遠隔の地ながらも、リモートセッションを通して、ふたつのアーティストによって楽曲制作が行われました。楽曲のバンドアレンジは羊文学のメンバーが担当し、作詞は、LUCYと塩塚モエカ(vo,g)が共同で手掛けており、日本と台湾、互いの言語が共存する面白いスタイルの歌詞に仕上がっています。



羊文学/Lucy 「Oh Hey」

 

Aurora


 

オーロラは、ノルウェーのシンガーソングライター兼音楽プロデューサー。ジャンルはエレクトロ・ポップに分類されることが多く、フォーク音楽との関係性も指摘される場合も多い。オーロラの作品には、個人的な感情、政治、セクシャリティ、死生観といった多岐にわたるテーマが掲げられる。

 

オーロラ・アクスネスは、ノルウェー、ローガラン県スタヴァンゲル、ホルダラン県の自然豊かな街に育った。音楽を始めたのは六歳頃からで、友人がインターネットにアップロードした自作曲がきっかけとなり、弱冠17歳でプロデビューを果たした。

 

大手レコード会社”Decca”との専属契約を結び、2013年からシンガーソングライターとして活動を行い、これまでに四作のフルレングスアルバムをリリースしている。オーロラ・アクスネスの主な作風は親しみやすいエレクトロ色の強いポピュラー音楽で、自国ノルウェーやイギリスを始めとするヨーロッパ圏、また、アメリカを中心として堅調なセールスを記録し、幅広いリスナー層を獲得している。他にも、ディズニー映画「アナと雪の女王 2」のサウンドトラック、ケミカル・ブラザーズの作品「No Geography」へのゲスト参加が著名な仕事として知られている。

 

オーロラ・アクスネスの歌声は北欧シンガーらしく、伸びやかで奥行きがあり、自然を感じさせるような独特な響きが込められている。音楽制作を行う上で強い影響を受けたアーティストとしては、エンヤ、をはじめとする北欧のポップスシンガー、また、レオナード・コーエンといったフォークシンガー、あるいは、フォーク・ロックの立役者、ボブ・ディランなどを列挙している。

 

また、ノルウェーの文化に強い影響を受けているオーロラ・アクスネスは、その他にも、日本文化やネイティヴ・アメリカン文化にたいする深い造詣を持っている。アクスネスは、みずからのファンを「ウォーリアー」や「ウィアード」と呼び習わしているのも特徴的と言える。 また2021年には来日し、千葉幕張で行われる音楽フェスティヴァル「Supersonic」に出演している。





「The Gods We Can Touch」 Universal Music /Decca

 

 

   

Tacklisting:

 

1.The Fobidden Fruits Of Eden

2.Everything Matter

3.Giving In To The Love

4.Cure for Me

5.You Keep Me Crawling

6.Exist For Love

7.Heathens

8.The Innocent

9.Exhale Inhale

10.A Temporary High

11.A Dangerous Thing

12.Artemis

13.Blood In The Wine

14.This Cloud Be A Dream

15.A Little Place Called The Moon



2022年1月21日にリリースされたスタジオ・アルバム「The Gods We Can Touch」はオーロラの約2年ぶりとなる新譜。アルバムリリースに先行して「Giving In To The Love」が先行配信された。

 

これまで、デビュー作「All My Deamons Greetnig As Me A Friend」からオーロラ・アクスネスはギリシャ神話のストーリ性をポップスミュージックの中に込めてきたが、そのあたりが、コクトー・ツインズに代表される「エーテル」と呼ばれるゴシック的な雰囲気を擁する音楽ジャンルとの親和性が高いと評される所以かもしれない。そしてまた、そのゴシック性は、オーロラ・アクスネスというミュージシャンの個性、アメリカやイギリスのアーティストにはないキャラクター性、ヴォーカリストとしての強烈な魅力となっている。今作「The Gods We Can Touch」でも、その点は変わらず引き継がれており、オーロラ・アクスネスは、ギリシャ神話の物語に題材を取り、幻想性というテーマを介して、現実性に焦点を絞ろうと試みている。

 

今回のフルレングスの作品では、表向きな楽曲性には、少なからずファンタジー色が込められていて、それは特に、一曲目の「The Fobidden Fruits Of Eden 」のストーリー性のあるポピュラー音楽に顕著に感じられる特徴でもある。しかし、アクスネスの描き出すのは必ずしも幻想の世界にとどまるものとは言えないかもしれない。その内奥にある強い現実性を描き出す力をソングライターとしての実力をアクスネスはすでに充分に兼ね備えており、つまり、彼女は、恥、欲望、道徳といった現実的な概念を「幻想」というプリズムを透かして映し出しているのだ。

 

この作品は、文学性の強いポピュラーミュージックである。もちろん、そこには、上記に書いた通り、エレクトロ・ポップス、エーテルだけでなく、レオナード・コーエン、ボブ・ディランといったコンテンポラリーフォークからの強い影響を感じさせる楽曲も多数、今作には収録されている。

 

表向きには、商業音楽を強く意識している作品なのだが、その中に、強烈な個性、商業性にかき消されない特性を兼ね備えた作品であることも事実だ。そのあたりが、エンヤ、ビョーク、もしくはアバにも近い雰囲気を持った北欧のアーティストらしい個性派シンガーといえるかもしれない。

 

全15曲で構成される新作アルバム「The Gods We Can Touch」は、各曲がそれぞれ異なるギリシャ神話の神々をモチーフにして制作されている、このコンセプトアルバム全体に、通奏低音のように響いている「世界観」について、 オーロラ・アクスネスは、以下のように話している。上記のレビューよりも、はるかに、この作品を知るための手がかりとなりえるはずである。

 

特に、以下のコメントに垣間見えるのは、ギリシャ神話の宗教性という概念を通してみた先にある人間としての生き方と、オーロラ・アクスネスの一筋縄でいかないような人生哲学である。

 

 

「人間と神々の間にある精神的な扉は、とても複雑なものです。正しく歩み寄れば、信仰は最も美しいものとなりえる。育み、温かさを感じさせてくれるものとなる。

 

しかし、それでも、誤った歩み方をすると、戦争と死に繋がる。

 

私は、人間は生まれつき価値がなく、人間らしくいるために自分の中の力を抑え込むことにより、自分を価値あるものにしなければならない、という考えにかねてから違和感を覚えていました。

 

完全でなくて、完璧でもない、ごく普通の人間に対して。

 

世の中の不思議なものに執着して、誘惑されながらも、自分の中に神聖な力を取り戻すことができるのか。

 

肉体、果実、そして、ワインのように・・・

 

こういった要素が、私がギリシャの神々に興味を持った理由。昔の世界の神々。それらの存在はすべてが不完全で、ほとんど私たちの手の届くところにいる。まるで、私たちが触れうる神々のように・・・

 

 

 

 

 

 

・Apple Music Link 

 

 


ジェイムス・ブレイクはロンドン特別区出身のSSW、レコードプロデューサー。ロンドン大学ゴールドスミス在学中から、作曲活動をはじめ、「James Blake」で鮮烈なデビューを飾り、この新奇性溢れる作品によって英国のエレクトロニックシーンに衝撃を与えた。すでにグラミー賞、マーキュリー賞のウィナーに輝いており、英国のブリット・アワードにも三度ノミネートされている。

 

ブレイクは、これまでリリースされたてきた作品において、マウント・キンビー、ブライアン・イーノ、ボン・イヴェールをはじめとする著名な音楽家と共同制作の機会を持ってきたに留まらず、アメリカのカニエ・ウェスト、ケンドリック・ラマー、ドレイク、Jay-Z、といった著名なラッパーとのコラボレーション、もしくはそれらのアーティストの作品をフューチャー、そして、ビヨンセの作品のプロデューサーとして参加してきたジェイムス・ブレイクは、2021年の10月3日に新作スタジオ・アルバム「The Friend That Break Your Heart」をリリースした。 

 

James Blake, Coachella 2013 -- Indio, CA"James Blake, Coachella 2013 -- Indio, CA" by Thomas Hawk is licensed under CC BY-NC 2.0

本来は、一ヶ月前の9月中にリリース予定であった作品で、COVID-19による製品の工場生産が滞ったため、実際の発売は10月に持ち越され、リパブリック・レコード、ポリドールから発売されています。

 

先月からシングル作「Famous Last Words」が先行リリースされた時点で、10月にリリースされるスタジオ・アルバムの新作が、ジェイムス・ブレイクの最高傑作の1つになるであろうことは想像されていましたが、その予想を遥かに上回るハイクオリティーな作品がついに多くの音楽ファンの元にお目見えしたと言って良いかもしれません。


作品の制作ゲストに、SZA,JID,Swavay,MOnica Martinといった頼もしいアーティストらを迎え入れ、さらに今作の制作に名を連ねているプロデューサーは、Dominic Maker Jameela Jamil Take a Daytrip、Joji,Khushi,Josh Stadlen,Metro Boomin,Frank Dukes,Rick Nowelsと九人にも及んでいることから、制作段階においても、相当な労力、そして胆力が注がれているのが感じられます。

アメリカのとある音楽メディアでは思いのほか、レビュー点数が「6.6」と全然伸びませんでした。一方、英国の米ビルボードに次ぐ老舗音楽雑誌NMEは、五つ星満点をつけて大盤振る舞い。
 
 
NMEは、この作品に費やしたブレイクの音楽に対するパッションを満点評価により大いに労ってみせています。また、independentも、この作品に4/5比較的高評価を与えており、米国のメディアでは評価は高くないものの、英国の音楽メディアを中心にリリース時点から絶賛を受けているのは、これは、米国のクラブミュージックシーンと、英国のクラブミュージックシーンの価値観が以前よりも大きな隔たりが生じ、分離をはじめているような雰囲気が感じられなくもない。後は、英ローリングストーンや米ビルボードがどういった評価を下すのかに注目です。これは評論をしている側の価値観なのか、それとも、リスナーの趣向によるものかまではちょっとわからないです。元々、米国と英国では文化性の違いにおいて、音楽に求める趣向というか好みみたいなものが2019年以前より異なって来ているのどうか、その点が気がかりであります。




James Blake 「The Friend That Break Your Heart」2021 

 





