Ulrika Spacek  『EXPO』


 

Label: Full Time Hobby

Release: 2026年2月6日

 

 

Review


ロンドンの五人組アートロックバンド、Ulrica Spacekは先週末、ニューアルバム『EXPO』をFull Time Hobbyから発表した。『EXPO』は、タイトルに違わぬ印象で、斬新な音楽が見本市のようにずらりと並ぶ。

 

日に日に強まるソーシャルメディアの絶大な影響力、その中で個性的であるということは、とりも直さず孤独を選ばすには居れないことを、ウルリカ・スペイセックの五人組は示唆する。例えば、かつてレディオヘッドが2000年代以降の個人監視社会を主題に選んだロックソングで一世を風靡したことがあるが、ウルリカ・スペイックは『OK Computer』『KID A』が生み落とした次世代の申し子である。そのサウンドの中には、ポストロック風の響きも含まれる。しかし、同時に、最初期のレディオヘッドのような閉塞感のあるボーカルがテクノ、ロックの中間にあるサウンドに揺らめく。最新鋭のロックなのか、それとも2000年代のリバイバル運動なのか。確かにそこには既視感のあるジャズ的なリズムとトム・ヨーク的な幽玄なボーカルが併存し、なにかしら新鮮な響きに縁取られている。


「孤立と疎外感の歌。周囲の誰もが絶えず自己を晒し、公の場で生き、見られたり聞かれることを求める、過度にオンライン化された世界において、『個性』の時代はひどく孤独だ。それは凹面鏡の部屋のようなもの。このことを念頭に、バンドは集合的な努力を捧げることに決めた」

 

独特な孤独感、また、それはときに勇敢さを意味する。『EXPO』の音楽には、''和して同ぜず''という論語の故事成語がぴったりと当てはまる。時流に乗っているようで、また、流行りのポストパンクにも共鳴する何かがあるが、彼らのサウンドは同時代のバンドとは異なっている。2016年から二年ごとのサイクルでアルバムを発表してきた彼らはついに最新作で高みに到達した。


「Intro」から強烈で、AIのテーマを暗示させたインスト曲で始まり、マニュピレーターを用いたアヴァンギャルドなテクノがブレイクビーツやスポークンワードのサンプリングと連動する。そこには近未来的なイディオムもある。しかし、それは同時に現代社会の同化現象に鳴らされた警鐘でもある。


「Picto」では16ビートのドラムの中で、ポストロック/マスロックの混雑したギターが、緻密なストラクチャーを構築する。ボーカルは『OK Computer』や『KID A』のような閉塞感のあるサウンドを担う。最近のポストパンクやスロウコアも吸収していると思うが、独特な浮遊感のあるサウンドは他の何物にも例えがたい。90年代のUSオルタナティヴロックからの影響もわずかに感じられるが、マニュピレイトされたRolandのシンセで出力されるテクノサウンドがそれらの既視感を帳消しにする。複雑なサウンドは変化し、中近東のパーカッションなどをドラムに重ね、エキゾチズムを増す。いわば、Squidのような複雑なサウンドであるが、こちらの方が一体感がある。

 

中盤は、King Kruleを彷彿とさせるようなごった煮のサウンドの曲があったり、レディオヘッドの中期のようなサウンドがあったり、『EXPO』のコアらしきものがほのめかされる。それはまるでインターネット空間をぼんやりと彷徨うような感覚がある。意図せぬ情報やアルゴリズムの投稿が目の前に矢継ぎ早に示され、それをさながら命題のように考え、時々振り回されたり、翻弄される個人。『EXPO』には現代社会の縮図とも呼ぶべき広汎な音楽が居並ぶ。


しかし、これらの現代史の博物館(EXPO)の展示中に、バンドが言うところの本当の自己やアイデンティティが発見できる瞬間がある。それが「Showroom Poetry」である。ローファイやスラッカーロックを基本に展開されるが、それらの混沌としたサウンドの向こうに歌われる、もしくは呟かれる言葉に一体感が生じ、バラバラに散らばっていたはずの破片が集まり、奇妙な一体感のような感覚が生み出される。ボーカルや全体的なバンドサウンドには今作のテーマである孤独の空気感が揺らめくが、その中には得難い安心感やひりひりするような情熱がちらついている。誰もそんなとこにはいないだろうと思っていた場所に結構な人がいたというような瞬間。とまあ、なんやかんやで、この曲は聴いてみると分かる通り、アルトロックの秀曲となっている。Galaxie 500のような内省的なインディーロックサウンドがアンセミックに変貌していく。

 

本作の後半はさらに多彩さが増すが、同時に序盤の収録曲に比べると求心力に乏しいところもある。レディオヘッドの次世代のアートロックサウンドが展開されたり、Ulrica Spacekの持ち味の一つであるジャズの影響を取り入れた動きのあるアートロックが繰り広げられる。 また、ブレイクビーツとアートロックの融合を試みた「Weight & Measures」なる次世代のロックソングも収録されている。この曲では弦楽器を取りれたりしながら、イギリス的なポストロックのイディオムを定めた瞬間が訪れる。テクノや電子音楽を中心としたバラード「A Modern Low」もまたレディオヘッドの次世代のサウンドに位置づけられる。ただ、そんな中、単なるフォロワーに収まりきらず、独創的なロックサウンドが出てくるときがやはり最も面白い瞬間であろう。

 

アルバムのクローズを飾る「Incomplete Symphony」は、バロックポップやチェンバーポップを下地にした次世代のサウンドで、ビートルズ、ローリング・ストーンズからブリットポップまでを吸収し、現代版に置き換える。また、こういった最後の曲を聴くと分かる通り、彼らがMOGWAIの初期のようなサウンドを吸収していることはおそらく間違いないだろうと思われる。一方で『EXPO』はモグワイのような反復的で恍惚とした轟音ロックサウンドにはならない。アンセミックなボーカルやコーラスを通じて現代社会を鋭く風刺するかのようなギターの不協和音が背後を突き抜け、次いでアンセミックなボーカルとシンセが追走するように通り過ぎていく。そこには飾らない生々しいリアリティが内在する。それこそが『EXPO』の醍醐味なのだろう。

 

 

80/100 

 

 

 「Showroom Poetry」-Best Track

 

 

 

▪Ulrica Spacek『EXPO』- Listen/Stream: https://ulrikaspacek.ffm.to/expo 



Ulrica Spacek:



「リビングルームは自然な残響をあまり生み出さないし、人工的に作り出すのも我々の意図ではない」


ウルリカ・スペイセックはベルリンで一夜にして結成された。14年来の友人であるリース・エドワーズとリース・ウィリアムズが『ウルリカ・スペイセック』というコンセプトを思いつき、デビューアルバムのタイトルとして『The Album Paranoia』を考案した。 ロンドンに戻りレコーディングを開始すると、ジョセフ・ストーン(ギター、オルガン、シンセサイザー、ヴァイオリン)、ベン・ホワイト(ベース)、カラム・ブラウン(ドラム、パーカッション)が加わり、現在の5人編成が固まった。 


アルバムはほとんど予告なく、大々的な宣伝もなくリリースされ、バンドがキュレーションと出演を兼ねる「オイスターランド」と題したほぼ月1回のクラブナイトが1年間続いた。18ヶ月も経たぬうちに、不気味なほど完成された続編が登場。エドワーズによればこれは必然だったという。


「曲を一括で作り上げてから順番を決める手法には、我々はあまり興味がない」と語るように、3分間のシングル10曲を書き上げる誘惑を避け、より開放的で広がりのあるスタイルを志向している。書きながらアレンジを重ね、楽曲がセットリストの中で自然な位置を見つけることを意図しつつ、自己満足に陥らない方向性を常に保っている。現在はロンドンで活動している。


