Arcade Fire 『Pink Elephant』


Label: Arcade Fire Music

Release: 2025年5月9日

 

Listen/Stream

 

 

Review

 

モントリオールの代表的なアートロックバンド、アーケイド・ファイアの新作『Pink Elephant』はウィル・バトラー脱退後の最初のアルバムとなる。前作『WE』からボーカルのループやダンサンブルなエレクトロニックのビート等実験的なサウンドをアーケイド・ファイアは試していた。例えば、BBCの音楽番組などで、実験的なダンス・ポップをライブサウンドで構築しようとしていた。前作は、オーケストラの演奏を交えてのライブが多かった。デヴィッド・ボウイ風のシアトリカルなサウンドが押し出され、啓示的なサウンドが織り込まれていた。紆余曲折あったが、アーケイド・ファイアは活動を継続することに決めたというわけだ。

 

『Pink Elephant』はアーケイド・ファイアの再出発とも言えるアルバムである。最初期のオルタナティヴロックの性質は少し薄れ、デペッシュ・モードの系譜にあるライトなダンス・ポップ/シンセ・ポップのサウンドが敷き詰められている。

 

相変わらずアーケイド・ファイアらしさは満載であるが、最初のヒット作『Funeral』と比べると、鮮烈な開けたような感覚は少し薄れている。『WE』のようなプログレ的な啓示も少ない。ただ、アーケイド・ファイアはベッドルーム的なサウンドになるでもなく、神棚に祀られたロックスターになるでもなく、その中間にあるフラットなロックサウンドを追求している。そして、言ってみれば、ロックソングやダンスミュージックを通じて、音を楽しむことを追い求める。かれらのメッセージは、ブルース・リーのように「考えるな、ハートで感じろ」である。

 

 

ニューアルバム『Pink Elephant』は、アクション映画のオープニングのように壮大なサウンドスケープで始まるが、その後、ダンスロックとオルタナティヴロックの中間にあるアーケイド・ファイアらしいサウンドが繰り広げられる。相変わらずソングライティングの質は高く、サウンドプロダクションの凝り方も尋常ではない。もちろん、プロデュースのこだわりかたも半端ではない。よく混乱した状況の中、こういったアルバムを制作したと大きな賛辞を送りたくなる。

 

ループ・エフェクトをボーカルやシンセ(エレクトロニクス)に配して、どのようにグルーヴが変化するのか、アンサンブルを通じてアーケイド・ファイアは探っている。成功した側面もあるかもしれない。

 

アルバムの冒頭を飾る、タイトル曲、「The Year Of The Snake」は、いずれも名曲である。タイトル曲「Pink Elephant」は、センチメンタルなギターと壮大なシンセのシーケンスがウィン・バトラーのデヴィッド・ボウイ風のボーカルと劇的に混ざり、スケールの大きなロック世界を構築する。これは、標準的なミュージシャンにはなしえない傑出したソングライティングのひとつ。彼らは、Journeyのような80年代の産業ロックから90年代のオルタナ、そしてダンス・ポップなどをくまなく吸収し、アーティスティックなロックソングを作り上げるが、その真骨頂ともいうべきトラックだ。二拍目にクレッシェンドを置くダンサンブルなビートを中心に、繊細なギター、バトラー夫妻のデュエットが繰り広げられる。ここには信頼を繋げるための力強い歌があり、それらがシンセやギター、ボーカルのリサンプリングやループといった曲の全体的な背景の構成をなす要素が重層的に連なり、そしてエモーショナルなアルトロックソングの真髄が貫かれる。このアルバムの中では最も壮大であり、彼らが啓示的な感覚を蘇らせた数少ない瞬間である。

 

 

アーケイド・ファイアは、2000年代初頭のダンスロックをリアルタイムで知っている。 現在、キラーズにしても、アークティックにしてもほとんど当時のダンサンブルなロックという要素は全盛期に比べると薄れているが、アーケイド・ファイアだけはこのジャンルの復刻、いわゆるリバイバル活動に熱心なイメージがある。それは、ライブサウンドとスタジオレコーディングをつなげるための最適な方法であり、なおかつまた、ロックの復権的な運動とも言える。

 

前作はメッセージ色が強かったが、今作は音楽のアグレッシヴな楽しみをエスプリの聴いたポップソングのオブラートで包み込んでいる。つまり、直截的な表現を避け、音楽の向こうに本質を上手く隠したとも言える。また、音楽自体が言語的な意味を帯び、それらは感覚的なものとして掴むことが出来る。そして、ソングライティングの配分はよくわからないが、ウィンとレジーヌ夫妻のソングライティングのどちらかの性質が強まる場合があり、「Circle Of Trust」、「Alien Nation」ではいずれも、デペッシュ・モードを彷彿とさせるメロディアスなダンス・ポップだが、それぞれ若干曲のイメージは異なる。内省的な雰囲気を持つダンス・ポップ、そして外交的でパンキッシュな印象を放つダンスロックというように、同じようなタイプのソングライティングを用いても、表に出てくる曲の印象は対照的である。もちろん、繊細な感覚と外向的なエナジーを組み合わせたアーケイド・ファイアの魅力の一端がつかめるのではないかと思う。「Alien Nation」ではKASABIAN風のダンスパンクに挑み、しかもかなり上手く行ったという感じだ。少なくとも近年、失われつつあるロックソングの醍醐味を思い出させるような曲である。

 

 

