Weekly Music Feature: Charlotte Cornfield 『Hurts Like Hell』


シャーロット・コーンフィールドは、トロント出身のシンガーソングライター兼マルチ・インストゥルメンタリストである。コンコルディア大学でジャズ演奏の学位を取得し、ドラムを専攻した。3枚目のフルアルバム『The Shape of Your Name』は批評家から高い評価を受け、2019年のカナダの音楽賞、ポラリス賞のロングリストに選出された。


シャーロットは、ブロークン・ソーシャル・シーン、ティム・ベイカー、アナイス・ミッチェル、サム・エイミドンとのツアーに参加したほか、ティム・ダーシー、レイフ・ヴォレベック、オールド・マン・ルデッケ、ジョエル・プラスケットらとサイド・ミュージシャンとして共演している。 彼女の楽曲は、オーストラリアのテレビ番組『オフスプリング』や、エイミー・ジョー・ジョンソンの短編映画で使用されている。彼女はトロントの音楽シーンに深く関わっており、トロント音楽産業諮問委員会のメンバーを務めている。 


シャーロット・コーンフィールドの2026年、新たに契約を交わしたマージ・レコードからのデビュー作『Hurts Like Hell』は、彼女にとって6枚目のアルバムとなる。これは、2023年に娘が生まれて以来初めてレコーディングされた作品であり、一個人としてもアーティストとしても彼女にとっての大きな転機となった。このアルバムに繰り返し登場する、''個人の成長と再生、そして、困難や恥、気まずさの中でも愛が耐え抜く''というテーマは、まさに人間的な成長に根ざしている。


「それらの経験が私を自分自身の殻から引き出し、さらに物事に対する新たな視点を与えてくれました」と彼女は語ります。「そのすべてに宿る無防備さ、脆さ、そして奔放さが、私を自己中心的な視点から解放し、より広い視野を持たせてくれたのです」


その視点の変化は、自身の内面を超えた登場人物やテーマに声を与えるようになった。歌詞へのアプローチだけでなく、レコーディングへの取り組み方にも表れている。『Hurts Like Hell』は、彼女のキャリアの中で最も襟を開き、声を張り上げたアルバムであり、これまでで最も多彩なアーティストとのコラボレーションが結実した。


2025年1月、フィリップ・ワインローブ(エイドリアン・レンカー、ロニー・ホリー、ビリー・マーテン)の シュガー・マウンテン・スタジオに移った。それから、コーンフィールドはペールハウンドのエル・ケンプナー(ギター/ボーカル)、レイク・ストリート・ダイブのブリジット・カーニー(ベース/ボーカル)、アダム・ブリスビン(ギター/ペダル・スティール)、ショーン・マリンズ(ドラムス)を含むフル・バックバンドと共に制作に臨んだ。さらに、ヌリア・グラハム(ピアノ)とダニエル・ペンサー (サックス)が重要な役割を果たした。


その後、コーンフィールドとワインローブは、フェイスト、バック・ミーク、クリスチャン・リー・ハットソン、マイア・フリードマンを招き、アルバムでの歌唱を担当させた。「参加したミュージシャンたちは皆、夢のようなコラボレーターでした」とコーンフィールドは率直に語る。


ワインローブは『Hurts Like Hell』のプロデュース、レコーディング、ミキシングを担当しただけでなく、コーンフィールドが楽曲を練り上げる過程で良き相談相手となった。これは、通常プロデューサーとの仕事関係がレコーディング初日から始まるシンガーソングライターにとって、大きな転換点となった。コーンフィールドとバンドは同じスタジオで一緒にレコーディングを行い、生歌を収録し、オーバーダブは最小限に抑え、ヘッドフォンも使わず、有機的に、直感に従って制作を進めた。


コーンフィールドは、『Hurts Like Hell』に、過去の傷跡と未来への希望の両方を抱えて臨んだ。出産を経て、一歩引いて自分の音楽がどうあるべきかを見つめ直し、彼女は勇気を出して、自分にとって馴染みのある場所や人々、そして思いがけない人々から、空間と時間、そして助けを求めた。グループチャット、ファンではあるものの、面識のなかったソングライターたち、そして、かつて忘れ去られていた曲が新しい曲のコーラスを貸してくれた友人たち。 一つひとつの「イエス」、一つひとつのボイスメモ、一つひとつの共有ファイル、それから彼女のキャリアにおけるこの瞬間へと続く、一つひとつの開かれた未知の扉……。その瞬間を何と呼ぼうとも――拡大、再生、突破口――『Hurts Like Hell』は、それにふさわしいだけの懐深さを持っている。


