サイコビリー&パンカビリー アンダーグラウンドの世界への誘い

ロカビリーの後継者 サイコビリーの面妖な世界

 

サイコビリーは1980年代、ロカビリー音楽の後継者としてイギリスのシーンに誕生した。そのカルチャーとしての始まりは、イギリスのThe Meteorsというパンク・ロックバンドにある。また、このジャンルを一番最初の音楽として確立したのは、アメリカのNYを拠点に活動していたThe Crampsである。

 

The Cramps at Mabuhay Gardens in 1978


New Wave Punkの後に誕生したこのサイコビリーは、パンクロックのジャンルの系譜に属するものの、音楽性としては、ハンク・ウィリアムズやジョニー・キャッシュのロカビリーの延長線上にあたる大人向けの激渋サウンドにより彩られている。


実際の演奏にも特徴があり、メテオーズのベーシストは最初期にウッドベースを使用し、スラップ奏法(指で弦をびんと弾く)により軽快なビートを生み出す。


また、ギターの演奏としても面白い特徴があり、グレッチを始めとするネオアコを使用、ピックアップにはハウリングに強いEMGが使用され、リバーブを効かせたような独特な音色を特色とし、ロカビリー音楽の基本的な音楽の要素、ホットリックと呼ばれるギャロップ奏法を用いたりもする。


サイコビリーの音楽性のルーツは、「ロカビリー」、さらには、その祖先に当たる「ヒルビリー」という音楽にあるようだ。このヒルビリーというのは、アメリカの二十世紀の初頭、 アメリカのアパラチア、オザークという山間部で盛んだった音楽である。この周辺は、おそらく二十世紀初めに、アパラッチ、つまり、ネイティヴアメリカンが多く住んでいた地域であると思われる。


そして、この山間部で発生した音楽、これは、アパラチアン・ミュージック、マウンテン・ミュージックと呼ばれ、その後、アメリカのカントリー・ミュージックの一部として吸収されていく。それほど、学のない、山出しのワイルドな白人の男達の奏でるナチュラルで陽気な音楽が、アメリカのカントリー音楽の地盤を作り、その後、ハンク・ウイリアムズやジョニー・キャッシュといった、幾らか都会的に洗練された雰囲気を持つミュージシャンに引き継がれゆくようになる。その後、これらのカントリーやブラックミュージックの融合体として、ロックンロールというジャンルを、リトル・リチャーズやエルヴィス・プレスリーが完成させたのである。


その後、Rock 'n Rollというジャンルは複雑に分岐していき、その本来の「踊れる音楽」という要素は、その後、70年代、80年代になると、失われていき、ロールの要素は失われ、ロックのみとなり、ロックンルールのリズムとしての特徴が徐々に失われ、メロディーに重きを置く音楽性が主流となっていく。


そして、このサイコビリー/パンカビリーというジャンルに属するバンドは、アンダーグラウンドシーンにおいて、古い時代のカントリーやロカビリーに内在する踊れる要素を抽出し、そのマテリアルを追求し、さらにそれを1980年代のロンドンで復刻しようと試みた。そして、サイコビリーシーンの中心地は、ロンドンの”Klub Foot”というナイトクラブを中心に発展し、1980年初めから終わりにかけて、このシーンは盛り上がりを見せた。 


サイコビリーのファッション

 

サイコビリーのファッションについては、以前のロンドンのパンクロックと親和性が高い。それ以前のオールドスクールパンクに流行したスタイルを引き継ぎ、トップだけを残し、サイドを刈り上げたカラフルで過激なモヒカンヘアはサイコ刈りという名称で親しまれている。


また、鋲を打ったレザージャケットを身につけるという面では、DischargeやGBHあたりのイギリスのハードコア・パンクのファッション性を継承している。オーバーオールを着たりもするのは、カントリーの影響が垣間見える。


そして、もう一つ、このサイコビリーファッションには面白い特徴がある。ゴシックロックの風味が付け加えられ、けばけばしく、毒々しい印象のある雰囲気が見受けられる。これらはJoy Division、Bauhausのようなゴシック的な世界観、もしくは、スージー・アンド・ザ・バンシーズのような暗鬱なグラムロック的な世界観が絶妙に合わさって出来上がったように思われる。