アーケイド・ファイアがアートロックバンドと呼ばれるのには、それ相応の理由がある。例えば、シンセサイザーのインスト曲「Beyond Salvation」はアナログを用いたエレクトロニックでアンビエントにも近い。しかし、最初期から、シアトリカルなロックバンドと呼ばれているように、そこには映画的なサウンドからの影響、また、描写的な音楽からの影響が含まれ、そしてそれは宇宙的なインストゥルメンタルという音楽のシナリオを展開させる働きをなす。

 

前の曲「Beyond Salvation」のアトモスフェリックな空気感を受け継いで、続く「Ride or Die」は、オーケストラのティンパニの打音を用いて、それらを玄妙な雰囲気を持つフォークソングに仕上げている。これまでヴェルヴェット・アンダーグラウンドを復刻させようとしたミュージシャンは数知れずだったが、そのフォークサウンドを次の段階に進めようと試みたのは、アーケイド・ファイアぐらいではないだろうか。つまり、アーケイド・ファイアは何らかのヒントとなるサウンドを持っているが、それをオリジナリティの高い音楽にしてしまうのが驚きなのである。決して模倣的なサウンドに陥らない。これはミュージシャンとしての才能の表れというしかない。

 

 

アーケイド・ファイアのアルバムを聴く際の楽しさというのは、最初から聴くことも出来れば、ランダムに曲を選曲することもできる点にあるだろう。要するに、あまり聴き方を選ばないということである。例えば、一つの曲が別の曲の前兆になったり、予兆になったりしながら、作品全体の宇宙がぐるぐる回転していくような不思議な感覚がある。ダンスロック風のサウンドをレトロにアレンジした「I Love Her Shadow」を経た後、終盤のいくつかの収録曲では、シネマティックなサウンドが展開される。聴き方によっては、映画館の暗闇で壮大なシネマを鑑賞するような楽しさを覚えるかもしれない。例えば、「She Cries Diamond Rain」はその代名詞的なサウンドとなるはずだ。

 

終盤では、U2の名曲を彷彿とさせる「Stuck In My Head」が強固な印象を放っている。正直なところ、U2にはあんまり似ていないけど、フォークとロックの中間にあるアーケイドらしい曲。前作に比べると、ボーカルが心許ない印象もあるかもしれないが、それもまた魅力の一つ。やはり、アーケイド・ファイアは現代のロックバンドの最高峰と言っておく必要がありそうだ。

 

 

 

 

90/100

 

 

 

 

Best Track-「Year Of the Snake」

眞名子新

 

日本のニューフォークミュージックのリーダー的存在である眞名子新(まなこ あなた)の待望のファースト・フル・アルバム「野原では海の話を」が完成した。


カントリー・ミュージックをベースに稀代の歌声を乗せた11曲が収録され、本日、デジタルバージョンもリリースされます。また、アルバムより「野原では海の話を」のMVが公開されましたので下記よりご覧下さい。


EP「カントリーサイドじゃ普通のこと」からまるっと1年、ついに眞名子新のファースト・フルアルバムが完成した。


収録楽曲には、自身の生まれや成り立ちを大切にし、真の拠点を見つめ直す意味合いを含んだ楽曲「出自」。


初のエレキギターを使用して制作した軽快な口笛とリズミカルな楽曲が特徴的な「健康」。


基礎となるカントリー・ミュージックにスウィング感を大胆に取り入れ、アグレッシヴであり且つ粋な内容へとアップグレードした「ラジオ」。


真骨頂とも言えるカントリー色満載に新の最大の武器とも言える声の魅力がさらに膨らみ聴くものを魅了する「さいなら」。


先行シングル化した4曲はもちろんのこと、2024年”すき家CM”に書き下ろし話題となった「網戸」をアルバム用に再レコーディングして収録。また、タイトル・チューンとなる「野原では海の話を」、弾き語り1発録りで収録した「海の一粒」、など珠玉の11曲を収録。


レコーディングには、Ba:稲葉航大(Helsinki Lambda Club)、Dr:谷朋彦(exプププランド)が参加。REC&MIXエンジニアは池田洋(hmc studio)が担当。アートワークはタケシタトモヒロが手掛けている。


MV: https://m.youtube.com/watch?v=PnX5UUk506A



【新譜情報】 眞名子新「野原では海の話を」




Digital&CD (3,182Yen+Tax) | 2025.5.14 Release | Released by SPACE SHOWER MUSIC

配信リンク: [ https://ssm.lnk.to/Letstalkabouttsitm ]


【収録曲】


01. さいなら

02. ラジオ

03. A2出口

04. 出自

05. 台風

06. 網戸(Album Version)

07. 健康

08. きみたちおなじかおしてる

09. 諦めな、お嬢さん

10. 野原では海の話を

11. 海の一粒



眞名子新(まなこあらた)PROFILE:


1997年神戸生まれ、神戸育ち。ルーツであるフォークやカントリーをベースに、ギターと声というシンプルなスタイルでのフォーキーな楽曲が魅力。癒されるような清廉さのある一方で、感情に訴えかけるような情感溢れる歌声と心に寄り添った歌が特徴的である。


2022年に開催されたJ-WAVE TOKYO GUITER JAMBOREE 2022「SONAR MUSIC Road to RYOGOKU suported by REALLIVE360」にてグランプリを受賞。


2023年4月26日に初の全国流通盤となるE.P.作品「もしかして世間」をリリースし、収録楽曲はSpotify「Best of Japanese SSW 2023」「Best of Edge! 2023」にも選出された。


2024年5月にEP「カントリーサイドじゃ普通のこと」(6曲収録)をリリース。初となる全国ツアーを全会場ワンマン公演で行いファイナルの東京・新代田FEVERを完売に。7月にはFUJI ROCK FESTIVAL 2024、8月にSWEET LOVE SHOWER 2024にも出演。2025年に5月に1st Full Albumとなる「野原では海の話を」をリリースする。

 

 

ニューシングル 「Baby 」とB面 「Friends 2day Enemies 2morrow 」をリリースするに当たって、ニューヨークの謎めいたアンサンブル、Standing On The Cornerは次のように問いかける。 ”Don't you love me no more? (もうこれ以上私を愛してくれないのかい?)”

