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個人的に、音楽的に大きな共感を覚えているのが、カナダ/トロントのアンビエントポップ・ユニット、シャバソン&クルゴヴィッチです。2020年の共同アルバム『Philadelphia』以来、ジョセフ・シャバソンとニコラス・クルゴビッチは、日々の些細な出来事から美しさと壮大さを遠心分離機のように引き出す音楽的な軌道に乗ってきた。彼らの共同作品群を通じて、皮肉と哀愁を帯びた微細な瞬間が、静かに心の壮大な驚異へと花開く小さな宇宙を創り上げてきました。
しかし、これまでの共同作品が、変異を遂げたアダルト・コンテンポラリーや「思いつき即採用」の詩学という潮だまりからポップソングを覗き見るようなものだったのに対して、『Four Days in June』は、車のセンターコンソールに常備され、人生の出来事に合わせていつでも再生できるような、CD時代のソングライティングへの気取らないアプローチを捉えている。
その精神的な源泉は、「Harvest Moon」やR.E.M.、K.D.ラングの「Ingenue」といった全盛期の不朽の名作に接ぎ木されている一方で、ペダル・スチール、バンジョー、フィドルのきらめきを通じて90年代のポップ・カントリーにウインクを送っている。しかし、これらすべてのインスピレーションは、自己に誠実であり、他から借りてきたものではない。
それらは、シャバソンとクルゴビッチの共同作品の特徴となっている、透き通るような誠実さをさらに際立たせ、強調している。『Four Days in June』は、過ぎ去った半生を振り返り、物事が展開してきたあり方に満足を見出す二人の記録である。まさにその過程を通じて、シャバソンとクルゴビッチは、自らの創造性の最も自然体な姿の中に、静かな自信を見出している。
最新作『Four Days in June』は、そのタイトルが示す通り、まさに夏に生まれた作品だ。ペダル・スチール奏者のイアン・マクギンプシーの参加が決まったことをきっかけに、ジョセフは、クルゴビッチがバンクーバーからやって来られるかどうか確信が持てないうちに、自身のトロントのスタジオへ、信頼のおける中核メンバー(ベーシスト兼キーボーディストのブラム・ギーレン、ギタリストのトム・ギル、ドラマーのフィル・メランソン)を呼び集め始めた。
ニックは、ツナミのジェニー・トゥーミーの新作アルバムのプロデュースを終えたばかりで、音楽に没頭していない時に見つけた心の余裕を楽しんでいた。一方、幼い子供たちの子育てに伴うストレスと喜び、そして(2019年のソロアルバム『Anne』のタイトルにもなっている)母親のパーキンソン病の症状悪化に直面する中、ジョセフは音楽制作に没頭することで、日々の重圧に抗う支えを見出していた。
シャバソンとクルゴビッチは、ミドルエイジの初期という異なる次元において、インスピレーションの対極に立ち、『Four Days』に二人の名前が共に載ることに確信が持てずにいた。しかし、古くからの友人フィル・エルヴァラムと、彼が最近ファンになったフォークミュージシャンのサム・エイミドンが、『Four Days in June』のレコーディングが予定されていた時期、それぞれのツアーでトロントに集結するという話を耳にし、クルゴビッチはプロジェクトへの参加を決意した。実際、Four Daysのメンバーは、その日のエルヴァラムのバックバンドを務め、エイミドン本人もスタジオに立ち寄り、バンジョーとフィドルで参加することになった。ついに星が揃い、『Four Days in June』はトロントを襲った歴史的な熱波の中で誕生した。
Shabason & Krgovich 『Four Days in June』- Idee Fixe
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シャバソン&クルゴヴィッチは、昨年、日本のテニスコーツとのコラボレーションアルバムをご紹介しましたが、2年連続の登場となります。昨年は、日本語歌詞を交えた歌謡的なサウンドと実験的なエレクトロニック作品を発表した彼らですが、今年のアルバムもボーカル付きのIDM集であり、この二人の相性の良さ、常時的なユニットとしての才覚を余すところなく伝えています。そのサウンドはどことなく精妙な感じがし、さらに大人のためのポップスとも言えます。『Four Days in June』は、全体的に言えば、アダルトコンテンポラリーやAORの領域に属していますが、 実験的な電子音楽の影響もあり、そしてジャズからのフィードバックも含まれています。
IDMというのは、「Intelligence Dance Music」の意味で、平たく言えば、家や屋内での鑑賞に適している。これはダンスフロアのアップテンポなビートとは対照的で、いわゆる聞き専寄りの音楽です。ビートは控え目か、もしくは希薄で、メロディアスな性質を持つ電子音楽とも言える。これらのサウンドの先駆けは、BonoboとかAphex TwinなどWarpやNinja Tuneの所属アーティストです。