Tracklist


1.Famous Last Word
2.Life Is Not The Same
3.Coming Back(feat.SZA)
4.Funeral
5.Frozen
6.I'm So Blessed You're Mine 
7.Foot Forward
8.Show Me 
9.She What You Will
10.Lost Angel Nights
11.Friends That Break Your Heart
12.If I'm Insecure
 
 


 
 
 
この「The Friend That Break Your Heart」は、ポピュラー音楽としての掴みやすさもありながら、一度、聴いただけでは、その音楽の内奥まで、なかなか容易に理解つくせないような印象もある。2020年代の英国社会の世相を克明に音として反映した哲学的作品であり、これまでのブレイクの音楽性である電子音楽、UKグライム、ヒップ・ホップ、ソウルのコアな部分を踏まえた上、パイプオルガンのようなシンセの音色、バッハの平均律のようなフーガ的構造を持つエレクトリック・ピアノのフレーズの挿入を見ると、ジェイムス・ブレイクの幼少期からのクラシック音楽、ピアノ音楽の影響が、青年期のロンドンのクラブでの音楽体験と見事な融合をはたし、今作でひとつのブレイクの音楽性のひとつの集大成を築き上げたというように言えます。

王道の12曲収録、少なくもなければ、多くもない、この曲数しかないという重厚感のある音楽の密度を形作っています。ランタイム再生時間以上の濃密な奇跡的な瞬間の連続、上質な風味のある音楽が様々なジャンルの切り口から描き出されています。共同制作者として名を連ねるのは、総勢十人のミュージシャン、これは、ミュージシャン誰が、これらの楽曲のディテイルにおいて役割を果たしているというより、複数の気鋭のミュージシャンたちがジェイムス・ブレイクを中心として、このアルバムに収録されている12曲(Bonus版は13曲)の多彩で、情感たっぷりの音楽をコロナパンデミック禍下において苦心して完成させた、という言い方が相応かもしれません。

アルバム全体としては、大人なバラードの質感に彩られており、そこに、ヒップホップやダブの風味がほんのり添えられる。全体的には、トリップホップにも似たほのかな暗鬱さが漂う。これをイギリスの社会的な背景と結びつけるかどうかは、聞き手の感性によりけりといえるでしょう。しかし、「Funeral」というトラックが書かれていることからも、漠然としているように思える死という概念について、様々な角度から捉え直した側面もあるようです。これまでの作品より、バリエーションの面で多彩性があり、表題曲「The Friend That Break Your Heart」「Famous Last Words」といったトラックに代表されるように、落ち着いたネオソウルの魅力がキラリと輝く。


これまでのブレイクの作品よりもさらに人間の表側から見えない心の裏側を忠実に映した形而上の世界へと踏み入れ、きわめて抽象的な世界が音楽によって描き出されています。それはまたサイケデリアとも対極にある内向的性質を持つ。ひたすら、内へ、内へと、エネルギーがひたひた向かっていくのは、例えば、シュルレアリスム派の絵画、キリコ、ルドン、マグリットをはじめとするシュルレアリストの描く内的世界を、束の間ながら垣間見るかのようなワイアードな感覚を聞き手にもたらす。具象化の延長線上にある電子音楽ではなく、徹底して抽象化の延長線上にある電子音楽。心象という捉えがたい形なきものを見事にブレイクは音により忠実に表現することに成功しています。
 
 
とにかく、今作は、侃々諤々の議論が飛び交いそうなセンセーショナルな作品と呼べそうです。



James Blake Offical 











James Brake



ジェイムス・ブレイクは、既にボン・アイヴァー等とならんで、イギリスではスターミュージシャンの一人と言っても差し支えないでしょう。

 

近年のイギリスの最もクラブシーンを盛り上げているブレイクは、インフィールド・ロンドン特別区出身のミュージシャン。ロンドンのクラブシーンに色濃く影響を受け、また、アメリカのオーティス・レディングのようなモータウンレコードを聴き込んだ後に生み出されたディープ・ソウルの味わいは、このジェイムス・ブレイクの音楽の重要な骨格を形作っているといえるはず。


また自営業を営んでいた家で生まれ育ったからか、独立心に富んだ活動を行っており、また、幼少期からクラシック音楽を学び、その音楽に慣れ親しんだことにより、和音感覚に優れたミュージシャンとも言えるでしょう。これまでの共同制作者として並ぶ名も豪華で、ブライアン・イーノをはじめ、ボン・アイヴァー、マウント・キンビー、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー、と、電子音楽、 とりわけ、ダブステップ界隈のミュージシャン、そしてアンビエントミュージシャンの音楽とも親和性が高いようです。

 

ジェイムス・ブレイクがミュージシャンとして目覚める契機となった体験は、ロンドンのクラブでの迫力あるクラブサウンドでした。グライムやガラージといったダブステップの元祖ともいえるサウンドを、ブレイクはサウスロンドンで体験し、その音楽に強い影響を受け、大学生の時代にトラックメイキングをはじめました。音楽家としての恵まれた環境がすでに用意されていたため、つまり、父親の所有するスタジオで、彼は楽曲制作にのめりこむようになっていきます。 


そして、2011年にデビュー作「James Blake」をリリース。この作品はマーキュリー賞にノミネートされ、大きな話題を呼んだだけでなく、UKのクラブミュージックの潮流を一瞬にして変えてしまった伝説的な作品です。このクラブミュージックとディープソウルを融合したサウンドは、イギリスの他のクラブ界隈のミュージシャンにも大きな影響を及ぼしています。ジェイムス・ブレイクは、自身の音楽について、このように語っています。

 

 "「ソウル・レコードのように、人が感情移入できるダンス・ミュージックを作りたい。フォーク・レコードのように、聴いた人に人間らしくオーガニックに語りかける音楽を作りたい。僕が求めているのは人間味なんだ。"

 

 Last.fm James Blake Biographyより引用

 

 

既に、リリースから十年余りが経過しているものの、あらためて、このイギリスクラブシーンの屈指の名作についてご紹介しておこうと思います。

 

 

 

「James Blake」2011

 




 

TrackListing 


1.Unluck
2.The Wilheim Scream
3.I Never Learn to Share
4.LIndasframeⅠ
5.LIndasframe Ⅱ
6.Limit To Your Love
7.Give Me My Mouth
8.To Care(Like You)
9.Why Don't You Cal Me?
10.I MInd
11Meaturements
12.Tep and the Logic


 

言わずとしれたジェイムス・ブレイクの名を、イギリスのクラブシーンに轟かせた鮮烈的なデビューアルバム「James Blake」。後には、二枚組のNew Versionもリリースされていますのでファンとしては要チェックです!!

 

全体としては、彼自身が語るように、モータウンレコード時代のソウルミュージックをいかに電子音楽としてクールに魅せられるかを追求し尽くし、そして、トラック制作の上で、異様なほどの前衛性が感じられる作品。

 

それは、多重録音、度重なるオーバーダビングによってソウルが新たなダブステップとしての音楽に様変わりしているのが、この作品の凄さといえるでしょう。他のダブステップ界隈のアーティストのように、リズム性をアンビエンスによって強調したり、それとは正反対に、希薄にしてみたりと、緩急のあるディープ・ソウルがここで味わうことが出来ます。

 

そして、クラシックピアノを学んでいたという経験は、キーボード上での演奏に生演奏のソウルのようなリアルな質感を与える。IDMだからと言っても、ブレイクのトラック自体は機械的ではなく、人肌のような温かみに満ちています。そして、その巧緻なトラックメイキング、あるいはブレイクビーツ風のサウンドの向こうに広がっているのは、ただひたすら穏やかでソウルフルな心地よい雰囲気。

 

今日日、刺々しいクラブ・ミュージックが多い中で、ブレイクの楽曲はチルアウト寄りの感触もあり、聴いていて心地よく、ソフトで落ち着いた気持ちになれるような気がします。それほどアンビエント寄りの音楽ではないのに、癒やしのディープ・ソウルが展開される。この辺りが、ブライアン・イーノやワンオートリックス・ポイント・ネヴァーといったアンビエントミュージシャンとの親和性も感じられます。

 

 特に、ジェイムス・ブレイクのヴォーカルというのは、白人らしからぬといっては何でしょうが、どことなくブラック・ミュージックの往年の名ヴォーカリストのような厚み、そして深みを感じさせます。彼の音楽についての言葉通り、ひたすら温かみがあり、どことなく胸がじんわりと熱くなるような、情感に訴えてくるような説得力あふれる知的さの漂うディープソウルと言い得るでしょう。


特に、このスタジオ・アルバムの中では「I Never Learn To Share」が白眉の出来栄えです。ハウス、テクノを通過したアナログシンセの巧みさ、そして、モータウンのソウルを通過した深い渋み、さらに、ダブステップのシークエンスのダビングとしての要素が、がっちりと組み合った作品です。そして、面白いのが「Limit To Your Love」では、実際の巧緻なピアノの演奏により、1960年代のアメリカのソウルを現代的に復刻している楽曲です。いかにソウル音楽というのが長い時代、多くの音楽フリークから支持を受け続けているか、そして時代に古びない普遍的な魅力を擁しているのが痛感できる名トラック。もちろん、若いクラブ・ミュージックファンにとどまらず、往年のソウルファンにも是非おすすめしておきたい一枚。

 

ジェイムス・ブレイクは、このデビューアルバムによって、一瞬でイギリスのクラブミュージックシーンを塗り替えてしまいました。なんですが、これはソウル音楽に対するブレイクの深い愛情が満ちているからこそ体現された名作。そのあたりの魅力は「Give Me My Mouth」といったソウルバラードの楽曲に現れています。あらためて、電子音楽は冷たい印象ばかりではなくて、温かみのある音楽もあるのだということがよくわかります。トラックの作り込みがほんとに素晴らしいし、深みのある渋い作品だなあと思うし、やはり十年経っても未だに燦然とした輝きを放つ傑作です。

 

 日本のシューゲイズシーンについて



日本のシューゲイザーシーンの注目アーティスト、揺らぎ


2010年代辺りから、魅力的なシューゲイズ・リバイバルシーンが、米国、NYを中心にして活発なインディーズシーンが形成されるようになった。ここ日本でも、同じく、ここ数年、アメリカのシーンと連動するような形で、魅力的なシューゲイザーバンドが台頭している。


