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Calvin Harris


スコットランド出身の音楽プロデューサー、カルヴィン・ハリスが、ニューアルバム「Funk Wav Bounces Vol.2」をコロンビアレコードから8月5日にリリースすることを発表した。この発表と同時に、21 Savageをフィーチャーしたニューシングル「New Money」を公開している。アルバムのトレイラー映像も同時公開されています。

 

「Funk Wav Bounces Vol.2」 Album Trailer


 


今回発表された『Funk Wav Bounces Vol.2』には、豪華なコラボレーターが見いだされる。 ジャスティン・ティンバーレイク、ファレル・ウィリアムス、ホールジー、チャーリー・プースなどのポップアーティストから、ノーマニ、ティナーシェ、ジョルジャ・スミス、クロイなどの女性シンガー、21サヴェージ、ステフロン・ドン、6LACKなどのラッパーに加え、スヌープ・ドッグ、バスタ・ライムスといった大御所まで、総勢23組のスペシャルなゲストが一挙公開された。

 

今年初め、カルヴィン・ハリスは、Dua LipaとYoung Thugのコラボ曲「Potion」でこのレコードの発売を予告していた。

 

 

 「New Money」-Single-

 


 

Calvin Harris 「Funk Wav Bounces Vol.2」



Label:  Columbia

Release:  2022年8月5日

Kendric Lamar

Kendrick Lamarは今、ヨーロッパで様々なフェスティバルやハイエンドなイベントに出演しています。

 

数日前には、Spotify主催のカンヌライオンズ・フェスティバルで親密なセットを行い、今夜はミラノ・サマー・フェスティバルに出演、日曜日にはグラストンベリーのピラミッド・ステージでヘッドライナーを務め、さまざまな仕事をこなしています。より型破りな出演としては、今日のパリ・ファッションウィーク中に行われたルイ・ヴィトンのショーケースでのパフォーマンスが挙げられる。


今回、ケンドリック・ラマーは、様々なファッションプレートが行進するキャットウォークの横で観客と一緒に座りながら、最新作『Mr.Moral & The Big Steppers』の曲をピックアップし、ライブパフォーマンスを行い、ショーケースを盛り上げている。パフォーマンス中、ケンドリックは(ニューアルバムのジャケットに見られる)茨の冠を被り、ルイ・ヴィトンのクリエイティブ・ディレクターである、故ヴァージル・アブローに感謝を捧げている。その模様は以下からご覧いただけます。


 


ニュージャージー出身のカニエ・ウェストの愛弟子、070 Shakeは、6月3日にデビュー・アルバム「You Can’t Kill Me 」をリリースした。

 

マイク・ディーンによるミキシング、マスタリングをフューチャーした新作アルバム「You Can't Kill Me」は、クリスティーヌ・アンド・クイーンズのコラボレーション「Body」を含む全14曲が収録されている。今、女性ラッパーとしてアメリカ国内で大きな話題を呼んでいるアーティストでもあり、上記のデビューアルバムはアメリカのモダン・ラップシーンの象徴的な作品である。

 

今週、070シェイクは、Jimmy Falons主演の『The Tonight Show』に音楽ゲストとして出演を果たし、その中でデビュー作に収録されている「Skin and Bones」を披露している。


070シェイクは、ジミー・ファロンのスタジオではなく、サウンドステージで「Skin And Bones」を披露した。カメラに映りこんでいるのは彼女だけで、曲の大半は、冷たくドラマチックな白い背景を背に歌われています。曲のビートが切り替わると、色調も変化する。そのすべてがクールで、Shakeの姿を際立たせている。ライブパフォーマンスの様子は以下でご覧ください。

 

 


 

Chance the RapperがJoey Bada$$とタッグを組んで、ニューシングル「The Highs & The Lows」を発表しました。

 

DexLvLがプロデュースしたこの曲は、Chanceと映像作家のTroy Guenoが監督したビデオも並行して公開されています。


「The Highs & The Lows」は、ガボンのアーティスト、Naïla OpiangahとMoses Sumneyとのコラボレーション「Child of God」、シカゴ在住の画家Nikko Washingtonとのコラボレーション「A Bar About A Bar」に続く異色シリーズの第3弾となる。

 

最新作は、ガボンの写真家ヤニス・ダビ・ギビンガのアートワークを使用し、木曜日にスイスのアート展示会で展示デビューを果たしています。


また、この作品は、今週日曜日(6月19日)のジュネーテントに、シカゴのデュサブルアフリカンアメリカン歴史博物館で展示される予定です。

 


 


 

昨晩、Drakeは、ニューアルバム『Honestly, Nevermind』の制作を発表。このアルバムは、ドレイクが45分間、最新鋭のハウスビートで優しく歌い、ラップはほとんどなく、最後の瞬間に21 Savageが登場し、すべてを奪いさるというものです。アルバムの詳細についてはまだ完全に判明していませんが、今回は、アルバムのオープニングを飾る "Falling Back "のビデオをご紹介致します。ドレイクの独特かつ魅惑的なフロウが存分に発揮された内容になっていますよ。


この "Falling Back "のミュージックビデオは、Drakeと何度も仕事をしているラップビデオのベテラン監督、Director Xが手がける。さらに、ビデオは、ドレイクが結婚するという内容が描写されていますが、彼はインスタグラムのモデルタイプに見える23人の女性と一度に結婚するというド派手さ。ドレイクは、このジョークを9分半も引き伸ばし、Honestly、Nevermindの曲のクリップを織り交ぜ、大規模なエンドクレジットで、すべての花嫁をクローズアップしている。

 

ビデオクリップは、ビッグスターで埋め尽くされていますが、それらの中で、注目すべきは、トリスタン-トンプソン、現在のシカゴ・ブルズのセンターと悪名高いトリーバーチでしょう。トンプソンは、結婚前のドレイクを説得する役割を担っている。また、ドレイクの母親が、この人は長続きすると思う、と言っています。そして、『オールドスクール』に登場した不敬なカバーアクト、ダン・バンドがレコ発で、ドレイク自身の「Best I Ever Had」をカバーする場面もあり。

 

Flying Lotus 


Flying Lotusは、ロサンゼルス在住のソウルシンガーDevin Tracyのボーカルをフィーチャーした2つの新曲「The Room」と「You Don't Know」を公開しました。以下よりお聴きください。


前作のスタジオLP『Flamagra』と、それに伴うシングル『Flamagra (Instrumentals)』をリリースして以来、フライング・ロータスは、レシーントーマスのアニメシリーズ『Yasuke』のスコアを作曲、ドキュメンタリーシリーズ『They Call Me Magic』のタイトルテーマをシェアしています。さらに、今年初めに、Flying Loは、2作目の長編映画となる、SFホラー映画『Ash』の制作も発表しています。

 

 

「You Don't Know」 


 

 

 「The Room」


 

Moor Mother  Photo Credit:samantha isasian


Moor Motherが、Akai SoloとJustmadniceをフィーチャーした新曲「RAP JASM」を公開しました。この曲は、彼女が先日発表したLP『Jazz Codes』からのもので、昨年発表された『Black Encyclopedia of the Air』には、以前発表されたトラック「Woody Shaw」が収録されています。両シングルとも下記よりチェックしてください。


Moor Motherのセカンドアルバム「Jazz Codes」は、今年7月1日にAnti Recordsからリリースされる予定です。Mary Lattimore, Fatboi Sharif, Irreversible Entanglements, Yungmorpheusが参加した作品となっています。

 

「このアルバムの原動力は詩です」とCamae Ayewaは声明で説明しています。「これらのアーティストや、名前はないけれども感じた無数の人たちの物語が、主要なモチーフとなっています。私は、彼らを尊敬し、供え物を与え、私の体に抱き、彼らと共に夢を見、甘美を送りたかったのです」

 


Jay Wood
 

カナダ、トロント 、ウィニペグのミュージシャン、ソングライターであるJeremy Haywood-Smithのソロ・プロジェクト、JayWoodは、7月15日にCaptured Tracksからリリースされるスタジオ・アルバム『Slingshot』から新しいシングル/ビデオ「Shine」を発表しました。「Shine」は、McKinley Dixon(マッキンリー・ディクソン)をフィーチャーしています。


さらに、この曲は、ミネソタ州ミネアポリスでGeorge Floydが殺された夜に書かれたもので、アルバムの中で最も重要な意味を持つ曲に挙げられます。


ヘイウッド=スミスは、「2020年の夏ほど、活性化や過激さを感じたことはなかったと思う」と語る。

 

「疲弊した時期でしたが、私はその時起きていることすべてに意見するようなことを一度やってみたかったんです。

ヒップホップの曲を作ろうと思いついたとき、マッキンリーを起用しなければと思いました。彼の書く曲はとてもワイルドだから、私もそのレベルで何かできないかと思った」とヘイウッド=スミスは付け加えました。パーカッシブなインストゥルメンテーションと穏やかな打楽器の上で、ジェイウッドはこう激励を与える。「そして、最終的には、私の仲間を輝かせれば良いんだ」 

