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MASS OF THE FERMENTING DREGS

 

 

 

MASS OF THE FERMENTING DREGSは、2002年、兵庫県神戸で結成された女性三人組のオルタナティヴロック・バンド。

 

2010年のアルバムリリースの後、メンバーが大幅に入れ替わる際、期間活動休止を余儀なくされた。

 

しかし、2015年になって、新しいサポートメンバーを招いて、マスドレは再始動する。

 

結果としては、このバンドの中心人物、ベース・ボーカルの宮本菜津子さんだけがオリジナルメンバーとしてバンドに残り、MASS OF THE FERMENTING DREGS、通称"マスドレ"を現在まで頼もしく率いています。 

 

 

Mass Of The Fermenting Dregs"Mass Of The Fermenting Dregs" by Steve Leggat is licensed under CC BY-NC 2.0

 

 

 

女性ベース・ボーカルの日本のロックバンドとしては、凛として時雨、Base Ball Bearが思い浮かべられる。しかし、日本の女性のみのスリーピースのオルタナロック・バンドというのは寡聞にして知りません。上記2つのアーティストと異なる雰囲気のある本格派ロックバンドといえる。個人的な意見としてはどちらかというと、日本より海外で人気の出そうなオルタナティヴロックバンドです。

 

このマスドレというバンドを知ったのは、今から十数年前に遡る。これは仕様もない胡散臭い昔話と思って聞きながしてほしい。まだこのバンドがレコードデビューをするかしないかという時期、インディーズ系のバンド視聴サイト"auiodleaf"を介してだった。私の友人で、当時、新興サイトでしかなたAudioleafの営業部長を務めていた人物がこのバンドがいいんだと教えてくれた。家に帰って聴いてみたところ、ナンバーガールに近い質感を持ったクールなバンド、まさにあの時の自分が求めていた音でした。

 

音楽性としては、フェンダー・ジャズマスターのギターの歪みを特徴としていて、そこにかなり芯の太いベースライン、そして、タイトなドラミング。親しみやすいポップ性を擁し、現在流行りのドリームポップのような質感、そして、青春の淡い情感もこのバンドのずっと変わらない普遍的な長所だ。つまり、ややもすると、EMIのスカウトの目は、このバンドをナンバーガールの再来というように捉えたのかもしれません。

 

このバンドの音楽には表向きには、グランジロック的な雰囲気もありますが、近年、アメリカの影響を受けて、日本でも隆盛しつつある、ニューゲイズ、ドリームポップの雰囲気がそれとなく漂っている。当時の一部の耳の肥えたロックファンは、明らかにこのバンドに、ただならぬ期待を寄せていただろうと思う。マスドレがいつか、日本のロックを背負って立つ存在になるかもしれない。そして、実際、それから、MASS OF THE FERMENTING DREGSの躍進ぶりというのは、目にも留まらぬ勢いだった。

 

それまでは東京近辺の知る人ぞ知る感じのインディーロック・バンドであったのが、二年間のうちに、Fuji Rockに出演を果たし、見事なシンデレラーストーリーを描いてみせた。つまり、こういった成功例を身近で見てきた人間の意見として、成功するバンド、アーティストというのはなんらかの大きな足がかりをつけさえすれば、スターダムの階段を駆け上るときは一瞬なのでしょう。

 

デビューアルバム「Mass of The Farmating Dreds」2008は、サウンドエンジニアとして世界的な大御所といえるデイヴ・フリードマンをプロデューサーに迎え入れて録音制作される。それからすぐ、バンドとしての勢いが冷めやらぬ中で、翌年、ナンバーガールのベーシスト、ナカケンこと中尾憲太郎をプロデューサに迎え入れ、二作目のスタジオ・アルバム「World is Yours」2009をリリース。そして、一躍、日本で有数のオルタナロック・バンドとして知られるようになりました。 

 

ナンバーガールも再結成を果たしたことから、再評価の機運が上昇している最注目の日本語オルタナティヴ・ロックバンドといえます。

 

 