そして、80-90’sの英国のインディーミュージック・シーンで発生したこのシューゲイズというジャンルが、日本でも一定の人気を獲得、多くのコアな音楽ファンを魅了しているのは事実である。これは、意外なことに思えるものの、実は、元々、日本のインディーズシーンでは、このジャンルに似たバンドが数多く活躍してきた。 


その始まりというのは、相当マニアックな伝説的な存在、”裸のラリーズ”。このバンドは実に、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインに先駆けて、同じような雰囲気を持つ轟音サウンドをバンドの特質の中に取り入れていた。 


以後、メインストリームに近い存在として例を挙げると、例えば、90年代のスーパーカーは、最初期にパワーポップとシューゲイザーを見事に融合したJ-Pop/Rockを炸裂させていた。それは、彼らのデビューアルバム「Three Out Change」を聞けば理解していただけると思います。また、その後、凛として時雨は、オルタナティヴというより、シューゲイザーに近い苛烈なディストーションサウンドをクールに炸裂させてオーバーグラウンドのシーンで人気を博した。  


しかし、この日本で、イギリスやアメリカのように、大々的なシューゲイズシーンが形成されていたような記憶はあまりない。


近年までは、ロキノン系のロックバンドの台頭の影響を受けて、東京の、新宿、渋谷、下北沢においては、特に、歌物のオルタナティブ・ロック、また、メロディック・パンクというジャンルがミュージシャンの間で盛んで、その辺りのバンドにそれらしい雰囲気のあるバンドは数多く活躍していたが、シューゲイズというジャンルを旗印に掲げるバンドはそれほど多くは見当たらなかった。


ということは、シューゲイズというジャンルは、これまでメインカルチャーでもカウンターカルチャー界隈でも、リスナーの間ではそれなりに知られているけれど、ミュージシャンとしては演奏する人があまりいなかった印象を受ける。


それはひとつ、MBVという伝説的存在のせいなのか、演奏するにあたって敷居が高い、つまり、あまりお手軽さがないというのが一因としてあって、パンクロックがレスポール一本で音を組み立てられ、フォークではアコースティックギター一本で、音を組みたてられる一方で、このシューゲイズというジャンルは、バンド形態を取らないと再現させるのが難しいジャンルで、ギター・マガジンを毎回読み耽るくらいの音作りマニアでないと、説得力のある音楽として確立しえなかったんじゃないかと思う。


つまり、ギターの音作りをバンドサウンドとして組み立てる面で、コアな知識を必要とするため、バンドとして演奏するのに、ちょっとなあと戸惑うような難しい音楽だったのだ。

 

このジャンルは、これまでオルタナから枝分かれした音楽として日本の音楽シーンに存在していたものの、その音楽性が取り入れられるといっても、音楽マニアにしかわからないような風味の形でしか取り入れられなかった。そして、一部の音楽ファンの間でひそかに愛されるインディージャンルとして、これまでの日本の地下音楽シーンで生きながられてきたという印象を受ける。


ところが、アメリカのシーンの流れを受けてか、日本でもシューゲイズに色濃い影響を受けたロックバンドが、メジャー/インディーズに関わらず登場して来ている。有名所では、羊文学がシューゲイズ寄りのアプローチをJpopの中に取り入れている。そして、近年、音作りの面でメーカーのエフェクターが徐々に進化してきているかもしれず、また、サウンド面でもリマスタリングの段階で、シューゲイズらしい音が作りやすくなっている。その辺のミュージシャン事情が、以前より遥かに音作りの面でハードルが下がり、日本でも、オリジナルシューゲイズの轟音性を再現する、魅惑的なロックバンドが数多く台頭してきた要因なのだ。


このジャンルは、ポストロックの後の日本のインディーシーンのトレンドとなりそうな予感もあり。ここは業界の人がガンガン宣伝していくかどうかにかかっているでしょう。そして、インディーシーンの音楽これらのロックバンドの音楽性の意図には、このシューゲイズというジャンルに、今一度、華々しいスポットライトを浴びせよう、というリバイバルの狙いが込められているのが頼もしく感じられる。これはもちろんニューヨークのインディーシーンと同じだ。 


もちろん、シューゲイズは、それほど一般的には有名でこそないニッチな音楽ジャンルといえるものの、現在、オーバーグラウンドからアンダーグラウンド界隈のアーティストまで、幅広い分布を見せているジャンルであり、十年前くらいから、個性的なロックバンドが続々登場してきている。スター不在のまま他の人はあれをやっているが、俺だけはこれをやる、私だけはこれをやる、というように、個性的なロックバンドが日本の地下シーンを賑わせつづけている。


これが実は、文化というものの始まりで、最後になって、大きな渦を巻き起こすような華々しいムーブメントに成長していくのは、往年のシカゴ界隈とか、ニューヨークのシーンを見てもおわかりの通り。大体のミュージシャンたちが、結成当初、きわめてコアな存在としてシーンに台頭してきたバンドが多いが、徐々にその数と裾野を広げつつある。


あまり大それたことはいいたくありませんが、もしかすると、このあたりのシーンから明日のビックアーティストが、一つか二つ出て来そうな予感もあり、俄然ロックファンとしては目を離すことが出来ませんよ。


今回は、この日本の現代シューゲイズシーンの魅力的なロックバンドの名盤を紹介していこうと思ってます。

 

1.揺らぎ(Yuragi) 「Nightlife」EP 2016


 


揺らぎは、Vo. Gu,Mirako Gt.Synth Kntr Dr. Sampler.Yuseの三人によって、2015年に滋賀で結成。


大阪、名古屋といった関西圏を中心にライブ活動を行っていて、今、現在の日本のインディーズシーンで最も勢いのあるバンド。


これまで四作のシングル、EPをリリースし、そして今年、1st Album「For You,Adroit It but soft」をリリースし、俄然、注目度が高まっているアーティストで、アメリカのワイルド・ナッシングに匹敵する、いや、それ以上の可能性に満ちたロックバンドと言っておきたい。


ここでは、シューゲイズという括りで紹介させていただくものの、幅広いサウンド面での特徴を持つバンドで、デビューEP「Nghtlife」2016では、Soonという楽曲で、アメリカのニューヨークのニューゲイズシーンにいち早く呼応するような現代的なシューゲイズ音楽を前面展開している。

             

また、他のシューゲイズバンドと異なるのは、シューゲイズだけではなく、多くの音楽性を吸収していることである。サンプラー、シンセといったDTMを駆使し、エレクトロニカサウンド、ハウス、あるいはポストロックに対する接近も見られ、とにかく、幅広い音楽性が揺らぎの魅力である。


轟音性だけではなく、それと対極にある落ち着いた静かなエレクトロニカ寄りの楽曲も揺らぎの持ち味で、その醍醐味は「Still Dreaming,Still Deafening」のリミックスで味わう事ができる。マイ・ブラッディ・バレンタインというより、最近のNYのキャプチャード・トラックスのバンドの音楽性とMumの電子音楽性をかけ合わせたかのようなセンスの良さである。


そして、最新作のスタジオ・アルバム「For You,Adroit It but soft」が現時点の揺らぎの最高傑作であることは間違い無しで、ここでは、ポストロック、エレクトロニカ、そして、ニューゲイズを融合させた見事な音楽を体現させている。ときに、モグワイのような静謐な轟音の領域に踏み込んでいくのが最近の揺らぎのサウンドの特徴である。


しかし、現代日本のシューゲイズとしての名盤を挙げるなら、間違いなく、彼らのデビュー作「Nightlife」一択といえるでしょう。このアルバムの中では特に、「soon」「nightlife」の二曲の出来がすんごく際立っている。 ここでは、往年のリアルタイムのシューゲイズを日本のオルタナとして解釈しなおしたような雰囲気があって素晴らしい。


ここでは、まだ、バンドとしては荒削りでな完成度ではあるものの、反面で、その短所が長所に転じ、デビューアルバムらしいプリミティヴな質感が病みつきになりそうな見事のシューゲイズ/ドリーム・ポップサウンドが展開されている。このなんともドリーミー雰囲気に満ちた世界観も抜群の良さ、文句なし。フロントマンのミラコのアンニュイなボーカルも◎、そして、どことなく息のわずかに漏れるようなボーカルスタイルが、他のバンドとはちょっと異なる”揺らぎ”らしいワイアードな魅力である。



2.Burrrn 「Blaze Down His Way Like The Space Show」2011


 


バーンは、2005年に東京で結成された三人組編成のシューゲイズロック・バンド。2007年のミニアルバム「song without Words」でデビューを飾る。マイ・ブラッディ・ヴァレンタインとソニック・ユースにかなり影響を受けているらしく、実験的なシューゲイズバンドというように言える。


シューゲイズのギターのグワングワン、ボワンボワンな轟音の特徴というのはもちろん引き継いでおり、そこにさらに、ドラムのタムに独特なエフェクトがかかっていて、バンドサウンドに巧緻にとりいれられているあたりが面白い。また、さらに、Trii Hitomiのボーカルというのもアンニュイがあって、センスの良さが感じられる。


正直、彼らはこれまで三作品のリリースがありますが、全作品入手が困難です。唯一入手しやすく、またサブスクでも聴けるるのが、このスタジオ・アルバム「Braze Down His Way Like The Space Show」です。


このアルバム中では、独特なドリーム・ポップの旨みがとことん味わえいつくせる、六曲目「Picture Story Show」、最終曲の「Shut My Eyes」が傑出しています。アルバム全体としても、アメリカのニューヨークのワイルド・ナッシングにも似た質感がある。


もちろん、ソニック・ユースから影響を受けているということで、都会的なクールさのある音楽性もスンバラシイ。表向きには、「これでもか!!」というくらい、ド直球のシューゲイズを放り込んできているのが好ましい。しかし、ときに、それよりも音楽性が深度を増していき、ローファイ/ポストロックの轟音性の領域にたどり着いちゃうあたりは、通を唸らせること間違いなし!! 


