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Label: Warp 

Release: 2022 9/30

 


Official-0rder


 

 

Review


 近年、クラークは、イギリスからドイツに移住し、昨年には、クラシックの名門レーベル、ドイツ・グラモフォンと契約を交わし、モダン・クラシカルの領域を劇的に切り開いた、最新アルバム「Playground In A Ground」をリリースしています。また、その他にも、ポピュラー・ミュージックとも関わりを持ち始めており、ニューヨークの人気シンガーソングライター、Mitskiとのコラボレーション・シングル「Love Me More」のリミックスを手掛けたり、と最近は、電子音楽にとどまらず、多岐に亘るジャンルへのクロスオーバーに挑戦しています。Clarkは、いよいよ、Aphex TwinとSquarepusherとの双璧をなすテクノの重鎮/ワープ・レコーズの看板アーティストという旧来のイメージを脱却し、新たなアーティストに進化しつつあるように思える。

 

クラークのデビューから十数年にも及ぶバック・カタログの中で最も傑出しているのが、2008年のハード・テクノの名盤『Turning Dragon』、そして、デビュー作としてダンスフロアシーンに鮮烈な印象をもたらした「Body Riddle」である。おそらく、このことに異論を唱えるファンはそれほど少なくないだろうと推察されるが、特に、前者の「Turning Dragon」は、ゴアトランスの領域を開拓した名作であり、クラーク、ひいてはテクノ音楽の真髄を知るためには欠かすことのできないマスターピースといえますが、そして、もう一つ、後者の「Body Riddle」もクラークのバックカタログの中で聴き逃がせないテクノの隠れた傑作の1つに挙げられる。

 

そして、今年、遂に、「Body Riddle」 が未発表曲と合わせて、ワープ・レコーズからリマスター盤として9月30日に再発された。これは、クラークのファン、及び、テクノのファンは感涙ものの再発となる。この再発に合わせて、同レーベルから発売されたのが「05−10」となる。こちらの方は、クラーク自身が監修をし、未発表曲やレア・トラックを集めたアルバムとなっています。

 

最近では、ハードテクノ、ゴアトランスのアプローチから一定の距離を置き、どちらかと言えば、それとは正反対にある上品なクラシック、そしてテクノの融合を試みているクラークではあるが、テクノの重鎮としての軌跡と、ミュージシャンとしての弛まざる歩みのようなものを、このアルバムに探し求める事ができる。次いで、いえば、このアーティスト、クラークの音楽性の原点のようなものがこのレア・トラックス集に見出せる。アルバムの序盤に収録されている#2「Urgent Jell Hack」には、エイフェックス・ツイン、スクエアプッシャーに比するエレクトロの最盛期を象徴するドラムン・ベース/ドリルン・ベースに重点をおいていることに驚愕である。

 

さらに、デビュー作硬質な印象を持ちながらも抒情性を兼ね備えた「Body Riddle」とハードテクノ/ゴアトランスに音楽性を移行させて大成功を収めた大傑作「Turning Dragon」との音楽性を架橋するような楽曲も収録されており、ミニマル/グリッチ、ノイズ・テクノの実験性に果敢に取り組んだ前衛的なエレクトロの楽曲も複数収録されている。元々、クラークは前衛的な音楽に常に挑戦するアーティストではあるものの、そのアヴアンギャルド性の一端の性質に触れる事もできなくはない。そして、近年の映画音楽のように壮大なストーリー性を兼ね備えたモダン・クラシカルの音楽性の萌芽/原点のようなものも#6「Dusk Raid」#8「Herr Barr」、終盤に収録されている#11「Dusk Swells」#12「Autumn Linn」に見い出すことができる。

 

おそらく、「05−10」というタイトルを見ても分かる通り、クラークの2005年から2010年までの未発表曲を収録した作品なのかと思われるが、このレア・トラックス集では、これまで表立ってスポットを浴びてこなかったクラークの音楽性の原点が窺えると共に、このアーティストらしいハードテクノの強烈な個性をこのアルバムには見出すことが出来るはずです。

 

また、驚くべきなのは、このアーティストしか生み出し得ない唯一無二のハード・テクノは、2022年現在になっても新鮮かつ前提的な雰囲気を放っている。それは現時点の最新鋭のモダンエレクトロと比べても全然遜色がないばかりか、しかも、2000年代に作曲された音楽でありながら、時代に古びていない。「なぜ、これらのトラックが今まで発売されなかったのか??」と疑問を抱くほど、アルバム収録曲のクオリティーは軒並み高く、名曲揃いとなっています。

 

『05−10』は、レア・トラックス集でありながら、クラークの新たなオリジナル・アルバムとして聴くことも無理体ではなく、全盛期のエイフェックス・ツイン、スクエア・プッシャーの名盤群の凄みに全然引けを取らないクオリティーをこのレアトラック集で楽しむことが出来る。このアルバムは、クラークの既発のカタログと比べても、かなり聴き応えのある部類に入ると思われます。さすが、ダンス・エレクトロの名門、Warpからのリリースと称するべき作品で、もちろん、テクノミュージックの初心者の入門編としても推薦しておきたい作品となっています。



87/100

 


・ Featured Track「Dusk Raid」


 Beth Orton  『Weather Alive』

 


 

Label:  Partisan Records 

Release: 2022/9/23

 

Official-order

 

 

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 ベス・ オートンの新作アルバム『Weather Alive』は実をいうと、先週リリースされた中で注目すべき良盤と言える。ベス・オートンは、トリップ・ホップ、フォークトロニカの始祖と見なされる場合があるようだが、この作品では、ブリストルサウンドの妙味を受け継ぎ、それを淑やかな聴き応え十分のアルバムとして仕上げている。

 

 このアルバムを解題する上で大変重要となってくるのが、ベス・オートンがカムデン・マーケットで実際に購入したという、古ぼけたピアノだ。ベス・オートンは、このアルバムの殆どの曲で、この古ぼけたピアノをトラックメイクに導入している。オートンのボーカルは、まさにブリストルサウンドを受け継いでおり、悲哀と暗鬱さ、そしてアンニュイな雰囲気に満ちている。この独特な艷やかなボーカルは、他のどのアーティストにも醸しだしえない作風となっている。

 

 アルバムの収録曲は、ーーポップス、ジャズ、フォーク、ヒップ・ホップーートリップ・ホップの主要な音楽性を綿密にかけ合わせたものとなっている。ムーディーな曲風に乗せられるオートンのヴォーカルは、トム・ヨークのスタイルに類しており、外側の世界を押し広げていくというよりか、 内面の世界を歌をうたうたびに徐々に掘り進めていくかのようでもある。ベス・オートンのボーカルは、夜更けの口笛のような悲哀性と孤独性を兼ね備え、内的感情を絞りだすような質感がある。この作品は、抽象的かつ感覚的な音楽が展開されていくが、全く不安定ではなくて、何かしらどっしりした安定感すら感じられるのに驚くばかりだ。それはきっと、このソングライターの曲作りにおける精度の高さが作品そのものに反映されているからなのだ。

 

 先述したように、このアルバムには、ホーンセクションやマレットの豊潤なアレンジとピアノのシンプルではありながら情感あふれるアレンジが導入されているが、オートンはヒップホップ/ローファイ風のサンプリングを活用し、ポーティス・ヘッドやビョークの全盛期を彷彿とさせる質の高い楽曲として昇華している。オートンのソングライティングの印象は、ポピュラーミュージックを志向していると思われるが、その中にも、様々な要素が込められており、ファンク、R&B,ジャズ、フォーク、と、UK・ポップスらしい多様性を味わえる。ジェイムス・ブレイクのようなクールな雰囲気を持ち合わせる「Forever Young」は、このアルバムのハイライトと言えるだろうか。

 

 今作は、ホーンのスウィープ、ピアノのシンプルな旋律進行、オートンの内省的でソウルフルなボーカルが絶妙にマッチしたアルバムとなっている。トリップポップの初心者にとっても最適な入門編となるだろう。

 

 

85/100

 

 

Featured Track 「Forever Song」


 Nils Frahm 「Music For Animals」

 



Labal: 
Leiter-Verlag

Release Date : 2022年9月23日



Official-order

 


 Review



ニルス・フラームの2022年の最新作「Muisic For Animals」 は、Covid-19の孤立の中で生み出された。彼がマネージャとともに立ち上げたドイツのレーベル"Leiter-Verlag"からの発売された。さらに、彼の妻、ニーナと共にスペインで二人三脚で制作されたスタジオ・アルバムです。

 

この作品について語る上で、ニルス・フラームは明瞭に、商業主義の音楽と距離を置いていると、The Line Of Best Fitのインタビューにおいて明言しています。フラームは、「マイケル・ジャクソン、デヴィット・ボウイ、ビリー・アイリッシュ、といったビックスターとは別の次元に存在する」と語る。それはまた、「自分がその一部だと思われたくありません、再生数ごとにより多くのお金を稼ぐために音楽の寿命を短くする人々です」「誰かが短い曲を作りたいと考えているなら、それは問題はありません。でも、それは私にとって真っ当な判断とは思えないのです」

 

「自分がその一部だと思われたくありません、再生数を稼ぐことや、多くのお金を稼ぐために音楽の寿命そのものを短くする」というフラームの言葉は、現今の商業主義の音楽が持て囃される現代音楽シーンに対する強いアンチテーゼともなっている。実際、再生時間が三時間にも及ぶ壮大な電子音楽の大作「Music For Animals」は、深奥な哲学的空間が綿密に作り上げられ、建築のように堅固な世界観が内包されている。一度聴いただけではその全容は把握しきれず、何度も聴くごとに別空間が目の前に立ち現れるかのような奥深い音楽とも言えるでしょうか。

 

 

これまで、 ニルス・フラームは、2000年代の「Wintermusik」の時代から、ドイツ、ポスト・クラシカル、そして2010年代に入り、第二期の「Screws」の時代に象徴されるコンセプチュアルなピアノ音楽、さらに、2010年代の中期、第三期のそれと対極に位置する前衛的なエレクトニカ/ダウンテンポの作風「All Melodies」、次いで、近年には、UKのPromsとの共演の過程で生み出された、電子音楽とオーケストラレーションとの劇的な融合性に果敢に挑戦した「Tripping with Nils Frah」というように、作品の発表ごとに作風を変えていき、片時もその場に留まることなく、前衛的な音楽性を提示していますが、この最新作「Music For Animals 」も同様に、フラームは既存の作品とは異なる音楽性に挑んでいます。


フラームは、このアルバム「Music For Animals」の発表時、作品中にゆったりとした空間を設けるサティの「家具の音楽」のようなコンセプトを掲げており、近年のポピュラーミュージックの脚色の多い、華美な音楽とは正反対の音楽を目指したと説明していました。プレスリリースにおける「木の葉のざわめきを見るのが好きな人も世の中にはいる」との言葉は、何より、このミュージック・フォー・アニマルズ」の作風を解釈する上で最も理にかなった説明ともなっている。ここでは、木の葉が風に吹き流される際の情景が刻々と移ろいゆく様子が、いわばサウンドスケープのような形を通して描かれていると解釈出来るわけです。

