スケート・パンク特集 「歴代のポップ・パンクの名盤」

スケート文化とポップパンク 


 

現在スケートボード自体は若者に根強い人気のある普遍的なストリートスポーツとして挙げられる。 

 

それは、フットボールと同じように、どのような地域であれチャレンジが出来、それは生育環境とは全然関係なく広い門戸が開かれているからである。サッカーを例として見るなら、アフリカの貧困地域でもフットボールが普及したのは、ボール一つ、そして、空き地、ある程度の人数さえ確保できればその競技が成立する、つまり、成立条件の少なさによる。



 

同じように、ストリートボードというスポーツも、ボードさえ手に入れば、どこでもプレイできるという面で、他のスポーツ競技よりはるかに始める際のハードルは低い。

 

もちろん、その後に、プロフェッショナルなエアーをクールに決めるためには、並々ならない鍛錬が必要だろうが、ボードをはじめる際には他のスポーツよりも気楽に取り組めるというメリットがある。

 

そして、このスケートというスポーツと、パンク・ロックという音楽は、非常に密接な関係を保持していた。

 

 米国の西海岸においては、ほとんどパンクというのはスケートボードと切っても切り離せないような存在であった。元々はハードコア・パンクの一角を形成していたのも、実は、リアルなスケートボーダーだったというのも事実である。



 

そういった意味において、ストリートボードとパンクロックというジャンルは、ストリートという一部の領域において、密接に関わりを持ちながら、若者向けの巨大カルチャーとして発展していった経緯がある。スケーター・パンク、ポップ・パンクというジャンルの発祥は、八十年代の終わりのアメリカの西海岸、北カルフォルニアに求められる。特にオレンジカウンティというロサンゼルスを南下したサンフランシスコからほど近い地域を中心として、徐々に発展していった若者向けのカルチャーであり、九十年代に最も隆盛をきわめた。当初、マニア向けの存在でしかなかった、Sucidal Tendencies、Fifteen、Descendents、といったパンク・ロックバンドがヘンリー・ロリンズ擁するブラック・フラッグが米国内のインディーズシーンを賑わせた後、このカルフォルニアの地域に台頭、スケーター・パンクの流行を後押しした。



 

それから、Sucidal Tendencies,Fifteen、Descendentsに続いて、Minor Threatのギタリストとして知られるブライアン・ベイカー(アメリカで有名なテレビマンを父親に持つ)が結成した”Bad Religion”が台頭する。

 

その後、”Fat Wreck Records”を主宰し、パンクシーンに大きな影響力を持つ”NOFX”というクールなロックバンドが、八十年代後半から九十年代にかけてシーンを活性化、米国全土にとどまらず、海外にもそのムーブメントを波及させていった。

 

さらに、スケーターパンク/ポップパンクの集大成をなすべく、グリーン・デイ、オフスプリング、ニュー・ファウンド・グローリー、Sum41といったロックバンドがアメリカビルボード・チャートで健闘し、その後のポップ・パンク、エモコア・ムーブメントの基盤を着実に築き上げていく。



 

そもそも、このスケーターパンクという音楽には、古くのサーフ・ロックに一定の共通項が見いだされる。 

 

それは、古くのビーチ・ボーイズやヴェンチャーズを始めとするサーフロックというのも、サーフィンを趣味とするミュージシャンが、そのスポーツから導きだされるイメージを、音楽として表現してみせたように、このスケーター・パンクも、スケートボードを趣味とする若者が音楽という表現にのめり込んだがゆえに生み出された音楽なのだ。

 

そのムーブメントが流行した年代というのは、実に、三十年ほどの隔たりがある。しかし、痛快で、キャッチーで、スポーティーな音楽を奏でるという側面で、相通じるものがあるはず。もちろん、その発祥地域というのも、カルフォルニアという同地域を中心として発展していったのもあながち偶然とはいえない。これは、東海岸の音楽文化とは異なる西海岸の独特なカルチャーの一つ、というように言えるかもしれない。



 


 

 

 ポップパンクの名盤

 

 

1.GREEN DAY  「Dookie」


 

 

 

既に、アルバムレビューでも最初の方に取り上げた作品ではあるものの、スケーターパンク、そしてポップ・パンクムーブメントを語る上では、まずこの世界的にメガヒットを記録した傑作を度外視することは出来ない。

 

スケーターパンクの要素及び魅力は、このアルバムの中にすべて詰まっていると言っても誇張にはならないはず、瑞々しさ、青臭さ、そして、疾走感、全て三拍子揃った素晴らしい永久不変の名盤。およそこのジャンルを知るためには、このアルバムが一番聴きやすく、音楽性が掴みやすいだろうと思う。

