【Jazz Age】Vol. 3  Sonny Rollins  ハード・バップ、ビバップの飽くなき開拓者 カリプソとジャズのクロスオーバー


  モダンジャズの開拓者、ソニー・ロリンズは、当初、マイルス・デイヴィスの人脈から登場したプレイヤーという側面では、先に紹介したビル・エヴァンス、そしてジョン・コルトレーンに近い人物である。

 

  そして、ドラッグ関連での私生活の悪辣っぷりは、この当時のジャズ・プレイヤーの象徴的なエピソードと言えるだろう。もうひとつ現実的な側面では、駆け出しのミュージシャンにはそういったものは高価で彼の給料ではまかないきれなかったということが言える。しかし、必ずしもソニー・ロリンズは生涯にかけて品行方正であったなどとは言えないが、やはり音楽家、演奏家としては傑出していたといわざるをえない。ソニー・ロリンズの最も優れた点を挙げるとするなら、ジャズの文脈でいえば、ハードバップ、そして、ビバップを生涯に渡って探求しつづけたこと、さらにジャズにおけるリズムやビートに核心をもたらしたこと、次いで、彼のルーツであるカリプソをはじめとするラテン音楽をジャズの文脈に引き入れたことである。これはソニー・ロリンズが現代のヒップホップミュージシャンのようにビートの革新性に夢中になっていたことを裏付ける。ロリンズはいっとき、ニューオリンズ・ジャズに傾倒したこともあったが、基本的には、ハード・バップ、そして時々気まぐれに、モード奏法をベースにしたジャズをレコーディングしたのである。そしてまた、ソニー・ロリンズの作品を語る上で最重要なのは、アーカイブやコンピレーションは例外として、彼が作品として冗長なものをほとんど残さなかった。ライブ録音を含めて基本的には、現在のミニアルバムやEPのような小規模の構成を持つ作品がきわめて多いことに気がつく。ここにロリンズの作曲家としての流儀が込められている。簡潔さを重視し、退屈なものはいらないということだ。

 

  そういった他人には譲れないプライドにも似た感覚、わが道を行くというような矜持にも似た思いは、流動的なリズムを持ち、そして絶えず調性や旋法が移り変わるバップ/ハードバップのジャズの形式に、彼の心を惹きつけた主な要因でもあったのだろうか。もちろん、作曲家の音楽と人生が無関係であることはないことを見ると分かる通り、実際的に、そういった冒険心やアバンチュール好きの精神は彼の転変多き人生に色濃く反映されていると見ても違和感がない。


  ロリンズは音楽の英才教育を受け、9歳のとき、ピアノを習い始め、11歳の頃には、アルト・サックスを演奏しはじめ、ハイスクールではテナー・サックスを演奏しはじめた。派手さ、そしてなにより華美な感覚を愛する心は、ソニー・ロリンズのサックス・プレイヤーとしての基礎を形成することになる。すでに19歳になろうというとき、ソニー・ロリンズは最初の録音を行い、自作曲「Audobon」を制作。すでにこの頃にはバド・パウエルと共演を果たしている。若い頃、ロリンズは英雄にあこがれていた。彼の若い頃のメンターはチャーリー・パーカーだった。その後、マイルス・デイヴィスのバンドに参加し、バンドリーダーとして録音を行う。1951年。デイヴィスと出会って一年後のこと。最初の年代では、憧れのチャーリー・パーカーと共演を果たした。ようやく念願がかなったのは、二年後のことである。これもやはりマイルス・デイヴィスとの共演から発生した偶発的な出来事であった。


  ビル・エヴァンスの私生活のスキャンダラスな薬物問題とおなじように、最も流れに乗っていたロリンズの人生に暗雲が差し込んだことがあった。それがすなわち、「音楽家としての生命の危機」である。マイルス・デイヴィスのバンドでジャズプレイヤーとして活躍後、彼はヘロインの依存治療に追われる。実際的には、薬物依存を克服するまで、音楽家としてのキャリアを中断させる。その頃のロリンズにとって、ニューヨークはあまりに巨大で手に負えない都市だったのか。ニューヨークからシカゴに移んだソニー・ロリンズは、ほどなくタイプライター修理工場で勤務する。肉体労働者に混じって、ヘルメットをつけたロリンズの目の端を幻影がかすめる。数年前、彼は音楽家であったが、その頃は何者でもなくなった。ジャズ・プレイヤーとして最も注目を浴びていた数年前のことが、まるで幻や夢のように背後に遠ざかっていく。しかし、そういった実際的な暮らしから出てきたもの、泥臭い感覚や地に足が付いた感覚、何かの完成させるためには近道はありえず、一歩ずつ足取りを進めていく意外の道はひとつも存在しないこと、こういった工場勤務時代のロリンズの経験は間違いなく、その後のジャズプレイヤーとしての大成への布石となったと言える。楽をして何かが手に入ることはない。彼はこの時代、着実に何かを積み重ねること、成功を掴むためには小さな体験を繰り返すことを学んでいたのだろう。1956年、初のリーダーとして録音したアルバム「サキソフォン・コロックス」で最初の成功を掴み、ジャズプレイヤーとしてようやく日の目を見ることになる。ブルーノート、コンテンポラリー、そしてリバーサイドなど名門のレーベルにカタログを残し、そしてカーネギーホールでのコンサートを成功させた。ロリンズの最初の黄金時代である。

 

 

  その後、ロリンズはなぜか表舞台から姿を消した。一般的な理由は「自分の演奏を見つめなおす」という他の人々から見ると、解せないようなものだった。1950年代後半には、まったくライブや録音から遠ざかり、数年間、みずから練習に精励していたという。以後、再び、1960年代に入り、RCAと契約を結び、ジム・ホールなどを招聘し、彼の代表作の一つ『The Bridge』に制作に取り掛かる。同年には、『What’s New』を発表し、量産体制に入った。この頃、ちょうどアヴァンギャルド・ジャズの最初のウェイブが沸き起こったが、新しもの好きのロリンズはもちろん、その流れに無関心ではいられなかった。ドン・チェリーとの共同作業は、『Our Man In Jazz」という目に見える形になり、以降のフリージャズ運動の先駆けとなった。


  以降は、ライブ活動もより旺盛になった。カナダのニューポート・ジャズ・フェスティバルに出演後、日本に来日し、モヒカン・ヘアの斬新さで人気を獲得。当時、ロリンズがこういったモヒカンの髪型にしたのはどうやら明確な理由があるらしく、当時マイノリティであったアフリカ系アメリカ人としての誇りを示し、そしてネイティヴアメリカンの苦悩に無関係ではいられなかったという理由。以降、インパルス!、マイルストーンなど名門ジャズレーベルを渡り歩く中、映画音楽やコラボレーターとしての才覚を遺憾なく発揮するようになる。ローリング・ストーンズの『Tattoo』にも参加した。ミック・ジャガーをして「ロリンズこそ最高のサックス奏者」と言わしめた。彼の全盛期の音楽的な貢献には、ジャズを他のジャンルと融合させ、一つの表現から解放するというものがあった。もちろん、ストーンズの代表的なカタログへの参加により、ロックとジャズを架橋しただけではなく、クラシックとジャズのクロスオーバーにも取り組んだ。1986年には読売交響楽団とコラボし、「テナー・サックスとオーケストラのための協奏曲」でジャズとクラシック音楽の垣根を取り払うことに一役買ったのである。

 

  WW2の以前から大きな世界の政変の流れを見てきたソニー・ロリンズにとって、時代の流れと音楽は常に連動していて、無関係ではありえなかったように思える。もちろん、2024年現在もまた、ソニー・ロリンズにとって、これは現在に繋がっているテーマなのかもしれない。21世紀の同時多発テロは演奏家に大きな衝撃をもたらした。数ブロック先で事件を目撃したというロリンズ。彼はワールドトレードセンタービルの崩壊をどのように見ていたのか。噴煙が上がり、一帯が封鎖され、無数のパトカー、警官、崩落するビルから命からがら逃れる人々。そして、すさまじい噴煙がニューヨークのブロック全体に立ち込める中、ブルックリン橋を足早に渡っていく人々。崩れ落ちたビルの最下層で救助にあたる救急職員。その合間で取材を行うジャーナリスト。少なくとも、アメリカが大きく変化したのは、2001年のこと。当時、ロリンズは、音楽の生命力で人々に勇気をもたらすことを選んだ。予定していたボストンのライブを続行し、2005年には、9.11の追悼的な意味を持つコンサートアルバムを発表した。現在でもロリンズが偉大である理由は、音楽の力によって世界を変えようとしたことなのだ。

 

 

 

■ソニー・ロリンズの代表作 ビバップ、カリプソ曲から映画のサウンドトラックまで

 

 

『Saxopohone Colossus』 Concord Music Group 1957

 


1956年6月22日、ニュージャージー州ハッケンサックのスタジオで、プロデューサーのボブ・ワインストックとエンジニアのルディ・ヴァン・ゲルダーと共にモノで録音された。ロリンズは、このアルバムで、ピアニストのトミー・フラナガン、ベーシストのダグ・ワトキンス、ドラマーのマックス・ローチを含む、カルテットを率いた。ロリンズはレコーディング当時、クリフォード・ブラウン/マックス・ローチ・クインテットのメンバー、レコーディングはバンドメイトのブラウンとリッチー・パウエルがシカゴでのバンド活動に向かう途中で交通事故で亡くなる4日前に行われた(ブラウンとパウエルを乗せた車にロリンズは同乗していなかった)。


母方がヴァージン諸島出身で、若い時代からロリンズはカリプソ「トリニダード・トバゴの音楽で、レゲエの元祖)に親しんできた。本作ではカリブの陽気なリズムや音楽、そしてカーニバル音楽の性質を持つ。「St.Thomas」を中心に5曲というシンプルな構成でありながら、ソニー・ロリンズの陽気なバップをベースにした流動的なフレージングやブレスがきらりと光る。一方、メロウなニューオリンズジャズを踏襲した「You Don't Know What」もジャズバラードとして秀逸。また、マイルス・デイヴィスバンドのモード奏法を踏まえた「Moritat」もスタイリッシュで洗練された響きがあり、モダン・ジャズの流れの基礎を作った必聴ナンバー。

 

 

  

 

 

 

『The Bridge』 Sony Music 1962


ソニー・ロリンズは1959年から活動を停止したが、ウィリアムズバーグ橋で人知れずサックスの練習を重ねていたというエピソードがある。「The Bridege」及びアルバム・タイトルは、その練習場所にちなんでいる。

 