 

この曲のリリースまでの数日間、アンサンブルのウェブサイトに限定盤7インチ盤の予約注文が掲載された。

 

関係者によると、コカ・コーラ社の支援を受けたエスコバルと共同制作者はXLレコーディングスのソーホー・オフィスで手描きレーベルを作成し、今朝の時点で残り7枚を切っているという。


スタンディング・オン・ザ・コーナーの詩の世界への正式なデビューは、「R u Scared? 」と題された自由詩によるものだ。楽譜なしで録音され、アンサンブルのあまり知られていないフォーリー練習を取り入れたこの作品は、最近ではラット・ミーヴスによる2022年製作の『ザ・ギャットマン』でゴッサム・シティに音の武器を提供した。


アンサンブルのレコーディング・シーンへの最新復帰には、過去についての噂がつきまとう。グループの過去のレコードがストリーミングサービスから謎の失踪を遂げた後、ファンは知りたがっている。どこに行ったのか? なぜ消えたのか? 誰の責任なのか? そして戻ってくるのだろうか? また、公式サイトには弁護士が提供したとされる黒塗りの資料が掲載されている。

 

 

 

 


メリル・ガーバスとネイト・ブレナーのダイナミック・デュオ、Tune-Yardsがニューシングル「How Big Is The Rainbow」をリリースした。この曲には、コメディアンで女優のスター・アメラスが出演し、ドミニク・マーキュリオが監督したミュージックビデオが収録されている。


この新曲について、メリルは次のように語っている。「タイトルの歌詞は、ふとした瞬間に出てきたもので、これまで私が歌詞を書いたことがないくらい誠実なものだと感じたわ。でも今の時代、すべての人間、特に私たちトランス・ファミリーのために擁護するとなると、繊細さは許されない。それに、虹の大きさって一体どれくらいなんだ?虹の大きさを証明し、虹の大きさを見せ合う時だと感じている」

 

「How Big Is The Rainbow 」は、リリース前のシングル 「Limelight 」と 「Heartbreak 」に続くものだ。デュオは最近、CBSサタデー・モーニングに出演した。

 

本シングルが収録されたニューアルバム『Better Dreaming』は4ADから5月16日にリリース。

 


「How Big Is The Rainbow」

 

ボストンのロックバンド、Pile(パイル)が9枚目のアルバム『Sunshine and Balance Beams』を発表した。同時にリードシングル「Born At Night」のミュージックビデオが公開された。

 

本作は8月15日にSooperからリリースされる。 アルバムのエンジニアはミランダ・セラ、ミックスはセス・マンチェスター(Model/Actriz、The Hotelierなど)、マスタリングはマット・コルトンが担当し、パイルのリーダー、リック・マグワイアはLPについて次のように語っている。

 

 「アートを追求することで得られる充実感は、いつも私をあるべき場所へと導いてくれる。 しかし、同時に、その追求が、自分が行けるかもしれない、という物質的な期待に賛同し、その後に続く現実と折り合いがつかなくなると、ダメージを受けることもあるんだ」


リード・シングル「Born At Night」は、ジョシュ・エチェバリア監督、シャージャン・カーン(Huluの『Deli Boys』出演)主演のビデオ付き。 しかも4K映像。以下よりチェックしてみよう。


「Born At Night」



Pile 『Sunshine And Balance Beams』

 

Label: Sooper

Release; 2025年8月15日


Tracklist

 

1.An Opening

2.Deep Clay

3.A Loosened Knot

4.Bouncing in Blue

5.Uneasy

6.Holds

7.Born At Night

8.Meanwhile Outside

9.Carrion Song

 

Pre-save: https://pile.ffm.to/sunshine

 



メルボルンを拠点とするサイケ・ロック・グループ、King Gizzard & The Lizzard WIzzard(キング・ギザード&ザ・リザード・ウィザード)は、6月13日にニューアルバム『Phantom Island』を自身のレーベルp(doom)からリリースする。

 

メタルからハードロック、70年代のプログレ、ソウルロックまで変幻自在に音楽性を変える見事なロックバンドですが、今回のアルバムはオーケストラの楽団を招聘して制作された。コンセプチュアルな作品である。

 

今回、バンドは3rdシングル「Grow Wings and Fly」のミュージックビデオを公開した。ビデオの監督はヘイデン・サマーヴィルが担当した。

 


プレスリリースの中で、サマーヴィルはこのビデオを監督したことについて次のように語っている。

 

 「翼を広げて飛ぶには、とても奇妙で美しい方法がたくさんあるんだ。バンドやクルーと一緒に海岸を下り、海の生き物をリリースして、とてもスペシャルな時間を過ごした。"この生き物は、なぜか私を少し病んだ気分にさせると同時に、完全に喜びに満ち溢れた気分にさせてくれる」

 

 

昨年10月、キング・ギザード&ザ・リザード・ウィザードはアルバムのタイトル曲を発表した。4月にアルバムが発表されると、バンドは次のシングル 「Deadstick 」をミュージック・ビデオで発表した。この 「Deadstick 」も我々の今週の一曲である。


Phantom Island』は、キング・ギザードが2024年にリリースしたニュー・アルバム『Flight b741』に続く作品。新作の初期トラックは、『Flight b741』のセッションと同時にレコーディングされたが、まだ作業が必要だった。プレスリリースの中で、バンドのステュー・マッケンジーは「完成させるのが難しかった」と語っている。音楽的には、もう少し時間と空間と思考が必要だった。


