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バーミンガムのSwim Deepは、ブリット・ポップの黎明期のサウンドを通過したサウンドを特徴としていて、ときどきサイケデリックなポップサウンドを生み出す。The Smiths、The La's、The Stone Roses、The VerveといったUKロック/ポップの直系のバンドで、インディーズに根ざしたサウンドでありながら、聞き手を魅了する。5thアルバムにおいて、 彼らは、The La's、The Smithsの系譜にある失われたブリットポップの魅力を探訪し、その尽きない音楽的な深さを探り当てる。
『HUM』は、困難な状況にあっても音楽への生来の情熱に突き動かされ、若返りを遂げたバンドの作品。12月にタイと中国で行われたソールドアウトツアーから新鮮なインスピレーション、予期せぬメンバーチェンジを経て、5枚目のアルバム制作という、草の根インディーバンドとしての維持という課題と向き合いながらも、これまで以上に自信に満ちたサウンドを響かせている。
この楽曲について、リードシンガーのオースティン・“オジー”・ウィリアムズは次のように語っている。「フルタイムのバーの仕事で、新しい作詞パートナーを見つけたんだ。僕たちが運んでいたビール樽のそばに、J.J. ブキャナンが立っていたんだ。鋭い感性のソングライターであり、飛翔感あふれるギタリストである彼は、この曲に、そして『HUM』を形作るサウンドの全体像に、新鮮な息吹をもたらしてくれた」
『HUM』は『THERE’S A BIG STAR OUTSIDE』に続く人生の旅路を描いている。前作は、ウィリアムズにとって変革の時期――第一子の誕生への準備と、妻の父親の死別――を捉えた作品だった。『HUM』に収録された楽曲は、その時期の余波を詳細に描き出し、喪失、家族、そして共に人生を築く人々に対する私たちの責任について探求している。
「今、僕にはインスピレーションを与えるべき人ができたんだ」と彼は説明する。「『そう、お父さんは家賃を払うためにバーで働いているけど、これが彼の本当の仕事であり、これが夢なんだ。そして、僕たちは皆、それを糧に一緒に生きていくんだ』といった感じだ。それがこのアルバムの精神なんだ」
『HUM』において、SWIM DEEPは苦闘を原動力へと、個人的な激動を集団的な高揚へと変容させている。これは、ここ数年でバンドがリリースした中で最もヘヴィで、最も冒険的で、最も高揚感あふれるアルバムであり、確固たる信念を持って夢を追いかけるバンドの姿を映し出している。ただ、今やその背後には、より深い何かがかかっている。
Swim Deep 『Hum』- Submarine Cat
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『Hum』は、一般的なUKロックサウンドを余すところなく凝縮している。「Piece of You」ではジャグリーなギターロックを中心とし、UKロックではお決まりの浮遊感のあるコーラスワークで始まる。物語の序章のようなサウンドの後、メインボーカルが入る。ボーカルを聴くかぎり、The La'sのリー・メイヴァースを彷彿とさせる。
Swim Deepのサウンドはロックンロール色が薄く、どちらかと言えば、Stone Rosesのようにヨコノリのビートが特徴だが、瞑想的なボーカルが楽曲全体をリードし、果てしない霧の向こうにリスナーを誘うかのようである。
ギターサウンドもアコースティックとエレクトリックの中間のエレアコのような印象を放ち、ギターポップやジャングルポップのような印象を持つ。しかし、オースティン・ウィリアムズのボーカルは、堂々たるもので、歌詞そのものが広大な空気感を表すかのように壮大な雰囲気がある。これはブリット・ポップの忘れられがちな特徴である”癒やしの空気感”を象徴づけるものである。音楽的にも、彼らの物語調の楽曲は説得力に満ちている。
憂いに満ちたブリッジの箇所を交えながら、最初のフレーズへと回帰する。その時、妙なカタルシスがあるというか、心がすっきりとするような感覚を味わうことができる。アコースティックギターを効果的に使用し、Oasis、The Verveを彷彿とさせる清涼感のあるサウンドを展開していく。
「Piece of You」
Swim Deepのサウンドには、直接的ではないにしても、アイルランドのポップやスコットランドのギターポップの影響が垣間見えることもある。これが1990年代初頭のブリットポップのサウンドと結びつく。