3.Oeil 「Urban Twilght」remaster  2017

 

 

 

ウイユは、日比野隆史とほしのみつこによって、2007年に結成された東京発のシューゲイザーユニット。 


Bandcampを中心として活動していたバンドで、これまでにアルバムはリリースしておらず、シングルとEPを三作発表しています。もしかすると、幻のシューゲイズバンドと言えるかもしれません。 

 

音楽性としては、イギリスのリアルタイムのシューゲイズムーブメントに触発された音であり、Chapterhouse,Jesus and Mary chain,My Bloody Valentine直系のド直球のシューゲイズを奏でている。音がかなりグワングワンしており、往年のシューゲイズバンド以上のドラッギーな轟音感を持つ。                


「Urban Twilight」は、彼らのデビューEPとしてSubmarineからのリリース。2016年にリマスター盤が再発されている。


おそらく一般受けはしないであろうものの、シューゲイズのビックバンドが不在の合間を縫って登場したというべきか、マイブラ好きには堪らないギターのトレモロによる音の揺らぎを見事に再現。シンセサイザーとギターの絶妙な絡み、そしてほしのみつこのぽわんとしたドリーミーなボーカル、陶然とした雰囲気のあるボーカルを聴くかぎりは、マイブラ寄りのロックバンドといえる。。


このアルバム「Urban Twilight」の中では、一曲目の「Strawberry Cream」の出来が抜きん出ている。往年のシューゲイズファンにはたまらない、涎のたれそうな名シューゲイズです。二曲目の「White」もMBVのラブレスを彷彿とさせるサウンド。


このギターのうねり揺らぎのニュアンスは、ケヴィン・シールズのギターサウンドを巧みに研究していると感心してしまいます。シューゲイズーニューゲイズの中間を行く抜群のセンスの良さに脱帽するよりほかなし。 



4.CQ 「Communication,Cultual,Curiosity,Quatient」2016


CQというバンドの前進、東京酒吐座というバンドを知っている人は、正直、あまりいないでしょう。もし知っていたとしたら、重度のシューゲイズ中毒者かもしれません。


しかし、これはくだらない冗談としても、この東京酒吐座(トウキョウシューゲーザ)というダジャレみたいな名を冠するグループというのは、東京の伝説的なオルタナティヴロックバンドであり、一部界隈に限定されるものの、2010年代近辺にカルト的な人気を誇っていたインディー・ロックバンドである。            


    

その東京酒吐座のメンバーが解散後に組んだバンドがこのCQ。しかし、そういった要素抜きにしても、日本語で歌うシューゲイズバンドとしてここではぜひとも取り上げておきたい。


2010年代の東京のオルタナシーンを牽引していたという自負があるからか、他のシューゲイズバンドと比べ、本格的なロック色が強く、そして、音自体もプリミティヴな輝きを持っている。


そして、日本語の歌詞を歌うことをむしろ誇らしげにし、轟音サウンドを掲げているあたりがかっこいい。アメリカのダイナソーJr.のJ Mascisのような轟音ギターと聞きやすい日本語歌詞が雰囲気が絶妙にマッチしたサウンドで、 独特な清涼感が感じられる。                      

          

既に解散しているCQの作品は、Burrrnと同じく入手困難。唯一、サブスクで聴くことが出来る「Communication,Cultual,Curiosity,Quatient」が、そのあたりの心残りを埋め合わせてくれるはず。 


CQは、オルタナサウンドの直系にあたる音楽性で、最近流行のニューゲイズからは距離をおいているように思えますが、時代逆行感が良い味を出している。


海外には海外のロックがあるが、ここ日本には日本のロックがある、ということを高らかに宣言しているのが素晴らしい。また、純粋に、「日本語で歌うロックって、こんなにもかっこいいんだ」ということを教えてくれる希少なバンドといえる。


札幌のインディーシーンの伝説”naht”、Bloodthirsty Butchersのギタープレイを彷彿とさせ、激烈で苛烈な日本インディーロックサウンドらしい音の質感。誇張抜きにして、ギターの轟音のウネリ具合、キレキレ感、バリバリにエッジの効いたサウンドは世界水準。


また、そこに、日本の歌謡曲の世界観が、風味としてそっと添えられているのがかっこいい。知られざる日本のオルタナロックの名バンド。 



  5.宇宙ネコ子 「君のように生きられたら」 2019

  

 


この宇宙ネコ子というのは、バイオグラフィにしても、また、詳細なプロフィールにしても謎に包まれている。


おそらくこれからも、この謎が完全解明されることはないでしょう。ここで紹介できる記述は、神奈川県のインディーロックバンドであるということ、メンバー構成も常に流動的であり、まるで、サッカーのフォーメーションのような柔軟性。常に何人で、というこだわりがなく、三人であったか思うと、五人まで膨れ上がり、かと思うと、現在は二人のユニット構成となっている。               

 

作品中のコラボレーションの相手も慎重に選んでおり、慈恵医大出身という異色の経歴を持つ宅録ミュージシャン、入江陽、あるいは、ラブリーサマーちゃん、度肝を抜かれるようなアーティスト名がずらりと並んでおり、正直面食らいます。しかし、何故か、妙に心惹かれるものがある。そして、あまり表側に出てこないバンドプロフィール情報というのも、この膨大な情報化社会の中にひとつくらいあってはいいかなと思うのは、多分、B'zのマーケティングの前例があるから。ツイートにしても、基本的に謎めいたワードを中心に構成されているのはニンマリするしかなく、これは、狙いなのか、天然なのか、いよいよ「謎」だけが深まっていく。 


しかし、こういった謎めいた要素を先入観として、この宇宙ネコ子のサウンドを聴くと、その意外性に驚くはず。表向きのイメージとは異なり、本格派のミュージシャンであるのが、このアーティストである。 


しかも、ポップセンスというのが際立っており、往年の平成のJ-pop、もしくはそれより古い懐メロを踏襲している感じもある。そして、Perfumeであるとか、やくしまるえつこのようなテクノポップ、シティポップからの影響も感じられる、奇妙でワイアードなサウンドが魅力。


そして、どうやら、宇宙ネコ子は、DIIVを始めとする、NYのキャプチャードトラックのサウンドにも影響を受けているらしく、相当な濃いシューゲイズフリークであることは確かのようです。そして、どことなく、JーPopとしても聴ける音楽性、青春の甘酸っぱさを余すことなく体現したような歌詞、切ない甘酸っぱいサウンドが、宇宙ネコ子の最大の魅力といえる。


宇宙ネコ子は、これまで、”P-Vine”というポストロックを中心にリリースするレーベルからアルバムを二作品発表している。


「日々のあわ」も、良質なポップソングが満載の作品ではありますが、最新作「君のように生きられたら」で、宇宙ネコ子はさらなる先の領域に進んだといえる。


一曲目の「Virgin Suscide」は、日本のシューゲイズの台頭を世界に対して完全に告げ知らせている。ここでは、他に比肩するところのない甘酸っぱい青春ソングを追究しており、そこに、シューゲイズの轟音サウンドが、センスよく付加される。歌詞の言葉選びも秀逸で、手の届かない青春の輝きに照準が絞られており、この微妙な切なさ、甘酸っぱさは世界的に見ても群をぬいている。 


ニューヨークのシューゲイズリバイバルシーンに対し、J-Popとしていち早く呼応した現代風のサウンド。ジャケットのアニメイラストの可愛らしさもこのユニットの最大の醍醐味といえる。 

 

6.Pasteboard 「Glitter」

 

 

 

現在の活動状況がどうなっているのかまではわからないものの、オリジナルシューゲイズの本来のサウンドを踏襲しつつ、現代的なサウンドを追求する埼玉県にて結成された”Pasteboard”というロックバンドである。


このPasteboardは、近年アメリカで流行りのクラブミュージックとシューゲイズを融合させたニューゲイズサウンドに近いアプローチをとっているグループ。そして、渋谷系サウンド、小沢健二、フリッパーズ・ギター 、コーネリアスの系譜にあるおしゃれなサウンドを継承している面白いバンドです。 


この渋谷系(Sibuya-kei)というのは、英語ジャンルとしても確立されている日本独自のジャンルで、シティポップと共に、アメリカでもひっそりと人気のある日本のポップスジャンルで、他の海外の音楽シーンにはない独特なおしゃれな音の質感が魅力だ。


Pasteboardは、日本語歌詞の曖昧さとシューゲイズの轟音性の甘美さを上手く掛け合わせ、日本語の淡いアンニュイさのある男女ボーカルの甘美な雰囲気を生み出すという点で、どことなくSupercarの初期のサウンドを彷彿とさせる。


シングル盤が一、二作品。コンピレーションが一作、アルバムがこの一作と、寡作なバンドでありますが、特にこの「Glitter」という唯一のスタジオ・アルバムは渋谷系のような雰囲気を持つ独特な魅力のある日本シューゲイズシーンの隠れた名盤として挙げられる。

 

 7.LuminousOrange 「luminousorangesuperplastic」 1999 


 

 

最後に御紹介するのは、日本のシューゲイズシーンのドンともいえるルミナスオレンジしかないでしょう。


ルミナスオレンジは、1992年から横浜を中心に活動していますが、最も早い日本のシューゲイズバンドとして、この周辺のシーンを牽引してきた伝説的存在。イギリスのChapterhouse,Jesus and Mary Chain,といったシューゲイズバンドの台頭にいち早く呼応してみせたロックバンドであり、女性中心の四人組というメンバー構成というのも目を惹く特徴です。  

1999年の「luminousorangesuperplastic」は、今や日本シューゲイズの伝説的な名盤といえ、非常にクールな質感に彩られた名作でもある。ここで、展開されるのは、マイ・ブラッディ・バレンタイン直系のジャズマスターのジャキジャキ感満載のプリミティヴなサウンドであり、今、聞いても尖りまくっており、しかも、現代的の耳にも心地よい洗練された雰囲気に満ちている。 


ツインギターの轟音のハーモニーの熱さというのはメタルバンドの様式美にもなぞらえられ、硬派なロックバンドだからこそ紡ぎ得る。また、そこに、疾走感のあるドラミング、小刻みなギターフレーズのタイトさ、ベースの分厚い強かなフレージング、これは、シューゲイズの目くるめく大スペクタルともいえ、あるいは、コード進行の不協和音も、ポストロックが日本で流行らない時代において、当時の最新鋭をいっている。 


