ソフィア・ヤウ・ウィークスの音楽は、音楽的な成功というのが必ずしもミリオンセラーや世界的なコンサートのように華やかなものとは限らず、個人的でささやかなものでもあっても良いことを思い出させてくれる。アルバムを聴くにつけ考えるのはミュージシャンにとっての幸せとは何かということだ。


ソフィア・ウィークスの音楽的な道のりは紆余曲折があり、一筋縄ではいかなかった。4歳でクラシックのヴァイオリニストとして英才教育を受けてきたが、長年をわたって彼女は音楽に対する複雑な思いと苦手意識を抱えてきた。よくあることだが、厳格なレッスンと高いパフォーマンスが求められるプレッシャーが音楽との関係を難しくした。年を重ねるにつれ、家族からのプレッシャーにより、その不安はさらに強まった。彼女にとって音楽は名門大学への合格、そして、その後の医師や弁護士といった専門職への道を開くための手段の一部に過ぎなかった。


不安と抑うつは大学生活にもつきまとい、彼女は燃え尽き症候群になり、キャリア重視の未来像から距離を置くようになり、一般的な幸福が当てはまらないと悟った。2020年、大学3年生の時、パンデミックが到来した。それは多くの人々の当たり前や常識を根底から揺さぶり、覆すような苛烈な時期でもあった。世界中の人々と同様、ヤウ・ウィークスも自宅に籠もる生活を送った。ロックダウンが長期化するにつれ、高まる孤独感と悲しみを吐き出す場が必要となった。


彼女は、それまでカバー曲を練習するためにしか使用していなかったアコースティックギターを取り出し、自分自身のオリジナル曲を書いてみることにした。一日ずつ進める日記のように曲を書き進めると、ゆっくりと、確実に、音楽との関係は変化し、不安を掻き立てるものから、感情を整理する詩的な手段へと移ろっていく。最終的に、音楽制作は創造的な表現の道のりに変わり、周囲の世界や自身の個人的な経験を理解したり、解釈するための手立てとなった。


その後しばらく、ギターを携えて、ヤウ・ウィークスはカルフォルニアからロンドンへ移り住んだ。そこで過ごした2年間、インスピレーションは絶え間なく湧き出し、形になっていった。彼女はそれらを慎重に、忍耐強く、寝室からボイスメモとして録音していった。現在27歳となり、故郷のカリフォルニア州オークランドに戻ったヤウ・ウィークスは、デビューアルバム『Misty Mountain』をリリースする。この繊細な作品は、ゆったりとしたテンポと内省に根ざしている。


楽曲のほとんどは、ベビーシッターの仕事と、ジョージ・タバーンやウィンドミル・ブリクストンといったロンドンのインディーズ・ライブハウスでの夜のライブの合間を縫って5年で書かれた。ライブハウスで、彼女はロンドンのバンド仲間を含む素晴らしいミュージシャンや友人と出会い、音楽に対する新たな手応えを得た。しかし、地元の音楽シーンで足場を固めようとしていたその矢先、ヤウ・ウィークスはコロナウイルスに感染し、免疫不全状態に陥った。しかし、このことが内省の機会を与え、孤独と人間の繋がりとは何かを考えさせる機会になった。


『Misty Mountain』は、およそ5年をかけて丁寧に制作されたアルバムである。共同プロデューサーのマリアム・クドゥス(アラニス・モリセット、SASAMI、SPELLLING、グレイシー・エイブラムス)と共に、Tiny Telephoneでテープに録音された。芸術表現とコラボレーションを重視し、愛や人間関係、悲嘆やトラウマ、そして精神的な回復力や共同体意識といったテーマを探求しつつ、ニック・ドレイクやビッグ・シーフらからサウンドのインスピレーションを得ている。


ウ・ウィークスがアナログ録音を選んだ理由は、その温もりのある音質だけでなく、幼い頃から刷り込まれてきた生産性や完璧主義を遠ざけると共に、緩慢と不完全を受け入れる試みでもあった。結果的にはミュージシャンとして幸運にも成果主義から逃れることが出来たのだった。具体的にはテープ録音を中心にレコーディングが進められた。「アナログ録音は、私の音楽性を信頼させ、各テイクの単一性を受け入れさせました。スタジオで時間制限があるアナログ録音を行う際には、直感に従うしかなかった。これらの制限により、私の最高のパフォーマンスを発揮でき、細部にまでこだらなくなった」ソフィア・ウィークスは録音過程を振り返る。


デビューアルバムとして異例ともいえるソフトなサウンドが印象的なアルバムで、制作のコンセプトについては、他者が共感出来るような音作りを優先しているという。また、曲を書く時、具体性と普遍性のバランスを取るよう努めているという。「私自身の経験に関する具体性は、人生の出来事や感情、好奇心を処理する際、私にとって意味がある。同時に、私は、他者が音楽に共感できるように、そして自分がその曲を振り返って新たな形で共感できるように、集合的な何かを示すよりも広いメッセージを取り入れることを好んでいる」


また、孤独や繋がりについての主題がふんだんに盛り込まれ、それはテクノロジー時代の交流とは何かを解き明かすための手立てでもある。「私にとって、孤独とつながりの間には緊張があり、社会的にも精神的にも、その二つの領域の間を行き交っているように思います。それらは私が自然に惹かれるところです。私の音楽は、孤独とつながりの関係を明らかにしたいと思い、さらにそれらが私の内面的な世界にどのように影響を与え続けているかを探っていると思う」


どことなく物憂げでありながら探求心に満ちた『Misty Mountain』。ヤウ・ウィークスが過去を消化し、現在を省察し、未来を予見するプロセスにおける、彼女の内面世界への親密な覗き込みである。これは彼女の経験が思慮深く織り交ぜられた作品で、他者と交わりつつも、この世界で孤独であることの意味について語っている。率直な歌詞と時代を超越したインディーフォークサウンドを備えた『Misty Mountain』は、間違いなく聴く価値のあるデビュー作となる。


Sophia Yau-Weeks 『Misty Mountain』-  Sophia Yau-Weeks



デビュー作というのは、それまで蓄積してきた音楽経験を惜しみなく詰め込める。よって、そのミュージシャンやバンドの思いがぎっしり凝縮されている。そこに一人の音楽ファンとしては、大きなロマンスを感じる。カルフォルニアのシンガーソングライターによるデビュー作『Misty Mountain』は、イギリスの有力メディア、CLASH、The Line of Best Fitを中心に取り上げられ、好評を博している。アナログ録音をもとにしたオーガニックな雰囲気を持つインディーフォークアルバムで、それほど派手な印象はないけれども、長い時間をかけてゆっくりと聴きたい良質な作品である。

 

ヤウ・ウィークスのミュージシャンとしての全貌のすべてが明らかにされたわけではない。しかし、幼少期からヴァイオリニストとしての訓練を受けたこともあり、音感という側面では、同年代のミュージシャンよりも先んじている。しかし、このアルバムはシンガーソングライターとしての背景を象徴するかのように、過剰さや卓越性を避けた一般的な共感を呼び覚ます作品である。音楽全体は過剰な和声進行を避け、ときには三つのコードや和音を中心に進行していく。しかし、アコースティックギターとボーカルという簡素な構成を持つ楽曲は、波にゆらゆらとゆれられているかのような感覚があり、いつまでも聴きつづけられるような心地よさがあるのが不思議だ。


そもそも人間の脳は過剰な情報量を捉えられないように設計されている。氾濫する情報、それをすべて把握しているようでいて、ほんの一部しか理解していないのである。過剰な音楽は、ほとんど瞬間的な認識しか得ることは難しい。情報量の多いものは、それがどのような形態であれ、人間の脳や精神を疲弊させる。現今のソーシャルメディアの問題は、過剰な情報量を頭脳が処理しきれないことにある。すると、心にはモヤモヤが残り、消化しきれなくなってしまう。

 

若いミュージシャンやバンドの間でアナログ録音やテープリールなどを使用した録音が流行っているのは、情報過多に対する反動とも言える。デジタル録音は間違いなく音を精細にし、マクロからミクロに至るまで音の解像度を上げた。しかし、同時に、解像度が明瞭になりすぎることで、情報量が異常なほど増加した。すると、今まで聞けなかったり見えなかったものまでくっきりと見えたり、聞けたりする。そもそも、音楽作品は主体となる要素が増えれば増えるほど、音楽の持つ印象は、対象的にぼやけたり、霞んでいくという反比例の相関関係にある。単純明快でシンプルなロックソングがかっこよく思えるのは、こういった理由があるわけなのだ。

 

デビューアルバムであるにもかかわらず、ソフィア・ウィークスのインディーフォークサウンドは、それほど過剰な音楽の情報量がなく、自然な形の録音に仕上がっている。これは情報の飽和や過剰さが人間の感情や感覚にどのような影響を及ぼすのかという弊害をよく知っているからである。それは、結局、クラシック音楽のようなジャンルがトーンクラスター(群衆和音)などの過剰な情報量を経て、現代の音楽として衰退していき、一般性から離れ、ポピュラーやロック、ソウル、フォークにとって代えられたことを見れば、一目瞭然なのではないか。また、私達のような世代は、未来的とか先進的という言葉に惹かれたが、一回り下の若い世代は、むしろ時代に逆行するかのように、近代から現代の人々が見落とした本質的な概念を探そうとしている。2020年代後半はおそらく、旧来の価値観が塗り替えられるような時代となるだろう。