そして、1961年11月、公衆の面前での演奏を再開した。ほどなく、RCAビクターのプロデューサー、ジョージ・アヴァキャンがロリンズとの契約を取り付けた。「Without A Song」は、ロリンズのコンサートでしばしば演奏された曲で、アメリカ同時多発テロ事件から4日後のボストン公演でも披露され、同公演を収録したライブ・アルバムのタイトルにもなった。「ゴッド・ブレス・ザ・チャイルド」は、ビリー・ホリデイが1941年に発表した曲のカバー。


本作では、エラ・フィッツジェラルドの伴奏ギタリストとして知られていたジム・ホールが重要な役割を果たしている。ホールの1999年のインタビューによれば、ロリンズはピアノの和音よりもギターの和音の方が隙間があって触発されやすいと考え、サックス・ギター・ベース・ドラムのカルテットで制作することを決めたという。 


『The Brigde』はチャーリー・パーカーの後の世代のビバップの作風が色濃いが、この作品ではジャズそのものの持つメロウな響きに焦点が置かれている。いわば、ロリンズのジャズ作品の中では落ち着いた雰囲気があり、ゆったり聴くことができる。

 

アルバムの冒頭では、「Without A Song」に象徴されるように、ビバップの楽しげな響きが特徴となっているが、アルバムの中盤では、ジャズバラードに近いR&Bに近い響きが押し出されている。タイトル曲のハード・バップに属する旋法や調性の運び、そして演奏の持つ強烈な個性も捨てがたいものがあるが、他方、ギターとの室内楽のような上品な響きを持つ「Where Are You」のようなナンバーにこそ、ロリンズのサックス奏者の醍醐味が凝縮されている。「God Bless The Child」のコントラバスの精細感のある演奏、モンゴメリーの系譜にあるギター、それらをリードするロリンズのサックスの演奏もジャズの潤沢な時間をもたらすアルバムのラストを飾るスイング・ジャズ「You Do Something To Me」はジャズライブなどで映えるような曲で、楽しげな雰囲気がある。一つも蛇足がなく、完結な構成でまとめ上げられている。

 

時代感を失わせるようなジャズの陶酔感のある響きを体験することができる。1950年代、ウィリアムズバーグ橋でサックスの演奏をしていたジャズの巨人の姿が目に浮かんできそうである。

 

 



『What's New?』 BMG France   1962 

 

ハードパップなどの新しいジャズの形式を追求する中で、彼の重要な音楽的なルーツであるカリプソやラテン・ミュージックに回帰したのが本作である。ロリンズが1970年代に展開させていくファンク・ソウルやマーヴィンやクインシーに代表されるアーバン・コンテンポラリーとジャズの「クロスオーバーの原点」を今作には発見できる。アルバムの冒頭を飾る「If Ever I Would Leave You」ではカリプソのリズムとビバップのスケールやリズムを結びつけようという試みが見受けられる。さらに、「Don't Stop the Carnival」ではカリプソのカーニバルの音楽とマイルス・デイヴィスのモード奏法を融合させ、エスニックジャズを予見している。

 

さらに本作の中盤でも、南米のラテン音楽の陽気で開放的な音楽性が色濃く反映されている。「Jungoso」、「Bluesongo」では、彼のアフリカ系アメリカ人のルーツを音楽という形で押し出し、それらを楽しげな演奏によって彩っている。さらに1948年公開の映画の主題歌「The Night Has a Thousand Eyes」ではボサノヴァをジャズと融合させ、クロスオーバーの飽くなき可能性を探求している。もちろん、陽気なサックスフォンの響きを心ゆくまで堪能できるはず。


発売当時は、アメリカ盤が「Don't Stop the Carnival」を除く5曲入り、イギリス盤や日本盤が「If Ever I Would Leave You」を除く5曲入りだったが、現行の日本盤CDは6曲入りの完全版。また、日本では『ドント・ストップ・ザ・カーニバル』という邦題がついていた時期もあった。 「Don't Stop the Carnival」は、『Saxpohone Colossus』の一曲目に収録されている「St. Thomas」と並ぶ、ロリンズの代表的なカリプソ曲。ライブでもしばしば演奏された。




『Alfie』 (Original Music From The Score) GRP/UMG   1966

 

 

すでにミュージカルという側面では、映画音楽とジャズはその成り立ちからして密接に結びついているが、あらためてジャズが映画音楽として有効であることを示したのが「Alfie」のサウンドトラックである。特に、「He's Younger Than You Are」は映画音楽として秀逸である。


今作『Original Music From The Score “Alfie”』は、1966年に公開されたイギリス映画「アルフィー」のために作曲されたソニー・ロリンズのオリジナル盤であると同時にサウンドトラックである。編曲と指揮はオリバー・ネルソンが担当し、バックメンバーにはケニー・バレル(ギター)、J.J.ジョンソン、ジミー・クリーブランド(トロンボーン)、フランキー・ダンロップ(ドラム)、ロジャー・ケラウェイ(ピアノ)らが参加。このアルバムはR&Bビルボード・チャートで17位を記録し、評論家のロヴィ・スタッフはオールミュージックで5つ星のうち星4.2の評価を与えている。映画としてはあまり評価の高くない作品だが、ロリンズの音楽が映像に最適であることを象徴付けるサウンドトラック。つまり、ロリンズのジャズはBGMとしても楽しめる。

 

 

 

 『Old Flames』 Fantasy Inc.


70年代以降は、ファンク・ソウルやアーバン・コンテンポラリー、そして当世のポップスなど様々な音楽とジャズとの融合を試み、少しだけライトでポップな音楽家になったかと思えたロリンズ。

 

突如、1990年代のアルバムで再びジャズのスタンダードな響きを刻印したアルバムを発表する、それが『Old Flames』である。 ロリンズがクリフトン・アンダーソン、トミー・フラナガン、ボブ・クランショウ、ジャック・デジョネットと共演し、ジョン・ファディス、バイロン・ストリップリングス、アレックス・ブロフスキー、ボブ・スチュワートがアレンジした2曲を加えた。

 

依然として、コンパクトな構成のアルバムをリリースするというロリンズの流儀に変更はない、シンプルな7曲が収録されている。そして、ビバップ、ハード・バップを徹底的に追求したサクスフォン奏者の集大成のような意味を持つアルバム。長い歳月を経て、チャールズ・ロイドのように渋さのある演奏法をロリンズは選び、円熟味のあるモダン・ジャズを完成させている。それに加えて、ロリンズは20世紀のミュージカルのような音楽性をジャズに付加している。特に「I See Your Face Before Me」は、静謐な味わいを持った素晴らしいナンバーである。

 



【Interview】 Peel Dream Magazine   ~ジョセフ・スティーヴンスが新作アルバムを解説  「ミディアム・ファイ+ 」からの卒業~

Peel Dream Magazine

 

 

LAを拠点に活動するPeel Dream Magazineは、米国のポップミュージックに新たな意義をもたらす。グループは、Topshelf Recordsと契約を結び、ニューアルバムの制作に着手した。現在、PDMは西海岸を拠点に活動をしているが、シンガーソングライターでグループの支柱的な存在であるジョセフ・スティーヴンスさんは、ニューヨークのセントラルパークにほど近い地域で育ったという。

 

ニューアルバム『Rose Main Reading Room』では、前作とは対象的に「ニューヨーク的な作風になった」とスティーヴンスは説明する。本作にはNYの都市の洗練性や歴史的な文化性が反映されているほか、ウォーホールのポップアートのように「音楽自体をどのように見せるべきか?」というイデアが従来のスタイルとは違うニュアンスをもたらしたことは疑いがない。

 

『Rose Main Reading Room』は発売後、世界の熱心な音楽ファンの間で少なからず注目を集めている。事実、米国のオルタナティヴ・ポップの潮流を変えてもおかしくない画期的なアルバムだ。

 

今回のQ&Aのインタビューでは、ジョセフ・スティーヴンスさんに最新アルバムを解明してもらうことが出来ました。その中では、”「ミディアム・ファイ+ 」からの卒業”というテーマが浮かび上がってきた。また、話の中では従来の「ポスト世代の音楽からの脱却」という考えも垣間見えるような気がする。日本語、英語の両方のエピソードを下記よりお読みいただくことが出来ます。

 

 

ーー9月4日に4枚目のフルアルバム『Rose Main Reading Room』が発売されました。前作から2年ぶりのアルバムですが、先行シングルを聴いたかぎりでは、見違えるように良くなっている感じがします。曲作りや制作過程で何か大きな変化はありましたか?



Peel Dream Magazine(ジョセフ・スティーヴンス):それについてはイエスでもありノーでもあるかな。レコードを出すたびに、曲作りのアプローチを少しずつ見直しているような気がするけど、今回の曲では、これまでの曲と劇的に違うアプローチは取らなかった。

 

私はたいてい自宅で1人で作曲して、実際のレコーディングの出発点となるデモを作り上げることが多いんだ。『Pad』では主にオルガンで作曲し、今回のアルバムでは主にギターで作曲した。新譜のハーモニー感覚は、ミッドセンチュリーのバロック・ポップ/ボサノヴァ的な感触が強かった『Pad』よりもずっとストレートなんだ。

 

今までのアルバムでは、すべて自宅で作業をやっていたんだけど、今作ではLA近郊のスタジオをいくつか回って特定の楽器を録音したり、ドラムや雑多なものをバレー(LAの一部)にあるドラマーのイアンの実家のガレージで生録音したりした。また、レコーディング中にオリヴィアとリアルタイムでボーカル・パートをたくさん作ったので、そうでなければ生まれなかったような自然発生的な展開もあった。


このアルバムは間違いなく、これまでで最も共同作業が多かった。それと同時に、ピール・ドリーム・マガジンのアルバムの中で最もライブ・レコーディングの音が多くなっている。テーマの多くは、これまでよりも個人的で直接的なものだった。すべてを難解なものにしたくなかった。シンプルな思い出や、ニューヨークを取り巻く温かい感情について表現したいと思ってたんだ。




American Museum of Natural History

ーーこのアルバムの主なテーマはニューヨークの歴史文化、より厳密に言えば、''アメリカ自然史博物館''のようです。 「Central Park West」のミュージックビデオもジョン・レノンが登場したり、古いセントラルパークの映像がとても印象的ですよね。この歴史的な興味やインスピレーションはどこからやって来たのでしょう? 音楽やビデオで表現したかったことは何ですか?