神戸の由緒ある西洋館「旧グッゲンハイム邸」に滞在して書かれたテニスコーツとの共同制作アルバムではまだ不明瞭でしたが、 今回のアルバムでは、シャバソン/クルゴヴィッチのサウンドが環境音楽やアンビエントの雰囲気に満ちていることが分かる。これが彼らのサウンドが「アンビエントポップ」と呼ばれる所以です。今作ではまた、カナディアン・フォークミュージックの影響も含まれているという気がする。様々なジャンルが混在し、1つのジャンルにとどまりません。シンプルに言えば、両者の音楽的な背景が自然な形で楽曲の中に混在しています。
「Begin Again」はシンセの穏やかな感覚に満ちたメロディから始まり、ジャカジャカという心地よいエレクトリックギターが鳴らされる。楽曲は、それほど構成主義ではなく、心地よいメロディーや音楽空間を作り上げ、全体的な構図の中で、何ができるかを探していくという感じなのでしょう。 しかし、彼らの音楽にはひらめきやはっとさせる感覚があり、アコースティックドラムの精細感のある演奏、アフロビートやジャズで使用されるようなフルートの音色が乗ると、曲はとつぜんカラフルな印象を帯びていく。そしてベース音をとっかかりにして、ボーカルが入ると、音楽そのものが重厚感を帯び、どっしりした安定感を音楽全体に及ぼしています。
その一方、器楽的なアプローチの中でも、楽曲のボーカルは機械的になりません。ほのかな温かみとエモーショナルな質感を帯びながら、ジャズライクなポップソングの裾野を少しずつであるが押し広げていく。ボーカルと器楽的なフレーズのバランスも良く、過剰に均衡を図りながら、音楽そのものが深みを増していく。分けても、見事なのは、アコースティックドラムを打ち込みのドラムのように見立てながら、ビートを上手く構成し、ボーカルを中心とするメロディと巧みに結びつけていく。玄人好みのサウンドと言えますが、決して難解にはなりません。聴きやすさと温かさを兼ね備えた素晴らしいアダルトコンテンポラリーソング。そのほか、幻想的な雰囲気のあるコーラス、そしてムーディーなギターなどを混在させ、見事なアートポップソングを作り上げる。コラージュや再構成の発想もあるが、決して楽曲の品位を損ないません。シャバソンとクルコーヴィッチは全体的な音楽の自然な流れを重視しているのです。
「Begin Again」
「Along the Dance Away」ではニール・ヤングの『Harvest Moon』のような幻想的なフォークサウンドをIDMのスタイルと融合させている。特に、このアルバムは、海辺の夕焼けのような心地良い情景を音楽的に象り、それらがジャック・ジャクソンのようなアロハなフォークソングと融合している。なぜかしれないが、聴いていると、現実的な考えから少し離れ、波にゆったりと揺られているような感覚を味わうことができます。
この曲でもボーカルが入っているが、一曲目に比べ、器楽的な効果が強調されている。それほど明確なメロディをもたず、スキャットや鼻歌のような効果を押し出しながら、スティールギター/ギター、吹奏楽器、ドラム、ベースを散りばめながら、抽象的ではあるが、見事なハーモニーを形成していく。特に、曲の後半では、バックボーカルのコーラスが加わると、神々しい雰囲気を帯び、バンジョーなど個性的な楽器の演奏を織り交ぜながら、どこまでも心地良く穏やかな感じの音楽空間を作り上げています。
「Field Mouse」はジャズ和声を重視した分散和音のピアノ、ギター、サクスフォン、シンセサイザー、ドラム/シンバル、ウッドベースを構造的に解釈し、うっとりした空気感を作り上げる。全体的には、アンビエントジャズともいうべき構成に、ボーカルが加わる。これもまた渋い感じで、全体のミックスに溶け込んでいる。残響や休符の後の静けさを活かし、玄妙なポップソングの世界が作り上げられる。ボーカルも2つの録音を対比させながら、美しく幻惑的なハーモニーを構築していく。こうした音楽は、作曲における方法論にとらわれないで、シンプルに良い音楽を作っていこうというシャバソン/クルゴヴィッチの考えを捉えることができます。
「Midday Sun」はフォークソングとロックの中間にある軽快なサウンドで、Yo La Tengoを彷彿とさせる。アメリカーナの影響を活かし、ボーカルとギター、ドラムが合わさりドライブ感のあるポップ/ロックソングに繋がっていく。音楽的には、夕日に向かって走るような雰囲気があり、青春映画のような音楽性を感じる事もできるかもしれません。この曲では、女性ボーカルをコーラスワークに据え、軽妙なAOR/アダルト・コンテンポラリーのサウンドを作り出しています。
「No Two」はシャバソン/クルゴヴィッチの実験音楽の性質が色濃く出た一曲。ジム・オルークのようなアヴァンフォークの影響を交え、ギター、ボーカル、シンセ、ストリングなど様々な音のマテリアルを散りばめ、シュールレアリスティックで、絵画的な印象を持つ音楽へと到達していく。このアルバム『Four Days In June』の中では、異色の一曲と言えるかもしれません。
「Road」はジャズとフォーク/カントリーの中間点に位置し、依然としてボーカルの温和な印象が維持されている。ドラムとボーカルがこの曲を先導し、スネアの異なるトーンの叩き方や、ロールの演奏を活かし、牧歌的な感覚に満ちた癒やしの雰囲気あふれるボーカルと合致している。バンジョーとスティール・ギターの組み合わせは、夢想的な雰囲気を呼び覚まし、何かしら、永遠と続く一本道のような幻想的な情景をぼんやりと浮かび上がらせます。音楽そのものが物語を紡ぐような感じや、印象的なシーンをふと想起させます。これらは、このユニットの音楽の主な特徴でしょう。