 

「Burnout」「Basket Case」「She」といった楽曲は、2020年代でもまだ当時の光輝を失っていない。全曲、ほとんどが2,3分のヒット・チューンが矢継ぎ早に通り過ぎていき、あっという間に聴き終えてしまうことだろう。おそらく、現代のスケーターにも共感を誘うであろう、ヤンチャでいて、若々しくフレシュな音楽性が、このアルバム、ひいては、グリーン・デイの最大の魅力だ。

 

この後、グリーン・デイは、世界的なロックバンドとして認知されるようになり、政治的なメッセージを込めた作品もリリースするようになる。しかし、この作品ではアルバム・ジャケット以外は、そういったニュアンスはさほどなく、口当たりの良い作品となっている。初期のスケーター・パンクとしての特長、そして、後のポップ・パンクとしての中間点に存在する実に痛快な一作。 

 

 



 

        



2.NOFX  「Punk In Drublic」 

 

 

 

 

いわゆるスケーターパンクというジャンル概念を、他のスイサイダル・テンデンシーズ、D.O.Aとロックバンドともに広めた功績のあるバンドがNOFXだ。 Tシャツ、短パン、そして、ド派手な髪の色(金髪、ピンク髪、青髪etc.)というスタイルは、スケーターファッションの王道を行くもの、これは、デビューから何十年経っても変わらない、彼等のお約束のスタイルでもある。

 

これまでずっと、NOFXがどれだけワールドワイドになっても、肩肘をはらないスタンスを取り、フレンドリーな姿勢を示して来た。それは、彼等四人が多くの若者の兄貴分のような存在であるから。NOFXがフランクな姿勢を取っているのはブラフであり時折、痛快なインテリジェンス性を垣間見せる。ブッシュJr,政権時代から、「War in errorism」といった作品を通して、政治的でシニカルなメッセージを込めることも厭わない。 

 

このアルバム「Punk in Drublic」は、そういった思想的な面は抜きにして、ポップパンクのみずみずしさが充分に味わえる作品である。

 

もちろん、今作は、彼等の代表作として知られていて、全体に展開される目くるめくスピードチューン、16ビートの典型的なリズム、そして、メロディアスなロック性というのは、スケーターパンクの基礎を形作った。本作の良さというのは、1stトラックの「Linoleum」に集約されていると、いっても過言ではない。この痛快なスピードチューンこそ、スケートパンク/ポップ・パンクの醍醐味。なんというみずみずしい青春!! ここには、甘酸っぱいパンクロックの輝きが惜しみなく詰めこまれている。 

 

 



 

 

 

3.Descendens「Milo Goes to College」1982

 

 

 

 

スケーターがよく聴くパンク・ロックとしてよく挙げられるディセンデンツ!! 痛快なキャッチーさを持つ親しみやすいパンクロックバンド。もちろん、パンク・ロック史からみても最重要なバンドで、Black Flag、Germs、Circle Jerks、X、といったバンドと共に、80年代のUSパンク/ハードコアの礎を築き上げたにとどまらず、カルフォルニア、オレンジカウンティのカルチャーに大きな貢献を果たした。彼等は、NOFXと同じくスケーターファッションを表立ったイメージとしている。

 

 

この作品は、例えば、かつて日本のレコードショップ、ディスクユニオンで、配布していたフリーペーパーのUSパンクの名盤カタログに何度も登場してきた作品である。現在、残念ながら廃盤となっているものの、USパンクを聴き込んでいく上で、この作品を避けることは出来ない。

 

ディセンデンツは、常に、アルバム・ジャケットにおいて、シンプソンズのようなユニークな人物キャラクターをモチーフとして使用し、これまでその姿勢を貫いている。角刈りのメガネをかけたユニークな存在は、ディセンデンツのアイコンのようなものだ。

 

しかし、決して、アルバム・ジャケットの愛らしいイメージに騙されてはいけない。このキュートな対象的に、実際に奏でられる音楽のスタイルは、爽快さすら感じられる男気あるド直球パンクロック。そこには、夾雑物は混ざっていない。ここにあるのは情熱だけ、ひたすらやりたい音を素直に奏でている衝動性。これこそディセンデンツの音の最大の魅力なのだ。

 

今作「Milo Goes to College」は、ハードコア・パンクに近いアプローチを図っており、USハードコアの素地をなしている名作。

 

この音楽のスタイルは、ブラック・フラッグとともに、この後の90年代のカルフォルニアの音楽文化に多大な影響を与えたはず。カルフォルニアの太陽、澄んだ青い空、そして、スケートカルチャーが生んだ、痛快でシンプルなハードコア・パンクだ。 