 

『Misty Mountain』は、内的な静寂から出てきたかのような深遠な趣を持つフォークサウンドで縁取られている。驚きなのは、例えば、2000年代以前よりもヤウ・ウィークスのような年代の人々は、比較的多くの情報量に接してきたはずなのに、 それとは対象的に音の情報量やボリュームを絞っている。そして大胆ともいえる形で、自然を感じさせるインディーフォークソングを奏で、小さなミクロな音楽に、大きな自然や宇宙、マクロコスモスを映し出す。つまり、ウィークスの音楽は、田舎で満点の星空を眺めるようなロマンティックな感覚がある。

 

タイトル曲で始まる本作は、結局、2020年代前半のパンデミック時代がもたらしたもう一つの意外な効果を反映している。ささやかなアコースティックギターのストロークの演奏と穏やかなハミングで始まる「Misty Mountain」は、現代人が接する過剰なノイズからの解放を意味する。彼女は詩人のように奏で、平らかなハミングを歌い、 自然味や開放感を感じさせるフォークの世界を作り上げる。しかし、ウィークスのサウンドに独自性をもたらしているのが、アナログのディレイや逆再生を交えたアトモスフェリックな印象を持つアンビエントのサウンドである。

 

リードボーカルやバックボーカルの美麗な旋律は、子供の時代からのヴァイオリンの経験に根ざしている。しかし、次世代のミュージシャンらしいサウンドが温和な空気感を作り出す。アイスランドの室内楽グループ、amiinaのようなささやかで上品な器楽的なサウンドが、ゆったりしたテンポを通じて繰り広げられていく。ループペダルを用いたギターや夏の入道雲のように舞い上がるアンビエンス、これらの現代的なサウンドは、おそらくロンドン仕込みと言えるだろうか。その一方で、カルフォルニアらしくアメリカーナのペダルスティールが登場し、幻想的な雰囲気を作り上げる。結果として、長く聞き続けたいと感じさせるフォークミュージックが構築される。歌詞の一面でも、出来るだけ説明的な表現を避けて、本質的な言葉を率先して歌っている。


「me,you,us」というような心に残るフレーズを聴いて気持ちが開けたり、また、明るくなるのは、そこに本質的な概念が宿っているからなのだろう。このあたりのオーガニックなフォークサウンドは、イギリスのフォークシンガー、Anna B Savage(アンナ・サヴェージ)の系譜にあるといえる。実験的なサウンドを織り交ぜながらも、曲の構成はシンプルで、一番から二番に移行し、演奏には弦楽器が加わる。そして音楽的に最も重視されるのは、全体的なハーモニーや調和である。気負いがなく、親密で開放的な演奏がボーカルと巧みに融合している。総合的に見れば、自然体な感じがするフォークミュージックを介して、リスナーの心を優しく解きほぐしてくれる。

 

「Nobody’s Laughing」ではドラムの演奏が入るが、本質的な音楽性は変わらない。 同じように細やかなフォークソングを中心にしているが、この曲は、ポップソングに近く、琴線に触れるボーカルが含まれている。どこのフレーズが共鳴するのかは、人それぞれだと思うが、結局、制作者がここだという見本を示してくれないと、共鳴のような瞬間も出てこない。つまり、曲を聴いていら人に、ここが良いかもしれないなという気持ちを抱かせてこそ、音楽としての良さが入り込む余地が出来る。また、同時に、旋律的にも、過剰にドラマティックな表現を避けている。淡白な印象をもたらすかもしれないが、そこには言い難いような淡さと心地よさが共存している。

 

ヤウ・ウィークスは、”AIの時代にこそ、人間的な感情を重視すべき”と説明するが、素晴らしい考えだと思う。人間にしか成し得ないことをする。まさに、そのことを体現する繊細で切ないフォークソングである。サビ/コーラスにおける旋律進行の素晴らしさは、やはり生来の音感の良さに根ざしたものだろう。しかも、それをじっくり丁寧に歌い上げるスタンスに、共感のような瞬間が存在する。そしてサビを効果的に繰り返し、温かな感情性を増幅させていく。


「繰り返しやベタなフレーズを恐れないで」といったのは、ボウイのベルリン三部作のプロデュース時のブライアン・イーノ氏(その考えを示したカード)だったと思う。これは聞き手が感情移入する余地を作るためなのだと思う。経験のあるミュージシャンは特に、軽率な繰り返しを避けたがることが多いが、リフレインやオスティナートは意図的にやると、非常に効果的である。また、ふと口ずさんでしまうような瞬間にこそ、音楽の持つ崇高さが宿ったりする。


「Nobody’s Laughing」

 



『Misty Mountain』では、テープ録音に根ざした、かすかなアナログ感とエレクトリックとアコースティックの演奏の混合に美しさが存在する。そして、古いものと新しいものを混在させたサウンドの中で、時代性を持たない、あるいは時代性を忘れさせる普遍的なボーカルが甘美な響きを作り出す。そして、思想としての明瞭性を避けた、中和的なボーカルが音の濃さを薄めて、和らいだ音の印象を生み出す。色のトーンで言えば、原色を避けて、パステルカラーのような淡い色を持つフォークサウンド、中和するようなサウンドが主な特徴である。


また、「Lone Wolf」にも象徴されるように、テンポ感を心持ち落として、ゆったりとしたリズムを重視している。これもまた加速する情報化社会に対する反動とも言える内容だろう。また、そこには人間の本質的な意味が宿り、あくせくせず、ゆったりする時も必要だということである。また、音楽的にはそれは、休符や間という概念に反映され、静けさが強調される。アルバムの序盤を聴いて、安らぎを感じる理由は、そこに内省的な静けさが存在するからである。

 

こうした中、アーティストによる個人的な趣味が色濃く出る「Monster」が序盤のハイライトとなる。おとぎ話や古いアンティーク家具のような印象を持つフォークソングで、2/4の緩慢なリズムを描き、そこにワンダーワールドを作り上げる。しかし、ここでいうモンスターとは怖い怪物ではない。おとぎ話に登場するようなピクシーのような可愛らしい怪物だ。まるでミステリアスな森の中を歩くかのようなサウンド、それらは映像的な示唆に富み、安らぎを越えた神秘的な音楽空間へとリスナーを誘う。楽曲の途中で、四拍子から三拍子に変化する瞬間に、アーティストの幻想主義が映し出される。音楽としては、ロサンゼルスのSSW、Nikiの音楽性を彷彿とさせる。


個人主義の音楽と言えるだろうが、同時に壮大な音楽世界を描くことに成功している。続いて、フォークバラードをもとに、しっとりした楽曲に挑戦した「Sylvia's House」もまた前の曲の延長線上にあるフォークソングで、アルペジオを中心としたアコースティックギターとソフトなボーカルによって紡がれるが、ここでもまたボーカルのメロディの良さが際立ち、ベースラインの働きを成すギターとティンパニのような効果を狙ったドラムが心地良い音の空間を作り出す。全体的に言えば、ヤウ・ウィークスの音楽世界は、まるで音楽という空間の中にお気に入りの家具を並べて、そして自分らしい色に縁取っていくようなもの。それはまた、手編みの縫製のような質感を持って、微笑ましいような音のタペストリーを作り上げる。旋律的に追うと、ノラ・ジョーンズの代表曲「Don't Know Why」の系譜にあるすごく素敵な曲である。

 

 

『Misty Mountain』は「内省的なサウンド」と説明されているが、その繊細な感覚が出てくるのがアコースティックギターのシンプルな弾き語りで構成される「The Rain」となる。家の外から見る、雨の情景の憂鬱さ、そこに宿る美しさや癒しといった感覚を縁取っている。器楽的にいえば、減7和音を駆使し、ジャジーでおしゃれな響きを活かし、現代的な詩人のあるべき姿を思いこさせる。それは、誰にでもあるようなありふれな日常を丁寧に歌い、感覚的なものから、ありきたりな常識を遠ざけるということである。この曲には、アルバムの主題的なテーマの孤独を深く感じさせる。


しかし、そこには、憐憫も悲哀もない。その基底にあるのは、ほのかな安らぎと癒しである。この曲にも、ありきたりな幸福の価値観から解放してくれる健全なパワーが宿っている。幸福というのは単一に還元されることはなく、形のないもので、それぞれ異なるものだ。こういった曲も、社会学的には理想とは言えまいが、ロックダウンのような瞬間から編み出されたのだ。基本的にはフォークミュージックに根ざしており、ジャズの音楽性も含まれている。しかし、個人的な内容を歌いながらも、アメリカーナを通じて壮大な宇宙的な音楽が出てくる。このあたりに、ミクロからマクロの領域へと推移するこのアルバムの偉大さが反映されている。

 