「43」は『Four Days in June』のハイライトとなる。基本的に、音楽は鳴っている箇所だけではなく、鳴らない箇所もまた同じくらいに重要だと教えてくれます。このデュオとしては珍しくクールさを感じさせる一曲です。アコースティックギター、そしてドラムンベースのリズムを生かしたIDMのアプローチが融合している。という意味では、「フォークトロニカ」というフォーク/エレクトロニカの系譜に属するが、Mumのようなサウンドとは一線を隠している。リズムには鋭さがあるし、音楽性もまた、まったりしすぎていません。様々な音の構成から要所だけを抽出したIDMであり、特にハーモニーに重点が置かれている。楽曲自体はミニマリズムの性質が強いが、ジャズの性質を持つことを考えますと、Ninja TuneのJaga Jaggiztに近い印象があります。これらは少なくとも、相当な音楽的な蓄積や経験がなければ出来ないと思われますが、シャバソン/クルゴヴィッチは、難しいことを当たり前のようにやっていて、敬意を表したいです。作曲的には、転調を繰り返しながら、色彩的な印象を押し出し、それに合わせてボーカルが乗せられる。音量的にエポックメイキングな箇所を強調せず、対象的に、メロディの流れや休符、そして、その後の音の立ち上がりを中心に重厚な音楽性を作り上げています。
「43」
「Boppin' Along」ではフュージョンジャズのアプローチが取り入れられているように感じるものの、ポピュラーとしての性質が弱まることはありません。クランチな印象を持つバス・ドラムのどっしりとしたリズムに対し、カナディアン・フォーク・ミュージックの真価とも呼ぶべきシークエンスが出てくる。アメリカ的ともイギリス的とも言えない、ボーカルを中心とする独特なフォークソングのタイプが感じられます。それらがフィドルや吹奏楽器のような演奏と組み合わされ、ハワイアンミュージックのような安らぎのある開放的なフォークミュージックに繋がっている。ときには、女性ボーカルやピアノといった華やいだ雰囲気を添えながら、後半部にかけて伸びやかな音楽が続いていく。さらに曲のクライマックスでは、ジャズ的な性質を強めながら、ソウルフルな音楽が強まる。上手く説明出来ない部分もあるが、両者は、体感的な音楽を見事な形で展開させていきます。曲が終わった後、爽快感あふれる余韻が残る。
全体的には、やはりアダルト・コンテンポラリーやAORの楽曲が目立っています。これらは80年代のダンスポップやソウルミュージックなどを組み合わせる動向として、音楽シーンを部分的に席巻した印象を受ける。現在は、IDMやヨットロック、あるいはジャズやフォークのような音楽と組み合わされて、また新しいムーブメントになっていきそうな気配。「Dry Corner」は癖のないシンプルなポップソングで、このデュオの友情的な音楽性が強まる瞬間でもある。音楽をじっくりと聴いていると、心が温かくなるような感覚が残るに違いありません。
「Little Wind」は名曲と言っても差し支えないかもしれません。また、ボブ・マーリーのような伝道的な性質を持ったポップソングと言えるかもしれない。アコースティックギターとボーカル、ドラム、ハモンド・オルガンを中心とするフォークソング/ポップソングが展開され、オルガンのゴスペルの雰囲気、そして舞い上がるようなスティールギターが織りなす素晴らしき音楽の世界。彼らは、エレクトリックギターの遊び心のあるアプローチを取り入れながら、安らいだ音楽の境地に導く。刺激的な音楽を求めるリスナーにはちょっと物足りないかもしれませんが、これもまた音楽的な終着点なのでしょう。そこには、やはり、全般的な万物への愛や慈しみの感覚が余すところなく表されているという気がします。自己を乗り越え、崇高なものに近づく。そして、それこそが音楽を作る上で最も大切なことなのだといっておきたいです。
クローズを飾る「Time Of Your Life」は三拍子を中心とするリズムの構成で、フォークソングやポップソングの中間にある。シャバソン・クルゴヴィッチの人生観を反映させた一曲ということになるでしょうか。アルバム全体に通じるスティールギターのほんわかとして舞い上がるような雰囲気を大切にしながら、シャバソンとクルゴヴィッチは琴線に触れるフォーク/ポップソングの集大成を提示します。この曲のボーカルの部分には、肩を組んで歌うようなフレンドシップやハートウォーミングな感覚に満ちている。音楽自体が聞く人の心を和らげ開放させる。じっくり聴いていると、頭がすっきりとし、心が軽くなってくる。これほど理想的な音楽は他には見いだしづらいものがあります。はたして、冒頭の「大人のためのポップアルバム」という呼び方がふさわしいかはわかりませんが、円熟味溢れる聴き応えのある作品となっています。
86/100
「Little Wind」
▪Shabason & Krgovich 『Four Days in June』は本日、Idee Fixe Recordsより発売されました。ストリーミングはこちらから。



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