 


エディット・ピアフのようなジャズボーカルの巨匠はもはやスタンダードとも言うべき存在となっている。しかし、クインシー・ジョーンズがフランスへ行き、作曲家としての修練を積んだのと同じように、エディット・ピアフですらヨーロッパ音楽の影響を作風に巧みに取り入れ、新しい定番へと組み替えた。それがミュゼットだった。

 

バル・ミュゼット(Bal Musette)という音楽は、フランス/パリを発祥とするダンス音楽の一種であり、それ以前に流行したワルツを派生させた形式である。ワルツと明確に異なる点は、労働者に親しまれ、ダンスホールやカフェといった場所で人気を博したことだろう。いわば宮廷音楽がポピュラー化した瞬間である。 さらに言えば、ミュゼットは、一般市民が演奏するダンスミュージックなのだが、この音楽は例えば、パリの旅行番組などのBGMなどで頻繁に登場することが多い。また、20世紀前半の映画のサウンドトラックにもこういった音楽が流れていた。

 

 

▪ミュゼットーーバクパイプとしてのルーツ 




ミュゼットという言葉は、中世から使用されていたダブルリード楽器「ミュゼット・ド・クール」に由来する。バクパイプのように、動物の皮がついていて、トランペットの始まりのように生々しい楽器と言えるが、スコットランド、スペイン、そしてフランスの民族舞踊には欠かせない楽器でもある。

 

この楽器は17世紀から18世紀にかけてのフランスの宮廷で使用されていた。あまりバグパイプはクラシック音楽の楽器とは見なされないが、ミュゼットだけは例外である。オペラやバレエの一幕「パストラーレ」というシーンで演奏されることがあった。バレエ愛好家のルイ14世の時代、メヌエットやガヴォットのような組曲の形式にミュゼットは組み込まれることがあった。クラシックでのミュゼットは踊りのことではなく、器楽的なパグパイプの性格を模した小品のことを意味していた。


ところが、この宮廷音楽が2世紀を経て、ポピュラーやジャズの性格を付け加えて復活した。19世紀のパリでは、ミュゼットはフランス南西部にあるオーべルニュ地方にある「キャプレット」という楽器のことを言うようになる。その後、ミュゼット音楽は、バスティーユ、ベルヴィル(セーヌ)、メニルモンタン(パリ)などの地域で、オーベルニュ出身の人々によって始まり、第二次世界大戦頃まで流行した。


ミュゼットは、イタリアからの移民労働者やロマがもたらしたブルターニュ地方の舞曲、そして、ジプシーのリズム、イタリアのワルツが加わり、民衆の音楽として完成した。オーヴェルニュ地方の労働者は、19世紀後半にパリのような首都に流れ込み、炭やワインを販売するバーや店舗を開き、小さなダンスホールなどを開店し、首都の生産活動の一部を司るようになった。

 


リヨンに隣接するオーベルニュ地方の人々は19世紀後半からパリに移住し、水運び、カフェの経営、炭焼きなどの仕事に就いた。彼らはパリ11区に集まり、都会生活の中で、故郷の風土を再現させようと試みた。こういった中で、ミュゼットが誕生し、主に石炭商の経営するカフェで演奏された。楽器的な特徴としては、小型のバクパイプの音色に合わせて踊ることが多かった。スコットランドの民謡、マズルカ、農民の民謡などを組み合わせた音楽だった。当初開かれた舞踏会は荒っぽい雰囲気があった。

 

その後、他地域の人々にも紹介された。20世紀に入り、別の移民集団がミュゼットにアレンジを加えた。パリに住むイタリア人が、一般的とは言えないバクパイプをより演奏しやすくするため、アコーディオンに組み替えることになった。ダイアトニック・アコーディオン、そしてクロマティック・アコーディオンが登場し、最初のパクパイプに取って代わられるようになった。

 

この時期、並んで登場したのが、ジャバ(Java)と呼ばれる音楽で、ワルツ起源とする舞踏音楽であった。テンポはゆっくりとしていて、アウトサイダーの雰囲気に満ちていた。これもまた音楽そのものが20世紀に入り、大衆化した事例でもある。この音楽の舞踏会は、 男女が混在して、労働者、職人、使用人、若者たちが参加し、心楽しい雰囲気に満たされた。特に郊外を中心に、新しいワルツは人気を博し、サン・アントワーヌ、ワッペ通りなどを中心に、社会的な交流の場所と化したのだった。

 

Emile Vacher

第一次世界大戦以降になると、ミュゼットは最盛期を迎えた。特に後世の音楽を捉える上で大切なのは、このジャンルをもとに、フォックストロット、パソ・ドブレなどが派生音楽として登場したことだ。ダンスの面では、タンゴのような情熱的な動きが加わり、バスティーユ広場近辺やパリのダンスホールなどでは、荒々しい動きが加わるようになる。1930年代に入ると、この音楽はジャズのスイング、そしてジプシー音楽が加わり、1950年代ごろまで民間に浸透していく。


ジャズは当初、クラブのオーナーに歓迎されなかったが、実際の演奏者が取り入れ、ミュゼットとジャズを入れ替えて演奏するのが1940年代の主流となり、パリのダンスホールを中心とするナイトミュージックとして栄えていった。

 

1950年代に入っても、ミュゼットはフランス国内で人気のサウンドで、多くのスター、ガス・ヴィスール、トニー・ムレナ、ジョー・ブリヴァットといったスターがアメリカに渡った。これらのメンバーはグレン・ミラーのような著名なミュージシャンと共演し、ジャズに新鮮な気風を呼び込んだ。

 

それ以降、ロックやポピュラーのフランス国内の普及によって、商業音楽としてのミュゼットは衰退していったが、地方の結婚式やお祝いのようなイベントなどでは普通に演奏され続けた。この音楽で有名なエミール・ヴァッシュ(Emile Vacher)は、パリ南部5区に父親とダンスホールを開いた。


ヴァッシュは楽譜を読めなかった。しかし音感の良さを頼りにし、独自の音楽スタイルーーアコーディオン音楽ーーを確立。彼の音楽もまた、古い民族舞踊、イタリアの歌謡(カンツォーネ)のような音楽を下地に、一般大衆の音楽として成立した。ミュゼットの音楽的な特徴は6/8のような性急なテンポで構成され、20世紀のフランス市民の熱狂を体現するものであった。この音楽は、当初は舞踏音楽として出発したが、後に下町の音楽として親しまれるようになった。

 


Emile Vacher 「Mado」

 

景山奏/Lena


景山奏(NABOWA)によるソロプロジェクト【THE BED ROOM TAPE】がLena(AVOCADO BOYS)フィーチャリングした新曲をリリース。


予てより親交の有ったAVOCADO BOYSのLenaを客演に迎えた本作は互いに共振する心情をテーマに制作。Lenaによるポジティブで等身大の詞、メロディを軽やかな鍵盤+強めのビートでプッシュするサウンドに仕上げた一曲。


ボーカルレコーディングはAVOCADO BOYSの吉田裕、ミックス/マスタリングはjizueの井上典政が担当。


▪️THE BED ROOM TAPE「Nanana feat. Lena (AVOCADO BOYS)」



Released by bud music | 2026.02.11 Release

配信: [ https://ssm.lnk.to/Nanana ]


Lyrics : Lena (AVOCADO BOYS) リナ アボカドボーイズ Lena (AVOCADO BOYS)