それは、アメリカンコミック、SFの往年の同人ファンジンで描かれるようなコミカルなキャラクター、 もしくは、B級ホラー映画からそのまま飛び出してきたような色物的な雰囲気がある。このゴシック的な要素は、サイコビリーの後のジャンル、ゴスビリーというのに引き継がれていった。


このサイコビリーというジャンルには、ライブパフォーマンスにおける観客同士の音楽に合わせて殴りあいのような過激なスタイルがある。俗に”レッキング”と呼ばれ、笑顔で殴り合うという互いの親しみを込めた雰囲気と言える。このレッキングの生みの親The Meteorsのライブ会場における観客の激しい踊り、これが音楽フェスティヴァルで有名な”モッシュピット”の始まりであると言われている。


又、これらのバンドは、表面上では、コミカルでユニークなイメージを持ち合わせているが、その核心には強固な概念があり、レイシズムに対し反駁を唱える政治的主張を持ち合わせている。


音楽としては、エルヴィス・プレスリーやリトル・リチャーズ時代を彷彿とさせるコテコテの味の濃いお好み焼きのようなロックンロールだが、往年のコンフリクトやザ・クラスのように、それまでのタブーに対する挑戦、社会通念や固定観念の打破といった、いかにもパンクロック・バンドらしいスピリットを持ち合わせているのが特徴である。 

 


サイコビリーの名盤


1.The Meteors

 

後に、サイコビリーの代名詞のような存在となり、イギリスでのその地位を不動のものとするメテオーズである。活動期間は現在まで41年にも渡るわけで、このロックバンドの胆力には本当に頭が下がる。


メテオーズの最初期の出発は、The DamedやUK Subsのような荒削りなロンドンパンクフォロワーとしてであった。


つまり、1970年代終盤から隆盛をきわめた当世風のパンクバンドとして出発したメテオーズは、徐々にロカビリー色を打ち出し、他のバンドとの差別化を図っていく。一作目はどちらかというなら、Eddie&The Hot RodsやThe Skullsのような、激渋のパブロックサウンドに近い音の方向性ではあったが、二作目「Stampede!」から、ギターにリバーブを効かせた独特の唯一無二のサイコビリーサウンドを確立。


メテオーズのサウンドの醍醐味は、ウッドベースと、シンプルではあるが妙に癖になるギターのギャロップ奏法である。実際のライブはかなり過激な要素を呈し、血の気の多いパンクスが彼らの活動を支えている。 


 

「The Lost Album」

 

 


メテオーズの名盤はその活動期が長いがゆえに多い。おそらくサイコビリー愛好家ならすべてコレクトせずには済まされないだろうが、純粋に、ロカビリー、パンカビリー、サイコビリーのサウンドの雰囲気を掴みたいのなら2007年の「The Lost Album」をレコメンドしておきたい。

 

ここには、ウッドベースの軽快なスラップ、やボーカルのスタイル、ギターのジャンク感の中に全て50、60年代のロカビリーサウンドの旨みが凝縮されている。ギャロップのような飛び跳ねるようなリズムも痛快で、なんだか踊りだしたく鳴るような衝動に駆られるはずだ。


既に見向きもされなくなったエルビス・プレスリーの音楽性を蘇らせてみせた物好きな連中で、なんともカウボーイのようなダンディさ。いやはや、メテオーズの意気込みに敬服するよりほかなし!!


2.The Cramps 

 

B級ホラー映画からそのまんま飛び出してきたようなキャラクター性、世界のロックシーンを見渡しても一、二を争うくらいのアクの強さを誇るザ・クランプス。サイコビリーはこのバンドを聴かずしては何も始まらない。

 

このクランプスの強烈なバンドカラーを支えているのは、このバンドの発起人でもある世界でもっとも個性的といえるラックスインテリア(Vo)、そしてポイズン・アイビー(Gu)という謎めいたステージネームを掲げる仲良し夫婦の存在である。ゴシック的な趣味を打ち出し、息の長い活動を続け、世の中の悪趣味さを凝縮した世界観を追求しつづけてきたクランプス、それは夫婦の互いの悪趣味さを認め合っていからこそこういった素晴らしいサウンドが生み出し得た。残念ながら2009年に、ラックス・インテリアは62歳でなくなり、バンドは解散を余儀なくされた。