Mass Of The Fermenting Dregs 推薦作品




1.「World Is Yours」EP  2009



 

 

 

 

 

 

1.このスピードの先へ

2.青い、濃い、橙色の日

3.かくいうもの

4.She is inside,He is Outside

5.なんなん

6.ワールドイズユアーズ

 

 

通称、マスドレの活動休止前の最も勢いのある瞬間を捉えた奇跡的なアルバム。ナンバーガールのベーシスト、中尾憲太郎をプロデューサーとして迎え入れたという面でも話題性に富んだ作品といえるかもしれない。そして、やはり、このアルバムは何度聴いても永久不変の大名盤。

 

宮本菜津子さんのボーカルは先述したように、ハスキーでありながら、意外にも高音の伸びというのが素晴らしい。

 

彼女のボーカルの高音の伸びを聞いていると、なぜだかしれないが切なくもあり、また、さっぱりした気分になることができる。珍しいタイプのシンガー。もちろんバンドとしての音も、結成から七年目にして最高潮を迎えたといえます。

 

ギタリスト、石本知恵美のフェンダーの歪みに歪んだディストーションというのは、全盛期のナンバーガールの田淵ひさ子のギタープレー、The Wedding Presentsの最初期を彷彿とさせるような凄さがある。

 

そこに、宮本菜津子の骨太のベースライン、リズミカルとベースがバンドサウンドを背後から支え、後藤玲子のタイトで尖った激烈な迫力のあるドラムのダイナミクスが加わる。

 

彼女たち三人の七年間の活動の集大成のようなものが、ここに熱いロックンロールとして体現されています。「このスピードの先へ」では、日本人アーティストとしてオルタナ音楽へ一石を投じていて、怒涛の迫力と勢いで、アルバムの最後をかざる名曲「World is Your」まで息つくところなく瞬く間に過ぎ去っていく。

 

ライブを目の前で見ているかのような凄まじい音の迫力は、ナカケンさんの耳の良さ、彼の音楽上の深い経験によって培われた敏腕プロデュースによるもの。まさに”マスドレ”という青春をロックンロールで凝縮した1枚。日本のオルタナを頂点に持っていった、問答無用の大傑作です。

 

 

 

 

2. 「No New World」2018 

 


 

 

 

 

 

 

1.New Order

2.あさひなぐ

3.だったらいいのにな

4.YAH YAH YAH

5.No New World

6.HuHuHu

7.Sugar

8.スローモーションリプレイ


 

 

2012年の活動休止後、新たなメンバーを迎え入れて、新生マスドレとして活動を再開。実に、8年振りとなるスタジオ・アルバムとなる。ここでは前作「ゼロコンマ、色とりどりの世界」からバンドとしても、実際のサウンドとしてより洗練され、そこにさらに強さが加わったように思えます。

 

「New Order」は、これぞマスドレという感じの爽やかさ、清らかさ、そして、切なさの感じられる楽曲だ。「あさひなぐ」は、これまでのマスドレの音楽性を引き継いだ上で、それをさらに時代の先に推し進めた名曲。誰にでもわかりやすい共感できる歌詞という特徴は健在。聞いていると、なんだか不思議と元気と勇気に満ちあふれてくる日本語ロックの名曲です。

 

また、バンドとしての前進が感じられる楽曲ーーこのスタジオアルバムのラストに収録されているーー「スローモーションリプレイ」では、新たな新境地を開拓し、”日本語ロック”というジャンルを押し広げようとしている。

 

アルバム全体を通して、以前よりも親しみやすい楽曲が増え、よりバンドサウンドとしての爽やかさと涼やかさが加わった印象を受ける。もちろん、このバンドの最初期からの骨格といえるオルタナティヴ性、歪んだギター、ドラムのダイナミクスという特徴も引き継がれている。多くの人の共感を呼ぶような痛快な作品。マスドレの入門編としてもオススメしたい1枚です。

 

 

 

 

MASS OF THE FERMENTING DREGS 公式HP

 

