Vernon Spring(ヴァーノン・スプリング)は、ノース・ロンドン出身のミュージシャン、サム・ベステのレコーディング・プロジェクト。

 

サム・ベステは幼い時代からジャズ、フォーク、現代音楽ネオソウルに親しみ、幅広い音楽的なバックグランドを持つ。さらに彼は元々バックミュージシャンとして活動していて、音楽的なセンスに磨きをかけてきた。その中には、エイミー・ワインハウスのライブステージを背後から支えたという功績がある。サム・ベステの音楽は、こういった世界的なスターの背後で培われた。

 

ベステが最も早く音楽に触れたのは、セロニアス・モンクからボブ・ディラン、ディアンジェロからルイジ・ノーノまで、多彩なレコード・コレクションを持つ父親の影響だった。 11歳のとき、偶然のピアノ・レッスンがベステを重要な方向へと導き、即興演奏への継続的な情熱を促し、彼の人生の軌跡を形作った。


かれのたゆまぬ努力と才能は、エイミー・ワインハウスの成功の軌道に乗せられ、彼女の出世作の大半をライブ・ピアニストとして伴奏した。 この2人のペアは、ガブリエルズ、ケンドリック・ラマーのプロデューサー、サウンウェーブ、ベス・オートン、カノ、ジョイ・クルークス、マシュー・ハーバート、MFドゥームなど、他の重要で多様なコラボレーションへの道を開いた。


20代半ばにアルト・ソウルの”Hejira”で何年も作曲とリリースを行った後、ベステは”Lima Limo”という集団とレーベルの結成に協力、支援的なコミュニティと刺激的な創造的基盤を提供した。その後、サム・ベステは表舞台に出る準備が整ったとばかりに、ソロ活動を始めた。 2019年までに、ザ・ヴァーノン・スプリングを名乗り、ソロ作品をリリースし始め、ジャズのバックグラウンドと現代的なエレクトロニック・プロダクションを融合させた歌声を展開した。 


『A Plane Over Woods』や『Earth, On A Good Day』を含む彼のデビューEPとその後のリリースは、エモーショナルなヴォーカルと繊細なエレクトロニクスを重ねた幽玄なピアノ・ワークから構成される特徴的なサウンドを確立した。2021年のデビュー・アルバム『A Plane Over Woods』はロングセラーを記録。その後、LPのみでリリースしたマーヴィン・ゲイの名作『What’s Going On』を独自に解釈したアルバム『What’s Going On』も高い評価を獲得した。


ニューアルバム『Under a Familiar Sun』は、アイスランドの著名な作曲家、ピアニスト、さらにKiasmosとしても活動するÓlafur Arnalds(オーラヴル・アーノルズ)が主宰するレーベル”OPIA Community”(EU)、RVNG Intl(US)、インパートメント(JP)の3レーベルからの共同リリースとなる。 これはヨーロッパ、北米、そして日本を超える新しいリリースの形態である。


最新作『Under a Familiar Sun』は、彼の芸術的進化の幅の広さと深みを物語る。作曲とプロセスに基づく長い実験期間を経て生まれ、これまでの即興的なプロダクションから、複雑なアプローチへの転換を果たした。

 

サムは、プロデューサーのIko Nicheと一緒に、彼自身の所有するレコーディングスタジオでアルバム制作を進行させるなかで、彼は音楽的な背景を包み隠さず披瀝している。ヒップホップの影響や、サンプリングを活用した前衛的な手法を取り入れながら、The Vernon Springらしいピアノ・コンポジションを全編にわたって貫き、前人未到のサウンドスケープを描き出す。


本作には、ソロプロデューサーの音楽を通じて、未知の世界の扉を開く、というコンセプトがある。そのインビテーター(案内役)となるのが、複数のコラボレーターである。また、それはベステの別の人を通じて新しい音楽を発見するというキャリアを象徴づけるものだといっても過言ではないはずである。アルバムの案内役、それは何も彼と近いミュージシャンだけとは限らない。全く異分野のミュージシャン、あるいはその表現者たちは、ベステの音楽に鮮やかな命を吹き込む。「The Breadline」の詩でアルバム全体のコンセプトにインスピレーションを与えた作家のMax Porter、直感的なアレンジが没入感のあるレイヤーと深みを加えたチェリストのKate Ellis、NYブルックリンを拠点に活動するヴォーカリスト、プロデューサー、作家、天体物理学博士のadenなどが参加し、それぞれ魅惑的な表現で作品に命を吹き込んでいる。

 


The Vernon Spring 『Under a Familiar Sun』- OPIA Community(EU)/RVNG(US)/Impartment (JP)

 

 

例えば、バックミュージシャンがソロミュージシャンに転向する場合、ソロでやるつもりはなかった、と語ることがある。これは元々、グループで活動していた歌手などがソロに転向するときも同様だ。その言葉にはリップサービスも含まれているのかもしれないが、基本的には、その言葉に違わず、音楽を仕事にしようと一生懸命に活動していたら、バックミュージシャンになり、生計を立てるようになった、さらにその後、行きがかりでソロミュージシャンに転向した、という場合が多い。いわば有名なミュージシャンのバックバンドなどで演奏することは、ソロミュージシャンや表舞台に出るための欠かさざる準備期間であったと言えるのだが、もちろん、それはだいぶ後になって気がつくことである。こういった人々は、偶然の要素を見逃さず、何くれとなく新しいことに挑戦するような、たくましい精神力を持っていることが多い。

 

サム・ベステのニューアルバム『Under a Familiar Sun』 を聴いて、よもや新進ミュージシャンが制作したものではないことは、それなりに多くの音楽を聴いてきた方々であれば、理解しえることと思う。そして彼の音楽的な才能は、エイミー・ワインハウスのピアノ演奏者として活躍していたことからも分かる通り、コラボレーターの音楽性を際立たせることにある。そして、ソロミュージシャンとしての独自性も加わり、説得力のあるアルバムが完成したと言える。

 

本作は、ヒップホップ、ネオソウル、ブレイクビーツを基調とした都会的な空気感を吸い込んだスタイリッシュなモダンクラシカルのアルバムである。もちろん、アンビエントの要素もあるが、Autechreの”ノンリズム”が騒がれていた時代のビートが希薄なダンス・ミュージックとはかけ離れている。サム・ベステの音楽やアウトプットには明確なリズムが示唆される。そして、控えめではあるが、微かなグルーヴも感じられる。エレクトロニカのブレイクビーツのリズムがワインハウスの次世代のネオソウルと絡み合い、新しいモダンクラシカルの形が登場したと言える。

 