「曲には別のエネルギーと色が必要で、キャンバスに違う絵の具をかける必要があると感じた」とマッケンジーは語っている。



「Grow Wings and Fly」

 



Chartreuse(チャートリュース)が新曲「I'm Losing It」を発表した。ブラック・カントリーの4人組は、健康上の緊急事態をきっかけに新曲を発表した。 ヴォーカルのハティ・ウィルソンは29歳の時に大手術を受け、その後療養生活を送ったが、その期間は彼女の創造的な認識をゆるやかに変化させた。

 

プロデューサーのサム・ペッツ=デイヴィーズと仕事をするため、新しいアイデアをアイスランドに持ち込んだニュー・シングル「I'm Losing It」は、緊張と解放を美しいフレームで描いている。オルタナティヴフォークとインディーロックの中間にある楽曲で、ハティのヴォーカルの優しさが際立っている。ヴォーカルは、一音一音を大切にし、ハティの言葉と彼女の経験の喚起に重きを置いている。この曲について、ハティ・ウィルソンは次のように語っています。

 

昨年12月に大腿骨の大手術を受けたの。 この曲は、そのことが分かってすぐに書いた。 手術のことが何カ月も頭の中でループしていた。 手術がどれほど長い旅になるかは分かっていたし、それは今も続いている。 疑問は山ほどあったし、歩き方を学び直すだけの力が自分にあるのかどうかも疑問だった。 当時は、自分の周りで人生が普通に動いていることが理解できず、それが怖かった。 

 

コーラスは、ある種の自作自演の罪悪感だった。 回復の過程で、ボーイフレンドや家族、友人たちから多くの助けを必要とすることに、果てしない罪悪感を感じていた。 重荷のように感じた......でも、これらの感情はすべて私のゆがんだ認識でしかなく、周りの人はみんな信じられないほど助けてくれて、気遣ってくれた。


「I'm Losing It」

 


世界的な知名度を持つ、フォークシンガー、Yusuf(キャット・スティーヴンス)が、回顧録『Cat on the Road to Findout』の刊行を発表した。本書は、Constable社(英国)から9月18日に、Genesis Publications社(北米)から10月7日に発売予定。 本書は伝説的なミュージシャンの伝説的な回顧録である。


この回顧録は、彼のフォークの始まり、1960年代と70年代のミュージシャン初期の成功から、70年代後半にイスラム教に改宗した後、スポットライトから離れるという彼の決断まで、スティーブンスのキャリアの全弧をカバーすることが期待されています。また、数十年後の彼の音楽への復帰と、教育と人道支援プロジェクトにおける彼の継続的な活動を反映しています。


個人的な逸話に加えて、自伝にはスティーブンスによる手描きのイラストと彼のコレクションから引き出されたアーカイブ写真が含まれている。この本は、アーティストの数十年にわたる旅の個人的な説明を提供する。



「私はロンドンの狭い通りから始まり、最も象徴的な都市を経て、西洋文化の大舞台でパフォーマンスし、富、知名度、芸術の頂点という目もくらむような高みに登り、宗教や哲学の広大な範囲を自由に探求し、教会や寺院をさまよい、神話や警告を無視してエルサレムの聖なる住処に辿り着き、不吉な砂漠の中心地を横断して、アブラハムのアラビアにある唯一神の家に辿り着いた」

 

「最終的に私の視点を高めてくれたのは、私の思考、信念、そして人間の本質を完璧に錬金術にかけた光り輝く書物だった。 それは私にワンネスと、宇宙の中での私の居場所と目的を教えてくれた」


『Cat On The Road To Findout(キャット・オン・ザ・ロード・トゥ・ファインドアウト)』は、ハードカバー、電子書籍、オーディオブックの形式で入手でき、後者はスティーブンス自身がナレーションします。


キャット・スティーヴンスは、"Matthew and Son "や "The First Cut Is the Deepest "といったヒット曲で60年代に一躍有名になった。 彼の初期のキャリアは結核との瀕死の闘いによって中断されたが、この闘いが彼の平和と理解の探求に火をつける転機となった。 この経験から、彼は急速に70年代で最も多作なシンガー・ソングライターのアイコンのひとりとななった。

 

「Wild World」、「Father and Son」、「Peace Train」、「Morning Has Broken 」などの魂を揺さぶるアンセムで世界を魅了した。 

 

彼の名作アルバム『Mona Bone Jakon』、『Tea for the Tillerman』、『Teaser and the Firecat』は、ロックの殿堂とソングライターの殿堂の両方にふさわしい地位を獲得した。


 

1975年、運命との危険な出会いと溺死寸前の経験を経て、キャットの人生はイスラム教に改宗し、名前をユスフ・イスラムに変えた。 音楽業界を去り、神、家族、人道的活動に人生を捧げたユセフは、「子どもたちや戦争の犠牲者を助ける人道的救済活動」に対する世界賞や、ノーベル平和賞受賞者の投票によって選ばれる平和の人賞など、数々の栄誉ある国際的な賞を受賞した。


最新章は、ユセフの音楽活動への復帰である。 現在、ユセフ/キャット・スティーブンスとして知られる彼の名前は、彼の存在における2つの重要な時期の相乗効果を表している。 

 

1億枚以上のレコードを売り上げ、何十億ものストリーミングを記録したキャット・スティーヴンスのソウルフルな歌声と詩的な歌詞は、現在では活動家と利他主義の人生と絡み合って、インスピレーションを与え続けている。 信仰教育、エコロジー意識、人道主義的な活動の運動家として、ユセフは平和と共存のための世界的な提唱者となっている。