 

 

 

 

新作アルバム『Slingshot』の物語は1日という短いスパンで展開される。1曲目から最後の曲まで、JayWoodは幼少期、宗教、アイデンティティというテーマに触れる旅に聞き手を誘います。

 

ヘイウッド-スミスは、このアルバムの作曲とレコーディングの間に、彼の実生活の超現実的なバージョンを構成するすべてのプロットポイント、環境、キャラクターをマッピングした複雑な「脚本」を作成しました。



カナダの大草原で生まれ育ったJayWoodは、2015年からヘイウッド=スミスの自己発見と心痛の旅をユニークなソングライティングで捉えてきた。2019年に母親を亡くし、2020年を通して複数の社会的危機が発生し世界的に行き詰まったヘイウッド=スミスは、前進する勢いに憧れました。

 

「前進するために振り返るという考えは、私にとって本当に大きなものになりました。だからこそ、『Slingshot』というタイトルを付けたんです」とヘイウッド=スミスは説明しています。ヘイウッド=スミス氏は、両親の死後、自分の過去や祖先とのつながりを断ち切られたと感じ、白人が多いマニトバ州で暮らす自分のアイデンティティと黒人特有の経験をよりよく理解しようと意識的に取り組みました。『Slingshot』は、ファンタジーなシナリオと個人的な逸話、そして、ポップでダンスなインストゥルメンタルを融合させた、Jay Woodの表面と深層の自画像ともいえます。


「Slingshot」は、7月15日に、Captured Tracks/Royal Mountain Recordsからリリースされる予定です。

 




Jay Wood 「Slingshot」


 

Label: Captured Tracks/Royal Mountain Records

 

Release:2022年7月15日


Tracklisting


1.Intro(End Of An Era)

2.God Is A Reptile

3.Pray.Move On

4.All Night Long

5.Just Sayin(feat.Ami Cheon)

6.Is It True?(Dreams Pt.3)

7.Kitchen Floor

8.Shine(feat.Mckinley Dixon)

9.Tullps

10.YGBO-Interlude

11.Thank You

12.Arrival(Outro)


 


 

グリセルダのラッパー、Benny The Butcherはテキサスのバッファロー出身です。バッファローでは最近、人種差別を目的とした犯人がスーパーマーケットで10人(全員黒人)を殺害する事件が発生しました。

 

この事件をはじめ、アメリカでは恐ろしい銃乱射事件が相次いでおりますが、Bennyは、新曲 "Welcome To The States "のPVを公開しました。


この曲は、ケンドリック・ラマーの最新作『Mr. Morale & The Big Steppers』の収録曲で、ケンドリックが女優のテイラー・ペイジと罵り合いを演じた「We Cry Together」のビートに乗せて彼がラップしているものです。「憎しみの上に形成されたイデオロギー」とBenny The Butcherは情熱的にラップしています。「今じゃ、皮肉なことに、食料品店も安全じゃないんだ」


"Welcome To The States "はベネフィット・ソングの一環として書かれており、全米犯罪被害者弁護士協会、バッファロー・サバイバーズ・ファンドなどの団体に寄付するよう呼びかけをするためリリースされました。ベニーのブラック・ソプラノ・ファミリーも同じく「Pray For Buffalo」Tシャツを販売し、売り上げの100%を「Buffalo 5-14 Survivors Fund」に寄付する予定になっています。


YouTubeの映像では、この曲のビデオに、ベニー・ザ・ブッチャーからのこんなメッセージが添えられています。


2022年5月14日、バッファローのコミュニティは、ジェファーソン・アベニューにあるトップスフレンドリーマーケットで銃を乱射して、10人が死亡、3人が負傷するという悲惨な暴力行為に見舞われました。多くの人が、どのように支援すればいいのかについて尋ねていました。ナショナル・コンパッション・ファンドは、TOPSと協力して、この痛ましい悲劇に影響を受けた人々に直接資金援助を行うため、「バッファロー5/14サバイバーズ・ファンド」を設立しました。


この映像は、今年に入ってから、米国で発生した銃乱射事件の数(6月1日現在で少なくとも233件)という驚異的な数字を含む別のメッセージから始まっています。曲と映像は、以下よりご覧いただけます。

 

 

 Chance The Rapperは、アート作品としても鑑賞出来るような新曲とビデオを共有しました。

 

「A Bar About A Bar」は、モージズ・サムニーをフィーチャーした、ガボンの画家ナイラ・オピアンガとのコラボレーションである「神の子」に続くシングル。「A BarAbout a  Bar」のビジュアルでは、チャンスとヴィック・メンサがライティングの練習をしている様子を見ることが出来、Nikko Washingtonがシングルのアートカバーを手掛けています。是非、以下でチェックして下さい。


Nikko Washingtonのアートワークは、5月25日にシカゴ美術館で発表され、今週末まで展示される予定です。プレスリリースによると、それは「白人アメリカの郊外における人種的不平等、人種統合、階級差別の最初の黒人スーパーマンの非正統的で未来的で超現実主義的な描写であるアバール」に触発されたという。

 

 KENDRICK LAMAR 「Mr Morale&The Big Steppers」

 


 

Label: pgLang

 

Release Date: 2022年5月13日



「Mr.Morale&The Big Steppers」は、ケンドリック・ラマーが新たな境地を開拓した作品と評せるでしょう。彼のラップシーンにおいての大きな功績は、既に「To Pimp A Butterfly」「Damn」といった近作のアルバムが証明していますが、ケンドリックは、メインストリームに引き上げられてもなお、その名声に溺れることなく、アメリカ国内で象徴的なラップアーティストとなってもなお、自らの芸術性、表現性をこのアルバムにおいて探求しようとしている。これまでの作品において、彼は、スポークンワードを介しての政治的な発言、アメリカという国家にたいする社会的な提言をする言うなれば「代弁者」としての役割を持ってきたのは周知のとおりですが、この作品においてラマーはより大きな代弁者としての歩みを前に進めたように思えます。

 

彼は本作において、個人的な問題にとどまらず、他者、特に、女性やトランスジェンダーに対する人権についての考えをアルバムの中で提示しているようにも思えます。彼は、アルバムアートワークに示されているように、父親になりまた二人の子を授かったことにより、女性的な視点を持ってスポークンワードを紡ぎ出していることに注目です。 (先行シングルのミュージックビデオで顔を七変化させたのにはアルバムの重要なヒントが隠れていた)いくつかの他者になりきり、それを鋭さのあるスポークンワードとして紡ぎ出すこと、それらの彼の試みが最も成功を見た曲が、「We Cry Together」、アルバムのハイライトともいえるポーティスヘッドのベス・ギボンズをゲストボーカルとして招いたジャズ/チルアウトの雰囲気を持つ「Mother I Sober」です。

 

ケンドリック・ラマーは、女性に対する優しい思いやり、さらに傷んだ心を持つ人の立場のなりかわり、痛烈に叫ぶことにより、前者のトラックでは、苛烈なスポークンワードとして、後者では爽やかでありながら熱情を兼ね備えたスポークンワードが生み出されています。ラマーにとってのラップをするとは、子供を持つこと、つまり、新たな命を授かることと同意義であるように思えます。彼の言葉には、慈愛があり、温かさが込められている。もちろん、彼の代表的な傑作のひとつである2015年のアルバム「To Pimp A Butterfly」の頃に比べると、表向きの苛烈さはいくらか薄れているものの、それでも、幾つかの楽曲では、落ち着いた深い精神性を擁し、今まで感じられなかった人間的な温かさがスポークンワードの節々に滲んでいます。これは、父性を表しており、ケンドリック・ラマーが、父親としての深い自覚をもったからこそ、また、子を持つ親としての自覚を持つからこそ生み出された表現といえるかもしれません。

 

既に指摘されているように、今回のアルバムで、ケンドリック・ラマーは、アメリカらしいヒップホップというよりかは、UKのブリストルサウンドのトリップホップ/ロンドンのヒップホップに近い質感を持った作風を制作構想に取り入れていたように思えますが、彼の構想は、ポピュラーミュージックの中に潜むような形で、アルバムの幾つかの楽曲で見事に花開いています。メインストリームのアーティストとして、過分な注目を受けた後、何らかの創造性を失ってしまう例は多く見られますが、少なくとも、ケンドリック・ラマーというラップシーンきってのビッグスターにとって、以上のことは無関係であるようです。さらに、「Mr.Morale&The Big Steppers」は、叙情詩の才能が既存作品よりも引き出され、ケンドリックの代名詞的なアイコンとなりえる力強さがあり、また、夏の暑さを吹き飛ばすのに適したアルバムと言えるでしょう。

