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石川紅奈と壷阪健登によるジャズ・ユニット、soraya(ソラヤ)が11月22日(水)にニューシングル「ゆうとぴあ」をデジタルリリース。配信リンクとリリースの詳細については下記の通り。


昨年の4月のデビューからリリース毎に”J-WAVE TOKIO HOT 100”にランクインするなど、注目度が高まるピアニストで作曲家の壷阪健登とベーシストでボーカリストの石川紅奈によるユニット、soraya(ソラヤ)が11月22日(水)に新曲「ゆうとぴあ」を配信にてリリースする。1950-60年代にアメリカの音楽家/ピアニスト、マーティン•デニーらによって生み出され、細野晴臣氏も大きく影響を受けたとされる、ムード音楽”エキゾチカ”を再解釈した一曲となる。

 

歌詞の世界観はドイツの詩人、カール・ブッセの「山のあなた」からインスパイアされている。童謡や唱歌を想起させるような歌と、sorayaとしては初めてフィーチャーしたヴィブラフォンやストリングスのアレンジが、奥深く、異国情緒あふれるファンタジックな世界へと誘う。録音、ミックス、マスタリングは、蓮沼執太、青葉市子、スカートなどの作品を手がける葛西敏彦氏が担当した。

 

今年の夏、LOVE SUPREME JAZZ FESTIVAL JAPAN 2023、日比谷音楽祭2023などのフェスへも出演したsoraya。各メンバーのソロ活動も活発化している。石川紅奈は今年春にJAZZの名門レーベル”Verve”よりメジャーデビューを果たし、壷阪健登も国内での単独公演を成功させ、スペインのサンセバスチャン国際ジャズ・フェスティバルへの出演を果たすなど、ミュージシャンとして世界への拡がりを見せる。

 


来年は、sorayaとして初となるフルアルバムをリリース予定。壷阪健登と石川紅奈のソロ活動を含め、今後のsorayaの活動をお楽しみに。

 

 

soraya  「ゆうとぴあ」    -New Single-

 

Label: Ondo Inc.

Release: 2023/11/22


Tracklist:

1.ゆうとぴあ



music: Kento Tsubosaka
lyric: Kurena Ishikawa, Kento Tsubosaka

bass&vocal: Kurena Ishikawa
piano&arrangement: Kento Tsubosaka
violin: Yuko Narahara, Kozue Ito
cello: Koichi Imaizumi
marimba&vibraphone Tomoko Yoshino
drums: Yusuke Yaginuma
percussion: KAN

 

 

配信リンクの予約(Pre-save):

 

 https://linkco.re/1recbcRf



・soraya


2022年4月1stシングル「ひとり/ちいさくさよならを」をリリース。


ジャズフィールドで活躍中の音楽家、壷阪健登と石川紅奈による、国も世代も超えて分かち合うポップスをお届けするユニット。海の向こうのお気に入りのアーティストの曲名、中東の国の親しみのある女性の名、宇宙に浮かぶ星団の名でもある「soraya」(ソラヤ)という、遥か遠くの何処か想起させる、不思議で親しみやすい響きの言葉を由来とする。無国籍に独自の音楽を追求する壷阪が紡いだ楽曲や、ピアノを中心とする繊細で深いサウンド、石川の唯一無二の歌声とベースの温かい音色は、人々を音楽のプリミティブな魅力へと繋ぐ煌めきと包容力を持ち合わせている。

 

2023年夏はLOVE SUPREME JAZZ FESTIVAL JAPAN 2023や日比谷音楽祭2023などのフェスへも出演。各メンバーのソロ活動も活発化しており、石川紅奈は今年春にJAZZの名門レーベルVerveよりメジャーデビューを果たし、また壷阪健登も国内での単独公演を成功させ、サンセバスチャン国際ジャズ・フェスティバルへの出演、ミュージシャンとして世界への拡がりを見せる。



・石川紅奈 (Kurena Ishikawa)

 

埼玉県出身。国立音楽大学ジャズ専修卒業。ジャズベースを井上陽介氏と金子健氏に、ヴォーカルを高島みほ氏に師事。


高校1年生の夏にウッドベースを始め、在学中に世界的ピアニストの小曽根真に見いだされ、同氏が教鞭を執る国立音楽大学ジャズ専修に入学。


在学中からプロ活動を始め、卒業後は小曽根真と女優の神野三鈴が主宰する次世代を担う若手音楽家のプロジェクト「From OZONE till Dawn」のメンバーとしても活動。2021年8月 東京・丸の内コットンクラブで行われた『小曽根真 “OZONE 60 in Club” New Project “From OZONE till Dawn” Live from Cotton Club』にて収録された『Off The Wall』(by マイケル・ジャクソン)の映像がYouTubeで200万回以上再生され、一躍注目を浴びる。


2022年から壷阪健登とユニット「soraya」を結成。2023年3月、名門ヴァーヴ・レコードよりメジャーデビューを果たし、同年6月には「石川紅奈”Kurena”Release Live」(コットンクラブ)にて満員を博す。NHK『クラシックTV』や各主要FMラジオ局などのメディアにも登場する。


・壷阪健登 (Kento Tsubosaka)

 

ピアニスト、作曲家。神奈川県横浜市出身。ジャズピアノを板橋文夫氏、大西順子氏、作曲をVadim Neselovskyi氏、Terence Blanchard氏に師事。


慶應義塾大学を卒業後に渡米。2017年、オーディションを経て、Danilo Perezが音楽監督を務める音楽家育成コースのBerklee Global Jazz Instituteに選抜される。
これまでにPaquito D’Rivera, Miguel Zenon, John Patitucci, Catherine Russellらと共演。2019年にバークリー音楽院を首席で卒業。


2022年から石川紅奈とユニット「soraya」を結成。同年4月1stシングルをリリース。その後全楽曲の作曲、サウンドプロデュースを手掛ける。


2023年7月にはソロピアノでサン・セバスティアン国際ジャズフェスティバル(スペイン)に出演。 11月には銀座ヤマハホールにてピアノ・リサイタルを催行する。2022年より世界的ジャズピアニスト小曽根真が主宰する若手アーティスト育成プロジェクト、From Ozone till Dawnに参加。小曽根真とも共演を重ね、ジャンルを超えた多彩な才能で、次世代を担う逸材と注目を集めている。


グラミー賞にノミネートされたオルタナティヴ・ジャズのドラマー、プロデューサー、ラッパーのカッサ・オーバーオールが、デューク・エリントンのバラード「In a Sentimental Mood」をメランコリックに再構築した「2 Sentimental」をリリースした。今回はパーフェクトなシングルだ。


カッサは、COVID-19パンデミックのピーク時にマンハッタンのミッドタウンに住んでおり、経済的ストレスが高まっていた時期にこの歌詞を書いた。彼はタイムズ・スクエアのピザ屋の外に座り、近くのミュージシャンの組合に残留小切手を受け取りに行くのに失敗した後、終末的な絶望感を感じながら「2 Sentimental」を書き始めた。


アウトキャストの名曲「Git Up, Git Out」のやる気を起こさせるメッセージをもじった歌詞で始まる。彼らは "ギット・アップ、ギット・アウト、ギット・サムシング "と言う。もしお前が一文無しなら、彼らはお前を何もないように扱うだろう」



彼はさらに、批評家たちに絶賛されたアーティストでありながら、一文無しで(「町の名士がどうやって貧乏人のように暮らしているんだ」)、インターネットで金をせびらなければならないという逆説的な経験を反芻する。


「あるファンは、私が彼女の最も暗い時期を乗り越えさせたと言ってくれた。でも、私はインターネット上で "March of Dimes "のようなことを言っている。ヴェンモを叩いて、キックスターターを手伝ってくれ。新しいギアが必要なんだ、物々交換ができないかな?」


彼はこの言葉をデューク・エリントンの名曲「In a Sentimental Mood」に乗せ、長年の友人でありコラボレーターでもある名ピアニスト、サリヴァン・フォートナーが演奏した。ステファン・クランプがアコースティック・ベースを、イザベラ・ドゥ・グラフがボーカルを担当した。

このシングルのリリースは、『ANIMALS』を引っ提げた北米、ヨーロッパ、日本での70日を超えるワールドツアーの真っ最中である。オーバーオールは、ビッグ・イヤーズ、SXSW、ブルーノート・ニューヨークへの出演、ヒップホップのパイオニアであるダイガブル・プラネッツの中西部と西海岸でのオープニング・ライヴなど、2024年の米国ツアー日程を発表したばかりだ。

5月にリリースされたニューアルバム『ANIMALS』(レビュー)は、The Observer、Mojo、The New York Times、Stereogum、Pitchfork、Paste、Treble、Brooklyn Vegan、American Songwriter、NPR Musicなどから支持を得ている。また、タイニーデスクでは、「音楽性、叙情性、芸術的革新の名人芸 」と評された。








マンチェスターを拠点に活動するトランペッター、バンドリーダー、作曲家でもあるマシュー・ハルソールが、画期的なニューアルバム『An Ever Changing View』を発表した。このアルバムは、ハルソールの特徴であるジャズ、エレクトロニカ、グローバル・ジャズ、スピリチュアル・ジャズの影響をブレンドした、広大で完璧なコンセプトのプロジェクトである。


『An Ever Changing View』は、9月21日にロンドンのロイヤル・アルバート・ホールで開催される画期的なライヴと英国およびEUツアーに先駆けて、9月8日にマンチェスターのゴンドワナ・レコード(ハルソールが15年前に設立したレーベル)からリリースされる。


UKのジャズ・ルネッサンスの立役者の一人と称されるハルソールは、自分自身を特定のサウンドやシーンの一部と見なすことはなく、独自の音世界を構築している。『An Ever Changing View』では、彼のサウンドとプロダクション・テクニックを再び拡張し、彼独自の深い瞑想的な音楽を創り上げ、これまでで最も実験的な作品に仕上がっている。


アルバム制作中、彼は息を呑むような海の景色を望む美しい建築家の家と、印象的なモダニズムの家の両方に滞在し、そこで「風景画のように」見える音楽の制作に取り組んだ。このような新しい環境で、ハルソールは「開放感と逃避感」をとらえ、またゼロから音楽作りに取り組みたいと考えた。「リセットボタンを押し、完全に自由な音楽を作りたかった。サウンドの真の探求だった」


また、アルバムのコンセプトについて彼は次のように補足している。


「音楽は私たちを高揚させ、鼓舞し、あるいはなだめ、保護することができる。それはスピリチュアルなジャズやアンビエント・ミュージック、あるいは海の音や木々の風の音にも感じられる。このアルバムのために作ったタペストリーの一部に、そのような性質を持たせたかった」