『Cat On The Road To Findout』は、ユセフの驚くべき旅路の知られざる章を、彼自身の手による何十枚ものドローイングとアーカイブ画像で描き、生々しい正直さと詩的な洞察力をもって自筆で綴ったものである。 この待望の回顧録は、複数の人生をひとつにまとめて生きてきた男の魂を垣間見る貴重な機会へと読者を誘う。日本語の翻訳版は現在のところ発売未定である。

 


 

アイルランドのガレージパンクトリオ、Adore(アドーア)は、「Stay Free Old Stranger」に続く2025年第2弾シングル「Show Me Your Teeth」を5月8日にBig Scary Monstersからリリースした。また、バンドはこのリリースと合わせて、同レーベルと新たな契約を結んでいる。

 

また昨日、ファンメイドのゴシック映画風のミュージックビデオが公開されている。下記より御覧ください。


この曲は、数ヶ月に及ぶ睡眠不足、繰り返し見る悪夢、そして恐怖を直視することで得られる奇妙な明晰さによって生み出された。


ラクラン・オフィオンナイン、ララ・ミンチン、ローレン・マクガヴァン、ナオイス・ジョーダン・カヴァナーによって書かれた。プロデュースはアイルランドのポスト・パンク・バンド、ギラ・バンドのベーシスト、ダニエル・フォックス。


バンドのリード・ヴォーカル、ララ・ミンチンはこの曲について次のように説明している。

 

「『Show Me Your Teeth』は、5ヶ月間毎晩悪夢にうなされていた時期に書かれた。このような悪夢によって、私は一晩中何度も目を覚まし、異なる、時には織り成すストーリーの悪夢を何度も見ることになった。これらの悪夢に対するアンビヴァレンス(両価性)が芽生え、それが起きているときの生活にも反映されるようになった」

 

Adoreは、ララ・ミンチン(ギター/ヴォーカル)、ラクラン・オ・フィオナイン(ベース/ヴォーカル)、ナオイセ・ジョーダン・カヴァナー(ドラムス)からなる。 ガレージ・パンクの荒削りなギターリフはそのままに、西海岸発祥のポップパンクのイディオムをアイルランド風に置き換えるという、新しい試みをアドーアは行っている。彼らの音楽にはパンク・ロックの楽しさとはつらつとしたエナジーが凝縮されている。今後注目したいパンクロックトリオだ。

 

 

「Show Me Your Teeth」

 ▪️「N .E .R.O. presents borderless night」 2025.06.19 [thu] Shibuya WWW (HighSchool (Based in Melbourne), POL (Based in Paris), Luby Sparks (Based in Tokyo))


 
N.E.R.O.(エヌイーアールオー)がZINEの立ち上げを記念するスペシャルパーティの開催を発表しました。HighSchool(メルボルン)/POL(パリ)/Luby Sparks(トーキョー)が集う、美しく衝動的な一夜。


音楽とアートを軸に2010年に創刊され、インディペンデントな視点でカルチャーを追い続けた''nero magazine''の編集長が、新たに立ち上げたニューメディア<N.E.R.O.>(エヌイーアールオー)。


その第一弾として、新たなZINEを立ち上げた。それを記念したスペシャルパーティが、6/19、渋谷WWWで開催される。


ファウンダーの井上由紀子さんは、音楽ライターとして『POPEYE』をはじめ数多くの媒体で活躍したのみならず、渋谷系バンド・フリッパーズ・ギターの創世記メンバーとしても知られる人物。


90年代の東京カルチャーのリアルな熱気を知る彼女が、現在の音楽シーンとカルチャーに新たな息吹を吹き込むべく、2010年に”nero magazine”をインディペンデントで立ち上げた。


コロナというアーティストにとっての長い暗黒期を経て、2025年、新たなメディア<N.E.R.O.>を若い支持者と設立、よりグローバルな活動を再始動させる。


今回のイベントでは、<N.E.R.O.>第一弾に登場する3組の若手注目アーティストが出演する。
さらに、この日、新しいZINEも発売される。ZINEのテーマは「ボーダレス」であることが明かされた。


国やジャンルにとらわれない自由な発想が反映され、今の時代に必要不可欠な視点を提供する内容となっている。


この日、オーストラリア、フランス、東京から魅力的なアウトフィットが集結し、ライブパフォーマンスを行う。東京発の新しいミュージックウェイブの目撃者となるのは参加者になる!? いずれにせよ、ご都合のつく方はぜひ参加を検討してみてはいかがでしょうか??




▪️N .E .R.O. presents borderless night


日程: 2025.06.19 [thu]

会場:Shibuya WWW

開場:Open 18:00 / Start 19:00

料金:ADV. 8500 (+1drink)


チケット:

▼e+ 【https://eplus.jp/NERO/】※5/15(木)12:00公開・発売

 

※5/15(木)12:00公開・発売



▪️出演アーティストの紹介


・HighSchool(メルボルン)




ゴシックなムードとポストパンクの冷たさが同居する、注目のバンド。シューゲイズやニューウェーブの影響を受けつつ、現代的な感覚でアップデートされたサウンドが魅力。





・POL(パリ)



詩的で繊細なサウンドを奏でるニューウェーブ・デュオ。ヨーロッパのアートシーンと強く結びついた美学と、感情の機微を音に落とし込む表現力で注目を集めている。





・Luby Sparks(トーキョー)



日本のインディーシーンを代表する存在。UKインディー/シューゲイズを下地にしながら、透明感のあるメロディと現代的な感性で国内外から支持を得ている。





この夜の意義とは??


