New Album Review:  Arlo Parks 『Ambiguous Desire』

 Arlo Parks 『Ambiguous Desire』

 

Label: Transgressive

Release: 2026年4月3日

 

Review


 

およそ3年ぶりとなるアーロ・パークスのアルバム『Ambigious Desire(あいまいな欲望)』 は、先週のベストアルバムの一つ。ロンドンからロサンゼルスに活動拠点を移動し、従来のインディーポップの音楽性に、プラスの要素をもたらしたのが『Ambigious Desire』 である。依然として、甘酸っぱいアルトポップソングを主体にしているが、今回の最新作では、LAのトレンドであるビートシーンの影響を受けてか、ダンサンブルなポップソングを志向しているように感じられた。


メロディアスな一面もあるが、ビート全体に体を委ねて聴く、あるいは楽しむようなアルバムとなっている。また、そこには、Dirty Hitに所属するパークスの友人であるKelly Lee Owensの影響を受けてか、ロンドンのガラージのようなダンスミュージックスタイルを織り込んでいる。

 

 『My Soft Machine』で基本的なアルトポップのスタイルはひとまずやり終えたと思ったのだろう。また、アーロ・パークスは日常的にクラブシーンに接することが多いためか、やはり現地の音楽を作風に取り入れようとするのは自然なことのように思える。パークスは現在の音楽に興味があるようで、過去の音楽にはそれほど興味は薄い。しかし、ロンドンの音楽に対する愛着もまだ残されている。それは特にアルバムの後半の曲で、ブレイクビーツという形で登場する。Wu-Luを彷彿とさせるヒップホップ仕込みの強烈なブレイクビーツがメロディアスなアルトポップソングと融合している。これは意外と誰かがやっていそうでやらなかった内容だ。また、作曲面でも技術が向上しており、Abletonを使用した打ち込みのサウンドはその象徴となる。

 

しかし、アーロ・パークスらしさが薄れたかと言えばそうではない。アルバムの冒頭を飾る「Blue Disco」はその象徴で、現代的なテクノとアルトポップの形が合致した、心地よい一曲だ。特に前作よりもキックの音を強調しながら、グルーヴ感を追求し、その中で、甘い感じのボーカルのメロディが歌われる。この曲を聴いて思うのは、どうやらアーロ・パークスには音楽的な美学があるらしく、もちろん自分なりの理想を体現しつつ、ポピュラーなサウンドを制作している。 実際的にこのオープニング曲は素晴らしく、80年代のシンセ・ポップが2020年代のサウンドに変化すると、どのようになるのかを示した好例である。オシレーターを使用したシンセがアトモスフェリックな音像を作り出し、やはりツボを捉えた良いボーカルが響く。また、ニュートラルなサウンドが目立った前作であったが、ベースラインを強調した立体的なサウンドを聴くことが出来る。このあたりにもアーロ・パークスの作曲の成長が伺える。その中で強調されるのは、ロサンゼルスのクラブシーンに触発された多幸感のある旋律である。しかし、それは真夜中のクラブのように、ぼんやりとしていて、淡い感覚に満ちている。それは結局、パークスにとってクラブというものが、暮らしの中の癒しであることを示唆する。


「Blue Disco」

 



また、アーロ・パークスは最新作において、民族音楽のようなワイルドなビートを織り交ぜる。これが果たしてタイラー・ザ・クリエイターの最新作に触発されたものなのかは定かではない。しかし、アグレッシヴなアフロビートを用いた「Jetta」はワイルドな感じもありつつ、スタイリッシュな感覚も維持されている。この曲にはLAのビートシーンからの影響と、ジェフリー・パラダイスに象徴されるようなチルウェイブやチルアウトからの影響を織り交ぜ、最適解を汲み出している。


そのサウンドは、ロサンゼルスの海岸筋の光景を思わせ、Ninja Tuneに代表されるような、しなやかでフレッシュな質感を持つダンスビートと融合している。結局は、ロサンゼルスのダンスミュージックとロンドンのガラージのような二つの地域のEDMが融合したサウンドが組み上がる。続く「Get Go」も同様のサウンドで、アップテンポなビートと張りのあるネオソウルのサウンドが見事に混ざり合い、爽快感があり、アグレッシブなダンスポップソングが展開される。

 

アーロ・パークスはやはり実際のミュージックシーンの体験者ということもあって、ロンドンとLAのサウンドを見事にクロスオーバーし、一瞬にしてロスに、そして一瞬にしてロンドンへとひとっ飛びする。ネオソウルの色合いが一番強まるのが、ロイル・カーナー、ROMYなどのコラボレーターとして知られるSamphaが参加した「Senses」である。


従来よりもキックの音を押し出した重厚なダンスビートをもとに、ロンドンのリアルなネオソウルのサウンドが展開される。こういった曲を聴くとつくづく思うのは、楽曲から醸し出されるシンガーとしての雰囲気とか、歌そのものに宿るツヤのようなものが存在し、それは現地に行って聴かないと分からないのかもしれない。