の一部に、そのような性質を

『An Ever Changing View』は、音楽と同じくらい印象的なアートワークが魅力だ。デザイナーズ・リパブリックのイアン・アンダーソンがデザインした手作りのフォントと、アーティストのサラ・ケリーが特別に依頼したタペストリーが、レコードのサウンドを調和的に引き立てている。



『An Ever Changing View』/Gondwana  Records



マシュー・ハルソールのレビューを行うのは、昨年のEP『The Temple With In』以来となる。

 

ハルソールは、マンチェスターの気鋭のトランペット奏者で、彼自身のリリースを手掛ける同地のGondwana Recordsのレーベルオーナーでもある。彼は、いついかなる時でも地元であるマンチェスターとの繋がりを重視してきた。


ハルソールの音楽活動の根幹は、同地のYESというスペースでの月例のライブ・セッションを定期的に開催することによって構築されてきた。


もちろん、そこで行われる生きたジャズのセッションでは、マンチェスターのミュージシャンを積極的に起用し、北イングランド文化、そして、英国のジャズの伝統性、スピリチュアル・ジャズの再興、WARP、Ninja Tune等のダンス/エレクトロ専門レーベルの音楽の吸収、と様々な形の要素を積み上げてきた。もちろん、彼自身が主宰する同地のGondwana Recordsでのハニア・ラニを中心とするオシャレなポスト・クラシカルからの影響も度外視することはできない。

 

The Guardianのレビューとして取り上げられたマシュー・ハルソールの九作目のアルバム『An Ever Changing View』は、スピリチュアル・ジャズ、エレクトロ、アフロ・ジャズ、モダン・クラシカル、アンビエントをクロスオーバーする作風である。エレクトロとジャズのスタイリッシュな融合という側面は、すでにドイツのECMのカタログでおなじみの作風であるが、ハルソールの最新作の魅力は、単なるECMサウンドの再興にとどまらない。トランペットの演奏の巧みさもさることながら、新しいジャズに取り組み、Nu Jazzの未来を切り開く可能性を秘めている。


アルバムでは、ハルソール自身のトランペットの演奏はもちろん、アフリカの民族楽器であるマリンバ、カリンバであったり、ウィンド・チャイム、オーケストラ・ベル、ローズ・ピアノと、無数のユニークな楽器が演奏の中に取り入れられている。そして、それは実際に、映画のような形で曲の印象性に深い影響を及ぼす。アルバム全体を聴いて感じたのは、海辺にまつわる優雅な映画を鑑賞したような不思議な感覚だった。また、モダニズム風の家で録音が行われたことも、全編のスタイリッシュなイメージを湧き起こすことに一役買っただろうと思われる。

 

「Tracing Nature」は、Gondwanaに所属するポーランドのピアニスト、ハニア・ラニのポスト・クラシカルに触発を受け、このアルバムの重要なテーマであるスピリチュアルの要素と結びついている。鳥の囀りのサンプリングとともに心安らぐようなピアノの自由な旋律が、空間を所狭しと駆け巡る。ドビュッシーのピアノ曲に見受けられる華麗なグリッサンドを駆使し、駆け上がりと掛け下がりを交互に繰り返しながら、色彩的な音の空間性を広げていこうとする。短いイントロダクションではあるが、自然味にあふれ、安らいだ気持ちになる。そして、この後に続くジャズの一連のストーリーの導入部として、緩やかに心地よい音楽が駆け抜けていくのである。しかし、このイントロダクションは、一連のジャズの旅のほんのはじまりにすぎない。

 

「Water Street」では、Steve Tibbettsが『Safe Journey』の「Any Minutes」で提示したカリンバ/マリンバ等のアフリカの民族打楽器を取り入れた作風を、スタイリッシュなニュー・ジャズとして昇華している。 イントロから続くカリンバ/マリンバ、おもちゃの鉄琴の合奏も涼し気な雰囲気を醸し出しているが、それらに複合的なパーカッションの要素がかけあわされることで情感溢れるエスニック・ジャズに移行してゆく。ただ、ここではジャズという手法にそれほどこだわらず、ポップスやソフト・ロックのような和らいだ音楽の側面が重視されているように思える。

 

途中に導入されるエレクトリック・ピアノ(ローズ・ピアノ: 当初、Kawaiが制作した)の自由な演奏を加えることで、ソウル風の雰囲気を及ぼす場合もある。そのあと、フルートの演奏が加わるが、これらの複数の楽器の自由な気風のセッションは、アフロ・ジャズや、その後の年代のスピリチュアル・ジャズの気風を反映している。しかし、この曲は、神秘主義的な音楽に傾倒しすぎることはない。中盤以降、ハープの演奏やトランペットの演奏が加わると、実に陽気でリズミカルなジャズに転じていく。ハルソールのトランペットの演奏は、マイルスとその後のポスト・マイルスであるEnrico Ravaに近い演奏法であるが、それほど特殊なトリルやブレスを取り入れることはない。シンプルな演奏を通じて、曲のムードを引き立てようとしている。

 

「Water Street」

 

 

タイトル曲「An Ever Changing View」では、透明感のあるピアノの演奏に、カリンバの独特なリズムを込めた演奏を加え、計算され尽くした緻密なミニマル音楽を構築している。その小さな楽節に、ハルソールのくつろいだトランペットの演奏が加わる。しかし、マシュー・ハルソールは、ソリストという立ち位置をつつも、曲の合間で押す部分と引く部分を取り入れながら、曲の展開に変化を及ぼそうとしている。ピアノの演奏は、ローズ・ピアノへと引き継がれていき、カリンバ、ポンゴのような打楽器を用いたパーカッションとのリズミカルなセッションを繰りひろげる。その後、ようやくハルソールのトランペットの演奏が始まる。彼の芳醇なトランペットの響きは、エキゾチズム性を引き立てるとともに、甘美的な瞬間に誘うこともある。

 

これは、マイルスがニュージャズの時代に実験した前衛的な領域をよりシンプルな形で繰り広げようというのである。その後のジャズ・ドラムとフルートの掛け合いには、アフロ・ジャズやスピリチュアル・ジャズの気風が力強く反映されている。時々、そのライブ・セッションの中に加わる、ハープのグリッサンドの軽やかなアレンジも、優雅でくつろいだ印象を及ぼしている。最終的に、この曲の演奏は、複数の楽器がバックバンドになったり、ソリストになったりしながら、曲の流れとともに、演奏者のポジションが面白いように移ろい変わっていく。タイトルの意味である「絶えず移ろいつづける景色」を体現したようなナンバーといえるだろう。

 

続く、「Calder Shapes」では、よりニューエイジ的な神秘主義的な領域へと近づき、 アフリカ大陸のロマンチシズムがチラつく。イントロのマリンバの響き、そして、それに溶け込むようにして演奏されるモード奏法の影響を取り入れたウッドベースは、サハラ砂漠の果てしない情景をジャズとして描写したかのようでもあり、その後につづくウィンド・チャイムもミステリアスな印象を高めている。これらの不可思議な印象は、透明感のあるカリンバの高音部の和音によって強調され、さらに、ジャズドラムのモーラー奏法を踏まえたリズミカルな三拍子のリズムによって、また、ハルソールのエンリコ・ラヴァのように覇気のある演奏により、曲の持つエネルギーが徐々に引き上げられる。特に、リムショットを意識したドラムがエレクトロニックのようなビートを生み出し、この曲の雰囲気を否応なしにスタイリッシュなものにしている。

 

特に、マリンバの演奏はミニマルミュージックに近い効果を及ぼすが、その背後の演奏に対して繰り広げられるハルソールのトランペットの全体的な演奏は、ミニマルの枠組みにとらわれることなく、自由な気風が反映されている。これらのくつろいだ感じと想像性の高さはマイルスの前衛的なジャズのように、鋭いメロディーとリズムを描きながら、刺激的な瞬間を巻き起こす。これらの流動的な曲の流れは彼がYESで取り組んできたセッションの成果が完成形に近づいた瞬間でもある。ハルソールのトランペットの特殊奏法は、曲の終盤において、半音の装飾音を巧みに取り入れ、刺激的な瞬間を迎える。しかし、跳ね上がるようなエキセントリックな響きをできるかぎり遠ざけて、マイルドな演奏を続けながら、この曲はゆっくりと閉じてゆく。 

 

「Mountains, Tree and Seas」

 

 

「Mountains, Tree and Seas」は、前の曲の気風を引き継いでいる。ウッドベースのリズムカルなピチカートの演奏がフィーチャーされている。カリンバのイントロで始まり、ドラム/パーカッションが安定感を与え、その上にローズ・ピアノのソウルフルな演奏が加わる。ここでも、カリンバの演奏のミニマルな構成に加え、自由な気風のトランペットの演奏が前面に押し出される。曲の途中からは、ローズ・ピアノのカデンツァが展開され、ソウルフルかつメロウな雰囲気を及ぼしている。エレクトリック・ピアノの演奏を受け継いで、トランペットとフルートのユニゾンがまろやかに混ざり合いながら、曲のメロウな雰囲気を引き立てるような感じで閉じていく。

 

ここまでをアルバムの前半部とすると、続く「Field Of Vision」からは、第二部の序章のようでもある。一曲目「Tracing Nature」と同様に、イントロダクション風のトラックで、同じように鳥の囀りのサンプリングをもとにして、ピアノの安らいだカデンツァのような演奏が取り入れられている。手法こそ、一曲目と同じではあるが、変奏を交え、異なる印象性をもたらそうとしている。アルバムの中での一休みをするためのオアシスのような安らぎのある間奏曲である。

 

「Jewels」では、マイルス・デイヴィスがもたらしたモード奏法を踏まえ、ピアノのリズムを強調したミニマルな演奏に、マリンバ/カリンバの合奏、さらに、その後、レガートを強調したハルソールの高らかなトランペットのフレーズが加わる。特に、一分半頃から、パーカッションが加わり、ビートやグルーブがさらに強調されて、ダンス・ミュージックのようなビートも加勢する。そして、プロダクションは、WARPに在籍するBonobo(サイモン・グリーン)が『The North Border』の「Cirrus」で示した、涼やかなエレクトロニック/テクノに近いものがある。

  

マシュー・ハルソールのトランペットの巧緻さについてはいわずもがな、その合間に古典的なコール・アンド・レスポンスの形で繰りひろげられるフルートの演奏も芳醇な響きを漂わせる。これらのジャズの深層の領域は、曲の中盤以降、さらに奥行きを増していき、ハープの掛け下がりのグリッサンド、ウォーター・パーカッション等の特殊な打楽器を取り入れることで、神秘的な音像空間へと導く。さらに当初は、モード奏法を意識していたピアノは、曲の最後になると、その枠組を離れ、自由性の高いカデンツァ/インプロヴァイゼーションを繰り広げる。

