Seefeelは元々90年代のクラシック・シューゲイザーに分類されていたが、サンプラーとエレクトロニック・サウンドを駆使し、新興のIDMシーンで地図に載る存在となった。エイフェックス・ツインは、Seefeelが自身のレーベル”Rephlex”のためにレコードを作ることを期待して、楽観的な取引として彼らの「Time To Find Me」を2つの異なるバージョンでリミックスした。
以降の2曲はアンビエントが収録されており、アルバムの序盤や中盤とは異なる雰囲気に縁取られています。「King In A Nushell」はアナログサウンドを重視しながらドローンのような抽象的な音像を作り上げている。一方、「Xiloteca」ではSFのようなダークなドローンのテクスチャーをイントロに配し、シロフォンのようなアフリカの打楽器の演奏を織り交ぜ、民族音楽とアンビエントの融合に取り組んでいる。これらはエスニックジャズをアンビエントや電子音楽の観点から組み直したという点で、やや革新的な音楽性が含まれているといえるかもしれません。
ニューヨークのWater From Your Eyes(ウォーター・フロム・ユア・アイズ)がカバーEP『MP3 Player 1』を発表した。このEPには、アデル、アル・グリーン、サード・アイ・ブラインド、そして、チュンバワンバの楽曲のカヴァーが収録されている。彼らはチュンバワンバの1997年のトラック「The Good Ship Lifestyle」のカヴァーを発表した。以下よりお聴きください。
レイチェル・ブラウンとネイト・エイモスは、デビュー作『Everyone's Crushed』のレコーディングと同時期に『MP3 Player 1』を制作した。この曲は、デュオが2021年にリリースしたカヴァーLP『Somebody Else's Songs』で確立した伝統を引き継いでいる。
Kiasmosのニューアルバム『Ⅱ』はErased Tapes Records Ltd.から本日(7月5日)リリース。 ストリーミング等はこちら。商品のご購入は全国のレコードショップにてよろしくお願い申し上げます。
Masayoshi Fujita
ドイツ/ベルリンで活躍する日本人ヴィブラフォン奏者のマサヨシ・フジタがニューアルバム『Migratory』を制作を発表した。アルバムは9月6日にErased Tapesから発売され、Moor MotherとHatis Noitがゲスト参加している。藤田はアルバムからの最初のシングル「Tower of Cloud」を公開した。
この曲について藤田マサヨシは、「''Tower of Cloud''は、数年前のツアーのためにライブ・セットを準備していたときに形になり、ヨーロッパやタイで演奏するうちに進化していきました。シンセのリフは夏の終わりを感じさせ、積乱雲を連想させます。マリンバのメロディに合わせて、ツバメが空に悠々と羽ばたき、円を描いている様子が目に浮かぶようです」と述べている。
終盤では、クラシック音楽をドローンとして解釈した「Pictures」が再登場する。この曲は、グスタフ・マーラーの「Adagietto」のオーストリアの新古典派の管弦楽の響きを構図とし、イギリスのコントラバス奏者、ギャヴィン・ブライヤーズの傑作「The Sinking Of Titanic」の再構築のメチエを断片的に交えるという点ではやはり、Laurel Haloの『Atlas』の系譜に位置づけられる。
そして、ブラック・ディセラントは単なるシンセのドローンだけではなく、LAのLorel Halo(ローレル・ヘイロー)のように、ミュージックコンクレートの観点からアンビエントを構築している。その中には、彼ら二人が相対する白人至上主義の世界に対する緊張感がドローンという形で昇華されている。これは例えば、Bartees Strangeがロックやソウルという形で「Murder of George Floyd」について取り上げたように、ルーカスとジャズによる白人主義による暴力への脅威、それらの恐れをダークな印象を持つ実験音楽/前衛音楽として構築したということを意味する。そしてそれは、AIやテクノロジーが進化した2024年においても、彼らが黒人として日々を生きる際に、何らかの脅威や恐れを日常生活の中で痛感していることを暗示しているのである。