「Love Is A Garden」はフォークとポップ、ジャズの中間にある曲で、聴いていて安心感がある。それは、理想主義という空想的な側面から離れて、地に足がついた音楽だから好感が持てる。ゆったりと流れていく雲や空のように、あるいはゆっくりと土から枝を伸ばし、ささやかな花を咲かせるかわいい植物のように、そこに存在するだけで完璧であるという、簡単ではあるが、自然の摂理を示す曲でもある。すでに完璧である事柄に不完全さを与えたがるのが人間の奇妙な性である。それはまた、人間そのものの不完全性を暗示しているのかもしれない。


いずれにせよ、こういった平和主義を体現する楽曲は、現代的なポップシンガーの感性を通じて、多くの人々に共鳴しても全然不思議ではない。最近、残念ながら、肯定感を揺さぶる音楽は多いが、肯定感を与える音楽は少なくなってきている印象だ。これはスーザン・ソンザグが指摘したように、''他者に対する関心の無さ''というのが一因になっている。良い曲の根底には、巡り巡って帰ってくる宇宙のエネルギーの循環のような性質が存在する。そして素晴らしいミュージシャンは、エネルギーを惜しみなく循環させようとする。その点、このシンガーには良い気分を共有したいという思いがあるらしく、それが音楽的な良さに繋がっている。また、このシンガーソングライターは、明るさは暗さから生まれ、暗さは明るさから生まれることをよく知っている。そういった陰陽や正負というような、両極端の性質が絶えず混在しているのだ。

 

最初の一音に集中が込められている。 最初の一音にすべてを込め、入念の演奏や真摯なボーカルを披露している。素晴らしいと思うのは、音楽や言葉をぞんざいに扱わず、丁寧に捉えていること。しかし、先にも述べたように、変な重圧や気負いを感じさせない。それは結局、全般的な制作過程を通じて、幸運にも成果主義から逃れることが出来た瞬間があったのからだ。そして、それはとりも直さず、今回のレビューの主眼であるアーティストやミュージシャンの幸福とは何だろう、という主題の端的な答えとなる。「Spellbound」のような曲を聴いて良いなと思うのは、奇妙な名誉心がほとんどないからである。(もちろん、たまには名誉心も必要かもしれないが......)

 

さらに、『Misty Mountain』は、ヤウ・ウィークスが長年抱えてきた音楽との複雑な関係を融和する。それは言ってみれば、過去の自己や周囲の人々との「和解」を意味する。その証拠にダイナミックなストリングスがアルバムの最終盤でフィーチャーされている。それはしかし、単なる脚色のためではない。ある意味では、その人の人生観を彩り、過去の自分を乗り越え、新しい自己へ生まれ変わったモーメントを示唆する。本作は後半の収録曲になるほど、神妙な感覚が立ち上ってくる。しかし、それは、旧態依然とした権威的な奥深さではない。

 

その時、誰にでも訪れるような心が洗われるような美しい楽の音が優位になる。それはまるで顕在意識が薄れ、神聖な自己が立ち上ってくる瞬間に喩えられる。「Flay Away」や「Kristine」といった曲は依然としてささやかで広やかな音楽である。しかしながら、小さなところから大きな感覚が出てくる箇所が素晴らしいと思う。ある意味では、アルバムの後半でのヴァイオリンの演奏や、''クリスティーン''という、ありふれたフレーズを繰り返す瞬間、このアーティストの潜在的な凄さを感じとられる。それは先にも述べたように、エポックメイキングでもなければ、人を驚かすような手法でもない。『Misty Mountain』は、およそ5年をかけて、ヤウ・ウィークスがじっくりと蓄積してきた何かが溢れ、それがようやく目に見える形になっただけなのである。 

 

 

90/100

 

 

 

「Kristine」

 

 

▪Sophia Yau-Weeksによるデビューアルバム『Misty Mountain』は本日自主制作盤としてリリース。 Bandcampでのストリーミングはこちらから。

 


 

レトロフューチャリスティックなダンスエクスペリエンス、CŒUR ACIDEのニューシングル「TOUCH ME (ALL NIGHT LONG)」が、toucan soundsよりリリース。イタロ・ディスコ風のダンスミュージックで、デュオは、P-Funk/ディスコソウル風のサウンドを特徴とし、痛快でノリの良いグルーブ感をファンのもとに届ける。サウンドはパーラメントやEW&Fが下地にありそうだ。


CŒUR ACIDEはフランスを拠点に活動するエレクトロ・デュオで、専らライブ活動に力を入れている。音楽、ファッション、アートファクト・カルチャーを融合させ、レトロ・フューチャリスティックな視点を通して、80年代後半から90年代初頭のクラブ・グラマーを表現しています。単にリスニングにとどまらず、体験すべき神話に満ちた世界を紡ぎ出す、さらにCŒUR ACIDEは、各々の楽曲を記憶の断片として、また、映画的な宇宙の一部として創り上げる。 


この新しい音楽プロジェクトは、カナダ人アーティスト兼プロデューサーのパット・ロック(ストリーミング再生回数1億回以上)と、ハイチ系メキシコ人のボーカリスト兼マルチディシプリナリー・アーティスト、F-MACKによって結成された。


「TOUCH ME (ALL NIGHT LONG)」は、イタロディスコの中で生まれ変わる情熱的な叫びです。このシングルは、近日リリース予定のセルフタイトルEPからの先行トラックとなる。

 


CŒUR ACIDE:


CŒUR ACIDEは、失われた未来からのシグナルとして、魅惑的でハイファッションなアシッド・ハウスを紡ぎ出す、レトロ・フューチャリスティックなダンス・エクスペリエンスです... 


CŒUR ACIDEは、カナダ人プロデューサーのPat Lokとハイチ人ボーカリストのF-Mackによって構想された神話的な音楽の世界。A-TrakがA&Rを担当し、ChromeoのJuliet Recordsからリリースされたコラボ曲「Dirty Luv」の成功を受け、このデュオは今、Empire of the Sun、Hercules and Love Affairを彷彿とさせる、神秘的で未来的なライブ体験を届ける。セルフタイトルのEPには、爆発的な90年代のレイヴ(『LETS SWEAT』)から、クラシックなボールルーム・アンセム(『WHISPER FROM ABOVE』、『BITE ME』)、そして高揚感あふれる80年代のR&B(『ACID HEART』、『BOUGIE』)まで、幅広い楽曲が収録されている。


芸術と親密さが禁じられたディストピア的な未来から、タイムトラベルで逃れてきた難民として現れたCŒUR ACIDEは、単なるバンドではなく、反乱への呼びかけそのものである。それぞれの楽曲は記憶の断片であり、映画のようなストーリーラインの一部を成す。メキシコシティでの限定ソールドアウト公演で没入型ライブを初披露し、物語の核心となる彼らのトレードマークである「お茶」も初お披露目したこのダイナミックなデュオは、音楽、ファッション、未来主義が交差するエキサイティングな世界の幕開けに過ぎない。



「TOUCH ME (ALL NIGHT LONG)」


▪EN

CŒUR ACIDE is a retro-futurist dance experience crafting seductive, high-fashion acid house as signals from a lost future... 


CŒUR ACIDE is a mythical musical universe conceived by Canadian producer Pat Lok alongside Haitian vocalist F-Mack. Fresh off their collab, “Dirty Luv” (A&R’d by A-Trak and released on Chromeo’s Juliet Records) the duo now deliver a mysterious, futuristic live experience reminiscent of Empire of the Sun meets Hercules and Love Affair. Their self-titled EP ranges from explosive 90s rave (LETS SWEAT) to classic ballroom anthems (WHISPER FROM ABOVE, BITE ME) and soaring 80s R&B (ACID HEART, BOUGIE).


Emerging as time-travelling refugees from a dystopian future where art and intimacy are outlawed, CŒUR ACIDE is not simply a band, but a call to rebellion... each song a memory fragment, part of a cinematic storyline. Having debuted their immersive live show to an exclusive, sold-out crowd in Mexico City, which also unveiled their signature tea - a central element of the storyline - this dynamic duo is only beginning to unveil an exciting world at the crossroads of music, fashion and futurism.


Their new single "TOUCH ME (ALL NIGHT LONG)" is a passionate cry reborn in italo disco. It is an anthem for the end times! The single is the first taste off of the forthcoming EP. 