 

「Sunlight Reflection」は「Tracing Nature」、「Field Of Vision」に呼応する形の短い間奏曲である。オーケストラベル/チャイムの音色をイントロに取り入れ、神秘的なアンビエントへと移行している。 続いて、ドビュッシーの前奏曲に収録されている「La cathédrale engloutie‐ 沈める寺」を思わせる印象派の作風を示そうとしている。聞きようによっては、坂本龍一の親しみやすいクラシカルなピアノ曲を思わせる。これらの一分半に満たない間奏曲には、ハープのグリッサンド、オーケストラ・ベルの神秘的な響きが折りかさなを、優しげで、うるわしい音像空間を生み出す。


「Natural Movement」は、ミニマル・ミュージックの構造をアフリカ音楽を反映させたジャズとして昇華している。

 

ただ、この曲は、他の曲とは少し雰囲気が異なる。アフリカ音楽をエレクトロとジャズを掛け合せたニュー・ジャズとして解釈しようとしていることには相違ないが、ブラジルのサンバ、ラテン音楽のスケールを取り入れ、センス抜群の演奏を披露している。これらの異文化の混淆という奇妙なミステリアスな要素は、フルートの特殊奏法を踏まえ、生の楽器により鳥の声を生み出し、定かならぬイメージを落ち着かせる。フルートの鳥の声を擬した特殊奏法は、アマゾンのジャングルにいるカラフルな鳥たちが、自在に密林のさなかを飛び回る音像風景を思わせる。

 

このアルバムに参加した演奏家の存在感を重視した緻密なプロダクションは、クローズ「Triangles In The Sky」で、劇的なクライマックスを迎えるに至る。オーケストラベル/チャイムを活かし、和風の落ち着いたピアノのイントロに、フルートらしき演奏が続き、流れるようにスムーズな展開を呼び起こす。そして、この曲でも、これまでのマンチェスターでのライブ・セッションの経験を活かし、精彩味溢れるジャズに昇華させている。特に、ジャズ・ドラムのモーラー奏法は、この曲において最もアグレッシヴな瞬間を迎える。他の楽器のセッションに関しても、Ezra Collectiveの最新作のような力強いエネルギーを生み出しているのが素晴らしい。

 

 

92/100

 

 

Matthew Halsallの新作アルバム『An Ever Changing View」はGondwana  Recordsより発売中です。アルバムのご購入/ストリーミングはこちら から受付中です。 また、ロイヤル・アルバート・ホールの公演を含むツアー日程等については、アーティストの公式サイトをご覧下さい。

 


アイスランドと中国、両方のルーツを持ち、現在はLAを拠点に活動するシンガー・ソングライター、マルチ奏者のLaufey。今年、自身初のワールドツアーを敢行し、全世界で瞬く間にソールドアウト。6/5(月)に行われたブルーノート東京での初来日公演も2ステージとも5分で即完した。

 

さらに秋のワールドツアーも35公演瞬く間にソールドアウトするなど、全世界でレイヴェイ旋風を巻き起こす中、待望のニューシングル「Bewitched」を 本日、7/26 (水) にリリースします。およそ10時間後にアーティスト自身によるウォッチ・パーティーがストリーミングで公開される。こちらも楽曲の配信リンクと合わせて下記よりチェックしてみてください。

 

9/8 (金) にリリース予定の2ndアルバム『Bewithched』のタイトル曲となる本作は、ロンドンを拠点とするフィルハーモニア管弦楽団の伴奏をフィーチャーしている。

 

この楽曲について、レイヴェイは次のように説明している。「”Bewitched”はとびっきりのラブソングなの。フィルハーモニア管弦楽団には、初めて誰かを好きになった時の気持ちを表現してほしかったし、完璧な初デートの後に頭の中を駆け巡る想いを表現してほしかった」

 

今の時代を生きる24歳にしか伝えられない視点を持ちながら、ジャズやクラシックの巨匠にインスパイアされた、真に時代を超越した曲を書き、レコーディングし、演奏することで、過去と現在、歴史本とソーシャルメディア、レイキャビクのコンサートホール「Harpa」とLAの伝説のライブハウス「Troubadour」の隔たりを埋めようとしているレイヴェイ。「ジャズやクラシック音楽を、より親しみやすい方法で私のような若い世代に届けることがミュージシャンとしての私のゴール」と意気込んでいる。

 

新作アルバム「Bewitched』から既に「From The Start」「Promises」が先行シングルとして公開されている。


Laufeyは、昨年、デビューアルバム『Everything I Know About Love』を発表した。今年始めにはオーケストラとの共演アルバム『A Night At The Symphony』をリリースしている。



「Bewitched」

 

 

 

 

Laufey 「Bewitched」 New Single

 


 

リリース日:2023年7月26日(水)

レーベル:ASTERI ENTERTAINMENT (アステリ・エンタテインメント)

 

楽曲のストリーミング/ダウンロード:

 

https://asteri.lnk.to/bewitched_sg



ジョシュア・カルペとしても知られるシンガー、ソングライター、マルチ・インストゥルメンタリスト、プロデューサーのCautious Clay(コーシャス・クレイ)が、8月18日に発売予定のブルーノート・デビュー作『KARPEH』から、刺激的なインストゥルメンタル・ジャズの新曲「Yesterday's Price」をリリースした。

 

クリーブランド出身のコーシャス・クレイは今年5月にブルーノートと契約を交わしたばかりのモダン・ジャズシーンの刮目すべき演奏者である。2017年以来、Cautious Clayは真心溢れるソングライティングと、ポップ、オルタナティブR&B、インディーロックの間を流動的にクロスオーバーする独自のサウンドでファンベースを構築してきた。現在は、ニューヨークを拠点とし、シンガーソングライター、マルチ・インストゥルメンタリスト、プロデューサーとして活躍している。

 

アルバムの3番目のテースター「Yesterday's Price」では、テナーサックスとフルートのカルペ、ベースのジョシュア・クランブリー、ドラムのショーン・リックマンに加えて、トランペッターのアンブローズ・アキンムジレとアルトサックス奏者のイマニュエル・ウィルキンスが激烈なセッションを披露している。「イエスタデイズ・プライス』はアルバムの中で最もヘヴィな曲である。自分の真実を語り、それを最も親密で生々しい形で表現することを歌っている。


先行リリースされたシングル「Ohio」、ギタリストのJulian Lage{ジュリアン・レイジ)をフィーチャーした「Another Half」を含む全15曲が記念すべきブルーノートデビュー作『KARPEH』に収録される。Cautious Clay(コーシャス・クレイ)は、ヴォーカル、フルート、テナー・サックス、ソプラノ・サックス、バス・クラリネット、ギター、シンセサイザー、ベースを担当している。


「Yesterday's Price」


8月18日、Cautious Clayはブルーノートからデビュー・アルバム『KARPEH』をリリースする。シンガー・ソングライター、マルチ・インストゥルメンタリスト、プロデューサーとして知られるジョシュア・カルペは、自身のジャズ・ルーツをこれまで以上に深く掘り下げることで、芸術性の新しい一面を明らかにしている。この発表に合わせて、「Ohio」に続く二作目のシングル「Another Half」が公開されている。

 

「Another Half」


マルチインスドゥルメンタリストとして複数の楽器を自由自在に操るCautiousだが、それは常に音楽の物語に奉仕するためである。「物語を語るための音楽でありたかった」と彼は説明する。「このアルバムを通して、私は自分の人生の旅を、家族の過去の人生経験の融合、現在の自分の探求、そして、それらの断片が未来にどのような影響を与えるか、ということと同一視している」


アルバムを3つのセクションでテーマ別に構成し、彼の親族が家族の歴史について語る音声を挿入した。最初のセクションを彼は "The Past Explained "と呼び、アルバムのリード・シングルである「Ohio」を含む、クリーブランドで育った彼の初期の体験に触れた曲を収録している。アルバムの真ん中のセクションは、Cautiousが "The Honeymoon of Exploration "と呼ばれている。


この5曲は彼のサイケデリック体験の一部を描いたもので、自己反省と他者とのより深い親密さの欲求を刺激している。最後の4曲は、コーシャスが "A Bitter & Sweet Solitude "と呼ぶ第3のテーマ・セクションを構成している。孤独の中で充実した時間を過ごすことで、自分自身や他者とのより良い関係を築くことができ、より深い親密さが生まれるというのが、コーシャスの主張である。

 

 アルバム全15曲の中で、ボーカル、フルート、テナー・サックス、ソプラノ・サックス、バス・クラリネット、ギター、シンセサイザー、ベースを聴くことができる。ゲスト参加も豪華だ。

 

ラージ、トランペッターのアンブローズ・アキンムジレ、サックス奏者のイマニュエル・ウィルキンス、ヴィブラフォン奏者のジョエル・ロス、キーボード奏者のジュリアス・ロドリゲス、ベーシストのジョシュア・クランブリー、ドラマーのショーン・リックマンなど、モダン・ジャズ界の重鎮を含む幅広い共演者を招いている。その他、叔父のベーシスト、カイ・エックハルト、高名なパキスタンのヴォーカリスト、アロージ・アフタブらがアルバムに参加している。

 

 

Cautious Clay  『KARPEH』 


Label :Blue Note

Release:2023/8/18


  1. 102 Years of Comedy (Intro)
  2. Fishtown
  3. Ohio
  4. Karpehs Don’t Flinch
  5. The Tide Is My Witness
  6. Take a Half (a Feeling We Chase)
  7. Another Half (with Julian Lage)
  8. Repeat Myself
  9. Glass Face (with Kai Eckhardt & Arooj Aftab)
  10. Walls & a Roof (Interlude)
  11. Unfinished House (with Julian Lage)
  12. Blue Lips (with Julian Lage)
  13. Tears of Fate
  14. Yesterday’s Price (with Immanuel Wilkins and Ambrose Akinmusire)
  15. Moments Stolen

16.Daring Is Caring 

Laufey ©Gemma Warren

 

Laufey(レイヴェイ)は、アイスランドと中国、両方のルーツを持ち、現在はLAを拠点に活動するシンガー・ソングライター、さらにマルチ奏者でもあり、ポピュラー・ミュージック、ジャズ、オーケストラを結びつけ、清新な音楽性で世界中の多くのファンを魅了しつづけています。今年、レイヴェイは、自身初となるワールド・ツアーを敢行。瞬く間にチケットがソールドアウトとなり、さらに、先日6/5(月)に行われたブルーノート東京での初来日公演も2ステージとも5分で即完。日本での注目度も上昇している気鋭のシンガーソングライターです。