さらに、そこに竹内のボーカルというのも、クールな質感を持つ。アナログシンセのフレージングというのもオシャレ感がある。また、ルミナスオレンジのサウンドの最大の特質は、変拍子により、曲の表情がくるくると様変わりし、楽曲の立体的な構成を形作っていくことである。このあたりの近年の日本のポストロックに先駆ける前衛性は、他のバンドとまったく異なるルミナスオレンジの最大の魅力である。表向きの音楽は苛烈で前衛的ではあるものの、メロディーの良さを追求しているあたりは、ソニック・ユースとマイ・ブラッディ・ヴァレンタインの性質を巧みにかけ合わせたといえる。


おそらく、世界的に見ても、マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン(MBV)に対抗し得る日本の唯一モンスター・ロックバンドであることは疑いなし。


MBVに全然引けを取らないどころか、そのポップセンスの秀逸さという面でまさっている。付け焼き刃ではない轟音感と甘美なメロディー、硬派なロックバンドならではのクールさを併せ持つシューゲイズサウンドは、シューゲイズ界隈が賑わいを見せている現在だから再評価されるべきである。

 

 

Pixies


 

Pixiesは、アメリカで80−90年代に最も栄えたオルタナティヴロックの先駆者、あるいは代名詞的な存在として語られる最早説明不要のバンドである。

 

 

このpixiesの発起人、中心人物で、ギター・ボーカルをつとめるブラック・フランシスは、このバンドを立ち上げようとした際、マサチューセッツ大学の学生であったが、ある時、うろおぼえではあるものの夏の休暇であったか、フランシスは悩んだという。ハレー彗星を見にオーストラリアに行くべきか、また、あるいは、大学にとどまり、おとなしく講義を受け続けるべきなのか? 

 

 

そんなふうに悩んだ末、一大決心をしたフランシスは、ハレー彗星を観に向かう。これはまさしく、彼のロマンチストとしての姿が垣間見えるような、ロックシーンでも珍しく示唆に富んだエピソードのひとつ。そして、ピクシーズの音楽には、奇妙なほどの奥行きがあり、宇宙をはじめとする底知れない大いなる存在への憧れの気配、独特なロマンチシズムと耽美性が宿っている。それらのピクシーズの音楽の礎を築き上げている精神的な概念は、大学をやめて、ハレー彗星を思い切って見に行くという、無謀にも思えるフランシスの音楽を始める際の動機から引き出されているのである。

 

 

この一大決断が、ブラック・フランシスのその後の人生を180度一変させたことは事実である。この後、フランシスは、マサチューセッツ大学を退学し、同級生のサンティアゴ(ルームメイトであったという噂もある)をバンドメンバーとして引き入れ、その後、メンバー募集を介し、このバンドのもうひとりの中心的なメンバー、キム・ディールという素晴らしい知己を得た。

 

 

その後、御存知の通り、ピクシーズは、イギリスの名門4ADと契約し、このレーベルの代名詞的な存在となり、オルタナティヴ・ロックの礎を築き上げた。そして、「Surfer Rosa」「Bossanova」をはじめ、数々の名作をリリースし、ブラック・フランシスは、「オルタナ界のゴッドファーザー」と称すべき存在となった。カート・コバーンやトム・ヨークをはじめ、彼の音楽から重要な影響を受けたミュージシャンも多い。もちろん、八十年代は、インディーズらしいコアなロックバンドではあったものの、今や、世界的なロック・バンドとして認められるようになった。

 

 

一度は、解散をするものの、2004年にリユニオンを果たす。その後、2014年、このバンドの中心的な存在、ベースボーカルのキム・ディールが脱退し、代役として、The Muffsというグランジ寄りのバンドのベーシスト、キム・シャタックがツアーメンバーとして一時的に加入するが、一年をまたずして解雇された。それから、キム・シャタックの後任として、スマッシング・パンプキンズのビリー・コーガンとZwanで活動したパズ・レンチャンティンがベーシストとして加入し、現在のピクシーズの編成に至る。2013年から、それまで多くのレコードリリースを行ってきた4AD を離れ、自前のレーベル「Pixies Music」からリリースを行うようになった。

 

 

年々、ピクシーズとしての売上や知名度が高まっていく反面、結成当初からきわめて強いインディー体質の活動スタイルを徹底する硬派のロック・バンドである。2021年9月から、アメリカを皮切りに世界規模のツアーが予定されている。最初のニューヨーク公演は、すでにソールドアウトとなっている。





 

 

Pixiesのツアー日程については 以下、公式HPをご確認下さい。



https://www.pixiesmusic.com/ 

 

 

 

「Live From the Gorge Amphitheatre,George,Wa,May 28th」2021

 

 

 

 

 

 Tracklists

 

 

1. In Heaven (Live from the Gorge Amphitheatre, George, WA. May 28th, 2005)

2. Wave of Mutilation (UK Surf) [Live from the Gorge Amphitheatre, George, WA. May 28th, 2005] 3. Where Is My Mind (Live from the Gorge Amphitheatre, George, WA. May 28th, 2005)
4. Nimrod’s Son (Live from the Gorge Amphitheatre, George, WA. May 28th, 2005)
5. Mr. Grieves (Live from the Gorge Amphitheatre, George, WA. May 28th, 2005)
6. Holiday Song (Live from the Gorge Amphitheatre, George, WA. May 28th, 2005)
7. I’m Amazed (Live from the Gorge Amphitheatre, George, WA. May 28th, 2005)
8. Ed Is Dead (Live from the Gorge Amphitheatre, George, WA. May 28th, 2005)
9. Bone Machine (Live from the Gorge Amphitheatre, George, WA. May 28th, 2005)
10. Cactus (Live from the Gorge Amphitheatre, George, WA. May 28th, 2005)
11. I Bleed (Live from the Gorge Amphitheatre, George, WA. May 28th, 2005)
12. Crackity Jones (Live from the Gorge Amphitheatre, George, WA. May 28th, 2005)
13. Isla De Encanta (Live from the Gorge Amphitheatre, George, WA. May 28th, 2005)
14. U-Mass (Live from the Gorge Amphitheatre, George, WA. May 28th, 2005)
15. Velouria (Live from the Gorge Amphitheatre, George, WA. May 28th, 2005)
16. Caribou (Live from the Gorge Amphitheatre, George, WA. May 28th, 2005)
17. Gouge Away (Live from the Gorge Amphitheatre, George, WA. May 28th, 2005)
18. The Sad Punk (Live from the Gorge Amphitheatre, George, WA. May 28th, 2005)
19. Hey (Live from the Gorge Amphitheatre, George, WA. May 28th, 2005)
20. Gigantic (Live from the Gorge Amphitheatre, George, WA. May 28th, 2005)
21. Monkey Gone to Heaven (Live from the Gorge Amphitheatre, George, WA. May 28th, 2005)
22. Wave of Mutilation (Live from the Gorge Amphitheatre, George, WA. May 28th, 2005)
23. Vamos (Live from the Gorge Amphitheatre, George, WA. May 28th, 2005)
24. Debaser (Live from the Gorge Amphitheatre, George, WA. May 28th, 2005)

 

 

 

 

 

 

 

 

♫ Disc Review 

 

 

 

これまで数多くの傑作スタジオ・アルバムを残してきたピクシーズ。しかし、ディスク盤としては決定的なライブ公演を収録した作品がこれまでのカタログの中に、いまいち見当たらないような気がしていた。

 

 

もちろん、DVD作品として、Pixiesの2004年のリユニオンツアーを収録した「SELL OUT 2004 REUNION TOUR」が現時点においては、ピクシーズのライブ作品のマストアイテムではあるが、ただ、これはあくまで映像作品なので、補足的なファン向けの宝物アイテムといえる。

 

 

もしかすると、ピクシーズの最良のライブ盤は出ないのだろうか?  このあたりの往年のファンの懸念を払拭するべく、2020年の11月、自前のレーベル「Pixies Music」からライブ盤が続々とリリースされている。その総数、驚くべきことに、な、なんと、16作!?にも及び、逐一チェックするのは少し面倒ではあるものの、中には、イギリスのブリクストンアカデミーでのライブ音源もリリースされており、往年のファンとして、感涙にむせばずにはいられない出来事である。

 

 

今、まさに、ピクシーズのマスタークラスに上り詰める機会が到来しているといえ、ファンとしたら、このチャンスを逃すわけにはいきませんよ。ちなみに、この連続リリースされているライブ盤は、2004、5年のツアー、91,2年にかけての世界規模のツアーのライブ音源が収録されている。もちろん、ベースボーカルを務めているのは、旧メンバー、キム・ディールである。

 

 

そして、「ここに、ピクシーズの伝説的ライブ決定盤がついにリリース!!」と、大見得を切って言っても差し支えないかもしれない音源が誕生しました。今回、8月6日にリリースされたばかりの音源、アメリカのワシントン州にある野外コンサート会場、「ゴージアンフィシアター」での公演は、これまでの十六作のライブ盤の中で最も聴き応えのある作品となっています。

 

 

この作品は、アコースティック、エレクトリックの双方のピクシーズサウンドが体感出来、また、収録されている楽曲も「River Euphrates」以外は完全に網羅。もちろん、ライブサウンドとして、そこまで広がりすぎず、シンプルに纏まっており、バンドサウンドとしての生音のタイトさという面でもずば抜けている。とりわけ、ドラムのタムのヌケの良さ、そして、ブラック・フランシス、キム・ディールの両者のボーカルというのも、既にリリースされているライブ盤に比べ、妙な渋みと、みずみずしさ、そして、色気のようなものが感じられるという気がします。

 

 

分けても、この2005年のライブ盤では、ブラック・フランシスのボーカルに妙なソウルフルな質感が込められているという面で、他のバージョンよりすぐれている。このアルバムの中での聴きどころと言える彼等の代表的な名曲「Wave Of Mutilation」は、アコースティックとエレクトリックに分けられて二度、演奏されている、特に、UK Surf Versionのブラック・フランシスとキム・ディールの間合いの取れたボーカルというのは、ほとんど、シンクロ的な雰囲気をなしているといえ、美麗であり、切なく、ほとんど涙を誘うようなロマンチシズムに彩られています。