 

 



 

 

 

4.All 「Allroy's Revenge」


   

 

 

ディセンデンツと盟友関係にある、ALL。

 

このロックバンドの特長は、スケーター・パンクのコアな概念からは程遠いように思えるが、ポップ・パンクバンドとしては欠かすことの出来ない。そして、上記に挙げたパンクバンドに比べ、スタンダードなヘヴィ・メタルやハード・ロックよりのアプローチが感じられるバンドでもある。 

 

そして、この後の90年代のスケーター及びポップパンクに代表されるバンドの力強い音楽性の中に、甘酸っぱい、パワーポップにも似た要素が滲んでいるのは、このバンドの影響によると思われる。

 

このALLというバンドは、他のスケーター、ポップ・パンクとして聴くと、少し物足りないようなイメージを抱くかもしれないが、ポップセンスというのは一級品、しかも恋愛に絡んだラブソングを書かせると右に出る存在は皆無である。

 

今作「Allroy's Revenge」は彼等の通算三作目となる作品。このアルバムに収録されている「She's My EX」そして「Mary」という楽曲は、アメリカンパワーポップの隠れた名品。 

 

ここで表現される甘酸っぱい楽曲は、若い頃に聴いてこそ真価が感じられる楽曲といえるだろう。ちょっと青臭い感じもあるけれど、それが滅茶苦茶良い味を出している。

 

ALLの楽曲性は、九十年代に流行したポップ・パンクバンド、Sugarcult,Mest,Blink182あたりに引き継がれていった。ポップ・パンクの基礎を築いた重要なバンドとして挙げておきたい。 

 

 



 

 

 

5.Bad Religion 「Gray Race」1996


 

 

 

ロックバンドをはじめるまでは、ストリート・ボーダーであったイアン・マッケイ擁するマイナー・スレットの解散後、ギタリスト、ブライアン・ベイカーが新結成したバンドがバッド・レリジョンだ。1980年から現在に至るまでメンバーの入れ替えを行いながら、タフな活動を続けている歴史あるロサンゼルスのパンク・ロックバンドである。

 

バッド・レリジョンは、とにかく、アメリカン・ハードコア、ポップ・パンクの重要な下地を作った最初のバンドとして挙げておきたい。彼等の音楽は、硬派であり、気骨に溢れ、そして、パンク・ロックバンドとしての重要な役割である痛烈なメッセージを持つ。

 

つまり、アメリカという国土に内在する人種、宗教、政治問題にとどまらず、アメリカ文化全体への提言まで及ぶ。

 

音楽性としては、アップテンポとまではいえないが、ノリのよい疾走感あふれる軽快なナンバーが多く、それほど捻りはなく、スタンダートなロックンロールの色合いの強いパンクロックである。

 

彼等の名作としては、その活動期が四十年という長期に及ぶため、どれを選ぶかは決めがたい。 

 

ライブパフォーマンスでのシンガロング性こそバッド・レリジョンというロックバンドの真の醍醐味であり、スタジオ・アルバムと全然楽曲の雰囲気が違うので、是非、ライブ版を一度聴いてほしい。

 

彼等の名作アルバムとしては、「The Gray Race」を挙げておきたい。 

 

ここで展開されるパワフルな音楽性、強いメーセージ性あふれる歌詞にはバッド・レリジョンの本質が垣間見れる。もちろん、この中の「Punk Rock Song」こそ彼等の代表的な一曲である。

 

もちろん、このスタジオアルバムの楽曲の他、バッド・レリジョンには、”American Jesus”,”Opereation Rescure”といった、パンク史に燦然と輝く名曲があることを忘れてはいけない。これらの楽曲は「Recipe For Hate」1993、「Against The Grain」1990で聴く事ができる。 

 

 



 

 

・番外編 

 

ドキュメンタリー・フィルム「Fuck Your Heroes」関連のパンクロック・バンド

 

 

上掲したスケーター/ポップパンクバンドと名盤の他に、リアルなスケートボード文化とパンクロックの関わりをフォトとして追った伝説的な作品がある。それが「Fuck Your Heroes」という写真集である。

 

ここには、八十年代のカルフォルニアの中心とするパンク・ロックシーンがスケートボードと関連して、どんなふうに築き上げられていったのか。リアルな写真として撮影されている。



 

 