次のモダンクラシックの主流となるのは、間違いなく、ダンスミュージックやネオソウルといったジャンルとの融合で、もちろんボーカルも入る可能性がある。最終的には、全般的なポピュラー、ダンス、フォーク、ジャズとの融合が今後のモダンクラシカルの主流となりそうだ。直感的なミュージシャンはすでにその気配を察知している。これはクラシック音楽がその時代の流行のジャンルを吸収し、発展してきたことを考えれば、当然の成り行きではないかと思う。

 

 

 『Under a Familiar Sun』は、ザ・スミスの未発表のアルバムのタイトルのようである。部分的には、イギリスの音楽の気配をどこかに留めている。ただ、これはイギリスの音楽というよりも、2000年以降のグローバリゼーションの時代を反映した”EUの音楽”とも言える。また、言い換えれば、なんでも簡単に気安く取り出せる”インターネット時代の音楽”とも呼べるかもしれない。そして、ヴァーノン・スプリングは持ち前の傑出したプロデュース技術を駆使しながら、変幻自在なビート、曲風、そしてアンビエンスを用い、アルバムの意義を紐解こうとする。

 

アルバムとは、写真のファイルようなもので、一つの曲を聞くごとに、異なる情景やシーンが順繰りに繋がっていく。そして、こういった科学的には解明しがたい不思議なイメージの換気力は、例えば、そのアルバムをリアルタイムで聴いていた時点から、十年、二十年が経って、そのアルバムを聞き直したとき、その時代の出来事をぼんやりと思いださせることがある。そう、記憶の蘇生のような効果を発揮するのである。つまり、その瞬間、本来は、一方的であるはずの音楽制作やその演奏という営為が、コネクションとしての意義を与えられることになる。


そして、再三再四述べているように、アルバムは単なる曲の寄せ集めとはかぎらない。 制作者が込めた思い、それが別の形をとってぼんやり流れていく、そんな不思議な感覚なのである。そしてそれが聞き手側の感覚と共鳴したとき、感情的な交流のようなものが発生する。見ず知らずの人の考えが掴んだり、そしてどんな背景であるのかを断片的に理解するということである。

 

そして、サム・ベステのフルアルバムは、音楽が、文学、映画、絵画といった他の媒体と連動するような形で成立し、それが人生の反映させるという機能を持つことを思い出させる。彼の音楽には、幼い時代に音楽を聞き始めたころ、多感な時期に音楽に夢中になったころ、バックミュージシャンであったころ、それから、ソロアーティストとしての人生を選ぶことになったころ、そういった重層的な追憶が入道雲のように連なり、もくもくと煙のように舞い上がり、ミルフィーユのような層を作り上げている。ヴァーノン・スプリングの音楽的な観念の世界には、明確な棲み分けという括りのような概念は存在しないのかもしれない。言い換えれば、サム・ベステは、どのような音楽も、自分の友人や子供のように愛してきたことをうかがわせるのだ。



 

 アルバムはブレイクビーツをネオソウルと結びつけた「Norton」で始まる。そして実際的にヴァーノン・スプリングの音楽がコラージュアートのように断片的なマテリアルを中心に組み上げられるのはそれなりの理由があり、それは記憶の代用としての機能を持つからである。その切れ切れの音源のリサンプリングは、彼の人生の歩みを映し出すように、音楽的なシーンが流れていくのである。それはバックミュージシャンの時代から始まり、かなり広い年代の記憶を音楽という形で収めている。それが音楽的にはヒップホップのビートとピアノのリサンプリングというネオソウルのいち部分を形成する彼独自の手法で展開されることは言うまでもない。そしてオープニングの場合は、ネオソウルのコーラスワークという部分に最もきらめく瞬間がある。これはワインハウスに対する何らかの追憶のようなものが込められているといえる。

 

 

ムードたっぷりで始まり、アーバンなUKソウルというのをひとつの出入り口として、『Under a Familiar Sun』の音楽は異分野の表現形態と結び付けられる。「The Breadline」はジャズ/ソウル風のピアノがスポークンワードと合わさり、Benjamin Clementineのようなシアトリカルな音楽に変化する。マックス・ポーターは、この曲に文学的な感性を付与し、音楽の領域を見事に押し広げる。この曲はロマンティックな変遷を辿り、その最後にはゴスペル風のコーラスで最も美しいモーメントを作り上げる。音楽というものが、ひとりだけの力では成立しえないことを知っているからこそ、彼はこういった友愛的な音楽を作り上げることが出来るのかもしれない。

 

「Musutafa」は、OPIA Communityらしい独自のキャラクターを押し出されたUKソウルである。ヴァーノン・スプリングはコラボレーターであるIko Nicheと共同制作をしたとき、ヒップホップの魅力を体感するようになったというが、そういった異分野への興味がこの曲には反映されている。モダンクラシックのピアノ、サンプリング、先鋭的なエレクトロニクスの処理、そしてネオソウルの範疇にある美麗でソウルフルなボーカルというスプリング独自の形が出来上がっている。この曲では前曲に続き、現在のゴスペルがどのように変わったかを実感することができる。

 

プロデューサーとしての敏腕の才覚を伺わせる「Other Tongues」はアルバムのハイライトの一つ。この曲では、ミュージック・コンクレートの手法を用い、ジャズ・ボーカルの新しい境地を切り拓く。

 

同じようにゴスペルを基調にした曲であるが、トリップ・ホップの要素、ダークな質感を持ったネオソウルを踏襲し、UKソウルの新境地に達している。アトモスフェリックなサウンド、スポークンワードのサンプリングの導入、これらが一緒くたとなり、メインの演奏を構成し、ピアノで伴奏をする。ただ、この場合もピアノはアコースティックの本来の音を活かすのではなく、ケージやノーノ以降のデチューニングされたリサンプリングのピアノが録音の中で存在感を持つ。

 

それは2つのボーカルの録音の背後で、ソロ演奏として存在感を増したり、それとは対象的に存在感を薄めたりしながら、絵の具の色彩のように緻密で淡いハーモニクスを形成する。こういった曲を聴くと、どのようなジャンルも単体では存在しえないということがわかるかも知れない。

 

「Other Tongues」 

 

 

中盤の二曲は、 モダンクラシカルの象徴的なミュージシャン、Olafur Arnoldsの系譜にある曲として楽しめるに違いない。ただ、タイトル曲、「Fume」はいずれもミュージック・コンクレートの性質が強いが、タイプが少しだけ異なる。タイトル曲はポストクラシカル風の曲で、遊び心のあるピアノのパッセージを組み合わせて、前衛的なサウンドを作り出している。「Fume」はアンビエントとスタイリッシュなビートを背景に、ネオソウルを抽出したインスト曲である。

 

 

