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HYDは、実験的なサウンドと印象的なビジュアル世界を融合させた、ダイナミックで魅惑的なポップミュージックを生み出している。アーティストのヘイデン・ダナムが率いるこのグループは、アート、音楽、パフォーマンスを大胆に融合させたデビューアルバム『Clearing』で瞬く間に注目を集めました。
ダナムは当初、QTや、ネット上で話題となったエナジードリンク「Hey QT」とのコラボレーションといった、既成概念を打ち破るアートプロジェクトや、ニューヨーク市各地に設置された大規模なパブリックアート作品で知られていました。批評家からも称賛を浴びており、『W Magazine』はダナムを「アート界の新たなイノセント」と評し、『ニューヨーク・タイムズ』は彼らの作品を「吸い込み、飲み干せるアート」と表現した。
HYDとして、ダナムはサウンド、ビジュアル、パフォーマンスを一体となった没入型体験として扱い、その多分野にわたるビジョンをポップシーンにもたらしている。HYDのセカンドアルバム『Hold Onto Me Infinity』は、きらめくポップな楽曲と自己革新の感覚を融合させ、この世界をさらに広げている。HYDのパフォーマンスは、高層ビルの屋上や洞窟、美術館、フェスティバルといった世界中の型破りな空間から、伝統的な会場に至るまで、多岐にわたる場所で披露されてきた。
その活動の中で、彼らはチャーリーXCX、ソフィー、A.G.クック、キャロライン・ポラチェック、セガ・ボデガらとステージを共にしてきた。HYDのビジュアルアートはCompany Galleryが担当しており、クールージュ、バレンシアガ、ディオール、ドーバー・ストリート・マーケット、ロゼッタ・ゲッティ、エックハウス・ラッタ、パペットス・アンド・パペットスといったブランドとのコラボレーションも実現している。
親密さと無限の間を行き来するアルバム『Hold Onto Me Infinity』は、この物理的な世界と、その先にある世界の狭間で踊りながら、時空や物理的な境界、人生の枠を超えていく音楽の力を力強く証明する。アルバムの主要なコラボレーターであるハドソン・モホークがプロデュースを手がけたオープニングトラック「Angel」は、ダナムとベニー・ロングによって書かれた楽曲で、亡き愛する人を守護天使として位置づけ、アルバム全体に響き渡る問いを提示している。
それは、「死者はどこへ行くのか、私たちは彼らを新たな形でどのように体験するのか」という問いである。『Hold Onto Me Infinity』には、ドラムを前面に押し出したサウンド・パレットに反映された身体性があり、その振動は聴こえるだけでなく、リスナーの身体で感じられるように設計されている。マイケル・ベイリー・ゲイツが撮影したアルバム・カバーは、実存的なものと根源的なものとの境界にある曖昧さを映し出している。人工的なエフェクトを一切使わず、ダナムによる制作のガラス彫刻、花火、鏡の反射、そして穴の開いた窓から差し込む夕日を駆使して、この物理的な現実と別世界の両方を内包する「入り口」を画像の中に創り出している。
このアナログなアプローチは、過去7年間にわたるダンハムの断続的な視力喪失から必然的に生まれたものであり、その経験により彼らは人工光に対して極めて敏感になっていた。この状態は今もなお彼らの感覚に深い影響を与え続けている。視力が低下した時には他の(超)感覚的な能力が芽生え、視力が戻った時には、自身の身体や「存在すること」の豊かさを、これまで以上に身体的に実感するようになった。
『Hold Onto Me Infinity』は、ヘイデンによる絶賛されたデビュー作『CLEARING』に続くアルバムである。ハイドの音楽は、その幅広い芸術的実践に裏打ちされ、内面への探求、コミュニティとの対話、そして素材への探求が織りなす広大な生態系を生み出している。ダナムは美術家としての活動においてカンパニー・ギャラリーに所属しており、その作品はMoMA PS1やニュー・ミュージアムなどの美術館で展示されている。
HYD 『Hold Onto Me Infinity』- Cascine
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ニューヨークのポップミュージシャン、HYDのニューアルバムはハイパーポップの次世代を駆け巡る作品である。ダンスポップ、ニューディスコ、そしてテクノやグリッチの手法を織り交ぜ、新鮮なサウンドを追求している。すでに2022年のアルバム『CLEANING』で頭角を現しつつあったHYDは、ナイトクラブのサウンドの影響を織り交ぜ、まったく新しいサウンドを確立しました。マドンナに始まったディスコポップの2026年のスタイルがここに誕生したと言える。