 

100/100(Masterpiece)

 

 

Weekend Featured Track 「Mother I Sober」

 

Danger Mouth/Black Thought Credit:Uncanny


グラミー賞に22回ノミネート、六回受賞というとんでもない大記録を持つシンガーソングライター、デンジャー・マウス、そして、アメリカ国内で根強い人気を誇るラッパー、ブラック・マウスが新たにコラボレートしたアルバム「Cheet Cord」がBMGから8月12日にリリースされることが明らかになりました。

 

この知らせとともに、シングル「No Gold Teeth」が5月11日にリリース、同時に、Uncanny(英国を拠点とするジョージ・マンシー&エリオット・エルダーのクリエイティブデュオ)が手掛けたミュージックビデオが到着しています。

 

「Cheat Code」は、 共同制作者として、エイサップ・ロッキー、ラン・ザ・ジュウェルズ、MF DOOM、マイケル・キワヌカ、キッド・シスター、ジョーイ・バッドアス、ラス、レイクウォン、コンウェイ・ザ・マシンらがレコーディングに招かれ制作されました。MF・ドゥームに関しては、2020年の年末に亡くなっているため、ファンにとっては思い入れのある参加となるはずです。 

 

 

 

 

Danger Mouth/Black Thought 

 

「Cheat Code」

 


 

Label: BMG

 

Release Date: 2022年8月12日

 

Tracklist

 

1.Sometimes

2.Cheat Code

3. The Darkest Part[feat.Raekwon and Kid Sister] 

4. No Gold Teeth

5. Because [feat.Joey Bada$$、Russ and Dylan Cartlidge」

6. Belize [feat.MF Doom]

7. Aquamarine [feat. Michael Kiwanuka]

8.Identical Depth

9. Strangers [feat.A$AP Rocky and Run the Jewels]

10. Close To Famous

11.Saltwater [feat.Conway the Machine]

12.Voilas&Lupitas

 

 LAのアンダーグラウンドシーンで活躍する、プロデューサー、DJ,BeatJunkiesの設立者J.Roccは、今年6月17日にStone Throw Recordsから、新作アルバム「A Wonderful Letter」をリリースすると発表しました。



 

「A Wonderful Letter」は、LAのアンダーグラウンドビート、ヒップホップシーンにおけるJRoccのルーツを再考し、さらにLAの街、そしてこの地域に住まう全ての人々に捧げるラブレターとして生み出されました。

 

また、新作アルバム「A Wonderful Letter」には、Steve Arrington、The Egyptian Lover、The Koreantown Oddity、Budgie、MEDから音源が提供されているのにも注目です。

 


J.Rocc「A Wonderful Letter」



Label:Stone Throw Records


Release:6/17,2022



Tracklisting


1. Welcome Everyone
2. L.A. Anthem (ft. LMNO & Key Kool)
3. One
4. Love & Dope (ft. MED)
5. The Changing World (ft. The Koreatown Oddity)
6. Keep On (Yeah)
7. Flawless (Raw) (ft. Frank Nitt)
8. Flawless (Smoothed Out) (ft. Budgie)
9. All I Wanna Do (Remix) (ft. Steve Arrington)
10. Pajama Party (ft. The Egyptian Lover)
11. Go!
12. Dancing With The Best
13. The End (N.T.P.)

 

Kota the Friend

 

コタ・ザ・フレンドは、NYのブルックリンを拠点に活動を行っているアヴェリー・マルセル・ジョシュア・ジョーンズのヒップホップ・プロジェクト。

 

ジョシュア・ジョーンズはブルックリン出身で、若い時代から音楽に親しみ、トランペット、キーボード、ギター、ベースなど多種多様な楽器の演奏を習得する。ブルックリンアートハイスクールを卒業した後、ファイブ・タウン・カレッジに通い、トランペットを専攻。大学在学中に、ジョシュア・ジョーンズはヒップホップアーティストとしての活動を始め、Nappy Hairというトリオで活動を行い、ミックステープ、「Autumn」「Nappy Hair」をリリースしている。

 

2015年からコタ・ザ・フレンドのステージネームを冠し、ミュージシャンとしての本格的な活動を開始。この「KODA」という名には、ディズニー映画「ブラザー・ベア」に登場する子熊に因んでいるらしく、誰もが友人を必要としていて、自分の生み出す音楽が友人を見つけるためのインスピレーションになれば嬉しい、というジョシュア・ジョーンズの温かい思いが込められている。

 

コタ・ザ・フレンドは徹底して、DIYの精神を貫き、インディーラッパーとしてこれまでの活動を継続している。

 

デビュー前に、メジャーレーベルからの契約の誘いを断り、その代わりに、自主レーベルとアパレルショップを立ち上げた後、2018年に「Anything」、2019年にはデビュー作「FOTO」をリリースし、アメリカのイーストヒップホップシーンにおいて大きな存在感を示した。


コタ・ザ・フレンドは、幼い頃に両親が聴いていた、チルアウト・ジャズ、ソウル・ミュージック、それからNujabes、N.E.R.D、NAS、Biggiie、JAY-Zのような、幅広いヒップホップアーティストに音楽のバックグランドを持つ。




「Lyrics To Go Vol.3」fltbys LLC





Tracklisting


1.Scapegoat

2.Twenty-Nine

3.Bitter

4.Prodigal Son

5.Breath

6.For Troubled Boys

7.Dear Fear

8.Shame

9.Boy

10.Cherry Beach 




さて、今週の一枚として紹介させていただくのは、アメリカ東海岸のヒップホップシーンの最重要アーティスト、コタ・ザ・フレンドの1月14日リリースの新作「Lyrics to GO Vol.3」となります。 

 

この「Lyrics to GO」という作品は、一つの意識の流れを意味し、必ずしも、完全な曲としてリリースされたものではなく、アイディアを集約した作品で、オリジナルアルバムをリリースする間に挟むことにより、創作を円滑に繋ぎ合わせるというアーティストの意図が込められています。


全ての楽曲は、一分半、二分のランタイム。ジョシュア・ジョーンズが、今、メッセージとしてぜひとも伝えておきたいことをフロウに込める簡潔な雰囲気の作品です。一作目の「Lyrics to GO Vol.1」は、インディーアーティストながら、ビルボードのUSチャートトップ10にランクインした話題作。そして、この作品は、「Lyrics to GO」三部作の完結と見てもよいかもしれません。

 

この作品「Lyrics to GO Vol.3」が素晴らしいのは、表向きに見えるシンプルな楽曲構成の魅力もさることながら、叙情的な雰囲気が漂っていることに加え、ヒップホップに旋律性や和音性をもたらそうとしている点。


また、ジョシュア・ジョーンズの本格派のフロウはバックトラックのジャジーな雰囲気と相まって、独特な美しいハーモニクスを生み出しています。正確に言えば、和音が意図して構成されていないにも関わらず、アンビエンスの倍音によって複雑な和音が生み出されているのが見事と言えます。


全体的には、コタ・ザ・フレンドのこれまでの既存の作品の音楽性を引き継ぎ、家族や友人といった出来事に歌詞のテーマが絞られ、ローファイ・ホップの雰囲気を持った楽曲が数多く収録されています。これまでの作風と同じく、コタ・ザ・フレンドは、多彩なアプローチを図り、ヒップホップの中に、ソウル、ジャズ、フォークの要素をオシャレにそつなく取り入れています。

 

「Lyrics to GO Vol.3」は、メモ書きのような意味を持つ作品のため、本義のオリジナルアルバムとは言いがたいかもしれません。いや、それでも、これらのトラックに込められたジョシュア・ジョーンズのフロウの軽やかさを聞き逃すことなかれ。この作品は、爽快かつリラックスして聴くことのできる個性的な楽曲ばかり揃っていて、聴いていると、ほんわかした気分を与えてくれます。

 

「アイディアの集約」という意図で制作されたデモテープのニュアンスに近いリリースであり、長い時間を掛けて制作されたわけではないからか、アルバム全体には、爽快で軽やかな雰囲気が漂っています。

 

しかしその一方、長く聴けるような渋さも十分に併せ持った作品でもある。また、このコンピレーションで繰り広げられるコタ・ザ・フレンドの痛快で軽やかなフロウは、先行きの不透明な現代社会だからこそ意味深いもの。きっと多くのリスナーに、明るく、温かな息吹を与えてくれるはず。

 

今作は、本格派のフロウでありながら、通好みのローファイ感が満載。まさに、コタ・ザ・フレンドの名の通り、ヒップホップファンにとっての「長きにわたる友」と言えるような雰囲気に満ちた魅力的な作品。

Album of the year 2021 

 

ーRap/Hiphopー 

 

 

 

 


・Nas  

 