Peel Dream Magazine(ジョセフ・スティーヴンス):  実は、セントラル・パークには赤ん坊の頃から通っていたから、私にとって本当に特別な意味が込められているんだ。あの場所はニューヨークの不思議な渦に包まれているけど、同時に、私自身の人生全般にもそれは当てはまると思う。私は、かねてからニューヨークという都市が人類史上の他の大都市と肩を並べるような「古代性」を携えているのがずっと好きだったんだ。

 

現在、この施設は無料で一般に公開されていて、人々の生活を豊かにし、歴史や芸術の断片を伝えるのに役立っている。これらの施設をぼんやり眺めていると、そこには驚きがあって、民主的であり、そして、時には楽観的な気持ちになることがある。現代社会においては、芸術や文化はとても安っぽく、危ういものに思えることがあるんだけど、世界の偉大な文化の中心地を訪れることができれば、時代を超えて信頼できる形で芸術や文化に触れることができるはずさ。

 

私はいつも、驚きと洗練された楽しさに満ち溢れた人生を送りたいと思っているんだけど、ニューヨークはそのための「素晴らしい手段」でもある。ニューヨークやアメリカ自然史博物館を題材にした曲がいくつかあるんだけど、リスナーをニューヨークの小さなツアーに連れて行きたかった。『セントラル・パーク・ウェスト』は、私がニューヨークの素晴らしい文化施設のいくつかを散策している様子を一人称で描いたものです。ミュージック・ビデオでは、NYのストリートを縦横無尽に行き交う、さまざまな種類の人々という人間の大海原を伝えたいと思った。それから、ドライで楽しい方法で、この街の風変わりさと試金石を紹介したかったんだ。


 

「Central Park West」 MV



ーー今回のレコーディングでは、オリヴィアのヴォーカルが加わったことで、楽曲がより華やかな雰囲気になったように思いました。ニューアルバムに関して、彼女の最大の貢献を挙げるとしたら何でしょう??



Peel Dream Magazine(ジョセフ・スティーヴンス) :  男性ヴォーカルと女性ヴォーカルの二重性は、シューゲイザーとイングリッシュ・トゥイーに根ざしたサウンドの中心的な要素だと思う。オリヴィアが参加してくれたおかげで、『Oblast』のような瑞々しいヴォーカル・バッキング・パートを作ることができたし、私のヴォーカル・レンジがメロディに合わない曲でも、彼女がリード・ヴォーカルを取るか、デュエットのような形で歌うことができた。彼女の最大の貢献は、その音楽性と多才さにあるだろうね。


 
ーー Peel Dream Magazineがデビューした当初、あなたはYo La Tengo(ヨ・ラ・テンゴ)のようなローファイ・スタイルのロックをやっていましたよね。2018年頃からバンドのスタイルが少しずつ変わっていきましたが、これは当時のあなたの音楽的な好みを反映したものだと考えてよろしいですか?



Peel Dream Magazine (ジョセフ・スティーヴンス):うん。そうかもしれないね。私にはまったく違う種類の音楽を作りたくなる時期があるし、自分の感覚に従って好きなものを作ることがとても重要なんだ。たとえば、最初のレコードを作ったときは、ヴェルヴェッツ(ヴェルヴェット・アンダーグラウンド)、ニック・ドレイク、ステレオラボ、ベル・アンド・セバスチャン、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインに強い影響を受けた。

 

私が過去に作った音楽は意図的にローファイにしたわけではなく、私がホームレコーディストであるという理由によるもので、言ってみれば「ミディアムファイ」の感じの仕上がりになっていると思う。昔は自分が何をやっているのか無自覚だったんだけど、それ以来、制作についてかなり多くのことを学んだから、もはや「ミディアム・ファイ+α 」を卒業したと言えるだろうね。


 

ーー他の文化やメディアからの影響についてはどうですか? ニューエイジ思想やネイティブアメリカンの伝統主義に興味があるそうですね?



Peel Dream Magazine(ジョセフ・スティーヴンス): ニューエイジやネイティブ・アメリカンについてのPDMの曲もあるから、そう思われるのはわかる。それでも、時々、私は「ヒッピーの時代精神」に少し乗っかってみたくなる時がある。そして、私に直接インスピレーションを与えてくれる文化や媒体について思いを馳せることがあるんだ。

 

例えば、あらゆる種類の芸術形態が同じようなものかもしれない。なぜなら、(アートは)私たちの音楽と同じように、実験的なテーマを無防備な人々に見せることができるポップなメディアなのだから......。そうやってアートを通して楽しい会話ができるというメリットもあると思うし。それから、私はよく歴史と政治にインスパイアされることがある(奇妙なことに......)。現在に新しい文脈を授けてくれたり、私の脳裏にあったある種の定説に挑戦してくれたりする過去の物語に刺激を受けているよ。 

 


ーーこのアルバムの制作過程で最も重要だった点は? また、3rdアルバムとの決定的な違いは何だと思いますか?



Peel Dream Magazine(ジョセフ・スティーヴンス): 制作プロセスで最も重要だったのは、できるだけアコースティックの演奏に頼り、MIDIやバーチャルなものが必要ないときは、それを使用しないようにしたことだったと思う。


だから、ドラム、ピアノ、マレット楽器、木管楽器はほとんど生演奏で、もちろんギターも生演奏なんだ。クラシック・ギターも、ボッサ的なパートではなく、フォーキーなインディー・ロック的なものを選んだ。


アルバムはLAにある2つのスタジオとガレージで録音したんだ。そのすべてが、僕をベッドルームから連れ出し、ヴァーチャル・インストゥルメントの習慣から遠ざけ、自分の頭脳からも遠ざけてくれた。これは、自宅で大量のバーチャル・インストゥルメントを使って録音した『Pad』とは決定的に違う点でもある。オリヴィアのボーカルもまた、『Pad』から大きく制作をシフトチェンジさせてくれたよ。



ーーさて、バンドメンバーは現在、LAにいますか? ピール・ドリーム・マガジンの音楽にロサンゼルス的なものを探すとしたら、それは何でしょう?



Peel Dream Magazine(ジョセフ・スティーヴンス): そうだね、バンドは今、間違いなくLAを拠点にしているよ。正直なところ、僕の音楽にあからさまにロサンゼルスっぽいものがあるかどうかはわからない。たぶんね!!

 

私は音楽を作るときにそういうことはあまり考えないし、世界中のさまざまな場所、さまざまな時代のさまざまな音楽シーンに愛着を感じている。

 

『Pad』は、文字通りフリンストーンズのようなミッド・センチュリーのヤシの木のようなエネルギーに満ちているから、おそらく最もLAにインスパイアされたレコードだったと思う。それでも、あのレコードを作った時、ロンドンで全部の音楽を作っていたショーン・オヘイゲンにインスパイアされたから不思議だった。『Rose Main Reading Room』は、自分にとってはロサンゼルスっぽくないかなあ。どちらかというと、かなりニューヨークっぽいかもしれない!! 

 

 

■ Peel Dream Magazine 『Rose Main Reading Room』  Launched on September 4 via Topshelf


Tracklist:

Dawn

Central Park West

Oblast

Wish You Well

Wood Paneling, Pt. 3

R.I.P. (Running In Place)

I Wasn't Made For War

Gems and Minerals

Machine Repeating

Recital

Migratory Patterns

Four Leaf Clover

Lie In The Gutter

Ocean Life

Counting Sheep





■Episode In English

 

LA-based Peel Dream Magazine brings a new concept to the idea of pop music in the United States. The group is newly signed to Topshelf Records and has begun work on a new album. PDM is currently based on the West Coast, but Joseph Stevens, songwriter and a pillar of the group, grew up in the area near Central Park in New York City.


The songwriter recalls that the previous album, “Pad,” had a Los Angeles feel, but the new album, “Rose Main Reading Room,” has a New York style. Like Andy Warhol's pop art, the theme of “how to present the music itself” has definitely brought a different nuance to this album. ''Rose Main Reading Room” has attracted the attention of avid music fans around the world, and is, in fact, a landmark album that will change the tide of alternative pop in the United States.


The songwriter recalls that their last album, “Pad,” had a Los Angeles feel to it, but with their new album, “Rose Main Reading Room,” they have tackled a New York style album. There is no doubt that the theme of “how the music itself is presented,” like Andy Warhol's pop art, brings a different nuance to this work. Rose Main Reading Room has garnered attention from avid music fans around the world, and in fact, it is a groundbreaking album that will change the tide of alternative pop in the United States.
 

In this Q&A interview, we were able to ask Joseph Stevens to elucidate his latest album. In the process, the idea of “graduating from medium-fi + alpha” emerged. Furthermore, I felt that I could catch a glimpse of the theme of “breaking away from the music of the post generation” in the conversation. You can read the episode in both Japanese and English below.



--”Rose Main Reading Room”, fourth full-length album, was released on September 4. It has been two years since your last album, but from what I have heard of the preceding singles, I feel that the album has improved as if it were different. Were there any major changes in the songwriting or production process?



Peel Dream Magazine(Joseph Stevens): Yes and no. I feel like I am always re-working my songwriting approach a bit with every record, but I didn’t take a dramatically different approach with these songs than anything I’ve done in the past. I write alone, usually at home, and build out demos that serve as starting points for the actual recordings. 


On ''Pad'' I wrote primarily on organ, and on this record I primarily wrote on guitar. The harmonic sensibility of the new record is much more straight-forward than it was on Pad, which had more of a mid-century baroque pop / bossa nova feel. On most of my previous records, I did every single thing at home, but on this one I went into a few studios around LA to record specific instruments, and we also recorded drums and miscellaneous things live at our drummer Ian’s parents’ garage in the Valley (a part of LA). 


I also worked on a lot of vocal parts in real time with Olivia when we were recording, which led to some spontaneous developments that wouldn’t have occurred otherwise. This record is definitely the most collaborative record to date, and has the most live-recorded sounds of any Peel Dream Magazine record yet. A lot of the subject matter is more personal and direct than it has been in the past. I didn’t want everything to be esoteric, I wanted to talk about some simple memories, and some warm feelings I have surrounding New York City.


--The main theme of the album seems to be the history and culture of New York City, especially the ''American Museum of Natural History.'' The music video for ''Central Park West'' also features John Lennon and impressive images of old Central Park. Where did this historical interest and inspiration come from? What did you want to express in your music and video?



Peel Dream Magazine:I’ve been going to Central Park since I was a baby, so it has a really special significance to me. It’s wrapped up in the wondrous whirlwind of New York City but it’s also wrapped up in my own life.


 I have always liked the way New York City carries an “ancient-ness” that puts it on par with other great cities throughout human history. There’s a wonderment there, and a democratizing, optimistic feeling when you see all of these institutions that are available to the public for free, helping to enrich peoples’ lives and pass along pieces of history and art. I think art and culture sometimes seem so cheap and perilous in the modern age, but when you’re able to visit these great cultural capitals of the world, you’re able to interact with art and culture in a way that feels timeless and trustworthy.


