【Review】 Sam Evian 「Time To Melt」


 Sam Evian


 

現在、ニューヨークのブルックリンを中心として新たな2020年代のミュージックムーブメントが沸き起こりそうな予感もありますが、今回は、そのニューヨークシーンの筆頭格になりそうな、今が旬のフレッシュなインディーロックアーティスト、サム・エヴィアンの新譜をご紹介します。

 

サム・エヴィアンは、ニューヨーク、ブルックリンを拠点に活動するSSW。2016年、サム・エヴィアンは、Saddle Creek Recordsと契約し、1stアルバム「Premium」をリリース。この最初の作品は、クランキー・カントリー、70年代を彷彿とさせるサイケデリック・ソフト・ロックというように定義づけられ、アメリカ国内のStereogumをはじめとするWEB音楽メディアで好意的に受け入れられました。

 

2018年、サム・エヴィアンは、二作目となるスタジオアルバム「You,Forever」をSaddle Creekから発表。この作品には、NYのインディー・ロックシーンでは、Beach Fossilsの作品への参加をはじめ、若いアーティストの憧れの的ともなっているBlonde  Redheadのカズ・マキノが「Next To You」の楽曲を提供しているのに注目しておきたいところです。スタジオ・アルバム「You,Forever」に収録されている楽曲「Health Machine」は、シングル盤、PVとしてもリリースされています。二作目のアルバムもデビュー作と同様に、アメリカ国内の音楽メディア、Stereogum,Pitchfolkで取り上げられたのみならず、スペインのテクノロジー関連のWEBサイト”digitaltrends”にて、2018年の最優秀スタジオアルバムに選出されています。


2021年に、サム・エヴィアンは、Fat Possum Records(坂本慎太郎の作品もリリースしている)と契約し、新作を発表を行っています。彼の生み出すサウンドは確かに坂本慎太郎のような個性溢れるサイケデリアの世界を見事に描き出し、スタイリッシュなモダン・ポップスとして見事に昇華。現代のLA、カルフォルニアを中心とする、Ariel Pink、Mild Club Highをはじめとする70’sディスコサウンドのリバイバル・シーン、NYブルックリンを中心とするWild Nothing、Beach Fossilsをはじめとするインディー・ロック・リバイバルシーンに呼応した形で台頭した気鋭の若手ミュージシャン。現在、最もフレッシュな若手SSWとして注目です。無論、「エリオット・スミスの再来」と銘打ってもおかしくない華のあるアーティストといえそうです。




「Time To Melt」Fat Possum Records

 

 

 

 


Tracklisting

 

1.Freeze Pops

2.Dream Free(feat. Hanna Cohen)

3.Time To Melt

4.Knock Knock

5.Arnolds Place

6.Sunshine

7.Never Know

8.Lonely Days

9.Easy To Love

10.9.99 Free

11.Around It Goes 


 

Featured Track 「Knock Knock」

 Listen On youtube:

 

 https://youtu.be/pa6s2taK8l4

 

 

 

ここ四、五年あたりの最近のアメリカのトレンドの音楽といえば、語弊があるかもしれませんが、少なくとも、LA,カルフォルニアを中心に現在、最も勢いの感じられる、スライ・ザ・ファミリーストーンの音楽性を現代風にアレンジ、リミックスしたようなディスコサウンドのリバイバルシーンの音楽性を踏まえたポップス。もちろん、サム・エヴィアンの音楽性にも同じようなアプローチが見いだされるはず。特に、自宅に、大掛かりな宅録用の機材を備え、入念なトラックメイクを行うというの点でも、現代のアメリカのアーティストの作曲性の延長線上にあるようです。

 

しかし、Ariel Pinkに代表されるようなLAやカルフォルニア勢のサウンドと明確に異なるのは、サム・エヴィアンのサウンド面においては、サイケデリックなポップスを音楽性の下地としつつ、そこに、ソフト・ロック、AORのようなサウンド、柔らかなスタイリッシュさをうまく演出している。もちろん、表向きの主要なイメージをなすサム・エヴィアンのヴォーカルというのは、現代のアーティストと同じく中性的な雰囲気が漂い、これこそモダンポップスのトレンドといえるかもしれません。そういった1970年代のディスコサウンドから吸収した影響性は、他の現代のアーティストと同じように、ノスタルジーさに加え、おしゃれでスタイリッシュな雰囲気を醸し出している。このあたりは、現代アーティストならではのモダンミュージックともいえるでしょう。

 

サム・エヴィアンの三作目のスタジオアルバムとなる「Time To Melt」は他のリバイバルアーティストのようにサンフランシスコのサイケデリアが込められているからか、奇妙な空間性が音楽によって強固に構築されているように思える。喩えるなら、それは、現実上に存在し得ない仮想上のダンスフロアへと導かれていくような雰囲気も漂っている。これは、サム・エヴィアンの生み出す音楽性におけるサイケデリアが、実際の空間の向こう側にある往年のディスコサウンドの流行した時代への時間旅行を助けるような働きかけをしているからこそにじみ出てくるものなのでしょう。サム・エヴィアンの異質なサウンドは、表向きのキャッチーな印象と異なり、盤石かつコアなグルーブ感により綿密に築き上げられている。ベースの生み出すグルーブ、シンセサイザーのフレーズ、クランキーなギターのフレーズ、サックスのゴージャスなアレンジメント、これらの要素はサム・エヴィアンの楽曲に生彩味をもたらしています。

 

「Time to Melt」で提示されているのは、リバイバル・サウンド。しかし、リバイバルサウンドといえどあなどることなかれ。この作品でサム・エヴィアンは実は、古いサウンドには新しい未知の音楽の可能性が詰まっていて、巧みにリミックスを施せばモダンサウンドが生まれることを証明しています。エヴィアンは、今作に置いて、貪欲にそういった古い時代の音楽のノスタルジア対する偏愛を心ゆくまで探求しつくし、独自のトラックメイクを綿密に行うことにより、今作「Time To Melt」において、昨今のモダンポップスの歩みをさらに一歩先へとすすめることに成功しています。LA、カルフォルニアのリバイバルシーンに近いニュアンスを擁し、そこに、ファンク、R&Bといったしなるようなコアなグルーブ感も抜け目なく込められている。このあたりが、音楽フリークとしてのサム・エヴィアンの矜持といえるでしょう。

 

1970年代のディスコサウンドのノスタルジアを追求するという点では、現代のアメリカのインディー・サウンドの醍醐味が心ゆくまで味わえることでしょう。さらに、その上で、これまで、ビートルズのフォロワーが見落としてきた、アートポップ、チェンバーポップ性にあらためて現代のアーティストとしてスポットライトを当てていることにも着目したい。サム・エヴィアンの新作「Time To Melt」は、リバイバルサウンドの王道でありながら、新鮮味のあるモダンポップスとして結晶した一枚。アルバム・ジャケットのデザインのニュアンスも「ホテル・カルフォルニア」の時代を彷彿とさせる徹底ぶり。今後のニューヨークのミュージックシーンの行方を象徴づけるような作品、アメリカのインディー音楽の最前線にあるアルバムといえるでしょうか。

 

 

 

Sam Evian Official

 

https://www.samevian.com/