Music : 景山奏 カゲヤマカナデ Kanade Kageyama

Vo : Lena (AVOCADO BOYS) リナ アボカドボーイズ Lena (AVOCADO BOYS)

Pf, Synth, Ba, Beats, Other All Instruments : 景山奏 カゲヤマカナデ Kanade Kageyama

Vocal Recording : 吉田裕 ヨシダユウ Yu Yoshida

MIX / Mastering : 井上典政 イノウエノリユキ Noriyuki Inoue



▪️THE BED ROOM TAPE「WALTZ OF THE RAIN」

Released by bud music | 2025.10.15 Release

[ https://ssm.lnk.to/waltzoftherain ]

[ https://youtu.be/l7flizJNa-U?si=80lOaB7pD24VleeQ ]


▪️THE BED ROOM TAPE「奏でるSOUL feat. 奇妙礼太郎」

Released by bud music | 2025.08.20 Release

[ https://ssm.lnk.to/kanaderusoul ]

[ https://youtu.be/JSv7wrrhyaM?si=2kh1zaehNFPASxvK ]



THE BED ROOM TAPE:


景山奏によるソロ・プロジェクト。2013年、児玉奈央、NAGAN SERVER、奇妙礼太郎が参加した「THE BED ROOM TAPE」、2015年、川谷絵音、リミキサーとしてBudaMunkが参加した「YARN」、2016年、Gotch、BASI、リミキサーとしてUyama Hirotoが参加した「UNDERTOW」を発表。2022年アルバム「family line」をリリース。2025年8月、奇妙礼太郎がフィーチャリングで参加した「奏でるSOUL」をリリース。



Lena:

日本のバンドAVOCADO BOYSのボーカルを担当している。北欧/ドイツ系カナダ人の父を持つ名古屋出身の女性シンガー。35歳で初めてバンド活動(AVOCADOBOYS)をスタートし、子育てと音楽を両立しながら、その飾らない人柄と抜群の歌声で人気を獲得している。TikTokフォロワーは5万人超え、歌唱動画の総再生回数は1,000万回を超えており、SNSでも注目を集めている。

 


パンデミック期の病の時期を経て劇的な復活を果たし、その後新作のリリース、ツアーなどを精力的にこなす冥丁。プロジェクト名が示唆する通り、日本的な感性を探るアーティストは未知なる音楽的な世界を押し広げ、Wire、Pitchなど海外の音楽メディアにも登場するようになった。失日本と呼ばれる感性を追求する彼だが、次なる興味は花魁文化に向けられることになる。


冥丁のニューアルバム『瑪瑙』(めのう)より先行シングル「新花魁」(しんおいらん)が2月6日にデジタル配信でリリースされる。ニューアルバムは4月17日発売予定。


三部作『古風』に通底する哀愁と、その先に切り開かれた影。本作「新花魁」は、冥丁がこれまで継続して取り組んできた主題“失日本”が、時を経て一つの像を結ぶ楽曲である。


古風編初作に収録された「花魁Ⅰ」(2020年作)を原型とし、公演を重ねる中で舞台上で何度も披露され、磨き上げられてきた本楽曲は、五年を経て「新花魁」という名を持つに至った。この楽曲を通じて、歴史上で語られる花魁という存在の先に表現されたのは、「私」と「非私」との、そして冥丁自身が現代で見た日本の自然美の連なりと、麗しくも咲き誇る鮮烈な哀愁である。


朽ちゆく質感の層を漂う遠い声、古楽器の音を用いながらも伝統的手法とは異なる独自のパーカッシブなリズム、そして現れては消えていく旋律の連なり。それらは明確な物語を語ることなく、リスナーの感覚に直感的に触れてくる。


アルバム『瑪瑙』の序章として位置づけられる「新花魁」は、実直で創造的な営みを止めることなく仕上げられた一曲である。ここにあるのは、再構築された歴史ではなく、自明でありながら幽美な印象として漂う日本の姿“失日本”であり、日本的な感性と現代的な表現が織り成す新たな輪郭である。


ミュージックビデオ「新花魁」(映像:戸谷光一)も同日公開される。本作のミュージックビデオやアーティスト写真に映し出された、冬の日本海や、孤高の断崖に舞い散る霰、波飛沫などの情景は、冥丁自身が10年間にわたり広島で過ごした日々の葛藤と、自身の創造する音と孤独に向き合った有様を象徴している。


「新花魁」


冥丁「新花魁」-New Single



リリース日: 2026年2月6日(金)

カタログ番号 : KI-050S1

アーティスト : 冥丁

タイトル : 新花魁

フォーマット:シングル / デジタル配信

レーベル : KITCHEN. LABE

配信: https://kitchenlabel.lnk.to/52P3moDM



【冥丁(めいてい)プロフィール 】


冥丁は、「自明でありながらも幽微な存在として漂う日本」(誰もが感じる言葉では言い表せない繊細な日本)の印象を「失日本」と名付け、日本を主題とした独自の音楽表現を展開する、広島・尾道出身・京都在住のアーティストである。現代的なサウンドテクニックと日本古来の印象を融合させた、私的でコンセプチュアルな音楽表現を特徴とする。『怪談』『小町』『古風(Part I, II, III)』からなる三部作シリーズを発表し、その独自性は国際的に高く評価されている。


TheWireやPitchforkなどの海外主要音楽メディアからも注目を集め、冥丁は近年のエレクトロニック・ミュージックにおける特異な存在として確立された。音楽作品の発表に留まらず、国際的ブランドや文化的プロジェクトのための楽曲制作に加え、国内外における公演活動や音楽フェスティバルへの出演、ヨーロッパやアジアでのツアーを通じて活動の幅を広げてきた。さらに近年は、寺院や文化財、歴史的建造物といった空間での単独公演へと表現の場を拡げ、日本的感性と現代的表現の新時代を見いだし続けている。

Angus MacRae  『Warren Suit』 


Label: Venus Pool

Release: 2026年2月6日

 

Review 


ロンドンの作曲家、アンガス・マックレイによる最新作『Warren Suit(ウォレン組曲)』は、バーナード・ショーによる舞台劇『ウォレン夫人の職業』のために書かれた10の組曲である。この舞台作品は、日本のトーホーシネマズでも上映された。


『ウォレン夫人の職業』は売春婦をテーマに母と娘の衝突、そして自立、家父長制が社会的規範であった時代の道徳とは何かを問う。1902年の発表まもなくバーナード・ショーの新作は上演禁止となった。文字通りの問題作である。

 

作曲家、アンガス・マックレイは、今回の音楽作品『Warren Suit』のために多角的な器楽のアプローチを図り、ピアノ、ハープ、弦楽器、電子音による女性声楽四重奏が導く、夢幻的な小品群として展開する。ミニマリズムとマキシマリズムを織り交ぜた音楽は、20世紀初頭のフォークとクラシックの伝統を汲み取りつつ、包み込むような現代的な音響世界へと再構築している。



「これは即興と実験のアルバムです。舞台作品とは並行世界として捉えてほしい——繋がりつつも独立した存在として」マックレイは語る。「原作のスコアの糸をひたすら引き続け、どこへ導かれるか見たかった。それは予想外の深淵へと私を誘った。このレコードの核心にあるのは言葉なき声たちだ。ショーの物語の中心に立つ女性たちの幽霊のような幻影として機能している。彼女たちの存在感を増幅させ続け、文章とは独立した形で物語を拡大させたかった」

 

制作者が語るように、どことなく舞台に登場する亡霊の声なき声が盛り込まれている。アルバムは「May Child」で始まり、電子音と女性のクワイアを中心にミステリアスな音楽性が組み上げられている。二声(以上)を中心とする女性のクワイアはこの物語の扉を開き、無限なる物語の道筋へと誘う。しかし、この舞台音楽が面白いのは、典型的なイギリスの響きが出てくることだろう。