 

近年のエレクトロ/ダウンテンポの作風に比べると、アンビエントに近い音楽性がこの作品には感じられますが、実際の作品を聴けば、アンビエント寄りの作風でありながら、それだけに留まる作品ではないことが理解していただけるだろうと思います。アルバムの収録曲は、シンセサイザーのシークエンスをトラックメイクの基点に置き、バリエーションの手法を用いながら、 徐々にそのサウンドスケープが音楽に合わせて、スライドショーのような形で刻々と変化していくのです。

 

ニルス・フラームのエレクトロニカ寄りの作風として、既存作品の中においては、「All Ecores」/「Ancores 3」に収録されている「All Armed」のような楽曲が、最も前衛的であり、最高傑作とも呼べるものですが、それらの即効性のある電子音楽とは別のアプローチをフラームはこの作品で選択したように感じられます。例えば、その音楽そのものの印象は異なるものの、クラフト・ヴェルクの「Autobahn」の表題曲の系譜にある、音楽としてストーリーテリングをする感慨がこのアルバムの全編に漂い、音楽として1つの流れのようなものが各々の楽曲には通底している。それは喩えるなら、フランスの印象派の絵画のように抽象的でありながら、フォービズム/キュピズムのように象徴的でもある。さらに言えば、今作の音楽の流れの中に身を委ねていますと、表面上の音楽の深遠に、表向きの表情とは異なる異質な概念的な音楽の姿が立ち現れてくる。それはピクチャレスクな興趣を兼ね備えているとも言えるでしょう。

 

現代のヨーロッパのミュージックシーンにおいて、既に大きな知名度を獲得しているフラームではありますが、彼は、この作品で、手軽な名声を獲得することを避け、純性音楽の高みに上り詰めようと苦心している。さらに、フラームは短絡的に売れる音楽をインスタントに作るのではなく、洗練された手作りの工芸品のような形を選び、三時間に及ぶ大作を丹念に完成させました。そのことは、商業主義の音楽ばかりが偏重される現代音楽シーンにおいて、また資本主義経済が最重視されるこの世界で、きわめて重要な意義を持つと断言出来ます。

 

 

 

82/100

 

 

Featured Track  「Seagull Scene」

 

 Sport Team 『Gulp!』


 

Label: Universal Music

 

Release: 2022年9月23日 


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2020年のマーキュリー賞にノミネートされ、ヒット作となったデビュー・アルバム「Deep Down Happy」から二年、Sports Teamは、このセカンド・アルバム「Gulp! 」で想像だにできないような進化を遂げています。

 

スポーツチームはこのアルバムを前作のリリースからすぐに制作を開始した。というよりもこれは、どうやらロックダウン等の理由により、ライブギグをやるわけにも行かず、スタジオ入りせざるをえなかったという。結果的には、それが良い方に転じたとスポーツチームのメンバーは話しています。

 

このセカンド・アルバムは、ラウンドハウスでギグを行った後、デヴォンの人里離れた小屋でレコーディングが行われた。アルバムで最も派手な印象を持つ「Entertainent R」、その他、「Dig!」に代表されるように、ポストパンクバンドとしての勢いとパンクサウンドの痛快さを刻印したものとなっています。いかなる暗い時代においても、エンターテインメントを追究しようとするバンドの強いエネルギーがアルバム全体の印象を明るく照らし出しているように思えます。

 

これらのポスト・パンクサウンドには、ギャング・オブ・フォーのような感覚の鋭いファンクパンクのサウンド、さらに、イアン・デューリーに象徴されるパブ・ロックの渋い雰囲気が漂い、これがこのセカンド・アルバム「GULP!」のサウンドの核となっています。また、実際のライブパフォーマンスで強い存在感を放つアレックス・ライスのボーカルはストラングラーズのヒュー・コーンウェルを彷彿とさせる。そしてときには、オーストラリアのセインツのようにR&Bを吸収した派手なポスト・パンクサウンドの影響もこのアルバムの端々に見受けられる。それは流動的で精細感のあるサウンドであるため、聴いていて気持ちが良いばかりでなく、聞き手の活力をみなぎらせるような強い扇動力も持ち合わせています。

 

とにかく、このセカンド・アルバム「Gulp !」は、このメンバーがライブを想定してレコーディングに取り掛かっているような気配もあり、それはまた、ロックダウン中に思うようにライブギグが行えなかったフラストレーションが明るく前向きなエネルギーに変換されています。さらに、このアルバムを聴くと、実際のライブで収録曲を聴いてみたいと強く希求させる何かがあるのです。

 

この作品のテーマは人間について描かれていて、さらにいえば、喜び、悲しみ、憎しみ、様々な人間の感情を多角的な視点を経て、パワフルなポスト・パンクサウンドとして巧みに昇華させている。このアルバムには、そのほか、彼らの出身のバックグランドを思わせるシニカルな政治的な風刺、他にも、ソーシャルメディアの弊害についての言及など、現代ミュージシャンとしての多くの提言、メッセージも含まれています。そして、彼らのように忌憚のない意見を言ってのけることに関しては、IDLESと同様、ロックミュージシャンとしてあるべき姿。そして、さらに、Sport Teamのクールきわまりない提言は、国内の人々だけではなく、ヨーロッパ、その他の地域の人の心にも共鳴する感覚が込められています。「Gulp !」は、サウンド自体が楽しみに溢れていることも一つの大きな魅力ではありながら、自発的な思考を促すようなメッセージ性を持ち合わせているのもまた事実でしょう。

 

 

84/100


 

Featured Track 『Dig!』

 

 KEG  「Girders」


 

 Label: BMG/Alcopop!

 

 Release: 2022年9月2日


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イギリスの港町、ブライトンの海岸で結成された七人組のポスト・パンク/アートパンクバンド、KEGは、デビュー当時からユニークな音楽性でリスナーを惹きつけることに成功しています。

 

バンド・アンサンブルの基本的な編成に加えて、シンセサイザー、トロンボーンを始めとするジャズやクラシックの素養のあるメンバーを擁する。バンドは、自分たちの音楽について、「ファインアート」もしくは「ファイン...アート」と説明しているようですが、まさに商業主義とは異なる実験性を擁するバンドとして注目です。

 

昨年リリースされたデビューEP「Assembly」ではディーヴォに触発された分厚いバンドアンサンブルを展開し、凄まじいハイテンションを擁するポストパンクの楽曲により、ロックダウン下の暗い社会に一筋の光を与えてくれました。

 

2ndEP「Girders」においても、KEGの明るいユニーク性は引き継がれています。独特な不協和音を擁する楽曲は、現代の世界の縮図のようでもある。楽曲のあちらこちらに、シンセサイザーやトロンボーンの現代音楽のような不協和音が世界の軋轢のようなものを暗示的に込められている。それはオープニングトラック「5/4」で始まり、分厚いアンサンブル、ディーヴォを彷彿とさせるシニカルボーカル、対比的な激したスクリームがアルバムの世界観を牽引していく。


UKポスト・パンクの流れを汲んだ表題曲は、そういった苛烈な部分と繊細性が綯い交ぜとなって、ユニークな世界観が展開されていきます。KEGは、シリアスになることを極力避け、それらを独特なユーモアによって彩ってみせている。これらは、彼らが常に社会的に置かれるポジション、あるいは一般的な立場から見るイギリス社会全体を、ファインアート、もしくはファイン...アートとして刻印したものとなっています。ポスト・パンクバンドとしてのエクストリーム性を主体に置きつつも、その中には、ギターのディストーションに対比的に配置されるクリーントーンの流麗なアルペジオには、黎明期の米国のポスト・ロックバンドのような繊細性が漂っている。つまり、外向きのエネルギーと内向きのエネルギー、これらの二律背反の要素を、時に変拍子を交え綿密に組み合せることにより、このアルバムの印象を強固にしています。

 

全体的には、デビューEP「Assembly」に比べると、掴みやすさの要素は少なくなったように思えるものの、これらのサウンドの中には、KEGしか生み出せない強かなユーモアが込められているように伺えます。それは尖ったギターサウンド、ディーヴォよりもさらにハイテンションのボーカルによってKEGらしい音楽、心の表現が汲み出される。パンクバンドとしての先鋭性を保持しつつも、ブライトン流の特異な抒情性が僅かに漂う。このアルバムのブロックを1つずつ積み上げるようにして繰り広げられる実験性は、クライマックスの「NPC」で最高潮を迎える。

 

ここには、ブラック・ミディのデビュー当時を彷彿とさせるアバンギャルド性の強い、捻くれた感のあるポスト・ロックサウンドが展開される。先述したように、「Girders」は、商業主義の音楽とは決して言い難い。でも、商業主義の音楽しかこの世に存在しなくなったら、それは「芸術表現の死」であり、音楽をはじめとする芸術全般の存在意義が衰退する原因ともなりかねない。


日々接する生活における実感を、自分達にしかなしえない方法で何らかの表現にさまざまな形で込めようとする。そして、それこそが、KEGの言うように、ファインアートの本質でもあると思せい

 

 

68/100

 

 

 

Featured Track 「Grinders」


 F.S  Blumm  「Kiss Dance Kiss」

 

 

Label: blummrec

Release: 2022年9月16日

 

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ドイツ国内のダンスミュージックシーンで異彩を放つF.S Blummは、Nils Frahmとともにベルリンの芸術集団に属していることでも知られる。


F.S.ブラームは、この最新作「Kiss Dance Kiss」で、ダブ、レゲエ、エレクトロと多彩な音楽性に挑戦を試みています。2000年代、元来、王道のエレクトロニカに近い作風のアルバムを制作していましたが、2021年のニルスフラームとのコラボレーションアルバム「2×1=4」のリリースを契機にレゲエ/ダブへ傾倒を見せるようになっていった。このアルバムが何らかの触発、インスピレーションをこのアーティストに与えたことはさほど想像に難くはない。

 

F.S.ブラームのDUBのアプローチは、アンディ・ストット、ダムダイク・ステアといった、現代のマンチェスターのダブステップ勢とは明らかに趣を異にしており、リー・スクラッチ・ペリーの古典的なレゲエの要素を多分に包含している。その点は、この最新作「Kiss Dance Kiss」でも変わらず、ドラムのスネア/ハイハットにディープなディレイ・エフェクトを加え、その素材をループさせることにより、サンプリング的な手法で重層的なグルーブを生み出していく。

 