Charlotte Cornfield 『Hurts Like Hell』-Merge/Next Door


シャーロット・コーンフィールドは初登場。キャロル・キングを彷彿とさせる良質なシンガーソングライター。『Hurts Like Hell』は、バック・ミーク、マイア・フリードマン、また、エル・ケンプナーといった豪華ゲスト陣が参加した、アメリカーナを基調とする力作となっている。エイドリアン・レンカーの系譜に属する叙情的なインディーフォーク/カントリー集が登場した。

 

今作には、 アメリカーナの幻想的な雰囲気が散りばめられ、キャロル・キング、ジョニ・ミッチェルを彷彿とさせる往年のフォークバラードと結びついている。その歌声には本作のテーマである苦悩を象徴するようなハスキーで渋いボーカルのトーンが宿っている。しかし、全般的には、子供の成長とともに自分自身の人間性が少しずつ成長していくというような、ローラ・マーリングの最新作に近い主題が含まれている。アルバムの音楽全体にあるのは、ソングライターの人生や周りの人々に対する温かな眼差し。それが存在するがゆえ、歌声にも、全体的なサウンドにも穏やかさが滲む。

 

『Hurts Like Hell』には豪華なミュージシャンが多数参加している。しかし、各々のミュージシャンが個性的であるとしても、全体的にはスタジオ・ミュージシャンとして参加し、コーンフィールドと一緒に協働している。ミュージシャンとしてのキャラクターを排し、バックバンドの専門的な仕事に徹している。録音自体も生の録音にこだわっているためか、脚色的なサウンドプロダクションは、(例外的な場合を除いては)ほとんど登場しない。現代的なマスタリングから見ると、少し地味であるにも思えるかもしれません。しかし、そのため、奥深く良質な音楽性が導き出される。過剰なサウンドプロダクションは、時折ボーカルの印象を薄めてしまい、全体的なトラックに埋もれさせてしまう。対して、今作は、ボーカルの持つ純粋な輝きが宿っている。

 

「Before」は、アルバムの端的なイントロダクションである。ムードのあるウージーなギターで始まり、ゆったりとしたドラム、和音の輪郭を強調するピアノが楽曲の背景に敷き詰められる。全体的には、フォーク/カントリーを基調とした雰囲気たっぷりのバラードソングとなっているが、ボーカルからは渋さが立ち上ってくる。エイドリアン・レンカーのような現代的なフォークシンガーの歌唱を意識しつつも、ブルースやR&B、ウェストコーストロックのような古典的なアーティストやバンドからの影響も伺える。ウィスパーボイスに近いボーカルから、時折ふとミッチェルやキング、初期のイーグルスを彷彿とさせる力強く、深みのある叙情性が立ちのぼってくる。

 

フレーズの繰り返しを活かし、背景の幻想的のギター、ウッドベースのような低音を強調させる。一曲目にもかかわらず、含みのある歌詞が後半部に散りばめられている。対象的に、タイトル曲は古典的なカントリーに根ざした内容で、 ディランやヤングに近いクラシックなボーカルスタイルを選んでいる。ヴァースとコーラスの対比から成立している一曲だが、メロディーフェイクの歌唱法などを織り交ぜ、チェストボイスからミックスボイスを上手く対比させ、サビの箇所で突き抜けるような爽やかな印象を押し出し、歌詞と連動させる。また、バックコーラスも調和的なハーモニーを作り出している。曲のフレーズごとに歌唱法を変化させるボーカリストとしての卓越した技術が、全体の良質な音楽性を生み出すための要因ともなっている。アメリカーナらしいペダルスティールも登場するが、この曲の隠れた主役はドラムでしょう。

 

 「Hurts Like Hell」

 

 

 