 

▪︎ロンドン〈Jazz Café〉で収録されたソウルフルなライブ作品 Mom Tudieによる熱気あふれるライブアルバム『Live in London』


Amy Winehouse、Jamiroquai、Bobby Womackといったレジェンドから、Olivia Deanのような現代のスターまで数多くのアーティストが立ってきたこの象徴的なステージで録音された本作は、ライブの熱気をそのまま閉じ込めた作品。


ソールドアウトとなった観客の前で披露されたパフォーマンスには、アルバム『Liam’s Eavestaff』(2024)と『As the Crows』(2025)からの人気曲が新たなアレンジで収録され、ライブならではの親密さと生々しいエネルギーが際立つ。


Len Blake、MaZz、August Charlesといったゲストを迎えた実力派バンドとともに、Mom Tudieのディスコグラフィーを横断する楽曲を披露。豊かなアレンジ、ダイナミックな演奏、そして随所に現れる即興の瞬間が楽曲に新たな奥行きを与え、ソウルとジャズの影響を受けた彼の温かくオーセンティックなサウンドを鮮やかに浮かび上がらせる。


『Live in London』は、ステージの瞬間に完全に没入し、観客と呼吸を合わせながら音楽を立ち上げていくMom Tudieの姿を捉えたライブドキュメント。アーティストと観客の距離が近い〈Jazz Café〉ならではの空気感の中で、ライブという空間だからこそ生まれる躍動と親密さがリアルに刻まれている。ロンドンのシーンの活気を込めた一作の登場。

 

 


▪︎Mom Tudie 『Live In London』


アーティスト:Mom Tudie

タイトル:Live in London

ジャンル:R&B/Soul, Alt-R&B, Jazz

配信開始日:2026年4月3日(金)

発売元・レーベル:SWEET SOUL RECORDS 


トラックリスト:

01. Losing You (Live in London)

02. Daylight Dreaming (Live in London)

03. Devil on My Shoulder (Live in London)

04. Under Attack (Live in London)

05. Don’t Hate Me (Live in London)

06. Coasting (Live in London)

07. Lights Go Down (Live in London)

08. Ribbons (Live in London)


配信URL: https://lnk.to/mom-tudie-live-in-london


Mom Tudie:



サウスロンドンを拠点に活動するプロデューサー/アーティスト。ソウル、R&B、ジャズ、ヒップホップを横断しながら、自身が「DIY Jazz R&B」と呼ぶ独自のサウンドを築いている。

幼い頃から音楽に囲まれて育ち、ジャズ、ポップ、ヒップホップ、ソウルを吸収しながら独学でプロダクションを習得。直感と実験精神を原動力に、自身ならではの音楽性を発展させてきた。

これまでにBBC Radio 1、1Xtra、6 Music、NTSといったテイストメイカーからサポートを受け、NTSとPaco Rabanneによるファンドにも選出。さらにComplexやClashなどのメディアからも注目を集めている。

また、Tom Misch、Nectar Woode、Tiana Major9、Jaz Karisらとのコラボレーションを重ねながら、UK各地でのツアーを通して自身のサウンドを広げ続けている。今後の活躍に注目したい。

Snail Mail  『Richochet』



Label: Matador

Release: 2026年3月27日

 

Review

 

人間は年齢を重ねるごとに、 今まで見えなかった視点を獲得し、また、その年代ごとに興味を変化させていく。他者と自己の分離、あるいは境界という出発点に始まり、そもそも自己とは何なのか、自分を構成するものは何なのか、また、自分はどこに属するのか、そしてどこから来てどこに行くのかを思案することになる。学生生活や仕事、日常生活に忙殺されていると、なかなか考える暇すらない。外に興味を向け、それを断罪するのは容易い。しかし、自己を回顧するのは難しい。しかし、ある時ふと、流れが止まったとき、自己を見ざるをえなくなり、あるテーマが目の前に浮かぶ。この段階で、個人が客観的なメタ視点を持つことになり、ある意味では、自分の姿を他者の視点から眺める時期に差し掛かる。それでは自分とはなんなのかという。

 

ニューヨークから故郷に戻った後、レコーディングされたリンジー・ジョーダンによる最新作『Richochet』には成長過程における死や死後の世界という、いくらか深妙なテーマが取り入れられ、哲学的な視点を取り入れた作品である。

 

しかし、そういった切実なテーマがありながらも、音楽は重苦しくはない。いや、それとは対象的に、驚くほど軽やかで、爽快な局面もある。それは過去の自分を見つめた時、多少、恥ずかしいような思い出も今ではなんだか美しい思いに彩られたからである。このアルバムは、前作『Valentine』のニューヨークの都会的な雰囲気とは対象的に、アメリカ郊外の平穏な風景をぼんやりと思いおこさせる。その中にシンガーソングライターは、しがないように思える青春時代の自己を慈しみの眼差しで見つめる。

 

一曲目「Tractor Beam」を聴くと、故郷の情景を描いたものであることはそれとなく伝わってくる。今では少し使い古されたようなポップソングを踏襲して、スネイル・メイルはらしいロックソングを紡ぐ。その手助けを果たしたのが、Mommaのベーシストを務め、近年、めきめきとプロデューサーとしての腕を上げ、活動の裾野を伸ばしているアーロン・コバヤシ・リッチである。 

 

コバヤシ・リッチのプロデュースは、90年代以降のオルタナティヴロックをベースにしているが、現代的なサウンドの妙味を埋もれさせることなく、今あるべき最適解を導き出す。スネイル・メイルの代名詞となる叙情的なインディーロックサウンドは、時々、脆さや儚さすら持ち合わせているが、それと同時にコバヤシの全体的なプロデュースが楽曲に強さをもたらしている。


思い返せば、2024年、スネイル・メイルは、Smashing Pumpkinsの「Tonight Tonight」のカバーに挑戦していたが、その影響が現れたのが二曲目を飾る「My Maker」である。アコースティックギターを多重録音し、ベッドルームポップに属するエバーグリーンなボーカルが加わり良い空気感を生み出している。この曲では、以前よりフォークミュージックに焦点を置き、心地よいボーカルのメロディー、ミニマリズムに依拠したギターサウンドが、全体的にアトモスフェリックな音楽性を作り上げる。まるで爽やかな春の風が目の前を通り過ぎていく瞬間のようである。

 

 『Richochet』では、ボーカルは全体的なトラックに対して、むしろ控えめな立ち位置を選ぶことが多い。それは他の箇所では後ろに立っているが、ここぞというときに満を持して前面にせり出てくる感じである。

 

「Light On Our Feet」ではゆっくりとしたテンポを活かして旋律的な要素を上手く引き出している。、マーチングのような細かい三拍子のドラムビートを全体に配して、ギターの繊細なアルペジオを介して、楽曲がゆっくりと展開していく。全体的な曲の空気感は、レトロなシンセストリングスが司り、全体的にはチェンバーポップを基本にしたロックサウンドが構築される。


しかし、ここで少し思い出してもらいたい。例えば、Fountains D.C.が2024年の最新作『Romance』で用いたオーケストラポップ(チェンバーポップ)の手法とは明らかに異なるということである。ロック/パンクがベースとなるFountains D.C.に対して、Snail Mailのサウンドは、全体的にはポピュラーソングが強いフィードバックを及ぼしている。そこに、甘い感じのジョーダンのボーカルが録音され、ドリーミーな雰囲気を持つロックサウンドが作り上げられる。


曲の途中では、本格的なオーケストラストリングスが導入され、ドラマティックなサウンドが強調されている。ここには、プロデューサーと連携してストーリーを持つ楽曲を作り上げようという試作の痕跡が残されている。『Valentine』での音楽的な収穫を踏まえ、それらをより壮大なスケールを持つ楽曲に仕上げている。また、前作ではプロデュースに寄りかかるようなサウンドもあったが、自発的なソングライティングを曲に落とし込もうとしているような気配も伺える。

 

中盤では、明るさのある序盤の収録曲とは対象的に、憂いに満ちたアンニュイなサウンドや、中間域にある感情性を追求したロックソングが目立つ。特に、ドラムの演奏を矢面に押し出し、ロックに近いサウンドを探求している。「Cruise」ではブリット・ポップやオアシスに近い、UKロックの影響を感じさせる。これはこれまでのSnail Mailの作風から見ると、意外性が込められている。


その一方、「Agony Freak」では当初のベッドルームポップに近い音楽性を駆使しながら、個性的なポップ/ロックサウンドで寄り道をする。グランジのクールなギターを織り交ぜながら、独特なポップセンスを発揮している。この曲では単なるオルタナティヴに収まらず、オーバーグラウンドのポップソングに共鳴する瞬間を刻んでいる。また、それは過去のアーティストの写し身でもある。続いて「Dead End」もまた、現代的な米国のポップとロックの中間に位置づけられる一曲である。これはスネイル・メイルがサブリナ・カーペンターのようなポップアーティストへの共感が示された瞬間だ。上記二曲は、オルタナから脱却しようという意図を捉えられる。

 

「Butterfly」は表向きには標準的なロックソングに聞こえるかもしれないが、RIDEやSlowdiveのようなシューゲイズの影響を感じさせる。80年代のニューウェイブサウンドやシンセ・ポップ風のサウンドをギターロックから解釈した楽曲でもある。ここでもスネイルメイルのボーカルのメロディセンスがきらりと光り、物憂げで切ない感じの琴線に触れるメロディが聴ける。スマパンの「1979」のようなミニマリズムをベースにしたロックソングだが、楽曲の構成における工夫も凝らされている。全体的に轟音と静寂を上手く使い分け、アウトロでは悲しい感じのフレーズが出てくる。ここには暗い感情を包み隠さず表現しようという意図も込められていそうだ。しかし、中盤での創意工夫とは対象的に、終盤で、カントリーやフォークからの影響をうかがわせる瞬間が出てくる。すると、まるで音の印象は霧が晴れたかのようにクリアになる。

 

恐れながらも暗い領域から明るい領域へと突き進む瞬間がこのアルバムのハイライトとなる。それは一曲単位で訪れるというよりも、全体的な曲の流れにしか見いだせない。「Nowhere」ではカントリーやロックをベースに、アーティストが明るい領域へと勇ましく踏み出す瞬間が描かれている。「Hell」はタイトルとは裏腹に爽快さを感じさせ、吹っ切れたような明るさを感じさせる。山登りで言うなら、まるで山の五合目までは曇りであったが、その先に晴れ渡った青空がふいに出てきたかのようである。

