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Album Of The Year 2025    Vol.1 



毎年のようにアルバムオブザイヤーのリストを眺めていますと、年々、目録そのものが膨大になり、内容もまた濃密になっているという気が致します。私自身もすべてを把握しているというわけではございませんが、今年の音楽の流れを見ていると、ジャンルを問わず、全体的にポップ化しているという印象を受けます。ポップ化というのは、音楽が一般化されるということで、より多くのリスナーを獲得したいというミュージシャン側の意図も読み解くことができます。

 

日に日に、ジャンルそのものは多様化し、細分化しているため、以前のようなロックやポップという大まかなジャンルというのはさほど意味をなさなくなってきています。それが全体的なクロスオーバーの流れを象徴づけており、ポップアーティストがロックに傾倒したり、対照的にロックアーティストがポップソングを制作したりというように、音楽そのものはより多様化しています。これもまた、イギリスやアメリカといった音楽の主要な産業地の特色です。なおかつ、今年はこれまであまり大きな注目を受けてこなかった地域のアーティストの活躍が目立ちました。

 

アフリカ圏のミュージシャンが音楽産業の主要地のレーベルから登場した事例や、イスラム圏の音楽家の活躍も目立ち始めています。また、ドイツのミュージシャンの活躍も際立っていました。今までワールドミュージックとして認識されてきた地域の音楽がメインストリームに現れたことに加え、音楽という分野が往古から栄えてきた地域で復興運動が沸き起こっています。これを音楽のルネッサンス運動とまでは明言することは出来かねますが、面白い流れが見出せます。

 

今日のグローバル化した世界はさまざまな人種や文化を内包させながら、変化していくなさかにある。我々の時代は次なる段階を迎えつつあり、雑多な文化を取り込み、明日の世界は形作られていく。世界的な文化観が形成されていく中で、同時に、もう一つカウンター的な流れを捉えることも出来ます。それが独自のローカライゼーション(地域化)に注目するグループであり、これは''その土地の特性や風土を生かした音楽を打ち出す''というスタイルに他なりません。


従来の世界において音楽という分野は社会と連動してきた経緯があります。なぜなら、音楽という行為は、大小を問わず、個人や大衆の社会の姿を映し出すものであり、世界そのものだからです。結局のところ、グローバル/ローカルという分極化こそ、2025年のミュージックシーンの核心でもありました。また、それこそが今日の社会における課題ともなっています。その二つの潮流を捉えきれなかった場合は、音楽シーン全体がきわめて混雑した印象を覚えたのではないかと思います。惜しくもここで紹介することが出来なかったアルバムもいくつかありますが、何卒ご了承下さい。


いずれにせよ、例年より強力なベストアルバムリストを年末年始の休暇にお楽しみください。リストは基本的に発売順で順不同です。

 

▪️EN


Every year as I look through the lists of Albums of the Year, I feel that the catalog itself grows more enormous and its content more dense with each passing year. While I don't claim to be familiar with everything myself, observing this year's musical trends gives me the impression that, regardless of genre, there's an overall shift towards pop. This pop-oriented trend signifies music becoming more mainstream, and I can also discern the musicians' intention to reach a wider audience.


Day by day, genres themselves are diversifying and becoming more fragmented, making broad categories like rock or pop less meaningful than before. This symbolizes the overall crossover trend, where music itself is becoming more diverse—pop artists leaning into rock, or conversely, rock artists creating pop songs. This is also characteristic of major music industry hubs like the UK and the US.Furthermore, this year saw notable success from artists in regions that haven't received much significant attention until now.


Examples include African musicians emerging on major labels in key music industry hubs, and the growing prominence of musicians from Islamic regions. German musicians also stood out significantly.Beyond the emergence of music from regions previously categorized as "world music" into the mainstream, a revival movement is stirring in areas where music has flourished since ancient times. While it may be premature to explicitly call this a musical renaissance, an intriguing trend is certainly emerging.


Today's globalized world is in a state of flux, encompassing diverse races and cultures. Our era is approaching the next stage, incorporating varied cultures to shape tomorrow's world.Amidst the formation of a global cultural perspective, we can simultaneously discern another counter-current. This involves groups focusing on unique localization, which is nothing less than a style that "produces music utilizing the characteristics and climate of the land."


Historically, music has been intertwined with society. This is because music, regardless of scale, reflects the social reality of individuals and the masses—it is the world itself. Ultimately, this dichotomy of global versus local was at the core of the 2025 music scene. Moreover, it represents a major societal challenge today. Without recognizing these two currents, the entire music scene might have seemed overwhelmingly crowded. Unfortunately, there are some albums we were unable to feature here, but we kindly ask for your understanding.


In any case, please enjoy our year-end holiday with a best albums list that's stronger than ever!!


 

 1. Moonchild Sanelly 『Full Moon』- Transgressive   (Album Of The Year  2025)


 

南アフリカ出身のゲットーファンクの女王、Moonchild Sanelly(ムーンチャイルド・サネリー)は、2025年、Transgressiveが大きな期待をもって送り出したアーティストである。

 

南アフリカのダンスミュージック、アマピアノ、Gqomから 「フューチャー・ゲットー・ファンク」と呼ばれる彼女自身の先駆的なスタイルまで、南アフリカの固有ジャンルを多数網羅したディスコグラフィーを擁する。ムーンチャイルド・サネリーは、ビヨンセやティエラ・ワック、ゴリラズ、スティーヴ・アオキなどのアーティストとコラボレートしてきた南アフリカのスーパースター。


エレクトロニック、アフロ・パンク、エッジの効いたポップ、クワイト、ヒップホップの感性の間を揺れ動くクラブビートなど、音楽的には際限がなく、幅広いアプローチが取り入れられている。サネリーは、サウンド面でも独自のスタイルを確立しており、オリジナルファンから愛されてやまないアマピアノと並び、南アフリカが提供する多彩なテックハウスのグルーヴを強調付けている。サネリーのスタジオでの目標は、ライブの観客と本能的なコネクションを持てるような曲を制作することである。さらに、彼女は観客に一緒に歌ってもらいたいと考えている。


最新アルバム『Full Moon』において、サネリーは自分自身と他者の両方を手放し、受容という芸術をテーマに選んだ。曲作りの過程では、彼女は自己と自己愛への旅に焦点を絞り、スタジオはこれらの物語を共有し、創造的で個人的な空間を許容するための場所の役割を担った。


彼女が伝えたいことは、外側にあるものだけとは限らず内的な感覚を共有したいと願ってやまない。それは音楽だけでしか伝えづらいことは明らかだろう。「私の音楽は身体と解放について歌っている。自分を愛していないと感じることを誰もOKにはしてくれない」と彼女は説明する。BBCの音楽番組で放映された「Do My Dance」は、最高の陽気なクラブビート。同時に、アルバムの後半に収録されている「Mintanami」もアフリカンポップの名曲に挙げられる。

 

 「Do My Dance」

 

 

 

2.Mogwai 『The Bad Fire』- Rock Action

この数年、スコットランドのモグワイは、2020年のEP『Take Side』を除いては、その仕事の多くがリミックスや映像作品のサウンドトラックのリリースに限定されていた。見方によってはスタジオミュージシャンに近い形で活動を行っていた。


『The Bad Fire』は、四人組にとって久しぶりの復帰作となる。以前はポストロックの代表的な存在として活躍したばかりではない。モグワイは音響派の称号を得て、オリジナリティの高いサウンドを構築してきた。

 
『The Bad Fire』は、”労働者階級の地獄”という意味であるらしい。これらは従来のモグワイの作品よりも社会的な意味があり、世相を反映した内容となっている。モグワイのサウンドは、シューゲイズのような轟音サウンド、そして反復構造を用いたミニマリズム、それから70年代のハードロックの血脈を受け継ぎ、それらを新しい世代のロックへと組み替えることにあった。ミニマリズムをベースにしたロックは、現代の多くのバンドの一つのテーマともいえるが、モグワイのサウンドは単なる反復ではなく、渦巻くようなグルーブ感と恍惚とした音の雰囲気にあり、アンビエントのように、その音像をどこまで拡張していけるのかという実験でもあった。

 

それらは彼らの代表的な90年代のカタログで聴くことができる。そして、この最新作に関して言えば、モグワイのサウンドはレディオヘッドの2000年代始めの作品と同様に、イギリスの二つの時代の音楽を組み合わせ、新しいハイブリッドの音楽を生み出すことにあった。エレクトロニックとハードロック。これらは、彼らがイギリスのミュージック・シーンに台頭した90年代より以前のおよそ二十年の音楽シーンを俯瞰して解釈したものであったというわけなのだ。復活という言葉が最適かはわからない。しかし、モグワイのサウンドは、依然としてクラシック音楽のように、ロックの伝統に定着しており、鮮烈な印象をもって心を捉えてやまない

 

 「What Kind of Mix Is This?」

 

 

 

3.Lambrini Girls 『Who Let The Dog Out』- City Slang



 ランブリーニ・ガールズはブライトンを拠点に活動するヴォーカリスト/ギタリストのフィービー・ルニーとベーシストのリリー・マキーラによるデュオ。

 

ランブリーニ・ガールズは、ライオット・ガールパンクの先駆者的な存在、Bikini Kllを聴いて大きな触発を受けたという。そして、彼女たちもまた、次世代のライオット・ガールのアティテュードを受け継いでいるのは間違いない。今年、グラストンベリー・フェスティバルに出演し、話題を呼んだ。記念すべきデビュー・アルバムは、痛撃なハードコア・パンクアルバムである。ユニットという最小限の編成ではありながら、かなり音圧には迫力がある。このアルバムで、ランブリーニ・ガールズは、有害な男らしさについて言及し、痛撃に批判している。

 

実際的に、ランブリーニ・ガールズのボーカル(実際にはスポークンワードとスクリームによる咆哮)にはっきりと乗り移り、すさまじい嵐のようなハードコアサウンドが疾駆する。実際的には、ランブリーニガールズのパンクは、現在のポスト・パンクの影響がないとも言いがたいが、Gorlilla Biscuits、Agnostic Frontといった、ニューヨークのストレート・エッジがベースにありそうだ。アルバムの中では「You're Not From Around Here」がとてもかっこよかった。

 

 

 「You're Not From Around Here」

 

 