ロックンロールスタイルを選んだ例外的な曲を除いて、アップテンポな曲はほとんど見当たらない。対象的に、ゆったりとしたテンポ感を意識して、歌や演奏が録音されているが、そのためか、バンドサウンドとして強固なグルーブ感が立ち上ってくる。「Lost Leader」は、全体的にはアドリアン・レンカーを彷彿とさせるサウンドですが、テンポがゆっくりで、並の歌手では歌いこなすことが難しい。力技で押し通すことが出来ないため、歌の実力が顕わとなる。


しかしながら、それでもなお、コーンフィールドのボーカルは、楽曲の主役の位置の恥じぬ卓越した実力を感じさせる。旋律的にも、歌詞的にも、一つ一つのフレーズを丁寧に心から歌い上げているような気がする。彼女は自分の音楽を粗末に扱ったりしない。それがゆえに、ヒューマニティのような感覚が音楽からぼんやり立ち上ってくる。


この曲では、カントリー・ブルースともいうべき古典的な形式を選んでいるが、ボーカルにジャズの歌唱法を取り入れながら、含蓄のある音楽性を作り上げている。前曲ですでに多くの歌唱法を披露しているが、まだまだ手の内を明かしたというわけではあるまい。この曲では、特に、LRの2つの卓越したツインギターのプレイに注目したい。

 

例外的に、「Lucky」ではサザンロックのようなサウンドが登場する。ZZ TOPほどにはごつくないけれど、トム・ペティのような程よいテンションのブルースロックを聞くことが出来る。この曲でもギターが主役で、バッド・カンパニー、ジョニー・ウィンター、オールマン・ブラザーズを彷彿とさせる渋いリフが出てくる。しかし、対象的にボーカルは、キャロル・キングのような雰囲気がある。サザンロックやブルースロックをメロディアスにした軽快かつ聞きやすい一曲。この曲では、フィリップ・ワインローブ氏のマスタリングの手腕が光る。


サビやコーラスの箇所で、ボーカルがかなりクリアに響いてくることがある。一般的には、デジタルなコンソールに頼りがちな場面で、あえて生歌の質感を強調することで、歌の持つ叙情性を巧みに引き出している。おそらく現代的なマスタリングとは対象的な手法が選ばれているのではないかと推察出来る。しかしながら、一方、ギターソロでは、妙にカクカクしたサイケロック風のフレーズが登場する。対照的なサウンドが自然に混在しているのがユニークである。

 

カナダの実力派シンガーソングライター、Feistが参加した「Living With it」は、キャロル・キング、ジョニ・ミッチェルの系譜にあるフォークバラードで、前曲とは対象的にチェストボイスの低い音域を生かした渋みのある歌唱法を選んでいる。ヴァースからコーラスというすごくシンプルな構成ですが、サビの部分でファイストがデュエットで加わると、驚くほど音楽のイメージが華やかになる。ささやかな音楽性ではありながら、壮大な感覚を読み解く事もできる。


また、この曲では、ドラムテイクに強いフィルターを施し、ブレイクビーツのようなアクの強いリズム/ビートを作り出している。音楽の下地は70年代のフォークサウンドではないかと思われるが、現代的なリズム効果が付加される。新旧のサウンドの混在に着目したい。また、2分以降のささやくような二つのボーカルの混在は、琴線に触れる麗しきサウンドを生み出すことがある。

 

 「Living With it」

 

 

 

「Number」は強固なアメリカーナソングです。バック・ミークが参加しているのではないかと推測する。イントロでドラムがざっくりと入り、甘美的なペダルスティールがこの曲の印象を決定づける。アドリアン・レンカーのソロ作を彷彿とさせるが、こちらの曲の方はよりブルージー。コーンフィールドのボーカルは、R&Bアーティストの歌唱を彷彿とさせ、サビの最後の部分「Maybe you don't have my number anymore」が心地良いテイストを醸し出す。

 

驚くべきは、音楽的には一定の形式が選ばれているのに、多彩な世界が存在するということ。多くのミュージシャンがその入口で満足してしまうのに対して、コーンフィールドはサウンドの向こう側まで入り込む。歌詞の世界の奥深さもあるかもしれないが、これらは内的な感情や記憶を表現するため、深遠な音楽表現が必要であると製作陣が考えているからなのかもしれません。


