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バーモント州バーリントンを拠点とするミュージシャン、ザカリー・ジェームズが率いるダリ・ベイは、奇想天外なホームレコーディング・プロジェクトが、思いがけず大成功を収めた結果生まれたプロジェクト。その風変わりなローファイ・サウンドは、2023年のアルバム『Longest Day of the Year』の頃には、地に足のついた(とはいえ、依然として若干シュールな)表現へと進化し、ダリ・ベイの実験的な精神が、一見すると無難で控えめな楽曲の中に溶け込んでいる。
ダリ・ベイはこれまでさまざまな姿を見せてきた。バンドを結成して以来、ザカリー・ジェームズと仲間たちはダリ・ベイを通じて、自由奔放な実験を追求し、プロジェクトごとにその形を変えながら、やがてジェームズの最も率直で個人的な楽曲表現を体現する場へと徐々にまとまっていった。
転換点は、2023年の『Longest Day Of The Year』で明らかになった。この作品は、幅広い楽曲表現を試みた作品であり、ダリ・ベイの真のデビュー作となった。そして今、その進化は『Surprise Wish』で花開いた。これはダリ・ベイの2作目であり、レーベル「Double Double Whammy」からの初リリースとなる。この9曲は、確かな腕を持つ職人による作品のように聞こえるかもしれないが、それらは同時に、ジェームズが自分の人生をどうしたいのか、そしてダリ・ベイがどのような存在になるべきかを模索していた過渡期から生まれたものでもある。
バーモント州ブラトルボロを拠点とする音楽一家で育ったジェームズは、子供の頃にドラムを習ったり、DJやラップのビート作り、プロデュース、小学生時代のパンクロックなど、ありとあらゆることに挑戦した。
「バーモントは小さな州なので、独自のアイデンティティを持ったシーンを築くには時間がかかるものです」ジェームズは振り返る。しかし、彼はやがて多才で引っ張りだこのミュージシャンとなった。旧友のリリー・シーバードやグレッグ・フリーマンのレコーディングやツアーでドラムを担当し、ロバー・ロバーの主要なソングライターの一人として活動し、アンノウン・モータル・オーケストラにフルタイムのメンバーとして加入する一方で、ダリ・ベイの次の章を着実に練り上げていた。
『Surprise Wish』は、ジェームズが大学を卒業しつつ複数のプロジェクトを両立させる中で、時間をかけてゆっくりと形になっていったが、これらの楽曲のすべては即興的なものであった。過去のダリ・ベイの作品に見られたジャンル的な回り道を捨て去ろうとしたジェームズは、荒削りで本能的なロックサウンドに焦点を絞った。「美学よりも、原始的な感情を重視したんだ」と彼は説明する。各楽曲において、ジェームズは突如として訪れる予測不可能なインスピレーション――その瞬間に閃き、その後も頭から離れなくなったアイデア――を活かした。これまでと同様、ジェームズは『Surprise Wish』の大部分を、本格的なスタジオ時間を確保することなく独力で制作した。そのおかげで、アルバム全体に生々しく素朴な質感が生まれ、親密でありながら気取らず、謙虚な歌詞をしっかりと支えている。
『Surprise Wish』全体を通して、ジェームズはインターネットによって形作られ、そのフィルターを通された人生の喜びと落とし穴、孤立、つながり、危機一髪の状況、儚い希望といったテーマに取り組み、若き成人期という奇妙な過渡期を捉えた一連のスナップショットを描き出している。20代前半を迎えたジェームズは、自分自身について信じていたことが次々と間違っていたと証明され、世界が実際にどのようなものなのか全く分かっていないことに気づき始めていた。「何が起きているかを正確に把握しているふりをし、常に賢く振る舞わなければならないというプレッシャーは大きい」と彼は説明する。「このアルバムの多くは、『そんなのクソくらえ』という気持ちの表れなんだ。」
ジェームズがダリ・ベイの未来について約束しているのは、これからもずっとアルバムを作り続け、そのアルバムには、彼が音楽の書き方やレコーディングの仕方を模索し続ける姿が常に捉えられているということだけだ。常に誕生し続けているプロジェクトにふさわしく、『Surprise Wish』はまさに「生まれつつある」一人の人間の肖像である。これらは「移りゆく途上」にある楽曲群だが、聴き手に対し、霧を切り抜け、その瞬間に深く身を置くよう誘っている。