4.Franz Ferdinand  『The Human Fear』- Domino




本当に良かったと思うのが、フランツ・フェルディナンドの音楽がいまだに古びず、鮮烈な印象を擁していたことである。アークティック・モンキーズやホワイト・ストライプスと並んで、2000年代のロックリバイバルをリードしたのがフランツ・フェルディナンドであった。

 

彼らはライブ・バンドとしての威厳を示し、そしてレコーディングでもいまだにリアルタイムのバンドとしての存在感を示している。このアルバムは、2013年の『Right Thoughts, Right Words, Right Action』でバンドと仕事をしたマーク・ラルフがプロデュースした。



人類の恐怖について主題が絞られているが、それは恐れを植え付けるものではない、それとは対象的に、そこから喜びや楽しさを見出すということにある。「このアルバムの制作は、私がこれまで経験した中で最も人生を肯定する経験のひとつだった。恐怖は、自分が生きていることを思い出させてくれる。私たちは皆、恐怖が与えてくれる喧騒に何らかの形で中毒になっているのだと思う。それにどう反応するかで、人間性がわかる。だからここにあるのは、恐怖を通して人間であることのスリルを探し求める曲の数々だ。一聴しただけではわからないだろうけど」

 

新メンバーを加え、ダンスロック/ディスコロックの英雄は、新しい記念碑的なカタログを付け加えることに成功した。本作には混じり気のないロックソングの魅力が凝縮されているように思える。 ある意味では、フランツ・フェルディナンドというバンド名の由来に回帰するような作品である。20年経っても音楽の軸は変わらない。これはこのバンドの流儀ともいうべきもの。

 


「Night or Day」

 

 

5.Sam Fender 『People Watching』- Polydor  (Album of The Year 2025) 



ニューカッスル出身のソングライター、サム・フェンダーはデビュー当時から、アーティストとはどのような存在であるべきか、真面目に考えてきた人物である。デビュー当時は、メンタルヘルスに問題を抱え自殺する若者など、社会的な弱者に対するロックやポップソングを提供してきた。

 

テーマは年代ごとに変化し、現在では、アルバムのタイトル曲のテーマである天国にいる代理母に歌を捧げた、音楽性は、デビュー当時の延長線上にあるが、より音楽はドラマティックさをまし、多くの音楽ファンの心に響く内容となった。これは、私自身の言葉ではないが、ある人物がこのように言っていた。オアシスはみんな勇気を持つようにということを歌っていたが、サム・フェンダーはできなくても良いんだと許容する存在である、と。これは、社会的な人間の役割や努力の限界性を象徴づけるものである。ロックやポップソングが時代とともにその内容も変化してきている。今作は、英国内の主要な音楽賞(マーキュリー賞)を獲得したことからも分かる通り、現代のUKロック/ポップを象徴付ける画期的な作品ともいえるかもしれない。

 

ニューカッスルのスタジアムの公演を前に体調不良でキャンセルしたフェンダーさんであったが、今作を期に、英国の音楽シーンをリードするトップランナーであることを再び証明している。 

 

「Remember Me」 

 

 

6.Anna B Savage 『You & I are Earth』- City Slang 



アイルランドを拠点に活動を行うAnna B Savageは、三作目のアルバムにおいて、地球や自然、そして人間たちがどのように共生すべきかをオーガニックな風合いに満ちたフォークミュージックと詩により探索している。 こういったアルバムを聴かないうちはなにもはじまらない。

 

音楽的な舞台はアイルランド。サヴェージと当地のつながりは、およそ10年前以上に遡り、マンチェスターの大学で詩を専攻していたときだった。「シアン・ノーの歌についてのエッセイ、カートゥーン・サルーンのものを見たり、アイルランドの神話について読んだりした」という。

 

以来、アンナ・B・サヴェージは多くの時間をアイルランド西海岸で過ごしている。ツアー(今年はザ・ステイヴスやセント・ヴィンセントのサポートで、以前にはファーザー・ジョン・ミスティやソン・ラックスらとツアーを行った。その合間には、故郷のドニゴール州に戻り、仕事のためにロンドンを訪れ、当地の文化的な事業に携わっている。

 

アイルランド/スライゴ州の森林地で撮影された写真で、サヴェージが木々を見上げ、そのフラクタルが彼女の目に映し出されている。彼女が瞑想中に感じた何かを映し出し、私たちを一回りさせる。私たちは本質的に一体で、少なくともそうあろうと努力しており、「あなたと私は地球」という感覚に立ち戻らせる。 「You & I are Earth」はその名の通り、安らぎのフォークミュージックをお探しの方に最適な一枚である。同時に、このアルバムは自然と人間の関係について深く思案させる。メッセージとしても今後の共生のあり方が、それとなく問われているのだ。

 

 「You & I are Earth」

 

 

7.FACS 『Wish Defense』- Trouble In My Mind (Album of The Year 2025) 



シカゴのブライアン・ケース率いる、Facsのアルバム『Wish Defense』は今年一番の衝撃だった。ポストロックやアートロックの完成形であり、アヴァンギャルドミュージックの2025年の最高傑作の一つである。アルビニのお膝元である同地の”エレクトリカル・オーディオ・スタジオ”で録音されたが、奇妙な緊張感に充ちている。例えれば真夜中のスタジオで生み出されたかのようで、人が寝静まった時間帯に人知れずレコーディングされたような作品である。トリオというシンプルな編成であるからか、ここには遠慮会釈はないし、そして独特の緊張感に満ちている。それは結局、スティーヴ・アルビニのShellac、Big Blackのアプローチと重なるのである。

 

さながらこのアルバムがアルビニの生前最後のプロデュースになると予測していたかのように、ブライアン・ケースを中心とするトリオはスタジオに入り、二日間で7曲をレコーディングした。生前のアルビニが残したメモを参考に、ジョン・コングルトンが完成させた。要するに、名プロデューサーのリレーによって完成に導かれた作品である。『Wish Defense』は、80年代のTouch & Goの最初期のカタログのようなアンダーグラウンド性とアヴァンギャルドな感覚に充ちている。どれにも似ていないし、まったく孤絶している。その劇的なロックサウンドは、まさしくシカゴのアヴァンギャルドミュージックの系譜を象徴づけるといえるだろう。結局、このサイトは、こういったアンダーグランドな音楽を積極的に推すために立ち上がったのだ。

 

 

 「Ordinary Voice」

 

 

8.Miya Folick 『Erotica Veronica』- Nettwerk Music Group



ロサンゼルスのシンガーソングライターのミヤ・フォリックは、2015年の『Strange Darling』と2017年の『Give It To Me EP』という2枚のEPで初めて称賛を集めた。2018年にインタースコープから発売されたデビューアルバム『Premonitions』は、NPR、GQ、Pitchfork、The FADERなど多くの批評家から称賛を浴びたほか、NPRのタイニー・デスク・コンサートに出演し、ヘッドライン・ライヴを完売させ、以降、ミヤは世界中のフェスティバルに出演してきた。

 

ミヤ・フォリックは、このアルバムにおいて、自身の精神的な危機を赤裸々に歌っており、それは奇異なことに、現代アメリカのファシズムに対するアンチテーゼの代用のような強烈な風刺やメッセージともなっている。アルバムの五曲目に収録されている「Fist」という曲を聞くと、見過ごせない歌詞が登場する。これは個人の実存が脅かされた時に発せられる内的な慟哭のような叫び、そして聞くだけで胸が痛くなるような叫びだ。これらは内在的に現代アメリカの社会問題を暗示させ、私達の心を捉えて離さない。時期的には新政権の時代に書かれた曲とは限らないのに、結果的には、偶然にも、現代アメリカの社会情勢と重なってしまったのである。
 

本作が意義深いと思う理由は、ミヤ・フォリックの他に参加したスタジオ・ミュージシャンのほとんどがメインストリームのバックミュージシャンとして活躍する人々であるということだろう。このアルバムは、確かにソロ作ではあるのだけれど、複数の秀逸なスタジオ・ミュージシャンがいなくては完成されなかったものではないかと思う。特に、 メグ・フィーのギターは圧巻の瞬間を生み出し、全般的なポピュラー・ソングにロックの側面から強い影響を及ぼしている。非常に力感を感じさせるアルバムだ。インディーロック/インディーポップのどちらとして聞いても粒ぞろいの名曲が揃っている。「Fist」、「Love Want Me Dead」は文句なしの名曲。

 

 「Love Want Me Dead」

 


9.Bartees Strange 『Horror」- 4AD



 


前作では「Hold The Line」という曲を中心に、黒人社会の団結を描いたバーティーズ・ストレンジ。2作目はなかなか過激なアルバムになるのではと予想していたが、意外とそうでもなかった。しかし、やはり、バーティーズ・ストレンジは、ブラックミュージックの重要な継承者だと思う。どうやら、バーティーズ・ストレンジは幼い頃、家でホラー映画を見たりして、恐怖という感覚を共有していたという。どうやら精神を鍛え上げるための訓練だったということらしい。

 

この2ndアルバムは「Horror」というタイトルがつけられたが、さほど「ホラー」を感じさせない。つまり、このアルバムは、Misfitsのようでもなければ、White Zombieのようでもないということである。アルバムの序盤は、ラジオからふと流れてくるような懐かしい感じの音楽が多い。その中には、インディーロック、ソウル、ファンク、ヒップホップ、むしろ、そういった未知なるものの恐怖の中にある''癒やし''のような瞬間を感じさせる。

 

もしかすると、映画のワンシーンに流れているような、ホッと息をつける音楽に幼い頃に癒やされたのだろうか。そして、それが実現者となった今では、バーティーズがそういった次の世代に伝えるための曲を制作する順番になったというわけだ。ホラーの要素が全くないとは言えないかもしれない。それはブレイクビーツやチョップといったサンプルの技法の中に、偶発的にそれらのホラー感覚を感じさせる。たとえ、表面的な怖さがあるとしても、その内側に偏在するのは、デラソウルのような慈しみに溢れる人間的な温かさ、博愛主義者の精神の発露である。これはむしろ、ソングライターの幼少期の思い出を音楽として象ったものなのかもしれない。 

 

『Horror』は単なる懐古主義のアルバムではないらしく、温故知新ともいうべき作品である。例えば、エレクトロニックのベースとなる曲調の中には、ダブステップの次世代に当たる''フューチャーステップ''の要素が取り入れられている。こういった次世代の音楽が過去のファンクやヒップホップ、そしてインディーロックなどを通過し、フランク・オーシャン、イヴ・トゥモールで止まりかけていた、ブラックミュージックの時計の針を未来へと進めている。おそらく、バーティーズ・ストレンジが今後目指すのは"次世代のR&B"なのかもしれない。