I want to lead a life that is full of wonder and sophisticated fun, and New York is a great vehicle for that sort of thing. There’s a few songs that reference New York or the American Museum of Natural History, and I wanted to take listeners through little tours of the city with them. 


Central Park West is just a first person account of me wandering through a few of the city’s great cultural institutions. With the music video, I wanted to convey this endless ocean of humanity that traverses the streets of NY - all different kinds of people - and to showcase the quirks and touchstones of the city in a dry, fun way. 



ーーThe addition of Olivia's vocals this time around seems to have given the songs a more glamorous feel. If you had to name her greatest contribution regarding the new album, what would it be?



Peel Dream Magazine: Well, I think that Peel Dream Magazine is actually best when there are more voices than just mine - and I think the male-female vocal duality is really central to the overarching sound, which is rooted in shoegaze and english twee, where male-female vocals are always a cornerstone. 


Having Olivia on the record allowed us to create these lush vocal backing parts such as on ''Oblast'', and it allowed us to include songs where my vocal range wasn’t really suited to the melody, because she could either take the lead vocal or do a duet kind of thing. Her greatest contribution is that musicality and versatility.


--When Peel Dream Magazine first debuted, you were doing lo-fi style rock like ”Yo La Tengo”. the band's style has changed a bit since around 2018, is it safe to assume that this is a reflection of your musical taste at that time?


Peel Dream Magazine:  Yea definitely. I have phases where I’m compelled to make completely different kinds of music, and it’s important to me that I just follow my nose and make what I want. When I made the first record, I was very influenced by the Velvets, Nick Drake, Stereolab, Belle and Sebastian, My Bloody Valentine, and to a lesser extent yea, Yo La Tengo. 


I would say the music I’ve made in the past hasn’t really been lo-fi by design - it’s more just that I’m a home recordist so they usually turn out kind of “medium-fi”. In the past I really had no idea what I was doing, but I’ve learned a lot about production since then, and I would say I’ve graduated to “medium- fi plus”



--What about influences from other cultures and mediums? I understand you are interested in New Age thought and Native American traditionalism?


Peel Dream Magazine:   I can see why you might think that here and there about New Age and Native American stuff from some PDM songs - but other than some historical interest and curiosity, I wouldn’t really say that’s true. Sometimes I like to play off the “hippy zeitgeist” a bit, which kind of involves those things. 


I’m trying to think of cultures and mediums that do directly inspire me, though. All kinds of art, for sure. Really good film is always inspiring because, like my music, it’s a pop medium that can be used to play out experimental themes to unsuspecting people. 


And you can have a fun conversation through art in that way. I’m really inspired by history and politics (weirdly), and I’m always inspired by stories from the past that provide new context to the present, or challenge some kind of set idea that was in my brain. 



--What was the most important aspect of the production process for this album? And what would you say are the crucial differences from your third album?


Peel Dream Magazine:  I would say the biggest aspect of the production process was trying to rely on live performances as much as possible and step away from MIDI/virtual stuff when I didn't need it. So mostly live drums, piano, mallet instruments, woodwinds, and of course live guitars. Also the choice of classical guitar - not for bossa-ish parts but more for folky indie rock kind of stuff. 


And going to a few outside places to record - two studios in LA and this garage we recorded in. All of that took me out of my bedroom, and out of my virtual instrument habits, and out of my own head. That’s all crucially different from ''Pad'', which was done completely at home and with tons of virtual instruments. Olivia’s voice also presented a big production shift away from ''Pad''.



--Are the band members in LA right now?  If you were to look for something Los Angeles-like in the music of Peel Dream Magazine, what would that be?



Peel Dream Magazine: Yea the band is definitely LA-based right now. I’m not sure if there is anything that is overtly Los Angeles-like about my music, to be honest. Maybe!!


I don’t think about that sort of thing when I make music, and I feel attached to different music scenes in different places all over the world, and from different time periods. 


''Pad'' is probably the most LA-inspired record because it literally has Flinstones-y mid-century palm tree energy - but it’s funny because I was very inspired by Sean O’Hagen when I made that record, who was making all of his music in London. ''Rose Main Reading Room'' isn’t super LA-ish to me. If anything, it's pretty New York-like!!

 

 

(INTERVIEWED:  MUSIC TRIBUNE  PRESS   2024. September 6th)

 

柴田聡子
柴田聡子

柴田聡子、10月23日にリリースされるニューアルバム「My Favorite Things」。アーティスト写真、ジャケット写真を公開!(写真・守本勝英/アートディレクション、デザイン・坂脇慶)

 

今年2月に待望の新作アルバム『Your Favorite Things』をリリースした日本のソングライター、柴田聡子。LPバージョンのリリースに続いて、最新作の新ヴァージョンの発売が決定した。アルバムには、オリジナル曲の再編集(My Favorite Ver.)が収録されている。共同プロデュースは最新アルバムの録音、プロデュースでも参加している岡田拓郎さんが手掛けています。タイトルは「My Favorite Things」。リリースはAWDR/LR2、発売日は10月23日に予定されています。


このアルバムのアートワークが、新しいアーティスト写真と合わせて本日公開された。下記よりチェックしてみてください。



◾️柴田聡子 最新アルバムの新ヴァージョン「MY FAVORITE THINGS」を10月23日にリリース 11月には東京/大阪でライブが開催


◾️柴田聡子「REEBOK / REEBOK (TOFUBEATS REMIX)」が本日リリース! 小鉄昇一郎による「REEBOK」のMUSIC VIDEOも公開



柴田聡子「My Favorite Things」- New Album



DDCB-12123 | 2024.10.23 Release | 3,000 Yen+Tax
Released by AWDR/LR2


[ https://ssm.lnk.to/MyFavoriteThings ] PRE-ORDER

01. Movie Light (My Favorite Things Ver.)
02. Synergy (My Favorite Things Ver.)
03. 目の下 / All My Feelings are My Own (My Favorite Things Ver.)
04. うつむき / Look Down (My Favorite Things Ver.)
05. 白い椅子 / Sitting (My Favorite Things Ver.)
06. Kizaki Lake (My Favorite Things Ver.)
07. Side Step (My Favorite Things Ver.)
08. Reebok (My Favorite Things Ver.)
09. 素直 / Selfish (My Favorite Things Ver.)
10. Your Favorite Things (My Favorite Things Ver.)



◾️柴田 聡子 SATOKO SHIBATA

 

シンガー・ソングライター/詩人。北海道札幌市出身。武蔵野美術大学卒業、東京藝術大学大学院修了。
2010年、大学時代の恩師の一言をきっかけに活動を始める。
2012年、三沢洋紀プロデュース多重録音による1stアルバム『しばたさとこ島』でアルバムデビュー。以来、演劇の祭典、フェスティバル/トーキョー13では1時間に及ぶ独白のような作品『たのもしいむすめ』を発表するなど、歌うことを中心に活動の幅を広げ、2022年、6枚目のオリジナルアルバム『ぼちぼち銀河』をリリース。
2016年には第一詩集『さばーく』を上梓。同年、第5回エルスール財団新人賞<現代詩部門>を受賞。詩やエッセイ、絵本の物語などの寄稿も多数。2023年、足掛け7年にわたる文芸誌『文學界』での連載をまとめたエッセイ集『きれぎれのダイアリー』を上梓。雑誌『ユリイカ』での特集も決定するなど、詩人としても注目を集めている。
自身の作品発表以外にも、楽曲提供、映画やドラマへの出演、ミュージックビデオの撮影・編集を含めた完全単独制作など、その表現は形態を選ばない。
2024年2月28日、最新アルバム『Your Favorite Things』をリリースした。


◾️柴田聡子ニューアルバム「My Favorite Things」(一部店舗にて)予約特典施策決定。


2024年10月23日(水)に発売が決定した柴田聡子「My Favorite Things」を2024年9月8日(日)までに対象店でご予約お客様に「柴田聡子 Tour 2024 “Your Favorite Things” 追加公演 2024.05.31 [DVD]」を差し上げます。

早期予約購入者特典: 柴田聡子 Tour 2024 “Your Favorite Things” 追加公演 2024.05.31 [DVD] *SPACE SHOWER TVで放送した内容に2曲追加したスペシャルDVD。

対象期間:  2024年8月5日(月) ~ 2024年9月8日(日)各店舗閉店時まで
対象店舗: TOWER RECORDS/HMV/diskunion/楽天BOOKS/COCONUTS DISK/FLAKE RECORDS/Hawaii Record  *詳しくは各店・ECショップにお問い合わせください。



◾️「柴田聡子のひとりぼっち’24 〜My Favorite Things〜」


【大阪公演】2024.11.13 [Wed] ABCホール | Open 18:30 / Start 19:00
【東京公演】2024.11.24 [Sun] ヒューリックホール | Open 16:00 / Start 17:00
Ticket | Adv. 5,000 Yen

 

Isik Kural

グラスゴーの音響作家、イシク・クラルの音楽は、未来の記憶の場所から届く。彼のつつましく親密な歌は、つかの間の瞬間をコラージュし、文学的な引用や人生のサイレント映画からのちらつきで彩られ、完璧に詩的で不完全な世界の印象主義的スナップショットを作り出す。イシクの音楽は、日常生活の素朴な驚きが顔を覗かせ、想像力が常に発見のために熟しているような、優しく限界のある状態にチューニングを合わせる。


トルコで生まれたイシクは、10代の頃からナイロン弦のギターで音楽を作り始め、徐々にフィールド・レコーディングやシンセサイザーを加えていった。イスタンブールの自宅からマイアミに移り、音楽エンジニアリングを学んだ後、ニューヨークで過ごし、最終的にはスコットランドに上陸、グラスゴー大学でサウンドデザインとオーディオビジュアル実践の修士号を取得した。


移動中、イシクの活動は、伝統的なソングライティングとより実験的なアプローチを融合させることで発展していった。時にはギターでメロディーを選び、時にはアンビエントのライブ演奏からメロディーが生まれる。詩は文学のパルプを加工したものから生まれ、歌はループや周囲の世界の録音から雰囲気を紡ぎ出した。


イシクの音楽は、イタリアのレーベル、Almost Halloween Recordsからリリースされた、声、シンセサイザー、ギター、ピアノ、グロッケンシュピールから作られたアルバム、2019年の『As Flurries』で流通し始めた。2022年、イシクはRVNG Intl.から初の作品『in february』を発表した。この作品は、偶然のループ、ミュージシャンのステファニー・ロクサーヌ・ウォードとのヴォーカル・コラボレーション、pka spefy、トルコの詩人グルテン・アキンの作品やアン・カーソンによるソフォクレスの翻訳など、さまざまなテキストを引用して作られた魅惑的なレコードであった。