「In The Middle」はアルバムの中盤のハイライト曲である。弦楽器のトレモロをイントロに配して、徐々に曲の雰囲気が盛り上がっていく。 重層的なストリングスとボーカルが精妙な空気感を放つ。ピアノの叙情的な伴奏を背景に、同じく琴線に触れるようなボーカルが乗せられる。アンセミックに歌い上げられるタイトルを含む歌詞の箇所は、ポール・ガイガーのような前衛的な奏法を組み合わせることで曲にメリハリがもたらされる。コラールの輪唱がボーカルとピアノの交互に演奏され、別の音域に主要なモチーフが出現するという側面を見ると、プロデュースの形を取って現れた''新しいフーガ''とも呼ぶべきものである。そして、サム・ベステのソングライティングは基本的に、ゴスペルやコラールにある神妙な雰囲気を感じ取ることが出来る。

 

ピアノがアコースティックそのまま出力されることは稀である。波形のモーフィング、ディレイ、リバーヴを駆使し、夢想的でアトモスフェリックな音像を作り出す。これは残響的なサウンドで音響派の音楽に近い。そして落ち着いてはいるが、陶酔感に満ちた雰囲気を作り出す。こういったアシッドハウス的な雰囲気については、好き嫌いが分かれる箇所かもしれない。しかし、サム・ベステの紡ぎ出す演奏は、シンプルだけど深みがある気がする。たとえ脚色的なサウンドであることを加味しても、本質的なコアが込められている。夜の雰囲気、そして祝福的な感覚は、UKネオソウルの核心と一致するものである。前の曲と連曲の構成となっている「Esrever Ni Rehtaf」では、ミュージシャンの過去が暗示的に表され、子供の声のサンプリングとして出現する。これらは、現実性と物語性が陸続きにあることを伺わせ、それはまたリアリティの一端を語るための機能を果たす。そして、それはなぜか温かい雰囲気に縁取られている。ジャズ風の軽やかなパッセージ、ボーカルが組み合わされ、ネオソウルの新機軸が示される。

 

 

アルバムの終盤にはもう一つハイライト曲がある。「Counting Strings」は、ピアノの同音反復による通奏低音、木管楽器がイントロに配された、スタイリッシュな雰囲気を持つ曲である。ボーカルが入ると、この曲は、ダイナミックでゴージャスなネオソウルへと変化していく。他の曲はコラージュサウンドが行き過ぎ、まとまりがつかない部分もあるものの、この曲は非常に研ぎ澄まされている。前曲と同様に謎めいたシンガー、adenの歌唱を上手く引き立てている。

 

 「Requiem for Reem」は、フレドリック・ショパンの『ノクターン』を彷彿とさせる。基本的には、夜想曲の雰囲気に近い。しかし、このノクターンの形式は、サム・ベステのプロデュースにより、現代的なエレクトロニクスと組み合わされ、アーバンな空気感に縁取られている。演奏の合間にはアンビエント風のシークエンスが登場し、休符による静寂を電子音楽的に表現している。レクイエムと題されているので、追悼曲だと思われる。しかし、やはり美麗なピアノの演奏を引き立てているのは背景のシークエンスであり、全体には祝福的な音が敷き詰められている。アルバムの終曲はポスト・トム・ウェイツとも呼ぶべき祝福的なピアノバラードである。



 

このアルバムは、後半部に聞き所が多いので、聞き逃さないようにしていただきたい。それはヴェーノン・スプリングのミュージシャンとしての人生を反映するかのように、ネオソウルを入り口として様々な音楽が無尽蔵に飛び交う。さまざまな人種が渦巻く多文化のロンドンの都会性を反映した音楽といえ、それは制作者の心にそれらを許容して慈しむような感覚に溢れている。

 

ネオソウルから始まり、音楽が多彩な形で反映される。ここには、白人の音楽もあり、黒人の音楽もある。古い音楽も、新しい音楽もある。掴み所がないようでいて、実は核心のようなものが存在する。

 

感覚的な音楽とも言え、必ずしもそれらをはっきりした形で表現しようと思っていないのだろうか。それは良い音楽には、多くの言葉を費やす必要がないという制作者の考えのあらわれに思える。ぼんやりと遠方に鳴り響く祝福的な楽の音、それは、ジャズ、ソウル、ヒップホップ、クラシックと様々な形を取って、アルバムの節々に立ち現れ、聞き手を飽きさせることがない。

 

 

85/100 

 

 

 「Requiem for Reem」

 

 

▪ザ・ヴァーノン・スプリングのニューアルバム『Under a Familiar sun』は本日発売。ストリーミングはこちら

Andy Tongren

ブルックリンのシンガーソングライター、アンディ・トングレン(ヤング・ライジング・サンズのフロントマン)のデビューシングルとミュージック・ビデオ「So Good」をリリースした。


さらりとしたアコースティックギターの弾き語りからロックバンガー風のダイナミックなサビに移行する瞬間にカタルシスがある。冬の時期に書かれたこともあり、温かい春の到来への期待が込められている。そこには人間の生きる営みのサイクル、そして希望のメッセージがある。


アンディ・トングレンはヤング・ライジング・サンズのフロントマンとして知られ、2億2,500万回以上のストリーミング再生数を誇り、ザ・1975、ウィーザー、ブリーチャーズ、ホルシーなどのオープニングを務めている。 


インディー・ポップ・ミーツ・フォーク・ロックのシングルは、シンガーいわく「次に何が起こるか心配することなく、屈託のない無謀なエネルギーで今を受け入れることを歌っている。 暗くて孤独に感じられる世界で火種を見つけ、それにガソリンを注ぐ。  セロトニンの短いヒットを感じるために、高揚感を追い求めることなんだ」


アンディ・トングレンは自他ともに認める楽天家である。 「ブルックリンを拠点とするこのシンガー・ソングライターは言う。 "私の根底にあるのは、私にできることは他に何もないという気持ちなのです"。


その晴れやかな性格が、デビュー・シングル "So Good "の光り輝く核となっている。 この気楽でコンパクトな曲は、アコースティックをバックにしたヴァースから始まり、喜びと暖かさを放つ至福のコーラスへと続く。


芸術の偉大な皮肉として、トングレンは「So Good」がそうでない状況から生まれたと言う。 「面白いもので、この曲は暗い場所から生まれたようなものなんだ。 ブッシュウィック郊外の寒くて暗い地下室に住んでいて、毎日を何とかやり過ごそうとしていた...。冬が始まって、少し暖かさを感じたかったんだと思う」


トングレンは、"So Good "を何よりも雰囲気を捉えたものにしたかった。 「書くことへのアプローチに過度な尊さはなかった」と彼は説明する。 「芸術と商業の融合に伴う些細なこと...それにとらわれるのは簡単だ。 ''So Good''では、何も考えず、ただ書いた」