「Squiddd」では、二曲目「Lost Leader」と同様に、かなりゆったりしたテンポで演奏し、カントリーやフォークを入り口に、ブルースやR&Bを通過しながら、魅惑的なバラードの世界を探求している。それほど物悲しい音楽ではないけれど、その反面、ふと、さりげない悲しみを感じさせる。最終的に、それはゴスペルのような深みのある音楽性へと到達する。アルバムの主題を前にして、悲嘆にくれるのではなく、その中で勇敢さを保っている。そのボーカリストとしての気高い感じは、現今の他のシンガーには感じられないものでしょう。

 

このアルバムは単なるボーカルソング集とは言いがたい。器楽的な効果、歌、録音の雰囲気など、人間が介在するものにしかなしえないアトモスフィアがいたるところに存在する。フォークミュージックとしてもっとも深遠な領域に達する「Kitchen」。日常的な台所からも深遠な領域に達することが出来るという証明といえる。ピアノの強い立ち上がりから、アコースティックギターの繊細なアルペジオの演奏が入るが、このギタープレイは必聴となる。コーンフィールドのボーカルは、痛切な感じを帯び、胸がギュッと痛くなるような繊細な響きを作り出す。夫婦生活や子育ての苦悩と集約するのは、あまりに短絡的かもしれないが、それにも似たシンパシーを感じさせる。


一方、コーンフィールドのボーカルはまるで、その先のあるものが何かを知るかのように、一定の決意を保っている。この曲では、個人の生活からくる感慨を純粋に歌うというソングライターとして不可欠な要素が備わっている。それがゆえ、何か感じるところがある。旋律的には、それほど悲しみを感じさせないが、詞や歌から、それがありありと伝わってくる。歌は何らかのメッセージであり、高次の伝達機能であるという基本が、この曲に集約されていると思う。

 

「Long Game」はアルバムのベストトラックに挙げられる。音楽的には、アルバムの序盤でわずかに感じさせたビートルズ風の一曲。個人的な解釈に過ぎないものの、ジョン・レノン風とも言えるかもしれません。この曲は、ボーカルという慣れ親しんだ形式がいかに多彩かを掴むのに最適となる。


ボーカルとは単なるメロディー装置でもなければ、単に言葉を伝えるための装置とも言えない。それ以上の人間的な感情や音楽的な背景、人生観、そして思いや考えを伝えるための追加機能が備わっていると言える。いわば、私たち現代人が見失ったシックスセンスを見事なほどに蘇らせてくれる。 


この曲には、フォークミュージックに不可欠な落胆、失望、悲しみがあるが、それとは対象的な感情、明るさ、希望、慈しみも存在する。一貫して冷静であったコーンフィールドが感傷的になる時がある。多くの素晴らしきミュージシャンが参加してくれたことに対する感謝が滲む瞬間である。ここにアルバムの主要なテーマである慈しみの瞬間が見事な音楽表現により体現される。

 

一貫してカントリー/フォークソングを中心に構成される本作のエンディング曲でも、スタイルに大まかな変化はありません。しかし、同じ形式を選ぼうとも、アウトプットされる音楽の色合いはそれぞれ異なる。ムードたっぷりのエレクトリックギター、繊細な感覚を帯びるアコースティックギターが幾層にも重なり合い、淡々としているが、叙情性のあるボーカルがいわくいいがたい雰囲気を生み出す。すると、レコーディングスタジオの生々しい空気感とも呼ぶべきものがひしひしと伝わってくる。


弦楽器のフレットを滑る音から、ボーカルのフレーズの間の息継ぎまで、まるでスタジオの中のすべてを録音したかのような研ぎ澄まされたサウンドプロダクションから、クライマックスの曲に相応しいコーンフィールドの厳粛な雰囲気の幽玄なボーカルが紡がれる。ジャジーなピアノを配した遊び心溢れるバラードソングとなっていて、静かに、ゆっくりと、音楽の世界が遠ざかる。最後までアルバムを聴くと、なぜか、ほのかな名残惜しさを感じさせる。良いアルバムですので是非聴いてみてください。

 

 

86/100 

 

 

「Long Game」 -Best Track

 

 

 

▪Charlotte Cornfield  『Hurts Like Hell』は本日、Merge/Next Doorから発売。ストリーミングはこちらから。

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