 

「Norf Gun」

 

 

10.Annie DiRusso  『Super Pedestrian』-Summer Soup Songs(Album of The Year 2025)


アルバムの中に収録されたたった一曲が、そのアルバムやアーティストのイメージを変えてしまうことがある。『Super Pedestrian』の最後に収録されている「It's Good To Be Hot In The Summer」は感動的な一曲だった。3月に発売されたアルバムだが、圧倒的に夏のイメージが強い。

 

ナッシュビルで活動するソングライター、アニー・デルッソ(Annie DiRusso)は、「『Super Pedestrian』は、私という人物を表現していると思うし、「It's Good To Be Hot In The Summer」は、このアルバムの趣旨をよりストレートに表現していると思う。ようするにデビューアルバムとしては、少し自己紹介のようなことをしたかったんだと思う」という。



アーティスト自身のレーベルから本日発売された『Super Pedestrian』には、デルッソが2017年から2022年にかけてリリースした12枚のシングルと、高評価を得た2023年のEP『God, I Hate This Place』で探求したディストーションとメロディの融合をベースにした切ないロックソングが11曲収録されている。 これらのレコーディングはすべてプロデューサーのジェイソン・カミングスと共に行われ、新作は2023年にミネアポリスで行われたショーの後にディルッソが出会ったケイレブ・ライト(Hippo Campus、Raffaella、Samia)が指揮を執った。


「ジェイソンとの仕事は好きだったし、長い付き合いと仕事のやり方があった。けれど、今回のフルレングスのアルバムでは、自分のサウンドをどう広げられるか、何か違うことをやってみたいと思った。いろいろなプロデューサーと話をしたんだけど、ケイレブというアイディアに戻った」


本作は2024年2月と3月にノースカロライナ州アッシュヴィルのドロップ・オブ・サン・スタジオで録音された。 『スーパー・ペデストリアン』の公演では、彼女が歌とギターを担当し、マルチインストゥルメンタリストのイーデン・ジョエルがベース、キーボード、ドラム、追加ギターなどすべての楽器を演奏した。 今作には共作者のサミア(「Back in Town」)とラストン・ケリー(「Wearing Pants Again」)がゲスト・バッキング・ヴォーカルとして参加している。アニーは、Samia、Soccer Mommyとのツアーを経験している。これからの活躍が非常に楽しみなソングライターだ。

 

 

 「It's Good To Be Hot In The Summer」

 

 

・Vol.2に続く

 【Album Of The Year 2025】  Best Album 50   2025年のベストアルバムセレクション   Vol.2 

 



11.Vijyay Iver/Wadada Leo Smith  『Defiant Life』- ECM


2016年の『A Cosmic Rhythm With Each Stroke』に続く、ヴィジャイ・アイヤーとワダダ・レオ・スミスのECMへの2作目のデュオ形式のレコードとなる『Defiant Life』は、人間の条件についての深い瞑想であり、それが伴う苦難と回復の行為の両方を反映している。しかし同時に、デュオのユニークな芸術的関係と、それが生み出す音楽表現の無限の形を証明するものでもある。ヴィジャイとワダダが音楽で出会うとき、彼らは同時に複数のレベルでつながる。


「出会った瞬間から演奏する瞬間まで、私たちが一緒に過ごす時間は、世界の状況について話したり、解放の歴史を学んだり、読書や歴史的文献を共有したりすることに費やされることが多かった」


アイヤーは、ライナーノートの中で、彼とスミスとのそのような会話を長々と書き起こし、このアルバムにインスピレーションを与えた個々のテーマと、特に「反抗的」という言葉について、より詳しく明らかにしている。

 

ワダダの「Floating River Requiem」は1961年に暗殺されたコンゴの首相パトリス・ルムンバに、ヴィジャイの「Kite」は2023年にガザで殺害されたパレスチナの作家・詩人レファート・アラレアに捧げられたものだ。このような思考と考察の枠組みの中で、この作品は生まれた。『Difiant Life(ディファイアント・ライフ)』の包括的な人生についての瞑想であるとするならば、実際に表現されているのはそのセンス・オブ・ワンダーである。スイス・ルガーノで録音されたこのアルバムは、レーベルオーナー、マンフレート・アイヒャーがプロデュース。前衛音楽からモダン・ジャズまで幅広い作風が楽しめる。現代ジャズのハイレベルな演奏家による共演。 

 

 

「Prelude- Survival」




12.Spellling 『Portrait of My Heart』- Sacred Bones


 

 『Portrait Of My Heart』はジャズアルバムのタイトルのようですが、実際は、クリスティア・カブラルのハードロックやメタル、グランジ、プログレッシヴロックなど多彩な音楽趣味を反映させた痛快な作品。ギター、ベース、ドラムという基本的なバンド編成で彼女は制作に臨んでいるが、レコーディングのボーカルにはアーティスト自身のロックやメタルへの熱狂が内在し、それがロックを始めた頃の十代半ばのミュージシャンのようなパッションを放っている。

 
本作はシンガーのロックに対する熱狂に溢れ、それがバンド形式による録音、三者のプロデューサーの協力によって完成した。カブラルの熱意はバンド全体に浸透し、他のミュージシャンの心を少年のように変えてしまった。ロックファンが待望する熱狂的な感覚やアーティストのロックスターへの憧れ、そういった感覚が合わさり、聞き応え十分の作品が作り出された。

 

SPELLLINGはシューゲイズのポスト世代のアーティストとして特集されることがあったが、最後に収録されている『Sometimes』のカバーを除き、シューゲイズの性質は希薄です。もっとも、この音楽が全般的には英国のハードロックやエレクトロの派生ジャンルとして始まり、スコットランドのネオアコースティックやアートポップ、ドリームポップやゴシックロックと結びついて台頭したことを度外視すれば。しかしながら、アーティストのマライア、ホイットニー・ヒューストンのようなR&Bやソウルの系譜に属するきらびやかなポップソングがバンドの多趣味なメタル/ハードロックの要素と結びつき、かなり斬新なサウンドが生み出されている。


また、その中には、ソングライターのグランジロックに対する愛情が漂う、Soundgardenのクリス・コーネルの「Blace Hole Sun」を想起させる懐かしく渋いタイプのロックバラードも収録されている。音楽そのものはアンダーグランドの領域に近づく場合もあり、ノイズコアやグランドコアのようなマニアックな要素もごくまれに織り交ぜられている。しかし、全般的には、ポピュラー/ロックミュージックのディレクションの印象が色濃い。四作目のアルバム『Portrait of My Heart』で、SPELLINGはロックソングの音楽に限界がないことを示し、そして未知なる魅力が残されていることを明らかにする。

 

「Destiny Arrives」

 

 

 

13. Florist 『Jellywish』 - Double Double Whammy  (Album of The Year 2025)



ニューヨークのフォークシーンを象徴づけるFlorist(フローリスト)は、キャッツキルを拠点に活動し、エミリー・A・スプラグを中心に四人組のバンドとして緊密な人間関係を築いてきた。2017年にリリースされた2ndアルバム『If Blue Could Talk』の後、バンドは少しのあいだ休止期間を取ることに決めた。

 

その直後、エミリー・スプラグは母親の死の報告を受けたが、なかなかそのことを受け入れることが出来なかった。「どうやって生きるのか?」を考えるため、西海岸に移住。その間、エミリー・A・スプラグは『Emily Alone』をリリースしたが、これは実質的に”Florist”という名義でリリースされたソロアルバムとなった。しかし、このアルバムで、スプラグは、既に次のバンドのセルフタイトルの音楽性の萌芽のようなものを見出していた。バンドでの密接な関係とは対極にある個人的な孤立を探求した作品が重要なヒントとなった。


その後、エミリー・スプラグは、3年間、ロサンゼルスで孤独を味わい、自分のアイデンティティを探った。深い内面の探求が行われた後、彼女はよりバンドとして密接な関係を築き上げることが重要だと気がついた。それは、この人物にとっての数年間の疑問である「どうやって生きるのか」についての答えの端緒を見出したともいえるかも知れなかった。このときのことについてスプラグは、「ようやく家に帰る時期が来たと思いました。そして、複雑だから、辛いからという理由で、何かを敬遠するようなことはしたくない」と振り返っている。「だから、もう一人でいるのはやめようと思いました。もう1人でいるのは嫌だと思った」と話している。

 

『Jellywish』で、フローリストはリスナーをあらゆることに疑問を投げかけ、魔法、超現実主義、超自然的なものが日常生活の仲間である世界を想像するよう誘う。『Jellywish』は、杓子定規で、制限的で、ひどく感じられる時代に、あえて可能性と想像力の領域を提示する。


Floristは明確な答えを提示することなく、人生の大きな問いを探求している。バンドは最も難しい問いを投げかけている。「染み付いた思考サイクルや、ありきたりな生き方から抜け出すことは可能なのだろうか? それこそが、真に幸福で、満たされ、自由になる唯一の方法なのかもしれない」 

 

 

 「Moon,Sea Devil」

 

 

14.Julien Baker & Torres  『Send A Prayer My Way』 - Matador

 

「Send A Prayer My Way」は何年も前から制作されていた。このアルバムは楽屋での意気投合から始まった。 2人の若いミュージシャンが、シカゴで愛されているリンカーン・ホールで初めて一緒にライヴをするところを想像してみてほしい。 2016年1月15日、外は底冷えするほど寒く、特に南部に住む2人組にとってはなおさら。 ライヴが終わり、クソみたいなことを言い合っているとき、一人のシンガーがもう一人に言った。"私たちはカントリー・アルバムを作るべきだ"。 


これはカントリー・ミュージックの世界では伝説的な原点であり、余裕のあるエレガントな歌詞と、彼らの音楽を愛する人々と苦悩を分かち合う勇気で賞賛されている2人のアーティストのコラボレーションの始まりだった。 

 

現代におけるカントリーの精神とはどのようなものだろう。それはボブ・ディランの中期のような、やるせないような感覚である。クイア、移民、そして、混乱する国内経済(日本にもその影響は波及している)は、多くの国民に苦境をもたらしている。それは、上記のライターの記述を見ると明らかである。一般的な歌手は問題から目をそむけがちだが、この二人の歌手はそうではない。自分の環境やミュージシャンとしての生き方、現代アメリカの社会問題などに関心を向け、それらを自分たちが出来る形で、カントリーソングに乗せて軽快に、そして渋く歌う。