もちろん、「Fuck Your Heroes」という過激な表題に示されている通り、必ずしも上品な概念でないかもしれない。しかし、ここには、表向きのスケート文化でなく、その背後にある生々しいストリートの文化、そして、このスポーツと深い関連を持つハードコア・パンクの熱狂性がフォトグラフィーとして生々しく描かれている。そして、スケートカルチャーと、パンク・ロックという音楽が、常に連動しながら、アメリカ全土でカルチャーとして認められるように至った事実を再確認するための重要な歴史的資料。


そのあたりのリアルなストリートボードと密接な関わりのあるパンク・ロックバンドを、最後に簡単に紹介し、この記事を終えたいと思います。



 

 

 

1.Minor Threat 「First Demo Tape」 

 

 

 

このバンドの中心人物、イアン・マッケイは、まだ、ティーンネイジャーだった頃、どちらかといえば、外交的な青年とはいえなかった。

 

ところが、彼がスケートボートをはじめた瞬間から、彼の人生の意味は、まったく別の意義を持ち始め、見果てぬほどの大きな輝かしい世界が開けてきた。よもや、スケートボードを始めたときには、自分の主宰するレーベルを持つに至るなんていう考えもなかった。

 

そして、イアン・マッケイという人物の一種の自己表現の延長線上に存在したのが、このアメリカの伝説的なハードコア・パンクバンドMinor Threatである。このワシントンDCで結成されたマイナー・スレットは、三、四年の活動期間の短さにもかかわらず、後進のアメリカのインディー文化に与えた影響力というのは、すさまじいものがある。

 

四人組の年若い、二十歳にも満たない青年たちが始めたハードコア・パンクは、徐々に八十年代を通し、ワシントン州やニューヨーク州、あるいはLAを中心に大きなインディカルチャーとして発展していき、九十年代になってメインストリームで大きく花開いたといえる。



 


彼等マイナースレットのベスト盤的な意味合いでは、「First Two Seven Inches」は絶対に聴いてみてほしいと思う。このアルバムの最初の曲「Filer」で繰り広げられる痛烈な歌詞こそ、このハードコア・パンクのヒップホップにも似た魅力が潜んでいる。

 

もう一つ、おすすめしたいのが、このEP作品は彼等のデモテープを収めた作品。これは、ベスト・アルバムではない。しかし、このマイナースレットの魅力を最も理解しやすい一枚だ。 

 

アルバム全体を通し、楽曲が目の前を怒涛の嵐のごとく通り過ぎていく。言いたいことだけを核として吐きつけて歌う痛快なスタイルは、のちのラップのライムに比する雰囲気も感じられる。

 

アメリカのスケートをはじめとするインディーカルチャーを語る上でも重要な意味合いを持っている。後の世代のパンク、インディーカルチャーに与えた影響は計り知れない。。



 

 

 



 

 

2.Bad Brains「Banned in D.C」


 

 

 

アメリカで一番早く、黒人のみで結成されたバンド、それがLAのバッド・ブレインズである。 

 

その音楽性の中には、他の並み居るパンク・ロックバンドには真似できない独特な節回しというのがあり、しかも甲高い可笑しみのあるボーカルがライムのように矢継ぎ早に繰り出される。怒涛のスピードチューン、ほかのバンドにはない煌めきを現在も放ち続けている。

 

前のめりなビート、目くるめく早さのスピードチューンというのもバッド・ブレインズの最大の魅力といえるが、その他、このバンドサウンドな背景にはレゲエ・スカ音楽の影響が大きいという面で、アメリカのインディーシーンでは現在でも異彩を放っている。          

 

バッド・ブレインズの名盤としては、彼等の鮮烈なデビュー作「Banned in D.C」しか考えられない。

 

 ここでは、「Banned In D.C」「Supertouch/Shitfit」での、前にガンガンつんのめるハードコアの魅力もさることながら、「Jah Calling」での、レゲエ・スカ、ダブ風の落ち着いた楽曲がアルバムの印象にバリエーションを持たせている。激烈さもあり、渋さもあるという面で、クラッシュの「ロンドン・コーリング」のように、聴き込むたびに良さが出てくる作品だ。

 

もちろん、自身の中にある黒人のルーツを誇らしく掲げるのが、バッド・ブレインズである。

 

彼等のようなクールな存在は他に見当たらない。時代に先んじて、ロック/パンクをブラック・ミュージックとしていち早く融合してみせた四人衆。彼等は、他のNYのRUN DMCよりも早く、アメリカで、音楽としての表現を見出そうとした歴史的なロックバンドである。

 

 



 

 

3.Suicidal Tendencies 「Sucidal Tendencies」

 

 

 

リアルなストリートボーダーがパンク・ロックを奏でたらどうなるのかという実例を示して見せたバンドがスイサイダル・テンテンシーズ。このバンドは音楽だけではなく、ファッション面においてこれまで重要なリーダーシップを果たしてきたように思える。

