My New Band Believe 『My New Band Believe』
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Release: 2026年4月10日
Review
My New Band Believeは、Black Midiの元ベーシスト、キャメロン・ピクトンにより結成されたバンド。ある時、中国のホテルで急に錯乱状態に陥り、突発的に様々なイメージが思い浮かんできた。その中から奇妙なフレーズ、My New Band Believeが浮かんだ。それをプロジェクト名にした。前身のバンドの後、曲を書いていたものの、じっくりとアイディアを温めてきた。ようやく昨年からシングルを発表し、ライブで実際に試していた曲がアルバムの形になった。
才能というのは、過剰さともいうべきもので、キャメロン・ピクトンに相応しい言葉である。それはむしろ、反動とも呼ぶべきもので、何かを抑えつけようとしたときに、才覚が奔出する。このデビューアルバムには、少なくとも、抑えがたい創造性のようなものが満載となっている。難しいアルバムと取るか、また、聞きやすいアルバムと取るかは、聞き手次第となりそうだ。
ラウドなサウンドは抑え気味で、ミュージックコンクレートを通過した後のアヴァンフォークやロックオペラを目指したような作品である。そして意外にもフォークポップサウンドを思わせることもある。「Target Practice」は、Queenのロックオペラの影響を色濃く感じさせる。それらがフォークミュージックを中心に繰り広げられる。既視感はあるが、強弱を強調するアクセント、そして、曲の表情付けにストリングスも用いられ、思いの外、ゴージャスなサウンドに移行していく。
このオープニング曲では、クイーンのようなポピュラーソングに軸足を置き、縦横無尽に駆け巡る音楽的なイメージをプロデュース的な楽曲としてまとめ上げる。「Bohemian Rapsody」時代のクイーンのサウンドが満載であり、それらが変拍子を交えたセクションを織り交ぜながら、音楽の印象そのものが次々に移り変わっていく。一見すると、まとまりがつかないような曲に思えるかもしれない。しかし後半では、ビートルズの中期以降のサウンドに依拠したチェンバロを用いたバロックポップの美しいメロディーがボーカルと登場し、曲がぱっと華やかになる。曲の後半では、UKロックの系譜を踏まえ、チェンバロを生かしたレトロなポップソングに変わる。コーラスも見事で、フレイディ・マーキュリー風の迫力のあるバックコーラスが聴ける。
特に、キャメロン・ピクトン率いるバンドは、 70年代のUKフォークサウンドを踏襲して、それらをミニマル・ミュージック、ミュージック・コンクレートを織り交ぜて、独創的なサウンドに仕上げる。
二曲目では、 Queenのサウンドをポストロック/マスロック風にアレンジしたり、ビートルズのチェンバーポップの楽曲で使用されるドローンのストリングスなどを用いて、エポックメイキングな箇所を作り上げる。しかし、その後、静かな印象を持つフォークサウンドに切り替わったり、ビートルズの「Yellow Submarine」を彷彿とさせるホーンのトレモロが入ったりと、カオスになっていく。また、その後にフィドルが出てきて、カントリーやウェスタンの古風なフォークミュージックに切り替わる。このバンドの中心人物の音楽的な知識量と再現力には圧倒されるばかりだ。そのほとんどがすでに前に出てきた内容だとしても、これらはヒップホップのサンプリングの次を行く前衛的なサウンドが登場したと言える。これは、画面の映像が一瞬で切り替わるような、トランジションの音楽バージョンともいうべきサウンドである。
今回のアルバムは、ロック的な要素を抑えて、イギリスの70年代のフォークサウンドを中心とするアヴァンギャルドなサウンドに仕上げている。三曲目「Heart of Darkness」では、やはりジェットコースターのように曲のフレーズが切り替わり、Led Zeppelinのフォーク的な要素を受け継ぎ、それらをミュージックコンクレートの手法で縁取っている。この曲が面白いのは、一方から音が出てきたかと思えば、全く別の方向から音が出てくる、それらが重層的な音の連なりを作り出し、曲の全般的なセクションを作り上げる。まるで音楽そのものがアトラクションのようだ。そして、ギターそのものもジプシー風のフォークサウンドが出てくる。これらは、例えば、Led Zeppelinのカシミール地方のエキゾチックなフォークサウンドを受け継いだ数少ない事例とも言える。かと思えば、キャメロン・ピクトンのボーカルは依然としてQueenのフレイディ・マーキュリーを彷彿とさせる。単なる寄せ集めなのか、それともそれ以上の何かがあるのか、そういったことはほとんどどうでも良くなるような楽しさに溢れている。