「King Disease Ⅱ」 Mass Appeal 

 

 

 Nas 「King Disease Ⅱ」


 King's Disease II [Explicit]

 


アメリカ合衆国でディスコが衰退した後に登場したラップ、ヒップホップという音楽ジャンルは、1970年代後半のニューヨークのブロンクス地区の公園で、街中の電線から違法に電気を引いてきて、移民のDJがレゲエ、ダブを掛け始めることで始まった文化である。


この音楽文化を、Bボーイズ、ガールズ、数多くのDJインディーズレーベルがクラブカルチャーを通じて徐々に広めていった。当時、アメリカの主要な音楽を取り扱う最大手のビルボード紙にも、このラップ音楽の理解者が殆どおらず、一種のカウンターカルチャーとして見なされていた。しかし、今日のアメリカのミュージックシーンでは、ヒップホップがメインカルチャーに変わり、レコード産業はこの最も売れるジャンルに依存すらしているのは、時代の変遷ともいえるだろう。


長い時代を通して、アメリカの表社会からは見えづらい社会の闇、人種問題、人権問題、ゲットゥーの悲惨な生活、そういう影の部分にスポットライトを当てる役割がその後の世代を通して出現したラッパーたちには存在した。


もちろん、アメリカで最も著名なDJラッパーのひとり、ニューヨークのクイーンズ出身のNasについても全く同じことが言える。


ナズは、元々、八歳で学校をドロップアウトしたのち、ドラッグの売人をしながらゲットゥーをさまよった。彼に、教養、そして文学性を与えたのは、聖書、コーランといった聖典だった。


今日、ナズのラップが未だにアメリカ国内にとどまらず、ヨーロッパ圏でも大きな人気を獲得している理由は、「ラッパーの王者」となってもなお、そういった弱者、表社会からはじき出された人々に対する愛着を失わないからかなのかもしれない。赤裸々にアメリカ社会の闇を暴き出す姿勢、歯に衣着せぬ物言いが、特に、アメリカ国内の人々には痛快な印象すら与えるのだろう。


エミネムをゲストとして招聘した今作「King Disease Ⅱ」は、「王者のヒップホップ」というように、海外の複数の音楽メディアから数々の賛辞を与えられており、その中には歯の浮くような評言も見いだされる。もちろん、作品の話題性については言わずがな、グラミーも受賞するであろうレコードと率直に思う。現在も、ナズは、アメリカのラップ界のアイコンともいえる存在であることは、張りのあるスポークンワードだったり、そして、苛烈なフロウを見れば理解できる。そして、ゲトゥーからスターダムに這い上がってなお、ギャングスタ・ラップの色合いの強い、デンジャラスな雰囲気を今作でも過分に残しているというのは殆ど驚愕すべきことだ。


それはやはり、ナズが若い時代のゲトゥーでの生活、社会の底に生きる人々に一種の愛着のようなものを持ち続けていることに尽きると思う。このレコードに収録されている楽曲のトラックメイクについても王道のヒップホップを行くもので、全く売れ線を狙うような姿勢を感じさせないのも見事。

 

この作品には、いまだに、Nasのアメリカの表社会に対する一種の義憤、そして、ドラッグの売人の時代、ゲトゥーで暮らしていた時代に培われた強かな反骨精神のようなものがタフに感じられる。また、それが、ナズというアーティストが「ラップの王者」でありつづける要因でもあるのだ。 

 

 

 

 

 

 

 

 

・Kota The Friend  Feat.Statik Selektah 

 

「To Kill a Sunrise」 Fitbys LLC

 

 

Kota The Friend  Feat.Statik Selektah 「To Kill a Sunrise」  


To Kill A Sunrise [Explicit]  



コタ・ザ・フレンドとして活動するAvey Marcel Joshua Joneもヒップホップの発祥の地であるニューヨーク出身のラップアーティストであり、イーストコーストヒップホップシーンを代表するDJである。


近年、オールドスクールのヒップホップスタイルも行き詰まりを見せているように思え、他のジャンルがそうであったようにクロスオーバー、つまり本来異なるジャンルをヒップホップに織り交ぜていこうと模索するDJが出てくるようになった。いわばヒップホップも次の時代に進んでいこうという段階にあるのかもしれない。


コタ・ザ・フレンドも同じように、クロスオーバー・ヒップホップに取り組んでいるアーティストのひとり、大学でトランペットを学んでいて、ラップの要素に加え、ジャズ、そのほかにも、クラブミュージック、チルアウト、ローファイ・ヒップホップの要素を織り交ぜたくつろげる良質なヒップホップ作品をリリースしている。また、追記としては、2019年に発表した「Foto」は、ローリングストーン紙によってヒップホップのベストアルバムの19位に選出されている。


コタ・ザ・フレンドの新作「To Kill a Sunrise」は、カニエ、ナズ、ケンドリックといった大御所ラッパーの作品に比べると、いくらか話題性、刺激性に乏しいように思えるかもしれない。しかし、この作品には普遍的な良さがある。ヒップホップによりアート性を求め、芸術作品へ昇華させていこうというジョシュア・ジョーンズの意思を感じさせる。そして、張り詰めたヒップホップではなくて、それとは正反対のまったりした質感を持ち、くつろいだ感じが漂う作品である。


上記の「King Disease Ⅱ」ような鮮烈な印象こそないが、ローファイホップのようなリラックスして聴くことの出来る作品。ジャズの上品な雰囲気の漂うラップの良盤の一つとしてひっそりと取り上げておきたい。 



 

 

 

 

 

 

 

・Mick Jenkins 

 

「Elephant In the Room」Free Nation Cinematic Music Group

 

 

Mick Jenkins 「Elephant In the Room」  


Scottie Pippen [Explicit]  

 


長い間、ヒップホップ、及びラップアーティストは、このヒップホップ音楽がR&Bを始めとするソウル音楽に強い影響を受けて誕生したジャンルということを半ば否定し、忘れていたように思えるが、ようやく、ヒップホップにビンデージ・ソウルの音楽性を添えるDJが出て来た。それがシカゴ、イリノイ州に活動拠点を置くラッパー、ミック・ジェンキンスだ。ヒップホップのミックステープ文化に根ざした活動を行っており、カセットテープのリリースも率先して行っている。


これまで、アメリカの人種問題について歌ってきたミック・ジェンキンスは、今作「Elephant Int The Room」において、個人的な人間関係を題材とし、痛快なフロウを交えて歌ってみせている。若い時代の父親との疎遠な関係、そして、現在の友人関係であったりを、理知的に、ときには、哲学的な考察を交えながら、スポークンワードという形に落とし込んでいる。つまり、この作品は、表向きのラップの音楽性とは乖離した、内省的な世界が描き出されたレコードなのだ。

 

特に、ミック・ジェンキンスのルーツともいえるアナログレコード時代のビンテージソウルの影響を感じさせる作品である。


「Elephant In The Room」の個々のトラックメイクについては、ソウルミュージックの要素がサンプリングを介して展開されている。なんとなく、哀愁の漂うノスタルジアを感じさせる作品となっている。それは、なぜかといえば、ほかでもない、ミック・ジェンキンスの幼少期の音楽体験によるものだろうと思われる。幼い頃、両親が、家でかけていたビンテージソウルのレコード、それは彼の記憶の中に深く残り続け、今回、このような形でラップとして再現されたのである。


本作において、ミック・ジェンキンスは、形而下の世界に勇猛果敢に入り込み、それを前衛的な手法に導いてみせている。

 

それは言ってみれば、疎遠な父親との関係、幼少期の思い出を主題として、ビンテージソウルを介してどうにか歩み寄ろうと努めているように思える。


つまり、ミック・ジェンキンスが志すヒップホップは、このように、内的な感情に根ざした深い心象世界を描き出す。それがこのレコード作品にほのかな哀愁にも似た淡い雰囲気をもたらす。

 

 

 

 

 


ジェイムス・ブレイクはロンドン特別区出身のSSW、レコードプロデューサー。ロンドン大学ゴールドスミス在学中から、作曲活動をはじめ、「James Blake」で鮮烈なデビューを飾り、この新奇性溢れる作品によって英国のエレクトロニックシーンに衝撃を与えた。すでにグラミー賞、マーキュリー賞のウィナーに輝いており、英国のブリット・アワードにも三度ノミネートされている。

 

ブレイクは、これまでリリースされたてきた作品において、マウント・キンビー、ブライアン・イーノ、ボン・イヴェールをはじめとする著名な音楽家と共同制作の機会を持ってきたに留まらず、アメリカのカニエ・ウェスト、ケンドリック・ラマー、ドレイク、Jay-Z、といった著名なラッパーとのコラボレーション、もしくはそれらのアーティストの作品をフューチャー、そして、ビヨンセの作品のプロデューサーとして参加してきたジェイムス・ブレイクは、2021年の10月3日に新作スタジオ・アルバム「The Friend That Break Your Heart」をリリースした。 