つまり、上記したようなF.S.ブラームのダブの手法は、本人は意図していないかもしれないが、どちらかといえば、ヒップホップの最初期のDJのサンプリングに近い技法となっている。一見、それは古びているように思えるかもしれないが、このアーティストは、ラップに近い手法に、ラテン、カリブ音楽に近い性格を卒なく込めているため、そのアプローチは、かなり先鋭的な気風が漂う。ブラームは、トラックメイク/マスタリングにおいて、ディレイを駆使し、前衛的なリズム/グルーブを生み出している。本作は、レゲエ・ファン/ダブ・ファンを納得させる作品となるに違いない。

 

最新アルバム 「Kiss Dance Kiss」は、レゲエ、ダブ、スカ、ダンス・ミュージックの本来の楽しさを多角的に追究している。前作EP『Christoper Robin』において、リゾート感を演出した、というF.S.ブラームの言葉は今作のテーマにも引き継がれている。ここでも、彼が言ったように、リゾート地の温かなビーチの夕暮れどき、海の彼方を帆船が往航する様子を眺めるような、何とも優雅な雰囲気が醸し出されているのだ。

 

オープニング・トラック「Kauz」は、近年のマンチェスターのエレクトロに近いアプローチが取り入れられている。名プロデューサー、リー・スクラッチ・ペリーのダビングの手法を最大限にリスペクトした上で、クラウト・ロック、インダストリアルの雰囲気を加味し、スカに近い裏拍を生かしたエレクトロ・トラックを生み出している。


古典的なジャマイカのレゲエサウンドに依拠した2ndトラック「Ginth」は、近年のブラームの作風に実験性が加味され、ほかにも、ギターロックの影響がほのかに垣間見える。「Zinc」は、ジャムセッションの形をとったフリースタイルの楽曲で、オルガン、ギター、ドラムのアンサンブルを介してモダン・ジャズ的な方向性を探究している。

 

「Mage」において、F.S.ブラームは、トーキング・ヘッズの傑作「Remain In Light」で見られたようなイーノのミニマルミュージックの手法を取り入れ、ダンサンブルなロックに挑む。「Nimbb」は、現代的なエレクトロニカの雰囲気を演出しており、ここで、ブラームは、Native Insturument社のReaktorに近いモジュラーシンセを取り入れつつ、実験的なエレクトロを生み出している。


「Mioa」は、「Zinc」に近い、ジャズセッションの形を取ったトラックで、Tortoiseのように巧みなアンサンブルを披露している。反復フレーズを駆使したギター、しなるようなベース、シンプルなドラムとの絶妙な兼ね合いから生み出される心地よいグルーブ感を心ゆくまで堪能することが出来る。

  

「Nout Vision」ー「Nout」は、前作のEPの続編のような意義を持つ楽曲で、一対のヴァリエーショントラックとなっている。ジミー・クリフの精神性を彷彿とさせる古典的なレゲエ・サウンドを、モダン・エレクトロの側面から再解釈しようとしている。ここでは感覚の鋭いダブサウンドとトロピカルな雰囲気が絶妙に融合されている。


さらに、フィナーレを飾る最後の収録曲「My Idea Of Anarchy」ではシカゴのSea And Cakeを彷彿とさせる「Nout Vision」のボーカルバージョンが収録されている。おしゃれで、くつろいだ簡素なジャズ・ロックは、上記のインスト曲と聴き比べても楽しい。


最近、F.S.ブラームはインスト曲にこだわらず、ボーカルトラックにも挑戦するようになっていますが、ボーカルは適度に力が抜けており、心地良さが感じられる。このラスト・トラックを聴き終えた後には、リゾート地に観光した時のように、おだやかで、まったりとした余韻に浸れるはずです。



84/100

 

 

 

Featured Track  「KAUZ」

 

 Rina Sawayama  『Hold The Girl』

 

 

Label:  Dirty Hit

Release : 2022年9月16日

 

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アルバムのアートワークにかこつけて言うと、ロンドン在住のシンガー、リナ・サワヤマは、このセカンド・アルバム「Hold The Girl」において誰も予想しなかったような劇的な進化を遂げている。この二作目で、リナ・サワヤマはデビュー・アルバム「Rina」におけるハイパーポップ性を引き継いだ上で、センセーショナルな曲を複数書き上げたのです。

 

リナ・サワヤマは、世界のポップ・アイコンになることを目指し、このアルバムのレコーディングに取り掛かり、そして苦心をし、最終的に、その完成形を生み出した。それはアリーナ級のポップ/ロックソング、刺激的なバラード、さらにフォーク、他にもエレクトロと多岐に渡るアプローチがこの作品には取り入れられています。これまでに存在しえなかった独自流のスタイルを模索しつつ、これまでに存在したポップソングの形式を、どのように現代風にエディットしていくのか、このアルバムには、このアーティストの苦心の跡がはっきりと伺えます。そういった新たなスタイルに取り組もうとするチャレンジ精神は大いに称賛されるべきであり、この作品自体も、2020年代の「最新鋭のハイパーポップ・アルバム」と好意的に受け入れられるべきでしょう。

 

このアルバム「Hold The Girl」に収録された楽曲は、軒並みエンターテインメント性が高く、現実の苦難を忘れさせるような、陶然とした雰囲気に包まれています。一方で、そのエンターテインメント性、享楽性が長く持続するのかまでは、現時点で言及することは難しいように感じられる。それはなぜかといえば、楽曲の旋律進行、フレージングに、僅かに既視感があるという理由です。

 

しかし、一作品としては問答無用に素晴らしい。リリース告知の最初期に発表されたタイトルトラック「Hold The Girl」はもちろんのこと、他の先行シングル「Catch Me in The Air」、「Phantom」、「Hurricanes」といったポップアンセムは、アルバム全体にダイナミックな効果を及ぼし、実際のボーカルにも強烈な自負心が宿っている。これは、デビュー作からおよそ5年の歳月をかけて、自分の姿を成長させていったこのアーティストの足跡がこれらのトラックに反映されたと言えるでしょう。

 

さらに、リナ・サワヤマは、現代ポピュラーアーティストのボーカルスタイルを基調としつつ、平成時代のJ-POPの"エイベックス・サウンド"をハイパー・ポップやニュー・メタルの中にさり気なく取り入れようとしている雰囲気が伺える。おそらく、リナ・サワヤマは、『Hold The Girl』で、無意識的であるにせよ、意識的であるにせよ、自身の日本の音楽のポピュラーミュージックの奥深いルーツを探りたかった、言い換えれば、自己のルーツのようなものを音楽を介して探し求めようというのかもしれません。ヨーロッパ社会でアジア人として勇敢に生き抜くこと、そのことをふと考えた時に、「ホールド・ザ・ガール」/ーー自己を抱きしめるーー」という素晴らしい主題が、実際の音楽から明瞭に浮かび上がってくるような気がするのです。

 

作品自体の完成度はずば抜けて高く、収録曲の配置も完璧。シンガーとしての歌唱力についても強烈な迫力が込められており、申し分のないものとなっている。さらに、現代のハイパー・ポップ隆盛の時代の音楽としても聴き応えがある。メロ、サビの構成も、日本のポピュラー・ミュージックに近いため、普段、邦楽しか聴かないリスナーにとっても心に響く作品になると思われます。

 

 

90/100

 

 

Featured Track 「Hurricanes」

 

 

 

 

 


 Ozzy Osbourne  「Patient Number 9」

 

 


Label: Epic/Sony Music Entertainment

 

Release: 2022年9月9日


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なぜ、オジー・オズボーンという人物が神格化されるのか、そして、米国のNFLのオープニングセレモニーに出演するまでのスターになったのか。

 

それは取りも直さず、このアーティストの生命力の強さ、そして、生来のエンターテイナーとしての輝きそのものにあるものと考えている。オズボーンは、ライブステージに投げ込まれた生きた鳩をレプリカと思い込んで、それをかじった後に奇跡的に生還した。その後、交通事故にあっても、病室でのビートルズの音楽の支え、家族、友人たちの支えにより二度目の生還を果たし、そして、今回はパーキンソン病の大手術から3度目の奇跡的な生還を果たしたのでした。


オジー・オズボーンの最新作「Patient Number 9」は、そういった人間としての生命力の強さ、そして、彼の生粋のエンターテイナーとしての輝きを余すところなく体現させたアルバムと言えます。このアルバムには、ブラック・サバス時代からのバンドメイト、トニー・アイオミ、そして、ソロバンド時代のザック・ワイルド、さらには、イギリス国内の最高峰のギタリスト、エリック・クラプトン、ジェフ・ベック、ガンズ・アンド・ローゼズのダフ・マッケイガンもアルバムレコーディングに参加しています。しかし、これは、単なる友情共演と捉えるべきでなく、正真正銘のコラボレーション、白熱したオズボーンとの共演を心ゆくまで楽しむことが出来るはずです。

 

最新アルバムにおいても、オズボーンは「ヘヴィ・メタル」という形に頑なにこだわっています。彼は、ブラック・サバスとともに、ヘヴィ・メタル音楽の先駆者である。メタルの流儀をやめるときは、プロのミュージシャンとしての看板を下ろすときなのかもしれません。そして、アメリカの作家、ウィリアム・バロウズが初めて考案した「メタルー鉱物的な音楽」という概念を最初に体現したアーティストとしての強い自負心のようなものも、この最新アルバムには反映されているように見受けられます。

 

オズボーンが精神病患者を舞台俳優のように演じることにより、ゴシック/コミックホラーのような雰囲気を演出するタイトルトラック「Patient Number 9」は、引き立て役に回ったジェフ・ベックのタイトなギター・プレイに支えられ、このアーティストらしい相変わらずのコミカルさ、ユニークさを見せつつ、多くのリスナーの共鳴を獲得するような王道のヘヴィ・メタル/ハード・ロックサウンドとなっています。この曲で、オジー・オズボーンは、持ち前のポピュラー性を維持しつつ、ストーナー・ロックのように、重く、図太いヘヴィ・ロックサウンドで聞き手を魅了してみせます。

 

アルバムの注目曲は他にも目白押しで、トニー・アイオミが参加した「Degradation Rules」では、ブラック・サバス時代の、泥臭い、ブルース・ハープを取り入れた渋いハードロック・サウンドに回帰を果たしていますが、以前よりもアイオミのギタープレイは刺激的で円熟味を増しているように思える。

 

さらに、ザック・ワイルドと共演を果たした「Nothing Feels Right」では、「Shot In The Dark」を彷彿とさせる抒情性あふれるメタルバラードを聴かせてくれます。この曲では、オズボーン自身が”ザ・ガーディアン”のインタビューで話していたとおり、パーキンソン病における苦しい闘病時代の経験に根ざして書かれたもので、その時代の感情を真心を込めて歌っている。このメタルバラードは、このアルバムではハイライトであるとともに、きっと、新時代のクラシックソングとなるはずです。ザック・ワイルドのギタープレイは相変わらず、世界で最も重く、低く、誰よりもタフですが、やはり、このギタリストの弾くフレーズは繊細さと淡いエモーションを兼ね備えている。

 

その時代の流行の音楽を巧みに融合させることで、今日まで伝説でありつづけてきたオズボーンは、本作のクローズ・トラックにおいて、意外な作風「ブルース・メタル」に挑戦している。この曲は、デルタ・ブルースのように、渋く、ワイルドな雰囲気を漂わせている。「Darkside Blues」において、オジー・オズボーンは、米国の文化に多大な敬意と感謝を表するとともに、住み慣れたもうひとつの故郷に友好的な別れを告げる。これは、いかにもオズボーンらしい、ヘヴィ・メタルの「フェアウェル・ソング」とも言えるのではないでしょうか?