アーロ・パークスは音楽のリアリティをよく知っていて、実際に現地で鳴っているサウンドをこの曲で再現させる。サンファのボーカルは最後の方で登場するが、すでにご承知の方も多いように、彼のボーカルは曲そのものに癒しを与え、曲全体を均すようなパワーがある。全体的に多少アンバランスな曲だとしても、サンファがソウルフルに歌うと、なぜかまとまりがつき、仕上がってしまう。これはとても不思議な現象であり、サンファ現象ともいうべきものだろう。

 

「Heaven」ではブレイクビーツとアルトポップの中間にあるサウンドを捉えられる。しかし、依然としてアーロ・パークスのボーカルは背景となる強固なダンスビートに上手く融和している。そしてその独特なムードの中に、 甘酸っぱい感じのするボーカルを付け加える。特に、この曲では、サブウーファーの低音域を強調されるサブベースが上部のボーカルメロディと鮮やかな対比をなしている。実際のクラブフロアで聴いて映えるような曲作りを志しているようだ。

 

結果的に、UKベースラインのようなアクの強い玄人好みのダンスミュージックが生み出された。これはまた、単なる録音作品というよりも、ライブシーンを意識した楽曲になっている。また、アシッド・ハウスのようなサウンドを反復する中で、エレキピアノを用いて繊細なサウンドを織り交ぜたりもする。実に依然よりも多角的なダンスミュージック/ポップが展開される。こうした中で、ヒップホップとアルトポップの中間にある「Beams」では、曲の後半部で良いボーカルメロディーが見いだせる。しかし、それらは単独の歌手としてではなく、背景のダンスビート/ヒップホップのトラックと上手く連動するような形でハイライトとなる瞬間が出てくる。

 

また、前作よりも音楽的な引き出しが多くなり、このアルバムの全体的な水準の底上げにも繋がっている。「South Seconds」ではベッドルームポップを下地に、アーティストとしては珍しく、インディーフォークソングに傾倒している。従来はアーロ・パークスはネオソウルとアルトポップの中間にいると思っていたのだが、これは予想外だった。また、実際的にこの曲は短いレングスでありながら、かなり良い線を行っていると思った。ローファイなサウンドから、内省的なパークスのボーカルが心地よい空気感を生み出している。それは、このアルバムの副題とも言える”雰囲気のあるポップソング”という制作の意図を読み解くことも出来る。実際的にこの曲は、アルバムの中盤の癒しとなるセクションで、パークスらしい心地よい旋律が美麗な空気感を作り出している。この曲にもまた、制作者の美学が淡く映し出されていると言える。

 

再びダンスミュージックに返り咲く「Nightswimming」では私生活の楽しみのような瞬間を切り取り、それらをリアルなサウンドに落とし込んでいる。イビサ風の精細感のあるハウス・ミュージックはケリー・リー・オーウェンズにも通じるものがあるが、やはりパークスはボーカルの旋律的な甘酸っぱさをなおざりにすることはない。リズムとメロディの両側面がかっちりとハマり、体を揺らしても、聞き入っても楽しい、一挙両得のサウンドが作り上げられる。特にアルバム全般に言えることだと思うが、リズムに乗れる瞬間を上手く引き出す。それは海の波乗りのようなもので、新しいパークスのソングライターとしての手腕が示された瞬間でもある。

 

ロサンゼルスのモダンなダンスポップミュージックを反映させた「2SIDEDED」も良曲で、聴き逃がせない。健康的な雰囲気のある一曲で、パーティ志向の充実した人生への渇望のようなものが描かれる。こういった曲が出てきたのも、現地のポップソングの妙味を知り得たからなのだろう。実際的に、このアルバムの最も心楽しい瞬間を作り出すことに成功している。特にこの曲では、ビートの良さもさることながら、シンセサイザーが見事なボーカルとの対比を描く。 

 

アルバムの終盤の収録曲はトラック制作の面で相当な力の入れよう。「What If I Say It?」はガラージのようなダンスミュージックを主体にしたイントロがヒップホップのビートと融合している。TRICKYを彷彿とさせるトリップホップのようなイントロから、やはりパークスはアルトポップソングの作曲経験を活かしながら、良いボーカルメロディーを引き出そうとする。サビ/コーラスの箇所では、単なる多幸感を越えた天上的な空気感が出てくることもある。こういった地上的なサウンドにとどまらず、高らかなポップソングを書こうとしている気配も感じられる。

 

3年前、アーロ・パークスの曲を良いと感じたのは、融和のような精神が根底にあるからである。それは最新作でも共通していて、現代ポップシーンの癒しとなることは必須である。しかし、野心的な趣を持つ最終曲「Floette」は何を物語らんとするのか。これはおそらく、アーロ・パークスという飽くなき音の探求者が次のステップへと向かいつつある兆候でもあるのだろう。

 

 

85/100

 

 

 

 

「South Seconds」- Best Track

 

 

 

▪Arlo Parks 『Ambiguous Desire』Stream :  https://arloparks.ffm.to/ambiguousdesire

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