 

James Blake, Coachella 2013 -- Indio, CA"James Blake, Coachella 2013 -- Indio, CA" by Thomas Hawk is licensed under CC BY-NC 2.0

本来は、一ヶ月前の9月中にリリース予定であった作品で、COVID-19による製品の工場生産が滞ったため、実際の発売は10月に持ち越され、リパブリック・レコード、ポリドールから発売されています。

 

先月からシングル作「Famous Last Words」が先行リリースされた時点で、10月にリリースされるスタジオ・アルバムの新作が、ジェイムス・ブレイクの最高傑作の1つになるであろうことは想像されていましたが、その予想を遥かに上回るハイクオリティーな作品がついに多くの音楽ファンの元にお目見えしたと言って良いかもしれません。


作品の制作ゲストに、SZA,JID,Swavay,MOnica Martinといった頼もしいアーティストらを迎え入れ、さらに今作の制作に名を連ねているプロデューサーは、Dominic Maker Jameela Jamil Take a Daytrip、Joji,Khushi,Josh Stadlen,Metro Boomin,Frank Dukes,Rick Nowelsと九人にも及んでいることから、制作段階においても、相当な労力、そして胆力が注がれているのが感じられます。

アメリカのとある音楽メディアでは思いのほか、レビュー点数が「6.6」と全然伸びませんでした。一方、英国の米ビルボードに次ぐ老舗音楽雑誌NMEは、五つ星満点をつけて大盤振る舞い。
 
 
NMEは、この作品に費やしたブレイクの音楽に対するパッションを満点評価により大いに労ってみせています。また、independentも、この作品に4/5比較的高評価を与えており、米国のメディアでは評価は高くないものの、英国の音楽メディアを中心にリリース時点から絶賛を受けているのは、これは、米国のクラブミュージックシーンと、英国のクラブミュージックシーンの価値観が以前よりも大きな隔たりが生じ、分離をはじめているような雰囲気が感じられなくもない。後は、英ローリングストーンや米ビルボードがどういった評価を下すのかに注目です。これは評論をしている側の価値観なのか、それとも、リスナーの趣向によるものかまではちょっとわからないです。元々、米国と英国では文化性の違いにおいて、音楽に求める趣向というか好みみたいなものが2019年以前より異なって来ているのどうか、その点が気がかりであります。




James Blake 「The Friend That Break Your Heart」2021 

 





Tracklist


1.Famous Last Word
2.Life Is Not The Same
3.Coming Back(feat.SZA)
4.Funeral
5.Frozen
6.I'm So Blessed You're Mine 
7.Foot Forward
8.Show Me 
9.She What You Will
10.Lost Angel Nights
11.Friends That Break Your Heart
12.If I'm Insecure
 
 


 
 
 
この「The Friend That Break Your Heart」は、ポピュラー音楽としての掴みやすさもありながら、一度、聴いただけでは、その音楽の内奥まで、なかなか容易に理解つくせないような印象もある。2020年代の英国社会の世相を克明に音として反映した哲学的作品であり、これまでのブレイクの音楽性である電子音楽、UKグライム、ヒップ・ホップ、ソウルのコアな部分を踏まえた上、パイプオルガンのようなシンセの音色、バッハの平均律のようなフーガ的構造を持つエレクトリック・ピアノのフレーズの挿入を見ると、ジェイムス・ブレイクの幼少期からのクラシック音楽、ピアノ音楽の影響が、青年期のロンドンのクラブでの音楽体験と見事な融合をはたし、今作でひとつのブレイクの音楽性のひとつの集大成を築き上げたというように言えます。

王道の12曲収録、少なくもなければ、多くもない、この曲数しかないという重厚感のある音楽の密度を形作っています。ランタイム再生時間以上の濃密な奇跡的な瞬間の連続、上質な風味のある音楽が様々なジャンルの切り口から描き出されています。共同制作者として名を連ねるのは、総勢十人のミュージシャン、これは、ミュージシャン誰が、これらの楽曲のディテイルにおいて役割を果たしているというより、複数の気鋭のミュージシャンたちがジェイムス・ブレイクを中心として、このアルバムに収録されている12曲(Bonus版は13曲)の多彩で、情感たっぷりの音楽をコロナパンデミック禍下において苦心して完成させた、という言い方が相応かもしれません。

アルバム全体としては、大人なバラードの質感に彩られており、そこに、ヒップホップやダブの風味がほんのり添えられる。全体的には、トリップホップにも似たほのかな暗鬱さが漂う。これをイギリスの社会的な背景と結びつけるかどうかは、聞き手の感性によりけりといえるでしょう。しかし、「Funeral」というトラックが書かれていることからも、漠然としているように思える死という概念について、様々な角度から捉え直した側面もあるようです。これまでの作品より、バリエーションの面で多彩性があり、表題曲「The Friend That Break Your Heart」「Famous Last Words」といったトラックに代表されるように、落ち着いたネオソウルの魅力がキラリと輝く。


これまでのブレイクの作品よりもさらに人間の表側から見えない心の裏側を忠実に映した形而上の世界へと踏み入れ、きわめて抽象的な世界が音楽によって描き出されています。それはまたサイケデリアとも対極にある内向的性質を持つ。ひたすら、内へ、内へと、エネルギーがひたひた向かっていくのは、例えば、シュルレアリスム派の絵画、キリコ、ルドン、マグリットをはじめとするシュルレアリストの描く内的世界を、束の間ながら垣間見るかのようなワイアードな感覚を聞き手にもたらす。具象化の延長線上にある電子音楽ではなく、徹底して抽象化の延長線上にある電子音楽。心象という捉えがたい形なきものを見事にブレイクは音により忠実に表現することに成功しています。
 
 
とにかく、今作は、侃々諤々の議論が飛び交いそうなセンセーショナルな作品と呼べそうです。



James Blake Offical 










 サウスロンドンのヒップホップシーン

 

サウスロンドンは、既に、前にも記事で取り上げたが、ダブステップの発祥の地であり、またこのクラブミュージックが盛んな地域として知られているようです。

 

現在、サウスロンドンは、ヒップホップシーンが盛んな印象を受けます。元々、ロンドンのクラブシーンといえば、イーストロンドンが多くのアーティストが在住し、活動を行っている印象がありましたが、近年、このサウスロンドンにコアでホットなアーティストが数多く見られています。それほどヒップホップシーンには詳しくないけれども、サンファ、ストームジーらの台頭を見ても、サウスロンドンには魅力的なトラックメイカーが数多く存在します。

 

そして、現在においてもこれらのヒップホップアーティストは、ジャズ、ディープソウル、R&B,そして、サウスロンドンの地域的な音楽といえるダブステップを雰囲気を見事にラップの中に浸透させ、新たな潮流を形作るような音楽性が育まれているように思える。これからのヒップホップシーンの課題としては、こういった以前、ロックシーンが行ったようなミクスチャーという概念により、どこまでその音楽性に奥行きをもたせられるか。

 

もちろん、これらのアーティストは、エド・シーランやカニエ・ウェストといったビックアーティストのステージングのサポート・アクトを務めたり、と少なからず関係を持っているが、その音楽性については似て非なるものがある。特に、これらのサウスロンドンのアーティストは、ヒップホップという音楽にジャズ、ディープソウル的な洗練性を加えて、比較的落ち着いた雰囲気のトラック制作を行っている。そこにはIDMといった電子音楽の要素も少なからず込められているような雰囲気もあって面白い。つまり、無節操というわけではないが、近年のサウスロンドンのヒップホップは様々な他のジャンルを取り入れるのがごくごく自然なことになっているように思えます。

 

これは、これらのヒップホップアーティストの音楽が付け焼き刃なものでなく、なんとなく、このサウスロンドンに当たり前のように満ちている音楽がこういったトラックメイカーの素地を形作っている様子が伺えます。また、サンファのように、ポスト・クラシカルのピアノ曲を取り入れていたりするのもかなり興味深い特徴。直近では、アメリカでは、カニエ・ウェストや、ドレイク(Jay-Zをゲストヴォーカルに迎えた)と、ビックアーティストの新譜も続々リリースされていて目が離せないラップというカテゴリ。そして、アメリカのヒップホップと並んで、イギリスのサウスロンドンは、特にクラブシーンが熱い地域で、ヒップホップフリークとしても要チェックでしょう。



Loyle Carner

 

 

そして、 サンファ、ストームジーに続くサウスロンドンの期待のトラックメイカーが、ロイル・カーナー。まだ二十代半ばにも関わらず、大人の雰囲気を持った、また精神的に進んだ人格を感じさせる秀逸なヒップホップアーティストです。特に、世界的に見て、最も有望株のヒップホップシンガーと言っても差し支えないはず。 

