New Album Review  Steve Gunn 「Nakama」EP

Steve Gunn

 

 

スティーヴ・ガンはフィラデルフィア出身、NYのブルックリンを拠点に活動するシンガー・ソングライター。

 

アートと音楽をテンプル大学にて専攻した後、ニューヨークに転居し、音楽活動を開始する。その後、カート・ヴァイルのバックバンド、The Vibratorsのギタリストとして活動を行っている。

 

スティーヴ・ガンは、マイケル・チャップマン、ラ・モンテ・ヤング、インディアンミュージック、ジョン・ファレイ、ジャックローズ、ロビー・バショー、サンディ・ブル、といった音楽家から強い影響を受けている。


アコースティックギタリストとしての類まれなる腕前を遺憾なく発揮し、これまでに素晴らしいフォーク音楽を生み出している。スティーヴ・ガンのサウンドアプローチは、古典的なフォーク音楽からコンテンポラリーフォークまで、幅広い音楽性を擁している。

 

2009年から、ガンは、マイケル・チャップマンの所属するParadise of Bachelorsと契約を結び、今年までに六枚のスタジオ・アルバムを残している。


2021年には、ロードアイランド州で開催されるニューポートジャズフェスティヴァルのカウンターパートとして1959年に始まったNew Port Folk Festivalにも出演し、フォーク音楽アーティストとして知名度を上げつつある。

 

2016年、ニューヨークの名門レーベルMatadorとの契約を結び、「Eyes On The Lies」をリリース、その後は同レーベルから作品の発表を続けている。最新作「Other You」は収録されている11曲全てのソングライティングをスティーヴ・ガン自身が手掛けており、これまで、ソニック・ユースのサーストン・ムーア、カート・ヴァイルといった著名なアーティストの作品に参加しているハープ奏者メアリー・ラティモアを、ゲスト・アーティストとして招いて録音された。





「Nakama」 EP Matador 2022

 

  


Nakama

 

 

Scoring  

 

 

 

Tracklisting


1.Protection

2.Good Wind

3.On The Way

4.Ever Feel That Way

5.Reflection

 

 

「Nakama」Listen on:

 

https://stevegunn.ffm.to/nakama 

 

 

スティーヴ・ガンは、昨年「Other You」という快作を発表している。この作品について、フォーク専門ラジオのグレン・キンプトンが「これまでで最もエレガントなスティーヴ・ガンのソロ作品である。共感性のあるアレンジがずらりと並んでいる」という手放しの称賛を送っている。

 

2009年のソロデビュー当時から、カート・ヴァイルのバックバンドに属していたこともあり、ギタリストとして脚光を浴びてきた印象を受けるスティーヴ・ガンは、グレン・キンプトンの言葉に倣えば、近年の作品において、ヴァーカリスト、シンガーソングライターとしての才覚をひらきつつあるように思える。プロデューサーとして、ジャスティン・トリップを招き、絶妙なコンビネーションを発揮し、バランスの取れたサウンドスケープを前作「Other You」で丹念に構築した。

 

そして、最新ミニアルバムの「Nakama」は、日本語の「友好関係」を示す言葉を題名に取り入れた作品で、レーベルメイトであるギタリスト、Mdou Moctorを始め、複数のゲストミュージシャンを「仲間」として招聘してリミックスとして制作された作品だ。Matador Recordsのリリースコメントによれば、これらは厳密にいえば、カバーとして位置づけられた作品ではなく、といって、コラボレート作品でもなく、完全なスティーヴ・ガンの新たなソロ作品とレーベル側はみなしている。

 

Matador Recordsの言葉は、販促のために付け加えられた体裁の良いコメントでないことは、上記の楽曲を聞けば理解していただけるはず。それくらい聴き応えのある作品といえるのである。おそらく、Matador Recordsは、この作品のリリースに関して大きな手応えと自負を感じているから、上記のようなコメントを出したのである。これらの5つの楽曲は、これまでのスティーヴ・ガンのフォーク音楽のルーツを踏襲した作風に加え、ピンク・フロイドのシド・バレットのソロやドアーズの作品に近い、内省的で思索性の高いサイケデリアに彩られている。

 

しかし、スティーヴ・ガンの生み出すサイケデリアは、自由奔放なバレットの作風とは異なり、理知的なサイケデリアともいえる。今作は、緻密なアコースティックギターのフレーズが入念に紡がれ、ガンの蠱惑的なヴォーカルの雰囲気が絶妙にマッチし、既存の作品よりスティーブ・ガンの個性がこの上なく引き出された傑作といえる。それは例えば、西海岸のLA Priestをはじめとする自由奔放なサイケデリアとは異なる、都会的に洗練された雰囲気を感じさせる傑作だ。

 

西アフリカのトゥアレグ族のギタリスト、エムドゥー・モクターがゲスト参加した民族音楽のエッセンスを添えた「Protection」、あるいは、1970年代のサイケデリックフォークを彷彿とさせる「On The Way」、その他、電子音楽とフォーク音楽を融合させた実験音楽が濃密に展開されていく。

 

作品全体の印象として、「Nakama」は、綿密な構成によって楽曲が連結されていくため、繊細さを感じさせながらも、力強い雰囲気も込められている。これを人間関係をギター音楽としてアブストラクトに表現したものだとまでは明言できかねる。しかし、この作品は、何らかの人情をほのかに感じさせる奥深い音楽である。総じて、今作は、フォーク音楽としての聴きやすさとアートとしての前衛性を兼ね備え、サイケデリアという概念を知性を交えて見事に表現した快作と言える。

 

 

 

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