Dari Bay 『Surprise Wish』- Double Double Whammy
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Dari Bayのサウンドは、ローファイ/スラッカーや最近流行りのインディーロックのスタイルに位置づけられる。ギターを中心とする少しだけ洒脱な感じのロックサウンドが主体となっていて、ほどよく力が抜けたスタイルとなっている。ただ、そのロックサウンドを面白くしているのがヒップホップのサンプリング、すなわちチョップの技法を織り交ぜたリサンプリング的な手法である。これらは、現代的なインディーロックの再構成主義に位置づけられるかもしれない。
『Surprise Wish』は、シンプルにいえば、肩ひじはらずに気軽に楽しめるアルバムで、音楽単体としても、あるいはBGMとしても楽しめる。音楽的には、2010年代のニューヨークのベースメントのインディーズロックと地続きにある。「Finder」は、アコースティックギターのリサンプリング的な手法を通じて、ヒップホップ的なドラムが流れるようなグルーブを形作る。曲の構成としては、ヴァースからサビという洋学の基本形だが、これらのジャンプするかのような単純明快なサウンドは爽快感がある。ザカリー・ジェームズのボーカルは、ナイーヴな感じで、心地よい感じのギターロックと呼応しながら続いていく。その中で、ターンテーブルのスクラッチのような効果は、今やヒップホップはロックと普通に共存するようになっている証拠と言える。その中で、Dari Bayのロックサウンドは、パワフルな音像を持つファジーなギター、そしてセンチメンタルなボーカルと対比を描きながら、鋭いコントラストを作り出す。
最近では、オルタナティヴ・ロックのスタイルも千差万別で、複雑化しつつあるが、ダリ・ベイのロックサウンドは、基本的には、90年代や00年代ごろのシンプルなパワーコードのスタイルに回帰している。それがWeezerを彷彿とさせるような肉厚なファジーなギターとエモーショナルなボーカルという形で混在している。これらのエモとインディーロック、ローファイの中間にあるサウンドは、Far Caspian、Homeshakeなどの系譜に属している。「Video」 はその象徴となり、迫力すら感じさせるシューゲイズ的な音像を持つギターがエモやローファイと絡み合い、スタイリッシュなロックサウンドを生み出す。ただ、これらのサウンドは、単なるループ構造だけではなく、ブリッジのような箇所を織り交ぜながら、音楽的にリズムの楽しさを作り出すことがある。曲の終盤では、パワフルなギターサウンドに導かれるようにして、意外な展開を呼び起こす。これらのソングライティングの手腕に注目したいところである。
アルバムの序盤では、特にメロディアスでドリーム・ポップに近いサウンドも収録されている。「Chevy」はシンセサイザーの音色を織り交ぜ、テープディレイなどをアレンジに施している。しかし、これらのマニアックなサンプリング的なサウンドから意外なほどシンプルな歌モノの楽曲が導き出される。それらの中で少しナイーブというべきか、センチメンタルなボーカルが明瞭なギターロックサウンドに淡い色彩を添える。どことなく、ダリ・ベイのサウンドは、現在のインディーズロックの形式を踏襲しつつも、デザインや絵のような印象を放つ。この曲ではさらにオーバードライブの効いたベース、ターンテーブルのスクラッチのようなサウンドがトリッピーな音楽性を生み出すことがある。これらはクロスオーバーがより進んだ現代的なロックサウンドで、グルーヴィーなスタイリッシュなロックサウンドとして楽しめるはず。
「Chevy」
さらに90年代の最初期のWeezerのようなサウンドが「The Joke」に出てくる。 これらは少し嘆きを感じさせるようなセンチメンタルなボーカルとそれと鋭いコントラストを描く音像の大きなファズギターというお馴染みの組み合わせだ。それらは少しグランジの印象に近くもなるが、やはりダリ・ベイのボーカルや全体的な楽曲の印象はパワー・ポップやジャングルポップの領域にある。これらの繊細で少しせつなさを持つハードロックのスタイルは、リバイバル的な意味を持つが、一方で、ロックソングの原初的な魅力の一端を伝える内容となっている。作曲的には、特にベースとギターの対比に焦点が絞られており、大まかなビートを捉えるドラムがそれに重なるという感じである。こういったソングライティングの中でユニゾンの効果を押し出し、「How Can You Tell」のようなユニークな楽曲が出てくる。なんともいいがたいワイアードな印象を持つロックソングであるが、そこにはなにか得難いような魅力が潜んでいる。
