Weekly Recommend Andy Stott 「NEVER THE RIGHT TIME」


Andy Stott「NEVER THE RIGHT TIME」

 

 

2021年リリースのAndy Stottの新譜「Never The Right Time」は、スタジオ・アルバム通算九作目となり、やはりModern Loversからのリリース。

 

 

今回のスタジオアルバムは、2014年の「Faith In Strangers」のゲスト参加していたAlisson Skidmoreを迎い入れた事実から見て分かる通り、前々作「Too Many Voices」で一時的に保留していたボーカル曲としての路線に回帰したような印象を受ける。

 

 

もちろん、アンディ・ストットは、英国のクラブミュージックの最前線を行くアーティストの一人として、今日の、あるいは、未来の先鋭的な音楽を、ファンの元に届けてくれているあたりは頼もしさを感じる。 

 

 

 

 

 

ストットの新作アルバム「NEVER THE RIGHT TIME」は、近年の前衛的なリズム性を引き継ぎつつ、新たな作品として、そしてまた聞きやすい作品として、幅広いリスナーに受け入れられるだろうと考えている。

 

 

今作を聴いてかなり驚かされたのは、これまでのアンディ・ストットにはなかったアプローチが顕著に見られることでしょう。それは、つまり、最終曲「Hard To Tell」において、ギターのフレーズがエフェクティヴに、そして、時にサイケデリックに、トラック中に見事に取り入れられている点。

 

 

元来、彼は、印象的な楽器風のベースフレーズを「Faith in strangers」において実験的に取り入れているが、これは、まだ、どことなく打ち込みらしいニュアンスを感じさせるフレージング方法だった。それが、今回、楽曲「Hard to Tell」の中にスキッドモアの艷やかなボーカルを交えて、ギターフレーズが全面的にフーチャーされているというのは、他のクラブ界隈の近年のアーティストに影響されてなのかまではわからないが、これからストットの音楽の可能性がさらに広がっていくような予感が伺える。前作において、リズムでの前衛性の限界に到達したことの反作用がこの作品をリズムではなく、構造や旋律という面でのアプローチを促したのかもしれない。

 

 

今作は、リズム的なアプローチというより、彼が名作「Faith in Stranger」で見せた自身の美麗なメロディー性、そして、その背後に広がるアンビエンスを徹底的に追求した作品といえるでしょう。ストットの音楽的な目新しさとは別に、これまで追求してきたダブステップの先鋭的なアーティストとしての矜持は、やはり、今作でも遺憾なく発揮されている。

 

 

怪しげで蠱惑的な雰囲気を伺わせる楽曲「Away not Gone」は、彼の新たな代名詞的な楽曲と称しても良いくらいの素晴らしい出来栄えといえる。イントロの初めはドローン風と思わせておきながら、アリスン・スキッドモアのボーカルが入った途端に雰囲気は一変し、この楽曲に、奇妙なほどの清涼感を与えている。これは、上手くストットのマジックに惑乱させられたという形。

 

 

全体的としては、それほど嵩じたようなテンションの曲はなく、徹底してストイックなクラブミュージックが展開される。初期の方向性への原点回帰も果たしているあたりも、これまでの方向性をこのアルバムにおいてさらに洗練させたといえるかもしれない。

 

 

これは、もしかすると、今日の世界的な情勢というのが、ストットの人生観、もしくは音楽観の中に大きな影響を与えている気配もあろうかと思う。クラブミュージシャンとしてこれからどんな音楽を追求していくのか、この作品はクラブアーティストとしての大きな声明であり、代弁であるようにも思える。それを言葉でない言語、音楽として、彼は今作で高い芸術性をもって紡ぐことに成功している。

 

 

この非常にストイックな作品「NEVER THE RIGHT TIME」から垣間見える事実は、今、アンディ・ストットは、音楽性において、重要な分岐点に差し掛かっているということだ。ストットの音楽は、基本的にはダンスフロアむけに作られているが、私見としては、今作もまた同じように自宅で静かに聴くIDM(Intelligence Dance Music)の要素も色濃く感じられるように思える。

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