「少しずれていても、そのままでいい」と彼は続ける。 「この作品には本当の人間的な要素があるのだから」


オハイオ出身の彼が、ニューヨークとニュージャージーの国境を越えて結束の固い友人たちと前身バンド、ヤング・ライジング・サンズを結成して以来、彼の作品がファンに愛されてきたのは、リアルな人間的要素なのだ。 デビュー・シングルの "High "は聴衆の度肝を抜き、インタースコープ・レコードとの契約と、The 1975、Weezer、Bleachers、Halseyなどのオープニングを務めるめまぐるしいツアー・スケジュールにつながった。


''So Good''で、トングレンは彼のキャリアのエキサイティングな新章を書き始め、ツアーに戻り、彼のようにどんな困難にも負けず、良いものを探し続けるファンとつながろうとしている。 「それは今のところ、私という人間そのものなんだ。 自分が書いたもの、あるいは自分が関わったものに対して人々が反応するのを見るのは、言葉では言い表せない。 私はいつもその感覚を追い求めているんだ」

 

 

「So Good」




 

 
Brooklyn singer-songwriter Andy Tongren (frontman of Young Rising Sons) has released his debut single and music video, “So Good.”


There is a cathartic moment when the song transitions from a crisp acoustic guitar strumming to a dynamic chorus in the style of a rock banger. The song was written during the winter season and is filled with anticipation for the arrival of a warm spring. There is a message of the cycle of human life and hope.

 

By his own admission, Andy Tongren is an optimist. “I really do try and find the silver lining any way I can,” says the Brooklyn-based singer/songwriter. “At my core, I feel like there’s nothing else I can do.”


That sunny disposition is the glowing core of his debut single “So Good.” The easygoing, compact tune is driven by an acoustic-backed verse before launching a blissful firework of a chorus that radiates joy and warmth - perfect for a summer playlist or a crucial year-round dopamine hit.


In one of art’s great ironies, Tongren says “So Good” was born of circumstances that were anything but. “It’s funny - it kind of came from a dark place,” he admits. “I’m living in a cold, dark basement on the outskirts of Bushwick, trying to get by day to day…Winter was starting and I think I just wanted to feel a little bit of warmth.”


Tongren wanted “So Good” to capture a vibe more than anything else. “I wasn’t overly precious with the approach to writing,” he explains. “All the minutiae that comes with blending art and commerce…it’s so easy to get caught up in that. On ‘So Good,’ I didn’t think - I just did.


“If it’s a little bit off, leave it,” he continues. “There’s real human elements in this.”


And real human elements are what Tongren’s fans have loved about his work ever since the Ohio-born musician formed his previous band, Young Rising Sons with a tight-knit group of friends across the New York-New Jersey border. Their debut single “High” dazzled audiences,leading to a deal with Interscope Records and a dizzying tour schedule that found the group opening for The 1975, Weezer, Bleachers, Halsey and more.


With “So Good,” Tongren is starting to write an exciting new chapter of his career, looking to return to the road and connect with fans who, like him, continue searching for the good against all odds. “It’s in the fabric of who I am at this point,” he says. “Seeing people react to something you’ve written or been a part of, there’s no words to describe that. I’ve always found myself chasing that feeling.”

 

・Upcoming show:

June 22: Berlin, NYC 

 


 


レインコーツのジーナ・バーチ(Gina Birch)がセカンド・ソロ・アルバム『Trouble』を発表した。

 

 2023年の『I Play My Bass Loud』に続くこのアルバムは、7月11日にThird Manからリリースされる。 前作同様、キリング・ジョークのユースがプロデュースを手がけた。 


リード・シングルの「Causing Trouble Again」は、バーチの1977年の短編映画『3 Minute Scream』を含む、テート・ブリテンで開催されたフェミニズム・アートとアクティビズムの展覧会、2024年の『Women in Revolt』にインスパイアされた。

 

 この騒々しいポストパンク大作は、何人かの女性アーティストが、自分たちにインスピレーションを与えてくれた女性の名前を自分で言って録音している。


ディーン・チョークリーが監督した「Causing Trouble Again」のミュージックビデオには、バーチのレインコーツのバンドメイトであるアナ・ダ・シルヴァをはじめ、ローラ・ロジック(X-レイ・スペックス、エッセンシャル・ロジック)、エイミー・リグビー、ネオ・ナチュリストの共同設立者クリスティン・ビニー、画家のデイジー・パリス、アーティストのジョージナ・スター、作家のジル・ウェストウッド、アーティストで活動家のボビー・ベイカー、衣装デザイナーのアニー・シモンズ、写真家のシャーリー・オローリンなどが友情出演している。


"Causing Trouble Again "のビデオでは、ボブ・ディランが白いはしごを水に浸して歌っているのを聞いてから、白いはしごに夢中になった。 

 

「これはヤコブの梯子と地上から天国へのつながりを表しているのだと後で気づいたけど、梯子を "乗る"、"立ち上がる "の象徴として考えていたんだと思う。 私は、このはしごを使って4人で振り付けをした動きをしたかった。 梯子を持ってどう動くか。 一緒に動くのか、戦うのか、踊るのか?」


「また、映画『ザクロの色』の風のシーンを参考にしたかったし、『ウーマン・イン・レヴォルト』展のアーティストの女性たちをできるだけ多く登場させたかった。 彼女たちには厄介者になってほしかったし、"トラブルを引き起こす!"と叫んでほしかった。 結局、撮影に参加できる知り合いのアーティスト・ミュージシャンの女性たちを全員招待したんだけど、素晴らしい女性たちの出会いになった」



「Causing Trouble」

 

 

Gina Birch 『Trouble』

Label: Third Man

Release: 2025年7月11日

 

Tracklist:


1. I Thought I’d Live Forever

2. Happiness

3. Causing Trouble Again

4. Cello Song

5. Keep To The Left

6. Doom Monger

7. Don’t Fight Your Friends

8. Nothing Will Ever Change That

9. Hey Hey

10. Train Platform

11. Sleep (Digital-Only Bonus Track)

 

このアルバムでバーチは、グラミー賞受賞プロデューサーでキリング・ジョーク創設メンバーのユース(ポール・マッカートニー、ザ・オーブ、ザ・ヴァーヴ)、エンジニア/ミキサーのマイケル・レンダル(ピーター・マーフィー、ジーザス・アンド・メリー・チェイン)と再びタッグを組んだ。


「レコードのタイトルは、私の人生で起こった小さな革命のすべてを指している」とジーナ・バーチ。「普通の道をたどらず、穴に落ち、何度も同じ間違いを犯し、秘書、母親、セックスワーカーという選択肢が一般的だった時代に若い女性であることのトラブル。私が引き起こしたトラブルと、私が今いるトラブル......」