アルバムの音楽は全体的にあまり大きくは変わらないように思えるが、何らかの科学現象がそうであるように、聴覚では捉えづらい速度で何かがゆっくりと変化している。「#3 six」は、前の曲と同じような手法が選ばれ、モジュラーシンセ/リングモジューラをモーフィングすることによって、徐々に音楽に変容を及ぼしている。この音楽は、2000年代のドイツのグリッチや、以降の世代のCaribouのテクノとしてのグリッチの技法を受け継ぎ、それらをコンパクトな電子音楽として昇華させている。いわば2000年代以降のエレクトロニックの網羅ともいうべき曲。そして、イントロから中盤にかけては、アブストラクトな印象を持つアンビエントに、FM音源のレトロな質感を持つリードシンセのフレーズを点描画のように散りばめ、Caribou(ダン・スナイス)のデビューアルバム『Starting Breaking My Heart」の抽象的で不確かな世界へといざなうのだ。
「Back To One」は、例えば、ロンドンのクラブで鳴り響いているようななんの変哲もないディープ・ハウスのように思えるかも知れないが、その中にユニークなサンプラーやシンセの音色を散りばめることで、 カラフルな印象を持つサウンドを構築していく。ただ、やはりIDMではなくEDMに軸足を置いているのは一曲目と同様で、やはりクラブでの鳴りの迫力を意識している。ここにはやはりヨーロッパで活躍する電気グルーヴのような親しみやすいテクノからの影響も含まれている。一貫して乗りやすく、親しみやすいビートを作り出している。
インストゥルメンタルを中心とする曲が続いた後、クラブビートを反映させたボーカルトラックが収録されている。アルバムのハイライト「I Believe In Love Again」では、レニー・クラヴィッツが参加している。このことに由来するのか、クラブビートはややソウルやR&Bの性質が色濃くなる。キャッチーなボーカルやビートはお決まりの内容なのだが、よく聴くと分かるように、意外と深みが感じられる。ここには直接的なリリックとしては登場しないが、愛情という考えの裏側にある孤独や寂しさといったような考えが、ボーカルのニュアンスの背後からぼんやり浮かび上がってくる。
このアルバムのリリースに関して、カニンガムは現代詩のような謎めいたメッセージを添えていた。それはまるでダンテの『神曲』のような謎めいたリリック。ある意味では、Oneohtrix Point Neverの最新アルバム『Again』のような大作かと身構えさせるが、意外にもコンパクトな作品に纏まっている。『Statik』はヒップホップのミックステープのような感じで楽しめると思う。アルバムのオープナーを飾る「Hell」は、2000年代のローファイでサイケなヒップホップのトラックを思い起こさせる。アシッド・ハウス風のサンプラーによるリズムが織り交ぜられることによって、現代的なデジタルレコーディングとは対極にあるアナログ・サウンドが構築される。続くタイトル曲はドローン風のアンビエントをモジュレーションによって作り出している。
その後、どちらかといえば、IDMとEDMの中間にあるディープなクラブミュージックが展開される。「My Way」は、ダニエル・カニンガムの代名詞的なサウンドで、Boards Of Canada、Four Tetに代表されるカラフルな印象を持つミニマルテクノとして存分に楽しめる。今回、カニンガムはボーカルサンプリングを配して、Aphex Twinの系譜にあるサウンドに取り組んでいるようだ。「Rainlines」はバスドラムを強調したアシッドハウス/ミニマルテクノ風の作風だが、アクトレスの他の作風と同じように言い知れない落ち着きと深みがある。バスドラムの響きが続くと、その中に瞑想的な響きがもたらされ、最終的にはチルウェイブ風の安らぎがもたらされる。
現代的なテクノの依拠した収録曲もある一方で、アクトレスはやはり90年代や00年代初頭や、それよりも古いレトロな電子音楽のサウンドに軸足を置いているらしい。「Cafe De Mars」は、サウンドのパレットをモーフィングのような形で捉え、巧みなトーンの変化を生み出している。「Dolphin Spray」では、モジュレーションによりシンプルなビートを作りだし、それにレトロな感じの旋律を付け加えている。解釈次第では、Silver Applesの時代のアナログテクノの原点にあるビートを踏まえ、ゲーム音楽の系譜にあるチップチューンのエッセンスをさり気なく添えている。ここにカニンガムの制作者としてのユニークな表情をうかがい知ることが出来よう。