 

 

また、その他の名曲「I Bleed」で、サンティアゴがイントロを入りを間違えていたりするのもライブならではのご愛嬌として楽しめるはず。

 

 

ブラッド・ピット主演の「ファイトクラブ」のエンディング曲として使用されている「Where Is My Mind」をはじめ、「Bone Machine」「Gigantic」「Monkey Gone to Heaven」での キム・ディールの声の存在感、張りというのが際立っており、これまでなぜ、ディールの声質がコケティッシュと呼ばれる理由が、このあたりの曲を聴いてみれば、明瞭に理解いただけると思います。

 


また、きわめつけは、アルバムの最後に収録されている「Debaser」。ここでは、初期のブラック・フランシスの独特で特異な絶叫系のボーカル、当時、下宿していた一階の花屋のタイ人の呼び込みに霊感を受けたという奇妙なスクリームが心ゆくまで味わえるでしょう。また、「Caribou」や「Hey」といった、エキゾチズムに彩られた楽曲が、このアルバム全体に落ち着きをもたらしている。

 

 

ここでの、ジョーイ・サンティアゴのフェーザーを噛ませたギターの渋い音色、あるいはフランシスの渋みのある唸るようなボーカルというのは、往年の名作スタジオ・アルバムよりはるかにブルージーな香りに満ちあふれ、そして、深い味わいがこもっている。ここでは、最初のハレー彗星のエピソードから引き出されるロマンチシズム性が十分体感できるように思えます。


ピクシーズという数奇な存在がなぜ、ここまでリスナーからも、また有名なミュージシャンから絶大な支持を受け続けて来たのか、このワシントン州の野外コンサート会場「ゴージアンフィシアター」でのライブ盤においてその理由が示されている。このライブ盤は、十数年前からのファンとしては感慨深く、涙を誘うような淡い情緒のある作品です。オルタナという微妙な線引きのあるジャンルの音楽についてご存じない方は、このライブアルバムの二曲目に収録されている「Wave of Mutilation」(UK Surf)だけでも、是非、一度、聞いてみて下さい。ロックバンド、ピクシーズの偉大さ、アメリカのオルタナティヴロックの本当の凄さが分かっていただけると思いますよ。

 

Happy listening!!


 

 WEEZER

 

 

Weezerは、アメリカのオルタナティブ・ロックバンドとして母国だけではなく世界的なミュージシャン。

 

ピクシーズ直系のオルタナサウンドを踏襲した正統派のロックバンドといえ、グランジシーンの熱狂がまだ冷めやらぬ頃に華々しく登場し、現在まで華々しい活躍を続けている。元々は、アメリカよりも日本で人気を博していたことから、かつてのチープトリックを彷彿とさせるようなバンドでしょう。

 

元々は、オルタナティヴとパワー・ポップを融合したような親しみやすい音楽性、そして内省的ではありながらギターのディストーションを強調した轟音サウンドが特徴。そういった面ではニルヴァーナとはまた異なるアプローチで、ピクシーズサウンドを推し進めたバンド。すでに一度、途中、三作目のグリーンアルバムで、オリジナルメンバーのBa.マット・シャープが脱退し、その後スコット・シュライナーが加入、現在のラインナップとなる。その後は、今日まで安定感のあるリリースを行っている。

 

2021年に「Van Weeezer」をリリースし、今、まさに旬なビックアーティストといっても良いはず。

 

バンドのフロントマン、リバース・クオモは日本に縁の深い人物で、ここ日本でもデビュー当時から多くのファンを獲得、根強い人気を誇る。

 

ウィーザーは、どことなく日本の歌謡曲などにも通じるような音楽性を有し、日本人の心の琴線にふれる音を奏でる素晴らしいバンドであることは疑いなし、ここで、あらためて彼らの活動初期の作品を中心に名盤をピックアップおきましょう!!

 

 

 

「Blue Album」1994


 

仮に、グランジムーブメントがコバーンの死によって終焉を迎えたとするなら、そのシーンの流行の合間に実に折よく登場したオルタナバンドがウィーザーという存在でした。 本作「Weezer」は、いかにもオルタナという感じのピクシーズ直系のポップ性が感じられる鮮烈的な傑作となっています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 TrackListing

 

1.My Name Is Jonas

2.No One Else

3.The World Has Turned Out And Left Me Here

4.Buddy Holly

5.Undone - The Sweater Song

6.Surf Wax America

7.Sai It Aint't So

8.In The Garage

9.Holiday

10.Only In Dreams

 

ウィーザーのデビュー作、通称「Blue Album」は、一曲目の「My Name is Jonas」からして、往年のロックンロール、バディー・ホリー、エルビス・コステロ、そして、その後のビック・スター、ザ・ナックといった名パワーポップ・バンドにも引けを取らない楽曲がずらりと並んでます。

 

そして、PVにおいてのアメリカン・グラフィティ、そして、ニルヴァーナの「In Bloom」のパロディ的な融合といえる「Buddy Holly」も、オールディーズ風で、ポップ性に飢えていた当時の市場のニーズに上手く応えた傑作といえる。

 

「Surf Wax America」の美しいギターのクリーントーンのアルペジオというのは、リバース・クオモのクラシックピアノの演奏者としての蓄積があるからこそ出てきた名曲。いわゆる静から動への劇的な移行というのはグランジと共通した特徴を持ち、この音楽性が大衆に受け要られた要因といえる。

 

「In the Garage」でのリバース・クオモにしか醸し出すことの出来ない内省的なエモーショナルサウンドというのも魅力的といえる。また、ラストトラックのマット・シャープのシンプルで渋いベースラインが印象的な「Only In Dreams」も、ピクシーズに比するポップ性、そして、このバンドとしては珍しく八分近い大作であり、アウトロにかけての激情的な壮大な展開力というのも聞き所です。

 

今作「Blue Album」には、何十年経ってもいまだ色褪せることのない、パワーポップのみずみずしい輝きが宿っています。

 

 

「Pinkerton」1996  

 


日本の浮世絵をモチーフにしたアートワークが印象的な2ndアルバム。リバース・クオモのジャポニズムへの憧憬がここに刻印されている。

 

 

 

 

 

 

 

Tracklisting 


1.Tired Of Sex

2.Getchoo

3.No Other One

4.Why Bother?

5.Across The Sea

6.The Good Life

7.El scorchomj

8.Pink Triangle

9.Falling For You

10. Butterfly


本国アメリカよりも日本でセールスが堅調だった作品で、彼等の良質なポップセンスの妙味は前作よりもこちらのほうがよく感じられるでしょう。

 

彼等がかつてなぜ「泣き虫ロック!?」の異名をとったのかは当該アルバムを聴けば理解してもらえるはず。このアルバムにはデビュー作とは異なる歌曲としての泣きの要素が満載の作品となっています。

 

「Tired of Sex」ではムーグシンセサイザーの使用、そして、デビューアルバムの轟音性とオルタナ性を引き継いだ楽曲。

 

名曲「Across The Sea」では、落ち着いたパワーポップでありながらウィーザー独特のオルタナ風味とうべきか、艶気のあるエモーションによって彩られていて、非常に歌詞とともに切ない青春を思い起こさせる。

 

「El Scorcho」での気楽で陽気なポップソングとしての魅力は、その後の彼等の活動の重要な音楽性の中核を形作ったといえる。

 

また、「Pink Traiangle」はウィーザー節ともいえる泣き満載で、レズビアンのことについて歌われているセンシティブなところのある楽曲で、恋愛ソングの一つとして数えられるが、日本の歌謡曲に対する親和性も感じらるのが興味深い点でしょう。

 

ウィーザーの初期の重要な音楽性を形成していたベーシスト、マット・シャープは、このアルバムを期に脱退し、ザ・レンタルズを結成。



「Green Album」2001

 

 

前作のパワーポップ性をさらに追求していき、良質なギターロック・バンドとしての道を歩み始めたウィーザー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 TrackLisitng

 

1.Don't Let Go

2.Phtograph

3.Hash Pipe

4.Island In The Sun

5.Crab

6.Knockdown Dagout

7.Smile

8.Simple Pages

9.Glorious Day

10.O Girlfriend

 

初期三部作としてはこの作品で一つの音楽性の終焉を迎え、次のステップに進んでいった印象を受ける、いわば彼等の活動の分岐点をなした作品。

 

パワーポップバンドとしての真骨頂、そして、彼等の随一の名曲「Photograph」でのキャッチーさ、ポップ性の高さというのは未だ色褪せない。ウィーザーをワールドワイドな存在としたのは、この曲とアイランドインサンの2曲を書いたからといってもいいはず。誰が聴いても良さを感じられる人を選ばず、癖のないロックソングの王道。

 

「Island in the Sun」は世界的な大ヒットを生み出した曲で、これまでの音楽性からすると、力の良い具合に抜けたギターロックに挑戦していて、彼等の落ち着いた進化を伺わせる名曲ということができるはず。ギターをはじめて間を経ずとも、なんとなくコピー出来てしまう曲として有名です。

 

1st、2ndアルバムでの轟音ロックとしての魅力は物足りない部分を感じさせるかもしれませんが、良質で落ち着いたギターロック・アルバムの金字塔。  



「White Album」2016 

 

 

一時期、ハードロック路線、メタル、またはクラブミュージック路線を追求していたウィーザーが原点回帰をはたしたようなアルバム。

 

彼等の良質なポップ性というのはいまだに失われていなかったと全世界に証明してみせた作品です。

 

 

 

 

 

 

 

 TrackListing

 

1.Calfornia Kids

2.Wind in Our Sail

3.Thank God For Girls

4.(Girl We Got A) Good Thing

5.Do You Wanna Get High?