「Warren Folklore」では、女性のメゾソプラノ/ソプラノを中心にさらにミステリアスな音楽が登場し、Secret Gardenのような音楽性を彷彿とさせるセルティック民謡(ケルト音楽)の要素が出てくる。この副次的なモチーフが独り歩きをして、物語の奥行きを広げるための導きを成す。曲の途中では、音楽そのものは本格的なオペラへと近づき、複数の声部の歌唱、ストリングスのハーモニーを通じて、ウォレン一家の悲哀のような感覚が露わとなってくる。賞賛すべきなのは、この音楽作品がそのまま、シナリオの暗示、もしくは道標となっていることだろう。

 

また、この舞台音楽のたのしみは、クワイアや弦楽と合わせてささやかなピアノの小品が収録されていること。そして「In Your Nature」のように印象音楽としての自然を描いたと思われる曲から「Nine Roses」のような物語の中枢に登場するような印象的なシーンを描いたものまで、それらが一貫してペシミスティックなピアノの音色で縁取られていることである。ここにはドラマ音楽の基本的な作曲法と合わせて、マズルカのような物悲しい音楽的なテーマが垣間見える。ここにも一貫して、古典的な家父長制度における女性の生き方という主題が、一つの物悲しさに結びついている。そしてその中には、女性たちの幽霊というショーの物語の中枢が見えてくる。その音楽的なテーマの中には、やはりイギリスの古典的な雰囲気を見いだせるだろう。

 

現代音楽としても興味をひかれる曲がある。四曲目に収録されている「Chalk Petal」は、Arvo Part、Alxander Knaifelのような東欧の作曲家の管弦楽法を受け継いだ曲として聞き入らせる。また、音響効果として舞台を演出する内容も、弦楽器の長いレガートにより培われるドローン音楽は、ワーグナーのオペラの通奏低音のような特殊効果を発揮する。 複数の主旋律が重なり合い、美しく可憐な音の構造を生み出すが、同時に、それはアンビエントのような音楽的効果を併せ持つ。しかし、ここまで一貫して、物悲しい音楽がいまだかつて存在しただろうか。音の旋律は美しさがあるが、それはまるで濃霧の中を永遠とさまよい続けるような無明の雰囲気がある。しかし、もっともこの曲が美しいのは、弦楽器の演奏のあとに登場するクワイアである。

 

そんな中で、ややコミカルな曲もある。「Forebears」のような曲は、悲哀溢れるウォレン夫人の物語のミステリアスな側面を強調付けるものであるが、チャイコフスキーの「くるみ割り人形」のような音楽性を感じ取る事ができる。音楽全体は、室内楽のような感じで続いて、ピアノ、弦楽器の演奏を通して、ウォレン夫人を暗示するメインのボーカルが華麗な雰囲気を作り出す。この舞台音楽が最もアンビエント的な要素を強める瞬間が「Picking Fruit」である。シンセサイザーを通じて、作曲家のマックレイは電子音楽に近い音楽の手法を選んでいる。そして、クワイアやミステリアスなシンセサイザーの伏線を通じて、華麗な弦楽器のソロが登場する。ここではチェロと思われる芳醇な旋律が、力強く鳴り響く瞬間がこの曲のハイライトとなる。

 

声楽を中心とする曲の中で、最も目玉となる曲が「Bloodline」である。制作者が語る「亡霊的な響き」が最も色濃く表れ出た瞬間である。この曲は特に、夫人の売春婦としての艶やかな雰囲気がオペラティックな歌唱によく表れ出ている。一方でそれは艶やかで魅力的であるが、危険なバラのような棘を持った夫人の人物像を音楽の向こうに浮かび上がらせる。こういった劇伴音楽の手腕は本当に見事であり、たとえ舞台そのものの演出がなくとも、独立した音楽作品として十分自立していることを証し立てるものである。この曲に感じられるミステリアスな雰囲気はまさしく、バーナード・ショーの作品をくまなく読み込んだからこそなしえた凄技だろう。

 

本作『Warren Suit』はオペラティックな側面もありながら、バレエの組曲に近い音楽構成も発見出来る。そしてまた、アルバムの最後に収録されている「Ghosts In White Dress」は、ウォレン家の豪奢な暮らし、その裏に隠された物悲しいエピソード、当時の社会的な道徳という副次的な主題を鮮明に浮かびあがらせ、まるで音楽という舞台を中心に登場人物たちが甦るような不可思議な感覚に浸されている。音楽的には、Morton Feldmanの作品『Rothko Chapel』に近い感覚を見出せることもあった。近年聴いた劇伴音楽の中では随一の作品で、大いに称賛すべき組曲。

 

 

85/100 

 

 

 

 

 

Angus MacRae:

 

アンガス・マックレイは作曲家、マルチインストゥルメンタリスト、レコーディングアーティストであり、その作品はレコード、実験的なライブパフォーマンス、演劇・ダンス・映画のためのスコアの間をシームレスに行き来する。彼の音楽は容易に分類されることを拒むが、広くはクラシック音楽と電子音楽の交差点に位置し、即興がしばしばその核心をなす。


独特の音楽的世界構築で知られるマックレイの作品は、記憶と想像力をテーマに深く概念的な探求を続ける。数々の高評価を得たアルバムやEPを通じて、その音楽は世界的な聴衆に届いている。


彼の数多くの楽曲は、ナショナル・シアター、アルメイダ・シアター、BAM、ロンドンのウエスト・エンド、ブロードウェイなど、国際的に著名な会場で演奏、上映されています。ドミニク・クック、レベッカ・フレックナル、リンドジー・ターナーなどの監督、マイケル・ウィノグラッド、ナタリア・ツプリク、バレネスク・カルテットなどのミュージシャンとコラボレーションを行っています


昨年、新作アルバム『Getting Killed』をリリースしたニューヨークのロックバンド、Geeseがタイニー・デスクコンサートに出演した。今回珍しくバンドはアコースティックのステージを披露した。


コンサートは、Geeseが明日(2月11日)オーストラリア・シドニーで開幕する2026年「Getting Killed」ツアーの直前に開催された。ツアーはオーストラリア国内で公演を重ねた後、日本、ヨーロッパ、イギリスを経て北米に戻る予定。また、ツリーフォート、コーチェラ、プリマベーラ・サウンド、レディング、リーズなど、複数のフェスティバルへの出演も予定されている。


バンドはツアーで贈られた品々、おもちゃのガチョウ、スヌーピーのぬいぐるみ、イエスを抱くソニックのフィギュア、マインクラフトの付箋、メッツの帽子といった私物に囲まれて、3rdスタジオアルバムから選りすぐりの楽曲を披露する機会を得た。 パフォーマンスはNPRへの寄付金43,801ドルを集め、非営利放送組織が地域局への資金提供を継続する支援となった。


今回のタイニーデスクコンサートでは「Husbands」「Cobra」「Half  Real」の三曲がセレクトされた。ギーズのセットは、チャーミングなほど真摯で少し物憂げな雰囲気が漂い、『Getting Killed』の静かな瞬間を捉えている。まさにバンドの最も純粋な姿だ。 フロントマンのキャメロン・ウィンターは座ったままギターを弾き、前方を見つめながら歌う。