これらが単なる無謀な試みではないことは次の曲を聴くとわかる。「Love Story」では、古典的なバラードソングを選び、このバンドのメロディ的な才覚が明らかになる。この曲のイントロでは、ピアノとホーンを用いたロンドンジャズの影響を込め、しっとりとしたバラードが聴ける。その後、Jaga Jazzistの系譜にあるエレクトロジャズソングへと移行していく。 ノルウェージャズを筆頭に、北欧のジャズグループからの影響も含まれているかもしれない。しかし、依然として、ボーカルは、UKポップ/ロックの伝統的な歌い方に根ざしている。ちょっとした言葉の節回しや、メロディーの繋ぎ方など、焼き刃ではなしえない様式美のようなものが存在する。そして最後には、爽やかなフォークサウンドをもとに、舞い上がるような印象を持つ曲に変わる。音楽的にはブロックのように要素を重ねていき、最後にサビの箇所が来るという異例の手法である。これはまた、DTMのようなプログラミングによるサウンドの象徴的な制作法でもある。ここでは、このバンドの英国的な矜持のような心意気が宿っているような気がした。
「Pearls」は、ロックオペラの次世代の音楽が出てきた瞬間である。この曲は、やはりミニマムのレベルでは、フォークミュージックが基礎になっているが、クラシック音楽からの影響が色濃く感じられる。アヴァンフォークに属する不協和音を用いたドローン音も登場したり、遊び心もあるが、全体的な曲の構成は崩れていない。曲そのものがラウドに傾いた時、その後、ストンとサイレンスに移行する。前身バンドの経験に根ざし、聴覚的な限界を踏まえ、絶妙な均衡を保っている。この曲では、アヴァンフォークの間に木管楽器の演奏が登場し、風景的な描写、つまり音によるイメージやサウンドスケープを作り上げている。不協和音も多いが、聴いていてそれほど嫌な感じはない。音の持つ可能性を音響的に拡張しているのがさすがである。さらに「Opossite Teacher」では、最も聞きやすいインディーフォーク・ソングで、驚くほど静かな印象、そして牧歌的な印象を持つ平らかな音楽を制作している。これは間違いなく、少しラウドなロックや前衛的なポストロックなどに飽きた音楽家が作る玄人好みの一曲である。
また、Queenだけではなく、Pink Floydのフォークミュージックの要素を受け継いだ曲もある。一番近いと思うのが、「Actess」である。 ここでは曲の後半でやはりサビとなる箇所が出てくる。ここではビールやパブ文化を象徴するようなにぎやかで陽気な印象を持つサウンドが楽しめる。曲の後半では、アイルランドのフォークミュージック、そしてエレクトロニックが結びつき、独創的な音楽へと切り替わる。曲のイントロではスタンダードなUKロックの内容に根ざしていながら、その後は現代的なサウンドへ移行するというユニークな発想がてんこ盛り。
一度だけ聴いて終わりというアルバムではなく、聴く度に新鮮な発見がありそうだ。個人的に推薦したいのは、最後に収録されている「One Night」である。コラージュ的なサウンドで、強烈なノイズというブラック・ミディにも通じるような内容となっているが、飽くまで全般的に、明るく陽気な音楽を提供しようという意図が通じている。キャメロン・ピクトンのささやくようなボーカルはユニークさがあり、救われるような瞬間もある。音楽全体をあまりシリアスにしすぎず、遊びの箇所を設けておくという制作者の狙いも感じられる。この曲では、エレクトロニックの文脈におけるドローンも登場することも。それはまた、彼らが2020年代に生きている証でもある。このアルバムが単なる懐古主義だけではなく、未来志向のサウンドに縁取られていることが有意義ではないか。次世代の新しい音楽への突破口となるかもしれない。
84/100
「One Night」- Best Track