 

これらの感覚的なポップ/ロックソングが頂点を迎えるのがタイトル曲である。前作では声帯を痛めたため、声が少し低くなるなど、ボーカリストとしての難局を乗り越え、ぎごちないながらも自分に合う歌唱法をスネイルメイルは選ぼうとしている。「Richochet」はセンチメンタルな空気感を残しつつ、キャッチーなポップネスが重視されている。それは過去を振り返った上での決別と前進を意味する。その時、過去の自分は問題ではなくなり、新たな一歩を歩み始める。


最新アルバム『Richochet』にはアーティストとしての苦悩の痕跡が留められている。音楽的な理想に対して、どのように近づくのかという試行錯誤が随所に反映されている。しかし、そのことを考えると、むしろ全体に通じる軽やかで明るい印象が癒やしをもたらしてくれる。「Revire」は良いメロディーが満載で、慈しみのような感覚が表されている。それが何に向けられているのかは定かではない。しかし、この曲には温かい感情が滲んでいて本当に素晴らしかった。

 

 

 

86/100

 

 

 

「Reverie」- Best Track



ブライトン出身のパンクデュオ、Lambrini Girlsが新曲「Cult of Celebrity」を公開した。パンクバンドが2025年にリリースしたデビューアルバム『Who Let The Dogs Out』に続くシングルとなる。ランブリーニガールズらしい大胆不敵で痛快なパンクロックサウンド。しかし、そこにはガレージロックやロックンロールのサウンドが混在している。

 

リリースと合わせて、ロンドンを拠点とする映像作家兼監督のハーヴ・フロスト(『The Last Dinner Party』、『Laufey』)が手がけたミュージックビデオも公開された。MVでは、近年、世界をソーシャルメディアを日々賑わせているセレブリティの悪魔主義のおぞましさをコミカルに描いている。

 

”セレブの崇拝”は、現在の社会情勢の裏側にある暗部(エプスタイン・ファイルの公開、それにまつわる児童売買や悪魔主義の疑惑)を見事なほどに浮き彫りにしてみせている。


現在、最もその将来を有望視されるパンクデュオ、ランブリーニ・ガールズは2025年のグラストンベリーに出演して、痛快なパンクサウンドで会場を賑わせた。女性の社会における視点を大胆に縁取ったデビューアルバムに続いて、デュオの牙の矛先は社会正義と世直しに向けられる。


最新シングル「Cult of Celebrity」について、ランブリーニ・ガールズは次のように語っている。


「悪魔に魂を売り渡すという古くからの物語は、長年にわたり上流社会の伝説として語り継がれてきた。しかし、最近明るみに出た出来事によって、エリート層こそがまさに悪魔の化身であり、赤ん坊を食らう小児性愛者であることが判明した。なんてクソみたいな驚き!そもそも彼らには売るべき魂などなかった!!」 

 

彼女たちは、知性を用いて、イタリアの哲学者アントニオ・グラムシの次の言葉を引用している。「古い世界は死に、新しい世界は生まれようともがいている。今こそ、怪物の時代なのだ」

 

「Cult of Celebrity」

 

 

ロンドンのポストパンクバンド、Dry Cleaningは2026年1月上旬に4ADから発売されたアルバム『Secret Love』に続いて、単独シングル「Sliced By a Fingernail」をリリースした。意表を突く新曲で、これまであまり明らかにされてこなかったドライ・クリーニングのヘヴィネスが体現されている。それは実際的なヘヴィさというよりも、むしろ精神的な重圧を反映している。


『Secret Love』は、フローレンス・ショー、トム・ダウズ、ニック・バクストン、ルイス・メイナードによる復帰作である。『ザ・サンデー・タイムズ』、 『ガーディアン』や『MOJO』といった主要メディアから「今週/今月のアルバム」として紹介され、満点評価と共に「彼らの傑作」と讃えられた。本作はディスコ調のポストパンクサウンド「Hit My Head All Day」から、インディーフォーク調の「Let Me Grow and You'll See The Fruit」、 ジャグリーなギターとダブ風のベース、スポークンワードが融合した「Blood」など聴かせ所は多い。


ボーカルのフローレンス・ショーはこの曲の由来について次のように語っている。「 「じっと見つめられると息が詰まるような感覚。時には、自分が細かく切り刻まれているような気分になることもある。だから、花の中に隠れたり、ただの一人の見知らぬ人になって消え去りたいと想像してみた。実際、花びらに爪の跡が刻まれるイメージが、この曲の重要なインスピレーションになった。歌詞はキム・ジュヨンの絵本『Welcome to My Life』からも影響を受けている」


彼らは今月初旬からツアーを開始し、The Tubs、Search Results、Tony Bontana、Jerkclubといったバンドがヨーロッパとイギリス全土のツアーに同行する。北米での公演では、YHWH Nailgun、Snooper、Hotline TNTが一部の公演でオープニングアクトを務める。さらに、Dry Cleaningは、オーストラリアとニュージーランドでのツアー日程も追加発表した。

 

「Sliced By a Fingernail」

 


アメリカのインディーポップシーンを牽引するシンガーソングライター、girlpuppyは2025年にリリースされ、ローリングストーン誌などから高い評価を得たアルバム『Sweetness』に続き、同アルバムのデラックス・エディションを2026年5月29日にリリースすると明らかにした。

 

この発表に合わせて、ガールパピーはCharli xcxの『Brat』の収録曲「I might say something stupid」のカバーを公開した。カバーバージョンでは、ベッドルームポップ風のアレンジが施され、旋律的な叙情性が引き出されている。

 

5月29日にCaptured Tracksから発売されるデラックス・エディションには、楽曲「Champ」と「I Just Do!」の温かみのあるアコースティック・バージョン2曲、チャーリーXCXの「I Might Say Something Stupid」の情感あふれるカバー、アルバムの原点である率直でほろ苦いメッセージを深めた新曲「Sweetness」が収録されている。

 

チャーリー・XCXのカバーについて、ガールパピーは次のように語っている。「チャーリー・XCXの『I might say something stupid』をカバーすることに決めた理由はいくつかある。この曲が大好きだから。『Sweetness』のテーマに合っているから。シューゲイザーの曲として最高にクールになると思ったから」


girlpuppyは続けてこう語った。「『Sweetness deluxe』の全曲が、5月29日に皆さんのもとに届くことになります。『Sweetness』へのご支援、本当にありがとうございます。このアルバムは私にとってとても大切なものです。皆さん、大好きです!」

 

 

 「I might say something stupid」(Chali XCX Cover)



girlpuppy 『Sweetness』(Deluxe)

 

 

Label: Captured Tracks

Release: 2026年5月29日

 

Tracklist:

 
1.Intro
2.I Just Do 
3.Champ 
4.In My Eyes 
5.Windows 
6.Since April 
7.Beaches 
8.I Was Her Too 
9.For You Two 
10.I Think I Did 
11.Sweetness
12.I might say something stupid 
13.I Just Do (Acoustic)
14.Champ (Acoustic) 

 

▪Pre-save: https://girlpuppy.ffm.to/sweetnessdeluxe.vlb 

 

Photo: Meisa Fujishiro


シティ・ポップ・アーティストとして海外の音楽ファンからも支持されている佐藤奈々子が、伝説のブリティッシュ・フォーク・バンドのペンタングルのギタリスト故ジョン・レンボーンとの共作で幻の未発表曲「A Rolling Stone From Heaven」を4月22日(水)にイギリスのレーベル、Gearbox Recordsより配信リリースすることがわかった。


大学在学中に佐野元春と出会った佐藤奈々子は、楽曲を共作するようになり、1977年にアルバム『Funny Walkin'』で日本コロムビアよりデビュー。ムーンライダーズや加藤和彦など、当時の先鋭的なアーティストの作品に参加や楽曲提供し、その後、プロのフォトグラファーとして広告、雑誌などで活動を始める。


また、ピチカート・ファイヴによる1991年のカヴァーが世界的なヒットとなった「Twiggy Twiggy」など、ソングライターとしても数多くの名曲を残している。


1998年にはコクトー・ツインズのメンバーであるサイモン・レイモンドのプロデュースによるアルバム『Luminus love in 23』を発表するなど、日本のみならず世界的に幅広く音楽を発信してきた。


昨年末には1980年に結成したSPYの音源が45年の時を経て配信リリースされたことも話題となった。そんな奈々子が、この度伝説のギタリストのジョン・レンボーンを迎えた未発表音源「A Rolling Stone From Heaven」の配信リリースを発表した。


同楽曲は当初、即興のアカペラで録音された曲だったが、エンジニアを担当した藤井暁のアイデアでスコットランドに住んでいたペンタングルのギタリスト・ジョン・レンボーンへとテープが送られ、奈々子とは顔を合わせないままギターのダビングがされたという制作秘話がある。


さらに今回、あわせてリミックス・ヴァージョン「A Rolling Stone From Heaven [Simon Ratcliffe Rivers Remix] 」も同時にリリースされる。今年のフジロックへの出演も決定しているロンドン出身の2人組ダンス系ユニット、ベースメント・ジャックスのサイモン・ラトクリフによる、クールかつメランコリックなダンス・チューンへと生まれ変わったリミックスが誕生している。