 

https://www.motfd.com/


 

 

 

参考


Wikipedia-MASS OF THE FERMENTING DREGS 

 

gellers 

 

 

gellersは、現在、ソロ活動として大活躍中のトクマルシューゴさんが、学生時代の同級生と組んだオルタナ/ローファイインディーロックバンドです。一時期、”どついたるねん”と企画を組んでいましたが、シングル「Cumparsita」リリース後、2018年から活動を休止中のようです。この辺りは、トクマルシューゴさんの仕事の忙しさとも関係している部分も少なからずあるかもしれません。

 

 

トクマルシューゴさんの名盤については、そのうちに、あらためて取り上げていくつもりですが、トクマルさんの簡単なバイオグラフィーを記しておくと、彼のデビューアルバム「NIGHT PIECES」2004は、当初、米国のインディーズレコード会社からリリースされ、現地の音楽メディアに称賛されたという面で、デビュー時から、天才性を遺憾なく発揮しつづけている。その後、活動拠点を日本に置きつつ、サポートメンバーを交え、バンド活動を行ってきており、TONOFONというインディーレーベルから作品のリリースを継続しています。このレーベルには、”王舟”という様々な個性的な楽器を演奏する良いバンドがいることも追記しておきたい。

 

 

トクマルシューゴさんは、本来、楽器ではない玩具を、楽器としてインプロヴァイゼーション風に自身の作品の中に取り入れ、Electronicaから派生したToytoronicaを日本で最初に導入したアーティスト。もちろん、ジャンルの括りを差し引いても、音楽においての独創性、クリエイティヴィティにおいて抜群のJポップ・アーティストという事実には変わりないでしょう。

 

 

このGellersは、先にも述べたとおり、メンバー全員が幼馴染で結成され、トクマルシューゴとしてのソロ活動のポピュラー音楽性とは対極にある雰囲気を持ったバンドと言えるでしょう。

 

 

ギター、ベース、ドラムの基本編成に加えて、アート・リンゼイやD.N.Aの実在した「NO NEW YORK」の時代にタイムスリップしたような、耳をつんざくような激烈ノイズを追求するキーボードをバンドサウンドの主な表情づけとし、また、時には、The StoogesやThe Velvet Undergroundの時代の強いタブー性を現代に蘇らせたかのようなアクの強いロックサウンドが特徴でしょう。

 

 

近年では、音楽性が徐々に変わってきて、掴みやすいポップ性を追求したシティポップ風のノスタルジックなサウンドを、最新作「Cumparsita」においては見せています。また、最初期のメンバーで、途中で脱退したミュージシャン、”ハラ・カズトシ”がゲスト・ボーカルに参加、肩の力の抜けた良質なJーインディ・ポップを展開する場合もあって、異質なほどの音楽性の間口の広さがこのバンドには感じられます。

 

 

そして、今回、再発掘する彼等のデビュー・アルバム「Gellers」は、日本の隠れたインディー・ローファイの名盤として、日本の往年のインディーシーンの伝説的ロックバンド”裸のラリーズ”的な意味合いで、ここで取り上げおこうと思います。

 

 

どちらかというと、海外の音楽フリークの間でひそかに人気の出そうな隠れたローファイの名盤のひとつかもしれません。

 

 

 

Gellers 「Gellers」 2007

 

 

 

このジャケットがはっきりと表すように、インディーローファイ、もしくは、サイケデリックロックという音を見事に昇華させた名盤。

 

一応いっておくと、世界的にもこういう音はメルト・バナナ以外では聴いたことがない珍しさもあるかと思います。

 

 

 

 

「9 teeth picabia」のイントロでは、映画の活弁士のようなサンプリングが挿入され、そこから突如、サイケデリックノイズとも、往年のThe Sonicsのようなガレージ・ロックともつかない、まさにゲラーズ・ワールドともいえる世界観を全面展開していく。

 

 