 

「Sylvia」 

 

 

 

15. Alexandra Savior 『Beneath The Lilypad』 - RCA

『The Archer』を聴いたことのある音楽ファンは、このアルバムを聴いて、同じシンガーソングライターによる作品であるとは思わないかもしれない。それほどまでに『Beneath The Lilipad』はシンガーとしての劇的な転身ぶりを伺わせる。RCAとの契約を結び、再出発を果たす。



ロサンゼルスの歌手、アレクサンドラ・サヴィアーは、まるでその人が生まれ変わったかのように、作風に大きな衝撃的な変化を及ぼした。前作までは、現代的な音楽という観念に振り回されていた。

 

今回は、古典的であると言われるのを恐れず、ポピュラースタンダード、ジャズ、そしてミュージカルの影響を交えて、リバイバル的なポピュラーソングの魅惑的な世界を構築している。しかし、『Beneath The Lilypad』を聞けばわかるとおり、フォロワー的ではない。ダークでアンビバレントな感情が、アレクサンドラ・サヴィアーのこよなく愛する20世紀のシュールレアリストの世界観と見事に結びついた。音楽的には、シナトラのリバイバルである。



このアルバムの中に内包される、モノクロの世界の反映、それはとりも直さず、シンガーの精神世界の反映の意味を持つ。サヴィアーは、その鏡をのぞきこみ、そして歌をうたうごとに自己が様々な姿に変身するかを見届ける。サヴィアーは気がつく、自分の意外な姿がどこかにあったということを。そして、音楽の世界をつなげるアーティストとファンとの関係が続くシナリオを完成させる。音楽ファンは、「アリス・イン・ワンダーランド」のような音楽世界をおそるおそる覗き込む。そして、恐ろしく不気味なように思える、その世界の中に足を踏み入れると、不思議なほど精妙で高らかな感覚を発見することが出来る。これは単なる音楽世界ではない。パートナーのドリューとの信頼関係の中で構築された”人間的な愛情の再発見”である。

 

「Venus」 

 

 

16. Enji 『Sonor』- Squama 


 

『Sonor』は、エンジの個人的な進化と、2つの文化的な世界の間で生きることに伴う複雑な感情の反映である。このアルバムのテーマは、文化の狭間にある居場所のない感覚を中心に展開されるが、それは対立の原因としてではなく、成長と自己発見のための空間としてである。エンジは、伝統的なモンゴルのルーツとの距離がいかに彼女のアイデンティティを形成してきたか、そして、故郷に戻ることがいかにこうした変化への意識を高めるかを探求している。


『Sonor』で、エンジはアーティストとしての進化を続け、彼女のサウンドをより流動的で親しみやすいものへと拡大した。世界的に有名なジャズ・アーティストをバンドに迎え、定番の「Old Folks」を除いて全曲をモンゴル語で歌うなど、エンジの音楽的な基盤はまったく揺るぎないが、本作ではメロディーとストーリーテリングが明瞭になり音楽が多くの聴衆に開かれている。単にスタイルの変化というだけでなく、芸術的な声の深化を反映したもので、深みを失うことなく親しみやすさを受け入れ、彼女の歌が普遍的なレベルで共鳴することを可能にした。


カラフルで楽観的であるにもかかわらず、このアルバムはほろ苦いノスタルジア、あるいはメランコリアに彩られている。この二面性を最もよく表しているのが、モンゴル語で日没時の空の色を意味するトラック「Ulbal(ウルバル)」だろう。 鮮やかで美しい現象でありながら、昼間の終わりと夜への移行を意味する。 同様に、エンジの音楽は、新しい経験や成長の喜びをとらえる一方で、人生を歩むにつれ、以前の経験が身近なものではなくなっていくことを認めている。


『Sonor』では、モンゴルの伝統的な歌「Eejiinhee Hairaar」(「母の愛をこめて」)に新たな命を吹き込んだ。彼女は、モンゴルの故郷で父親が自転車を修理しているときに、この曲をよく口ずさんでいたことを思い出す。日常生活に溶け込んだ音楽、そして、何世代にもわたって受け継がれてきたメロディー、このイメージに''ソノールの精神''が凝縮されている。 エンジは単に伝統を再認識しているのではなく、故郷の感覚や、遠くから見て初めてその意義がわかる小さな喜びを抽出している。親が口ずさむ親しみのある歌のように、彼女の音楽は、ひとつの場所に縛られることなく、私たちを形作る感情や記憶といった「帰属」の本質を捉えている。

 

「Ergelt」 

 

 

17. Black Country, New Road 『Forever Howlong」- Ninja Tune 



メンバーチェンジを経て制作された三作目。ようやくピースが揃ったという印象。BC,NRは、フジロックでの新曲をテストしたりというように、バンドは作品ごとに音楽性を変化させてきた。ロンドンではポストロック的な若手バンドが多く登場しており、BC,NRは視覚芸術を意図したパフォーミング・アーツのようなアルバムを制作している。


また、ブッシュホールでの三日三晩にわたるバンドの即興的な演奏の経験にも表れている通り、即興的なアルバムが誕生した。メンバーが話している通り、スタジオ・アルバムにとどまらない、精細感を持つ演劇的な音楽がアルバムの収録曲の随所に登場している。音楽的に見ると、三作目のアルバムではバロックポップ、フォーク、ジャズバンドの性質が強められた。これらが実際のライブパフォーマンスでどのような効果を発揮するのかがとても楽しみで仕方がない。


そんな中で、これまでのBC,NRとは異なり、ポピュラー性やフォークバンドとしての性質が強まるときがある。そして、従来のバンドにはなかった要素、これこそ彼等の今後の強みとなっていくのでは。「Socks」ではバロックポップの影響をもとにして、心地よいクラシカルなポピュラーを書いている。メロディーの良さという側面がややアトモスフェリックの領域にとどまっているが、この曲はアルバムを聴くリスナーにとってささやかな楽しみとなるに違いない。そしてこの曲の場合、賛美歌、演劇的なセリフを込めた断片的なモノローグといったミュージカルの領域にある音楽も登場する。これらは新しい「ポップオペラ」の台頭を印象づける。 

 

「Besties」 

  

 

18.Momma 『Welcome To My Blue Sky』 - Polyvinyle ・ Lucky Number



 Mommaは今をときめくインディーロックバンドであると同時に、個性的なキャラクターを擁する。ワインガルテンとフリードマンのセカンドトップのバンドとして、ベース/プロデューサーのアーロン・コバヤシ・リッチを擁するセルフプロデュースのバンドとしての二つの表情を併せ持つ。コバヤシ・リッチはMommaだけにとどまらず、他のバンドのプロデューサーとしても引っ張りだこ。現在のオルタナティヴロックやパンクを象徴する秀逸なエンジニアである。

 

2022年に発表されたファーストアルバム『Household Name」は好評を得た。Pitchfork、NME、NYLONといったメディアから大きな賞賛を受け、アメリカ国内での気鋭のロックバンドとしての不動の地位を獲得した。その後、四人組はコーチェラ・フェスティバルなどを中心とする、ツアー生活に明け暮れた。その暮らしの中で、人間的にも、バンドとしても成長を遂げてきた。

 

ファーストアルバムでは、ロックスターに憧れるMommaの姿をとらえることができたが、今や彼等は理想的なバンドに近づいている。ベテランのロックバンド、Weezer、Death Cab For CutieとのライブツアーはMommaの音楽に対する意識をプロフェッショナルに変化させたのだった。

 
ブルックリンのスタジオGとロサンゼルスのワサッチスタジオの二箇所で制作された『Welcome To My Blue Sky』はMommaにとってシンボリックな作品となりそうだ。目を惹くアルバムタイトル『Welcome To Blue Sky』はツアー中に彼等が見たガソリンスタンドの看板に因んでいる。アルバムの収録曲の多くはアコースティックギターで書かれ、ソングライティングは寝室で始まり、その後、コバヤシのところへ音源が持ち込まれ、楽曲に磨きがかけられた。

 

先行シングルとして公開された「I Want You(Fever)」、「Ohio All The Time」、「Rodeo」などのハイライトを聴けば、バンドの音楽性が大きく洗練されたことを痛感する。

 

「How To Breath」

 

 

19.Qasim Naqvi 『Endling』 - Erased Tapes (Album of The Year 2025)


 

従来の音楽形態は、ポピュラー/ロックソングのように主体的なもの、サウンドトラック/環境音楽のように付属的なものというように、明確に分別されてきたように思える。しかし、パキスタンにルーツを持つ作曲家、カシム・ナクヴィの音楽はその境界を曖昧にさせ、一体化させる。


そして、今一つの音楽の持つ座標である能動性と受動性という二つの境界をあやふやにする。ナクヴィの音楽は、ある種のバーチャル/リアルな体験であり、それと同時に、近未来の到来を明確に予見している。彼の音楽は、高次関数のように、多次元の座標に、音階、リズム、声を配置し、その連関や定点を曖昧にしながら、音の流れが複数の方向に流れていく。このアルバムの音楽は、従来のポリフォニー音楽になかったであろう新しい着眼点をもたらしている。音楽のストラクチャーというのは、音階にせよ、リズムにせよ、ハーモニーにせよ、必ずしも一方方向に流れるとは限らない。これが二次元のスコアで考えているときの落とし穴となるのだ。


電子音楽による壮大なシンフォニーとも言える「Endling」は、SFをモチーフにした広大な着想から生まれている。ナクヴィの妻が話してくれた謎の言葉、「デス・ハーバーのゴッドドック」は、一般的な制作者であれば気にもとめなかった。しかし、制作者にとっては啓示のように思え、”ダヴィンチコード”のような不可解さを持ち、脳裏を掠め、音楽のシナリオの出発点となり、また、その最初の構想が荒唐無稽であるがゆえ、イマジネーションが際限なく広がっていった。


カシム・ナクヴィは、フィクションとノンフィクションが混ざり合う、不可解なモチーフを、彼自身の豊富なイマジネーションをフルに活用して、電子音楽によってそれらの謎を解き明かしていこうと努めた。しかし、もちろん、MOOGなどモジュラーシンセというアナログな装置を中心に制作されたとはいえ、完全な古典主義への回帰を意味するわけではなかった。いや、それとは対象的に、先進的な趣旨に縁取られ、現代人の生き方と密接に関連する内容となった。