同楽曲について佐藤奈々子本人は次のように話している。


「1997年に私がアカペラで歌った曲にペンタングルのジョン・レンボーン がギターを弾いてくれた曲。『A Rolling Stone From Heaven』 。それは奇跡のように生まれた曲でした。アカペラは即興で、歌詞はまだ出逢ったこともないジョンを歌ったような歌詞でした。その後、その曲は28年間も私のクローゼットに眠ったままでした。


 しかし、今回、また新たな奇跡が起こり、今度はベースメント・ジャックスのサイモン・ラトクリフがこのアカペラをリミックスしてくれました。音楽は放たれる時を知っているのでしょう。今、まったく新しい景色の中でジョンの精霊とともに歌が羽ばたいています。サイモン、すばらしいリミックスをありがとう」


そして、その「A Rolling Stne From Heaven」とリミックス音源の2曲を収録した限定ダブ・プレートの販売も決定!! マスターからダイレクトに1枚ずつカッティングして作られる高音質なアナログ:ダブプレート(限定10枚)。


配信リリースの翌日4月23日(木)に新宿の「sleepingtokyo.studio」にて会場限定で販売する特別イベントを開催。当日は奈々子本人とGreat3の片寄明人氏による楽曲解説などを交えたトーク・ショーも実施するのでお見逃しなく!


▪︎佐藤奈々子 「A Rolling Stone From Heaven」


<トラックリスト>


1. A Rolling Stone From Heaven (feat. John Renbourn)


2. A Rolling Stone From Heaven [Simon Ratcliffe Rivers Remix] 


配信URL: https://bfan.link/a-rolling-stone-from-heaven


▪︎世界限定10枚 12インチ・ダブプレートも発売




アーティスト名:佐藤奈々子(Nanaco Sato)

タイトル名:A Rolling Stone From Heaven(ア・ローリング・ストーン・フロム・ヘヴン)

形態:12インチ・ダブプレート

発売日:2026年4月22日(水)

レーベル:Gearbox Records

価格:£365.00(税込)

※ 各ディスクは12インチのクラフト紙製スリーブに収められ、そのエディション限定のユニークな全10色(下記参照)の光沢あるラップアラウンド・ステッカー付き


【カラー・ヴァリエーション】

キャンディ・ピンク、ペトロール・ブルー、セージ・グリーン、パステル・グレー、ダスティ・プラム、ヘイズ・ブルー、コーヒー・ブラウン、コーラル・ピンク、ペール・ライム、ベリー・パープル


<トラックリスト>

1. A Rolling Stone From Heaven (feat. John Renbourn)

2. A Rolling Stone From Heaven [Simon Ratcliffe Rivers Remix] 



<クレジット>

Nanaco Sato: Vocals | John Renbourn: Guitar | Lyrics written by Nanaco Sato | Music composed by Nanaco Sato, John Renbourn Produced by Nanaco Sato and Satoru Fujii | Recorded and mixed in 1996-1997 by Satoru Fujii, at Matrix Maison Rogue Studios, London. John Renbourn’s guitar recorded by Nick Turner at Watercolour Music, Corran, Fort William, Scotland | Mastered by Harris Newman at Grey Market Mastering, Montreal, Canada. A Rolling Stone From Heaven (Simon Ratcliffe Rivers Mix) Nanaco Sato: Vocals | John Renbourn: Guitar | Electronic production, arrangement and remix by Simon Ratcliffe Additional guitar by Andrea Terrano Mastered by Caspar Sutton–Jones at Gearbox Records, London, UK. Artwork and design by Paul Reardon



▪︎佐藤奈々子「限定アナログ・ダブプレート販売&トークショー」


日程:2026年4月23日(木)

時間:19:00〜20:00(予定)

会場:sleepingtokyo.studio 

(東京都新宿区富久町16-9 御苑フラワーマンション101号)

※入場無料ですが、参加希望者は事前登録が必須となっております


・参加のご応募はこちらから。



バイオグラフィー:

1955年、東京生まれ。独特のコケティッシュなウィスパー・ヴォイスは、渋谷系の元祖とも言われた。慶應義塾大学在学中に佐野元春と出会い、歌や詩を書くことを教わる。

大学主催の女性シンガーソングライターコンテストに出場し、「綱渡り」で最優秀作詞賞受賞。このコンテストを機に1977年6月、佐野との共作によるアルバム『Funny Walkin'(ファニー・ウォーキン)』で日本コロムビアよりデビュー。

ムーンライダーズや加藤和彦など、当時の先鋭的なアーティストの作品に参加、楽曲提供するなど活動の幅を広げる。1980年にSPYを結成し、加藤和彦プロデュースによるセルフ・タイトル・アルバムをリリース。その後、プロのフォトグラファーとして広告、雑誌などで活動を始める。

1986年、日産海外向けカレンダーの撮影で、世界のカレンダーコンテストで金賞受賞。翌年より5年間パリに移住。その後もコクトー・ツインズのメンバーであるサイモン・レイモンドのプロデュースによるアルバム『Luminus love in 23』を発表するなど、日本のみならず世界的に幅広く音楽を発信している。

また、作詞・作曲を手がけたピチカート・ファイヴの「Twiggy Twiggy」(野宮真貴の1981年のデビュー・アルバム『ピンクの心』収録曲)は世界的ヒットとなり、2014年にはセルフ・カヴァーで配信リリースしている。2026年4月、イギリスのギタリスト、ジョン・レンボーンとのコラボレーション・シングル「A Rolling Stone From Heaven」を配信リリース予定。

 Courtney Barnett  『Creature of Habit』


 

Label: Mom+Pop

Release: 2026年3月27日

 

 

Review

 

メルボルン出身のインディーロックスター、コットニー・バーネットはボーカルアルバムとして約五年ぶりとなるアルバム『Creature of Habit』をリリースした。2021年にリリースされた『Things Take Time, Take Time』はメロディアスなインディーロック集で聴きやすかった。インストがメインの作品を挟んでリリースされた最新作はシンガーソングライターの即興的な楽曲の性質を残しつつ、全体的により高い水準を目指したロックアルバムとなった。プロデューサーにはジョン・コングルトンが招聘されたこともあり、楽曲の洗練度は前作を凌ぐ可能性がある。

 

今作では、音楽性に新たなバリエーションが追加された。シンセポップやエレクトロポップである。これは、コットニー・バーネットが新しい音楽性を模索している最中であることが伺える。本作のオープナーを飾る「Stay In Your Lane」は、ジョン・コングルトンの代名詞的なサウンドで、オーバードライブのかかったベースにガレージロックのサウンドが乗せられる。バーネットの楽曲の中ではパワフルな部類に入ると思われる。また、新作アルバムでは、バーネットのボーカルの歌唱法に若干の変化が見受けられ、少しふてぶてしさのある歌い方を選んでいる。


曲の基礎は、The Kinksのようなサウンドであるが、エレクトロニクスを脚色的に使用したり、ダブ風のボーカルのディレイ効果を及ぼすことで、モダンなエレクトロロックに様変わり。ここにコングルトンの敏腕プロデューサーとしての手腕を堪能出来る。しかし、この曲をコットニー・バーネットらしくしているのが、ブルージーな歌の節回しと、往年のロックシンガー顔負けの迫力満点のボーカル。そして夢見るような幻惑的な雰囲気である。この曲では、古典的なロックから現代的なロックまでを踏襲し、聴き応え十分のオープニングトラックを提供している。

 

2曲目「Wonder」は前曲とは対象的に、コットニー・バーネットらしいメロディアスで叙情的なインディーロックソングである。この曲はおそらく、前々作の音楽性の延長線上に位置づけられるかもしれない。バーネットは筋金入りのロックギタリスト、そして良質なメロディーメイカーとしての性質を併せ持つ。この曲は、これらの二つのキャラクターがぴたりとハマっている。


ジャングリーなギター、8(4+4)ビートのドラム、力が抜けたラフなボーカルが混在し、魅力的なサウンドを構築している。もちろん、前作の曲の単なる焼き増しというわけではあるまい。シンセストリングスのようなアレンジメントは、バーネットの楽曲にドラマ性を与え、ほのかな感動を誘うことがある。全体的には、ロックソングという枠組みの中で、シンセポップのような音楽性が揺らめく。また、ボーカルには少しポップなサウンドが組み込まれている。キャッチーなサビの後にブリッジを歌う箇所は温和な雰囲気に満ちていて、思わず口ずさんでしまいそうだ。

 

「Site Unseen」では、Anti-に所属する米国のアメリカーナの代表格、ワクサハッチーがゲストで参加。アメリカーナを基盤にしたロックソングだが、イントロはかなり手が混んでいて、ネオサイケ風である。しかし、その後は爽快さのあるロックソングへと移行し、ワクサハッチーとの素敵なデュエットを惜しみなく提供している。両者ともに、カントリーやフォークに親しいシンガーであるため、二人のボーカルの相性が良く、前曲と同様に温和な空気感が醸し出されている。サビの部分ではカントリーの雰囲気が強まり、牧歌的な音楽性を楽しむことが出来る。端的に言うと、このアルバムの憩いの曲。聴いていると、言い知れない安らぎを感じる。曲の後半では、デュエットの形式を強化しながら、予測出来ない展開が登場する。このあたりに、バーネットが楽曲の洗練度や完成度を上げるべく、相当な試行錯誤を重ねたことが伺える。