新譜『Moon in Gemini』では、『in february』や『Peaches』で聴かれた想像力豊かなインストゥルメンタル・テクスチャーをベースに、よりヴォーカルを前面に押し出したサウンドを披露している。民謡の形式を彷徨いながら、イシクは自然のイメージと人生に対する素朴な考察に溢れた愉快で風変わりな物語を語り、多くのトラックで再びスペフィと共演することになった。気まぐれなアンビエント表現が2人のソングライティングに織り込まれ、これらの音のスクラップブックは、限りない遊び心の中でゆがんだり揺れたりする。


フルート奏者のテンジン・スティーヴン、ハープ奏者のカースティン・マッカーリー、クラリネット奏者のジュリア・タンボリーノとのコラボレーションにより、静寂なピアノとフィールド・レコーディングがさらに豊かさを増している。『双子座の月』の14曲からなる組曲には、優しいパスティーシュがまとまり、イシク・クラルは聴き手を可能な限り深い白昼夢へといざなう。

 


『Moon In Gemini』/RVNG



トルコ出身で、現在グラスゴーを拠点に活動するイシク・クラルのアルバムは、シンセ、アコースティックギター、フルートの演奏などを駆使し、オーガニックでナチュラルな電子音楽の世界を提供する。クラルの音楽には、包み込むような温かさと広がりがあり、そしてグラスゴーの牧歌的な風景を「サウンドスケープ」として呼び起こす。このアルバムにはストーリー性が含まれ、牧歌的な風景で始まったかと思えたアルバムは、収録曲ごとに異なるサウンドスケープを描き、やがて製作者が志向する夜の月の光景で終わる。特に、多彩なフィールドレコーディングが散りばめられ、それがアコースティックギターや電子音のマテリアル、そして制作者自身のふんわりとした穏やかなボーカルと結びつき、現代のいかなる音楽とも似て非なるスペシャリティーを構築していく。クラルのボーカルはどちらかと言えば、少し癖があるため、好き嫌いが二分されるかもしれないが、彼のボーカルは電子音楽やアコースティックギター、木管楽器(フルート)を中心に構成される音楽的な感性と驚くほど見事に溶け合い、4つ目の楽器の音響的な役割を担っている。


イシク・クラルの構築する電子音楽は、IDMに属する。そして、知的な創造性を掻き立てるものでありながら、深い情感を呼び覚ますものでもある。何より、イシク・クラルの導き出す電子音楽は、水のように柔らかく、秋風のように爽やかだ。さらに何より重要なのは、彼の音楽の中には、グラスゴーの緑豊かな風景や教会のような光景、そして同じように、ケルト民謡の原初的な魅力が含まれるということである。「1- Body Of Water」では、アコースティックギターの演奏をもとに、電子音楽のキラキラとしたマテリアルを配して、そして木管楽器の演奏を付け加える。そして、パンフルートのような音色をベースにしたシンセリードを古めかしいオルガンに見立て童話的な音楽世界を築き上げていく。スコットランドの美しい風景や和やかな光景をかなり見事に電子音楽という形で縁取ってみせている。喧騒から解き放たれ、そして「内的な静けさ」を思い出すための音楽であり、それはまた瞑想的な感覚に充ちている。

 

「2- Prelude」では、ケルト民謡で使用されるようなアンティークな音色を持つアコースティックギターにシンセのパンフルートのアルペジオの伴奏を付け足して、やはり他のどの音楽にも似ていない特異なIDMを作り上げる。 そして、甘い感覚を持つイシク・クラルのボーカル、鳥のさえずりのフィールドレコーディングを付け加えて、自然味溢れる音響空間を構築していく。何の変哲もないミニマル・ミュージックの構成であるが、ときどき、彼の紡ぎ出すシンセのアルペジオからは、センチメンタルな感覚やノスタルジア、そして童話的な雰囲気が立ち上ってくる。これらはアンビエントのような抽象的な音像として組み上げられていくが、そして、実際的に、治癒的な電子音楽としての効果を発揮することがある。クラルの音楽にはまったく棘や毒がない。それは、イシク・クラルの音楽が「自然を見本にしている」からであり、人工物から距離を置いているからでもある。これらの癒やしは、コンクリートジャングルに疲弊した人の心を温かく包み込む。

 

イシク・クラルの表現する童話的な世界は、さながら絵画を描写的な音楽として切り取ったかのようであり、アルバムの中盤で、その物語は広がりと奥行きを増していく。「3- Almost A Ghost」に見受けられるように、彼の描く幽霊は、カンタベリーの大聖堂に出没するようなおぞましいものではなく、妖精やピクシーのような、いたずら好きの少し可愛らしいお化けである。それはまた、「指輪物語」に登場する民間伝承の考えに近い。それらは、ぼんやりとしていて、抽象的であるが、ヘンリー・ダーガーが絵本で描いたような天使的で祝福的な音楽という形で部分的に出現する。同じように、リュートのようなギターの響きを基に、ピアノの断片的な演奏やボーカルのコーラスをミュージック・コンクレートとして散りばめて、色彩的な音楽の世界を構築していく。それらに脚色的な効果を添えるのが、ハープのグリッサンド、オーケストラのグロッケンシュピール、そしてアーティスト自身のボーカルである。これらの器楽的な音響効果は、実際の音楽性に制作者が意図する幻想的な感覚を付与し、ピクチャレスクな効果を及ぼすことに成功している。最終的には、mum(ムーム)のような可愛らしいおとぎ話の世界を作り上げるのだ。 


 

 「Prelude」 

 

 

 

これらの童話的な音楽と並行して、アンビエント・ピアノの作風に転じる場合もある。続く「4- Grown One Lotta」では、ウィリアム・バシンスキーの「Reflection」のようなピアノのミニマリズムを参照しつつ、緻密でありながら先鋭的な作風を作り上げる。ヒップホップやブレイクビーツの編集的なサウンドをピアノの音響効果に適用するという側面では、ブルックリンのラップカルチャーに触発されたバシンスキーの現代的なアンビエントの延長線上に属する。短いピアノのサンプリングの素材も、イシクの手に掛かると、アナログレコードの音飛びのようなブレイクビーツの原初的なDJの手法によってトリップ感のあるアンビエントに昇華される。いわば童話的な音楽を制作する作家クラルは、「ストリートの音楽とオーケストラホールの音楽を結びつける」という画期的な作曲法を、この実験的な音楽の中で実践しているのである。

 

また、「映像的な音楽」という本作のモチーフは、その後も度々登場する。「5- Interlude」では、ローファイ・ヒップホップをベースにし、それらをノスタルジックで切ない感覚を持つ電子音楽へと昇華させている。逆再生のテープ・ループ、それから水の音のように柔らかなシンセに続いて、少し甘ったるい質感を持つクラルのボーカルがアンビエントともミニマルテクノとも言いがたい独自に音響空間を作り上げる。それらのシンプルな音色や録音の集積は、やがて教会のオルガンのような祝福的な音楽をアンビエントとして構築していく。近年の実験音楽では、コンサートホールで鳴り響くオーケストラ音楽を部分的なミュージックコンクレートやカットアップコラージュのような音楽的な作曲法によって構築するという手法が、ドローン音楽という一つのウェイブやシーンを作り上げているが、イシク・クラルの電子音楽は、一貫して細やかであり、大掛かりな演出になることはない。さながらグラスゴーの小さな礼拝堂で日曜の安息日に鳴り響くような祝福的な祭礼の為の音楽を、クラルは電子音楽として再現させようとしているかのよう。それは非常に細やかなもので、派手な舞台装置や演出とは全く無縁のものなのである。


かと思えば、彼の音楽は、曲が進むごとに、物語の舞台となる場所や背景のイメージが立ちどころに変わっていき、映像のバックグラウンドや演劇の舞台の書き割りのように、ゆっくりと推移していく。ここには、ウィリアム・シェイクスピアの演劇のように、王侯も商人も未婚の女も登場しないが、最小限の登場人物で驚くべき多彩な音楽表現が構築される。前曲の屋内で鳴り渡る音楽の直後、屋外の木陰に鳴り響く自然の音楽をテーマとして縁取っているのである。

 

「6-Redcurrents」は、教会から一歩外に出て、鳥のさえずりや木々のざわめきを目に止める時のような安らぎが込められている。イシク・クラルの電子音楽は一貫して「穏やかな平和」をモチーフにしており、それらはリンゴの実が木から落ちる時、重力の概念を発見したニュートンのような気づきと発見に満ちている。実際的には、パルス音をドローンのように連続させているが、やはり聞き苦しいものやざわめきやノイズからは一定の距離を置いており、内的な静けさと瞑想性にポイントが置かれている。最終的に、精妙な感覚を持つ重層的なサウンドスケープが曲の最後に鳴り渡る頃には、この音楽作品がバレエや劇伴のための音楽という副次的な役割を持つ作品なのではないかと思わせるものがある。電子音楽としての前衛的な試作は、続く「7-Mistaken for a Snow Silent」にも見出すことが出来、水のような音のサウンドデザイン、リング・モジュラーによる色彩的な音の構築、そして、ピアノの断片的なサンプリング、アコースティックギター、そして、イシクのボーカルという多角的な構成要素によって、遊び心のある音楽が作り出されている。聴いているだけで、何だか優しい気分に浸れるような稀有な音楽である。


情景的な音楽は、それ以降も続いている。グラスゴーの村の小さなお祭りのようなワンシーンを電子音楽で縁取った「8-Gul Sokagi」は、ケルト民謡を題材に、リュートのようなギター、生活風景の反映であるフィールド録音、木管楽器やアコーディオンのような音色を交えて、夢想的で童話的な音楽世界を見事に築き上げている。これらは、東ヨーロッパの民謡をスコアとして実際に取材をして集めたバルトークのような音楽的な手法であるが、クラルの場合は、より聞きやすくて親しみやすい。そして、ターンテーブルの音飛び(チョップ)の技法を交え、それらをモダンな作風に置き換えている。「9-Stem of Water」は、やはり同じように童話的で可愛らしい雰囲気をボーカルとして反映した一曲で、パンフルートの音色でこれらの夢想的な感覚を押し出している。それは同時に、緑豊かな土地に流れる川のせせらぎのような清々しさと安らぎに浸され、音楽そのものが一つのストリームのようにゆったりと流れていく。

 

 