この音楽を聴き、どのような考えを思い浮かべるかは、それぞれの自由であろうと思うが、重要なのは、その考えを日頃の仕事や暮らしのヒントにすることも不可能ではないということである。つまり、アルバムの音楽は見えない複数のルートが同時に存在することを暗示させる。これらはSFのタイムラインやパラレルという概念とも密接に繋がっているのではないかと思う。

 

「Beautification Technology」

 

 

 20. Lifeguard 『Ripped and Torn』 - Matador




インディーズミュージックは商業性を盛り込んだとたん、本来の魅力を失う場合がある。しかし、Matadorからリリースされたシカゴのパンクバンド、Lifeguard(ライフガード)のデビュー作は、ガレージロック、ニューウェイヴ、インダストリアルノイズ、ハードコアパンクを横断しながら、彼らにしか構築しえない強固な世界観を作り上げている。それは社会も常識も、また、固定概念すらおびやかすことは出来ない。それほどまでに彼らのサウンドは強固である。

 


『Dressed In Trench EP』ではライフガードの本領がまだ発揮されていなかった。正直なところをいうと、なぜマタドールがこのバンドと契約したのかわからなかった。しかし、そのいくつかのカルト的な7インチのシングルの中で、グレッグ・セイジ率いるWipersのカバーをやっていたと思う。Wipersは、カート・コバーンも聴いていたガレージパンクバンドで、アメリカの最初のパンクバンド/オルタナティヴロックの始まりとする考えもある。これを見て、彼らが相当なレコードフリークらしいということはわかっていた。それらのレコードフリークとしての無尽蔵の音楽的な蓄積が初めて見える形になったのが「Ripped and Torn』。このデビューアルバムには、普通のバンドであればこそばゆくて出来ないような若々しい試みも行われている。

  

ロックとは形式にこだわらないこと、そして、先に誰かがやったことを覆すことに一番の価値がある。とくに、ライフガードの音が良いなと思ったのは、一般的な常識や流行のスタイルを度外視し、それらにカウンター的な姿勢を見せ、自分たちが面白いと思うことを徹底的にやり尽くすことである。そして、曲の歌詞で歌われる主張性ではなく、音楽そのものがステートメントになっている。彼らは基本的には体裁の良いことを歌わないし、そういった音楽を演奏しない。けれど、そこに信頼を寄せるべき点があるというか、異様なほどの期待を持ってしまう。ライフガードはいかにもシカゴらしいアバンギャルドなロックの系譜を受け継いでいる。ちなみに、メンバーの一人、アッシャー・ケースは、FACSのブライアン・ケースの息子である。

 

 

 「A Tightwire」

 

・Vol.3に続く 

 【Album Of The Year 2025】  Best Album 50   2025年のベストアルバムセレクション   Vol.3 


 

 

21.Richard Dawson 『End of the Middle』- Domino 



 

Richard Dawson(リチャード・ドーソン)はニューカッスルのミュージシャンで、まさしくいぶし銀とも言えるミュージシャン。アヴァンギャルドなフォーク・ミュージックを制作しつつも、決して難解な音楽ではなく、どことなく親しみやすさがある。

 

リチャード・ドーソンのアコースティックギターは、ジム・オルークや彼のプロジェクトの出発であるGastr Del Solに近い。しかし、単なるアヴァンフォークなのかといえばそうとも言いがたい。彼の音楽にはセリエリズムは登場せず、明確な構成と和音の進行をもとに作られる。しかし、彼の演奏に前衛的な響きを感じる。ドーソンの音楽はカウンターに属し、ニューヨークパンクの源流に近く、The Fugsのようなアート志向のフォーク音楽の原点に近い。それは、以降のパティ・スミスのような詩的な感覚と現実感に満ちている。 彼の作品にひとたび触れれば、音楽という媒体が単なる絵空事とは言えないことが何となく理解してもらえるでしょう。

 

リチャード・ドーソンのフォークミュージックは、フランク・ザッパ、キャプテン・ビーフハート/マジックバンドに象徴される''鬼才''ともいうべき特性によってつむがれ、ちょっと近寄りがたい印象もある。それは聞き手側がアーティストの個性的な雰囲気に物怖じしたり、たじろいだり、腰が引けるからです。でももし、純粋な感覚があれば、心に響く何かがあるはずです。賛美歌、ビートルズの『ラバーソウル』以降のアートロックの要素、パブロックのような渋さ、リバプール発祥のマージービート、それから60年代のフォークミュージック、そして、おそらくニューキャッスルの街角で聞かれるであろうストリートの演奏が混在し、ワイアードな形態が構築される。アルバムには、ほとんどエレクトリックの要素は稀にしか登場せず、音楽自体はアコースティックの素朴な印象に縁取られている。それにもかかわらず電撃的。


 「Gondola」

 

 

22.GoGo Penguin 『Necessary Fictions』 XXIM Records/ Sony Music



 

現在のマンチェスターの音楽シーンを見ると、ジャズ/エレクトロニックというのがキーポイントとなりそう。Gondowanaのオーナーであるマシュー・ハルソールを始め、秀逸なジャズミュージシャンが多数活動しています。

 

これは少しマニアックですが、Jazztoronicaという呼び方もあったほどで、かつては、ノルウェーなどのジャズの名産地で盛んな音楽でした。今年、初登場となったゴーゴー・ペンギンは、ロンドンやヨーロッパのジャズやエレクトロニック、ネオソウルに触発されつつも、次世代の音楽に取り組んでいます。このアルバムを聴いていると、近未来的ななにかを感じました。

 

 トリオの演奏力はきわめて高く、どのような音楽を演奏で実現するのか明確に見定め、各々が他者の意図を見事に汲み取り、上記のポリフォニックな音の構成により、イマジネーション豊かな音楽が構築される。鍵盤奏者、ウッドベース(コントラバス)、ドラムという必要最低限のアンサンブルであるが、室内楽アンサンブルのような洗練された質の高い演奏力を誇る。しかも、クリス、ロブ、ニックの三者の演奏者は、器楽的な特性を十分に把握した上で、それぞれの個性的な音を強調させたり、それとは対象的に弱めたりしながら、聞き応えのあるアンサンブルを構築していく。



『Necessary Fictions』は、彼らのライブレコーディングを垣間見るかのようにリアルに聞こえ、そして、現代的なレコーディングの主流であるツギハギだらけのパッチワーク作品とは異なる。録音のシークエンスは断続的で、48分という分厚い構成であるが、一気呵成に聞かせてくれる。このアルバムは、テクノ、ジャズ、ロック、どのようなジャンルのファンですら唸らせるものがある。そして、シンセ(ピアノ)、ベース、ドラムが全編で心地良い響きをもたらしている。ゴーゴー・ペンギンは、客観的あるいは批評的な視点を持っていて、それが余計な音を徹底的に削ぎ落とすというミニマリズムの本質へと繋がっている。ミニマリズムの本質とは、音の飽和にあるのではなく、音の簡素化や省略化にもとめられるというワケなのだ。



このアルバムのもう一つのトレードマークになっているのが、マンチェスターの実在の構造物をあしらったアートワークである。無機質であるが、機能的、デザインとしてもきわめて洗練されたアルバムジャケットは、ゴーゴー・ペンギンのジャズ、あるいは、テクノのイディオムと共鳴するような働きをなしている。また、そこにはドイツ/ドゥッセルドルフのような電子音楽の重要拠点と同じように、工業都市であるマンチェスターの現在と未来を暗示している。

 

  

「 Forgive The Damages(Feat. Daudi Matsiko)」

 

 

23, Frankie Cosmos 『Different Talking』 - SUB POP

 

 

NYのインディーロックバンド、フランキー・コスモスの現在のメンバーは、グレタ・クライン、アレックス・ベイリー、ケイティ・ヴォン・シュライヒャー、ヒューゴ・スタンレー。

 

クラインは唯一不変の存在で、スタンリー、ベイリー、フォン・シュライヒャーは重要なコラボレーターである。「グレタ・クライン」と「フランキー・コスモス」という名前を使い分けるのは正しくないだろう。クラインが主要なソングライターであることに変わりはなく、『Different Talking』の楽曲はバンド全体がアレンジしているが、このアルバムは外部のスタジオ・プロデューサーを起用せず、ユニットがセルフ・トラッキングした初のアルバムである。

 

このアルバムがロックなのか、それともポップなのかというのは意見が分かれそうだ。というのも、ギターやドラムの演奏は念入りに行われているが、音量的には最低限であり、グレタ・グラインのボーカルや音楽的な着想や構想を引き立てるような働きをなしている。これはフロントパーソンの音楽的な感性が確立されていて、それにある程度の自負がないと、周りを惹きつけたり先導することが非常に難しくなる。フロントシンガーとしては、エポックメイキングな効果や壮大な印象を与えることは少ないけれど、その音楽的な感性の強度はパティ・スミス、トム・ヴァーレインといったNYの象徴的な詩人に引けを取らない。加えて、2010年代から培われてきた多作な音楽家の性質が本作に強固なアクセントを与えている。

 
一貫して博愛主義や平和主義が貫かれるフランキー・コスモスの音楽的な精神は、このアルバムを本質を理解する上で重要になってくるかもしれない。そして、闘争、栄誉、利己主義、そういったものが蔓延する現代社会に対するシニカルな提言とも言える。それはまた表向きには出てこないし、明瞭には見えもしない。いわば音楽の背後にある本質や行間(サブテクスト)を捉えられるかが重要となってくる。音楽的にはその限りではないものの、マーリーやレノン、もしくは最初期のニューヨークの詩人たちのような理想主義に接近している。これらは全般的に、フランキー・コスモスの音楽性を、ビートルズの全盛期の印象に近づける場合がある。 

 

 

「Bitch Heart」 

 

 

 

24.Mamalarkey 『Hex Key』  - Epitaph



 
ロサンゼルスのMamalarkyは米国のパンクの名門レーベル、Epitaphと契約を結んで『Hex Key』を発表した。カルテットはおよそ8年間、LA、オースティン、アトランタに散らばって活動してきた。いつも一緒にいるわけではないということ、それこそがママラーキーのプロジェクトを特別なものにしたのか。ママラーキーのドラマーを務めるディラン・ヒルは次のように述べています。「私達は互いに大きな信頼を持っている。しかし、プロフェッショナルな空気感はありません。文字通り、四人の友人がブラブラして、なにかの底にたどり着くという感じです」

 