 

Loyle Carner 1"Loyle Carner 1" by Stéphane GUEGUEN - Capo @ HiU is licensed under CC BY-NC-ND 2.0

 ロイル・カーナーは、幼少期からADHDとディスクレシアといった症状を克服しようとたえず格闘してきた人物。そのため、中々、子供の時代から学校の勉強に適応しづらかったようではあるが、後には、アデルやワインハウスを輩出したブリットスクールで音楽を学んでいます。

 

2013年に、Rejjie SnowのEP作品「Rejovich」収録のトラック「1992」に共同制作者として名を連ねたところから始まる。この作品で一躍、ロイル・カーナーの名はラップシーンの間にまたたく間に浸透して行きます。

 

また、翌年、ロイル・カーナー、ソロ名義の作品として、シングル「A Little Late」を自身のウェブサイトで発表し、大きな話題を呼びました。また、同年には、ケイト・テンペストとの共同制作、7inch「Guts」をリリース。続いて、マーベリック・セイバー、トム・ミッシュとコラボレートした作品を発表して、徐々に、英国のヒップホップシーンにおいて知名度を高めていくようになります。


英国国内でのツアーを成功させた後は、コンスタントにシングル作をリリースしていき、2017年にはスタジオ・アルバム「Yesterdays Gone」を発表。この作品は、2017年度のマーキュリー賞にノミネートされています。次いで、2019年には「Not Waving,But Drowing」をリリースして大きな注目を集めました。これまでのキャリアにおいて、ブリット・アワーズにもノミネートされている英国のクラブシーンで最も旬なアーティストと言えそうだ。さて、今回は、サウスロンドンの期待の新星、ロイル・カーナーのこれまでのスタジオ・アルバム二作の魅力について触れておきましょう。

 

 

Yesterday's Gone 

 


 
 

TrackListing 

 

1.The Isle Of Arran

2.Mean It In the Morning

3.+44

4.Damselfly

5.Ain't Nothing Changed

6.Swear

7.Florence

8.The Seamstress

9.Stars&Shards

10.No Worries

11.Rebel 101

12.NO CD

13.Mrs C

14.Sun Of Jean

15. Yesterday's Gone


 

 

 

一躍、ロイル・カーナーの名を、英国のヒップホップシーンに知らしめた鮮烈的デビュー作。「Yesterday’s Gone」は、古典的なイギリスのヒップホップの旨味を引き継いだ作品といえる。

 

リードトラックの「The Isle Of Arran」は、普遍的な輝きを持ったヒップホップの名曲と言っても誇張にはならないはず。

 

ここで、展開される軽快なライムの爽快感、そして、そこにディープ・ソウルの音楽性が見事な融合を果たしている。この辺りは、ワインハウスを輩出したブリットスクール出身のアーティストらしい感性の鋭さ。しかも、自分のライムが首座にあるというより、彼自身は引き立て役に回り、英国発祥のディープ・ソウルをトラックメイクの主役に持ってきている辺りが秀逸。ディープ・ソウルに対するリスペクトが込められている。

 

興味深いのは、「Ain't Nothing Changed」では、ジャズとヒップホップを巧緻に融合させた見事なトラックメイキングが行われている。普遍的なヒップホップの軽快なライムに加え、サックスの芳醇な響きがサンプリングとして配置される。その合間に繰り広げられるカーナーの生み出す言葉のリズム感には独特の哀愁が漂っている。そして、トラックの最終盤では、ジャズに対し、主役の座を譲るあたりもトラック全体に奥行きをもたらす。平面的なヒップホップでなく、立体的な音の質感とアンビエンスを演出することに成功している。


特に、このデビュー作「Yesterday's Gone 」の中で全体な印象に最もクールな質感をもたしているのが、「The Seamstress(Tooting Masala」。ここで、ロイル・カーナーは、クラブシーンのコアな音楽性の領域に挑戦している、アシッドハウス、チルアウトに近い雰囲気を持ったトラック。ヒップホップバラードと呼べるような、独特な哀愁が漂っており、これまでありそうでなかった清新な雰囲気が滲んでいる。

 

カーナーのスポークン・ワードというのは、一貫して落ち着いており、気分が抑制されており、徹底してひたひたと同じ音程の間を漂っている。

 

どのトラックの場面においても、彼は、このスタイルをストイックに貫いている。それは独特な、波間を穏やかにたゆたうかのような情感をもたらす。ロイル・カーナーのライムの独特な雰囲気に滲んでいるのは、ヒップホップ音楽としての深い抒情性、ただならぬエモーションである。

 

また、その一種の冷徹さの中に、キラリと光る原石のような質感が込められていると思えてならない。特に、カーナー独特なライムとしてのリズムの刻み、Aha、といった間投詞が特に他のラッパーと異なるダウナーな印象を与え、語法にクールさをもたらしている。

 

このカーナー独自の要素、あるいは、スポークンワードとしての語法は、二作目のライムにもしっかりと引き継がれている。つまり、カーナーという人物、ひいては彼の音楽性の中核を形作っている。純粋に、フレーズの合間に出来た空白の中に、頷き一つをそつなく込めるだけで、トラックに、グルーブ感とタイトさをもたらし、アンニュイな抒情性を与えもし、さらに、それを徐々に渦巻くように拡張していく。しかし、それは徹底して内省的、つまり内向きなエナジーに満ちている事が理解出来る。カーナーは、このデビュー作においてこれまでありそうでなかったラップスタイルを生み出した。このロイル・カーナー特有の語法はほとんどお見事としか言うよりほかない。

 

 

 

「Not Waving,But Drowing」

 



 

TrackListing

 

1.Dear Jean

2.Angel

3.Ice Water

4.Ottolenghi

5.You Don't Know

6.Still

7.It's Coming Home

8.Desoleil(Brilliant Coners) 

9.Loose Ends

10.Not Waving,But Drowing

11.Krispy

12.Sail Away Freestyle

13.Looking Back

14.Carluccio

15.Dear Ben 



 

そして、ロイル・カーナーの完全なる進化、トラックメイカーとしてただならぬ才覚の迸りを感じさせるのが二作目のスタジオ・アルバム「Not Waving,But Drowing」。UKのアルバムチャートでは最高3位を、そして、R&Bチャートでは堂々1位を獲得している。

 

リードトラック「Dear Jean」は前作の流れを受け継いだ作品で、彼特有のスポークン・ワードのリズムがクールに紡がれている。どことなくジェイムス・ブレイクの音楽性に対する憧憬のも滲んでいるように思える。また、そして、前作よりも落ち着いた哀愁が漂う。


今作の中で最も聞きやすいと思われるトラックは「Ottolenghi」。ここではエレクトリック・ピアノをフーチャーしたR&B寄りのバラードが軽快に展開される。しかも前作よりもカーナーのスポークンワードはパワーアップし、よりラッパーとしてのハリと艶気が漂う。

 

特にこのアルバムで個人的に最も気に入っているトラックは、Samphaとの共同作品なっている「Dersoleli(Blilliant Corners) 」。

 

このトラックでは、サウスロンドンらしいダブステップの雰囲気とディープ・ソウルが見事な融合を果たしている。どことなく、憂鬱さを漂わせるピアノのアレンジメント、そして、この作品に参加している二人のラッパーの声質も絶妙にマッチしている。全体的に カーナーのスポークンワードは切れ味が鋭さを持つが、やはり、一作目のように徹底に抑制が取れたクールな雰囲気が漂う。そして、痛烈なエモーションな質感によって彩られている。この切なさは何だろうか? いかにもサウスロンドンという感じで、アンニュイな夜の空気感にトラックは彩られていて、異質なほどの艶気を漂わせている。リズムトラックも低音のバス、高音域のタムの抜けのバランスが心地よい。アウトロの爽やかに鼻で笑い飛ばす感じも、クールとしか言いようがない。 

 

また「Krispy」は、ミニマリストとしてのサンプリングが際立つ爽やかな楽曲、終盤にかけてはジャズとヒップホップの融合に挑戦している。トランペットのジャズ的なフレージングも豪奢な感じに満ちている。特にアウトロにかけての独特な雰囲気はほのかな陶酔感によって彩られる。

 

全体的な作風としては、前作よりも落ち着いたディープ・ソウル寄りの渋めのヒップホップ。そして、なんと言っても、このスタジオアルバムが素晴らしいと思うのは、新たなヒップホップの可能性というのが示されていることだろう。ここではロンドン発祥のディープ・ソウル、ダブステップ、ジャズを見事にかけ合わせ、それを絶妙にブレンドしてみせ、更にこのジャンルの未来型を見事に示してみせた痛快な作品である。

 

特に、ラストトラックは、次の作品への序章のようなニュアンスを感じさせ、何かしら未来への希望に満ち溢れている。

 