 

音楽性としては、盟友D.O.Aと同じように、コールアンドレスポンスを多用したハードコアパンクである。 

 

スイサイダル・テンデンシーズの傑作としてはバンド名を冠した痛快なデビュー作「Suicidal Tendencies」が挙げられる。

 

所謂、スケーターパンクというジャンルを知るのに最適な一枚であるが、音楽的には後のスレイヤーに代表されるスラッシュ・メタルの要素も感じられ、どことなく、ミクスチャー、メタル・コアの先駆けとして見れるバンドかもしれない。いかにも悪辣さや皮肉を込めた音楽性であり、人を選ぶ作品であるのは確かだが、スケーター音楽として、歴史的に重要な意味合いを持つスタジオ・アルバムであることには変わりない。

 

スイサイダル・テンデンシーズの活動後期は、スケーター・パンク色が消え、代わりに、ヘヴィ・メタルへのアプローチを図るようになるが、少なくとも、デビュー作「Sucidal tendencies」は、スケーターとしてのバックグランドがしっかり感じられる貴重な作品の一つ。 

 

 



 

 

 

4.Black Flag「Damaged」

 

 


 

最後に挙げて置きたいのが、このオレンジカウンティのインディーズ・シーンを牽引してきたヘンリー・ロリンズ擁するブラック・フラッグである。 

 

このバンドの中心人物、ボーカリストのヘンリー・ロリンズという人物は、現在のアメリカのインディー界では、最早、重鎮といっても過言でない大御所ミュージシャンとなっている。ニューヨークには、イギー・ポップという伝説的なミュージシャンがいるが、一方、カルフォルニアには、ヘンリー・ロリンズがいる、というわけである。

 

そして、このブラック・フラッグはその名のとおり、アナーキズムを掲げて音楽活動を長きに渡って行ってきたロックバンドである。ちなみにいうと、活動初期には、紅一点の女性がベーシスト、キラ・ロゼラーが参加していた。これはアメリカのパンクハードコア史の中でも、一番早い女性のパンクロッカーのひとりに挙げられる。

 

ブラック・フラッグは、スケーター・パンクという概念からは程遠い存在であるかもしれない。しかし、少なくとも、一般的には、アメリカのポップ・パンク、ハードコアシーンを語る上では、上記のマイナースレートと同等、それ以上に重要視されているバンドだ。

 

ブラック・フラッグの音楽性は、きわめて苛烈である。表面的には、粗野な印象を受けるかもしれないが、ヘンリー・ロリンズの紡ぎ出す表現の思索性、そして、このバンドサウンドの中核をなす、グレッグ・ギンのソリッドなギター。これは、外側においての攻撃性の放出をしようというのでなく、内面に渦巻く暗いもうひとりの自己とのたゆまざる格闘を音楽という領域で試みようとしているのである。えてして、近現代のラッパーは、他者とラップバトルを苛烈に繰り広げてみせるが、ヘンリー・ロリンズの繰り広げるそれは一貫して、内的な”もう一人の自己”とのラップバトルなのである。

 

彼等、ブラック・フラッグの名作としては、幾つか重要な作品がある。活動初期のレア・トラックを集めた「The First Four Years」も捨てがたいが、端的にこのバンドの良さが理解できるオリジナル・アルバムとして、まず、彼等のデビュー作「Damaged」を挙げておきたい。

 

ここで展開されるオレンジカウンティ発祥のバンドと思えない暗鬱な雰囲気がある一方、ユーモラスな質感が込められているのも、このブラック・フラッグの音楽性の特長だ。一見すると、このアルバムジャケットは悪趣味なものにも見える。しかし、ここでは、映し出された鏡の中に映り込むもうひとりの自己、あくまでそれは表立った姿でなく、内面に映し出されたもう一つの自己の姿である。その姿を鏡越しに破壊するという哲学的なメタファーも、このアルバムジャケットにはあらわされているように思える。

 

ブラック・フラッグの楽曲自体は、グレック・ギンの生み出すソリッドなギターのフレーズ、そして、シンガロング性の強いシンプルなロックンロールを主体としながら、ロリンズの激烈なアジテーションが込められたボーカルスタイルが、ボクサーのジャブのように順々に繰り出されていく様は、痛快と言うしかない。そして、その奇妙な攻撃性こそ、ブラックフラッグの最大の魅力であり、これこそまさに”ハードコアの代名詞”ともいえ、誰にも真似しえないヘンリー・ロリンズのお家芸なのである。

 

 



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