軽快なディスコポップ/シンセポップ「Angel」で始まる。ニューヨークということで、どうしても、LCD Sound Systemを思い浮かべてしまうが、HYDのサウンドは飽くまでダンスポップ寄りである。清涼感と程よい軽さを兼ね備えたダンサンブルなポップビート、そしてスポークワードやシュプレヒサングの影響を取り入れたモダンなボーカルが組み合わされる。ディープ・ハウスをもとにした4つ打ちの打ち込みのドラムがベースシンセと融合し、ドライブ感に満ちたサウンドを作り出す。全体的には、80年代のディスコポップが楽曲のベースに通底しているが、アトモスフェリックなテクノ風のシークエンスなどを設け、音楽性に幅を持たせている。これが最終的にデペッシュ・モードを彷彿とさせるエレクトロ・ポップを醸成する。それらをHYDらしいスタイリッシュなサウンドの風味を付け加えている。完璧なオープナーである。
「Freak」は、軽やかな一曲目とは対象的なサウンドとなっている。重厚感のあるベースシンセで始まり、ピッチシフター、ボコーダーを用いながら、HYDは前衛的なボーカルの表現を探求する。エクスペリメンタルポップの範疇にあるHYDの楽曲であるが、同時に普遍的なポップソングの構成を重視している。ヴァースとサビ/コーラス、ブリッジという洋楽の基本的な構成を踏襲している。曲はどこまでもキャッチーでポップであり、サビやコーラスの部分でアンセミックな箇所を用意している。ミックス/マスターの側面でも創意工夫が凝らされ、フィルターで全体的な音の印象を暈したりしながら、サビやコーラスの部分への繋ぎの部分を作っている。そしてサビやコーラスでは、清涼感に満ちたボーカルで、クリアな印象を押し出していく。また、ボーカルをどのように聴かせるかに重点が置かれ、ユニゾンするスポークンワードなど、ヒップホップ的な要素を織り交ぜている。まるでデザインのようなカラフルなサウンドだ。
「Grounded」を聴けば、ダンス・ポップがまだ進化の余地が残されていることが分かるはず。おそらくベースラインの系譜にあるフューチャーステップのようなダンス・ミュージックを下地に、ハイパーポップの要素を付け加え、特異なダンスポップソングを制作している。背景となるリズムトラックにせよ、また、シンセやサンプラーの個別トラックにせよ、ゲインやスレッショルドを活用した音圧の高いサウンドを積極的に駆使しているが、不思議なほど耳に負担がかからない。音の要素が極限まで絞られ、また、聴かせたい内容を制作者が熟知しているので、リズム、ベース、メインのメロディーという三要素が独立し、互いに補完しあっているのである。もちろん、メインとなるボーカルのメロディーもさりげなく素晴らしく、HYDらしいスタイリッシュな雰囲気、そして全体的な楽曲に共通するエモーションを兼ね備えている。スポークンワードとポップボーカルの対比という、現代的なポップソングのテーマも見受けられる。それは言い換えれば、テクノロジーと人間的な感情のせめぎあいとも捉えられる。現代的なテクノロジーと人間的な感性における絶妙な音の均衡こそ、このアルバムのテーマである。
脆さとまでは行かないかもしれないが、センチメンタルな感覚が、このアルバムには漂っている。心なしかエモーショナル....。それは例えば、Pink Pantharessのようなポップシンガーとも共通するポイントとなるかもしれない。HYDのポップソングは、どこまでも感覚的であり、まるで感情的なゆらめきを、その音楽を通じて体感するようなものである。「Physical Stuff」は、先に挙げた、テクノロジーと人間性というテーマを拡張する。シンセとボーカルがユニゾンを描き、フィルターをかけた打ち込みのドラムがフェードインしてきて、音楽性にリズム性を付与する。そしてベースラインやフューチャーステップを思わせるダンス・ミュージックにボーカルが入る。そしてやはりメロディアスなボーカルとスポークワードやシュプレヒサングのような語りの箇所を対比させ、ハイパーポップとも共鳴するようなサウンドを作り出すのである。この曲は聴いていると、なにかさすがと唸りたくなるような素晴らしい出来となっている。
アルバムの最初の四曲は、ソングライティング、ミックス/マスター、音質いずれもパーフェクトで非の打ち所がない。しかし、『Hold Onto Me Infinity』の本領は、アルバムの曲ごとに徐々に音楽性に凄さが増していき、まるでタイトルを象徴付けるように、ゼロから無限(インフィニティ)へ向かってくかのような点にある。「Watch You Cry」は、テクノ/グリッチを用いたポップソングで、凄すぎる曲である。テクノサウンドのミニマルな要素の中に潜むメロディアスな要素、そしてヒップホップのボーカル(ボーカルと言っておきたい)が絶妙な雰囲気を作り出す。ボーカルのサンプルを組み合わせたイントロから、Tycho,Caribouを彷彿とさせるテクノサウンド、そして、ヒップホップのライムから、メロディアスなボーカルへ移行していき、最終的にはオートチューンなどを用いたハイパーポップソングに移行していく。曲の中で、音楽ジャンルがクルクル移り変わり、まるで定点を持たないかのような無限性が含まれる。また、サビの部分では、あえてリズムを削ぎ落とし、ボーカルの旋律性を際立たせている。素晴らしい音楽はデザインと一緒で、いつもどこを削るか、削ぎ落とすかで決定するのである。しかも、従来テクノポップなどでは、オートチューンは意図的に機械的なボーカルの印象を強調するために使用されることが多かったが、この曲では人間的な感情を強調するために使用されている。従来のオートチューンの使用法を反転させていることがとても画期的なのである。