しかし、あらためて、このロカビリーとホラーをかけ合わせた独特なサウンドの魅力は再評価されるべきだろう。ロンドンパンク、New WaveあたりはThe Adictsや X Ray Specsなど独特なサイコビリーに近いバンドキャラクターを持つロックバンドがいたが、正直、このクランプスの個性を前にしては手も足もでない。50.60年のロカビリーサウンドをあろうことか80年代になって誰よりも深く追求した夫婦。上記のメテオーズと同じようにその時代を逆行する抜群のセンスには脱帽するよりほかない。 

 


「Phycedelic Jungle」

 

 

 

クランプスのアルバムの中で最も有名なのは、デビュー・アルバム「SongsThe Lord Tought Us」もしくは「A Date With Elvis」、「Stay Sick」を挙げておきたいところだが、サイコビリーとしての名盤としては1981年の「Phychedelic Jungle」をオススメしておきたい。アルバムの中の「Voodoo Idol」「Can't Find My Mind」の未だ色褪せない格好良さは何だろう。


これらの楽曲は、サイコビリーというジャンルが、音楽的にはサイケデリックとロカビリーの融合体として発生したものであると証明付けているかのよう。他にも、アルバムのラストに収録されている妙に落ち着いたロカビリー曲「Green Door」も独特な格好良さがある。言葉では表せない変態性を追求しつくしたからこそ生まれた隠れた名ロックバンドのひとつだ。この夫婦の持つ独特なクールさのあるホラーチックな森の中に迷い込んだら最後、二度と抜け出ることは出来ない!!

 


3.BatMobile

 

バットモービルもまたメテオーズと共にサイコビリー界で最も長い活躍をしているロックバンドである。


1983年Jeroen Haamers,Eric Haamers、Johnny Zudihofによって結成。オランダのアムステルダムで結成され、 イギリス、ロンドンの”Klub Foot”というサイコビリーシーンの最重要拠点で最初にライブを行ったロックバンドとしても知られている。


バットモービルは、チャック・ベリー、エルビス、ジェーン・ヴィンセントからそのまま影響を受けたド直球サウンドを特徴とする。最初期は、モーターヘッドのAce Of Spadesのカバーをリリースしていたりとガレージロックの荒削りさも持ち合わせている。そこに、ロンドンのニューウェイブシーンのロックバンドに代表されるひねくれたようなポップセンスが加わったという印象。 

 

「Bail Set At $6,000,000」

 

 

 

バットモービルのB級感のあるロカビリーサウンドを体感できる一枚として、「Bail Set Art $6,000,000」1988を挙げておきたい。


アルバムジャケットのアホらしい感じもまさにB級感満載。実際のサウンドもそれに違わず、愛すべきB級感が漂いまくっている。本作では、特にごきげんなチャック・ベリー直系のロカビリーサウンドが味わえる。Jeroren Hammersのギタープレイも意外に冴え渡っており、通好みにはたまらない。


ハマーズのボーカルというのもユニークさ、滑稽みがたっぷりで味がある。難しいことは考えずただ陽気に踊れ、そんな単純な音楽性が最大の魅力といいたい。また、最奥には、奇妙なパブロックのような激渋さも滲んでおり、何となく抜けさがなさが込められている秀逸なスタジオアルバムである。

 


4.Horrorpops   

 

ホラーポップスは、デンマークコペンハーゲンにて1996年に結成。エピタフレコードを中心に作品リリースを行っている。


これまで、サイコビリーの大御所、ネクロマンティックスやタイガーズアーミと共同作品をリリースしている。紅一点のベースボーカルのパトリカ・デイのキャラクター性はクランプスのイメージをそのまま継承したものであるが、ポイズン・アイビーとは異なるクールさを持ちあわせている。


ホラーポップスのバンドサウンドの特徴としては、疾走感のあるパンカビリーにライオット・ガール風のガレージロックの荒削りさが加味されたとような印象である。つまり、ロカビリーといよりは、エピタフ所属のバンドであることからも分かる通り、ストレートなパンクロック寄りのバンドといえるだろう。また、ロカビリー色だけではなく、シンガロング性の色濃い、ライブパフォーマンス向きの迫力もこのロックバンドの魅力である。キャッチーではあるものの、ウッドベースのブンブン唸るスラップベースがこのバンドのサウンドのクールな醍醐味のひとつ。

 


「Hell Yeah!」

 