©︎Daniel Topete

サッカー・マミー(ソフィ・アリソンのプロジェクト)は、2024年のアルバム『エバーグリーン』を再構築したEP『Evergreen (stripped)』を6月6日にロマ・ヴィスタからリリースすると発表した。 

 

この再構築では、アルバムのハイライト曲をピックアップし、ロック主体の原曲をアコースティックソングに組み直し、曲の持つメロディーの良さを引き出そうと試みている。

 

ソフィー・アリソンは新曲「She Is (stripped)」を公開し、現在進行中のワールド・ツアーを延長し、今年9月に2度目のアメリカ公演を行うことを明らかにした。


『Evergreen (stripped)』には、ジミー・キンメル・ライブで初披露された「Driver (stripped)」を含む、アリソンの4枚目のアルバムからの5曲のリワーク・ヴァージョンが収録されている。


オリジナル・ヴァージョンの「She Is」はエバーグリーンの最終トラックリストには入らなかったが、アリソンはプレスリリースで、この曲が彼女の心の中で特別な位置を占めていることを明かした: 「この曲はエバーグリーンのトラックリストには入らなかったけれど、私にとって特別な曲だった。 この曲はエバーグリーンに収録されなかったけど、私にとってずっと特別な曲だったの。


アコースティックな曲で、誰かを、痛みを引き起こすこともある拠り所として描写している。"She Is "には、"[She is] the one I think of when I'm losing faith/ The one who leads me back this way "といった歌詞がある。


サッカー・マミーは今年来日公演を予定しています。12月2日には大阪アニマ、3日には東京リキッドルームで公演を開催する。

 

 

 「She Is (stripped)」




Soccer Mommy  Evergreen (stripped) EP

 

Label: Loma Vista

Release: 2025年6月6日

 

Tracklist:

 

1. Abigail (stripped)

2. She Is (stripped)

3. Driver (stripped)

4. Some Sunny Day (stripped)

5. Thinking Of You (stripped)

6. M (stripped)

 

 The New Eves   Photo:Katie Silvester

ブライトンを拠点とする4人組、The New Eves(ザ・ニュー・イヴス)が本日、記念すべきデビューアルバム『The New Eve Is Rising』をトランスグレッシヴ・レコードより2025年8月1日にリリースすることを発表した。 レーベルが送り出す期待の若手バンド、今後の活躍に注目しよう。


この発表には、アルバムのオープニング曲 "The New Eve "とトラック "Rivers Run Red"、そしてビジュアライザーが添えられている。(ストリーミングはこちら


''The New Eve"は、マニフェストのような重要な役割を果たしている。雰囲気のある呪文であり、彼らの世界への開かれた扉でもある。それは以下のファンタジックな詩を見てみるとよくわかる。


 ''新しいイヴは土のもの/花崗岩、黄土色、マグマ、土/彼女の体の骨はすべて聖なるもの/彼女のポケットの中の石はすべて家庭的なもの。そこには反抗心があるが、それは誰にでも開かれている。''


バンドは言う。「この詩はニーナがスウェーデンの山中にある家族の山小屋で書いたものだ。 それは私たちのこと。 若い自分たちのためでもある。 みんなのこと。 誰のためでもある。 大音量で演奏し、それに合わせて逃げたり、銀行強盗をしたり、行進したり、踊ったり、笑ったりするための曲。 ある意味、ラブソングで、頌歌でもある。 そして栄光の雄叫びでもあるんだ」


''Rivers Run Red''は、「ヴァイオレットが踊れるような、奇妙で小さな曲として」生まれたとエラは言う。初期のハロウィーン・バージョンでは、ヴァイオレットがステージで血を流しながらパティ・スミスの歌詞を歌っていた。


今では、フルート、魅惑的な円形のベースライン、ヴェルヴェット・アンダーグラウンド風の催眠術を駆使した、本格的なニュー・イヴスの曲になっている。 この曲には、ケイトが振るマッチ箱まで登場する。


「最初の歌詞は、エラが10代の頃に書いた詩。 私たちがジャムっている間に、たまたま彼女が暗記していたものなの。 彼女は、曲の後半でケイトの歌詞にインスピレーションを与える別の詩も書いたんだけど、最終的には10代の頃の詩に戻った」


「この曲全体は偶然のようなもので、そのおかげで、ニーナの "ディスコ・チェロ "やヴァイオレットの "キャンピング・カップ・パーカッション・デビュー "のように、たくさんの変身を遂げ、私たちを新しい場所に連れて行ってくれた。 今、私たちはこの曲が大好きなのよ」


ザ・ニュー・イヴスは、ヴァイオレット・ファラー(ギター、ヴァイオリン、ヴォーカル)、ニーナ・ウィンダー・リンド(チェロ、ギター、ヴォーカル)、ケイト・メイガー(ベース、ヴォーカル)、エラ・オーナ・ラッセル(ドラムス、フルート、ヴォーカル)の四人からなる。おどろくべきは、全てのメンバーがボーカルを歌う。ソロシンガーという固定概念はない。


パティ・スミスやルー・リードのような文学性、イギリスの古典的な民族音楽を組み合わせたグループである。その瞑想的な音楽性は、BC,NR、Last Dinner Partyといった現代的なバンドのシアトリカルな性質もあるが、それと同時に70年代のUKロックと呼応する側面もある。彼女たちの音楽にはLed Zeppelinのような民族音楽のフォークミュージックの影響をとらえることも難しくない。


バンドは5月から国内ツアーを出発させ、冬にはピッチフォーク・フェスティバル(パリ)に出演予定。複数のツアー日程では、Ninja Tuneの人気バンドで、新作アルバムをリリースした、BC, NR(Black  Country, New Road)と共演予定だ。港町ブライトンが輩出する新鋭グループの船出。

 


「Rivers Run Red」

 

 

 

The New Eves 『The New Eve Is Rising』



Label:  Transgressive

Release:2025年8月1日


Tracklist:


The New Eve

Highway Man

Cow Song

Mid-Air Glass

Astrolabe

Circles

Mary

Rivers Run Red

Volcano


Live dates:


May 15th - 16th - The Great Escape, Brighton, UK

May 24th - Dot to Dot Festival, Bristol, UK

May 25th - Dot to Dot Festival, Nottingham, UK

July 24th - 27th - Latitude Festival, Suffolk, UK

July 31st - Aug 3rd - Wilderness Festival, UK

August 30th - End of The Road Festival, UK

September 15th - Hare and Hounds 2, Birmingham, UK

September 16th - Hyde Park Book Club, Leeds, UK

September 18th - Barrowland, Glasgow, UK [w/ BCNR]

September 20th - The Glasshouse, Gateshead, UK [w/ BCNR]

September 22nd - Bristol Beacon, Bristol, UK [w/ BCNR]