「You, Me and Mary」では一曲目と同様に清涼感のあるギターポップサウンドで、メロディアスな性質が維持されている。ボーカルは対象的に、ささやくような感じで、ストーン・ローゼズのような浮遊感のあるサウンドを醸成する。何かを語りかけるかのようなボーカルにリードされるようにして、サビでは純粋な雰囲気に満ちたメロディアスなフレーズが登場する。全般的なロックソングの中にある癒やしが引き出される。しかし、ドラムの的確な演奏に導かれるようにして、キーボードの演奏によって神聖な雰囲気に満ちたギターロックサウンドが登場する。
バンドは五人組であるが、各々の演奏パートを連動させながら、1つの壮大なロックサウンドを入念につくりあげていく感じである。ボーカルのメインメロディーもキャッチーで、歌いやすいフレーズや口ずさみやすいフレーズを重視している感じだ。癖がありそうでいてない、クリアなロックサウンドが展開されていく。彼らのサウンドは、インディーズびいきといえるが、必ずしもニッチな領域に留まることはないように思える。
Swim Deepの五作目のアルバム『Hum』には、バロックポップのようなサウンドがときどき登場し、それらが少しサイケデリックポップの印象を帯びる。恋人との思い出を抽出したような幻想的なポップサウンド「I Keep Her Photo With Me」は、男の少し情けない一面を惜しげもなく押し出し、それらの感情を解き明かそうという楽曲である。これらの叙情的なサウンドはときに、内的な繊細さや脆弱さを吐露し、荒削りながら秀逸なポップセンスを発揮することがある。
サビの後に続くボーカルは、懐かしくて、ノスタルジックな感覚に満ちている。グロッケンシュピールの音色をオルゴールに見立てたシンセサイザーがノスタルジックな音楽世界を果てしなき領域へと近づける。オースティン・ウィリアムズのボーカルは、まるで甘口の日本酒のようなのだが、そのまったりとしたボーカルは、適度な心地よさが感じられる。作曲の側面でも細部に力が入っていて、アウトロまでしっかりと作り込まれていて、じっくり聞かせるものがある。既視感のあるサウンドではありながら、その反面どのバンドにも似ていないと言える。
「Broken」は2026年度のUKロック/ポップの名曲に挙げておきたい。U2、Belle&Sebastianを彷彿とさせる見事な一曲である。 ファジーな感じのギターから始まり、本作の冒頭曲で示されたエレクトリック/アコースティックの中間にあるギターサウンドがどことなく広大かつ叙情的な印象を帯びはじめる。この曲では、本作の冒頭曲と並行してアルバムジャケットに象徴されるような牧歌的な音楽世界が提示される。ボーカルの入り方も素晴らしい。背景のジャグリーなギターと美しいハーモニーを描きながら、ひとつずつまだ見ぬ世界を開拓していくような感覚がある。
Swim Deepの曲は、まだよくわからない未知の部分を解き明かすかのように、新しい次なる冒険心に富んだサウンドやフレーズをひとつずつ手探りで手繰り寄せていくような感じである。曲の冒頭の「Mess Of Me」から「It's Not Too Late」という箇所まで来ると、楽曲はにわかに切ない印象を帯び、琴線に触れるようなエモーションがはてしなく押し広がっていく。サビ/コーラスも素晴らしい構成であり、メロディ、リズム、ハーモニーという基本要素が上手く溶け合っている。
もちろん、歌詞も同様に素晴らしく、「Set Me Straight」という箇所が弱さの中から強さを引き出すような感覚に満ちあふれている。同楽曲の全体的な心を揺さぶるようなメロディーは、なにか聞き手の心を震わせ、そして勇気づけるような印象にあふれている。音楽的には、アルバムの序盤では不明瞭であったフォーク・ミュージックの影響が出てきて、楽曲の主要な音楽的な性格を占める。どことなく温かさと寂しさの両側面を兼ね備えたフォークロックサウンドである。
「Broken」- Best Track
Swim Deepは数々のレーベルをわたり歩いてきた15年のキャリアを持つバンドであるが、 大人な感じのインディーロックサウンドもなんなく作り上げる。「The Throw」はドリームポップにも似た夢想的なサウンド、そしてシューゲイズ的なギターサウンドが合致した一曲となる。しかし、その中核を担うのは、1990年代の黄金期のブリット・ポップの復刻で、オアシス、ブラー、ヴァーヴの系譜にある清涼感に満ちたサウンドである。静と動、つまりは静かな箇所とノイジーな箇所を併置させる一般的なロックのスタイルを通じて、聴きやすくて捉えどことのあるサビを導き出す。インディーズを中心としたサウンドでありながら、必ずサビの箇所を用意しているというのも、 Swim Deepならでは。ポップソング職人としての表情でもある。この曲の後半では、よりパワフルなディストーションギターが主役となり、瞑想的な音楽性を導き出す。