 

このアルバムは発売当初から、英国では売上が好調で、オジー・オズボーンのこれまでのキャリアでチャートの最高位を獲得していて、それも頷けるような内容となっています。


また、本作は、「Diary Of A Madman」を始めとする最初期の名盤群に匹敵するようなセンセーショナル性は乏しいかもしれませんが、幅広い年代のリスナー層が安心して聴くことの出来るヘヴィ・メタルの良盤と言えそうです。


オジー・オズボーンは、73歳という年齢になっても、若い時代からそうであったように、今もなお、清涼感のあるハイトーンの声質を維持しているのはほとんど驚異です。そのボーカルは、彼がこれまでの人生で関わりをもって来た素晴らしい友人たち、そして、伝説的なロックミュージシャンたちの支えもあってか、以前よりもさらに力強い性質が引き出されているように思えます。


84/100


 

Featured Track 「Patinet Number 9」


渋谷慶一郎 「ATAK026 Berlin」

 


 

Label:  ATAK 

Release:  2022年9月11日

 

 

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本作「ATAK026 Berlin」は、渋谷慶一郎が主宰するATAKの設立20周年を記念してリリースされました。2008年にドイツ・ベルリンのメディアアートの祭典「Transmediale」で行われたライブパフォーマンスのために作曲された楽曲群を2022年に再構成、細部に至るまでエディットしなおしたという。また、このアルバムでは、ドイツの生物学者、カオス理論のレスラーアトラクター、オットー・E・レスラーとの2008年当時にベルリンで行われた対話から引用されたサンプリングも「War Cut」に導入されているのに注目です。

 

これまで、最愛のパートナーであったMariaの死去に捧げられた美麗なピアノ曲、Alva Notoを彷彿とさせるようなノイズ・グリッチ、さらに、その他、初音ミクとの大掛かりなコラボレーション・ミュージカル、常に前衛性に重点を置いた実験音楽に挑戦してきた渋谷慶一郎氏は、この作品において、ノイズ・グリッチの先鋭的な方向性を探っている。この新作アルバムに収録されているサウンドは、東京大学教授の池上高志とのコラボレーションを元に生み出されたもので、サイエンスデータをコンピューター内部で変換し、再生されたノイズをかけ合わせたものとなっています。

 

ここで、渋谷慶一郎は、最新鋭のグリッチ作品を提示しており、それらは数学と映像を融合させた池田亮司のアプローチに近い音楽性を選んだようにも見受けられる。元々、グリッチはコンピューターの誤作動、エラーにより発生した電子音楽の一つなんですが、そのノイズを物理的あるいは数学的に組み直そうと、これまでに存在しえなかった実験音楽にチャレンジしています。


物理学には疎いので、どういった意図でテクノロジーのエラーが作製されたものなのかを指摘することは難しい。しかし、これは、どちらかと言えば、これは、Ovalの最初期のグリッチの流れを汲むもので、徹底して感情性を排したかのような無機質なミニマル・ミュージックが展開されている。「ATAK026 Berlin」は、決して人好きする音楽を狙ったわけではないし、一般的な音楽とも言いがたいものの、日本の電子音楽アーティストとしてヨーロッパの最前線の電子音楽に勇猛果敢に挑戦していることは、正当に評価されるべきでしょう。明らかにノイズ性を突き出した前衛的なアプローチを、渋谷慶一郎は今作において追究しているように思えますが、それは、この上なく洗練された形で提示されている。これは、レコーディングやミキシングを深く知悉した音楽家・プロデューサーだからこそ生み出すことが出来る実験音楽とも言えるのです。

 

アルバム全体は、SF調の雰囲気が漂い、各々の楽曲は精細な音によって構成されている。これらのノイズが既存の音楽と異なる点は、分子や粒子ひとつひとつが集積し、「音」というエネルギーを構成するという、科学の神秘を解き明かしているように思えます。さらに、精細なノイズにより、どのような音響空間を演出するのか、また、サウンドスケープを描くのかが、この作曲者が念頭に置いていたテーマだったと推察される。であるとするなら再構成によりその意図はほぼ完全な形として昇華されている。

 

アルバム全編には、一貫して、ノイズ・グリッチのアプローチが取り入れられていますが、それは必ずしも単調なものであるとは言いがたく、わずかに電子音楽としてのストーリー性を感じさせるものとなっています。例えば、「Metaphysical Things」では、それらの手法の延長線上にあるアシッド・ハウスにたどり着く。さらに、クローズ・トラックの「Near Death Experience」はその手法を受け継いだ上、ドローンに近い音楽性へと転化する。これはノイズの連続音の行き着く先がアンビエントと証明づけた音響学の発見と称するべきでしょう。そして、これほどまでに緻密で物理的なアプローチをこの作曲家が取ったことは近年なかったようにも思える。もっと言えば、既存のATAKの作品の中で、もっとも先鋭的な作風として位置づけられるかもしれません。 

 

物理学や工学の要素を大々的に宣伝するまでもなく、今作は、ノイズ/グリッチとして画期的な作品であることに変わりありません。そして、おそらく、現在の日本のミュージック・シーンを見渡すかぎり、「ポスト・サカモト」のポジションを引き継ぐ人物がいるとするなら、バイオグラフィーの観点から言っても、渋谷慶一郎氏をさしおいてほか誰も見当たらないという気もします。

 

 

85/100

 

 

Featured Track 「Mataphysical Things」

 

 Jockstrap    「I Love You Jennifer B」

 


Label:Rough Trade

 

Release: 2022年9月9日

 

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ジョック・ストラップの記念すべきデビュー・アルバム『I Love You Jennifer B』は、先週リリースされたインディーポップ作品の中で最も注目を集めた作品となった。複数のメディアはこのアルバムに平均点以上の高評価を与えていることからの最初の反応は軒並み良いものとなった。

 

このアルバムで、ジョージア・エレリー、テイラー・スカイは、既存のポップスやロックを新しい形で組み直そうと挑戦している。そのことは、先行シングル「Jennifer B」、他にも「Greatest Hits」に表れている。北欧のトイトロニカ/フォークトロニカ、他にも若手のアーティストらしく、ティーンネイジャーカルチャーに基底を置くチップチューンに近いユニークな音楽性が、ポピュラー・ソングやフォークミュージックと融合を果たし、新鮮な息吹をもたらす楽曲として昇華されている。これらの楽曲は、デビュー作ということもあり荒削りな形で提示されているが、それがローファイのような魅惑的なジャンク感を演出しているのも事実である。

 

ロンドンの演劇学校「ギルドホール」で出会ったというデュオの結成秘話のようなものもまたこれらのポピュラーミュージックの先進的なアプローチの中に大きく寄与しているように思える。スコットランドのフォーク・ミュージックから現代的なインディー・フォークを踏襲した六曲目の「Angst」は、ハープを豪華に活かした演劇的な雰囲気を持つ一曲で、聞き手を幻想的なおとぎ話の世界へと優しく誘う。他にも、プリペイド・ピアノをポピュラー・ミュージックとして再解釈した「Glassgow」は、現代音楽とポピュラー・ミュージックの融合に取り組んでいる。

 

「Lancaster Court」は、艶やかな質感を持った、近年、稀に見るような斬新なインディーフォークだ。オーケストラのティンパニーやジャズにルーツを置いたデビュー当時のビョークのような華やいた印象も見受けられる。ジョック・ストラップは、この楽曲で、新進プロジェクトとは思えない存在感の大きさ、才覚の鋭さを初見のリスナーに印象づけることに成功している。さらに、ボーカルについても、舞台芸術のような視覚的な効果を重視しているのにも着目したい。

 

「Jennifer B」と同じく、先行シングルとしてリリースされた「50/50」では、2021年に発売されたシングル盤とは異なるエレクトロ調のリミックスをこのアルバムでは体験することが出来る。ただ、この曲については、正直、オリジナルシングルの方が魅力的な楽曲であったように思え、アルバム単位として聴くと、全体の作品価値をほんの少し貶めている印象を覚える。

 

ジョック・ストラップは、このデビュー作において、他の新進アーティストとは異なる際立った才質を示している。それは、80-90年代から始まったスコットランドの音楽文化の流れに与するもので、ギター・ポップ/ネオ・アコースティックのニューウェイヴを今作で呼び起こそうというのである。それはティーンカルチャーの興味と相まって新鮮な息吹を感じさせるものとなっている。

 

1つだけ難点を上げるのならば、これらのトラックを聴くかぎり、デュオの音楽性や本当の才覚が完全な形で示されたとは言いがたい。これらの楽曲のアプローチのベクトルは常に中心点に収束し、大きなスパークを起こしているわけではない、その音楽のベクトルは常に散漫になりがちなため、それが楽曲として大きな化学反応を起こすまでには至っていない反面、それらの難点は、ジョック・ストラップの収まりのつかない”創造性の高さ”を示すものともなっている。

 

今後、ジョックストラップの持つシアトリカルな効果が、音楽と劇的な形で融合を果たした際には、スコットランドのミュージック・シーンの記念碑的な作品が出てきそうな気配もある。ぜひ、ベル・アンド・セバスチャンの次世代を受け継ぐインディー・スーパースターになってもらいたい。

 

 

80/100

 


Featured Track  「Angst」

 

Bret McKenzie 『Songs Without Jokes』

 


Label:  Sub Pop

Release:  2022年8月26日


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『Songs Without Jokes』は、ハリー・ポッター、ロード・オブ・ザ・リング等、名作映画への出演、フライト・オブ・ザ・コンコルズとして活動し、既に俳優、コメディアンとしては一流のブレット・マッケンジーが華麗なる歌手への転身を果たした記念すべきソロ・アルバム第一作となります。

 

ニュージーランド出身のブレット・マッケンジーは、フライト・オブ・ザ・コンコルズの活動に戻るつもりはないと話している。その覚悟のようなものは決して無駄ではなかったとこの作品は物語っている。そして、今作で、彼はコメディアンとしてでなく、真摯なシンガーソングライターとして曲を書き上げてみせた。さらに、マッケンジーは、このアルバムにおいて、コメディーのニュアンスを込めることを出来るかぎり避けたと話していますが、その言葉は、このアルバムの古き良きポッピュラーミュージックを彷彿とさせる良質な楽曲として体現されています。