結局、ママラーキーの音楽の魅力は、雑多性、氾濫性、そして、クロスオーバーにあると言えるでしょう。ネオソウル/フィーチャーソウル、そしてパンクのエッセンスを込めたインディーロック、サイケ、ローファイ、チルウェイブなどなど、ベイエリアらしい空気感に縁取られている。


かしこまりすぎず、開けたような感覚、それがMamalarkyの一番の魅力である。これは、1960~70年代のヒッピームーブメントやフラワームーブメントのリバイバルのようでもある。ロックソングとしては抽象的。ソウルとしては軽やか。そして、チェルウェイブやローファイとしては本格的だ……。ある意味では、ママラーキーは、これまでにありそうでなかった音楽に、アルバム全体を介して挑戦している。新しいカルチャーを生み出そうという、ママラーキーの独自の精神を読み取ることが出来る。これらは、異なる地域から集まった秀逸なミュージシャンたちのインスタントな音楽の結晶とも言える。バンドサウンドと合わせて、ソロシンガーとしての個性を押し出したネオソウルのバラードソング「Nothing Last Forever」もある。



 「#1 Best of All The Time」 

 

 

25. Billy Nomates 『Metal Horse』- Invada



ビリー・ノメイツ(Billy Nomates)はイギリス/レスター出身のシンガーソングライター。元はバンドで活動していたが、なかなか芽が出なかった。しかし、スリーフォード・モッズのライブギグを見た後、ボーンマスに転居し、再びシンガーソングライターとしての道を歩むようになった。そして再起までの数年間が彼女の音楽に不屈の精神をもたらすことになった。2023年には『CACTI』をリリースし、話題を呼んだ。

 

『MetalHorse』はビリー・ノメイツの代表的なカタログが登場したと言って良いかもしれない。『CACTI』よりも遥かにパワフルで、そしてセンチメンタルなアルバム。ソロアルバムとしては初めてフル・バンドでスタジオ制作された。ベース奏者のマンディ・クラーク(KTタンストール、ザ・ゴー!チーム)とドラマーのリアム・チャップマン(ロジ・プレイン、BMXバンディッツ)が参加、さらにストラングラーズのフロントマン、ヒュー・コーンウェルが「Dark Horse Friend」で特別参加している。共同制作者も豪華なメンバーで占められている。

 

ビリー・ノメイツのサウンドはニューウェイブとポストパンク、そして全般的なポピュラーの中間に位置付けられる。そして、力強い華やかな歌声を前作アルバムでは聴くことが出来た。もちろん、シンガーとしての従来から培われた性質は維持した上で、『Metal Horse』では、彼女の良質なメロディーメイカーとしての才覚が遺憾なく発揮されている。前作『CACTI』では、商業的な音楽が中心だったが、今作はビリー・ノメイツが本当に好きな音楽を追求したという気がする。それがゆえ、なにかしら心を揺さぶられるものがある。本作は、ポーティスヘッドのジェフ・バーロウが手掛けるインディペンデントレーベル、Invadaからのリリースとなる。

 

「Dark Horse Friend」 

 

 

26.Kae Tempest 『Self Titled』 - Island


 

ロンドンのヒップホップ・ミュージシャン、ケイ・テンペストによる5thアルバム『Self Titled』は象徴的なカタログとなりえる。テンペストは、これまでアート志向のヒップホップミュージックを追求してきたが、前作よりもはるかに洗練された作品を提示している。すでにブリット、マーキュリー賞にノミネート済みのシンガーは、この作品で双方の賞を完全にターゲットに入れている。このアルバムは、UKドリルを中心とするグリッチを用いたサウンドで、その中には、ディープハウス、テクノ、ユーロビートのEDMのリズムも織り交ぜられている。近年では、ヒップホップのクロスオーバー化に拍車がかかっているが、それを象徴付けるアルバムだ。

 

また、ドリルの音楽に加えて、シネマティックなSEの効果が追加され、それらが持ち前の巧みなスポークンワードと融合している。ミュージシャンとしての覚悟を示唆したような「I Stand In The Line」は強烈な印象を放つ。ジェンダーのテーマを織り交ぜながら強固な自己意識をもとにしたリリックをテンペストは同じように強烈に繰り出す。テンペストのラップは、アルバムの冒頭を聞くと分かる通り、余興やお遊びではない。自己の存在と周りの世界との激しい軋轢を歌う。

 

この曲では、ハリウッドのアクション映画等で用いられるSEの効果がダイナミックなパーカッションのような働きをなす。シネマティックでハードボイルドなイメージを持つヒップホップという側面では、ケンドリック・ラマーの『GNX』と地続きにあるようなサウンドと言えるかもしれない。ドリルの系譜にある「Statue In The Square」でも同じような作風が維持され、エレクトリック・ピアノでリズムを縁取り、独特な緊張感を持つサウンドを構築する。同じようにテンペストの繰り出すスポークンワードもそれに呼応するかのような緊迫感を持つニュアンスを持つ。追記としては、未来を感じさせるヒップホップが収録されており、現在の他のアーティストとは一線を画している。このあたりは、やはりロンドンのハイセンスな音楽性といえるだろう。

 

「Breath」

 

 

 

27.Wet Leg  『Moisturizer』- Domino 



ワイト島のリアン・ティースデールとヘスター・チェンバーズが結成したウェット・レッグのは、この数年、大型のフェスを始めとするライブツアーを行う中、エリス・デュラン、ヘンリー・ホームズ、ジョシュア・モバラギの五人編成にバンドに成長した。


デビューアルバム『Wet Leg』では、ライトな風味を持つポスト・パンク、そしてシンガロングを誘発する独特なコーラスを特徴とし、世界的に人気を博してきた。その音楽性の最たる特徴は、パーティロックのような外向きのエナジー、そして内向きのエナジーを持つエモーションの混在にある。痛撃なデビューアルバム『Wet Leg』は、その唯一無二の個性が多くのリスナーを魅了し、また、ウェット・レッグをヘッドライナー級のアクトとして成長させた要因ともなった。デビュー当時は、ギターを抱えてパフォーマンスをするのが一般的であったが、最近ではリアン・ティースデールはフロントパーソンとしてボーカルに集中するようになった。

 
2作目『Moisturizer』にはデビューアルバムの頃の内省的な音楽性の面影は薄れている。むしろそれとは対極に位置するヘヴィネスを強調したオープニングナンバー「CPR」は、そのシンボルでもあろう。オーバードライブをかけたベースやシンプルなビートを刻むドラムから繰り出されるポスト・グランジのサウンドからアンニュイなボーカルが、スポークンワードのように続き、サビでは、フランツ・フェルディナンド風のダンスロックやガレージロックの簡素で荒削りなギターリフが折り重なり、パンチの効いたサビへと移行していく。スペーシーなシンセ、そして、ポスト・パンク風のヴォーカルとフレーズ、そのすべてがライブで観衆を踊らせるために生み出された''新時代を象徴付けるパンクアンセム''である。その一方、二曲目では大衆的なロックのテクニックを巧みに身につけ、アコースティックギターからストロークス風のミニマルなロックソングへと変遷していく。上記二曲はライブシーンで映えるタイプの曲だろう。

 

もう少しだけ、ニューウェイブに傾倒したロックになるかと思ったけれど、意外とそうでもなかった。いずれにせよ、今年の象徴的なロックアルバムであることは確かだ。アンセム曲 「Catch These Fists」の他にも、「Mangetout」、「Pokemon」など隠れた良曲が収録されている。

 

 

「Catch These Fists」

 

 

28.Indigo De Souza 『Precipice』 - Loma Vista



インディゴ・デ・スーザは、本来オルタナティヴロックやギターロックを中心とするソングライティングが主たる特徴であるが、今回はかなりポップソングにシフトチェンジし、音楽性の転換を図っている。もっとも、旧来からフィニアスの音楽番組の音楽を担当したり、Yves Tumorのプロデュースやコラボレーションも手掛けてきたことからも分かる通り、ジャンルレスのアーティストでもある。ミュージシャンは、ハリケーンの被害により自宅が大きな被害を受けた。

 

今回の大胆な音楽性の転換は、アーティストの評価を大きく左右する可能性もあるかもしれない。フィニアスへの楽曲提供を見ても分かる通り、この人は元来ヒットソングを書く才能に恵まれている。絵画的な印象は相変わらずである。アートワークのドクロ。それらは、ある種のトラウマ的な感覚から出発しているが、このアルバムではそれらが変容しつつある。印象主義だが、錯綜とした印象を持つニューサイケともいうべき派手なアートワークの印象。これまでとは対象的にポリネシア的な明るさ。それから海のような爽快なテーマが見え隠れする。これはポリネシア的なイメージに縁取られたミレーの「落ち穂拾い」のモチーフの継承でもあろうか。



音楽的にも、それらのトロピカルなイメージ、海と太陽、そして、Human League、a-haの系譜にあるテクノ・ポップ/エレクトロ・ポップが組み合わされ、最終的にはバイラルヒットを見込んだポップソングと結びつく。アンセミックなフレーズを唄うことを恐れず、これ以上、ニッチなアーティストとしてとどまることを忌避するかのようだ。さらに、このアルバムの原動力となったのは、内側から沸き立つ怒りの感情であった。それらはいくつかのハイライト曲の歌詞でも暗示されている。しかし、怒りを建設的なパワーに変換させ、世界への批評的な精神にシフトチェンジしている。このアルバムには、悲しみや怒りを通り越した本当の”強さ”が存在する。


 

「Dinner」

 

 

 

29.Goon  『Dream 3』- Bone Losers



USオルタナティヴロックの魅力がどこにあるのかと言えば、それは文化的な背景の混淆性や雑多性にある。音楽の雑多性が、他の地域のどのグループにも属さない独自性を発生させる。それはときには、西海岸らしい用語で言えば、サイケデリックーー混沌性ーーをもたらす。

 

Goonは、2015年から活動を継続し、2017年頃からまとまった作品を発表してきた。当初は、大学の友人を中心に結成され、バンド募集という一般的な形でラインナップが整ったという話もある。以前はサイケポップとも称されることもあったGoonの混沌性は、本日発売された『Dream 3』において、シューゲイズ、デスメタル、アメリカーナ/ケイジャン、グランジ、ゴシック/ニューロマンティックの系譜にあるドリーム・ポップというように、あらゆる可能性を探り、多彩な形を通じて万華鏡のような色彩的で奥行きのある不可思議な世界を構築していく。