 

エレクトリックギターによるアルペジオを生かしたフォークロック「Mostly Patient」も渋いながら、良曲のひとつ。 アコースティックで演奏しても良い曲であるが、あえてエレクトリックを使用しているのがポイントである。ボブ・ディラン的な哀愁は、コットニー・バーネットの手にかかると、きらめきのある繊細なフォークソングへと変化する。この曲では、レコーディングスタジオのアンビエンスを活かし、スタジオライブのような精細感のあるレコーディングが作り上げられる。 ギターのアルペジオとボーカルは時々、瞑想的な空気感を醸し出すこともある。前作よりも円熟味のあるサウンドを追求した過程が、この曲に強い影響を及ぼしている。

 

ドラムのスティックのカウントで始まる「One Thing At A Time」では、 アーティストらしいシュールで摩訶不思議なロックワールドが展開される。ボーカルの節回しにしても、旋律にしても、グリッターロックやサイケデリックロックの中間にある、独創的なサウンドプロダクションが生み出されている。ロックらしいフックがあるのにメロディアスさを失わない。特に間奏では、センス抜群のギタープレイが披露され、ロックらしいスピリットが立ちのぼってくる。

 

隠れたタイトル曲「Mantis」は、インディーロックとポップの中間に位置する。奇異なことに、発売日が重なったスネイル・メイルの最初期のサウンドを彷彿とさせる。ボーカルはより旋律の良さが際立ち、ポップネスにも磨きがかけられている。ジョン・コングルトンのプロデュースも素晴らしく、ドラムのタムがボーカルと見事にマッチしている。語弊があるかもしれないが、カマキリと話すという謎めいたエピソードが背景にあるこの曲で、バーネットは、青春時代に立ち返ったかのように、センチメンタルで叙情的なロックワールドを構築している。ここには、適度に力が抜けたラフなロックを重視した過程が見出せる。スタイリッシュな感じのするロックソングという、バーネットの代名詞的なサウンドを堪能することが出来るに違いない。

 

7曲目以降は、バーネットの音楽的な実験場とも言える、遊び心のあるサウンドが目白押し。アルバムの制作の後日談のようなサウンドが顕著で、もちろん曲ごとに音楽性も各々異なっている。


「Sugar Plum」は、いわゆるローファイ/スラッカーロックを体現した一曲で、マック・デマルコのようなサウンド。また、予想外にも、ドラムンベースのイントロを配した「Same」はシンセポップやエレクトロポップのような夢想的な音楽性を押し出している。これはアーティストによるドリームポップの解釈といっても良いかもしれない。バーネットの典型的なイメージとは対照的であるため、旧来のファンは意外の感に打たれるかもしれない。ギターロックを基本にしつつも、エレクトロポップソングを意識した「Great Advice」も面白い感じの一曲で、最新アルバムを通しで聴く際の密かな楽しみとなるに違いない。全般的には、ハイライトとなる曲を用意しつつも、それほどシリアスにならずに、気軽に楽しめるのがコットニー・バーネットのロックのスタイル。それは前々作から引き継がれたミュージシャンの流儀と言えるかもしれない。

 

終盤に趣味全開で遊び心のあるトラックを織り交ぜながらも、最後をしっかりと締めくくるのがプロフェッショナルな仕事である。「Another Beautiful Day」は良い空気感が滲み出ている。全体の夢見るような雰囲気を活かし、魅惑的なロックバラードを書いている。駆け出しの時代のようなラフさと情熱を維持しつつ、更に高度なソングライティングを実現している。また、この曲は、夏の太陽の光を感じさせる若さとまばゆさがある。 ハードロックのギターのエッセンスを随所に散りばめた深みのあるサウンドが金字塔のように輝く。最終曲ではロックミュージシャンとしてのライブセッションのリアルな醍醐味を味わえるはず。

 

 

 

84/100 

 

 

 

「One Thing At A Time」


 

エリック・サティが生きていたのは、20世紀の節目である。それ以降の近代/現代音楽に強い影響を及ぼしたサティは、音楽の聞かれ方が変化しつつあることを鋭い感性によって察知し、それまでになかった概念「家具の音楽」を編み出した。


当初、サティは、画家アンリ・マティスの絵画からインスピレーションを得て、BGM(バックグラウンド・ミュージック)という構想を考案した。マティスの絵自体が、インテリアのような趣を持ち、壁や空間との色彩的な調和という性質があったことを考えると、サティが”家具の音楽”を作り出したのは自然な成り行きだったのだろう。

 

アンリ・マティス 赤のハーモニー

パリ音楽院から、パリ・スコラ・カントルムへと学びの場を変え、その後、モルマントルにあるカフェでショパンなどのピアノ弾きを務めたサティの環境には、常にパリの人々のおしゃべり、ファッション、 先鋭的な芸術運動があった。彼は20世紀の芸術文化の中心地で暮らしていた。

 

諸説あるものの、家具の音楽の出発とされるのが、1920年3月8日に行われたマックス・ジャコブの戯曲「Lufian Toujours, Turan Jamet(ルフィアン・トゥジュール・トゥラン・ジャメ)」の上演である。サティとともに、この音楽を制作したダリウス・ミヨーは、以下のように回想している。

 

「音楽が同時にすべての方向から流れ出し、クラリネットを劇場の三つの角に、ピアノを第四の場所に、トロンボーンを一階のボックスに配置した」 ポール・ポワレの所有するギャラリーの展示会において、楽曲は上演され、マックス・ジェイコブの戯曲の合間に、サティの音楽が演奏された。このときのコンセプトについて、エリック・サティは「注意をそらすような主題のない芸術を夢見ている。それは良いアームチェアに例えられる」と述べたことがあった。

 

20世紀のモンパルナス


エリック・サティは、音楽芸術のあり方にイノベーションをもたらした。第一次世界大戦中、彼は、セーヌ川左岸のモンパルナスで、この形式を考案した。モンパルナスは、印象派の画家が多数活躍したアートシーンの中心地でもある。戦争によって大きなコンサート会場やギャラリーが閉鎖されると、音楽家や画家達はモンパルナスの近郊にあるヒューゲンス6番地のアトリエに集った。 

 

アトリエの所有者のスイス人画家エミール・ルジュヌ(Émile Lejeune)は、コンサートプロデューサー、アルトゥール・ダンデロに、アトリエをコンサート会場として使わないかと提案した。 ダンデロは提案を受け入れ、その後、スウェーデンの作曲家ヘンリク・メルシェルにすべてを委任した。

 

コンサートの多くは、詩の朗読や展覧会が同時に開催された。その中には、芸術融合を示す旗印「Lyre et Palette(リール・エ・パレット)」が掲げられることもあった。そして最初に、このアトリエで開催されたのが、「サティ・ラヴェル・フェスティバル」であり、1916年4月18日に行われた。


1916年11月17日に開催された展覧会で演奏されたサティの「Instant Musical(インスタント・ムジカル)」 イベントでは、詩の朗読会が行われ、ジャン・コクトーとブレーズ・サンドラールが一編ずつ詩を書き、一編はサティに捧げられた。ルジュヌは回顧録で以下のように回想した。


「サティは、オープニングの最中にこっそりピアノの前に座って、即興演奏をするつもりだと私に教えてくれた。『それはいわば”空間を彩る音楽”になるだろう』と彼は言った。『だから、来場者には引き続き歩き回ってほしい。君や仲間にはすでに伝えてある』と言った」という。

 

先にも述べたように、芸術家の間で普及していた家具の音楽が一般的に知られるようになったのが、1920年のマックス・ジェイコブ(Max Jacob)の戯曲の上演だった。しかし、サティの家具の音楽が理解されるまでには多くの時間を要さねばならなかった。

 

観客は音楽に静かに聞き入り、音楽が13回目の繰り返しに達したとき、サティはついに我慢がならなくなり、観客に対して、歩き回って、そして食べたり飲んだりするように促し、さらにときには「話して、天に誓って!」とも叫んだ。しかし、観客はサティのいうことを全然聞かなかった。この辺りにサティのコミカルな人物像が思い浮かぶ。

 

サティは、音楽がインテリアのようにみなされることを理想としていたが、彼の希望は聴衆になかなか理解されなかった。しかし、このパフォーマンスにより、BGMの未来が拓かれる。フランスの『VOGUE』の創刊号で、Musique d' ameublement(Back Ground Music)という言葉を対外的に紹介した。なんと、最新のインテリアに関するコラムの中で次のように言及されたのだ。

 

ーー家具の音楽とは何か? それは演劇や音楽の演目の合間に演奏すべき音楽であり、セットやカーテン、ホールの家具と同じように、雰囲気を作り上げる役割を果たしている。エリック・サティの音楽は、モチーフが止まることなく、繰り返され、それらを聴くのは無意味だという。その雰囲気の中で、注意を払わずに過ごさねばならない。この音楽をどんなふうに聴くか、テーマについて、どんな意見を述べるのかはあなた次第。しかも、今シーズン私たちがこだわっている家具とは何ら関係がない。それは、今この瞬間の情熱を示す音楽を形作り、聴くためのきっかけに過ぎないーー