アルバムの後半では同じようにフィールド・レコーディングとピアノの演奏の要素をかけ合わせ、「10-After a Rain」に見出されるような情景的な変遷を描き出そうとしている。これらは、2010年代のフォークトロニカ/トイトロニカのような音楽性と結びつき、アルバムの音楽世界を深化させる。その音楽は、ピアノやハープのサンプリングを多角的に配置することで、やはり色彩的な感覚に縁取られ、サウンド・デザインに近い指向性を持っている。終盤では、これらの音楽性が停滞したり、マンネリズムに陥る場合もあり、それがリスニングの際の難点となるだろう。その一方、その安らいだ電子音楽は、治癒の音楽ーーヒーリングーーに近い意味を帯びる。「11-Behind The  Flowerpoint」は、JSバッハの「平均律クラヴィーア」を電子音楽に置き換え、それらをボーカルトラックとして組み替えるという実験性が込められている。

 

その後の2曲では、鳥をモチーフに美麗な音楽が作り上げられる。イシク・クラルの作曲家としての未知なる可能性が示されたのが「12-Daydream Birds」である。オーケストラ・ストリングのレガート、木管楽器のトレモロの組み合わせは、最終的に民族音楽のエキゾチズムを呼び覚まし、さながら南国のような場所で鳥たちがゆっくりと空に羽ばたいていくような奇異なサウンドスケープを呼び起こす。「13-Birds Of Evening」でもフルートの演奏とハモンドオルガンのような音色を緻密に組み合わせ、至福のひととき、芳醇な時間を作り上げる。ミニマル音楽の範疇にあるが、これらの音楽の最大の弊害である気忙しさはなく、伸びやかで開放的な気風を感じさせる。

 

アルバムのクローズ「14-Most Beatutiful Imaginary Dialogues」は、名作映画のような感動的なクライマックス/エンディングで、一連の音楽による物語の最後を締めくくるのにこれ以上はない素晴らしい一曲である。木のハンマーの軋みの音を生かしたポストクラシカル系のアコースティックピアノ、クラルのスポークンワードに近いボーカル、そして、鳥のさえずりのフィールドレコーディングという、現在の作曲家の「自家薬籠中」が登場する。ハープの美麗なグリッサンドの効果、シンセサイザーのサウンドスケープを巧みに活用しつつ、イシク・クラルは、音楽によって「ふたご座の月」を出現させる。ピアノの断片的なフレーズが重なり合う時、深い感動を呼び起こすとともに、マクロコスモスを小さな音楽空間の中に造出し、アルバムのイメージを最後の最後にあっけなく覆す。アウトロで、虫の鳴き声とオルガンの麗しい音色が絶えず増幅と減退を繰り返しながら徐々にフェードアウトする瞬間、作曲家の描写音楽としてのサウンドスケープは本作の中で最大限の効果を発揮し、一つのサイクルの終焉と実り多き美しき季節の訪れを予感させる。




85/100



Best Track-「Most Beatutiful Imaginary Dialogues」

 

 

 

◾️Isik Kuralの新作アルバム『Moon In Gemini』はRVNGより本日発売。(日本国内ではPlanchaより)ストリーミングはこちらから。

 

©Samuel Bradley


Kelly Lee Owens(ケリー・リー・オーウェンズ)が、アルバム『Dreamstate』からの3枚目のシングル「Higher」を発表した。このシングルは「Sunshine」と「Love You Got」のフォローアップとなる。以下よりチェックしてほしい。


リー・オーウェンズのコメントは以下の通り。「''Higher''がここにある!「Dreamstate」のもうひとつの側面、アルバム内のフィーリングのもうひとつの味わい。より高い視点から物事を見て感じたいという願望にインスパイアされたトラックだ」


「人生を歩むにつれて、私たちは常に困難があることをより理解するようになるが、おそらくその困難を経験するたびに、私たちはより全体像を把握し、新しい視点を得るのだろう。この曲は、陶酔的な安堵感のために静かに手を伸ばし、高揚させるためにある。あなたがこの曲を気に入ってくれることを願っている!」


オーウェンズの4枚目のスタジオ・アルバム『Dreamstate』は、10月18日にdh2からリリースされる。


「Higher」

 

 


エセル・カインが、アメリカン・フットボールの「For Sure」のカヴァーを、自ら監督したビデオとともに公開した。

 

この曲は、アイアン&ワイン、マンチェスター・オーケストラ、ブロンドシェルなどが1999年にリリースしたセルフタイトルのデビューアルバムからの楽曲をカバーした『American Football (Covers)』に収録。アメリカン・フットボールは、LPの25周年記念エディションから、オリジナル曲のリマスター・ヴァージョンも新たにリリースした。以下よりお聴きください。


ヘイデン・アネデニアことカインはプレスリリースの中で、「『For Sure』はすぐにやりたいと思った。「レコードを回すたびに、この曲の良さが際立っていて、自分のサウンドにどう反映させたいか、はっきりと分かっていたんだ。この曲の中で一番好きなのは、ペンシルバニア時代に住んでいたアパートの前を通る電車の音で、最初と最後にシンセのように伸びている。アメリカン・フットボールは、デビュー・アルバムでその瞬間を刻んだバンドのひとつであり、そのマークはとても長寿である。彼らのサウンド・ストーリーテリングは、長年にわたって数え切れないほど多くのインスピレーションを私に与えてくれたので、このカバー版への寄稿を依頼されたことは本当に光栄だった。アメリカン・フットボールよ永遠に」


アメリカン・フットボールのスティーヴ・ラモスは「For Sure」について次のように語っている。「変化と不確実性についてのシンプルで力強い声明であり、今でも真実として響いている」

 


「For Sure」



 


今年初め、POLICEのスティングは長年のギタリストであるドミニク・ミラーとドラマーのクリス・マースを中心とした新しいグループ「パワー・トリオ、スティング3.0」を結成し、今月末から北米ツアーを敢行する。

 

これを記念して、バンドは新曲「I Wrote Your Name (Upon My Heart)」を公開した。この曲では、プロデューサーのマーティン・キアゼンバウムがオルガンを弾いている。以下からチェックしてほしい。


「I Wrote Your Name (Upon My Heart)」は、スティングにとって2021年のアルバム『The Bridge』以来の新曲となる。

 


「I Wrote You Name(Upon My Heart」

 

©Bảo Ngô


米国のベッドルームポップ界の象徴的なアーティスト、mxmtoonは、11月1日にAWALからリリースされるニューアルバム「liminal space」を発表した。アルバムはこのアーティストとしては珍しくシリアスなテーマが織り交ぜられている。日々転変する世界でどのようにあるべきか、mxmtoonは音楽制作を通じて真摯に探ろうとしている。アルバムのタイトルは外側の世界を指し示し、そして対外的な世界が自分という存在とどのような関係にあるのかを詳らかにする。その中には社会的な概念が要請する女性というイメージを覆すという意図も含まれている。

 

新作アルバムの発表と同時に、このシンガーソングライターはイギリスのポップ・グループ、ケロケロ・ボニートとのコラボレーション「the situation」を公開した。(ストリーミングはこちら)「2枚目のレコードをリリースしてからのこの2年間の混乱の中で、私はしばしば果てしなく感じられる一過性の風景の中で宙吊りになっているように感じていた」とmxmtoonことマイアは説明している。

 

「自分がほとんど理解していないことに囚われたと感じるのは簡単なことで、人生は私に質問の嵐を投げかけてきた。だから、未知の世界に宙ぶらりんのまま、私はこれらの曲を書いた。自分の人生で与えられた役割をどのように果たすことを選択してきたか、そしてある時はどのようにそれについていけなかったかを解き明かそうとしたんだ」


「”liminal space”は、苦いものを浴びながら、終わりのない廊下を彷徨う自分自身を見失うような、主体性を理解するのに苦労している人たちのためのアルバムです」と彼女は付け加えた。


アルバムの最初のリードカット「the situation」について、mxmtoonはこう語っている。


「私たちは年を取り、そしてやがて死ぬ! このアルバムに収録されている曲の多くは、少女時代と人生のサイクルというコンセプトを直接的に扱っている。「the situation」を書いたとき私は23歳で、20代前半が人生で一番ホットで楽しい時期だという考えで育ったような気がする。社会全体が、女性はピークに達した後、残りの人生を転落していくという物語を押し付けていると思う。感情的になりがちな曲を書いているときは、いつも皮肉を織り交ぜるのが好きなんだけど、『the situation』は、それがいかに馬鹿げたことかを揶揄する絶好の機会だった」

 

「特に、この曲でケロ・ケロ・ボニートと仕事ができたことは、夢のような出来事だった。KKBは2013年から聴いていて、サラのヴォーカルは『Intro Bonito』以来、私の頭にこびりついている。この曲への彼女の貢献はとても完璧で、楽しくて、全体が死ぬことについて歌っているのに、外面的に陽気であることが本当にこの曲を艶やかにしている! 彼女は本当に素晴らしい」


「the situation」




リミナル・スペース

 

「リミナル・スペース」は、スラングやサブカルチャーの概念を指し示し、2020年代始めにインターネットから唐突に出てきた言葉である。

 

私達がいつも目にする何の変哲のない光景がある瞬間を期に、それとは全く別の意味を帯びることを意味する。これは本来の設計の意図とは別の意味を持つ「副次的な建築性」、「意図せぬ建築性」というきわめて斬新な建築学的な興味をもたらすとともに、社会学としても注目すべき概念であり、社会構造に生み出された「空虚な空間」や「穴」のようなものを象徴付ける。それは都市設計に発生した経済的な失敗であり、損失でもある。しかし、それらの負の遺産や瑕疵が現代社会の中で重要な意味を持つということを、リミナル・スペースは示唆している。

 

日本の作家で、無類のジャズ愛好家でもあった中上健次は、これに近い思想を持っていた。彼の場合は「ウツホ」という概念の中にリミナル・スペースを見出していた。生前の中上は、路地裏や裏通りといった日本独自の風景の底に、空虚さと得難い魅力が混在することを主張していた。これらの概念は、西岸良平の漫画そして後に映画化された「三丁目の夕日」などにも出てくる。

 



mxmtoon   「liminal Space」

Label: AWAL

Release: 2024年11月1日 


収録曲は未公開

 


パンデミックで惜しくも延期となったアメリカン・フットボールの再来日が決定。本公演は、東京Zepp DiverCity、名古屋Club Quattro、梅田Club Quattroで2025年3月25日から三日間開催される。詳細は下記より。


2019年FUJI ROCK FESTIVALに出演し、2020年に単独ツアーが決定していたが、世界中に拡大したコロナウイルスの影響で残念ながらキャンセルとなってしまった。そして2025年の3月についに待望の来日公演が決定した。しかも今回は1999年にリリースした ポストロック/エモシーンを代表する1stアルバムにして、当時はラストアルバムとなった名盤「American Football(LP1)」のリリース25年を記念して2024年から行われている、25周年アニバーサリーツアーの一貫としての来日が決定。至極の名曲と共に表現されるサウンドスケープにご期待ください。