エミリー・グリーンは鋭いエッジの効いたギタープレイでバンドの鼓動を刻み、ここでも輝きを放つ。他のメンバーはほとんど目を閉じて演奏し、昨年春からツアーで磨き上げた楽曲に没入している。「Half Real」のように音楽が盛り上がるにつれ高みへと舞い上がる。ここでは聴かせるギースのサウンドを楽しむことが可能だ。


aus


ausが群馬/伊香保温泉で24年秋に展示したインスタレーション音源を、マンチェスターのアンビエント名手、The Humble Beeが丸ごと再構築したコラボアルバム。バスタブから温泉へ、全身で浴びる音泉音浴。空間に身体がほどけていく。昨年末に発表された『eau』以来の作品。2月13日にフィジカル(CD/LP)、そしてデジタルで発売。


aus が2024年秋に伊香保温泉に1ヶ月滞在・制作し、現地で公開され大きな話題を呼んだ八湯回遊型インスタレーション「いかほサラウンディング - アンビエント音泉」。「Chalybeate」は、その展示をThe Humble Beeが丸ごと再構築し、音そのものを伊香保の空気と湿気に1年間浸し、再発酵させた作品です。


The Humble Bee


温泉街全体を音の泉に見立て、源泉の湧動音、木造建築の反響、石段の賑わいや、あちこちに散らばる風鈴の音が重ねられ、町そのものの呼吸を写しとったというインスタレーション音源は、にごりのない澄んだモチーフから1年をかけて、テープヒスのざらつきやひそやかなうねり、黄金と白銀で知られる伊香保の湯の質感を染み込ませています。


終わることのない石段で疲れ切った ausからミックスのバトンを受け取ったのは、長年にわたって付き合いを続けてきた英マンチェスターのアンビエント名手 Craig Tattersall。微かに湯の中でこだまする倍音を丁寧に掬い取った繊細なサウンドデザインによって、儚くアトモスフェリックな音響に仕上げられました。


ビジュアルは、伊香保と同じ水源ともいわれる榛名の現地アーティスト フランシス・カナイによる湯らぐグラフィック。LPは温泉を模したハーフ・トランスパレントの特殊ヴァイナル、CDボーナストラックにはサウナ大国フィンランドより、Olli Aarniのリミックスが追加収録。



アルバムは2/13にCD/LPでリリース、現在先行シングルとして「i follow a barren path across the old mountain」「below the surface we shimmer and shine」の2曲が公開中です。

 

 

 「below the surface we shimmer and shine」


 

■ aus + the humble bee「Chalybeate」



タイトル:Chalybeate

アーティスト:aus + the humble bee

発売日:2026年2月13日

フォーマット:CD/LP/DIGITAL

レーベル:FLAU


Tracklist:

1 below the surface we shimmer and shine

2 i follow a barren path across the old mountain 

3 blushing copper light

4 specular ochre

5 in dark hours, your colours glow their brightest 

6 the mulberry and the stone

7 juniper

8 we flow ever downwards, until we blossom

9 the mulberry and the stone (olli aarni remix)* 


* = bonus track for CD ONLY


▪リリース詳細

https://flau.jp/releases/chalybeate/


▪MV「below the surface we shimmer and shine」

https://youtu.be/O0UnFUfmKPE


▪最新作のレビュー

WEEKLY MUSIC FEATURE: AUS 『EAU』 和楽器/箏とシンセサイザー、ピアノが織りなすモダンなテクノ/アンビエント


aus:

東京出身。10代の頃から実験映像作品の音楽を手がける。長らく自身の音楽活動は休止していたが、2023年に15年ぶりのニューアルバム「Everis」とシングル「Until Then」を発表。より室内楽へのアプローチを深めた「Fluctor」を2024年にリリース。Ulla、Hinako Omori、Li Yilei らとのインスタレーションや群馬・伊香保温泉でのインスタレーション「いかほサラウンディング」、Matthew Herbert、Craig Armstrong、Seahawksへのリミックス提供など、復帰後は精力的に活動している。最新作は箏を中心に据えた新しいプロジェクト/アルバム「Eau」。


the humble bee:

英マンチェスター在住Craig Tattersallによるプロジェクト。テープループと断片的でメランコリックな旋律を用いた作品で知られ、2000年代後半からMotion Ward、Astral Industries、Dauwなどからリリース。90年代からHood、The Boats、The Remote Viewerなど複数のプロジェクトを展開、人肌のあるノスタルジックなフォークトロニカ〜アンビエントで多数のコラボレーションも重ねてきた。繊細な反復と音の質感に焦点を当てた音楽は、親密で静かな強度を備えている。

 

NEW AUCTIONは2026年3月15日、「古道具坂田」を通じて長年にわたり蒐集された品々から成る、吉澤宏隆氏のコ レクションセールを開催いたします。


古道具坂田は、1973年に店主・坂田和實(1945‒2022)によって東京・目白に開かれた古道具店であり、骨董や古美術といった既存の枠組みにとらわれることなく、「古道具」という言葉のもと、日常のなかで使われ、時を重ねてきた物に宿る「美」を47年間にわたり示し続けてきました。 その独自性は、価格や時代、作家性といった評価軸に求められるものではなく、坂田の眼に「美しい」と映るかどう かに置かれており、欠けや疵、歪みなど時間の痕跡を含めた姿や、本来の用をなさないほどの姿にさえ「美」を見出 した点にあります。


そして時代や地域、用途を越えて坂田の審美眼が示してきた「ものさし」は、やがて多くの共感を呼び、古道具坂田 を通じて、人々がそれぞれの「眼」をもって物と向き合い、自ら選び取ってきました。 本コレクションにおいては、これらの品々に触れていただくことで坂田の美意識を感じていただくとともに、それらに向き合い、共感しながら蒐集してきたコレクターの思いにも触れていただけましたら幸いです。


本オークションに出品される品々はすべて、2024年に中国・杭州のBY ART MATTERS(天目里美術館)にて開催され た「古道具坂田 僕たちの選択」展において紹介されたものになります。またとない機会となりますので、皆さまのご参加を心よりお待ち申し上げております。

 

詳細: NEWWWAUCTION.COM






ーーこの度、私のコレクションをご紹介できる機会をいただき、心より感謝申し上げます。

私が、古道具坂田(目白)を訪れたのは、30年ほど前になります。

不遜な言い方かもしれませんが、そこは、私にとって、お互いの力量を探り合う真剣勝負の場。初対面の際、坂田さんから 「君、本当にこの美しさが分かるの?」と言われ、必死に弁明したことは、忘れもしません。一見穏やかそうな坂田さんですが、

実は、熱く頑固な方。そして、覚悟を持って骨董に対峙しておられたように思えます。私にはその姿勢も魅力的でした。

やがて、坂田さんが扱う品々の中で、特に私が共感できた「ピュアなもの」、「静かで内に秘めたもの」、「枯れはてたもの」を、 「この品を理解できるのは自分が一番だ」という想い、妙な確信をもって、少しずつ買い集めていました。

未だ想いは残りますが、「年齢を考え、次の方に引き継ぐのが私のまた使命」と思い、オークションに託すことにしました。

ちまたに古いものは溢れ、食傷気味の方は多いかも知れません。今般のオークションが契機となり、これらの中から拾いあげた 「坂田さんの眼」、その背後に隠れた「坂田さんの生きざま」を感じとっていただけたなら、私にとって、これ以上の幸せはありません。ーー吉澤 宏隆


▪️「The H.Y. Collection: Assembled from Furudougu SAKATA」



プレビュー

会期 : 2026年3月11日(水)- 3月14日(土) 時間 : 11:00 - 20:00

(最終日のみ17:00まで) 会場 : SAI

住所:〒150-0001 東京都渋谷区神宮前 6-20-10 RAYARD MIYASHITA PARK South 3F

オークション

会期 : 2026年3月15日(日)