これはただのパーティではない。新たなメディア<N.E.R.O.>誕生へ――その変化は、メディアの再起動であり、新しい時代の始まりの合図。


過去と現在が交錯し、未来を照らすカルチャーの祝祭を、ぜひ目撃してほしい。今回の出演アーティストは、その「ボーダレス」なテーマにぴったりな革新的な才能を持つ、世界のニューカマーたち。



For Internatinal 


Japanese Brand New Zine "N.E.R.O." will hold a special party- a beautiful and impulsive night with HighSchool (Melbourne), POL (Paris), and Luby Sparks (Tokyo)


N.E.R.O.> is a new media project launched by the editor-in-chief of nero magazine, which was launched in 2010 with a focus on music and art and has been featuring culture from an independent perspective.


As their first step, a new zine will be launched. A special party will be held at Shibuya WWW on 19th June to commemorate the launch.



The founder, Yukiko Inoue, is a music writer who has worked for “POPEYE” and many other media, and is also known as a founding member of the original Shibuya-style band Flipper's Guitar. In 2010, she independently launched nero magazine in order to breathe new life into the current music scene and culture. 


After a long dark period of lockdown for artists during the pandemic, in 2025, she founded a new media <N.E.R.O.> with her young supporters to re-launch a more global activity.



This event will feature three young and upcoming artists who will appear in the first phase of <N.E.R.O.> In addition, a new zine will be released on the same day. The theme of the zine is “borderless. The contents of the zine reflect free ideas that are not bound by country or genre, and offer perspectives that are indispensable in this day and age.



■N.E.R.O. presents "borderless night":


2025.06.19 [thu]
 
Shibuya WWW
 
Open 18:00 / Start 19:00
 
ADV. 8500 (+1drink)


Tickets:
 
▼e+【https://eplus.jp/NERO/】*Sales start at 12:00 on Thursday, May 15

▼ZAIKO【https://wwwwwwx.zaiko.io/e/NERO】*Sales start at 12:00 on Thursday, May 15


 
■Performing Artists:


・HighSchool (Based in Melbourne)

A band to watch, HighSchool combines a gothic mood with a post-punk chill. Their sound is influenced by shoegaze and new wave, but updated with a modern sensibility.



・POL (Based in Paris)

A new wave duo with a poetic and delicate sound. Their aesthetic is strongly connected to the European art scene, and their ability to express the subtleties of emotion in their sound has garnered attention.


・Luby Sparks (Based in Tokyo)

A representative of Japan's indie scene, Luby Sparks has a UK indie/shoegaze background, but has gained domestic and international support for their transparent melodies and contemporary sensibility.
 
 

■Significance of this night:
 
 
This is not just a party.The birth of a new media platform, <N.E.R.O.>—this transformation marks not only the reboot of a publication but the beginning of a new era.
 
 
A celebration of culture where past and present intersect to illuminate the future, and we welcome you to witness it for yourself.
 
 
The featured artists in this issue are groundbreaking newcomers from around the world, each perfectly embodying the theme of "borderless".
Zazen Boys


昨年ニューアルバムをリリースした向井秀徳擁するロックバンド、ZAZEN BOYSが同年に行われた武道館ライブの模様を収録した音源を本日デジタルリリースした。


2024年10月27日に日本武道館で行われた、ZAZEN BOYS MATSURI SESSION。メンバーの誰もがコードを全く憶えていない名曲などを含め豊富なセットリストを組み、二部構成により、3時間超の劇的な公演を行った。これはナンバーガールのラスト公演のような記録的な試みでもあった。


その3時間20分にも及ぶ模様を完全収録したライブ・アルバム「MATSURI SESSION AT BUDOKAN」が遂にデジタル・リリース。生々しいバンドの息遣い、そして体温を感じてほしい。


・ZAZEN BOYS「MATSURI SESSION AT BUDOKAN」



Digital | 2025.05.14 Release

LINK [ https://ssm.lnk.to/matsurisessionatbudokan ]


1 You Make Me Feel So Bad

2 SUGAR MAN

3 MABOROSHI IN MY BLOOD

4 IKASAMA LOVE

5 Himitsu Girl's Top Secret

6 Riff Man

7 Weekend

8 バラクーダ

9 八方美人

10 This is NORANEKO

11 杉並の少年

12 チャイコフスキーでよろしく

13 ブルーサンダー


14 サンドペーパーざらざら

15 ポテトサラダ

16 はあとぶれいく

17 ブッカツ帰りのハイスクールボーイ

18 破裂音の朝

19 I Don't Wanna Be With You

20 Sabaku [ https://www.youtube.com/watch?v=dV3W4SQtP3U ]

21 DANBIRA

22 USODARAKE

23 安眠棒

24 黄泉の国

25 Cold Beat

26 HENTAI TERMINATED

27 HARD LIQUOR


28 6本の狂ったハガネの振動

29 Honnoji

30 半透明少女関係

31 CRAZY DAYS CRAZY FEELING

32 YAKIIMO

33 永遠少女

34 乱土

35 胸焼けうどんの作り方

36 Kimochi


All songs and lyrics written by Mukai Shutoku

Recorded and mixed by Kamijo Yuji

Mastered by Nakamura Soichiro at Peace Music

Art direction and design by Mukai Shutoku and Misu Kazuaki (eyepop)



・ZAZEN BOYS


向井秀徳 Mukai Shutoku : Vocals, Guitar

松下敦 Matsushita Atsushi : Drums

MIYA : Bass

吉兼聡 Yoshikane Sou : Guitar


 Maia Friedman 『Goodbye Long Winter Shadow』

 