レイヴェイは、ニューアルバム『Bewitched』のリリースを発表しました。新作は9月8日に発売されます。さらに、本日、新作アルバムの2ndシングル「Promise」が公開されました。詳細は下記よりご覧下さい。

 

ファースト・シングル「From The Start」に続く「Promise」は、アデルの「Someone Like You」や、ザ・チックス「Not Ready to Make Nice」の共同制作を手がけ、グラミー賞にノミネートされた経験をもつ米国のソングライター、プロデューサー "Dan Wilson" とレイヴェイにより制作された。レイヴェイの深みのある歌声が最大限に生かされたナンバー。ロマンティックで大掛かりなサウンドと絶妙にマッチしたバラードは、涙を誘うような切ない情感に溢れている。


デビュー作『Everything I Know About Love』(2022年)では、ビルボードのオルタナティブ・ニューアーティスト・アルバム・チャート1位、ヒットシングル「Valentine」もSpotifyジャズチャート1位、さらに、Spotifyで最もストリーミングされたジャズ・アーティストとなり、全プラットフォームで4億2500万回再生を記録した。ポテンシャルを存分に発揮し、一気に世界中のリスナーの注目を集めたレイヴェイ。次作アルバムでも多数のファンを魅了しそうだ。

 

 

 

『Everything I Know About Love』は絶望的なロマンチストなアーティストの私生活の一面を表現していたが、続くセカンドアルバム『Bewitched』は、デビューアルバムの延長線上にテーマが置かれつつも、より深い側面が表されている。恋に恋している瞬間を捉えたことには変わりないものの、ミュージシャンがより成熟した人間としての展望を持つようになったことを表している。

 

「友人や恋人、人生に対する愛であれ、これは愛のアルバムです」とレイヴェイは語った。


ファースト・アルバムは、幼い頃に住んでいた家を出て、新しい街に引っ越し、初めて大人になったというようなことを歌ってました。けれど、今回のアルバムではそのようなことを少しずつ経験した上で、若さゆえの愛の魔法について書いているんです。

 

デビュー作の発表から大きな間隔を経ずにリリースされる2ndアルバム『Bewitched』は、新曲「Promise」をはじめ、発表後、1時間で100万回の再生数を記録した「From The Start」など珠玉の14曲が収録される。

 

クラシックやスタンダードジャズからインスピレーションを得て、オリジナルの音楽スタイルにますます磨きをかけるレイヴェイ。二作目のアルバムには、ソングライターとしての深化の瞬間が現れるはずだ。アイスランドから世界に羽ばたこうとするレイヴェイから今後も目が離すことが出来ない。

 

 

Laufey 「Promise」 New Single



 

Label: Asteri Entertainment

Release: 2023/6/14

 

Tracklist:

 

1. Promise


楽曲のストリーミング:

 

https://asteri.lnk.to/promise 

 

 

 

Label: Warp Records

Release: 2023/5/26


Review 


私たちは自分たちを人間と呼んでいますよね。でも、私たちは、お互いに動物的なことをする。人間らしさを奪うことで、不道徳を正当化する。彼らは動物だから、そのように扱うことができるんだ。この曲の中に出てくるさまざまな種類の小さな疑問は、すべて人間性に関する疑問を指しています。それとも、私はサーカスの動物なのだろうか? これらの問いは、私が人種について考える方法と交差しています。

 

ーーKassa Overall

 


カッサ・オーバーオールは、スコットランドのヤング・ファーザーズと同様、上記のようなレイシズム(人種差別)に対する問題を提起する。日本ではそれほど知名度が高くないアーティストの正体は依然として不明な点も多いが、ワープ・レコードの紹介を見る限り、基本的には、カッサ・オーバーオールはラップのリリシストとしての表情に合わせてジャズ・ドラム奏者としての性質を併せ持っているようだ。

 

それは例えば、同レーベルに所属するYves Tumorと同様、ブレイクビーツの要素を備えるソウル/ラップの音楽性に加えて、古典的なジャズの影響がこのアルバムに色濃く反映されていることがわかると思う。そして、それはモダンジャズに留まらず、タイトル曲「It's Animals」ではニューオリンズのオールドなラグタイムブルースという形で断片的に現れている。全般的には、ジャズの側面から解釈したヒップホップというのが今作の本質を語る上で欠かせない点となるかもしれない。そして、表向きには、前のめりなリリシストとしての姿が垣間見えるけれど、その背後にピアノのフレージングを交え、繊細な感覚を表そうとしているのもよく理解できる。ときおり導入される豚の鳴き声は、「動物」として見做される当事者としての悲しみが含まれており、それはとりもなおさず制作者のレイシズムに対する密かな反駁であるとも解釈できる。しかし、それは必ずしも攻撃的な内容ではなく、内省的なアンチテーゼの範疇に留められている。つまりオーバーオールは問題を提起した上で、それを疑問という形に留めているのだと思う。つまり、そのことに関して口悪く意見したり、強い反駁を唱えるわけではないのだ。

 

その他にも、暗喩的にそれらのレイシストに対するアンチテーゼが取り入れられている。アルバムのオープニングを飾る「Anxious Anthony」は、ゲーム音楽の「悪魔ドラキュラ城」のテーマ曲を彷彿とさせ、ユニークでチープさがあって親しみやすいが、これもまたアートワークと平行して、人間ではない存在としてみなされることへほのかな悲しみが込められているようにおもえる。

 

「Ready To Ball」以降のトラックは、カッサ・オーバーオールのジャズへの深い理解とパーカッションへの親近感を表すラップソングが続いてゆく。リリックは迫力味があるが、比較的落ち着いており、その中に導入される民族音楽のパーカッションも甘美的なムードに包まれており、これが聞き手の心を捉えるはずだ。しかし、オーバーオールはオートチューンを掛けたボーカルをコーラスとして配置することにより、生真面目なサウンドを極力避け、自身の作風を親しみやすいポピュラーミュージックの範疇に留めている。オーバーオールは、音楽を単なる政治的なプロバガンダとして捉えることなく、ジャズのように、ゆったりと多くの人々に楽しんでもらいたい、またあるいは、その上で様々な問題について、聞き手が自分の領域に持ち帰った後にじっくりと考えてもらいたいと考えているのかもしれない。その中に時々感じ取ることが出来る悲哀や哀愁のような感覚は、不思議な余韻となり、心の奥深くに刻みこまれる場合もある。

 

リリックの中には、世間に対する冷やかしや、ふてぶてしさもしたたかに込められており、「Clock Ticking」では、トラップの要素とブレイクの要素を交え、サブベースの強いラップソングを披露している。この曲は、旧来のワープレコードの系譜を受け継ぐトラックとして楽しむことが出来る。その後、カッサ・オーバーオールの真骨頂は、幽玄なサックスの演奏を取り入れ、フリージャズとダブとエレクトロニックを画期的に混合させた「Still Ain't Find Me」で到来する。トラックの終盤にかけて、アヴァン・ジャズに近い展開を織り交ぜつつ、ブレイクビーツの意義を一新し、その最後にはノスタルジックなラグタイム・ジャズのピアノを混淆させた前衛的な領域を開拓してみせている。まさに、Yves Tumorがデビュー・アルバムで試みたようなブレイクビーツの新しい形式をジャズの側面から捉えた画期的なトラックとして注目しておきたい。

 

このアルバムの魅力は前衛的な形式のみにとどまらない。その後、比較的親しみやすいポピュラー寄りのラップをNick Hakimがゲスト参加した「Make My Way Back Home」で披露している。Bad Bunnyのプエルトリコ・ラップにも近いリラックスした雰囲気があるが、オーバーオールのリリックは情感たっぷりで、ほのかな哀しみすら感じさせるが、聴いていて穏やかな気分に浸れる。


「The Lava Is Calm」も、カリブや地中海地域の音楽性を配し、古い時代のフィルム・ノワールのような通らしさを示している。ドラムンベースの要素を織り交ぜたベースラインの迫力が際立つトラックではあるが、カッサ・オーバーオールはラテン語のリリックを織り交ぜ、中南米のポピュラー音楽の雰囲気を表現しようとしている。これらの雑多な音楽に、オーバーオールは突然、古いモノクロ映画の音楽を恣意的に取り入れながら、時代性を撹乱させようと試みているように思える。そしてそれはたしかに、奇異な時間の中に聞き手を没入させるような魅惑にあふれている。もしかすると、20世紀のキューバの雰囲気を聡く感じ取るリスナーもいるかもしれない。

 

「No It Ain't」に続く三曲も基本的にはジャズの影響を織り交ぜたトラックとなっているが、やはり、旧来のニューオリンズのラグタイム・ジャズに近いノスタルジアが散りばめられている。そのうえで、クロスオーバーやハイブリッドとしての雑多性は強まり、「So Happy」ではアルゼンチン・タンゴのリズムと曲調を取り入れ、原初的な「踊りのための音楽」を提示している。このトラックに至ると、ややもすると単なる趣味趣向なのではなく、アーティストのルーツが南米にあるのではないかとも推察出来るようになる。それは音楽上の一つの形式に留まらず、人間としての原点がこれらの曲に反映されているように思えるからだ。 


最初にも説明したように、タイトル曲、及び「Maybe We Can Stay」は連曲となっており、ラグタイム・ジャズの影響を反映させて、それを現代的なラップソングとしてどのように構築していくのか模索しているような気配もある。アルバムの最後に収録される「Going Up」では、ダブステップやベースラインの影響を交え、チルアウトに近い作風として昇華している。ただ、このアルバムは全体的に見ると、アーティストとしての才覚には期待できるものがあるにもかかわらず、着想自体が散漫で、構想が破綻しているため、理想的な音楽とは言いがたいものがある。同情的に見ると、スケジュールが忙しいため、こういった乱雑な作風となってしまったのではないだろうか。アーティストには、今後、落ち着いた制作環境が必要となるかも知れない。



74/100

 

Featured Track 「Going Up」 
 

 

 

米国のシンガーソングライター、Meshell Ndegeocello(シェル・リン・ジョンソン)は、Jeff ParkerのブルージーなギターラインとJustin Hicksのボーカルをフィーチャーした、Sly Stoneに影響を受けた新曲「Clear Water」を、Ndegeocelloのバンドがスタジオで演奏する魅力あるライブ映像とともにリリースしました。ライブ映像は下記よりご覧いただけます。

 