時間:START 13:00 - (OPEN 12:30- )

会場 : SAI

住所:〒150-0001 東京都渋谷区神宮前 6-20-10

RAYARD MIYASHITA PARK South 3F


●ABOUT NEW AUCTION


INTRODUCTION:

2021年6月、東京の文化発信地である原宿を拠点に新たなアートオークションハウス 「NEW AUCTION」 がスタートしました。 私たちは従来のアートオークションという枠組みに縛られることなく、 新しい体験、 新しい価値観を提供することを目的とし、 オークションの可能性を、 原宿から世界に向けて拡張していきます。

 

APPROACH:

NEW AUCTIONでは、またアートマーケットの持続的な循環を促すための「アーティスト還元金」 の仕組みを導入している日本唯一のオークションハウスになります。 ご落札された作品の著作権者に対してアーティスト還元金を独自にお支払いすることで、NEW AUCTIONを通じた取引が少しでもアーティストの支援に繋がることを目指します。

NEW AUCTIONでは、国内外の様々なコレクターやギャラリー、ディーラーと独自のネットワークを構築すると同時にファッション、カルチャー、建築、食、インフルエンサーなど業界を超えたチームとの連携を積極的に取り入れ、作品を最大限にプロモーションいたします。


Le Makeupが久々の新曲「はじまり」をリリース、2026年をスタートした。今年はリリースやライブを精力的に行う予定だという。環ROY、鎮座DOPENESSなどと並んで注目すべきビートメイカーのひとり。


Le Makeupは大阪の街が輩出した個性的なプロデューサーだ。J-POPを思わせるモダンなポップソング、ヒップホップをベースにしたローファイなど、多角的な音楽を取り入れるシンガー/プロデューサー。その個性的なサウンドは、大阪の街の雑多性を反映している。楽曲に感じられるほのかなエモーション。それは大阪、いや、日本全国津々浦々によくある風景とリンクする。


最近はソロリリースにとどまらず、テレビ東京のドラマへの楽曲のリミックス/プロデュース、NHK-FMの番組への楽曲提供、また、リミックスなどを通じて柴田聡子、Elle Teresaとのコラボレーションを行ってきた。アジアにとどまらず、ヨーロッパでのステージをこなし、活躍の場を広げてきた。


本日、リリースされるニューシングルは文字通り、ル・メイクアップにとって2026年の出発の合図となる。ギター、シンセ、オートチューン/ボコーダーのボーカル、ヒップホップビートが重層的に折り重なり、それまで曖昧に過ぎなかった自己と世界を繋ぐ明瞭な橋がかたちづくられる。


詩情溢れる歌詞にも注目したい。車窓に映る自分の等身大の姿、そこから世界が膨らんでいき、他者への想いへと繋がり、パーソナルな視点からパブリックな視点へと移ろい変わっていく。ランタイムごとにラウンドスケープが変化していく不思議な感覚があり素晴らしい。ル・メイクアップは日々、自分の現在地をアップデートさせ、軽快なサウンドをファンのもとに届ける。



▪️Le Makeup「はじまり」



Digital | PURE011  | 2026.02.06 Release

Released by AWDR/LR2

[ https://ssm.lnk.to/hajimari ]


Le Makeup、久々の新曲。リリースやライブを精力的に行う予定の2026年、スタートを感じさせる「はじまり」。


印象的なミニマルなギター/シンセにブレイクビーツ、感情や自己を投影するリリックが融合したミニマル・アンビエント・ポップ。本楽曲は、NHK-FM「ミュージックライン」の2・3月度エンディングテーマにも起用されている。


▪️EN

Le Makeup, a new track after a long hiatus.“hajimari (The Beginning)” signals the start of 2026, a year planned for vigorous releases and live performances.


A minimal ambient pop track where striking minimal guitar/synth and breakbeats fuse with lyrics projecting emotion and self.This song has been selected as the ending theme for NHK-FM's “Music Line” for February and March.


作詞・作曲・編曲:Le Makeup

ギター、シンセサイザー、プログラミング、ミックス:Le Makeup

マスタリング:木村健太郎 (Kimken Studio)

アートワーク:Le Makeup

アーティスト写真:佐藤麻優子


Le Makeup:


シンガー/プロデューサー。関西学院大学在学中に作曲へと本格的に取り組みはじめ、以降国内外の様々なレーベルから作品を発表する。2020年にアルバム「微熱」をリリース。中国・韓国・オランダ・デンマーク・ドイツでもパフォーマンスを行う。


2023年2月にDove、gummyboy、JUMADIBA、Tohji、環Royが参加したアルバム「Odorata」をリリース。Pitchforkで取り上げられるなど話題となった。


2024年5月にオノ セイゲンがマスタリング・エンジニアとして参加したアルバム「予感」をリリース。東京・大阪で初のワンマン公演「予感」を行った。


▪️EN

Le Makeup is a japanese Singer/Producer/Beatmaker. He began seriously pursuing composition while attending  Kansei Gakuin University(Hyogo), subsequently releasing works on various domestic and international labels. In 2020, he released the album “Binetsu” After that he's performed in China, South Korea, the Netherlands, Denmark, and Germany.


In February 2023, he released the album ‘Odorata’ featuring contributions from Dove, gummyboy, JUMADIBA, Tohji, and Tamaki Roy. It garnered attention, including coverage by Pitchfork Magazine.


In May 2024, Le Makeup released the album ‘Premonition’ with Seigen Ono participating as mastering engineer. Held his first solo concerts, titled ‘Premonition’, in Tokyo and Osaka.

Weekly Music Feature:  John Cragie

 Photo: Bradly Cox

未知の才能と出会ったとき、大きな感動を覚える。今週紹介するジョン・クレイグのそのひとり。アメリカのシンガーソングライター、 John Craigie(ジョン・クレイギー)は人々を惹きつける音楽を作り続けてきた。彼の歌には理想的なアメリカの歌の魅力があり、そしてロマンやワイルドさもある。何よりクレイグの音楽はアメリカのローカルな魅力に満ち溢れていて本当にクールだ。


本日、フィジカルとデジタルで発売されるクレイギーのスタジオ・アルバム『I Swam Here』は、2025年1月にニューオーリンズで録音された。本作の大半は、ザ・デスロンズのサム・ドアーズが厳選したミュージシャンらがクレイギーを支えている。 ピアノ、オルガン、ボーカルを担当する彼と共に、ドラムにハウ・ピアソン、ベースにマックス・ビエン・カーン、ペダル・スティールにジョニー・カンポスを迎え、1曲ではデズィレ・キャノンがボーカルで参加している。


クレイギーがプロデューサーを務めたが、長年の友人で共同制作者であるアンナ・モスはほぼ全曲に参加している。ニューオーリンズで録音された10曲中7曲には、現地ミュージシャンの影響と才能が滲む。 次いで、 残りの曲は、数か月後にオレゴン州アストリアにあるロープ・ルームで、別のバンドとともに、ニューオーリンズでのセッションの美学を引き継いでレコーディングされた。それはツギハギではないアコースティックの生々しい録音の魅力という形にあらわれ出ている。また、ニューオーリンズに住んだ経験のある B. シャルが描いたカバーアートも粋だ。50年代および 60年代の多くのサンバやジャズのレコードのスタイルとデザインを反映している。