6.King Of The World

7.Summer Elaine and Drunk Duri

8.L.A.Girlz

9.Jacked Up

10.Endless Bummer


しかし、一巡りしてまた同じところに戻ったかという訳ではなく、現代のロックバンドとしての新たな進化もまた如実に感じられる。

 

「Calfornia Girl」では、「これぞ、ウィーザー!」とも言える楽曲で、かつてのパワーポップ性をよりパワフルにして蘇らせた名曲です。

 

また、同じように、「L.A.Girlz」での掴みやすい、切なさ、泣き感フレーズ満載の音楽性というのも、デビューアルバムのみずみずしさを取り戻したような雰囲気、この楽曲は往年のファンを唸らすだけでなく、新しいファンを獲得する要因ともなったはず。

 

また、そういった原点回帰としての音楽性も込められながら、「I Love the USA」では、現代のロックバラードとしての当時の最先端を追求した楽曲。このあたりのクラブ・ミュージックを経たからこその音楽性というのもまたいかにもウィーザーらしい進化の仕方といえるかもしれません。

 

本作「White Album」は、彼等四人の音楽に対する深い愛というのが感じられる作品で、聴いていると心がほんわかしてくる不思議な力のある作品。

 

 さて、いまだ衰えというのを見せないウィーザーの快進撃!! これからどのような名作を誕生させてくれるのか? このアルバムを聴けば、その期待感はいやますばかりだ。

NY、Captures Tracksから始まったインディーロック・リバイバル


2010年代から始まった活発なニューヨークの音楽シーンを代表するインディペンデントレーベル「Captured Tracks」はブルックリンに本拠を構える。このレコード会社からは、アメリカ合衆国全体の音楽シーンに影響を与えたアーティストたちが羽ばたいており、良質な音楽の発掘者としての役割も担う。Captured Tracksに所属するアーティストの音楽性は、基本的にインディー・ロックという大きなジャンルの中の、ローファイ、サーフポップ、ドリームポップと呼ばれるジャンルに属する場合が多い。 


 

他のアメリカの代表的なインディペンデントレーベル、サプ・ポップ、タッチ・アンド・ゴー、マタドールのような老舗でこそありませんが、今日まで多彩なリリースを行ってきており、ニューヨークの音楽の隆盛を彷彿とさせる魅力的なバンドを数多くデビューさせており、ロック愛好家ならばこの辺りの動向から目が離すことが出来ません。


ニューヨークのアーティストから始まったシューゲイザー・リバイバル、ニューゲイズの動向というのは、2019年のテキサスのリンゴ・デススターのブレイクの実例を見ても分かる通り、いまだ冷めやらぬ気配もあり、この先まだ開拓の余地が残されている。


NYブルックリンに本拠を置く「Captured Tracks」は、現代アメリカのインディーロック音楽のトレンドを知るのに最適なレーベルです。今回、駆け足ではありますが、このレーベルの代表的なアーティストと名盤をご紹介していきましょう。

 



 1.Wild Nothing 「Gemini」2010

 




それまでにも、2000年代辺りには、スウェーデンのThe Radio Dpt.を筆頭にして、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインという巨星の抜けたシーンの寂しさを埋めるような存在、ポストシューゲイザーだとか、シューゲイザーリバイバルという線上にあるバンドはいましたが、改めてこの周辺のジャンルの良さというのを再確認し、現代的なクラブミュージック的なニュアンスを加えて登場したのがワイルド・ナッシングです。


彼の後から凄まじい数のシューゲイザーリバイバルバンドが出てきますが、これというのは、そのブームの火付け役のマイ・ブラッディ・バレンタイン、通称マイブラの不在というのが原因であった。彼等が、活動の最高潮、「Loveless」の後に、長い期間にわたり活動を休止したことにより、他にも、ライド、スロウダイヴと同じようなバンドはいたものの、ミュージックシーンにあいた彼等の穴を埋めるような存在が出てこなかった。そしてある一定数のファンもまたマイブラに代わるようなバンドが出てこないかなと渇望するような側面も結構あったかもしれない。


その辺りのシューゲイザーを若い頃に聴いて感銘を受け、自分もまたマイブラのような音を奏でたいという欲求に際して登場したのがこのワイルド・ナッシング。いうなれば需要と供給がうまくマッチしたといえるでしょう。この音楽が、只のエゴイズムとはならずに済んだのは、多くのファンがこのような音を待ち望んでいた証でしょう。


それは、ワイルド・ナッシングをはじめとする、その後のリバイバルの魅力的なロックバンドが軒並み証明してみせている事実であって、このデビュー・アルバムで展開されるノスタルジックさのあるリバイバルの楽曲の輝きを見れば明らかだと思われます。


ワイルド・ナッシングの登場。これを懐古主義と呼ぶ事なかれ、名曲「Summer Holiday」、そして「Gemini」のノスタルジー差の感じさせる美しい輝きというのは、現在も全く損なわれていません。 

 

 

 

2.Mac Demarco 「Salad Days」

 


カナダ出身のソロシンガーソングライター、マック・デマルコ。彼の活動というのはソロ名義で、ライブではベース、ドラム、キーボードのサポートメンバーが帯同し、四人編成となります。アリーナクラスから小規模ライブハウスに至るまでひとっ飛びに幅広い活動を行っています。


そして、「Salad Days」は彼のデビュー作であり、この一作の魅力によってそれまであまり知られていなかった「Captured Records」の名を国内にとどまらず、世界に轟かすのに成功した貢献的作品です。


マック・デマルコの華々ししい登場から、このCaptured Trackの黎明期、そして10年代のアメリカ東海岸のインディーロックリバイバルブームは始まったといっても言い過ぎではないでしょう。


音楽性としては、ゆったりしたテンポ、そして、フォークポップを主体としながら、その中に古典的な大衆音楽、ビートルズをはじめとするポピュラー音楽、そしてさらに、往年のR&Bやディスコサンド的なノスタルジーへの現代人としての憧憬がそれとなく滲んでいるというような気がします。


このアルバムは、独特でかしこまらない親しみやすい声質、それからフレンドリーなキャラ付けが見事にマッチした作品で、楽曲から感じられるデビュー作らしい瑞々しさもこの作品の魅力。彼の歌詞には男女の恋愛の上でのもどかしさのようなものが表され、それがあっさりと歌われているのも特徴です。


彼のこの後の10年代終わりのニューヨークのミュージックシーンんに与えた影響というのは計り知れなく、底知れないポテンシャルを証明した傑作。「Salad Days」「Let it Her」をはじめ、どこかしら淡い切なさを思わせるような胸キュンの良曲が満載。



3.Widowspeak 「All Yours」

 




Widowspeakは、モリー・ハミルトンとロバート・アール・トーマスによってブルックリンで結成されたドリームポップの男女ユニット。


これまでの前作をCaptured Trackからリリースしていることから専属的なアーティスト、いわばレーベルの代表的な存在といえます。


このユニットは、愛くるしいカップルのような息のとれた演奏を見せ、そして、モリーとロバートの男女ボーカルが交互に収録されているため、ユニットでありながらバランスのとれたサウンドを聴かせてくれます。


モリー・ハミルトンの、浮遊感のあるアンニュイな声質は、心なしかアイスランドのムームを思わせ、切ない感じを醸し出し、後のベッドルームポップの流れに直結するような音楽性を持っている。


1stアルバム「Widowspeak」では、リバーブ感の強いギターサウンドを引っさげ、ドサイケデリック色の強い、サーフロックバンドとして登場しましたが、次第に、二作目からドリーミーなポップ色を全面に押し出していって、そこにエレクトロニカの風味をオシャレに付け加えて、ユニットとしての洗練性を高めていくようになった。その後の彼等二人の方向性を探求する過程に発表された意欲作ともいえるのが、三作目のスタジオアルバム「All Yours」でしょう。


ハミルトンのアンニュイな声によって紡がれる「Stoned」も聴き逃がせない。また、対照的に、ロバート・アール・トーマスによって、さらりと良いメロディーが歌われる「Borrowed World」も捨てがたく、これらの対比的な雰囲気を持つ楽曲がアルバム全体を飽きさせないものにしています。


「My Baby's Gonna Carry On」では、掴みやすいポップソング中に、実にさり気なく轟音ディストーションサウンドが背後に展開されているのも面白い点。「Cosmically Aligned 」では、このバンド初期からの方向性を先に進めたハワイアン風のスライド・ギターサウンドを聴くことが出来ます。


ここでは、Captures Recordsの代名詞的ともいうべき多彩な印象に彩られたインディポップの魅力が心ゆくまで堪能でき、2020年の傑作「Pulm」とともに往年のギターポップ好きの方にもこのアルバムをお勧めしたいところ。

 


4.DIIV 「Oshin」

 



全然、バンド名を知っていながら全然音をチェックしていなかったニューヨークのシューゲイザーバンド、DIIV。


このアルバムのタイトル「Oshin」といい、バンド名におけるイザコザといい、ちょっといい加減でテキトーな感じもして、その辺りの間の抜けたところに好感を覚えます。サウンド面でも上記のワイルドナッシングをさらに宅録風にした質感。題名から音を想像すると肩透かしを食らうかもしれない。


個人的には、Part Time辺りの宅録風ポップが好きな人はどストライクです。この辺りのドリーミーでファンシーな音楽性に懐かしさを見出すか、チープなバンドと断定するかはリスナーの音楽的な蓄積によりけり。これは、元のシューゲイザーやブリット・ポップ好きはニヤリとさせるものがあるはず。


只、完璧でないバンドといいうのは捨てがたいものもあると思います。一分の隙きもない音楽というのは確かに良いですけれど、時に息苦しくなってしまうような部分があります。荒削りなものの良さというのは、茶器とかを見ても、非対称性とか、少し完璧でない部分がある方が味とか価値が出る。


音楽もまた全く同じで、少しスタンダードから崩した所がある方が好ましい。ファッションでいうなら洒脱。その辺りの通ぶった七面倒な人間のワガママにやさしく答えてくれるのがこのダイブという、ジャンク感のあるロックバンドの素晴らしいところでしょう。


このバンドは、今流行のドリームポップ、シューゲイザーの方向性を表側に見せつつ、その音楽性については、通らしいバウハウスのようなゴシック趣味も感じさせるのが油断ならない。このデビュー・アルバムを聴くと、良質なポップセンスによってバンドサウンドが強固に支えられていて、良質なトラックが多いのに驚きます。「Follow」をはじめ、どことなく切なげな情感が込められているというのが感じ取れる。


