King Gizzard & The Lizard Wizard 『The Silver Cord』/ New Album Review

 King Gizzard & The Lizard Wizard 『The Silver Cord』

 

Label: KGLW

Release: 2023/10/27

 

Review

 

メルボルンのスチュアート・マッケンジーを中心とするキング・ギザードは作品毎に作風を変化させることで知られている。弛まざる変化を自らの活動形態に課しているという感じで、サイケデリックロック・バンドという名が定着したかと思えば、メタルバンドへと移行し、かなりベタな音楽へ転じた。そして、今回は、なんとシンセサイザーを主体としたダンスグループに変化している。アルバムのメンバーが分身をしたかのようなアートワークについても、笑いを取りに来ているのか。それとも真面目なのか……。もしかすると、そのどちらでもあるのかもしれない。


キング・ギザードは、オーストラリア国内にとどまらず、米国やイギリスにもファンが多く、実際のレビューの採点に関わらず、海外メディアからの評価は、軒並み高い。彼らの評価を決定づけているのが、劇的なライブであり、オーディエンスを狂乱の渦へと導く熱狂性である。メタルやヘヴィーロックのアプローチが彼らのライブの代名詞ともなっているが、その中にはハードコアやパンクの要素が少なからず含まれている。これがチル/サイケというもう一つの音楽性と結びつき、キング・ギザードの主要な音楽性を形成している。そして、もうひとつ忘れてはいけないのが、ギタリストのジョーイ・ウォーカーがIDMの別名義、Bullantの元で活動していることである。「モジュラーシンセの使い方を知っている振りのロックバンド」というマッケンジーの評はブラフで、このアルバムがEDM/IDM問わず、かなりの深い理解によって制作された作品であることは、エレクトロニックをよく知るリスナーであればお気づきになられるはず。

 

アルバムの冒頭を飾る「Theia」は、宇宙との交信を開始するかのようなユニークなイントロに続き、UnderworldともDepeche Modeとも取れるEDMが始まる。あるいはそのどちらでもないかもしれない。とにかく、そのサウンドをさらにユニークにしているのがポピュラーなボーカルワークで、ボコーダーを交えたジャーマン・テクノ的なサウンドがドライブ感を生み出す。テクノ的なビートの背後にはイタロ・ディスコに象徴される重低音を突き出した重さが加わる。さらに、プログレッシヴ・テクノに見受けられるような複雑な展開力を交えて、キング・ギザード独自のサウンドを構造的に生み出していく。曲の中盤から終盤にかけては、ループの要素を効果的の駆使してユーロビートを思わせるような刺激性と多幸感を兼ね備えた展開に繋げていく。

 

アルバムは、その後、コンセプチュアルな設計が施され、タイトル曲「The Silver Chord」では、エジプト風の旋律を取り入れているのを見ると分かる通り、Radioheadの『Kid A』で示されたエレクトロニックとロックの究極系を再現している。コラージュなのか、イミテーションなのか。そんなことはどうでもよくなるほどの愚直かつ痛快なサウンドが展開される。しかし、これらの土台が既存のものであるとしてもそれを再構成するテクニックやジャンルへの理解度が尋常ではないため、曲の終盤ではそれなりに聞けるサウンドになってしまうのが凄い。メタルの超絶的な演奏力だけがKing Gizzardの魅力ではないことがわかる。

 

「Set」はもう一つのハイライトとして楽しめる。ほとんど表向きには知られていなかったことではあるが、皮肉にも、キング・ギザードが平均的以上のEDMのグループであったことが判明する。クラフトベルク風のレトロな音色で始まるイントロに続いて、Underworldを思わせるベースラインを貴重としたサウンドに、彼らは新たにサイケ的な要素を付加している。不思議なことにその使い古されたループサウンドからエグミのあるグルーヴが立ち上る瞬間がある。これはメタルバンドとしてボーカルワークやコーラスでの前衛性を別のジャンルに置き換えている。結果、イントロではイミテーションに過ぎないものが、最終的には唯一無二のEDMに変化する。 


「Chang'e」は、大きな変化こそないけれども、JAPAN/Human Leagueのボーカルワークを踏襲し、その背後にユーロビートやトランスの要素を加え、ライブで映えるような空間性を持つダンスミュージックを展開させる。そしてボーカルの多彩性を組み合わせながら多幸感を重視したEDMの中にウェイブを生み出す。その熱狂的なウェイブは、ジャンルこそ違うがメタルの反復的なギターリフの刻みの中で偶然的に生み出されるものとその本質は変わらない。彼らは異なる音楽性を通じて、「Gaia」のライブセッションでしか得られない一体感を生み出している。 

 

「Gilgamesh」は、もうひとつのハイライト曲。Massive Attackを思わせるUKのベースメント等の要素を絡めたクールな反復的なハウスビートとKG&LWの代名詞のサイケ性を掛け合わせている。さらにサビの部分では、このバンドの重要なパンク性が出現し、アンセミックな展開を呼び起こす。現時点ではそこまで評価が高くないアルバムだが、むしろこのトラックが存在することにより、表向きのメタルというアプローチを選んだ前作よりもはるかに力強くダイナミックな印象がある。彼らがメタルという領域で培ってきたシンガロングという長所をダンスミュージックのエクストリームな側面へと持ち込んで見せている。その流れは、すぐに次のトラック「Swan Song」に引き継がれていき、Underworld風のビートにメタル的な熱狂性、サイケと結びつけて、クールなダンスミュージックを生み出している。4つ打ちのシンプルなハウスのトラックメイクにわずかに充溢するアシッド・ハウスの要素が、この曲にクールなノリを与えている。

 

『The Silver Chord』のB面はA面のリミックスとなっているため、レビューは割愛したい。クローズを飾る「Extinction」ではジャーマンテクノ/プログレッシヴ・テクノの形を軸に、メタルやサイケデリックロックという表向きの音楽性に隠されていた歌もののバンドとしての真価を見せる。KG&LWは、世界的に見ても、卓越したアンサンブル、チームワークを持つことで知られるが、今作を聴くと分かる通り、どうやらそれはロック/メタルだけの話にとどまらなかったらしい。

 

 

84/100

 

 

 「Gilgamesh」