アルバムのファーストシングル「Fire Season」は、長年の協力者であるバート・バドウィグがエンジニアを務めた。この曲は、本プロジェクトのために最初に書かれた曲。アストリアで、クレイギーが『Mermaid Salt』で仕事をしたクーパー・トレイル(ドラム)とネバダ・ソウル(ベース)が再び参加して録音された。また、ルーク・イストシー(ベース、ブラインド・パイロット、マイケル・ハーレー)とジェイミー・グリーナン(ペダル・スチール)も参加しています。


さらに2ndシングル「Dry Land」は、別の道を進んでいる。録音の拠点のニューオーリンズで最初のバージョンを録音したものの、クレイギーはテンポが気に入らず、不必要な長いブリッジをどうにかする必要があった。数か月後、アストリアでピアノのラインと弓で弾くアップライトベースを変えて再録音した。


3rdシングル「エドナ・ストレンジ」はマーティ・ロビンスの楽曲や西部劇のガンマン・バラードに着想を得たという。クレイギーがスチール弦アコースティックを弾く唯一の楽曲で、マックス・ビエン・カーンがナイロン弦ギターのリードを担当。アンナ・モスのボーカルが入らない数少ない曲の一つであり、バックで聴こえる男性トリオのボーカルでマーティ・ロビンスへのオマージュが捧げられた。


2024年の『Pagan Church』——TK & The Holy Know-Nothingsとの絶賛され、アメリカーナ・アルバムチャートで6週連続1位を記録したコラボレーション作に続く本作は、クレイギーのミュージシャンとしての最盛期を捉えた作品といっても過言ではあるまい。ガルフコーストの音楽史と太平洋岸北西部の静かな自然音から着想を得て、広がりと親密さを併せ持つ作品となっている。


Forest Grove, OR


ジョン・クレイギーの音楽は、スタジオの枠を超えて共鳴し続けている。米国、欧州、オーストラリアでのソロ/バンドツアーは毎回満員となり、ニューポート・フォーク・フェスティバル、ピカソン、エドモントン・フォーク・フェスティバル、ハイ・シエラなどに出演している。ラングホーン・スリム、ブレット・デネン、シエラ・ハル、グレゴリー・アラン・アイザコフ、メイソン・ジェニングス、ベラ・ホワイト、ジャック・ジョンソンらと共演を重ねている。


また、ミュージシャンの慈善的な活動にも着目したい。毎年恒例のKeepItWarmツアーでは、チケット1枚の売上ごとに、1ドルが地域の食料不安対策に取り組む非営利団体に寄付される。また、カリフォルニア州トゥオルミ川やオレゴン州ローグ川で行われる「ジョン・クレイジー・オン・ザ・リバー」ツアーは、ファンや友人たちにとって唯一無二の集いの場となっている。こういった草の根の運動こそ、彼のファンを増やし続ける要因ともなっているのは事実だろう。


『I  Swam Here』はニューオリンズやオレゴンの土地に根ざし、共同制作によって形作られ、ソングライター兼プロデューサーとしてのしたたかな手腕に導かれている。ニューオーリンズの精神と太平洋岸北西部の静けさが溶け合い、自身の限界を探求するアーティストの密やかな自信が滲む。



 ▪️John Craigie『I Swam Here』- Zabriskie Point Records



ジョン・クレイギーの最新作は、一般的に言われるアメリカーナの醍醐味を余すところなく伝える作品となっている。近年では、アメリカーナがインディーズロックやポップスの中にごく普通に組み込まれることになったが、また、同時にアメリカの持つアクのような部分を薄めてしまうことが多い。アメリカーナはファストファッションのように気軽に取り入れるものではなく、木が根を張り、幹を伸ばし、そして枝をつけ、可憐な花をつける長い年月を示している。

 

それらはもちろん、フォークやカントリーの系譜において、キャッシュ、ディラン、ヤング、ミッチェルを中心に育てられてきた一本のたくましい大木でもあるのだが、枝葉末節だけではアメリカーナの本質を表すとは到底言えそうもない。その点において、グレイギーは、現代的なフォークシーンの中で最も強い幹を持ったミュージシャンだ。Lord Huron(ロード・ヒューロン)のような現代的なフォーク/カントリーのシンガーソングライターと並んで、強固なオリジナリティを持っている。彼のサウンドはときおり、ビング・クロスビーや西部劇のような古典的なサウンドの妙味を持つが、それらは時を越え、2020代に生きる私達の心にすんなり浸透してゆく。

 

今回のアルバム『I Swam Here』は音質が非常に良く、その艷やかな音の質感は、レコードの品質に近い。アコースティックギター、ささやくような歌唱から、包み込むように優しげな歌唱、そしてジャズや歌謡的な音楽に見いだせる楽器で作られたムードのあるアンビエンスに至るまで、強固な音楽的な世界が構築されている。フルアルバムとは、一つの強固な世界を意味し、それは文学や映像に視聴者が物語にがっつりと没入するように、音楽の持つ深層の世界に聴き手を潜りこませなければいけない。それはシリアスなものであれ、バカバカしいものであれ、絶対に必要な糸口でもある。これらがフィクションの醍醐味で、言ってみれば、現実的な世界を忘れさせる力があり、また、もう一つの並行する世界が実在することを証し立てるのである。

 

本作の音楽の中で、アコースティックギターに並んで強いベクトルを働かせるのが、ウッドベースのスタッカートを多用するベースラインだ。ジャズスタンダードの伝統的な音楽性を持ち込み、フォーク/カントリーと融合させる。それらの音楽の中には、ラグタイムジャズの範疇にあるピアノの旋律が華麗に駆け巡り、ノスタルジックな映画音楽のごとき世界観を形作る。

 

「Mermaid Weather」はミュージシャンが提示する音楽的な世界の序章でもあり、一連の物語の導入でもある。アルバム全体のイントロのように鳴り響き、それらが少し空とぼけるように歌われるボーカル、ブラシを使用したミュート効果を強調するドラム、また、ブギウギや歌謡の時代のロマンを反映させた、心地よいメロディーにより全体的な音楽が構築されていく。また、それらの音楽的な構成の中で、A-Bの楽節を対比させ、また調性を呼応させる。まるでやまびこのような曲のストラクチャーの中で、ムード歌謡のような雰囲気のある音楽を組み上げる。その中で、ハワイアンギターのように響くナイロン弦のギターが柔らかな雰囲気を生み出す。

 

「Fire Season」も同様に、ベースとドラムが連動し、「Stand By Me」のようなスタンダードなジャズソングのリズムの枠組みの中で、陶酔感のあるボーカルが温かい響きを作り出す。 リズムは時々、ボサノバのような南米音楽にも近いシンコペーションを作り、ノリの良いゆったりとしたリズムを作り出す。


また、この曲は、細野晴臣のボーカルを彷彿とさせ、『泰安洋行』の時代のサウンドを思い起こさせる。言うなれば、ワールドミュージックの音楽をセンスよく取り入れながら、ダイナミックなアメリカーナの曲に置き換えている。また、スティールギターは単体で鳴り響くだけではなく、オルガンとユニゾンを描くようにして、美しく穏やかな音楽的な空間性を作り出す。


また、全体的なリズムにも工夫があり、サンバの変拍子が全体的な拍に微分で組み込まれる。入り口こそ典型的なアメリカーナと思われたこのアルバム。しかし、意外なことに、少しずつその情景が移ろい変わっていくような感覚がある。また、サビの直前ではドラムフィルがざっくりと入っていき、心地よいリズムを生み出す。そして間奏の部分では再び、ウッドベースがスティールギターと美しく溶け合い、陶酔感のあるシークエンスを作り出している。この曲は、浜辺の風景を思い起こさせ、夕焼けと海のようなロマンティックな光景が音の向こうに霞む。

 