 

このデビューアルバムの全貌は、クラシカルなポピュラー・ミュージック、ソフトロックがメインに展開されていますが、そこにミュージカルやジャズ調の作風を取り入れたり、この人物のユニークな人生観のようなものが音楽性に色濃く反映されていることもまた事実といえるでしょう。音楽的には、ビートルズ、ビリー・ジョエルを彷彿とさせる王道のポピュラー・ソングが繰り広げられる。彼は最も難易度の高い音楽にこのデビュー・アルバムにおいて挑戦するわけですが、この人物のバックグランドにあるユニークな人柄が音楽を通して楽しむことが出来ます。

 

映画のサウンドトラック、ミュージカルのような雰囲気を醸し出すドラマティックかつユニークな曲調に乗せられるブレット・マッケンジーの親しみやすいボーカルは、まるで舞台劇での独演のようでもあり、そこには、このシンガーの力量が余すところなく体現されており、抒情性やしみじみとした哀愁が歌声そのものに反映されています。その他、彼は、この作品において複数の声色を駆使し、渋みのある歌声、ユニークな歌声、軽やかな歌声、様々なアプローチを介し多様な音楽性を体現しようと試みています。この辺りは、やはり、世界的な俳優、コメディアンとしての背景を持つ人物にしか生み出せない巧みな技量を見て取ることが出来るはずです。

 

アルバムにはピアノとオーケストラアレンジを交えた「This World」、「Carry on」といったじっくり聴かせる曲が複数収録されています。ブレット・マッケンジーはこれらの曲で手探りで自分しかなしえない歌い方を探している最中であると思われますが、音楽を奏でること、歌をうたうことを心底楽しんでいる雰囲気を伺わせるものがある。

 

シンガーソングライターとしての並々ならぬ力量を感じさせるのがデビューアルバム『Songs Without Joke』の最後の収録曲「Crazy Time」で、アコースティックギターとピアノ、そしてマッケンジーの潤いのある歌声が絶妙な合致を果たした美麗な雰囲気を生み出している。このラストトラックにおいて、ブレット・マッケンジーは、米国の名シンガー、ビリー・ジョエルのような温かみのあるバラードソングに挑戦しています。この曲でのブレット・マッケンジーの歌声は、深く、豊かな情感によって紡がれており、最終的に、涙を誘うような上質なバラードソングとして結実しています。


78/100

 

 

Featured Track 「Crazy Time」 

 

 Christina Vanzou 「Christina Vanzou,Michael Harrison,and John Also Benett」

 


 

Label:  Seance Centre

Release:  2022年9月2日
 
 
 
 
 
 
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現在、ベルギー、ブリュッセルを拠点に置いて活動する現代音楽家クリスティーナ・ヴァンゾーは、元々、Stars Of The LidのAdam Witzieとのアンビエントプロジェクト、Dead Of Texanとしてミュージック・シーンに登場した。
 
 
その後、ソロアーティストに転向し、近年ではアンビエントの領域にとどまらず、モダンクラシカルの領域にまで音楽のアプローチの幅を広げつつある。昨年には、鳥の声や自然の環境音のサンプリングを取り入れたベルギーのぶどう農園をストリーテリング調にアンビエント・ミュージックとして表現したアルバム「Serrisme」をリリースしている。
 
 
今回、クリスティーナ・ヴァンゾーは、指揮者としての役割を果たし、二人のコラボレーターとの共作に挑戦している。
 
 
マイケル・ハリソンは、作曲家兼ピアニストとして活躍し、2018年-2019年のグッゲンハイムフェローに選出されている。ハリソンは作曲家、ピアニストであり、ジャスト・イントネーションと北インド古典音楽の熱心な実践者に挙げられる。ラ・モンテ・ヤングの弟子で、「ウェル・チューンド・ピアノ」時代にはピアノ調律師、インド古典声楽キラナ流派の師範であるパンディット・プラン・ナートの弟子として活躍し、その後は独自の調律システムを開発している。
 
 
もうひとりの共作者のジョン・アルソ・ベネットは、シンセサイザー奏者として活躍している。クリスティーナ・ヴァンゾーの2020年の作品『Landscape Archtieccher』にも参加し、このアンビエント作品に新鮮な息吹を吹き込んで見せた。既にお馴染みのコラボレーターとなっている。


既に、全ての音楽は出尽くしたと一般的に言われる現代音楽シーンであるが、それはおそらく多くの場合、音楽における無理解あるいは、想像力の欠如を表すシニカルな批評の言葉でしかない。なぜなら、この最新作「Christina Vanzou,Michael Harrison,and John Also Benett」で、クリスティーナ・ヴァンゾー及び二人の共作者は、全く新しい音楽を出現させているからであり、これまでになかったインド音楽に根ざした西洋音楽の方向性を急進的に推し進めているのだ。
 
 
このアルバムでは、バッハの「平均律クラヴィーア」に近い教会音楽の時代から続く西洋音楽の1つの象徴でもある対位法的なアプローチが取り入れられているが、それは西洋音楽を肯定するものであるとともに、それを否定しもする二律背反とも言うべきインド思想的な作品となっている。おそらく、アルバムの全体的な構想としては、クリスティーナ・ヴァンゾーが最初期から得意としてきたピアノと環境音、そしてシンセサイザーの融合というきわめてアンビエント音楽としてはごくシンプルなものである。しかし、マイケル・ハリソンのピアノは明らかに西洋の純正律の音階にはない東洋的な音響ーー「微分音」を劇的に取り入れている。この微分音というのは、インドネシアの「ガムラン」に象徴される西洋の平均律には存在しない音階で、平均律の音階(スケール)を細かく微分したものとなる。日本の作曲家としては、若い時代の西村朗が尾高賞を獲得した「二台のピアノためのヘテロフォニー」において、微分音をミニマルミュージックとして取り入れている。 
 
 
ピアノ、環境音、シンセサイザーとの組み合わせは、かつてブライアン・イーノとピアニストのハロルド・バッドがアンビエント・シリーズにおいて取り組んだ主なテーマでもある。つまり、この三者の共作による「Christina Vanzou,Michael Harrison,and John Also Benett」はブライアン・イーノ&ハロルド・バッドの最初期のアンビエントの系譜に位置づけられると思われるが、そこにマイケル・ハリソンのラーガへの傾倒を顕著に表すこれまでの西洋の音楽にはなかった要素が込められているのも事実である。

 
 
ピアノの旋律は常に単旋律を元に教会旋法のような対位法によって組み上げられていくが、その手法は、どちらかと言えばかつてモーリス・ラヴェルがシェーンベルクの前衛的な音楽を称して言ったように「建築物」のごとく堅固だ。和音というのは常に縦向きの構造であるが、マイケル・ハリソンが組み上げる横向きの和音は、実際の音の反響音(倍音)を活かすものとなっており、実際の音を組み上げるというより、ピアノハンマーが鍵盤を叩いた後に減退していく「サステイン」の過程で生ずる倍音を縦向きな対旋律として組み上げていく。例えば、エストニアのアルヴォ・ペルトが「Fur Alina」という曲で、独特な倍音を単音の旋律進行の倍音によって生み出したように、インド音楽「ラーガ」に象徴されるような東洋的な和音が、倍音として緻密に建築物の一つずつ礎石のごとくハリソンの優雅な演奏によって積み上げられていくのである。
 
 
この作品に見られるインド、チベットの瞑想的な響きについて評論的な言辞をいくら弄したところで無益に等しい。それは、ピアノの旋律、倍音、ドローンに近い環境音を実際に聴いてみてもらいたいとしか言いようがない。


シンセサイザー奏者としてのジョン・アルソ・ベネットの関わり方も素晴らしいもので、マイケル・ハリソンの繊細かつ格調高いバッハ風の演奏の雰囲気をシンセのシークエンスによって調和的に引き立ててみせている。 それはアンビエントの究極的なテーマであるその場の雰囲気を常に尊重するもので、沈思的であり、瞑想的な音響をベネットは強化させることに成功している。
 
 
これらの二方向からのアプローチをひとつに取りまとめるのが指揮者のような役割を果たす、クリスティーナ・ヴァンゾーである。これらの電子音楽的なアプローチを、ヴァンゾーは、モダンクラシカルの「芸術的領域」まで引き上げている。ピアノとシンセサイザーを融合した革新的な音楽に流れる気風は、消え入る寸前で保持される静寂及び東洋的な音響に象徴されるが、それはかつてアーノルト・シェーンベルグのもとで学んだジョン・ケージの最初期の調性を限界点で保持する繊細なピアノ音楽を想起させる。もちろん、その上で、セバスチャン・バッハのように緻密な数学的設計がなされることで、本作はまったく非の打ち所のない傑作として組み上げられたと言える。



100/100(Masterpiece) 
 
 

Matthew Halsall 『The Temple Within』EP
 


 

Label:    Gondowana Records

 

Release:  2022年8月26日


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マンチェスターを拠点に活動するトランペット奏者、Matthew Halsallの最新EP『The Temple Within』は、2020年に発表されたフルアルバム「Salute to the sun」の後、イングランド北部で行われた刺激的なセッションを元にして生み出されたモダン・ジャズの傑作です。

 

このアルバムのタイトルは、ジャズの巨匠アリス・コルトレーンの言葉に因んでおり、教会や修道院、アシュラムのレンガやモルタルではなく、自分の精神の中に空間があるという意味が込められています。


レコーディング・セッションでは、ハルソールが当時結成したばかりの地元ミュージシャンを起用し、毎週のリハーサルとマンチェスターのYesでの月例レジデンスに集った。彼らは、スピリチュアル・ジャズ、英国ジャズの伝統、進歩的なワールドミュージック、エレクトロニカの影響を受け、共同作業のサウンドを作り出しました。この月例セッションに触発され、彼らは北イングランドの文化に根ざしながら、グローバルなインスピレーションを引き出した音楽を作り上げていきました。Halsallにとって、『The Temple Within』の音楽は、これらのセッションの精神を完璧に捉えています。ハルソールはこのアルバムについて以下のように説明しています。


「バンドとしてだけでなく、地元のコミュニティとのつながりができたことに、とても興奮したんだ。毎月のセッションには、さまざまな年齢層の人たちが集まってきます。


そして、この音楽は、まさにその典型です。私にとっては、本当に完璧な音楽のポケット、完璧な瞬間のように感じます。アルバムにすることも考えたんだけど、結局はこのままがいいし、この瞬間のエネルギーを、ライヴにいる人たちだけでなく、世界中のファンやリスナーなど、より広いコミュニティと共有したかったんだ」

 

 