ドラムとギターが先導的な役割を担う「Such A Fool」では、ポスト・ブリットに属するサウンドを提供している。このあたりのサウンドは明確な定義がなく、いわば音楽的な経験と感覚で捉えるしかないのだけれども、彼らのサウンドには、ブリット・ポップのコアの部分が内在している。オースティンのファルセットを用いた繊細なボーカルについては好き嫌いが分かれるかもしれないが、ヴァースの部分と並び、The La'sのポスト世代のサウンドを捉えることができると思う。つまり、これまであんまり存在しなかったリー・メイヴァースの後継的なサウンドが味わえる。ただ、それらは直通のサウンドではなく、インディーポップ、シューゲイズ、ドリーム・ポップなどを通過したサウンドである。これらがSwim Deepのサウンドに独創性を付与する。
後半部では秀逸な楽曲がいくつか登場するので聴き逃がせない。七曲目以降の楽曲がアルバム全体に聴きごたえをもたらしている。それもまた、既視感のあるサウンドを駆使しつつも、似てそうで似ていないオリジナリティあふれる音楽性が展開されているというのも、このアルバムの魅力となるはずだ。
「Mud」では、レディオヘッドの最初期のような夢想的なサウンドが追求されている。『Pablo Honey』 、『The Bends』といった初期の名作群のロックを主体としつつも、宇宙的な雰囲気のサウンドを継承している。 しかし、ボーカルはトムさんとは似ても似つかない。ボーカルではなく、楽曲全体の音楽性を受け継いだ上で、The La's、OASISのサウンドと融合させる。それはまた、傍流(オルタナティヴ)と本流(メインストリーム)の融合や合体という珍しい事例でもある。
Swim Deepのサウンドは、レーベルの配給などで生じてきたオルタナティヴとメインストリームという垣根が、本来はあってなかったのではないか、ということを思い至らせる。また、Swim Deepのサウンドはフォークソングからの影響もあるかもしれない。楽曲は全体的に平坦にならず、ダイナミックな曲線を描くことがある。そのあたりは実際に音源で確認してみてください。
本作で最もUKフォークの影響が押し出されるのは、「Is There Something Going On?」である。その中では、ジョニー・マー&モリッシーのサウンドの影響もちらつき、叙情的なサウンドと憂いに満ちたサウンドが展開される。このあたりには、このアルバムの制作時のテーマのようなものが垣間見えることもあるかもしれない。続いて、ポスト・スミスの代表的な楽曲「In Dreams Alive」が登場する。裏拍に強調を置いた独特なタブ風のリズム、そして繊細なメロディーの組み合わせを受け継いで、Swim Deepは最初期のLibertinesのようなサウンドを作り上げている。
しかし、Swim Deepは明確なロック・バンドというよりも、インディーポップが中心である。短調を織り交ぜたサウンドは、UKロックやポップの核心のような部分が潜んでいると言える。この曲で、彼らは音楽が停滞する箇所と走り出す箇所を効果的に使いながら、繊細でメロディアスなポップソングを見事に作り上げている。その中で、どことなく神聖な感覚に満ちたボーカルのフレーズが登場することがある。これが従来のバンドにはなかったSwim Deepの特色である。
このアルバム『Hum』は随所に切ない感じの音楽性が通じているが、終盤ではそれらが彼らのフォークバンドとしての性質と結びつく。本作では唯一のバラードソングで、素晴らしい一曲。しかし、それらの楽曲は不思議と、心を勇気づけるような感覚に満ちている。「Lift Me Up」は間違いなく、The La's(リー・メイヴァース)の系譜にある楽曲であり、ロックンロールではなくて、フォークソングの形が見事なほどに受け継がれている。アコースティックギターによる弾き語りという、シンプルなスタイルであるが、そこには賛美歌のようなメイヴァースのボーカルにもよく似た雰囲気を見出すことができる。一度聴いて名作と賞賛するアルバムではないのだが、いくつか素晴らしい曲があり、聴くたびに''深さ''が味わえるような内容となっている。
86/100
「Lift Me Up」
・Swim Deepによるニューアルバム『Hum』はSubmarine Catから発売。ストリーミングはこちらから。


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