アンサンブルが際立つ序盤の収録曲の中で、「Follow Your Whisper」はアコースティクギターの弾き語り、つまりソロ演奏の性質が強まる。硬質なスティールギターで作り上げたシークエンスを背景に敷き詰めて、その音楽的な枠組みの中で気分良く紡がれるアコースティックギター、渋さを持つボーカル、その間に入るバスドラムのキック、これらが渾然一体となり、陶酔感があり奥行きのある崇高なサウンドを構築していく。また、ジョン・クレイギーはビートルズのカバーアルバムも制作していることからも分かるように、音楽的には60−70年代のポピュラーの楽曲の構成の影響を取り入れながら、見事なコントラストを持つ一曲に仕上げている。

 

これらは従来、フォークやカントリーそのものが形式主義の音楽から成立していることを踏まえて、新しく上記のジャンルの新しい構成を作り上げようという意図を汲み取ることができる。また、細かな音響効果にも気が配られ、シンバルを長く鳴らし、それらにエフェクトをかけ、メロディーの側面が強いこの曲にパーカッシヴな影響を及ぼしている。要するに、音ひとつひとつに細心の注意が払われ、それらはガラス細工のように精巧な音の作りになっている。さらに、それらのアンビエンス効果の多くはアコースティック楽器から作られているのである。

 

 

「Follow Your Whisper」

 

 

「Edna Strange」はシュールで風変わりな一曲であり、西部劇のサウンドトラックを思い起こさせる。砂漠、馬、カウボーイ、モーテル、果てしない国道など、お決まりの西部劇やガンマンの雰囲気があるが、この曲に個性的なダンディズムを添えているのが、ボブ・ディランを彷彿とさせるブルージーなクレイギーの歌声である。「風に吹かれて」のようなハードボイルドの世界。最終的には、ビング・クロスビーの音楽のような古典期なポピュラーソングに接近していく。


この曲で中心的な役割を担うスティールギターは、曲の雰囲気と良くマッチしていて、途中に使用されるエレクトリックギターのブルースの演奏の響きと上手く溶け合っている。また、他の曲よりも古典的なカントリーギターの影響が滲み出てくる瞬間もあり、ハンク・ウィリアムズやジョン・デンバーのような20世紀はじめのフォーク・ソングの源流を探し出すこともできる。この曲はジョン・クレイギーのボーカルが本当にかっこよくて、クールな雰囲気が漂う。


「Dry Land」は、ビートルズ直系のフォーク・ソングである。イントロのボーカルの節回しは明らかにビートルズを意識しているが、やはりその後の流れは少しずつ変化していく。アメリカーナのスティール・ギターとピアノの旋律が絡み合い、重厚な音楽世界を作り上げる。そしてその向こうから聞こえてくるクレイギーのボーカルは、まるで幻想的な砂上の楼閣の向こうに美しい情景が浮かんでくるような瞬間を捉えられる。また、ボーカルの重ね録りによって、アーティストが志向する平和で融和的な世界観が実現される。

 

「Call Me A Bullet」はフォークバラードの一曲で、やはり細野晴臣のボーカルを彷彿とさせる。ポップソングやヒット・ソングの定番の形を踏まえて、それらをオリジナリティ溢れる楽曲に仕立てている。クレイギーの楽曲は、全般的にも言えることであるが、宇宙の調和を大切にしていて、それは日常的な感覚からくる出来事と、壮大で神秘的な出来事の合致を意味する。


ここには音楽家の自然愛好家の姿が垣間見え、大きな、もしくは小さな自然と接するときに感じられる崇高な感覚が、美しいバラードに乗せて歌われている。音楽的にも、楽器のパートや全音の音域のバランス、また、倍音のような本来は意図しない音の残響に至るまで隈なく配慮され、一つに組み合わされ、調和的なハーモニーを作り出す。これらはどの音が心地よく響き、他のどの音が心地よくないのか、ミュージシャンとしての実地の体験の蓄積が滲み出たもので、単なる音楽理論や知識だけでは、まかないきれないものである。いわば、このアルバムの中心にあるのはミュージシャンとしてのみならず、一個人の体験や経験が表側にあらわれている。だから、このようなタイトルでさえも、ジョークに富んだ表現のように感じられるのである。全体的には、ニューオリンズのような米国南部の空気感が美しい響きを作り上げている。

 

しかし、同じようなタイプの楽曲を選ぼうとも、曲そのものはあまり似通うことがないのが美点だ。「Claws」はボブ・ディランやCSN&Yとならんで、最初期のトム・ウェイツの音楽性に近い。ブルースはもとより、ジャズスタンダードの影響を踏まえ、それらをフォークソングに昇華させている。 まるで観光者がミシシッピ川の近郊にあるニューオリンズのクラブにぶらっと入り、現地のバンドやミュージシャンの演奏を目撃する。そんなモーメントを思わせる。必ずしも、トム・ウェイツのようなシンガーが酔いにまかせて歌を実際に歌うとは限らないのだが、それに近い、酔いどれ詩人のような雰囲気に満ち溢れていて素敵だ。曲ごとに、時間が変化し、ある曲は朝の爽やかな光景、夕暮れ時の慕情があったかと思えば、この曲では夜の歓楽街のような扇情的な空気感が滲み出ている。これらの空気感と呼ばれるものもまた、実際の生活から汲み出されるもので、実際には音楽的な理論や作法だけで作り上げることは不可能である。

 

フォーク/カントリーというのは、ソロシンガーを中心に、デュエットの形式を通じて発展してきた。それは男性的なボーカルと女性的なボーカルの組み合わせでもある。「Mama I Should Call」は二拍子の簡素なデュエット曲で、フォーク/カントリーの重要なテーマである望郷(それらは戦時中には男女間の慕情へ変化し、戦後には反戦のような主題に変わることがあった)を引き継ぎ、ニュースタンダードを形作ろうとしている。カントリーのような音楽の主題であるトニック、ドミナント、サブドミナントを中心とする基本的な和声法の進行を通じて、またときどきジャズの和音を交えながら、スタイリッシュな感覚を持つフォークバラードに仕上げている。

 

最も深い瞑想的な音楽性が出てくるのが「I Remember Nothing」で、前の曲と繋がっているような感じである。ハモンドオルガンの向こうからエレクトリックギターの演奏が入り、ドアーズのような楽曲性を作り、同じように瞑想的なボーカルが美しい楽曲の展開を形作る。ボーカルの面にも注力され、ゴスペルのように荘厳なコーラスワークがメインのボーカルと組み合わされるとき、息を飲むような美しい楽の音が現れる。アルバムの終盤のハイライトとなりそうだ。

 

列車の汽笛を模したイントロのギターの余韻、そして古典的なジャズボーカルの世界を体現する「Don't Let Me Run Away」は聴いたあと、腑に落ちるような感覚がある。長いアーティストの旅を遠巻きに眺める感覚、それらはアルトサックスの船の汽笛を思わせる響きや、クレイギーの味のあるボーカル、そしてレコードの音質やノイズを体現させたようなサウンドにより培われている。とくにタイトルが歌われるとき、印象的な映画のワンシーンを見ている気分になる。


このクローズ曲には、ハモンドオルガンの古めかしい響き、そして、アメリカーナの典型的なスティールギターが混在し、重厚感のある音楽世界を構築している。聴いていてうっとりするような素晴らしいエンディング曲。それらはミュージシャンの人生の集約でもあるのだろうか。

 

 

 「I Remember Nothing」

 

 

 

92/100 

 


▪Listen/Stream: https://found.ee/JC-I-Swam-Here

 

▪︎ John Craigie HP: https://johncraigie.com/