「Clear Water」は、マルチ・インストゥルメンタリスト、シンガー、ソングライター、プロデューサーであるミシェル・ンデゲオチェロのブルーノート・デビュー作「The Omnichord Real Book」を飾る最新シングルで、彼女の音楽のルーツを幅広く取り入れた先見性のあるアルバムとして6月16日に発売されます。このアルバムには、ジェイソン・モラン、アンブローズ・アキンムジール、ブランディー・ヤンガー、ジュリアス・ロドリゲス、マーク・ギリアナ、コーリー・ヘンリー、ジョーンアズポリスウーマンなどのゲストアーティストが参加しています。


「このアルバムは、古いものを新しい方法で見る方法についてです」とミシェル・ンデゲオチェロは、『オムニコード・リアルブック』についてこう語っている。「両親が亡くなったとき、すべてが急速に動いた。両親の死後、すべてが急速に変化し、自分自身に対する見方が瞬く間に変わりました。両親の遺品を整理しているうちに、父がくれた最初のリアルブックを見つけたんだ。そして私は彼らの記録を手に入れた。私が聞き、学び、覚えて育ったものだ。そして、人生というものを体験した私は、想像の世界に入り込み、音楽を聴くことを求められるのです」


 

 

ニューアルバムをサポートするために、ミシェル・ンデゲオチェロは、6月21日にニューヨークのブルーノート・ジャズ・フェスティバル、7月29日にナパ・バレーでの公演を含む今後のツアー日程も発表し、ミネアポリス、ミルウォーキー、シカゴ、ワシントンDC、フィラデルフィア、イギリスのウィズボーンで行われるWe Out Here Festivalでのコンサートも予定しています。

 


Blue Noteは新たにブルックリンを拠点にするマルチ奏者・SSWのCautious Clay(コーシャス・クレイ)と契約したことを発表し、今年後半にリリース予定のレーベル・デビューのリード・シングル「Ohio」も同時に公開しています。

 

2017年以来、Cautious Clayは心のこもったソングライティングと、ポップ、オルタナティブR&B、インディーロックの間を流動的に行き来する独自のサウンドで、着実に熱心なファンベースを築いてきました。次の動きとして、クリーブランド出身でニューヨークを拠点とするシンガー、ソングライター、マルチ・インストゥルメンタリスト、プロデューサーとして知られる。

 

「Ohio」は、Cautiousがクリーブランドで育ったころの体験に触れています。この曲は、1970年代のアイズレー・ブラザーズを彷彿とさせるファットなベースラインに合わせて闊歩し、カウシャスのエモーショナルなテナーボイスが、広大なハートランドで自分の選択肢を探る若きジョシュアの姿を描いた歌詞とともに夢のようなサウンドスケープを浮遊しています。

 

 

「Ohio」

 


幼い頃、ジョシュアの両親は、家の中でクラシックなR&Bやジャズを演奏していた。7歳のとき、彼はフルートを習うことを決意した。師匠のグレッグ・パティロは、後にYouTubeの「Beatbox Flute」シリーズで一躍有名になった人物で、クリエイティブで現代的な楽器へのアプローチ方法を彼に伝授した。コーシャスは高校ではサックスを始め、学校のジャズバンドや、街のジャズグループ、ロックバンドで演奏。大学進学のため、ワシントンDCに移り、ジョージ・ワシントン大学で国際問題を専攻し、ジャズを副専攻した。また自分でトラックを書き、プロデュースし、SoundcloudでCautious Clayとして自分の音楽的アイデンティティを磨いた。

 

Joshua Redman

過去30年間に登場したジャズアーティストの中で最も高い評価とカリスマ性を持つサックス奏者、Joshua Redman(ジョシュア・レッドマン)が、ブルーノート・レコードと契約しました。

 

レッドマンは今秋、ブルーノートのデビュー作『where are we』をリリースする予定で、アルバム発売後は米国とヨーロッパで同プロジェクトのツアーを行う予定です。詳細は公式サイトよりご確認下さい。Blue Noteとの契約についてアーティストは以下のようにコメントを発表しています。


「ブルーノート・ファミリーに参加できることをとても光栄に思い、ただただ感激しています。ブルーノートのアルバムは、自分が持っていることに気づくずっと前から、私の音楽的(そして精神的)生活にとって不可欠なものでした」

 

「ブルーノートのアルバムは、自分が持っていることに気づくずっと前から、私の音楽的(そして精神的)な人生の重要な部分を占めています・私は、史上最高のレーベルの1つと共に、私のレコーディングの旅におけるこの新しい段階に乗り出すことを、感謝と喜びの両方を持って楽しみにしています」

 

Yussef Dayes


ロンドンやマンチェスターでは、現在、ジャズシーンが盛り上がりをみせていますが、気鋭のジャズドラマーとして注目したいのがユセフ・デイズ。彼はニューアルバム「Black Classical Music」を9月8日にリリースします。

 

このパーカッショニストは、ユセフ・カマールの唯一のアルバムで重要な役割を果たし、今、UKジャズに浸透しているエネルギーの波の重要人物です。ユセフ・カマールの唯一のアルバムで重要な役割を果たしたこのプロジェクトは、その後、大胆なソロ活動や、トム・ミッシュとのコラボレーションを行いました。

 

ニューアルバム「Black Classical Music」はなんと19曲収録。パーカッショニストの重要な影響に触れている。このタイトルは、ジャズの代替時間としてよく使われるもので、要するに、ディアスポラ的な経験から生まれた自由な即興的な構成です。

 

ユセフ・デイズはメモの中で、こうした経験の連続性、世代を超えた会話、そして彼自身の創造性のオープンエンドな側面を強調しています。彼は、次のように書いています。

 

ジャズとは何か?その語源はどこにあるのだろう?ニューオーリンズで生まれ、ミシシッピ川の腹で生まれ、カリブ海、南米文化、アフリカの儀式のガンボ鍋に根ざしています。マイルス・デイビス、ラーサン・ローランド・カーク、ニーナ・シモン、ジョン・コルトレーン、ルイ・アームストロングの系譜を継ぎ、永遠に進化し続ける音楽は、無限の可能性を持っています。


グルーヴ、フィーリング、作曲、自発性、家族への愛、黒人クラシック音楽家のパンテオンが設定した非常に高いハードルを維持するための規律と献身的な努力。心臓の鼓動を模したドラムのリズムを追いかけ、心と精神のためのメロディー、核となるベース。この音楽体にふさわしいリーガル・サウンドです。


ロンドンのサックス奏者VennaとCharlie Stacyが参加したタイトル曲は、現在オンラインで聴くことができます。


「Black Classical Music」

 

 

 Yussef Dayes 『Black Classical Music』



 

Label: Blownswood Recordings

Release: 2023/9/8

 

Tracklist:

1. Black Classical Music ft. Venna & Charlie Stacey
2. Afro Cubanism
3. Raisins Under The Sun ft. Shabaka Hutchings
4. Rust ft. Tom Misch
5. Turquoise Galaxy
6. The Light ft. Bahia Dayes
7. Pon Di Plaza ft. Chronixx
8. Magnolia Symphony
9. Early Dayes
10. Chasing The Drum
11. Birds of Paradise
12. Gelato
13. Marching Band ft. Masego
14. Crystal Palace Park ft. Elijah Fox
15. Presidential ft. Jahaan Sweet
16. Jukebox
17. Woman’s Touch ft. Jamilah Barry
18. Tioga Pass ft. Rocco Palladino
19. Cowrie Charms ft. Leon Thomas & Barbara Hicks

 Josiah Steinbrick 『For Anyone That Knows You』

 

 

Label: Unseen Words/Classic Anecdote

Release: 2023/4/21

 

 

Review


残念なことに、先日、坂本龍一さんがこの世を去ってしまったが、彼の音楽の系譜を引き継ぐようなアーティストが今後出てこないとも限らない。彼のファンとしてはそのことを一番に期待してきたいところなのだ。

 

さて、これまでJosiah Steinbrickという音楽家については、一度もその音楽を聴いたことがなく、また前情報もほとんどないのだが、奇異なことに、その音楽性は少しだけ坂本龍一さんが志向するところに近いように思える。 現在、ジョサイア・スタインブリックはカルフォルニアを拠点に活動しているようだ。またスタインブリックはこれまでに三作のアルバムを発表している。

 

ジョサイア・スタインブリックのピアノソロを中心としたアルバム『For Anyone That Knows You』の収録曲にはサム・ゲンデルが参加している。基本的には、ポスト・クラシカル/モダンクラシカルに属する作品ではあるが、スタインブリックのピアノ音楽は、モダンジャズの影響を多分に受けている。細やかなアーティスト自身のピアノのプレイに加え、ゲンデルのサックスは、簡素なポスト・クラシカルの爽やかな雰囲気にジャジーで大人びた要素を付け加えている。

 

スタインブリックのピアノは終始淡々としているが、これらの演奏は単なる旋律の良さだけを引き出そうというのではなく、内的に豊かな感情をムードたっぷりの上品なピアノ曲として仕立てようというのである。ジャズのアンサンブルのようにそつなく加わるゲンデルのサックスもシンプルな演奏で、ピアノの爽やかなフレーズにそっと華を添えている。それほどかしこまらずに、インテリアのように聞けるアルバムで、またBGMとしてもおしゃれな雰囲気を醸し出すのではないだろうか。

 

ただ、これらの心地よいBGMのように緩やかに流れていくポスト・クラシカル/モダン・ジャズの最中にあって、いくつかの収録曲では、ジョサイア・スタインブリックの音楽家としてのペダンチックな興味がしめされている。二曲目の「Green Glass」では、ケチュア族の民族音楽家、レアンドロ・アパザ・ロマス/ベンジャミン・クララ・キスペによる無題の録音の再解釈が行われている。これらの音楽家の名を聴いたことがなく、ケチュア族がどの地域の民族なのかも寡聞にして知らないが、スタインブリックはここで、ポーランドのポルカのようなスタイルの舞踏音楽をジャズ風の音楽としてセンスよくアレンジしているのに着目したい。

 

その他にも、 「Elyne Road」では、マリアン・コラ(Kora: 西アフリカのリュート楽器)の巨匠であるトゥマニ・ドゥアバテの原曲の再構成を行い、ソロピアノではありながら、民謡/フォークソングのような面白い編曲に取り組んでいる。加えて、終盤に収録されている「Lullaby」では、ハイチ系アメリカ人であるフランツ・カセウスという人物が1954年に記録したクレオールの伝統歌を編曲している。ララバイというのは、ケルト民謡が発祥の形式だったかと思うが、もしかすると、スコットランド近辺からフランスのクレオール諸島に、この音楽形式が伝播したのではないかとも推測出来る。つまり、これらの作曲家による再編成は音楽史のロマンが多分に含まれているため、そういった音楽史のミステリーを楽しむという聞き方もできそうである。