September 24th - Corn Exchange, Cambridge, UK [w/ BCNR]

September 27th - The Castle, Manchester, UK

October 3rd - The Old England, Bristol, UK

October 7th - Hoxton Hall, London, UK

October 9th - Concorde 2, Brighton, UK

November 7th - Pitchfork Festival, Paris, FR

 

 

トロントのオルタナティヴロックバンド、Colaがニューシングル「Mendicant」を携えて帰ってきた。 モントリオールのジャズシーンに触発されたロックバンドで、8ビートを中心とするミニマルなロックの構成の中で巧みなアンサンブルが光る。この新曲では、フルートが演奏に取り入れられている。古楽/民族音楽とロックの融合という、これまでに類を見ない取り組みである。


2ndアルバム『The Gloss』(レビューを読む)のリリースに続き、『メンディカント』ではコーラが中世的な展開を見せている。 「メンディカント』は、ホイッスルとウイリアンパイプのライン、そしてダーシーの特徴的な歌唱によって支えられている。 


冒頭で "グッド・ゴッド!"と叫び、"ローマ法王が今言ったことは何だろう?"と疑問を投げかけ、"規制を破り、規範を破る "という謙虚な視点に立った歌詞に入る。 ダーシーの性格分析を補う楽器編成は相変わらず信頼性がある。 木管楽器が上昇し、ギターがうねり、ドラムが飛び交う。スティッドワーシーとカートのライトの貢献は、コーラの次の章への運動的な発射台を提供します。


「Mendican」は、コーラのヨーロッパ・ツアーに先駆けてリリースされる。 アイルランド公演にはM(h)aol、Junk Drawerが参加し、コーラはこの夏の終わりに北米ツアーに戻る予定だ。 

 

Colaは、ギタリスト/ヴォーカリストのティム・ダーシー、ベーシストのベン・スティッドワージー、ドラマーのエヴァン・J・カートライトのトリオ。Fire Talkの看板バンドのひとつだ。

 

「Mendicant」


Lifeguardはシカゴ発のオルタナティヴロックバンドの新星である。FACSのブライアン・ケースの息子アッシャーが所属している。最近、ローリングストーン誌でも特集記事が組まれている。

 

ライフガードの新曲「Under Your Reach」は、バンドの実験的かつポップな衝動を巧みに融合させた、これまでで最もハードな楽曲のひとつだ。 ギタリストのカイレーターとアッシャー・ケースがゆるやかなハーモニーでヴォーカルをとる。 この曲は、シカゴを拠点とするトリオのデビュー・アルバム『Ripped and Torn』(6月6日に発売)に収録されている。


『Ripped and Torn』には苦悩に満ちたインストゥルメンテーションとフィードバックに支配された雰囲気が盛り込まれている。 しかし、バンドはその特質、今年最もタイトでキャッチーなロック・ソングのために使っている。


アッシャー・ケース(ベース、バリトン・ギター、ヴォーカル)、アイザック・ローウェンスタイン(ドラムス、シンセンス)、カイ・スレーター(ギター、ヴォーカル)の3人組は、高校生の頃から一緒に音楽を作ってきた。 パンク、ダブ、パワーポップ、エクスペリメンタルなサウンドからインスピレーションを受け、それらを爆発的なな不協和音にまとめ上げる。

 

 「Under Your Reach」

 

 


テキサス生まれでオクラホマ・シティを拠点に活動するフィンガースタイルギタリスト、ヘイデン・ペディゴ(Hayden Pedigo)のセカンド・シングルでタイトル曲の「I'll Be Waving As You Drive Away」がリリースされた。このタイトル曲は、アコースティックギターによるインストゥルメンタルで、流れるように美しいフィンガーピッキングによるアルペジオで演奏される。


ヘイデン自身の言葉を借りれば、「これはアルバムの中で最高の曲というだけでなく、おそらく今まで書いた中で最高の曲」だという。


同楽曲のタイトルは、1978年に放送された『大草原の小さな家』のエピソードに基づいている。 もし見たことがなければ、そのエピソードのあらすじを調べてみてほしい。 チェット・アトキンスやマール・トラヴィスのようなバウンス(跳ねるようなリズム)がある。 


”冒頭のコード・クラスターは、オズの魔法使いのようにスクリーンが色づく瞬間のようで、私が本当に好きな不思議さと神秘的な感覚をもたらしてくれる。 この曲は、可能な限り純粋で甘い音でアルバムを締めくくっており、このアルバムを締めくくる絶対的に完璧な方法だと感じている。”


「I'll Be Waving As You Drive Away」




 


ウェールズのシンガーソングライター、Gweenno(グウェノ)は、近日発売予定のスタジオアルバム『Utopia』の二作目のシングル「War」を公開した。

 

「War」は長尺の映画のように詩にあわせてシーンが切り替わるシネマティックかつシアトリカルなポップソングだ。曲を聴くと、壮大なドキュメンタリーを観ているような気分になる。

 

「War」は、ウェールズのアーティストであり、そして、詩人でもあるエドリカ・ヒューズ(Vingt-Et-Un)が第二次世界大戦が始まった頃に書いた詩を取り上げ、それを再構築した。エドリカ・ヒューズはとくにアーティストとして有名で、パッチワークの魔術師と呼ばれている。


「このエドリカ・ヒューズの詩は長い間大好きだった。 彼女は芸術家、詩人であり、第二次世界大戦の始まりにこの詩を書いた。 この詩は、私たちが戦争というものを正常化し、時にはソファーから熱狂的な支持を得るようになった時期に、ずっと私の心に響いていました」とグウェノ。 


「彼女の詩は、破滅的な何かに向かって転がり落ちている現代社会において、本当に価値のあると思う。 この詩の言葉は、それが起こる前のほんのわずかな時間、つまり、配慮し、警戒し、意識するチャンスを私に思い出させてくれる。 それは彼女の文章の優雅さであり、冷静さであり、知恵なのです」


さらにグウェノは、秋のUKツアーと、アルバム・リリースを記念した1週間のインストア・ライヴの開催を発表した。インストア・ライヴでは、グウェノは近々リリースされる3ヶ国語アルバム『ユートピア』からの曲をピアノ・ソロ・セットで披露する。 当日は、これらの曲に加え、彼女の前作『Y Dydd Olaf』、『Le Kov』、『Tresor』から厳選された名曲も披露される。

 

ニューアルバム『Utopia』は7月11日にHeavenly Recordings(PIAS)から発売される。ニューアルバムにはケイト・ルボン、H・ホークラインと注目のシンガーが参加している。


Gwennoは前作アルバム『Tresor』でイギリス圏の最優秀アルバムを表彰するマーキュリー賞にノミネートされた。(レビューを読む)