 Label: Last Gang

Release: 2025年5月9日


Review

 

先週のアルバムのもう一つの実力作。マイア・フリードマンはカルフォルニア出身で、現在はニューヨークを中心に活動している。 現在、ニューヨークではインディーポップやフォークが比較的盛んな印象がある。このグループは懐古的なサウンドと現代的なサウンドを結びつけ、新しい流れを呼び込もうとしている。

 

マイア・フリードマンは、ダーティー・プロジェクター、そして、ココのメンバーとして活動してきた。二作目のアルバム『Goodbye Long Winter Shadow』はフローリストやエイドリアン・レンカーのプロデューサー、フィリップ・ワインローブ、そして、マグダレナ・ベイやヘラド・ネグロのプロデューサー、オリヴァー・ヒルとともに制作された。


このセカンド・アルバムでは、木管楽器、弦楽器、アコースティックギターが組み合わされたチェンバーポップ/バロックポップの音楽が通底している。このジャンルは、ビートルズに代表される規則的な4ビート(8ビート)の心地よいビートでよく知られている。マイア・フリードマンはこれらの60~70年代のポップソングにフォーク・ソングの要素を付け加えている。また、聴き方によっては、ジャズやミュージカルからのフィードバックも読み解くことが出来るかもしれない。

 

アメリカの世界都市の周辺で活動するミュージシャンには、意外なことに、普遍的な音楽性を追求する人々が多い。普遍性とは何なのかといえば、時代に左右されず、流行に流されないということである。マイア・フリードマンもまた、このグループに属している。フリードマンは、夢想的なメロディーを書く達人であり、それが純度の高いソングライティングに結びついている。 脚色的な表現を避け、人間の本質的な姿、あるいは、内的な感覚の多様さを親しみやすいポピュラー・ソングに結びつける。彼女の音楽は、扇動的なもの、あるいは即効的なものとは距離を置いているが、それがゆえにじんわりと心に響き、心を絆されるものがあるはずだ。タイプ的にはイギリスのAnna B Savageに近いものがある。アートポップとしても楽しめるはず。

 

 

ソングライターの作り出すオーガニックな雰囲気は、このセカンド・アルバムの最大の魅力となるだろう。アコースティックギターの涼し気なカッティングから始まる「1-Happy」は、フリードマンの優しげな歌声と呼応するように、木管楽器や弦楽器のトレモロの一連の演奏を通じて、映画のワンシーンのようなシネマティックなサウンドスケープを呼びさます。全般的には、エレクトロニクスのビートも断片的に入っているため、アートポップの領域に属するが、必ずしもそれはマニアックな音楽にとどまることはない。ボーカル/コーラスを自然に歌い上げ、それと弦楽器の描く旋律の美しさと調和することにかけては秀でている。時々、転調を交えた弦楽器がのレガートが色彩的なパレットのように音楽の世界を上手く押し広げていくのだ。

 

こうした比較的現代的なアートポップソングがアルバムの導入部を飾った後、「New Flowers」では、60-70年代のバロックポップ/チェンバーポップのアプローチを選んでいる。しかし、これは単なるアナクロニズムではなく、音楽的な世界を深化させるための役割を果たしている。マイア・フリードマンのボーカルは淡々としていて、曲ごとに別の歌唱法を選ぶことはほとんどない。それは考えようによっては音楽により自然体のセルフパーソナリティを表現しようと試みているように思える。二曲目では、ざっくりとしたドラムテイクを導入し、曲にノリを与えたり、フレーズの合間に木管楽器と弦楽器のユニゾンを導入したりと相当な工夫が凝らされている。しかし、曲が分散的になることはほとんどない。これは歌そのものの力を信じている証拠で、実際的にフリードマンの歌は、遠い場所まで聞き手を連れていく不思議な力がある。

 

また、音楽的に言及すれば、複数の楽器のユニゾンを組み合わせて、新鮮な響きをもたらしている。3曲目「In A Dream It Could Happen」はアコースティックギターとピアノのユニゾンで始まり、おしゃれな印象を及ぼす。そしてフリードマンの歌は伸びやかで、音楽的なナラティヴの要素を引き伸ばすような効果を発揮している。その後、弦楽器のレガートと呼応するような形で、ボーカルが美しいハーモニーを描く。ボーカルは、ささやくようなウィスパーとミドルトーンのボイスが組み合わされて、心あたたまるような情感たっぷりの音楽を組み上げていく。これはボーカルだけではなく、オーケストラ楽器の演奏が優れているからに他ならない。曲を聴いていると、驚くような美麗なハーモニクスを節々に捉えることが出来る。 そしてそれは調和的なハーモニーを形成する。曲の後半ではジャズふうになり、コーラスが芳醇な響きを形成する。これは単発的な歌の旋律だけではなく、全体的な調和に気が配られている証拠なのだ。

 

こういった中で、インスト曲の持つ醍醐味が楽しめる曲が続く。「Iapetus Crater」は弦楽器と木管楽器の演奏がフィーチャーされ、スタッカートのチェロに対してオーボエが主旋律の役割を担う。モダンクラシカルな一曲であるが、気楽な雰囲気に満ち溢れていて、聴きやすいインタリュードである。続く「Russian Blue」はフォークをベースにしたアートポップソングで、オーガニックな雰囲気が強く、アコースティックギターとドラムが活躍する。この曲はゆったりとしたテンポで進んでいくが、メロの後にすんなりとサビに入っていく。その後の間奏の箇所では、オーボエの演奏が入り、いわばボーカルの全般的なフレーズの余韻を形作る。良いボーカルソングを書くためには、どこかで余韻をもたせる箇所を作るのが最適であるという事例がこの曲では示唆されている。そしてその後、サビに戻るというかなりシンプルな構成から成り立っている。続く「Suppersup」は、しっとりとしたフォークソングで、とりわけ、アコギの録音にこだわりが感じられる。ゆったりとしていて、リラックス出来るようなインスト曲となっている。さらに、「A Long Straight Path」では赤ん坊の声の録音を用い、短いシークエンスを作る。