「Stay Home」/「The One With The Wurlitzer」- Webster Hall, NYC




American Football 25 years special LP1 anniversary shows




【オフィシャル先行予約(抽選制)】

受付期間:9/5(木)20:00〜9/16(日)23:59

受付URL:https://eplus.jp/americanfootball/

※スタンディングのみ


【プレイガイド最速先行予約(先着制)】

受付期間:9/17(火)12:00〜9/23(月)23:59

受付URL:https://eplus.jp/americanfootball/

※スタンディングのみ


《チケット購入に際して》

※お一人様4枚まで

※紙、電子チケット併用

※チケット購入者のみ個人情報の取得あり

※小学生以上チケット必要、未就学児は席が必要な場合は要チケット



◾️東京 2025/03/26 (Wed) Zepp DiverCity (TOKYO)


OPEN 18:00 START 19:00

1F スタンディング 前売り:¥7,800

2F 指定席 前売り:¥7,800

ドリンク代別

お問い合わせ

SMASH 03-3444-6751



◾️名古屋 2025/03/27 (Thu) NAGOYA CLUB QUATTRO


OPEN 18:00 START 19:00

スタンディング 前売り:¥7,800

ドリンク代別

お問い合わせ

NAGOYA CLUB QUATTRO 052-264-8211


◾️大阪 2025/03/28 (Fri) UMEDA CLUB QUATTRO


OPEN 18:00 START 19:00

スタンディング 前売り:¥7,800

ドリンク代別

お問い合わせ

SMASH WEST 06-6535-5569



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American Football:


エモ・シーンのレジェンド=アメリカン・フットボール。1999年にセルフ・タイトル・デビュー・アルバムをリリース後、僅かな活動期間で解散。その後アメリカン・フットボールの魅力は世界中で徐々に伝わり、アメリカの名門レーベル<Polyvinyl Records>史上最高のセールスを記録。2014年にリユニオンを果たし、各国で行われたライブは軒並みソールド・アウトし話題に。2016年には実に17年ぶりとなるセカンド・アルバムをリリース、前作同様に世界各国から好評を博した。2019年3月に待望のサード・アルバムをリリース。3作目となる『American Football (LP3)』にはパラモアのヘイリー・ウィリアムス、スロウダイヴのレイチェル・ゴスウェルらがゲスト参加。



◾️AMERICAN FOOTBALLのデビューアルバム『LP1』が25周年を迎える アニバーサリーエディション、カバーアルバムのリリースを発表
 Pinhead Gunpowder



ビリー・ジョー・アームストロングのサイド・プロジェクト、ピンヘッド・ガンパウダー(アーロン・コメットバス、ビル・シュナイダー、グリーン・デイの長年のツアー・ギタリスト、ジェイソン・ホワイトが参加)が復活した。


ピンヘッド・ガンパウダーは、1-2-3-4 Go Recordsから10月15日にリリースされるニュー・アルバム『Unt』を発表した。1997年のデビューアルバム『グッバイ・エルストン・アヴェニュー』以来のフル・アルバムであり、2008年のEP『ウエスト・サイド・ハイウェイ』以来の作品となる。本作は長年のコラボレーターであるクリス・ドゥーガンと共に2023年にレコーディングされた。


『Unt』からのファースト・シングルは、アルバムのオープニングを飾るタイトル曲で、古典的なピンヘッド・ガンパウダーのよう、つまり古典的なグリーン・デイでもある。グリーン・デイは20年ぶりのベスト・アルバムをリリースしたばかりだが、ビリー・ジョーの90年代ポップ・パンクを聴きたいなら、このピンヘッド・ガンパウダーの新作がお薦めだ。新曲は以下から。


この発表と共に、アーロン・コメットバスはこう書いている。


「Pinhead Gunpowderは1990年に曲作りを始め、翌年の春に最初の7インチを作った。以来ほぼ毎年、僕らは演奏するために集まってきた。5枚のアルバムと11枚のEPをレコーディングした年もあれば、ライヴをやった年もある」


「しかし、2010年以降、私たちは自分たちのためだけに演奏するようになった。新しいアルバムのための作曲」や「ツアーの準備のためのリハーサル」ではなく、私たちは毎年地下室に戻った。最初にお互いのために音楽を作ったことを思い出しながら、自分たちが建てた家に住んだ。世界中、少なくともオークランド、シンガポール、ニューヨークで演奏したが、お互いのためだけに演奏した。私たちはバック・カタログのリイシューにも取り組み、お互いのことをより好きになり、これまで以上に家族のように思えるようになった」


「新譜とツアーは時間の問題だったが、メンバーの他のバンド・プロジェクトと家族の間で、それを見つけるのは難しかった。ようやく実現したときは、みんな驚いたよ。最もキャッチーで、最も協力的で、最も切実な、今までで最高の作品になったと思う」


彼らは10月に『アメリカン・イディオット』20周年記念ボックス・セットをリリースする予定だ。







 

Pinhead Gunpowder 『Unt』


Label: 1-2-3-4 Go Records
Release: 2024年10月15日


Tracklist:

1. Unt
2. Difficult But Not Impossible
3. Scum Of The Earth
4. Oh My
5. Nothing Ever Happens
6. Draw It In
7. Shine
8. ¡Hola Canada!
9. Here Goes The Neighborhood
10. Mumbles
11. Green
12. Chowchilla
13. Trash TV
14. Song For Myself

 

渡邊琢磨

 

2024年度カンヌ国際映画祭監督週間にて栄えある【国際映画批評家連盟賞】を受賞した、山中瑶子監督の最新映画『ナミビアの砂漠』のオリジナル・サウンドトラックのデジタル配信リリースが決定した。


オリジナルスコアは、作曲家/ピアニストの渡邊琢磨が担当。マスタリングはシカゴの大御所で、Gastre del Solの活動、ソロアーティスト、更に映画音楽でも活躍目覚ましいJim O'Rourke(ジム・オルーク)が手がけた。サウンドトラックは9月6日(金)に発売される。詳細は下記より。

 

渡邊琢磨は『ナミビアの砂漠』のラッシュを観ながらピアノや電子音による即興演奏をレコーディングし、後日その音を変調/加工するなどの実験を通して、プリズム状に疾走するテクスチャー、不安定で虚無的なドローン、瞬くようなパルスを構築。映画の効果にとどまらぬサウンドスケープをつくり出した。デジタルリリースのためにオルタネイト・テイクを追加した全7曲を収録。

 



■詳細 映画『ナミビアの砂漠』(監督: 山中瑶子)


[公式ウェブサイト] https://happinet-phantom.com/namibia-movie/
 

 

■映画 「ナミビアの砂漠」とは??

 

わずか19歳という若さで撮影、初監督した『あみこ』(2017)は PFF アワードで観客賞を受賞、その後、第68回ベルリン国際映画祭のフォーラム部門に史上最年少で招待されるなど、各国の映画祭で評判となり、坂本龍一もその才能に惚れ込むなど、その名を世に知らしめた山中瑶子。

 

あれから7年、山中監督の本格的な長編第一作となるこの『ナミビアの砂漠』の主役に抜擢されたのは、テレビドラマ「不適切にもほどがある!」でお茶の間でも話題沸騰、今年も『あんのこと』、『ルックバック』と出演作が続々公開されるなど飛ぶ鳥を落とす勢いの新時代のアイコン、河合優実。公開当時まだ学生だった彼女は『あみこ』を観て衝撃を受け、山中監督に「いつか出演したいです」と直接伝え、「女優になります」と書いた手紙を渡したという。

 

『ナミビアの砂漠』は、運命的に出会った山中瑶子と河合優実、ふたつの才能が、ついに念願のタッグを組み、“ 今” の彼女たちでしか作り出せない熱量とセンスを注ぎ込んで生み出された。

 

河合が扮するカナの二人の恋人を演じるのは金子大地と寛一郎という、山中監督と同世代で今の日本映画界をけん引する若き俳優たち。カンヌ国際映画祭でも「若き才能が爆発した傑作」と絶賛され、女性監督として史上最年少となる国際映画批評家連盟賞を受賞する快挙を成し遂げた。2020年代の〈今〉を生きる彼女たちと彼らにとっての「本当に描きたいこと」を圧倒的なパワーとエネルギーで描き切った『ナミビアの砂漠』が、先の見えない世の中に新しい風を吹き込む!

 

 

『ナミビアの砂漠』 本予告

 

 

 

■『ナミビアの砂漠』オリジナル・サウンドトラック



発売日:2024年9月6日(金)
品番 : DDIP-3100
アーティスト:渡邊琢磨
タイトル:『ナミビアの砂漠』オリジナル・サウンドトラック
フォーマット: デジタル配信
レーベル:Inpartmaint Inc.
ジャンル: SOUNDTRACK / ELECTRONIC 

 

配信リンク: https://inpartmaint.bio.to/hGQDhr


 


 

【渡邊琢磨(ワタナベ・タクマ)プロフィール】



宮城県仙台市出身。高校卒業後、米バークリー音楽大学へ留学。帰国後、デヴィッド・シルヴィアンのワールドツアーへの参加など国内外のアーティストと多岐にわたり活動。自身の活動と並行して映画音楽も手がける。近年の作品には、染谷将太監督『まだここにいる』(19)、岨手由貴子監督『あのこは貴族』(21)、黒沢清監督『Chime』(24)、山中瑶子監督『ナミビアの砂漠』(24)、黒沢清監督『クラウド Cloud』(24)などがある。

共演、コラボレーションなど:ジョナス・メカス、デヴィッド・シルヴィアン、ジョアン・ラ・バーバラ、フェリシア・アトキンソン、キップ・ハンラハン、石橋英子、リゲティカルテット、ジム・オルーク、山本精一、三浦透子、ヴラディスラフ・ディレイ、山本達久、キット・ダウンズ。

 Oceanator 『Everything Is Love And Death』

 


 

Label: Polyvinyl 

Release: 2024年8月30日

 

Review 

 

Elise Okusamiのソロ・プロジェクト、Oceanatorの最新作『Everything Is Love And Death』は前作と同様に、70年代終盤から80年代の産業ロックに焦点を置いたロックソングアルバムである。オーシャネーターのソングライティングには、80年代の西海岸のLAロックや、ボストンのロックシーンへの憧憬のようなものがちらつく。基本的には、スリーコード(パワーコード)を中心にオクサミのギターサウンドは構築されていることもあってか、パンキッシュなテイストを漂わせる。ただ、やはり良い曲を書くセンスがあり、またそれを具現化する能力も持っているのだが、もしかすると、バンド単位の方がよりオクサミの音楽は輝く可能性があるかもしれない。