「War」

 

ロイル・カーナーが6月20日に4枚目のアルバム「hopefully !」をEMI/Universal Musicからリリースする。イギリスで人気を誇るラッパーは、6月末にグラストンベリーのアザー・ステージでヘッドライナーを務める1週間前に新譜を発表し、その後、今年後半にはツアーに出る予定だ。


この新譜は、2023年の『Hugo』に続くもので、先日2曲のサプライズ新曲「all i need / in my mind」で予告されていた。


公式リリースによると、このアルバムには「あなたが今まで見たことも聴いたこともないような、画期的なイギリスのアーティスト」が反映されているという。 父性、子供時代、オルタナティヴ・ミュージックについて人生を肯定するような探求がなされたこのアルバムは、ポジティブで軽快なタッチに支えられている。


ロイル・カーナーは、歌い、プロデュースし、偶然にも念願のバンドを結成するという一連の初体験の中で、より健康的な境界線を開拓し、同時に聴衆を受け入れている。(アルバムの感動的なアートワークには、彼のミューズである息子がフィーチャーされており、彼はアルバム全体を通しても聴くことができる)


現在リリース中の新曲「about time」と「lyin」は、彼の作品からの最新プレビューである。 典型的に饒舌なロイルはビートの上で踊り狂い、彼のリリックの正確さは、プロダクションと完璧に連動するパンチの効いたリズム感に助けられている。ロイルのオールド・スクール・ヒップホップ・サウンドへのこだわりは、自分自身に挑戦するという生来の信念と一致している。


先行シングルを聞くかぎり、ロイル・カーナーの音楽に対する魅力が凝縮されている。『hopefully!』 は2025年度のヒップポップの話題作となりそうな予感だ。

 

「about time」

 



Loyle Carner 『hopefully!』


Label: EMI/Universal Music

Release: 2025年6月20日

*現時点ではトラックリストは未公開

 

 

「lying」

 Blondeshell 『If You Asked For A Picture』


Label: Partisan

Release; 2025年5月2日


 

Review

 

 

2023年に続くブロンドシェルのセカンドアルバムはPartisanからリリースされた。昨年のレーベルのアルバムはほとんど”当たり”だったが、今年も本作をリリースし、2025年の本格的な幕開けを告げる。ブロンドシェルのセルフタイトルのデビューアルバムでは、ロックシンガーとしてのキャラクターが押し出されていた。


セカンドアルバム『If You Asked For A Picture』では持ち前のポップセンスを駆使し、ポピュラーとロックの中間にある聴きやすいオルトロックソングが生み出された。アルバム全体には、ほろ苦いセンチメンタルな雰囲気が漂う。USインディーロックの真髄のような作品である。 

 

サブリナ・タイテルバウムは、前作から受け継がれる直感的なソングライティングの方法を発展させ、メアリー・オリヴァーの詩にインスパイアされたタイトルを今作に据えた。タイテルバウムは、内的な感情をソングライティングのテーマに置き、コントロール、人間関係、そして自己反省といった主題を探求し、それらは自伝的な物語へと繋げている。さらに、プロデューサーは前作に続いて、イヴ・トスマンを抜擢し、デビュー作の手応えを受け継ごうと試みる。セカンドアルバムのオルトロックはときおり、重層的なテクスチャーを作ることもあるが、基本的には、''良質なメロディーメイカー''としてのブロンドシェルの性質を反映させている。

 

 

その中で、ほろ苦いセンチメンタルな楽曲が目立つ。スリーコードを中心とするバッキングギターはベースラインを描き、シンプルで儚い歌が歌われるが、これはファビアーナ・パラディーノに象徴されるUKポップスの最新のスタイルを踏襲している。


しかし、全般的なプロデュースや曲作りの形はイギリス・ライクであるにせよ、西海岸のような雰囲気が乗り移るときもある。タイテルバウムのエモーショナルなボーカルは、いわばカルフォルニアの幻影的な雰囲気を持つロックソングで、MOMMAの音楽性と地続きにある幻想的な雰囲気と結びつくこともある。

 

アルバムは内的な告白のような感じで始まる「Thumbtack」を筆頭として、アコースティックギターをフィーチャーしたフォーク・ソングをベースにしたポップスで始まる。


続く「T&A」ではエッジの聴いたロックソングを楽しむことが出来る。そして一番の魅力は、良質なメロディーセンスを持つタイテルバウムのボーカルであることは疑いがない。 ギターワークも念入りに作り込まれているが、同時に、ブロンドシェルの曲というのはアカペラで歌っても曲として成立するよう制作されている。だからこそ聴きやすさがあるのではないかと思う。

 

そんな中、90年代のUSロックの愛好家としての表情も伺わせる。「Arms」ではフェーザーを用いたギターを中心にグランジ風のロックトラックを聴くことが出来る。しかし、こういった懐古的なアプローチを選ぼうとも、曲にフレッシュな印象が残る理由は、コーラスワークやボーカルに軸が置かれ、それらが背景となるウージーなロックギターと巧みに合致しているからだ。90年代が中心なのかと思わせておき、時間を少しずつ遡るかのように、80年代のUSロックへと接近していく。それは産業ロックの雰囲気を醸し出し、同時にサザンロックのような渋さがある。アメリカのロックソングの歴史をシンプルに辿りなおすような楽曲となっている。

 

こういったロックソングがブルースのような音楽と地続きにあることを想起させるマディーな曲もありながら、ブロンドシェルの最大の持ち味というのは、ポップスとロックの中間層にある淡いポピュラー・ソング。「What's Fair」はこのアーティストを知らない方におすすめしたい。

 

ポリスの音楽を想起させるニューウェイヴとポップの融合は、やはりUKの最新のロックの系譜に沿っている。最近のロックソングは基本的に、複雑さではなく、簡素さに重きが置かれている。ここでは、ベースラインをなぞるユニゾンのギターに清涼感を持つボーカルを歌うという最新のソングライティングの手本が示されている。複雑な構成を持つ音楽は耳の肥えた聞き手は聴きこなすことが可能かもしれないが、一方で、長く聴き続けることを倦厭させる場合がある。

 

そして、その煩瑣さや複雑さが一般的に受け入れられるためには、どこかの段階でそれらを濾過したり、省略したり、聴きやすいように組み直すことも必要になってくるかもしれない。また、これは、音響学の観点から言えば、人間の一般的な聴覚の能力には限界があり、同時に、複数の情報を捉えるのにも限界がある。そういった点を踏まえた科学的な見地から見た簡素化や均一化の段階である。さらに言えば、出力される音楽は、どこかで平さないといけなくなる。そして、膨大な情報から何を引っ張り出してくるのかが、現代の音楽家の命題であり、あるいはセンスともいえる。もちろん、それは音量や音域の要素も含め、人間には可聴領域の限界があるからだ。そこで、どのようなフレーズを聞かせたいのかを明瞭にする必要がある。言いかえれば、どんなふうに聞き手や聴衆に聞いてもらいたいのかを明らかにすることが大切なのだ。