「Oshin」の全体的なトラックの印象としては、ザ・スミスのジョニー・マーのようなギターサウンドを更に推し進め、そこに、ワイルドナッシングのような陶酔感のあるボーカルが空気中にぼんやり漂うような感があり、この辺りのニューロマンティックな雰囲気がすきなのかどうかが好き嫌いを分けるかもしれません。


往年の八十年代のマンチェスターシーンに流行したポップ音楽の風味も感じられるのが独特。個人的には、こういったダサいようだけれど、実は滅茶苦茶かっこいいという、絶妙な線を狙ったバンドというのが最近のニューヨークシーンの流行りなのかなと思います。 

 

 

5.Beach fossils「Beach fossils」

 


 


サーフロックリバイバルの旗手ともいえる存在、ビーチフォッシルズの鮮烈なデビューアルバム。


このビーチフォッシルズの音の勘の良さというのも、懐かしいサーフサウンド、ディック・デイルや、ヴェンチャーズ辺りのバンドの音楽性を新たなシューゲイザーやドリームポップで彩ってみせています。


デビューした年代はワイルド・ナッシングと同時期にあたり、両バンドは盟友のような形でニューヨークシーンを活気づけている。


「The Horse」のアメリカーナやフォーク音楽の影響を感じさせる良曲をはじめ、「Wide Away」といった素晴らしいメロディーセンスを持つ楽曲が数多く収録されています。

 

バンドのネーミングを想起させる「Gather」は浜辺のさざなみのSEを取り入れた楽曲。ビーチ・フォッシルズの鮮烈なデビューアルバムは、彼等四人のずば抜けたセンスというのが滲み出ている。 


このバンドは、デビュー当時から個人的に注目していた思い入れのあるアーティスト。今や前作の「Summerssault」の良い反響を見るにつけ、ワールドワイドな存在となりつつあり、今後の活躍がたのしみなアメリカの最重要若手ロックバンドの一つです。


6.THUS LOVE「Memorial」




パンデミック下、元々、Thus Loveは、ライブを主体に地元で活動を行っていましたが、このパンデミック騒動が彼らの活動継続を危ぶんだにとどまらず、彼らの本来の名声を獲得する可能性を摘むんだかのように思えました。しかし、結果は、そうはならなかった。Thus Loveは幸運なことに、ブルックリンのインディーロックの気鋭のレーベル、キャプチャード・トラックスと契約を結んだことにより、明日への希望を繋いでいったのである。それは、バンドとしての生存、あるいは、トランスアーティストとしての生存、双方の意味において明日へ望みを繋いだことにほかなりません。

 

この作品は、このブラトルボロでの共同体に馴染めなかった彼らの孤独感、疎外感が表現されているのは事実のようですが、それは彼らのカウンター側にある立ち位置のおかげで、何より、パンデミックの世界、その後の暗澹たる世界に一石を投ずるような音楽となっているため、大きな救いもまた込められています。Thus Loveのアウトサイダーとしての音楽は、今日の暗い世相に相対した際には、むしろ明るい希望すら見出せる。それは、暗い概念に対する見方を少しだけ変えることにより、それと正反対の明るい概念に転換出来ることを明示している。これらの考えは、彼らが、ジェンダーレスの人間としてたくましく生きてきたこと、そして、マイノリティーとして生きることを決断し、それを実行してきたからこそ生み出されたものなのです。


Thus Loveの音楽性には、これまでのキャプチャード・トラックスに在籍してきた象徴的なロックバンドとの共通点も見出すことが出来ます。Wild Nothingのように、リバーブがかかったギターを基調としたNu Gazeに近いインディーロック性、Beach Fossilsのように、親しみやすいメロディー、DIIVのように、夢想的な雰囲気とローファイ性を体感出来る。さらに、The Cure、Joy Division、BauhausといったUKのゴシック・ロックの源流を形作ったバンド、ブリット・ポップ黎明期を代表するThe SmithのJohnny Marrに対する憧憬、トランス・アーティストとしての自負心が昇華され、クールな雰囲気が醸し出されている。

Pale Saints 「flesh ballon」

 



「4AD」というイギリスのインディーレーベルは、ラフ・トレードとともに、八十年代から多くの良質なアーティストを輩出してきました。

 

このレーベルは、常にインディーロックシーンを牽引してきた存在と言っても過言でなく、主だったイメージとしては、バンドのなかに、紅一点の女性メンバーが在籍していて、他のレーベルとは一味異なる音楽性を聞かせてくれていました。Throwing Muses、Pixies、Amps、Breeders,、個人的にも非常に聴き込んだ思い入れのあるアーティストばかりです。

  

4ADと契約しているインディーロックレコードはレコード店で取り扱いが少なく、十数年前には、新宿、渋谷といった方々の大きなレコードショップをトリュフ犬のようにかけずりまわり、血眼になって探さなければ容易に見つからなかったです。何千、何万というレコードの中からお目当ての円盤を探し出す作業、これはほぼ発掘作業のような趣があり、大変骨の折れる作業でした。
 
 
お宝レコードを見つけられるのもかなり運要素が強く、この中古ショップならおいていそうだという独特の嗅覚を培わねばらなず、いつ入荷するかわからないので足繁くレコード店に通わねばならない。そして、長い間、探していた作品を見つけた瞬間には、内心では人知れずウオオという雄叫びを上げずにはいられなく(まあ、実際には声には出しませんが、ちっちゃくガーツポーズくらいはしていたでしょう)なんともいえない喜びをおぼえさせてくれるというところで、4ADのアーティストのレコードというのは、どれもこれも貴重で素敵な宝物ばかりでした。
 
 
そんな中、ペイルセインツを知ったのは割と最近のこと。やはり、4ADというと、ピクシーズの印象が強く、キム・ディール周辺のディスクばかりを漁りまくっていて、このバンドを知るのが大分遅れてしまいましたね。そして、このPale Saintsは、知る人ぞ知るバンドという表現がぴったり。My Bloody Valentine、Jesus Mary Chains、Ride、といった80年代から90年代に活躍したバンドに埋もれてしまったロックバンドです。彼らのリリース自体は1994年を期に途絶え、1990年の「The Comforts of Maddness」のリマスター版が2020年に再発されているのみ、その後の動向も聞こえてきません。しかし、この「Flash Baloon」を聴くかぎりでは、今一度、脚光を浴びるべき良質なバンドとのひとつだと思っています。
  
 
イアン・マスターズ率いるこのPale Saintsは、いってみれば不遇のバンドの一つに挙げられるでしょう。実力ほどには売れなかったという点で、”The La's”に似ているところもあるかもしれない。その音楽性は、シューゲイザー寄りといえるでしょうし、聞き手の捉え方によっては、ドリーム・ポップ、ニューロマンティック寄りといっても差し支えないかもしれません。トレモロ・ビブラートのエフェクトを噛ませたギターが断続的なリズムを作り出し、淡い甘美な印象のある歌が器楽的にうたわれるという特徴においては、他のシューゲイザーバンドとそれほど変わらないように思えますが、このバンドの音楽というのは妙にポップで耳に残る印象があります。
 
 
このアルバムに収録されている曲自体は、良質なポップソングが多く、どことなくティアーズ・フォー・フィアーズを彷彿とさせるような音楽性で、上手くやればスマッシュヒットも飛ばせたかもしれない。しかも、他のシューゲイザーバンドと比べ、センス的に秀でている雰囲気もあるというのに、セールスや知名度的にあまり振るわなかったのが実に惜しくてなりません。
 
 
アルバム全体では、イアン・マスターズもボーカルをとっていますが、この中の一曲、「Kinky love」というのが、なかなかの秀曲で、メリエム・バーハムの甘ったるいボーカルがなんともいえない切ない雰囲気を醸し出している。この甘ったるい夢想的な空気感といえばよいのか、シューゲイザー全盛期の熱に浮かされた雰囲気を余すところなく表した独特なアトモスフェールに充ちていて、なんらかの契機あれば、人気の出そうなバンドではあります。
 
 
しかし、ひとつだけ弱点を挙げるとするなら、どことなくRideなどに比べて、印象が薄いという気がする。たとえばかのバンドがストーンローゼズ的な雰囲気を上手くシューゲイザーに取り込んだのに対し、ペールセインツは狙いがあまり伝わってこないのと、バンドの持ち味というべきか、音に込められるべき力強さという点では少し弱い気がし、なおかつどうもこのツインボーカルがバンド全体の印象を薄れさせている。そこが惜しいところでしょう。
 
 
 この1991年リリースの「Flesh Balloon」を通して聞いてなんとなくわかるのは、ツインボーカルという点でその見せ所を見誤ったバンドなのかなという気がしています。たとえば、ピクシーズにおいては、ブラック・フランシスとキム・ディールが対照的な声質で上手く合致し、それをバンドの旗印として全面に押し出すことで大成功をおさめたのに対し、このペールセインツは、イアン・マスターズとメリエム・バーハムの声質の雰囲気が似通っていたせいで、フロントマンの声質の印象が邪魔をして、バンドの印象性さえも薄れさせてしまった。
 前者は、男女混合のボーカルが上手く化学反応を起こしたのに対し、後者は、いまいちケミストリーを起こせず、両者の特性を薄めてしまったのが、バンドとして成功しなかった要因かなあと思っています。
 

しかし、あらためてこの三十年近くに作られたアルバム、「Flesh Balloon」を聴き通してみると、良質なニューロマンティック風味の音楽が奏でられていることに変わりなく、どことなく渋みのある印象すら感じられ、他のシューゲイザーバンドと一風異なる独特な魅力に富んでいます。どうやらこのバンドは、ミュージックシーンの流行りというのに引きずられ、持ちうる本領を発揮できなかったきらいがあり、シューゲイザーという小さなジャンル分けによって、割を食ったバンドでした。
 
 
つまり、音楽性においては、人知れず良質なポピュラー音楽を奏でていたのに、それがあまり聞き手に伝わらなかったのでしょう。一度、4ADとかシューゲイザーという枠組みから外して、その音に耳を傾けてみると、彼らの音楽の本質の部分がなんとなく掴めてくるかもしれません。