このEPでは、ハルソールのトランペットが先導役をつとめ、その他にも、ピアノ、フルート、サックス、ハープ、エレクトロニクス、パーカーション、ドラムと様々な楽器がセッションの中に取り入れられています。2000年代から、アフリカ、アジア、他にもイスラム圏の音楽文化を取り入れたエキゾチック・ジャズの潮流を形成する一派がジャズシーンに出てきましたが、ハルソールとセッションメンバーはこれらの流れを汲んだ西洋的なジャズとは異なるアプローチに取り組んでいきます。オープニングトラック及びタイトルトラックでもある「The Temple Within』ではアフリカの民族音楽のリズムを大胆に取り入れ、他にもシタールの響き、リズミカルなピアノが導入され、そこにハルソールのノルウェージャズのアプローチのように枯れたミュートを取り入れたハルソールのトランペットの卓越した演奏技法がキラリと光る一曲となっています。

 

「Earth Fire」は、ハープの前衛的なトリルの技法を導入した楽曲で、マシュー・ハルソールは一曲目と同じように、リード的な立ち位置でセッションメンバーの演奏を牽引していきますが、彼のスタイリッシュなソロを通じて、ピアノ・ソロ、 ダイナミックなドラムソロと複数の楽器パートへリードの引き渡しが行われ、英国内のジャズシーンの洗練性を引き継いだモダン・ジャズの刺激的なライブセッションが繰り広げられ、演奏を目の前で見ているかのような迫力を堪能することが出来ます。

 

上記二曲のモダン・ジャズの雰囲気から一転し、三曲目の「The Eleventh Floor」では、イントロの銅鑼のパーカッションが印象的で、アラビア風の音階(スケール)を大胆に取り入れられています。ここでは、一曲目よりもシタールの響きが効果的に導入され、ハルソールの演奏は艷やかさに溢れ、さらに東洋的なエキゾチズムを演出し、2000年代、一時期隆盛を極めたエキゾチック・ジャズの領域にセッションメンバーは踏み入れています。そういったアジアンテイストな雰囲気のシークエンスが繰り広げられる中、マシュー・ハルソールのトランペットのレガートの演奏は高らかで伸びやかであり、マイルス、エンリコ・ラヴァといった巨匠の演奏に象徴されるモダン・ジャズの流れを汲んだダイナミックなブレスの演奏が繰り広げられていきます。

 

このミニアルバムの中で特に聞き逃す事が出来ないのが4曲目収録の「A Japanese Garden in Ethiopia」で、題名にも表れている通り、日本の「四七抜き」音階を取り入れた落ち着いた侘び寂びの雰囲気を演出する。ハルソールのトランペットは、日本の民族音楽楽器の尺八のような枯れた響きを導入し、さらにハープのグリッサンドの劇的な使用は、 四度、七度の音階を避けていることもあってか、大正琴のような艷やかで色彩的な響きをもたらすことに成功しています。この曲で、ハルソールは、ノルウェー・ジャズのトランペット奏者、アルヴェ・ヘンリクセンのように、トランペットの前衛性を追求した最新鋭の演奏技法を組み入れていることに注目です。

 

マシュー・ハルソールは、プレスリリースを通じて、この作品をフルアルバムにすることも念頭においていたものの、これくらいの長さがちょうどよいと感じた、との趣旨の説明を行っていますが、それらのコンパクトに企図されたジャズサウンドは濃密な内容となっており、何度も聴き返したくなる深い情緒を持ち合わせています。マシュー・ハルソール、セッションメンバーは、イングランド北部の様々な年代の演奏者を介して生きた音をマンスリー・セッションから汲み取り、東洋のエキゾチックな雰囲気を交え、それらの特異な音楽的空間を瞬間的に体現してみせています。

 

92/100






 

 Gently Tender  「Take Hold of Your Promise!」

 



Label: So Young Records

 

Release: 2022年8月26日 

 

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Gently Tenderは、元Palma Violets、The Big Moon 等のメンバーで結成された5人組バンドで、今作「Take Hold Of You Promise!」は、So Young Magazineが主宰するSo Young Recordsからの記念すべきデビュー作となります。

 

この最初のシングル公開時に、アルバムのテーマについて、ヴォーカリストのSam Fryerは以下のように話している。


この曲は、最初のロックダウン時に書かれました。多くの人々と同じように、私はパンデミック以前の私たちの存在の一体感を何時間もかけて考えていました。パンデミックによって閉じられただけでなく、今は空っぽのスペース、特に音楽会場のことをよく考えていたんだ。だからこの曲は、そういった場所へのちょっとした哀悼の意を込めたんだ。

 

これらの言葉に表れているとおり、このアルバムは独特な空虚感を擁するインディーロックの作風となっていますが、そこにはパンデミック以前の世界、人々が一体感を持って暮らしていた時代への恋焦がれのようなものもほのかに残映している。ジェントリー・テンダーの音楽は、ゆったりとしたテンポで繰り広げられ、ロックの他にも、フォーク、ソウル、さらにミュージカルのような音楽性も取り入れられている。その他にも、サビのコーラスでは、ソウルよりさらに古いゴスペル的な影響をうかがわせる場合もあり、5人組の幅広い音楽性が様々なアプローチを交えながら繰り広げられています。

 

常にアルバムの楽曲は、まったりしていて、サム・フライヤーのボーカルは節がきいていて、迫力があるだけでなく、ほのかな哀愁が漂っている。音程(Pitch)が不安定でよれているのは、意図してのことなのかそうではないのかはわかりませんが、これらのボーカルも、上記の彼の言葉にあるように空虚な時代性、1980年代のモリッシーの時代のようなニヒリズムをあらわしているようにも思え、それらのUKのバンドらしい、哀愁、メランコリアを十分堪能することが出来るでしょう。

 

アルバムの中で着目すべき楽曲は、「True Colours」が挙げられます。ここで、ジェントリーテンダーはスミスのモリッシーを彷彿とさせるような渋く、哀愁の漂うミドルテンポのアンセムソングを生み出している。 ここで、サム・フライヤーはじめ、バンドは1980年代終わりのブリット・ポップ誕生前夜のノスタルジアへ踏み入れており、スミスの「Hand in Glove」を始めとするダブに親しい雰囲気を持つマンチェスター・サウンドの影響が色濃いように思える。


その他にも、ゴスペル風のコーラスを込めた「This is My Night of Compassion」、「The God Didn't Leave The Factory」を始めとするバンドの明るい気風を歌おうという姿勢は、イギリスの政治に対する現実的な社会の空虚感に対する平和的な牧歌(フォーク)とも読み取れる。彼らのスタンスは常に現実的な混沌に対し、穏やかなフォークで対抗しようと試みているのかも知れません。

 

このアルバムは、イギリス国内に登場した気鋭のインディーロックバンドの個性を対外的に示しています。ただ、ひとつ気になるのは、サビのコーラスのリズムが一本調子であるため、単調な曲が続いているような印象を僅かに受けます。この辺りのリズムにおけるヴァリエーションが加われば、バンドとして更に心強くなるだろうと思われます。しかし、少なくとも、何かしら非凡な才質を秘めたバンドであることに疑いはありません。この独特なマンチェスターサウンドの系譜にあるバンドサウンドが、今後、どのように様変わりし、大きく成長していくかに期待していきたいところです。

 

 

78/100

 

 


Featured Track 「True Colours」

 

 The Chats  『Get F××××d』

 

 


Label:Bargain Bin

Release:  2022年8月19日

 

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Josh Price,、Matt Boggis、Eamon Sandwithによって St. Teresa's Catholic Collegeのミュージッククラスで結成されたThe Chatsは2016年に結成されたパンクロックバンドである。彼らは自分たちの音楽を説明する上で、「Shed Rock」というジャンルを掲げ活動している。

 

The Chatsのオールドスクール・パンクロックは、表面上では、ワシントンDCの”Discord”の最初期のバンド、Teen Idlesのように、若さにまかせてドドドドッと突っ走るような泥臭いロックンロールスタイルである。他にも、UKの1970年代にBBCのジョン・ピールが入れ込んだパンクロックバンドのような初期衝動性を持ち合わせた、実にドライブ感のあるパンクがこのトリオの音楽の下地にはあるようにも感じられる。彼らの音楽をやる上での動機というのは、ただ単に自分たちが気持ちのよい音楽を奏でることに違いない。自分が最大限に楽しむこと、他方、不思議なことに、それは無数のオーディエンスの気分をよくさせるものにもなるのだ。

 

聴けばわかる通り、Teen Idlesのような新鮮で疾走感のある痛快きわまりないパンクロックソングがこのアルバムには一貫して収録されている。

 

しかし、US、UKのパンクバンドと明らかに異なるのは、ザ・チャッツのパンクロックソングには、オーストラリアのロックの伝統的なブルースの要素、古いブギースタイルの影響が奥底に眠っているということである。

 

実際、トリオの音楽は、Discordを始めとするアップテンポのオールドスクール・ハードコア、UKのオリジナルパンク、それから、Oiパンクの影響を感じさせるが、彼らは、オーストラリアからイギリスに拠点を移して成功を収めたAC/DC、ガンズ・アンド・ローゼズの最初期の音楽性にインスピレーションをもたらしたRose Tatooといったオーストラリアのロックンロールバンドを影響が色濃い、と説明している。つまり、ザ・チャッツのパンクロックは、パンクロックが下地になっているわけではなく、上記の2つのバンドのようなブルースの影響を色濃く反映したブギースタイルのテンポを極限まで早めた音楽と形容することが出来るのかもしれない。そして、またオーストラリアのロックバンドらしく、からりとしたていて、陽気で、すこぶるご機嫌な雰囲気がアルバム全編には漂っている。

 

個々の楽曲について、くだくだしく説明することほど無粋なことはない。難しい言葉を使わず、難しいことを表現するのがパンクロックの本義であるのだ。チャッツは「6L GTR」にはじまり、クロージングトラックの「Getting Better」に至るまで、ソリッドなロックンロールを頑固一徹に押し通す。そして、オーストラリアのトリオは、あっというまに過ぎ去ってしまうこれらの十三曲のパンクロックソングを通じ、言葉を極限まで削ぎ落とし、洗練させ、そこに鳴っている音を、純粋に心から楽しむことの重要性を示唆してみせている。


このアルバムは、仕事の後、ふらっとスタジオに入り、ビールを飲みながら、パンク・ロックを気楽に奏でた音をそのまま録音したような愉快さ。レコーディングの音は作り込まれておらず、一発録りに近いラフさがある。それがゆえ、アルバム『Get Fucked』はライブ感、ドライブ感に溢れている。ザ・チャッツの音楽は、「難しいことを考えず、音を心から楽しみ、踊れ」と物語っているように思える。それはまたパンクロック/ロックンロールの重要な本質とも言える。

 

 

72/100 

 

 

Featured Track 「6L GTR」
 
 