「Makeover」はセイント・ヴィンセントの最初期の音楽性を彷彿とさせ、マドンナやビョークの次世代の音楽をロック的な解釈を付け加えた趣旨である。この曲の場合は、ディスコポップやニューディスコのサウンドを踏襲したうえで、聴きやすく乗りやすい素晴らしいダンス・ポップに仕上げている。反復するビート、そして同じ言葉やセンテンスを効果的に用いながら、リズミカルで歌いやすい、アンセミックなポップサウンドを確立している。そして、ここでも、80年代以降のポピュラーソングとしては、それほど珍しい内容ではないと思うが、スポークンワードのボーカルを交えて、クールな印象を持つダンスポップソングを作り出している。最近聴いた中ではポップソングとして最高峰に位置する。何よりかっこいいのが美点でしょう。
「Makeover」
「Looking Up I See a Cloud」は内省的な雰囲気を持つポップソングで、アトモスフェリックな印象からアンビエントポップとも称すべき一曲である。また、ソウルやジャズの音楽性を暈したようなサウンドが特徴である。一貫して中音域から高音域までのボーカルを披露してきたHYDであったが、この曲では、ネオソウル風の低音域から中音域の渋いボーカルを披露している。ボーカリストとしての音域の広さは、ソロシンガーとしての才質をはっきりと感じさせる。アルバムの中では、最終盤のベストトラックと並び、最もセンチメンタルな楽曲である。『Hold Onto Me Infinity』は、明確なコンセプト・アルバムではないものの、ある種の音楽的なストーリーが紡がれ、音のながれとともに、徐々に物語性のようななにかが作り上げられていく。
その後、音楽的な物語性が強まり、「Take Care of Me」では、アルバムの冒頭曲「Angel」のような清涼感のあるダンスポップに回帰する。これはまた、2022年のアルバムからHYDが一貫して追求してきた音楽性であると推測される。しかし、その実際の音楽の持つ洗練度や完成度は段違いに高くなっている。より音楽的なコンセプトが強調付けられ、どこのメロディーやボーカルを聴かせたいのか、あるいはどの器楽的なシークエンスを印象づけたいのかに細心の注意が向けられ、隙のないパーフェクトなサウンドが構築される。
トランスやアシッド・ハウスを範疇にあるEDMのサウンドを彼女持ち前のディスコポップやシンセポップのセンスと結びつけ、それらをやはりキャッチーなサウンドに仕上げている。また、激しい箇所と静かな箇所を対比させるという、おなじみのポップやロックの基本的なスタイルを踏襲し、多くのリスナーの心に共鳴するようなサウンドを見事に作り上げている。
続いて、「Light Span」は、さらに実験的なハイパーポップに傾倒し、アートポップに接近する。この曲に見いだせるメタリックな重厚感とシンセのうねるようなドローンが組み合わされ、未曾有のアートポップが生み出された瞬間を捉えられる。また、ボーカルの側面でも、短いセンテンスを組み合わせ、テクノロジーやAIのような現代的な主題を巧みに織り交ぜている。
「Make Believe」は、このアルバムの副次的な主題である、ディスコポップの2020年代バージョンを象徴付ける。マイケル・ジャクソン? マドンナ? そんなことはどうでもよく、現代的なハイパーポップの要素を通過した、問答無用に素晴らしいダンス・ポップを聞くことが出来るはずです。この曲には、人種や国境を超える要素があり、すべてがどこかで一つに繋がっていることを思いこさせてくる。音楽の持つ楽しさ、そしてファンネスを凝縮した素晴らしい楽曲である。この曲にほとばしる弾けるような楽しい感覚は、アルバムのハイライトになるに違いない。対象的に、弦楽器のサンプリングで始まる「Never It Over」は、アルバムの感情的な起伏を象徴付ける。ネオクラシカルを通過した悲哀に満ちたピアノバラードで、最上のポップソング。『Hold Onto Me Infinity』の全体の中でも最も切ない繊細な歌声をHYDは披露している。
自らを、もしくは、世界を輝かせるかのような程よく明るい印象を持つクローズ「Shine It」。やはり重厚感のあるベースシンセを中心とするポップソングだ。 やはり、清涼感のあるボーカルとシンセポップの要素、ディープハウスのようなダンスミュージックの要素が組み合わされ、良質な楽曲に仕上がっている。アルバム全体に、完成度のむらがなく、どの楽曲もクオリティが極めて高い。これが、2020年代後半のポップスの新しい水準となるのでしょうか。それはおそらく、オーディオやストリーミングの音楽ファンにより決定されることになるでしょう。果たして、ダンスミュージックの時代は終わったのか? いや、まだ全然始まってもいないようです。
「Make Me Believe」
95/100
HYDによるニューアルバム『Hold Onto Me Infinity』は本日発売されました。 ストリーミングはこちらから。