グーンの進化は前作『Hour of Green Evening』でひとまず結実した。 今作は、ベッカーの青春時代の夜の郊外の世界を思い起こさせ、コンクリート打ちっぱなしの住宅とカリフォルニアの緑豊かな美しい風景が混在している。グーンはサウンド・タレント・グループとブッキング契約を結び、バンドは最近、フィリーを拠点とするレコード・レーベル、ボーン・ロサーズと契約し、LAのホライズンスタジオで2025年リリース予定の新作アルバムの制作に取り掛かった。


リーダーのケニー・ベッカーは、アルバム1枚分の楽曲をスタジオに持ち込んだ。「このアルバムの制作は興奮して始めた。曲作りは、決められた台本がなくて、手綱を緩め、一番面白そうなアイデアに従った。 最初は本当に楽しいレコーディングだった。 その後、人生で最も打ちのめされた時期がやってきた」 その後、彼の結婚生活はあっけなく終了したというが、その失意をクリエイティヴに生かして、パワフルなインディーロックアルバム『Dream 3』が誕生した。こうした複雑な背景から生み出された本作はオルタナティヴの本質を随所に持ち合わせている。

 

 

「Pasty's Twin」

  

 

 

30.Tommy Wa 『Somewhere Only We Go』 EP  - Dirty Hit (Album of The Year 2025)


トミー・ワーはアフリカの負の部分に脚光を当てようというのではない。アフリカの原初的な魅力、今なお続く他の土地から見えない魅力を自然味に溢れた歌声で伝えるためにやってきた。Tommy WÁの素晴らしい歌声は、オーティス・レディング、サム・クック、ジェイムス・ブラウンのような偉大なソウルシンガーのように、音楽の本当の凄さを伝えるにとどまらず、それ以上の啓示的なメッセージを伝えようとしている。高度に経済化された先進国、そして、頂点に近づこうとする無数の国家の人々が散逸した原初的なスピリットと美しさを持ち合わせている。 

 

Tommy WÁの人生観は、様々な価値観が錯綜する現代社会とは対象的に、シンプルに人の生き様に焦点が当てられている。個人が成長し、友人や家族を作り、そして、老いて死んでいく。そして、それらを本質的に縁取るものは一体なんなのだろう。この本質的な事実から目を背けさせるため、あまりに多くの物事が実相を曇らせている。そして、もちろん、自己という観点からしばし離れてみて、トミーが言うように、大きな家族という視点から物事を見れば、その実相はもっとよくはっきりと見えてくるかもしれない。家族という考えを持てば、戦争はおろか侵略など起きようはずもない。なぜなら、それらはすべて同じ源から発生しているからである。


このミニアルバムは、音楽的な天才性に恵まれた詩人がガーナから登場したことを印象づける。「God Loves When You're Dancing」は、大きな地球的な視点から人間社会を見つめている。どのような階級の人も喜ばしく踊ることこそ、大いなる存在が望むことだろう。それはもちろん、どのような小さな存在も軽視されるべきではなく、すべての存在が平らなのである。そのことを象徴するかのように、圧巻のエンディングを成している。音楽的には、ボブ・ディラン、トム・ウェイツ、ジプシー・キングスの作風を想起させ、ミュージカルのように楽しく動きのある音楽に支えられている。ボーカルは全体的に淡々としているが、愛に包まれている。すごく好きな曲だ。もちろん、彼の音楽が時代を超えた普遍性を持つことは言うまでもない。こういった素晴らしいシンガーソングライターが発掘されたことに大きな感動を覚えた。

 

 「God Loves When You're Dancing」 

 

 ・Vol.4に続く 

 【Album Of The Year 2025】  Best Album 50   2025年のベストアルバムセレクション   Vol.4 


 

31.Alex G   『Headlights』- RCA/Sony Music(Album of The Year 2025)



アメリカの名うての名門レーベル、RCAに移籍して最初のアルバム『Headlights』をリリースしたAlex G。すでに来日公演を行っており、馴染みのあるリスナーも多いのではないかと思う。

 

Alex Gの全般的なソングライターとしての価値は、従来はバンド単位で行っていたインディーロックやアメリカーナを個人のアーティストとして(ときにはバンドアンサンブルを交えて)パッケージすることにある。ニューアルバムも素晴らしい出来で、ハイライト曲もしっかり収録されていた。アレックスGの代表的なアルバムが登場したと言っても差し支えないだろう。ソングライターとしての手腕も年々高い水準に達しつつあり、今後の活躍も楽しみでしようがない。

 

さて、『Headlights』は、近年の男性ミュージシャンの中でも傑出した作品といえるだろう。前作ではアメリカーナやフォークミュージックをベースに温和なロックワールドを展開させたが、それらの個性的な音楽性を引き継いだ上で、ソングライティングはより円熟味を増している。現代的なポップ/ロックミュージックの流れを踏まえた上で、彼は普遍的な音楽を探求する。


前作アルバムはくっきりとした音像が重視され、ドラムテイクが強めに出力されていたという点で、ソロアーティストのバンド性を重視している。その中で幻想的なカントリー/フォークの要素をもとにした、ポピュラーなロックソングが多かった。最新作では前作の延長線上を行きながら、さらに深い領域に達した。円熟味のあるソングライティングが堪能できるグッドアルバム。

 

「Afterlife」

 

 

32. Benefits 『Constant Noise』 - Invada 


 

ミドルスブラのデュオ、Benefitsは2023年のデビューアルバム『Nails』で衝撃的なデビューを果たし、グラストンベリーへの出演、国内メディアへの露出など着実にステップアップを図ってきた。メンバーチェンジを経て、デビュー当時はバンド編成だったが、現在はデュオとして活動している。


当初インダストリアルな響きを持つポストハードコアバンド/ノイズコアバンドとして登場したが、その中には、ヒップホップやエレクトロニックのニュアンスも含まれていた。ベネフィッツは新しい時代のポストパンクバンドであり、いわば、Joy Divisionがイアン・カーティスの死後、New Orderに変身して、エレクトロの性質を強めていったのと同じようなものだろう。もしくはそのあとのヨーロッパのクラブを吸収したChemical Brotersのテクノのようでもある。


全体としては、メンバーチェンジを経たせいもあり、音楽性が定まらなかった印象であるが、やはり依然としてベネフィッツらしさは健在である。スティーヴ・アルビニへの追悼「Lord of The Tyrants」、Libertinesのピーター・ドハーティをフィーチャーした「Relentless」、このユニットの重要なコアであるヒップホップナンバー「Divide」も強烈な印象を放ってやまない。

 

「Relentless」 

 

 

33.Water From Your Eyes 『It's A Beautiful Place』 - Matador



ニューヨークのWater From Your Eyesは、2023年のアルバム『Everyone's Crushed』に続いて、Matadorから二作目のアルバム『It's A Beautiful Place』をリリースした。前作は、アートポップやエクスペリメンタルポップが中心の先鋭的なアルバムだったが、本作ではよりロック/メタル的なアプローチが優勢となっている。もちろん、それだけではない。このアルバムの魅力は音楽文化の混在化にある。

 

ネイト・アトモスとレイチェル・ブラウンの両者は、この2年ほど、ソロプロジェクトやサイドプロジェクトでしばらくリリースをちょこちょこと重ねていたが、デュオとして戻ってくると、収まるべきところに収まったという感じがする。このアルバムを聴くかぎりでは、ジャンルにとらわれないで、自由度の高い音楽性を発揮している。

 

表向きの音楽性が大幅に変更されたことは旧来のファンであればお気づきになられるだろう。Y2Kの組み直した作品と聞いて、実際の音源に触れると、びっくり仰天するかもしれない。しかし、ウォーター・フロム・ユア・アイズらしさがないかといえば、そうではあるまい。アルバムのオープニング「One Small Step」では、タイムリープするかのようなシンセの効果音で始まり、レトロゲームのオープニングのような遊び心で、聞き手を別の世界に導くかのようである。

 

その後、何が始まるのかと言えば、グランジ風のロックソング「Life Signs」が続く。今回のアルバムでは、デュオというよりもバンド形式で制作を行ったという話で、その効果が一瞬で出ている。イントロはマスロックのようだが、J Mascisのような恐竜みたいな轟音のディストーションギターが煙の向こうから出現、炸裂し、身構える聞き手を一瞬でノックアウトし、アートポップバンドなどという馬鹿げた呼称を一瞬で吹き飛ばす。その様子はあまりにも痛快だ。ロック、ポップ、ヒップホップを始め、様々なカルチャーが混在するニューヨークらしい作品。

 

「Life Signs」 

 

 

 

34.Marissa Nadler 『New Radiations』 - Bella Union/ Sacred Bones  



最近は、国内外を問わず、マイナー・スケール(単調)の音楽というのが倦厭されつつある傾向にあるように思える。暗い印象を与える音楽は、いわば音楽に明るいイメージを求める聞き手にとっては面食らうものがあるのかもしれない。

 

ナッシュビルを拠点に活動を行うマリッサ・ナドラーは古き良きフォークシンガーの系譜に属する。彼女は、レナード・コーエン、ジョニ・ミッチェルのような普遍的な音楽を発表してきたミュージシャンに影響を受けてきた。暗い感情をそのまま吐露するかのように、淡々と歌を紡ぐ。歌手は、物悲しいバラッドを最も得意としていて、それらの曲を涼しげにさらりと歌う。全般的には、このミュージシャンの表向きにイメージであるモノトーンのゴシック調の雰囲気に彩られている。


ただ、そのフォークバラッドに内在するのは、暗さだけではない。その暗さの向こうから静かに、そしてゆっくりと癒やされるようなカタルシスが生じることがある。ナドラーのキャリアハイの象徴的なアルバム『New Radiations』は光と影のコントラストから生じている。学生時代から絵画を専門に専攻し、絵をサイドワークに据えてきた人物らしい抜群のコントラストーー色彩感覚がこのアルバムのハイライトになっているのである。

 

「Light Years」 

 

 

 

35.TOPS『Bury The Key』Ghostly International  



 

トップスは”最も優れたインディーポップバンド"としての称号をほしいままにしてきた存在である。しかし、このアルバム全体を聴くとわかる通り、フラットな作品を作ろうというような生半可な姿勢を反映するものではない。この点において、2012年頃から彼らはコアな音楽ファンからの支持を獲得してきたが、音楽性を半ば曲解されてきた部分もあったのではないだろうか。

 