 


 

「Furniture Music」


UKブライトンのピアニスト/アーティスト、The Vernon Spring。昨年の終わりからアルバム『Under a Familiar Sun』のリワーク作品がシングルとして続々とリリースされてきたが、5/8にいよいよ作品集としてリリースされます。


また、本日先行シングルとして、「Roaring Flame of The Sun (Under a Familiar Sun - Saoirse-Juno Rework)」がリリースされました。アルバムのタイトル曲「Under a Familiar Sun」をUKのアンビエント・アーティストSaoirse-Junoが再構築。楽曲のストリーミングはこちらからお願いします。


「Roaring Flame of The Sun (Under a Familiar Sun - Saoirse-Juno Rework)」




【先行シングル】



アーティスト:The Vernon Spring (ザ・ヴァーノン・スプリング)

タイトル: Roaring Flame of The Sun (Under a Familiar Sun - Saoirse-Juno Rework)

発売日:2026年3月30日(月)

フォーマット:デジタルダウンロード/ストリーミング(デジタルオンリー)

ジャンル: ポスト・クラシカル / ジャズ / アンビエント

レーベル:p*dis


<トラックリスト>

1. Roaring Flame of The Sun (Under a Familiar Sun - Saoirse-Juno Rework)

2.⁠ ⁠Other Tongues (Oliver Coates Rework)

3.⁠ ⁠The BL II - feat. Max Porter & Confucius MC (The Breadline - Iko Niche Rework)

4.⁠ ⁠Esrever Ni Rehtaf (Rosie Lowe Rework)

5.⁠ ⁠Say Her Name (Requiem for Reem - Loa Rework)


▪︎ストリーミングURL: https://opia.lnk.to/RoaringFlameofTheSun



【リワーク作品:デラックスエディション仕様】



アーティスト:The Vernon Spring (ザ・ヴァーノン・スプリング)

タイトル: UnFamiliar Sun

発売日:2026年5月8日(金)

フォーマット:デジタルダウンロード/ストリーミング(デジタルオンリー)

ジャンル: ポスト・クラシカル / ジャズ / アンビエント

レーベル:p*dis


<トラックリスト>

Disc 1: Under a Familiar Sun

1. Norton

2. The Breadline (feat. Max Porter)

3. Mustafa (feat. Iko Niche)

4. Other Tongues (feat. aden)

5. Under a Familiar Sun

6. Fume

7. In The Middle

8. Fitz

9. Esrever Ni Rehtaf (feat. aden)

10. Counted Strings (feat. aden)

11. Requiem For Reem

12. Known


Disc 2: UnFamiliar Sun

1. ⁠Roaring Flame of The Sun (Under a Familiar Sun - Saoirse-Juno Rework)

2. Fitz (Dot Never Rework)

3. Say Her Name (Requiem for Reem - Loa Rework)

4. The BL II - feat. Max Porter & Confucius MC (The Breadline - Iko Niche Rework)

5. Esrever Ni Rehtaf (Rosie Lowe Rework)

6. Other Tongues (Oliver Coates Rework)

7. Counted Strings feat. aden (Sweet Bandit Rework)

8. Norton (H.Takehashi Rework) 



・アンビエント・シーンの注目のアーティスト8組がThe Vernon Springの2025年作『Under a Familiar Sub』を再構築


The Vernon Springのアルバム『Under a Familiar Sun』のリワークプロジェクト『UnFamiliar Sun』。2025年秋からシングルが続々とリリースされてきましたが、ついに8曲入りEPとしてリリースされます。


Rosie Lowe、Oliver Coates、H.Takahashiなどエレクトロニック・ミュージック、アンビエント・シーンの注目のアーティストがThe Vernon Springの幽玄で静謐なアンビエント・サウンドを再構築。


リリースから丸1年となるアルバム『Under a Familiar Sun』を加えたデラックスエディション仕様。デジタルのみでのリリースです。


アメリカで一体何が起きているのか? アメリカーナ/フォーク/カントリー・シンガーソングライター、クリス・マシューズの新曲「Forged In Fire」は事実の一端をジャーナリスティックに象っている。「Forged In Fire」はセス・グリアーがプロデュースおよびレコーディングを担当した。


ICE(米移民・関税執行局)やイランへの軍事行動に対する米国現政権への風当たりが強まる中、タイムリーなリリースと言える。音楽的には、フォークとブルース/ゴスペルの中間にあり、現代的なプロテストソングに位置づけられる。曲のタイトルは「炎の中で鍛え上げられた」を意味する。


マシューズは、この作品で、TRO Essex Music Group(ウディ・ガスリー、ピート・シーガー、ピート・タウンゼント、ピンク・フロイド、ブラック・サバスが所属)及びレーベル部門であるShamus Records(ウディ・ガスリーの『Woody at Home』、 Vol. 1 & 2、フレイミー・グラントの『CHURCH』、サム・ロビンスの『So Much I Still Don’t See』などをリリース)と契約を結んだ。


クリス・マシューズの影響力は、すでに米国の業界全体で広く認められている。彼女はインターナショナル・フォーク・ミュージック・アワードにおいて、2025年および、2022年の「ソング・オブ・ザ・イヤー」を受賞した。同賞の創設以来、この栄誉に2度輝いた初のアーティストとなりました。また、2024年には「アーティスト・オブ・ザ・イヤー」にも選出されている。 


真実の吟遊詩人、ナッシュビル在住のクリス・マシューズは、新世代の社会正義を掲げる音楽家たちの中でも最も輝かしいスターのひとり。数々の賞を受賞した多作な作詞家兼作曲家であるマシューズさんは、カントリー、アメリカーナ、フォーク、ブルース、ブルーグラスを融合させ、伝統的なメロディーに根ざし、率直で独創的な歌詞が彩る、大胆かつ複雑なパフォーマンスを繰り広げる。彼女はまさにこの時代のために生まれたアーティストだ。


彼女の新曲「Forged In Fire」は「トランプ政権第2期による、不安定なアメリカ民主主義の解釈が始まってからわずか数ヶ月後に書かれた」という。


クリス・マシューズは次のように説明する。「その週のヘッドラインはこうだった。『米連邦判事がトランプの出生地に基づく入国禁止令を差し止め、集団訴訟の続行を認める』、『カリフォルニア州カマリロで抗議者が連邦当局と対峙、捜査官が農業労働者を標的に』『CPJがジャーナリストのマリオ・ゲバラ氏の釈放を要請』『トランプ政権、不法滞在の子供たちへのヘッドスタート支援を撤回』『CUNY(ニューヨーク州立大学)が最新の弾圧で親パレスチナ派の学生・職員を標的に』などなど。


その時、関税政策からテキサス州の致命的な洪水にいたるまで、数え切れないほどのニュースが溢れていた。この曲はある週の混沌から生まれたが、およそ1年が経った今、この政権の民主主義軽視がミネアポリスや他の多くの米国都市にもたらした混乱の渦中において、「Forged In Fire」は、公民権運動の時代に同様の状況に耐え抜いた人々からの戦いの叫びのように感じられる。  


自他共に認める牧師の家系であるクリス・マシューズには、A.M.E.教会での育ちが色濃く反映されている。実力派ボーカリストのキショナ、カイリー・フィリップス、ニッキー・コンリー、ウィル・メレル、ジェイソン・エスクリッジが「私たちを教会へと誘う」中、マシューズの歌詞は「絶望は選択肢ではない」と私たちに語りかける。


マシューズは自身の言葉で、その使命は「声なき人々の声を広め、見過ごされている事実に光を当て、希望と愛こそが平等と正義への最も真の道であることを揺るぎない形で示し続けること」だと語った。

 

 

「Forged In Fire」

 

 

▪︎EN(Excerpt) 

A troubadour of truth, Nashville resident Crys Matthews is among the brightest stars of the new generation of social justice music-makers. An award-winning, prolific lyricist and composer, Matthews blends Country, Americana, Folk, Blues, and Bluegrass into a bold, complex performance steeped in traditional melodies punctuated by honest, original lyrics. She is made for these times.


Her new single, “Forged In Fire,” was “written just a few short months into a precarious interpretation of American democracy courtesy of the second Trump administration.” 


She continues: "The headlines that week were: U.S. Judge Blocks Trump’s Birthright Ban, Allows Class-Action Lawsuit to Proceed; Protesters Confront Feds in Camarillo, CA, as Agents Target Farmworkers; CPJ Calls for Release of Journalist Mario Guevara; Trump Admin Withdraws Head Start Services for Undocumented Children; CUNY Targets Pro-Palestinian Students and Staff in Latest Crackdown; and countless others about everything from tariffs to deadly floods in Texas. 

 

While this song was born out of the chaos of a particular week, almost a year later, in the wake of the turmoil this administration's disdain for democracy has wrought in Minneapolis and in so many other American cities, "Forged In Fire" feels like a rallying cry from those who withstood similar conditions during the Civil Rights movement."