 

もうひとつ面白いなと思うのが、アルバムのラストトラック「Lullaby」において、ジェサイア・スタインブリックはクロード・ドビュッシーを彷彿とさせるフランス近代和声の色彩的な分散和音を、ジャズのように少し崩して、ピアノの音階の中に導入していることだろう。この曲は、部分的に見ると、民謡とジャズとクラシックを融合させた作品であると解釈することが出来る。

 

『For Anyone That Knows You』は、人気演奏家のサム・ゲンデルの参加により一定の評判を呼びそうである。また、追記として、スタインブリックは、作曲家/編曲家/ピアニストとしても現代の音楽家として素晴らしい才覚を感じさせる。今作については、その印象は少しだけ曇りがちではあるけれど、今後、どういった作品をリリースするのかに注目していきたいところでしょう。

 

Josiah Steinbrick 『For Anyone That Knows You』は4月21日より発売。また、ディスクユニオンNewton RecordsTobira Recordsで販売中です。

 

 82/100

 

 Mark de Clive-lowe, Shigeto, Melaine Charles

『Hotel San Claudio』

 



 

作曲家、ピアニスト、DJであり、ジャズ、ダンス、ヒップホップの架け橋として20年にわたり活躍してきたマーク・ド・クライヴ・ロウ(MdCL)が、ブルックリンを拠点にハイチ出身のジャズ・ヴォーカリスト兼アーティスト、メラニー・チャールズとデトロイトのドラマー/プロデューサー/DJ、シゲトとコラボしたアルバム、ホテル・サンクローディオが遂に登場する。ファラオ・サンダースの再解釈を含む3トラックセットのスピリチュアル・ジャズをライブ感あふれるビーツに変換し収録している。


メラニー・チャールズのデビューアルバム『Y'all Don't (Really) Care About Black Women』、MdCLが2022年にドワイト・トリブルとテオドロス・アヴェリーを迎えてリリースした最後のロングプレイヤー『フリーダム - ファロア・サンダースの音楽を祝う』に続き、3人の先鋭ミュージシャンは、9トラックの音の探求と即興によるジャズ、ヒップホップ、ソウルなハウスにわたる芸術の旅に参加することになった。


また、ファラオ・サンダースが最近亡くなったことを受け、偉大なマスターの3つの再解釈、「The Creator Has a Master Plan」(ここでは2つのバージョンがある)と「Love is Everywhere」は、彼のメッセージと精神をそのままにこの曲を再創造する方法として機能している。


マーク・ド・クライブ・ロウは、「ファラオ・サンダースが私たちに提供するものは、人間の状態を反映したものであり、私たちがなりうるすべての願望を包んでいる」と表現している。「サンダースの精神は、私たちがどのように、どのように創作するかを導く道標であると考えるからです」


イタリア/ウンブリアの首都ペルージャから東へ90分、なだらかな丘、アドリア海、絵のように美しいイタリアの田園風景を背景に、自然の中でくつろぎ、クラシックなデザインのホテルが、3年近くかけて実現した刺激的なコラボにより、一瞬にして我が家のようにアットホームな場所に生まれ変わった。


この旅は、2018年にアメリカのデトロイトで始まった。特別なデュオ・パフォーマンスと銘打たれ、コラボレーター/リミキサーMdCL(Nubya Garcia, Bugz In The Attic, Dwight Trible, Ge-Ology)が、デトロイト出身のザック・サギノーことShigeto(Andrés、Dabrye、Shlohmo)とともに地元の会場、モーターシティ・ワインを舞台にパフォーマンスを行うよう招待された。


2人は実際会ったことがなかったにもかかわらず、真剣なセッションが行われた。数ヶ月後、イタリアで、MotorCity Wineを組み込んだFat Fat Fat Festivalは、2019年のプログラムのオープニングにこの2人をフィーチャーすることに照準を合わせた。しかし、2人はパズルのピースが欠けていると感じていた。そこで登場したのが、"トリプル・スレット"ことメラニー・チャールズだ。


2018年10月にブルックリンで開催されたフェスティバルのポストショーで初めてつながり、その後、日本の加賀市で2週間のスタジオ・レジデンシーを行ったMdCLは、チャールズが完璧にコラボレーターとしてフィットすると確信したのだった。


Fat Fat Fatでのヘッドライン・セット(そして、その後、このニュー・アルバム)となる素材の執筆とリハーサルの間に、トリオは週の大半をぶらぶらして風を切り、イタリア料理/ワインと音楽のお気に入りを共有した。その中で、影響を受けたミュージシャンの一人が、サックスの巨人、宇宙の賢人でもあるファロア・サンダースだった。


トリオは、サンダースの30mに及ぶ名作「The Creator Has A Master Plan」と象徴的な「Love Is Everywhere」を2部構成で演奏し、ホテル・サン・クラウディオのスピリチュアルに焦点を当てたジャズの中心的な存在とした。


この曲には普遍性があり、美しくシンプルな2コードのメジャーハーモニーとマントラのようなテーマがある。さらに「この曲には、宗教的、精神的なものであろうとなかろうと、世代やイデオロギー、文化の違い、それらを超えて全ての人に届くような何かが込められている」とトリオは説明する。


さて、その数ヵ月後、ニューヨークの有名なジャズライブハウスNubluで行われたマーシャル・アレン監督によるサン・ラ・アーケストラのライブに続いて、Fat Fat Fatでのトリオのパフォーマンスを行った。(当日はミニ竜巻でほとんど中止になるも、会場はまさに熱狂的だったという)

 

翌日、3人はすぐにスタジオ入りし、前日の熱狂そのままにライブセッションの音をテープに収録する。シゲトのディラ風スラップ、メラニー・チャールズの巧みなライム、MdCLのサンプル・チョップなど、ヒップホップへの愛が感じられるパーフェクトなシングルである。


MdCLのアルバム『Heritage』で初めて披露された『Bushido』は、70年代のジャズ・フュージョンに重きを置いており、MdCLのシンセの衝動とドナルド・バード寄りのソウル・ジャズのプロダクションが、雰囲気と実験の境界を這うように展開している。MFTでは、Charlesのボーカルが、大きなリバーブとディレイで処理され、Hotel San Claudio全体に存在する、広大な天空のようにゆったりとした質感を与えているのがわかる。


トリオのケミストリーは、どんな形であれ、新境地を開拓することに長けており、その勢いは現在のところ衰え知らずである。LA、デトロイト、ニューヨーク、そして日本からイタリアを経由し、Hotel San Claudioは、今まさに世界に飛び立とうとしているのである。

 


Shigeto/Mark de Clive-lowe/Melaine Charles


Mark de Clive-lowe、Shigeto、Melaine Charlesから成るトリオは、コラボレーションという本質に迫り、そして、ミュージシャンの異なる性質が掛け合わるということがなんたるかを今作においてはっきりと示している。


昨年9月に亡くなった米国アーカンソー州のジャズの巨匠、ファラオ・サンダースに捧げられた『Hotel San Claudio』は、少なくとも単なるトリビュート・アルバム以上の価値を持つように思える。それは固定化し概念化したジャズシーンに対して新風を吹き込むとともに、音楽の新たな可能性の極限をトリオは探求しようというのだ。

 

『Hotel San Claudio』は、イタリアにあるホテルを主題に据えた作品である。もちろんタイトルから連想される優雅さは全体に見出すことが出来るが、なんと言っても、巨匠のもたらした音楽の革新性を次世代に受け継ごうというトリオの心意気が全面に漲ったパワフルな一作と呼べるだろう。

 

そもそも、ファラオ・サンダースはスピリチュアル・ジャズとしてのテーマを音楽性の中心に据えていた。マーク・デ・クリーヴ・ロウ(MdCL)、シゲト、メライン・チャールズの三者は、DJ、ドラマー、ヴォーカリスト/フルート奏者として、スピリチュアルな要素と、ジャズ、ソウル、ディープハウス、アフロ・カリビアン・ジャズ、 ヒップホップという幅広い視点を通じて、刺激的な作品を生み出すことになった。


最近、トリオは「Jazz Is Dead」というキャッチフレーズを掲げ、ライブ/レジデンスを定期的に開催している。ジャズは死すというのは真実ではあるまいが、少なくともトリオはジャズにあたらしい要素を加味し、フューチャー・ジャズ、ニュー・ジャズ、クロスオーバー・ジャズの時代を次へ、さらに次へと進めようとしている。

 

このアルバムはソウルの要素が強いジャズとして、また、ウンブリア州のホテルの名に由来することからもわかるように、難しいことを考えずにチルな作品としても楽しめる。ただ、クロスオーバーという概念に象徴されるほとんどの音楽がそうであるように、細分化された音楽の影響がところどころに見られる。そして、トリオの音楽的なルーツがなんの気兼ねもなく重なり合うことで、明るく開放的なエネルギーを形成しているのである。

 

マークによるスクエア・プッシャーの全盛期のような手がつけられない前衛的なサンプラーやシンセサイザーのフレーズ、シゲトのチョップを意識したビート、さらにアフロ・キューバン・ジャズの影響を踏まえたチャールズのフルート、そして、マイケル・ジャクソンのバンドとして参加したこともある彼女のヒップホップとソウルの系譜にあるパワフルなボーカル/ライムは実際のセッションを介してエネルギーをバチバチと言わせ、そしてジャズともソウルともつかない異質なスパークを形成し、リスナーに意外な驚きをもたらすのである。

 

ニューエイジ/スピリチュアル・ジャズの系譜にあるオープニング・トラック「The Creator Has A Master Plan」において、トリオはくつろいだ雰囲気に充ちた音の世界を綿密に構築する。フルート奏者のメライン・チャールズの雰囲気たっぷりの演奏により、物質的な世界とも精神的な世界ともつかない音響世界へ聞き手をいざなう。そのスピリチュアルな音響空間に、ソウルフルなチャールズのメロウかつソフトなボーカルが乗せられる。

 

続く、カリブ音楽の変則的なリズムを交えた#2「Strings」は、ラップ、ディープ・ハウス、ジャズの合間を行くようなナンバーだ。前曲とは異なり、このトラックをリードするのは、DJのMark de Clive-lowe(MdCL)である。彼の独創性の高いベースラインとリードシンセが魅惑的なアンビエンスを形成し、それに合わさるような形で、シゲトのジャズ風のドラミングがトラックに力強さを付与する。さらに、メライン・チャールズのソウルフルなボーカルが加わることで、三位一体の完璧なジャズ・ソウルが組み上げられ、また、その上に爽やかなライムが加わる。