 

ただ、オクサミのロックソングに対する情熱は間違いなく本物である。アルバムの冒頭を飾る「First Time」は、アルバムを聴く際の掴みとしては十分である。硬質なメタリックなギターと、シンプルな8ビートのドラムが組み合わされ、そして80年代の産業ロックに見受けられる夢想的な感覚が織り交ぜられる。女性シンガーらしからぬ硬派な音楽性により、この曲はグイグイと求心力を持ち始め、叙情的なメロディーラインを織り交ぜながら、曲の後半ではハードロックの曲調へと変遷していく。もちろん、シンガーとしての特色であるワイルドな感覚は、この曲、ひいてはアルバム全体の重要なテーマ/モチーフとして、本作全体をリードしていく。同じようにメタリックな性質を帯びるハードロックソングが続く。「Lullaby」では、AC/DCのようなシンプルなギターリフ、そして、アメリカン・ロックの系譜にある音楽性を受け継いでいる。これが時に、RunawaysのようなもうひとつのUSロックの系譜を浮かび上がらせる。

 

アルバムの中で最も刺激的なのは、「Cut String」である。 オレンジ・カウンティのパンクを受け継ぎ、それらにAORのサウンドのテイストを添えている。モダンなギターロックとしては、Nilfure Yanyaの「Painless」の収録曲とおなじように、アーバンなR&Bとの融合性も感じさせるが、オーシャネーターの場合は、それほどR&Bの影響はなく、一貫して80年代のハードロックやメタルに焦点が絞られている。しかし、驚くほど暑苦しい感じにはならず、さらりとした切なさを織り交ぜ、まさしくポリヴァイナルらしい音楽性を組み込むことに成功している。これまでオーシャネーターが書いてきたロックソングの中では、おそらく最も革新的な響きが含まれている。また、アーティストとしての温和な性質が彼女が書くロックソングの中にさりげなく立ち現れることがある。「Happy New Year」は、前作『Nothing Ever Fine』の作風の延長線上にあり、ハードロックやメタル、そしてメロディックパンクの中間にあるキャッチーな音楽性が特徴である。そして、この曲には、やはり前作の主要曲と同じように、ストリートの感覚や、産業的なものに対する愛着、それはとりもなおさず、自動車産業の発展とともに成長してきたアメリカンロックの核心に迫るものでもある。つまり、UKロックと決定的に異なるのは、デトロイト等の街にある産業的な響きが、これらのロックソングには内包されているということである。「Get Out」もまたバイクで疾走するようなワイルドな感覚が最大限に引き出されている。

 

 

表面的なワイルドな感覚を愛する人間性に加えて、アルバムの中盤ではセンチメンタルな側面が示されることもある。「Home For Weekend」ではオーケストラの鍵盤楽器であるクレスタを中心に内的な世界を音楽により表現している。アルバムの序盤とは打って変わって、ナーバスな側面をバラードソングという形で表現している。また、現代的なオルトポップソングに近い曲が続き、「Be Here」では、フィーダー/リバーブを合わせた抽象的なギターラインと8ビートのドラムを背景にシンセポップに近い音楽性を選んでいる。これは本作を期に、ロックという形だけではなく、ポップの音楽性に新しく挑戦した瞬間を捉えることができる。実際的に、このSSWの特徴である淡い叙情性がボーカルに乗ると、エモーショナルな感覚を呼び起こすことがある。かと思えば、やはり続く「All The Same」では、80年代のハードロックやRunawaysのロックンロールスタイルに回帰している。ポイントはオクサミの音楽はロックではなく、ロール、要するにダンス・ミュージックの一貫として制作されている可能性があるということである。

 

アルバムの終盤では、このアーティストのロックに対する愛情が見事なエネルギーとして結実する瞬間がある。「Drift Away」は、やはりアルバムの重要なテーマであるワイルドな感覚を元にして、ハードロックの魅力を蘇らせることに成功している。ロックとはエネルギー体なのであり、それが力強く、はつらつとしていることが重要であるが、オーシャネーターはこの水準をなんなくクリアし、それらをエネルギッシュなロックンロールとして余すところなく詰め込む。 同じように、この曲では、ヘヴィ・メタル好きの性質が、ボーカルのオズボーン的なニュアンスに乗り移っている。Black Sabbathのごとき重量感のあるヘヴィ・ロックの要素は、オクサミがトニー・アイオミのようなギタリストから影響を受けていることをうかがわせるものである。


本作のクローズ「Won't Someone」も不思議な一曲である。メロトロンの演奏を背後に配して、抽象的な音楽世界を構築している。そして、スロウコアやサッドコアのような曲展開を経たかと思えば、やはり最後の最後でハードロック/メタルのラウドネスが激しく放出され、スパークを放つ。次に何が出てくるのか読めないのが、Oceanatorの曲の魅力だ。それは今後もこのアーティスト、ひいては、それにまつわるプロジェクトの最大の長所となりえるだろう。他人が何を言おうが、そんなことは全然関係ない。これからも「好きなもの」を突き詰めていくべし。

 



72/100



 

Best Track 「Cut String」

■Best New Tracks Naima Bock 「Feed My Release」 (September Week 1)


Naima Bock(ナイマ・ボック)は、ニューシングル「Feed My Release」を発表した。ささやかなアコースティックギターの弾き語りのスタイルを選び、古典的なフォークソングに回帰している。ブラスの演奏を追加し、ワールドミュージックの要素を控えめに押し出している。これは、

 

ブラジルのサンパウロ近郊で育った歌手のもう一つのコスモポリタンとしての姿を伺える。この曲を聴くと分かるように、音楽というスタイルは、制作者の人間性を鏡のようにリアルに映し出す。先行公開された2曲のシングルと同じように、オーガニックな雰囲気を持つポップスであることは明らかだが、さらに重要なのは「この音楽に不自然さがない」ということである。

 

ナイマ・ボックは「Feed My Release」について次のように語っている。

 

「『Feed My Release』は、ほとんど後悔について歌っている。ヴァイオリニストのオリバー・ハミルトンと一緒に歌い始めるまでは、長い間レコーディングする価値がないと思っていた曲なんだ」

 

「その後、ホリー・ウィテカーが素晴らしい歌声で加わり、キャシディ・ハンセン、クレム・アップルビー、マイター・ウェグマンも銘々のパートを加えて、今の形の曲が誕生した!! この曲はとても共同作業的なアレンジ&レコーディングで、みんなの貢献は本当にそれぞれのものなんだ」

 

ナイマ・ボックはロンドンのバンドGoat Girlを飛び出し、ソロ・アルバムで全く別の音楽性へと突き進んだ。ファースト・アルバムは、アメリカの主要メディアから大きな支持を獲得した。セカンド・アルバム『Below A Massive Dark Land』は9月27日にSUB POPから発売予定。

 

 

 「Feed My Release」

 

 

■Naima Bock(ナイマ・ボック) 、セカンドアルバム「Below a Massive Dark Land」を発表 9月27日にSub Popからリリース

 

©Frank Hamilton


ボルチモアのシンセ・ポップバンド、Future Islands(フューチャー・アイランズ)は、新しいワンオフ・シングル「Glimpse」を発表した。

 

この曲は、2024年初めにリリースされたバンドの最新アルバム『People Who Aren't There Anymore』のセッション中にレコーディングされた。フューチャー・アイランズとスティーヴ・ライトが共同プロデュースし、クリス・コーディとスティーヴ・ライトがミックスした。ジェイラ・スミスが制作したアニメーション・ビデオは以下からご覧下さい。

 

今年初め、4人組は7枚目のスタジオ・アルバム『People Who Aren't There Anymore』(4AD)をリリースした。批評家からも絶賛されたこのアルバムは、バンド史上初の全英トップ10入りを果たした。

 

20年近いキャリアを持つにも関わらず、自分たち自身とお互いに挑戦し続けるフューチャー・アイランズにとって、この最新作は新たな章の到来を告げるものだった。これまで彼らは、高いエネルギーのアンセムを追求してきたが、今回は内側に向き直り、新たなレベルの獰猛さを解き放った。



フューチャー・アイランズは今月末、バンクーバーでのソールドアウト2公演を皮切りに北米を回り、ニューオーリンズで幕を閉じる。

 


「Glimpse」

 
TV On The Radio


数年間活動を休止していたTV On The Radioが、デビュー・アルバム『Desperate Youth, Bloodthirsty Babes』の20周年記念リイシューと5年ぶりのライヴを発表した。

 

再発盤には5曲のボーナス・トラックが収録されており、そのうちの1曲、"Final Fantasy "を公開した。Desperate Youth, Bloodthirsty Babes (20th Anniversary Edition)は11月15日にTouch & Goからリリースされる。ボーナス・トラックと再発盤のトラックリスト、ライヴの詳細は以下をチェック。


TV On The Radioは2019年以来のライヴを発表しており、11月下旬から12月上旬にかけてニューヨーク、ロサンゼルス、ロンドンでレジデンスを行う。これらのライヴのラインナップは、ツンデ・アデビンペ、カイプ・マローン、ジャリール・バントンで、この3人が新しいプレス写真に写っている。プレスリリースによると、「創立メンバーのデイヴ・シテックはライブに参加できない」とのことだが、欠席についての詳細は明かされていない。


「Final Fantasy」は、Desperate Youth, Bloodthirsty Babesの曲 "Bomb Yourself "の初期のデモである。バンドのラスト・アルバム『Seeds』は10年前の2014年に発表された。




『Desperate Youth, Bloodthirsty Babes』20th Anniversary Edition

 


 Tracklist:


1. The Wrong Way

2. Dreams

3. King Eternal

4. Ambulance

5. Poppy

6. Don’t Love You

7. Bomb Yourself

8. Wear You Out

9. Staring At The Sun

10. You Could Be Love

11. Staring At The Sun (Demo)*

12. New Health Rock (single)*

13. Modern Romance (from the “New Health Rock” single)*

14. Final Fantasy (2004 recording)*

15. Dry Drunk Emperor (2005 recording)*


*bonus tracks


TV on the Radio Tour Dates:


November 25 - New York, N.Y. @ Webster Hall

November 26 - New York, N.Y. @ Webster Hall

November 29 - New York, N.Y. @ Webster Hall

November 30 - New York, N.Y. @ Webster Hall

December 4 - Los Angeles @ El Rey Theatre

December 5 - Los Angeles @ El Rey Theatre

December 7 - Los Angeles @ El Rey Theatre

December 10 - London, UK @ Islington Assembly Hall

December 11 - London, UK @ Islington Assembly Hall

December 12 - London, UK @ Islington Assembly Hall


 

 

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