つまり、まだ、この素晴らしいヒップホップアーティスト、ロイル・カーナーの壮大な物語は始まりを告げたばかりであることを示しているように思える。イギリスの音楽メディアが彼を「ヒップホップ界のホープ」と呼びならわすのには大きな理由があり、彼のスポークンワード、トラックメイク自体がそのことを、なめらかに物語っている。 


Kitty Craft 



キティ・クラフトのバイオグラフィを紹介しておくと、1990年代に活躍、アメリカ、ミネアポリスを拠点に活動していたPamela ValferのソロDJプロジェクトで、知る人ぞ知るトリップ・ホップ、ブレイクビーツ、ダウンテンポ周辺のアーティストで、マニアックですが、素晴らしいアーティストです。

1994年にセルフタイトル「Kitty Craft」のカセットテープをオーストラリアのToytownという伝説的なレーベルからリリース。

当初、4トラックでのシンプルなトラックメイクを行っていましたが、1997年から8トラックに増やして、トラックメイクするようになった。今の16トラック以上のミックス作業が主流の時代において、少しだけしょぼく思えるかもしれませんが、実際、そのあたりのチープ感を補う才覚、鋭さというのがトリップ・ホップ周辺の音の醍醐味でしょう。

1999年と2000年には二度、来日を果たしているアーティストですが、リリースとしては、2000年の「Catskills」以来、活動を休止しています。今回は、「Catskiils」については言及しませんが、オシャレ感のある作品としておすすめ。

Pamela Valferは、これまでの未発表楽曲を再編集した「Lost Tapes」を2020年にリリース。そして、追記すべきなのは、何と、この作品には日本人アーティスト、劇伴音楽のフィールドで活躍する青木慶則氏がこの作品のリミックス作業に参加。つまり、日本にも少なからず関係性の見いだされるアーティストです。

 


Kitty Craftは、トリップ・ホップ、ダウンテンポの系統にカテゴライズされるものの、この括りから想像される音楽からはかけ離れているのが実情です。キティ・クラフトの音楽性をかいつまんでいうと、いかにもアメリカの90年代のインディー・ポップらしい素朴で温和な雰囲気が漂っています。これは、Valferがトラックメイクとして作製したいのは、実は、ヒップホップと言うより、インディー・ロックやローファイ寄りなのかなあと思います。

本来は、三、四人のバンド編成としてやるべき音楽を、ひとりで、宅録によって、DIY的に、ハンドクラフトでやってしまおうというような感じ。もちろん、Valferは、DJとして名乗っているものの、彼女の音楽を聴いて分かるのは、少なからず、スコットランド周辺のギター・ポップ、ネオ・アコースティックといったジャンルに造詣が深いように思われます。The Pastelsの音楽性に近い雰囲気を持ったアーティストです。

トラック自体の作り方は、ワンフレーズをループさせて繋いでいく、というラップの基本的なスタイルをとり、そこに、スポークンワードというより、普通の親しみやすいポップソングが心地よーく乗ってくる。

また、逆再生等の特殊な技法も駆使されているあたりは、テクニカルなトラックメイカーとしての表情も伺わせ、楽曲自体のアプローチは、インディー・ロック的な雰囲気がふんわり醸し出されている。

トラック自体の作り方はヒップホップ寄りであるのに、それがValterの歌声により聞きやすいポップソングとして昇華されている。その辺が普通のヒップホップと異なり、クロスオーバーもののヒップホップとして楽しんでいただけるでしょう。 

とりわけ、キティ・クラフトの音楽は、サンプリングの選び方が絶妙で、音楽通らしいのは、このサンプリングを聴くだけで容易につかめるはず。元ネタがちょっとはっきりしないものの、ビートルズっぽいオールディーズ風の音源から、モータウンレコードの激渋の音源まで、R&Bやファンク、クラシック風のフレーズに至るまで、実に多彩なサンプリングを施しているのが面白い。

そこに、アナログシンセサイザーの懐かしい感じのフレーズが楽曲の印象を華やかにしている。次いでに言うなら、キティ・クラフトの音楽は、ヒップホップであるとともに、ファンクR&B、ジャズ、ポップスでもある。それが、なーんとなく、ノスタルジーで、切なーい雰囲気に彩られてます。

サンプリング/リミックス作業も巧みで、レコード再生時のヒスノイズを発生させたり、アナログレコード再生時のじゃりじゃりした質感を出すのに成功。これはデジタルではなくアナログの制作法だからこそ出てくる、渋み、旨みであるといえるでしょう。

さらに、シンセの独特のベースラインが付け加えられ、そこにValferのドリーミーな雰囲気のあるボーカルがゆるく乗るというもの。

デジタル録音では出しえないアナログ盤ならではの音の質感を再現。そして、キティ・クラフトことPamela Vakferの秀逸なメロディセンスから伺えるのは、なんとなく、この人物の温和さ、可愛らしさを体現している気がします。

 

 

「Beats and Breaks from the Flower Patch」 1998

 
 
 

TrackingListing

 
1.Par 5
2.Inward Jam
3.When Fortune Smiles
4.Alright
5.Half Court Press
6.Mama's Lamp(American remix)
7.Locked Groove
8.Down For
9.Shine on
10.All To You
11.Caught High
12.Leave You Breath(Bonus Track)
13.Faultered(Bonus Track)
 


Listen on Apple Music

 

 
これは、アルバムジャケットからして鉄板です。あんまり可愛すぎるものですから、アナログ盤として部屋に飾っておきたい欲求に駆られる作品、それが「Beats and Breaks from the Flower Patch」。

只、ちょっと残念なのは、サブスクでは聞けますが、アナログレコードとしては入手困難になってます。                                  
 
先にも述べたとおり、キティ・クラフトの音楽は、特にインディー・ポップらしいメロディの良さが魅力の一つです。
 
この作品は、特に、ローファイ感がトラックメイクとして味わえる作品です。それから、初めて聴いたときに思ったのは、ノスタルジーな感じに満ちあふれているのが特徴で、Pamela Valferのキュートな歌声、またコーラスによって穏やかで、ふんわりしたような雰囲気に包まれている。

仮にデジタルが冷たさのある音とするなら、この作品で聴かれるのは対照的に、アナログ作業ならではのじんわりと温かみのある音で、デジタル音源のような綺麗さ洗練さはないものの、アナログの音の粗さ、いわゆるプリミティヴな音の質感を味わうにはもってこいと思います。
 
この作品から、キティ・クラフトは、初期からのレコーディング機材を入れ替え、4トラックレコーディングから8トラックレコーディングにアップグレード。今、考えてみると、8トラックというのは、既にビートルズ時代からあったわけで、90年代としてはかなりチープな感じのするトラック数。

しかし、このアルバムに収録されている#1「Par 5」#4「Alright」#5「Half Court Press」そして、#8「Down For」は、Valferの独特でドリーミーなポップセンスが遺憾なく発揮されている。

サンプリングを多用したワンフレーズのループトラックは、妙な癖になりそうな親しみやすさがあるはず。シンプルな構成でありながら、結構、トラックメイキングとしては技巧的であり、最低限のトラック数でもこんなに良い音楽が作れるという好例となりえるはず。
  
近年、IDM界隈でも、ボノボことサイモン・グリーンが語っているように、年々、使用可能な音源というものが膨大になっていくにつれ、音源の方に使われるアーティストが増えているんだそうです。

つまり、使いこなすべき音源に使われてしまう、選ばれてしまう、という電子音楽家としての矛盾があるようです。また、こういったサイモン・グリーンの発言には、スクエアプッシャーのトーマス・ジェンキンソンも同じような趣旨のことを語っています。

必ずしも、使用出来る音源が多い制作環境にあることや、高額の録音機材を他のアーティストよりも数多く所有することは、良質なトラックを作るための好条件とはならないらしい。つまり、シンプルで安価な機材でも、どころか、8trackのマルチトラックレコーダーのような安価な機材であっても、自身の頭を駆使し、アイディアをひねり出せば、良い音楽を生み出すことが出来る。
 
その点で、このキティ・クラフトは、昨今の電子音楽家だったり、あるいは、DJの悩みともいえるサンプリング音源、シンセ音源の多さに時間を取られる陥穽にはまり込むもなく、最低限のトラック、サンプラー、シンセというレコーディング機器を通し、ハンドメイドの音をじっくり真心を込めて作成している。その辺りが、キティ・クラフトの音の温かさ穏やかさを生み出している。
 
そして、このスタジオ・アルバムに感じられるValferという人物の素朴さ、朴訥さ、そして、簡素さ。それは、現在の世の中の概念で褒め称えられる美質からはかけ離れているように思えるものの、どの時代にも通用する普遍的な素晴らしい性質でもある。そういったことは、このアルバムを聴くだけでも、自然と伝わってくるでしょう。
 
オートチューン、ボコーダーを効かせた、派手な音楽が近年増えていく中、ふと、こういった穏やかでシンプルな、粗のある音楽が懐かしくなる時がある。必ずしも、完璧性、超越感だけを誇示するだけが音楽の旨みではなく、少し、不完全な部分があったほうがハンドメイドらしくて良いというのが愛好家としての意見。こういった温和な雰囲気のある馴染みやすい音楽というのはマニア好みとはいえ、とても希少でありますから、これからも大事にしていきたいものです。
 
 
現在、音楽活動をしている気配がないキティ・クラフトではあるものの、この一抹の寂しさというのは、「Beats and Breaks from the Flower Patch」の音の温かみが埋め合わせてくれるだろうと思います。次作のアルバム「Catkills」ではより洗練されたオシャレな音楽を味わえますが、ハンドメイド感、音のハンドクラフトとしての出来栄えとしては、こちらの方が上でしょう。
  
今作は、トリップホップ、ブレイクビーツ好きは勿論のこと、ギターポップ、ネオアコ、もしくは、昨今のドリームポップ好きにも是非チェックしてもらいたい、90年代の米インディーの隠れた名盤です。




Happy Listening!!