ニューアルバム『Bury the Key』はソフィスティポップ(AOR/ソフトロック)を中心に構成され、そしてヨットロックの音楽性も盛り込まれている。 しかし、実際の音楽は表向きの印象とは対照的に軽いわけではない。ギター、ベース、ドラム、フルート、シンセの器楽的なアンサンブルは、無駄な音がなく、研ぎ澄まされている。メロディーの良さが取り上げられることが多いが、TOPSのアンサンブルは、EW&F(アースウィンド&ファイア)に匹敵するものがあり、グルーヴやリズムでも、複数の楽器やボーカルが連鎖的な役割を担い、演奏において高い連携が取れている。


TOPSのサウンドは、Tears For Fears、Freetwood Macといった、70、80年代のサウンドを如実に反映させているが、実際的なサウンドはどこまでもモダンな雰囲気が漂い、スウェーデンのLittle Dragonに近い。表向きに現れるのは、ライトな印象を持つポップソングであるが、ディスコ、アフロソウル、R&B、ファンク等、様々な要素が紛れ込み、それらの広範さがTOPSの音楽に奥行きをもたらしている。これが、音楽に説得力をもたせている要因である。しかし、それらのミュージシャンとしての試行錯誤や労苦をほとんど感じさせないのが、このアルバムの凄さといえる。

 

TOPSの曲が魅力的に聴こえる理由はなぜなのかといえば、それは音楽そのものが平坦にならず、セクションごとの楽器の演奏の意図が明確だからである。さらにヴァースやコーラスの構成のつなぎ目のような細部でも一切手を抜かないでやり抜くということに尽きる。 

 

「Wheels At Night」 

 

 

36. Jaywood 『Leo Negro』- Captured Tracks



ジェイウッドはカナダ/ウィニペグから登場したソングライターで、ヒップホップやインディーソウルを融合させ、これらのジャンルを次世代に導く。『Slingshot』では自己のアイデンティティを探求し、繊細な側面をとどめていたが、今作にその面影はない。現在の音楽の最前線であるモントリオールに活動拠点を移し、先鋭的なネオソウル/ヒップホップアルバムを制作した。ここで"ヒップホップはアートだ"ということを強烈に意識させてくれたことに感謝したい。

 

全般的な楽曲からは強いエナジーとエフィカシーがみなぎり、このアルバムにふれるリスナーを圧倒する。ジェイウッドは、電話のメッセージなど音楽的なストーリーテリングの要素を用い、起伏に富んだソウル/ヒップホップソングアルバムを提供している。また、その中には、デ・ラ・ソウル、Dr.Dreなどが好んで用いた古典的なチョップやサンプリングの技法も登場したりする。


直近のヒップホップ・アルバムの中では、圧倒的にリズムトラックがかっこいい。彼は、このアルバムで、トロイ・モアの系譜にあるメロディアスなチルウェイブとキング・ダビーが乗り移ったかのような激烈なダブのテクニックを披露し、ドラムンベースらベースラインを含めるダブステップの音楽性と連鎖させる。彼は次世代の音楽を『Leo Negro』で部分的に予見している。

 

アルバムには古典から最新の形式に至るまで、ソウルミュージックへの普遍的な愛着が感じられ、それらはビンテージのアナログレコードのようなミックスやマスターに明瞭に表れ出ている。ギターのリサンプリング、そしてサンプル、ボーカルが混在し、サイケでカオスな音響空間を形成する。しかし、その抽象的な音の運びの中には、メロウなファンクソウルが偏在している。

 
全体的には2000年代前後のヒップホップをベースにし、ピアノのサンプリングを織り交ぜ、ジャズの響きを作り出す。モントリオールの音楽が新しく加わり、ジェイウッドの音楽は驚くほどゴージャスになっている。実際的にジャズ和声を組み合わせ、それをリズムと連動させ、強固なグルーブを作り出す、ニューヨークの前衛的なヒップホップの影響を織り交ぜられ、激烈な印象を持つギターが入ることもある。これらの古典性と先進性が混在したヒップホップソングは、スクラッチの技法を挟みながら、時空の流れを軽々と飛び越えていく。これは本当にすごい。

 

「Sun Baby」

 

 

37.Nation Of Language  『In Another Life』- SUB POP



ネイション・オブ・ランゲージの新作アルバムは現代社会のテーマを鋭く反映していて、興味を惹かれる。テクノロジーという無限世界に放たれ、道標を見失う現代人の心を、明確に、そして的確に捉えているのが感歎すべき点である。


イアン・デヴァニー(ボーカル/ギター)を中心とする三人組は、テクノロジーを逆手にとったような音楽を探求している。そこから浮かび上がるのは、デジタル社会における人間性とは何かという点である。


また、いいかえれば、目覚ましく発展するIT社会で、人間的な感性はいかなる価値を持ちうるのか、という問いなのである。デヴァーニー、ノエル(ドラム)、マッケイ(シンセ)の三者は、それらを「テクノ・ポップ」という近代と未来の双方を象徴付ける音楽で表現しようとする。

 

 最新作『Dance Called Memory』はデジタルとアナログが混合した不可思議な音楽世界を醸成する。彼らがハードウェアのシンセサイザーを使用するのは周知の通りで、本作の冒頭から終盤にかけて、エレクトロニクスの楽器がミステリアスな世界観を確立している。本作を機に、バンドはPIASからSub Popへと移籍したが、相変わらず素晴らしい楽曲を書くグループだ。

 

「I'm Not Ready For The Change」 

 

 

 

38.Automatics 『Is It Now』- Stone Throw 



オートマティックの自称する「Deviant Pop」とは、''逸脱したポップ''のことを指すが、ロスの三人組の三作目のアルバムを聴けば、どのような音楽か理解出来るだろうと思われる。ニューウェイブのポスト世代に属する音楽であり、その中には、ディスコやクラウトロック、エレクトロニック、ダブ、デトロイトの古典的なハウス、ヨットロックなどが盛り込まれているが、明らかにオートマティックは、最新アルバム『Is It Now?』で未来志向の音楽を発現させている。



彼女たちは、ギターレスの特殊なバンド編成を長所と捉えることで、複合的なリズムとグルーヴをつくりだす。オートマティックは、ジナ・バーチ擁するニューウェイブバンド、The Slitsの再来であり、彼女たちが生み出すのは内輪向けのパーティソングともいえる。しかし、その内輪向けのポップソングは、同時に今後のミュージックシーンの流行のサウンドを象徴づけている。



今年のアルバムの中では鮮烈な印象を放つ。『Is It Now?』はニューウェイブの次の世代となるネオウェイブの台頭が予感される。三者のボーカルが入り乱れる音楽は、どこから何が出てくるかまったくわからない。現代社会への提言を織り込んだ痛撃なアルバムが登場したと言える。

 

 

 

 

 

39.Leisure 『Welcome To The Mood』(Album of The Year 2025)



NZ/オークランドの6人組グループ、Leisure。TOPSのようなヨットロックから、80年代初頭のStylistics、Commodoresのような、マーヴィン・ゲイやスティーリー・ダン、クインシー・ジョーンズらが登場する前夜のソウルミュージックを織り交ぜ、トロピカルな雰囲気に満ちたポップソングを制作している。

 

新作『Welcome To The Mood』は相当練り上げられたかなり完成度の高い作品である。もちろん、ミックスやマスターで磨き上げられ、現代的なデジタルレコーディングの精華である”艶のあるクリアな音質”が特徴で、聴きやすい作品。

 

ドラムの演奏が際立ち、レジャーの楽曲全体を司令塔のようにコントロールしている。ドラムが冗長なくらい反復的なリズムを刻むなか、6人組という、コレクティブに近い分厚いバンド構成による多角的なアンサンブルが繰り広げられ、音楽そのもののバリエーションが増していく。

 

レジャーの音楽は、表面的には、ポップネスの要素が強い反面、その内実はファンクソウル/ディスコソウルを濾過したポップソングである。ジェイムス・ブラウンの系統にあるファンクのビートが礎になり、軽快で清涼感のあるポップソングが形作られる。

 

レジャーの音楽は、ポップをベースにしているが、ロックの性質を帯びる場合がある。ただ、レジャーはどちらかと言えば、The Doobie Brothers、Earth Wind & Fireのような白人と黒人の融合したロックソングの性質を受け継いでいる。彼らのソウルのイディオムは必ずしも、ブルー・アイド・ソウルに根ざしているとはかぎらず、サザンソウルやサザンロックなど、米国南部のロックやR&Bの要素をうまく取り込んで、それらを日本とシティポップや米国西海岸のソフィスティポップと撚り合わせて、安定感に満ちた聴き応えのある音楽を提供しています。

 

「The Colour Of The Sound」 

 

 

 

40. Geese  『Getting Killed』 - Partisan/ PIAS



 

ニューヨークのバンド、Geeseが待望の3rdスタジオアルバム『Getting Killed』で帰還。音楽フェスでケネス・ブルームに声をかけられた彼らは、ロサンゼルスの彼のスタジオで10日間という短期間で本作を録音。


オーバーダビングの時間がほとんどない中、完成した作品は混沌としたコメディのような仕上がりとなった。ガレージ風リフにウクライナ合唱団のサンプルを重ね、ヒス音のするドラムマシンがキーンと鳴るギターの背後で柔らかく脈打つ。奇妙な子守唄のような楽曲と反復実験が交互に現れる。『Getting Killed』でGeeseは、新たな柔らかさと増幅した怒りのバランスを取り、クラシックロックへの愛を音楽そのものへの嫌悪と交換したかのようである。

 

今作は、セカンド・アルバム『3D Country』の延長線上にあるが、より冒険心と遊び心を感じさせる。全般的なロックソングとしては、ローリング・ストーンズの系譜にあるブギーロックを受け継いでいるが、Geeseのデビュー当時のサウンドと同様に、それは混沌とし、錯綜していて、現代社会を暗示するかのようだ。それらはしばしば、「Au Pay Du ocaine」などに象徴されるようにサイケロックやサイケソウルのようなテイストも併せ持つ。そんな中でも、カントリーとロック、ブルース、ソウルなどを組み合わせた楽曲が本作のコアとなっている。「Getting Killed」、「Islands of Man」、「100 Horses」はその象徴ともいうべきトラックだ。また、 ローリングストーンズの名曲「Symphony for The Devil」を彷彿とさせる、アヴァンギャルドなロックソング「Long Island City Here I Come」にも注目したいところです。

 


「100 Horses」 

 

 

・Vol.5に続く