 

 同じようなタイプの楽曲を収録するときに、フルアルバムとしては飽きさせるという問題が生じることがある。しかし、マイア・フリードマンは、音楽的な背景の広さを活かし、それらをクリアしている。ただ、その全般的な音楽の基礎となるのは、飽くまで、フォーク・ミュージックで、その中心点を取り巻くような感じで、アートポップ、ジャズ、クラシック、さらには映画音楽を始めとする音楽の表現が打ち広がっていく。言い換えれば、フォーク・ミュージックから遠心力をつけて遠ざかるというソングライティングのスタイルがアルバム全般において通底している。また、どの部分の要素が強くなるかは、制作者やプロデュースの裁量や配分で決まり、どこで何が来るかわからないというのが、セカンドアルバムの面白さとなりそうである。

 

例えば、「On Passing」は、何の変哲もないアコースティックギターをメインとするフォークソングにきこえるかもしれない。しかし、ソングライティングの配分が傑出していて、ケイト・ルボンのようなアートポップのエッセンスを添えることで、新鮮な響きをもたらしている。

 

器楽的な音響効果というのも重視されている。「Foggy」は、グロッケンシュピールを使用して、アトモスフェリックな音楽を作り上げている。アルバムの収録曲は、すべてシングルのような形で収めることは、最適とは言えない。フルアルバムは、いわば掴みのためのシングル曲のような強進行の曲(力強い印象を放つ主役の楽曲)と、B面曲のような効果を発揮する弱進行の曲(脇役のような意味を持つ曲)の共存により成立しているのである。もしも、シングルだけを集めたら、それはオリジナルアルバムではなく、アンソロジーになってしまう。こういった中、雰囲気に浸らせるような弱進行の曲が他の曲の存在感を際立たせ、一連の流れを作り上げる。

 

マイア・フリードマンのアルバムは、フルアルバムが物語のような流れを作る模範例のようなものを示している。一貫して牧歌的な音楽性が歌われ、それは混乱の多い世界情勢の癒やしとも言えるだろう。「Vessel」は繊細な趣を持つインディーフォーク・ソングであり、いわばこれはメインストリームの音楽とは別の形で発展してきた音楽の系譜を次世代に受け継ぐものである。 そして、ここでも、エイドリアン・レンカー(Big Thief)やエミリー・スプラグ(Florist)といったニューヨークのソングライターの曲と音楽性に違いをもたらすのが、アートポップの要素だ。イントロはフォークソングだが、サビの部分でアートポップに飛躍する。つまり、マイア・フリードマンの曲は、イントロを一つの芽として、それがどのように花咲くのかという、果物や植物を育てていくような楽しさに満ちあふれているのである。 こういった女性的な感性は、成果主義や結果を追求する男性的なミュージシャンには、あまり感じられない要素かもしれない。

 

「A Heavenly Body」のようなピアノの伴奏をベースにした楽曲は、哀感やペーソスのような感情の領域を直截的にアウトプットするために存在する。ようするに、制作者は器楽的に感情表現や言いたいことを選り分けるため、楽器を使い分ける。その点では、オーケストレーションの初歩的な技法が用いられていると言える。もちろん、制作者は音楽的な変化を通じて、それらを使い分ける。マイア・フリードマンは感情の波を見定め、曲と曲を繋ぐ橋のような役割に見立てている。「Open Book」はモダンクラシカルの曲で、気品のある弦楽器がボーカルと合致している。そういった中で、あまり格式高くなりすぎないのは、オーボエの演奏に理由がある。曲そのものにルーズな感覚を与え、音楽の間口の広さのようなものを設けているのである。

 

アルバムは、連作を除いて、アルバムという一つの世界で終わりを迎えるべきである。それは一つの世界の追求を意味する。オーケストラ、ジャズ、フォーク、アートポップが重層的に折り重なる中、マイア・フリードマンの音楽的な世界は、絵本のような童話的な領域を押し広げていき、見方によっては、平穏で美しい世界を形成している。権力、動乱、混乱、闘争といった世界とは対極にある和平の世界を作り上げる人もいてはいいのではないか? そのことを象徴付けるかのように、北欧神話、ケルト神話のようなファンタジー性を持つ楽曲性が、オーケストラ楽器により構築され、北欧やアイスランドの音楽に近くなる。それは「Soft Pall Soft Hue」のような楽曲にはっきりあらわれている。室内楽として本格的な楽曲も収録されている。これらは、Rachel'sやレイチェル・グリム、あるいはアイスランドのAmiinaのような室内楽をポピュラーソングやジャズの方向から再解釈しようとしたモダンクラシカルの一派に位置づけられる。

 

そういった中で、軽快なアルバムのエンディングを迎える。「Witness」はいくつかの変遷を経て、制作者が明確な答えのようなものを見出した瞬間である。マイア・フリードマンは、長い冬を背後に、次なる新しい季節へと意気揚々とあるき出す。余韻を残すことはなく、また後味を残さない、さっぱりしたアルバム。15曲というボリューミーな構成であるが、それほど長さを感じさせない。と同時に長く楽しめるようなアルバムとなっている。個人的にはイチオシ。

 

 

 

 

85/100

 

 

 

「New Flowers」