聞き手は実際のセッションを通じ、どのように音が構造的に組み上げられていくのか、そして、シゲトのシャッフル・ビートを多用したスリリングなリズム構成が曲全体にどのような影響を及ぼしているのか、そのプロセスに触れることが出来ると思う。


「Strings」

 

 

これらの前半部の動的なエネルギーに満ちた展開を受けて訪れる3曲目「MFT」は一転して、チルアウトの雰囲気に充ちたムーディーなナンバーに移行する。


スピリチュアル・ジャズの要素を端々に散りばめ、メライン・チャールズのメロウで奥行きのあるボーカルは、時にはアフリカ民族音楽のようなエキゾチズムを交え、さらにアフロジャズ風のフルート、そして、それに対するディレイ/リバーブを組み合わせることで、最終的にミステリアスな楽曲として昇華される。特に、前二曲と比べると、チャールズの伸びやかなボーカルを堪能出来るが、時には、ニューエイジ風の精神世界を反映させたような異質な雰囲気に溢れている。


続く、「Bushido」はハイライトのひとつで、ニュージーランド出身の日系人であるMark de Clive-lowe(MdCL)のルーツを形成する一曲だ。


彼は、ヨナ抜き音階をシンセを通じてスケールを維持してフレーズを紡いでいく。和風なエキゾチズムは、スピリチュアル・ジャズの系譜にあるメラインのフルートとマーク・デ・クライヴ・ロウのオシレーターによるレトロかつアバンギャルドなリードシンセによって増幅される。前3曲に比べ、マークとチャールズのセッションの迫力がより鮮明となる。さらに静と動を兼ね備えたシゲトのパワフルなドラムがセッションをこの上なく刺激的なものにしている。特にトリオの持つアバンギャルド・ジャズのムードが最も力強く反映された一曲となっている。


インタリュードを引き継ぐ「Kanazawa」はもちろん言うまでもなく、日本の地名に因んでいる。アルバムの中で最もポピュラー要素が濃いナンバーであり、聞き手にやすらぎをもたらすこと請け合いだ。アルバムの前半部とは異なり、チャールズがセッションの主役となり、バックバンドを率いるかのような軽快さでリードする。ボーカルの合間に、チャールズはメロウなフルートを披露し、ポップなナンバーにアルバムのコンセプトであるリゾート地にいるようなリラックスした感覚を付与している。


さらに終盤に収録されているファラオ・サンダースのカバー「Love Is Everywhere」も沸き立つような雰囲気に満ち溢れたナンバーである。

 

フュージョン・ジャズ風のリズムに加え、ループ要素を込めたミニマルなフレーズとチャールズの快活なボーカルが劇的な融合を果たす。ジャズの巨匠ファラオ・サンダースが伝えようとした宇宙的な真実は、世界に平安をもたらすであろうことを証明している。また、ハスキーヴォイスを交え素晴らしいファルセットを披露するチャールズのボーカル、そして、マークのシンセの動的なエネルギーとシゲトのライブのような迫力を持つドラムの劇的な融合にも注目したい。

 

「Interlude(Degestivo)」は、5曲目の間奏曲の続きではなく、「The Creator Has A Master Plan」のテーマを変奏させたものと思われるが、それは別の意味が込められており、次の二曲目の連曲「The Creator Has A Master Plan Ⅱ」の呼び水ともなっている。


これらの構造的な性質を受け継いだ後の最終曲は、一曲目のスピリチュアルな雰囲気に回帰し、円環構造を形成する。この点は、実際に通しで聞いた時、サンダースの遺作の円環的な構造と彼の音楽的なテーマである神秘主義を思い起こさせ、全体に整合性があるような印象をもたらすはずだ。



84/100



Weekend Featured Track 「Kanazawa」


『Hotel San Claudio』はSoul Bank Musicより3月24日に発売。

 

©Samantha Isasian


Camae AyewaのプロジェクトであるMoor Motherは、2022年のアルバム「Jazz Codes」のデラックス・エディションを発表しました。Moor Motherはミュージシャンの他にも詩人として活躍する才媛である。5月19日に発売される拡張版には、Kyle Kidd、Keir Neuringer、Aquiles Navarroが提供した新曲「We Got the Jazz」が収録される。下記よりお聴きください。


「”We Got the Jazz”は、多くのポピュラー音楽がいかに凡庸であるか、資本主義的な構造について、そしてそれらの配置がいかに買われ、支払われているかについて私が考え抜いたものです」とカマエ・アイワは声明でこのシングルについて述べています。

 

ジャズに参加することを許された人、詩に参加することを許された人の白塗りについて話し、現在と未来において革新の余地はどこにあるのかを問うているのです。また、私のジャズバンド、Irreversible Entanglementsについて考えています。私たちは、ステージを破壊し、聴衆を元気づけ、ジャズシーンのすべての人に、認知されているかどうかにかかわらず、どのように世界中をツアーしてきたか。また、私自身が文化に与えた影響についても話しています。

 

 Ralph Towner 『At First Light』

Label: ECM Records

Release Date:2023年3月17日

 

 

Review 

 

ワシントン州出身の名ギタープレイヤー、ラルフ・タウナーはECMとともに長きにわたるキャリアを歩んできた。これまでの作品において、このレーベルに所属する他のアーティストと同様、コンテンポラリー・ジャズ、アヴァンギャルド・ジャズ、エキゾチック・ジャズと幅広い音楽性に挑んできた。ヤン・ガルバレク、ゲイリー・ピーコック、ゲイリー・バートン、これまで世界有数のジャズ演奏者を交え、コンスタントに良質なジャズギターを通じて作品を発表してきた。


ラルフ・タウナーは82歳のギタープレイヤーであるが、この作品はミュージシャンのハイライトを形成する一作である。そして面白いことに、本作には、これまでのジャズギターの革新者としての姿とともに、デビュー作『Diary』のアーティストの原点にある姿を捉えることが出来る。

 

アルバムは、オリジナル曲とカバー曲で構成されている。ホーギー・カーマイケルの「Little Old Lady」、ジュール・スタインの「Make Someone Happy」、フォーク・トラッドの「Danny Boy」、またたタウナー自身のジャズ・バンドであるOregonの曲の再解釈も収録されている。しかし、クラシカル、フォーク、ジャズ、 ミュージカルと多くのポイントから捉えられたクラシカルギター/ジャズ・ギターの素朴な演奏は、一貫してジャズのアプローチに収束するのである。

 

もちろん、そのフィンガーピッキングに拠る繊細なニュアンス、ジャズのスケールの中にスパニッシュ音楽の旋律を付け加えつつ、ラルフ・ターナーは最初の『Diary』の時代の原点に立ち返ろうとしているように思える。また、そのことは一曲目の「Flow」の上品で素朴なギターの模範的な演奏から立ち上る演奏者のクールな佇まいがアルバム全体を通じて感じられる。もちろん、単なる原点回帰というのは、アヴァンギャルド・ジャズ、ニュージャズを通過してきた偉大なジャズプレイヤーに対して礼を失した表現ともなるかもしれない。原点を振り返った上で現在の観点からどのように新しい音楽性が見いだせるのか、あらためてチャレンジを挑んだともいえるだろうか。

 

アルバムは全体的にカバー/オリジナルを問わず、穏やかで素朴な雰囲気に充ちた曲が占めており、演奏自体の豊富な経験による遊び心や優雅さも感じとることが出来る。そしてラルフ・タウナーの旧作を概観した際、タイトル・トラックは往年の名曲のレパートリーと比べても全く遜色がないように思える。デビュー当時の『Diary』の音楽性を踏襲した上で、そこにスペインの作曲家、フェデリコ・モンポウの「Impresiones intimes」を想起させる哀愁に満ちたエモーションを加味し、カントリーの要素を交えながら情感たっぷりのギター曲を展開させている。

 

他にもカバーソングでは他ジャンルの曲をどのようにジャズギターとして魅力的にするのか、トラッド・フォーク「Danny Boy」やブルース「Fat Foot」といった曲を通じて試行錯誤を重ねていった様子が伺える。もちろん、それは実際、聞きやすく親しみやすいジャズとして再構成が施されているのである。他にも、ラルフ・タウナーのOregonにおけるフォーク/カントリーの影響を「Argentina Nights」に見い出すことが出来る。さらに、ディキシーランド・ジャズのリズムを取り入れた「Little Old Lady」もまたソロ演奏ではありながら心楽しい雰囲気が生み出されている。アルバムの最後を飾る「Empty Space」はラルフ・タウナーらしい気品溢れる一曲となっている。


『At First Light」は、ジャズ・ギターの基本的なアルバムに位置づけられ、その中に、フォーク/カントリー、ブルース、クラシックといった多彩な要素が織り交ぜられている。以下のドキュメントを見てもわかる通り、音楽家としてのルーツを踏まえたかなり意義深い作品として楽しめるはずだ。同時に、タウナーの先行作品とは異なる清新な気風も感じ取れる作品となっている。

 

 

94/100

 

 

©︎Patrick O'brien Smith

シアトル出身で、現在、ブリックリンを拠点に活動するドラマー、プロデューサー、ラッパーであるKassa Overall(カッサ・オーバーオール)がWarp Recordsとの契約を発表し、ニューシングル「Ready to Ball」を公開しました。カッサ・オーバーオールはNYジャズシーンの最前線を行く才能とも称される。

 

「感情的なレベルで、この曲は本当に嫉妬の感情を扱っているんだ」とKassa Overallは声明の中で「Ready to Ball」について述べています。

 

「それはまた、上昇志向のハッスルに迷わないための、肯定でもあるんだ。私たちは、どれくらいの確率で光り輝くものを欲しがるのでしょう。それを手に入れるために、どれだけ自分を曲げられるか? 時には、「このままでは、自分の精神的な健康や魂の状態を確認する時間がない」と感じることがあります。それが基本的に両極端なんだよね」


ドラマーのビリー・ハートとピアニストのジェリ・アレンの弟子であるオーバーオールは、2019年の『Go Get Ice Cream and Listen to Jazz』と2020年の『I Think I'm Good』という2枚のスタジオ・アルバムをリリースしています。また、これまでにオノ・ヨーコ、ジョン・バティスト、フランシス・アンド・ザ・ライツらとコラボレートしている。

 

 「Ready to Ball」

©︎Schott Smith


2023年3月6日は、トム・ウェイツのデビュー・アルバム『クロージング・タイム』の発売から50周年にあたります。これを記念し、ANTI- Recordsは新しいヴァイナル・リイシューを発表しました。あらためてウェイツの初期の傑作をチェックしてみてください。