 

そういった意味では、ブロンドシェルは、オルトロックからセレブレティのポップスまでをくまなく彼女自身の音楽的な感性として吸収し、それらを自分なりにどのようにアウトプットすべきかを熟知している。もちろん、それはプロデューサーとの共通認識のようなものなのだろう。そして90年代のロックの系譜をあらためてなぞらえるかのように、サイレンスとラウドネスを巧みに行き来し、メロとサビを対比する王道の手法を用い、グッドソングを築き上げる。そこには聞き手に対する配慮が込められていることに気づく。つまり、曲を演奏したときに、どのようなリアクションが起こりえるかを、ブロンドシェルは予測して作曲を行っているのだ。

 

今回のセカンドアルバムに話を絞れば、フォーク・ソングをベースにした曲、そして80年代のポップスに依拠した曲、それらを艶やかなロックとして組み直した曲など、音楽的には幅広さがあるが、それらは、ブロンドシェルの伝えたいことを拡張させるアンプやフィルターの役割を担う。そして、この場合、実際的なボーカルの音量は必ずしも必要ではないということである。


さらに、どのような音の形を選ぼうとも、他の人の借り物になることはなく、ブロンドシェルの音楽としてしっかり確立されているのがストロングポイントだ。これはソングライターとしての人格が定まっているからで、あれやこれやと手をのばすような移り気な気質は、このアルバムにはほとんどないように思える。

 

そんな中で、バラード的なほろ苦い感じと清々しい感覚が組み合わされて、独特なエモーションを持つポピュラーソングが作り上げられることがある。

 

「Event of A Fire」は、ベースラインと単旋律を元にしたギターとボーカルという簡素な編成であり、サビだけドラムが導入される。ただ、こういったシンプルな構成であろうとも、タイテルバウムのボーカルの存在感は依然として維持されている。つまり、音の要素が多くなくても、良い曲を作ることは可能ではないかということを、ブロンドシェルは明示するというわけである。


 この曲では、クランチで力感を持つギターとセンチメンタルで脆さのあるボーカルという音域的な棲み分けによって、親しみやすいロックバラードが作り出された。つまり、ギターの中音域、ドラムの低音域、ボーカルの高音域というように帯域の棲み分けができているため、マスタリングもくっきりとしていて、ポップソングとしてもロックソングとしてもとっつきやすさがある。

 

音楽は、リズム、メロディー、ハーモニー、構成から出来上がり、これらのうちのどれも軽視出来ない。これはどのようなジャンルにも共通している。ブロンドシェルのソングライティングは、メロディーにしてもリズムにしても優れていて、掴みやすい特徴がある。さらに感覚的に言及すれば、アメリカ的なノスタルジアによって組み上げられ、そしてそれは前の時代の回想という観点にとどまらず、聞き手の心に何らかの温かなノスタルジアを呼び覚ますことがある。


明確な歌詞として現れることもなく、さりとて、音楽的にわかりやすい形で提示されるわけでもない。もしかすると、歌詞の行間から本質的な意味を汲み取る''サブテクストの音楽''と呼ぶべきなのかもしれない。しかし、音楽そのものが、何らかの背景を感覚的に掴むためにあるという特性が、ふてぶてしい感じのあるブロンドシェルの音楽性と合致し、現代人の感情のメタファーとして幾重にも渦巻き、ソングライティングの基礎を形成し、最終的には、シンガーの歌の魅力が滲み出てくる。もちろん、それらが良質な音楽となっているのは言うまでもないだろう。

 

ブロンドシェルの曲は、90-00年代のロックを基礎とし、80年代のディスコポップ、70年代のフォークロック、あるいは、断片的なR&Bが重層的に絡みあい、アメリカの商業音楽の余韻を生み出す。本作は、個人的で感覚的であるため、底しれぬ魅力がある。それが目に見える形となったのが、「Change」、「He Wants Me」、「Man」といった隠れたハイライト曲である。

 

これらが最終的には、西海岸のMagdalena Bay(マグダレナ・ベイ)のような、幻想的なポップと結びつき、アルバムのクローズ「Model Rocket」という結末に表れ出ることになった。古典性と現代性の混在、そして音楽の実存する時間軸を忘失するかのように、音楽の無限のジャングルの奥地へと冒険的に潜り込んでいる。やはり、これは西海岸らしい作品といえるのかもしれない。

 

 

 

86/100

 

 

「Thumbtack」


 

チップチューンのパイオニアと言われるアナマナグチ(Anamanaguchi)が、2025年8月8日にポリビニール・レコードからリリース予定の新譜『Anyway』を発表した。


アートワークはレーベルがアメリカン・フットボールと共同で所有権を持つシカゴの物件、通称"アメリカン・フットボール・ハウス"を再利用している。中西部の文化財のエコな再利用だ。

 

リードシングル「Darcie」は、ジャレッド・ラーブ監督によるミュージックビデオと同時に公開された。


ギタリスト/ヴォーカリストのピーター・バークマンはニューシングルについて次のように説明してくれた。


「これは感謝の歌なんだ。あなたの人生には、あなたのために物事を良くすることを仕事にしている人がいるかもしれない。自分を怒らせる人に注意を向けるのは簡単だが、自分を幸せにしてくれる人を褒め称えるのはもっとやりがいがある。今、いろいろなことを歌にできるのはクールなことだよ」

 

『Anyway』は、タルボックス・ロード・スタジオでデイヴ・フリッドマン(ザ・フレーミング・リップス、MGMT、スリーター・キニー)がプロデュース、レコーディング、ミックスする前に、たまたま有名なアメリカン・フットボール・ハウスの中にあったリビングルーム兼練習スペースで、バンド全員と一緒に制作した。

 

バンドはこの新作で変化をつけたいと考え、すべてをテープに生録音することを選択。1960年代後半の貴重なマーシャル・ギター・キャビネット・スピーカー(ニルヴァーナ、ジミ・ヘンドリックス、ウィーザーが使用したことがある)を含むヴィンテージ機材を使用した。リードシングルは、Weezer、Ressie And The Full Effectを彷彿とさせるオルタネイトなエモ/ジャングルポップソングとなっている。

 


「Darcie」

 

 

Anamanaguchi 『Anyway』


Label: Polyvinyl

Release: 2025年8月8日

 

Tracklist: 

 
Track 1
Track 2
Track 3
Track 4
Track 5
Track 6
Track 7
Track 8
Track 9
Darcie
Track 11
Track 12