Hot Chip 「Freakout/Release」

 


Label:  Domino 

Release:  2022年8月19日


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UK,ロンドンのエレクトロ・ポップバンド、Hot Chipの先週の金曜にリリースされた最新アルバム「Freakout/Release」は、心楽しいテクノ/ファンク/R&Bサウンドが軽妙かつノリノリに展開されている。

 

ニューヨークのLCDサウンド・システムとの比較もなされる、これまで良質なリリースをつづけてきたこのバンドは今作においてもやることは何ら変わりはない。ダンサンブルなポップス、軽快なテクノチューンによってフロアシーンを熱くするようなサウンドを繰り広げている。 

 

オープニングを飾る「Down」で、ホット・チップはディスコやR&B調のサウンドスタイルを取り入れ、そこにヒップホップ的なループスタイルを作り上げている。ここでは、ソウルミュージックへのコアな興味が示されており、同国のソウルデュオ・Jungleに近いスタンスが採られている。彼らは、常にフロアにいるオーディエンスを踊らせることを念頭において曲を生み出しているものと思われるが、このトラックでこのバンドを知らないリスナーの心をしっかり鷲掴みにしてみせる。

 

他にも、LCDサウンド・システムのように、デトロイト・テクノに触発されたシンプルでありながらエネルギーに満ちたダンサンブルなビートが軽快に展開されているが、タイトルトラック「Freakout/Release」ではボコーダーを使用し、往年のクラフトワークのようなロボット風のテクノにも挑戦している。ホット・チップの楽曲は、最初期のカサビアンのようなパンチを持ち合わせており、オーディエンスを熱狂に導くようなパワー、そしてビートを与える強いグルーブ感を持ち合わせているため、これらのサウンドは自宅でのリスニングに最適なだけではなく、実際のライブパフォーマンスでも彼らのサウンドを聴いてみたいと思わせるものがあるはずだ。

 

特に、Hot Chipはそれらのダンサンブルな性格だけでなく、良質なメロディーセンスを持ち合わせている。「Broken」では、ソフト・ロック風の爽やかなポップスに挑戦しているが、これらは大人な味わいを漂わせており、実に通好みのトラックと言える。 さらには「No Alone」や「Time」では、Tychoを思わせるようなモダンテクノサウンドにもチャレンジしている。これらは、純粋なエレクトロ/テクノサウンドにとどまらず、軽快なポップスとの融合を果たし、次世代のUKエレクトロが生み出されている。これらの楽曲には、軽妙さを損なわせない、しなるようなビート感が存在する。ビートを与えるだけではなく、聞き入られせる魅力を併せ持っている。

 

さらに、ラストトラック「Out Of My Depth」では、他の曲とは性格の異なる古き良きUKポップスを彷彿とさせるバラードソングでこのアルバムは幕引きを迎える。淑やかなストリングスアレンジが込められた映画のサウンドトラックのようなトラックではあるものの、しかし、単なるポップス/バラードと侮ることはできない、ここには、やはりホット・チップらしい新旧のテクノミュージックに対するリスペクトが込められているのである。


『Freakout/Release』は、実のところ、私にとって最初のホット・チップの刺激的なリスニング体験となった。本作は、表向きのバンドのイメージよりも大きな価値を持つアルバムといえる。大衆性とこのバンドのテクノに対する深いリスペクトが偏在する一作ではあるものの、決してそれは軽薄なポピュリズムに堕しているというわけではない。信じられないことに、ホット・チップのメンバーは、それらの軽妙でチープな雰囲気を、あえて演出してさえいるのかもしれない。これは無類のテクノ・フリークが生み出したエレクトロポップの快作と呼べる。

 

 

84/100

 

 

Featured Track 「Freakout/Release」

 

 Mass Of The Fermenting Dregs 「Awakening: Sleeping」

 

 

Label:  Flake Sounds

Release: 2022年8月17日

 

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Review

 

実を言うと、Mass Of The Fermenting Dregs(MOTFG、マスドレ)はデビューする以前から、十数年以上前から知っている。


当時、ストリーミング視聴サイトを通じて、The Mass Of The Fermenting Dregsの「kirametal」を初めて聴いた。2000年代当時、最初のオリジナル・メンバーで活動していた。当初は宮本奈津子を中心とする女性トリオ編成のロックバンドだった。アーティスト写真、ワンピース姿で、ベースをワイルドにかき鳴らし、情熱的に歌をステージでうたう姿は今でもありありと覚えているが、そのクールな佇まいは、NYのアンダーグラウンドシーンから登場したブロンド・レッドヘッドのカズ・マキノを彷彿とさせた。そのクールでありながらパッションあふれる印象に違わぬ、切れ味バツグンのオルタナティヴロックサウンド全開のバンドが関西のシーンに登場したという印象を受けたのである。

 

当時、マスドレは、EMIのオーディションに合格し、最初のEPをニューヨークで行っている。これはナンバーガールもそうだったが、2000年代くらいまで、EMIは海外でのレコーディングを見込みのある新鋭バンドに積極的にとりくませていた証拠でもある(デイビッド・フリードマンがプロデュースを手掛けた『Sappukei』もアメリカでレコーディングされた)」同年に、マス・オブ・ザ・ファーメンティング・ドレッグスは、フジ・ロックなど夏フェスの参加等を通じて、あれよあれよという間に全国区のロックバンドに成長していき、ロキノンのライターにも知られるようになった。

 

この最初期のセルフタイトルのおかげなのか、マス・オブ・ザ・ファーメンティング・ドレッグスは、海外のインディーロックファンの間で人気があるようなのだが、ここ日本では、正直、その実力に比べて適切な知名度に恵まれていないように思える。つまり不当に過小評価を受けている。さらに、それにくわえ、数年前、オリジナル・メンバーの脱退という出来事は、バンドを存続させていく上で大きな障壁ともなったように思える。それでも、マス・オブ・ザ・ファーメンティング・ドレッグスは、結局のところ、バンドとしての歩みを止めることはなかった。メンバーを入れ替えて、新たな編成のスリーピースバンドとして再出発することになった。


 

最新作『Awakining:Sleeping」は、このバンドが新境地を開拓した作品といえ、マスドレらしいオルタナティヴ・サウンドも全開であり、これまでとひと味異なる音楽性を取り入れたバリエーションに富んだ作風となっている。オープニング・トラックを飾る「Dramatic」では前作アルバムに収録されていた「あさひなぐ」のように、J-Popに近いアプローチを図り、前作に見られたような歌ものとしての曲をより洗練させ、親しみやすいものとなっている。そこに宮本のボーカルは、以前のような気負いがなくなり、松任谷由実のような大御所のような貫禄のある歌いぶりとなっている。この一曲目こそがこのニューアルバムの世界観を形成しているといえる。

 

結局のところ、音楽をはじめとする芸術全般は、作り手の人生をそこに反映したものでしかない。それだけはどのような形をとろうとも偽りようがないのだ。このアルバムの中に内包される世界は、その後、このバンドの歩みそのものを反映していくかのように様々な形で展開される。

 

シューゲイズサウンドを取り入れた轟音ロックサウンドを追求した「いらない」、最初期のオルタナティヴ・ロックの延長線上にあるパワフルなサウンドを引き出した「Melt」の魅力もさることながら、バンドとしての新境地を見出した「1960」では、クラフトヴェルクやNEUのドイツのデュッセルドルフの電子音楽をロックミュージックに組み替えた音楽にもチャレンジしている。

 

特に、この「1960」では、日本のギター・ソロが不評という現代ミュージックシーンに激烈に強い抵抗を示すかのように、一分以上にも及ぶ、クールなギターソロが展開されるが、ギターソロというものの醍醐味がここに詰め込まれている。その他、「Helluva」では、マッド・カプセル・マーケッツ、ココバットのような、往年のミクスチャーサウンドを現代的なヒップホップサウンドとして再解釈した曲まで収録されている。これらの多彩でバリエーションに富んだサウンドアプローチが、アルバムの前半部において、刺激的に繰り広げられていくのである。


 

アルバムの後半部は、前半部とは少し印象が異なる、メインボーカルを務める宮本ではなく、新加入の男性メンバーがボーカルに挑戦し、これまでのマスドレにはなかった新たなチャレンジを刻印したものとなっている。「Ashes」では、ブラッドサースティ・ブッチャーズ、イギリスのMega City Fourを彷彿とさせる爽快でドライブ感あふれる楽曲を提示している。ここでまた、これまでのマスドレの音楽にはなかった新鮮な要素をリスナーは楽しむことが出来るはず。

 

他にも、モダンなオルタナティヴ・フォークに触発されたインストゥルメンタル曲「After The Rain」では、これまでのマスドレらしからぬ内省的な音楽を体感出来る。さらにアルバムのクライマックスでは、以前からのファンの期待に大きく答えてみせる。「鳥とリズム」では、近年のアルバムに見受けられる、J-Popに根ざしたキャッチーで爽やかな日本語ロックソングが展開される。ここで、マス・オブ・ザ・ファーメンティング・ドレッグスらしい叙情的なロックサウンドの真骨頂を堪能出来るはずだ。さらに、クロージング・トラック「Just」ではこのバンドらしいキワキワなヘヴィーロック性を維持しつつ、親しみやすいキャッチーな要素が込められている。

 

今週初めにリリースされた三作目のアルバム「Awakening:Sleeping」は、これまでのMOTFDの作品の中で、最も聴き応えのあるアルバムに挙げられる。シングル「kirametal」のデビューからおよそ16年にわたり長いタフなロックバンドとして活動してきた、このバンドの底意地のような怒涛のスピリットが全編には漂っている。日本でインディーロックバンドとして長く活動することは、ときに苦しいことではあると思われるが、タフな活動スタイルを長年にわたって徹底して貫いてきたロックバンドとしてのプライドがこの新作全体には漂っている。ここに、マスドレは、日本のインディー・ロックバンドとしての最大の成果を目に見える形で築き上げたといえる。

 

 

90/100

 

 

 


Label: Sub Pop

Release: 2022年 8月12日


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サブ・ポップから先週末にリリースされたKiwi jr.の最新作『Chopper』は、二週間で制作され、ウルフ・パレード、ハンサム・ファーズ、オペレーターと様々なバンドのフロントマンを努めるダン・ベックナーの音楽趣味を反映した内容となっている。インディーロックの王道を行くローファイ感のあるロックソングに加え、アレンジにはシンセサイザーのリードやリズムが取り入れられている。このアルバムは、シンセサイザーのベースラインが組まれたあとに、ドラムが録音されたという理由からか、レトロ・ポップ/ローファイのようなチープな味わいが込められている。このチープさが妙に癖になるという場合、このアルバムを購入してもそれほど損にはならないかもしれない。

 