ザカリー・ジェームズのサウンドはニューヨークのインディーロックに触発されつつも、バーモントのシーンに何かしらの活力をもたらすような新鮮味あふれるサウンドをもたらそうとしている。「We're Gonna Be OK」はアルバムのベストトラックの1つで、 本作の中では少し爽快感のある楽曲である。持ち前の繊細なボーカルと少し甘酸っぱいようなボーカル、そして程よく歪んだディストーションギターがエモ、パワー・ポップのめくるめく世界を作り上げる。そのサウンドからは少し拡大解釈かもしれないが、過ぎ去る風景のような人生観を彷彿とさせる。つまり、聴いていると、なにかしらじんわりとするような感覚を体験することが出来る。それらは時折、抽象的なサウンドを通じて琴線に触れるようなメロディー、あるいはそれとは対象的に歪んだディストーションギターを織り交ぜながら、見事なサウンドを構成していく。
「We're Gonna Be OK」
ザカリー・ジェイムズは調性感覚に優れていて、さほど明瞭ではないものの、色彩的な転調を描くことに長けている。「On Your Side」は、やはりオーバードライブの効いたベースとアコースティック風のギターというノイズとクリーンという音響的なコントラストを作りながら、その中で、エモーショナルなフレーズを紡ぎ出す。しかし、依然としてヒップホップとまではいかないが、グルーヴ感のあるビートがこれらの旋律的な要素を巧みに支えている。これらは例えば、トロイ・モアやアレックスGのようなサウンドに近い。つまり、聴いてもよし、そしてのってもよしの一挙両得のサウンドがこのアルバムの各楽曲には凝縮されているのである。これらの中で、Lutaloのサウンドを彷彿とさせるようなフォークサウンドが滲み出てくる。ロックとフォークの中間にあるこの曲は、アメリカのインディーズの流れを上手く掴んでいると言えるのではないか。そしてやはり、どことなくスタイリッシュな印象を保持している。
ダリ・ベイのアルバムは初めて聴くので、上手く説明しきれない部分もあるのでお許しいただきたい。これらのサウンドは、まるでガレージで鳴らされるようなラフなロックの魅力が含まれている。どのフレーズが良いかというよりも、なんとなく心地良い、という感じである。そういった側面では、アトモスフェリックなロックサウンドともいえ、また、感覚的なインディーロックソングといえるかもしれない。そういった中で、バーモント州らしいサウンドというべきなのか、ハートランドのようなアメリカのルーツ・ミュージックへと接近することもある。
「Bet On The Feeling」のような楽曲には、本作全体に通じるパワーポップやエモ、ローファイのアプローチに加え、ルーツミュージックやアメリカーナの雰囲気が滲んでいる。どの年代も同じであるが、アメリカのロックとはいっても様々な音楽性がその中に混在している。ダリ・ベイの音楽はまさにそういった多彩な印象を持つ。そういった中、先にも述べたように、適度にキャッチーなロックとして昇華され、取っつきやすい楽曲として楽しむことが出来るはず。
『Surprise Wish』の代名詞となるファジー/ディストーションギターとセンチメンタルなボーカルの組み合わせはクローズ曲「Background」でも健在である。 R,E.MのようなUSロック、そしてWeezerのようなパワーポップを組み合わせたスタイルは、安心感すら見いだせる。アルバムの最後の曲は唯一、後半部で激しいサウンドを見せ、クライマックスらしい熱狂性を見出すことが出来る。このアルバムは一見すると、なんの変哲もないインディーロックソング集のように思えるが、ターンテーブルのスクラッチのような技法が入っていてユニークな魅力がある。とりわけ、ダリ・ベイの創造性の高さは、「Background」のような楽曲に見出すことが出来る。
82/100
「On Your Side」
・Dari Bay 『Surprise Wish』 はDouble Double Whammyより発売。ストリーミングはこちら。





