ラフトレードショップはこのデビュー作『Closing Time』について以下のように評しています。


トム・ウェイツの1973年のデビュー・アルバム『Closing Time』は、深夜の孤独の歌に満ちたマイナー調の傑作である。

 

カクテルバーのピアニスティックと呟くようなヴォーカルという一見狭い範囲の中で、ウェイツとプロデューサーのジェリー・イエスターは、ジャジーな「Virginia Avenue」からアップテンポのファンク「Ice Cream Man」まで、そしてアコースティックギターのフォーク調「I Hope That I Don't Fall in Love With You」からサルーンソング「Midnight Lullaby」まで、驚くほど幅広いスタイルのコレクションを実現しており、フランクシナトラかトニーベネットのレパートリーに加えたいほどの完成度がある。ウェイツの音楽的アプローチは、もちろん様式化されており、時には派生的な内容もある。


『Lonely』はランディ・ニューマンの『アイ・シンク・イッツ・ゴーイング・トゥ・レイン』を少し借りすぎている。しかし、彼には優しく転がるようなポップなメロディの才能もあり、印象的で独創的なシナリオを思いつくこともある。例えば、ベストソングの「Ol' 55」と「Martha」は控えめにストリングスで補強されている。「Closing Time」は、才能あるソングライターの登場を告げるもので、その自意識過剰なメランコリーは、驚くほど感動的である。 

 

 「Martha」-Original Version-

 

 

Artwork



 

Concord Jazz


Concord Jazz(コンコード・ジャズ)は、マイルス・デイヴィスの『Bitches Brew』にインスパイアされた新作を発表しました。『London Brew』と題されたこのレコードには、イギリスのジャズ・シーンの重要なプレイヤー、Nubya Garcia、Shabaka Hutchings、Dave Okumu、Tom Skinner、Benji B、Theon Crossらが複数参加しています。

 

2020年12月にロンドンのPaul Epworth's Church Studiosでレコーディングが行われた。3月31日に2xLP、2xCD、デジタルで発売される予定です。以下、トレーラーをチェックし、そのファースト・シングル「Miles Chases New Voodoo in the Church」を聴いてみてください。


ガルシアはプレスリリースでニューシングルについて次のように語っている。"このシングルは、マイルス・デイヴィスのジミ・ヘンドリックスへの頌歌('Miles Runs the Voodoo Down')を私たちが解釈したものです」

 

私はいつも、マイルスとジミの創造的な心にとても刺激を受けてきた...。2人とも自分の道を切り開いた革新者であり、それは、私が自分のキャリアで目指してきたものでもあります。ここしばらくは、自分の楽器でペダルやエフェクトを試したり使ったりしていたので、この曲で彼らの遺産に敬意を表しながら、それを実現できたことは、創造的にも個人的にも嬉しいことでした。


London Brewに参加したミュージシャンたちは、ギタリストのマーティン・テレフェとエグゼクティブ・プロデューサーのブルース・ランプコフによって、パンデミックのために結局中止となったBitches Brewの50周年を祝うライブのために集められた。「私にとって、ビッチェズ・ブリューとはそういうものだ」とシャバカ・ハッチングスは声明で述べている。

 

純粋に音楽が好きで音楽を作っているミュージシャンたちが、社会的な力として、社会的な構成要素として、音楽活動に取り組んでいる。彼らは、団結と動きを表現するものを作っている。それが生きているということなんだ。統一感があり、運動があり、振動がある。それ以上に生きていることはないよ。つまり、それがビッチェズ・ブリューなんだ。


 

 

 



Concord Jazz 『London Brew』 

 


 
Label: Concord Jazz

Release: 2023年3月31日
 

Tracklist:

1. London Brew
2. London Brew Pt.2 – Trainlines
3. Miles Chases New Voodoo in the Church
4. Nu Sha Ni Sha Nu Oss Ra
5. It’s One of These
6. Bassics
7. Mor Ning Prayers
8. Raven Flies Low


Keith Jarret  『Dramaten Theater,Stockholm Sweden September 1972』

 

 

 

 

 Label : Lantower Records

 Release Date: 2023年1月2日

 

 

Review


 米国のジャズ・ピアニストの至宝、キース・ジャレットは、間違いなく、ビル・エヴァンスとともにジャズ史に残るべきピアニストのひとりである。

 

 若い時代、ジャレットはマイルス・デイヴィスのバンドにも所属し、ECMと契約を結び、ジャズとクラシックの音楽を架橋させる独創的な演奏法を確立した。その後、90年代になると、難病の慢性疲労症候群に苦しんだけれども、最愛の妻の献身的な介抱もあってか、劇的な復活を遂げ、『The Melody At Night,With You」(ECM 1999)という傑作を作りあげた。ピアニストの過渡期を象徴するピアノ・ソロ作品には、その時、付きっきりで介抱してくれた最愛の妻に対する愛情を込めた「I Love You, Porgy」、アメリカの民謡「Sherenandoah」のピアノ・アレンジが収録されている。2000年代に入ってからも精力的にライブ・コンサートをこなしていたが、数年前に、ジャーレットは脳の病を患い、近年は神経による麻痺のため、新たに活動を行うことが困難になっている。そして、残念ながら、コンサート開催も現時点ではのぞみ薄で、昨年発売されたフランスでのライブを収録した『Bordeaux Concert(Live)』もまた、そういった往年のファンとしての心残りや寂しさを補足するようなリリースとなっている。

 

 ジャレットの傑作は、そのキャリアが長いだけにあまりにも多く、ライブ盤、スタジオ盤ともにファンの数だけ名盤が存在する。ライブの傑作として名高い『ケルン・コンサート」は、もはや彼の決定盤ともいえようが、その他、『At The Deer Head Inn』がニューオーリンズ・ジャズのゴージャスな雰囲気に充ちており、異色の作品と言えるかもしれないが、彼の最高のライブ・アルバムであると考えている。また、ECMの”NEW SERIES”のクラシック音楽の再リリースの動向との兼ね合いもあってか、これまで、ジャレットは、バッハ、モーツァルト、ショスターコーヴィッチといったクラシックの大家の作品にも取り組んでいる。クラシックの演奏家として見ると、例えば、ロバート・ヒルのゴールドベルク、オーストリアの巨匠のアルフレッド・ブレンデル、その弟子に当たるティル・フェルナーの傑作に比べると多少物足りなさもあるけれど、少なくとも、ジャレットはジャンルレスやクロスオーバーに果敢に挑んだピアニストには違いない。彼は、どのような時代にあっても孤高の演奏家として活躍したのである。

 

 今回、リリースされた70年代でのスウェーデンのフル・コンサートを収録した『Dramaten Theater,Stockholm Sweden September 1972』は、今作のブートレグ盤の他にも別のレーベルからリリースがある。私はその存在をこれまで知らなかったが、どうやらファンの間では名盤に数えられる作品のようで、これは、キース・ジャレットがECMに移籍した当初に録音された音源である。もちろん、ブートレグであるため、音質は平均的で、お世辞にも聞きやすいとは言えない。ノイズが至る箇所に走り、音割れしている部分もある。だが、この演奏家の最も乗りに乗った時期に録音された名演であることに変わりなく、キース・ジャレットのピアノ演奏に合わせて聴こえるグレン・グールドのような唸りと、演奏時の鮮明な息吹を感じとることが出来る。

 

 また、本作は、40分以上に及ぶストックホルム・コンサートは、ジャレットの演奏法の醍醐味である即興を収録した音源となっている。意外に知られていないことではあるが、最後の曲では、ジャレット自ら、フルートの演奏を行っている。そして、素直に解釈すると、本作の聞き所は、ジャズ・ピアノの即興演奏における自由性にあることは間違いないが、着目すべき点はそれだけにとどまらない。すでに、この70年代から、ジャレットは、バッハの「平均律クレヴィーア」の演奏法を、どのようにジャズの中に組み入れるのか、実際の演奏を通じて模索していったように感じられる。音階の運びは、カウンターポイントに焦点が絞られており、ときに情熱性を感じさせる反面、グレン・グールドの演奏のように淡々としている。ただ、これらの実験的な試みの合間には、このジャズ・ピアニストらしいエモーションが演奏の節々に通い始める。これらの”ギャップ”というべきか、感情の入れどころのメリハリに心打たれるものがある。

 

 それらは、高い演奏技術に裏打ちされた心沸き立つような楽しげなリズムに合わせて、旋律が滑らかに、面白いようにするすると紡がれていく。さらに、二曲目、三曲目と進むにしたがって、演奏を通じて、キース・ジャレットが即興演奏を子供のように心から楽しんでいる様子が伝わってくるようになる。公演の開始直後こそ、手探りで即興演奏を展開させていく感のあるジャレットではあるが、四曲目から五曲目の近辺で、がらりと雰囲気が一変し、ほとんど神がかった雰囲気に満ち溢れてくる。それは目がハッと覚めるような覇気が充溢しているのである。

 

 コンサートの初めの楽しげなジャズのアプローチとは対象的に、中盤の四曲目の演奏では、現代音楽を意識したアヴァンギャルドな演奏に取り組んでいる、これは、60年代に台頭したミニマル・ミュージックの影響を顕著に感じさせるものであり、フランスの印象派の作曲家のような色彩的な和音を交えた演奏を一連の流れの中で展開させ、その後、古典ジャズの演奏に立ち返っていく様子は、一聴に値する。更に、続く、五曲目の即興では、ラグタイムやニューオーリンズの古典的なジャズに回帰し、それを現代的に再解釈した演奏を繰り広げている。続く、六曲目では、ジャレットらしい伸びやかで洗練されたピアノ・ソロを楽しむことが出来る。

 

 そして、先にも述べたように、最後のアンコール曲では、フルートのソロ演奏に挑戦している。これもまた、このアーティストの遊び心を象徴する貴重な瞬間を捉えた録音である。楽曲的には、民族音楽の側面にくわえて、その当時、前衛音楽として登場したニュー・エイジ系の思想や音楽を、時代に先んじてジャズの領域に取り入れようという精神が何となく窺えるのである。


 この70年代前後には、様々な新しい音楽が出てきた。そういった時代の気風に対して、鋭い感覚を持つキース・ジャレットが無頓着であるはずがなく、それらの新鮮な感性を取り入れ、実際に演奏を通じて手探りで試していったのだ。いわば、彼の弛まぬチャレンジの過程がこのストックホルム・コンサートには記されている。また、後に、ジャズ・シーンの中でも存在感を持つに至るニュー・ジャズの萌芽もこの伝説のコンサートには見いだされるような気がする。