このレコードは、コンセプト・アルバムとして生み出されたというわけではないようだが、Kiwi jr.の音楽的な方向性はしっかり定まっており、少なくもなく多くもない、王道の収録曲はインディーロックファンにとって心地よいランタイムである。ところが、問題となるのは、レコード全体として、「Night Vision」をはじめとするキラリと光るロックソングも収録されている反面、どうしても全体的にB級感が拭いきれないという点だ。なぜ、こんなことを言うのかといえば、B級のローファイなロックを求めるリスナーとしては、例えば、Part Timeのように、そのマニア向けの感覚をはっきり提示した音楽の方が楽しめるはずで、そのあたり、ストロークスのようなメインストリームのロックをやるのか、それとも、Part Timeのようなマニア好みのローファイをやるのかが不分明で、聞き手としてもどっちすかずな印象をおぼえざるを得ないということになってしまう。


その他にも、「Kennedys Curse」といったコアなインディーロックファンにとっては何かあると思わせる曲も収録されてはいるが、少なくとも、こういった曲の雰囲気を好むのならば、DIIVの「Oshin」を始めとするキャプチャード・トラックス関連のレコードで事足りるという印象もなくはない。

 

KiwiJrの『Chopper』は、NY、LAを始めとするローファイのシーンに影響されたマニア向けのインディーロックアルバムというのが適切で、音楽として遊び心も感じられ、こういった音楽を愛する人にとっては心楽しさのある作品といえるかもしれないが、決して万人受けするものでもあるまい。それにアルバムからは、もっさりした雰囲気が出ており、無類のレコードフリークが醸し出すクールさをこのアルバムから読み解くのはなかなか難しい。もうひとつ、思わしくない点を挙げるとするなら、音楽そのものに、目新しさが感じられないことだろう。二週間という短期間で制作されたという点から、バンドの勢いのようなものは感じ取れるが、それが明らかなキャラクターとなっているとは・・・。さらに、全体像から明確な指針を持ってレコーディングや演奏が行われているように思えず、なんだか破れかぶれな印象も見てとれるのである。

 

もちろん、これは、個人的な意見に過ぎないので、飽くまで参考程度にとどめておいてほしいのだが、現時点で、このアルバム『Chopper』が良盤と言い切ることはちょっと難しい。その理由は、曲の印象があまりに緩慢すぎていて、シンセサイザーの音色がバンドの音楽を曇らせ、ロックバンドとしてのアンサンブルの本来の魅力を損ねているという点に尽きる。そして、実は、アナログ/デジタル問わず、シンセサイザーという楽器は、ミドルレンジにおいてバンドサウンドとがっつり重複するため、生半可な気持ちで使ってはならない、非常に扱いが難しい楽器のひとつでもあるのだ。



Rating:

64/100

 

 

Album Featured Track 『Night Vision』


  Pale Waves  「Unwanted」

 



Label:  Dirty Hit

Release:  2022年 8月12日


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Review


イギリスで現在、最も注目されているインディペンデントレーベル”Dirty Hit”からリリースされたペール・ウェイヴスのサード・アルバム「Unwanted」は、ジャケットの暗鬱でゴシックな雰囲気とは正反対の軽やかで爽快なポップパンクの雰囲気に彩られています。Zack  Carviniの迎えて制作されたことからも分かる通り、このアルバムは軽やかなポップパンクに彩られた痛快な作品となっています。

 

ペール・ウェイヴスのフロントパーソンでありボーカリストであるバロン・グレイシーは、このアルバムの『Jealous』において、女性の嫉妬というテーマを掲げてはいるが、それはむしろ爽快な形のポップパンクソングとして昇華されている。スタジアムのアリーナでぜひとも聴きたくるような、また、観客として歌詞を歌いたくなるような、キャッチーでアンセミックなソングがこのアルバム、ペール・ウェイヴスの音楽性の核心にはある。オープニングの『Lies』、さらにはタイトルトラック「Unwanted」で、このペール・ウェイヴスの心地よく、耳障りの良いポップアンセムの虜になってしまうことは確実でしょう。不思議なことに、このバンドは、リスナーを自分たちのフィールドに引き込むカリスマ性のようなものを持ち合わせているのです。

 

元々、個性的なキャラクターを持つペール・ウェイヴスは、イギリス国内を中心にクイアのファンベースを獲得することに成功しています。それはこのバンドのドラマー、シアラ・ドランがクイアであるという理由によるものかもしれない。少し前、性別の転換手術を受けたというドラマーのシアラ・ドランの演奏は、このバンドのキャラクターとなり、楽曲に力強さをもたらしている。シアラ・ドランのクールな演奏はきっとクイアの人々を元気づける力を持っている。

 

このアルバム『Unwanted』において、シンガーのバロン・グレイシーは、嫉妬をはじめとする様々な人間の感情を通して、アイデンティティを探しもとめ、自己受容の過程を捉えようとしている。それらの表現は純粋な眼差しにより捉えられているため、聞き手にも同じような自己受容の力を与える。バロン・グレイシーとバンドメンバーは、それらの感情表現において多くの人が楽しめる形を見出し、力強いポップパンクとして昇華している。これが、アリーナでも熱狂の渦を巻き起こすパワフルな楽曲として体現されています。ペール・ウェイヴスに夢中になる若者は、この曲に共に参加し、シンガロングしたい、という欲求にかられるに違いないでしょう。

 

このバンドの生み出す表現はどこまでも純粋なものが貫かれています。ポピュラー音楽の使命とは、聞き手に肯定感を与えることに尽きる、という話を聞いたことがありますが、それを飾らない形で体現されているのが「Unwanted」といえそう。アヴリル・ラヴィーンを彷彿とさせるバロン・グレイシーの歌声を中心に、バンドメンバーがその歌声を後ろから支えることにより、練度の高いバンドサウンドが生み出されています。「Alone」「Clean」に象徴されるように、アートワークからは想像できない、むしろ、そのファーストイメージを覆すことを想定したかのような明るくパンチの聴いたひねりのないポップパンクソングが、アルバムの一番の聞き所といえるでしょうか。他方、それと対極にある繊細で内向的なバラード・ソング「The Hard Way」「Witout You」も聞き逃すことは出来ない。アルバムは、全体的にこれらの外交的な側面と内省的な側面がバランスよく混交されることにより、相応に聴き応えのあるものになっています。

 

このバンドのフロントパーソンであるバロン・グレイシーは、ダーティー・ヒットのプロデュースの手法について、「それほどバンドの音楽に干渉することなく、常にバンドの考えを尊重してくれている」という趣旨を話してますが、のびのびとした気風がこのサードアルバムは反映されている。メンバーは自由に演奏しており、楽曲としても伸びやかな表現性が繰り広げられています。

 

『Unwanted』は、いかにもダーティ・ヒットからのリリースらしい作品で、ポピュラリティを前面に打ち出しているものの、それは必ずしも安っぽいものではなく、その核心には大衆を惹きつけるパワーが込められていて、多くの共感を誘うものとなっています。さらに各々の楽曲は、パワフルで鮮烈なエネルギーを放つように感じられる。新時代を行くポップ・パンクのアンセムソングをリスナーは、この新作アルバムで、十分に、いや、十二分に堪能できるはずです。

 

Rating:

76/100

 

 

Featured Track 「Clean」


 Cheerbleederz  「even in jest」

 

 

Label: Alcopop!

Release: 2022年7月27日

 

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Review

 

UK・ロンドンを拠点に活動するトリオ、チアブリーダーズのアルコポップ!からリリースされたデビュー作「even in Jest」は、オルト、ポップパンク、パワー・ポップ、シンセ・ポップを織り交ぜたような作風である。


バンドはプレスリリースを通じて、この作品について、キャラクター、希望、エネルギー、惨めさ、内省、怒りに満ちている」と話している通り、若者らしい日常的な感覚をギターロックとして余す所なく込めている。近年、ポピュラー・ミュージックシーンはオートメーション化された音楽がメインストリームを圧倒しており、人間的な感覚からかけ離れた作品が多く見受けられる。このアルバムはそういった近年のオートマタに対する強いパンキッシュな反駁を投げかけているとも取れる。

 

もちろん、作り手としてはそういった難しいことまでは考えていないかもしれないが、ここではチアブリーダーズの三者の人間的な感情、人生における悲喜こもごもが表現されているため、リスナーはその音楽の持つ世界に惹き込まれざるをえなくなる。チアブリーダーズは内的な感情をバンドアンサンブルで純粋に示している。8ビートのシンプルなリズムを強固に支えるドラムとベースライン、不協和音を交えたギターラインの進行、音感の良さを維持しながらスクリームに近いボーカルのシャウトは、感情的であり、信頼の置けるものであるように思える、チアブリーダーズはこの録音で感情を表に曝け出すことを恐れていない、だからこのアルバムはエモーションが感じられるのであり、人間味を深く漂わせている。現代的なオートメーションの世界にからめとられることを、現在のSNS時代に生きるチアブリーダーズは少なくともこのレコーディングでは良しとはしていないのである。

 

このアルバムでは、近年のバンドの音楽的な成果がはっきりと示されている。1990年代のUSインディーロックの影響を感じさせるオープナー「break ur arm」、Snail Mailの最初期の作品を彷彿とさせる「cute as hell」、さらに、全体を見渡すと異質な雰囲気を持つ、Mitskiのような清涼感のあるミドルテンポのシンセ・ポップ「love/hurt」、多彩な音楽性が展開されている。そのほか、日常のSNSでの若者らしい苦悩を歌ったと思われる「notes app apology」をはじめ、ロンドンに生きる若者の苦悩を包み隠さず表現した楽曲が複数収録されている。

 

ボーカルは、お世辞にもオーバーグラウンドの歌手ほどには巧緻であるとは言いがたい。しかし、欠点らしき性質--それは、つまり、人間の魅力にほかならない。こういった直情的な歌をうたうことを恐れているミュージシャンとは裏腹に、チアブリーダーズのボーカリストは、自分の感情、どのような人物であるかをさらけ出すことを恐れていないのが信頼できる。それは、叙情的なギターラインと相まって、ボーカリストの感情的な歌声は、リスナーの心深くに共鳴をもたらす。そして、なぜなのかはわからないが、オーバーグラウンドに並み居るアーティストたちが成功と引き換えに見失ってしまったインディーロックの本質が、このアルバムには宿っているようにも思える。


このデビュー作『Even In Jest』は、表立った流通のアルバムでないため、ビッグヒットが見込める作品とまでは言いがたい。けれども、少なくとも、チアブリーダーズのメンバーの人生の青春のいち側面を麗しく切り取った魅力的な作品で、何度も聴く価値がある素晴らしい作品と称せる。特に、アルバム発売前の最終のプレビューシングル「notes app apology」は、なぜかしれず夏の記憶を思い出させ、せつなげな余韻を漂わせており、ホロリとさせるものがある。

 

 

Rating; 75/100


 「notes app apology」