このアルバムとしてのイントロにぶちのめされる理由というのは、やはり、ブライアン・イーノ、プロデュースのニューヨークの前衛ミュージシャンのコンピレーション・アルバム「NO NEW YORK」を初めて聞いた時のような、のけぞってしまうあの直覚的な感じだ。

 

 

耳をつんざくぐしゃっと潰れたようなノイズ、テンポ感をあえてぶち壊すことにより、ザ・レジデンツを思わせるサイケで衝動的で異質なロックを現代のローファイとして再現し、また、出来上がったものを一瞬にしてぶち壊してしまうのもかなり面白い。

 

 

一見、とんでもない滅茶苦茶をやっているようで、バンドとしての演奏は巧緻な部分もある。両極端なアンビバレントな要素を交え、それを、バンドサウンドとしてダイナミックに展開していくのが、このゲラーズです。よくわからないけど、なんだか凄い。つまり、この名盤はパンクをひとっとびに越えて、もしかすると”サイケ・コア”の領域にまで踏み込んでいるんではないでしょうか。

 

 

それはあの底なし沼に踏み込んでいくときのような危なっかしい魅力を放つかのようでもある。彼等Gellersのライブでも、お馴染みの重要なレパートリー、「Buscape」も痛快な曲で、ここでは、楽曲の持つ異質な勢いの魅力もさることながら、日本語歌詞としてのタブー性に果敢に挑戦しているのも素晴らしく、暴力的な衝動性というのが遺憾なく発揮されている。

 

 

川副さんのボーカルは、ロックバンドというよりも、パンク・ハードコアに比する激烈さといえ、凄まじいアジテーションの雰囲気を、このアルバムに収録されている楽曲にもたらしている。このアルバムリリースのあとでも、その基本的なスタンスは変わらず、今日においてタブー視される言語を臆することなく歌詞の中に込め、実際にステージ上で激しさをもって歌い上げるのは、昔ならばいざしらず、近年では、相当な勇気が必要でもあるはず。にもかかわらずなんなくやってのけているのはさすがで、これこそまさにパンク・ロック精神といえるでしょう。

 

 

そして、このバンドイメージに柔らかなニュアンスを添えているのが、トクマルシューゴさんで、「Colorad」「Locomotion」「Sugar」においては、川副さんに代わってマイクをとり、この緊張感のあるサウンドにゆるさのある、癖になるようなインディー・ポップ性を添えることに成功している。

 

 

このあたりは、やはり、トクマルさんのポップセンスの高さというものが伺え、割と多くの人に受け入れられるようなキャッチーさもある。それほど過激さはなくて、万人受けするゆる〜い感じのギターロックの楽曲としてたのしむことが出来るでしょう。

 

 

しかし、このあたりにも、トクマルさんのローファイ趣味が伺え、そこに彼のソロ活動とはまた異なる一面が味わえるといえるかもしれません。

 

 

彼の歌詞性というのもやはり、なんとなく直感的、抽象的な言葉が使われているのが特徴でしょう。そして、彼の際立ったポップセンスが、これらの楽曲をどことなく、ノスタルジックにさせ、往年の古い日本のロック、はっぴいえんどの大滝詠一のような音楽性、渋く古臭い、それでいながら懐かしみのあるサウンドに昇華させているのもお見事。

 

 

また、このバンドの実験的なサウンドを 背後からしっかり支えているのが、大久保さんのベースラインでしょう。シンプルでありながら、リズムというものの深さ、そして対旋律的なメロディーを感じさせてくれる彼の職人気質のテクニックについても、このバンドサウンドの骨組みを強固にしている。

 

 

さらに、そこに、ドラムの轟音性を重視するダイナミクスと、キーボードのノイズが加わることにより、ゲラーズらしいサウンドが、既にデビューアルバムながら完成されているといえるでしょう。これは90年代から長く活動してきたからこそのぴたりと息のあったバンドサウンドといえるでしょう。

 

 

このデビューアルバムは彼等の勢い、そして、痛快なほどのアバンギャルド性を打ち出した日本のインディー・ロックの隠れた名盤として、推薦しておきたいアルバムです。