参考サイト


all music.com





青木慶則HP







Sleaford Mods 

 

スリーフォード・モッズは、イギリス、ノッティンガムで2007年に結成されたポスト・パンク・ドゥオ。英国の名門インディーレーベル、ラフ・トレード所属のアーティストの中で、現在、ブラック・ミディと共に最も勢いのあるユニットといえそうです。

 

現在は、ジェイソン・ウィリアムソン、アンドリュー・ファーンの二人で活動している。これからワールドワイドな人気を獲得しそうなアーティストとしておすすめしておきます。

 

すでに、プロディジーの作品への共同製作者として参加しているため、その辺りのシーンに詳しい人は、ご存知かもしれません。

 

活動初期は、ビースティー・ボーイズのようなポスト・パンクとダンス・ミュージックを絶妙に融合させた苛烈な音楽性を展開していたが、近年、ヒップホップ色を徐々に強め、メッセージ性においても苛烈になって来ている。スリーフォード・モッズのスポークンワードは力強く、真実味がある。それはなぜかというと、彼等の音楽と言葉には現実に対する視点が真摯に込められているからでしょう。

 

現在、ヒップホップ好き、パンク好きの双方のファンを獲得している気配があります。彼等は、ファッションでなく、本格派のアーティストといえるでしょう。つまり、いかにもイギリスらしいユーモアみのある音楽家といえ、往年のOiパンク後の労働者階級、「Working Class Hero」不在の時代の空白を埋めるヒーロー的存在がついに出てきたといっても大袈裟ではないかもしれない。

 

これまで、スリーフォード・モッズは、自分たちが労働者階級の最前線に立っていると明言しています。実際、彼等のリリック、音楽には、社会の網目からこぼれおちたような人達を支えるに足る強さがある。彼等の紡ぎ出すライム、つまり、スポークンワードは、英語という言語の面白さを駆使している。もちろん、韻を踏んだりといった言葉遊びのニュアンスもあるけれども、強烈な皮肉、ユーモアが宿っています。

 

まるで、その言葉には、ほかの奴らはやすやすと飼いならせるだろうけれど、俺達だけは無理だ、と社会に対して表明するような姿勢が見受けられます。無論、スリーフォード・モッズのウィリアムソンとファーンが生み出す音楽の内奥に込められている強固な反骨精神というのは、単なるポーズでも人気取りからくるものではなく、まさしく、彼等自身の実際の労働者階級の苦しい生活から生み出された冷厳な感情を直視しているからこそ滲み出る激渋のライムと言える。

 

彼等スリーフォード・モッズのスポークンワードには、他の英国社会の弱い人達、何らかの組織に属するがゆえ、容易に口に出せないような社会に対する痛烈な皮肉が込められている、その痛快さに聞き手は共感し、快哉を叫びたくなるはず。

 

つまり、長らく、イギリスの多くの音楽ファンは、彼等のようなスパイシーな存在の台頭を今か今かと待ち望んでいたのかもしれない。そして、それが現在の英国のミュージック・シーンで、スリーフォード・モッズが大きな支持を集めている理由であり、また、このあたりに、今、英国の隠れたワーキングクラス・ヒーローとして崇められている由縁が求められるかもしれません。

 

スリーフォード・モッズの最新アルバム「Spare Ribs」は、Punk Rapといわれるジャンルに属するものと思われますが、本人たちは、あくまで、エレクトロ・パンク、ポスト・パンクと、自身の音楽の立ち位置を表明しています。 

 

 

 

「Spare Ribs」2021  Rough Trade

 

 

 

 

 

 

 TrackListing

 

1.The New Brick

2.Shotcummings

3.Nudge It

4. Elocution

5.Out There

6.Glimpses

7.Top Room

8.Mork n Mindy

9.Spare Ribs

10.All Day Ticket

11.Thick Ear

12. I Don't Rate You

13.Fishcakees

 

 

 

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今作「Spare Ribs」に見える英語の発音のニュアンスの面白さはもちろんのこと、音楽フリークとしての往年のイギリスのポスト・パンク時代の音楽に対する多大な敬意が感じられる。ポスト・パンクの名作Wireの「Pink Flag」の音楽性に、現代ヒップホップの風味がセンスよく付加されたと言うべきでしょう。

 

アルバム全体を通し、スリーフォード・モッズ二人の往年のポスト・パンクに対するひとかたならぬ情熱が滲んでいるように思えます。もちろん、彼等の音楽性の背景は幅広いのは、このアルバムを聞いてもらえれば理解してもらえるでしょう。まさに、これは、ラップ、ポスト・パンク、それから、デトロイト・テクノ、アシッド・ハウス、トリップホップ。これらを咀嚼した後に生み出された非常に新鮮な音楽です。

 

彼等は、スポークンワードだけでなく、トラックメイカーとしても優れていることを今作において証明してみせている。それは三曲目の「Nudge It」を聴いていただければ十分に理解してもらえると思います。この楽曲は、20年代の新たなポスト・パンクの台頭をはっきりと予感させる名曲。

 

もちろん、ライムの要素を差し引いてバックトラックだけに耳を傾けても、単純に彼等の楽曲の音の格好良さは十二分に体感できるはず。彼等の楽曲は常に、観客やリスナーの方を向いていて、内面に籠もることがない。痛快で小気味良いビート、ディストーションを効かせた尖りまくったベースライン、フックの効いたフレーズが実に見事にマッチしている。さらに、ウィリアムソンの皮肉とユーモラスを交えた歌詞が込められ、テンポよく楽曲が展開されていく。 この曲での、ウィリアムソンとファーンのスポークンワードの絶妙な掛け合いというのは最早圧巻というしかありません。

 

また、「Out there」では、往年のアシッド・ハウスに対する傾倒も感じられる。何とも渋さのあるトリップホップを彷彿とさせるような雰囲気のある楽曲。ここでも、妙に癖になる言語の旨みが凝縮されている。仮に、この言語に対する理解が乏しいとしても、ウィリアムソンとファーンの英語の間の取れたリリックの節回しのクールさは、この二人にしか生み出し得ないといいたい。

 

表題曲「Spare Ribs」では、彼等が自分たちの音楽を”ポスト・パンク”と自負しているように、往年のWireの音楽性に対する憧憬が垣間見えるようです。バックトラックは、完全にポスト・パンクなのに、実際の音楽の雰囲気はヒップホップ。このトラックのなぜか妙に癖になりそうなビートは、やはり、ポスト・パンク世代の音楽を通過してきたからこそ生せる通好みのリズムなのでしょう。

 

ラストに収録されている「Fishcakes」も聴き逃がせない。他の曲と全く異なる雰囲気の感じられる秀逸なトラック。他のからりとした楽曲に比べるも、往年のグランジを思い起こさせる暗鬱な雰囲気が漂っています。

 

けれども、なんとなく近寄りやすい、また、親しみやすいような印象を受けるのは、この楽曲がスリーフォード・モッズの実際の暮らしから汲み出された感慨を生々しく刻印しているからこそでしょう。

 

つまり、彼等は、英国の労働者階級の暮らしの心情を代弁している。音楽的にも、ヒップホップ・バラードといった感があり、独特な雰囲気を感じさせる楽曲です。

 

今作「Spare Ribs」は、全体的に非常に聞きやすく、クールな楽曲で占められています。ヒップホップファンだけでなく、往年のポスト・パンクファンにも是非推薦したい痛快な一枚です!!



参考サイト

 

Sleaford Mods Wikipedia

https://en.m.wikipedia.org/wiki/Sleaford_Mods