 

 

ホラーポップスの作品の中で聴き逃がせないのが2004年の「Hell Yeah!」である。パワーコードを特徴としたドロップキック・マーフィーズのようなシンガロングの魅力もさることながら、パトリカ・デイのボーカルの妙感じが前面に出た良作である。


アルバム全編を通して体現されるのは痛快な疾走感のあるパンクサウンド。ここで体感できるライオット・ガール風のサウンドはパンカビリー、サイコビリーの先を行くネオ・サイコビリー/ロカビリーといえるはず。


また、「Girl in a Cage」ではスカ寄りのサウンドを追求。サイコビリーの雰囲気を持ってはいるが、一つのジャンルに固執せず、非常にバラエティに富んだどことなく清々しさのあるパンクロックバンドだ。 

 


5.The Hillbilly Moon Explosion 

 

他のサイコビリーバンドに比べると、かなり最近のアーティストと言っても良さそうなヒルビリー・ムーンエクス・プロージョン。このバンドは、スイスのチューリッヒで、1998年に結成された。


ロカビリーサウンドに奇妙な現代的な洗練性、オシャレさを付け加えたようなロックサウンドが特徴である。


まさに、ジョニー・キャッシュのようなロカビリーサウンドをそのまま現代に蘇らせてみせたような激渋な感じ。ただ、イタリア系スイス人のオリーバ・バローニの本格派のシンガーとしての特徴があるゆえか、あまりB級然とした雰囲気が漂ってこない。これまでヨーロッパツアーを敢行、ドイツ、フランス、スペイン、イタリア、フィンランド、クロアチア、ハンガリー、スロヴェニア、ポーランド、オーストリア、UKといった国々を回っている。

 

一応、サイコビリーに位置づけられるロックバンドではあるものの、音楽性のバックグランドは幅広く、ロカビリーのみならず、ブルース、カントリー、スイング・ジャズを下地とし、どことなく哀愁のや漂うロックサウンドが魅力だ。その中にも、ギターサウンドはサーフ・ロックのような雰囲気もあり、エレクトーンが曲中に取り入れられている。ボーカルは男女のツインボーカル形式を取り、そのあたりの一風異なる風味にもわずかに哀愁が込められている。こういったロックバンドが、スイスから出てくるのは興味深いように思える。 

 

「Buy,Beg or Steel」


 

 

The Hillbilly Moon Explosionの推薦盤としてはロックサウンドとしての真骨頂である2016年の「With Monsters And Gods」に収録されている「Desperation」というのが名曲で、まずこの楽曲を挙げておきたい。


しかし、サイコビリーとしてのオススメは、2011年の「Buy,Beg And Steel」が最適といえるはず。ここでの渋みのあるロカビリーサウンドは時を忘れされる力があ。アルバムの全体の印象としては、古い時代に立ち戻ったかのような懐古風サウンドで、そこにはサーフロックのようなトレモロを効かせたギターサウンドというのも魅力。特に、「My Love For Everyone」のカントリー、ロカビリーに傾倒した激渋なサウンドは聞き逃がせない。


また、このアルバム「Buy,Beg Or Steel」で、歌物としての魅力が感じられる楽曲がいくつかある。それが「Natascia」や「Imagine a World」である。


ここでは、独特なエスニック的な和音進行に彩られた音楽が味わえる。古い、スパニッシュ、フラメンコ、あるいは、ジプシーサウンド風の哀愁が滲んでいる。スイス人のアーティストであることを忘れさせ、無国籍のロカビリーアーティストのような雰囲気が漂う。トレンドに背を向け、独自色を突き出す格好良さというのは筆舌に尽くしがたい。サイコビリーのシーンにおいて再注目のアーティストとして是非オススメしておきたい。 



追記


今回、なぜ、サイコビリーの名盤を紹介しようと思ったかは謎めいてます。昔、中古レコード屋でパンクのいちジャンルわけに属していたこのジャンル。実は、ちょっと怖いイメージがあったので、ザ・クランプス以外は購入しませんでした。けれども、そういったコアで、アングラで、ミステリアスな感じが、このサイコビリーの最大な魅力。このあたりの音楽にピンと来た方は、是非、他にも、Peacocksや、Necromatrixといったサイコビリー関連の名パンク・ロックバンドも聴いてみて下さい。

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