The Menzingers 『Some Of It Was True』/ New Album Review

The Menzingers 『Some Of It Was True』

 

 

Label: Epitaph

Release: 2023/10/13



Review 



最近、パンク/ハードコア界隈を見ても、硬派なパンクロックバンドが減ってきているという印象も拭いきれない。しかし、ニューヨークのターンスタイル等のハードコアは現地のファンには人気があるかもしれないが、日本のパンクファンからすると、少し取っ付きづらいところもあり、USパンクらしいバンドを無性に聴きたくなる時がある。そんな人に打ってつけなのが、ザ・メンジンガーズのニューアルバム『Some Of It Was True』。最近の売れ線を狙ったパンクではないものの、Social Distortion、Samiam、Jimmy Eat Worldあたりが好きな人はぜひぜひチェックしてみよう。

 

 「アルバムは、ホテル、楽屋、地下室、リハーサル室で2年半かけて書かれた。南部にある人生を変えるような隠れ家でレコーディングされた『Some Of It Was True』は、17年前に自分たちがバンドを始めたときに目指したこと、つまり、楽しみながら自分らしくいることを最も実現したものだ」と、The Menzingersのヴォーカル兼ギタリストのグレッグ・バーネットは声明で述べている。楽しみながら自分らしくいるということが重要で、実際のアルバムもプレイを心から楽しんでいるような雰囲気が漂っている。スクリーモのシャウトもあり、Fall Out Boyのようなエモさもある。もちろん、新しいパンクロックソングとも言えないけれど、こういったパンクサウンドには普遍的な良さを感じるのも事実である。また、そういったUSパンクの王道のスタイルを図りながらも、ブライアン・アダムスやスプリングスティーンの系譜にあるアメリカン・ロックの雄大さもある。少なくとも、アメリカンな感じがこのアルバムの一番の魅力なのだ。

 

メンジンガーズのパンクは、OSO OSO、Origami Angel、Perspective,a Lovely Hand To Holdのポスト・エモ的な味わいとも異なる。90年代から00年代にかけてのUSパンクの醍醐味を抽出したようなサウンドで、この時代のパンクを知るリスナーを懐かしがらせてくれる。もちろん、コアなリスナーとしては、新しいパンクロックを登場を願う反面で、こういった普遍的で王道を行くパンクサウンドを心のどこかで待望していたことがわかる。

 

例えば、アルバムの冒頭の「Hope Is Dangerous Little Thing」では、パンクバンドらしい社会的な提言を思わせながらも、Dropkick Murphysを思わせるダイナミックなパンクサウンドでリスナーを熱狂の中に取り込む。若いバンドにありがちな気負いはなく、自然体のバンドサウンドやパンク・スピリットを体現させている。二曲目の「There's No Place in This World For Me」ではスクリーモの様式を交え、Jimmy Eat Worldの最初期の様なエモーショナル・ハードコアのアプローチを図り、アルバム全体に多彩さと変化をもたらそうとしている。曲のタイトルには、悲嘆的なメッセージも感じるが、ザ・メンジンガーズは、そういったルーザー的な人々に対して、心を鼓舞させるようなメッセージを痛快なパンクロックサウンドの中に取り入れているのだ。

 

 

さらに、結成から17年というベテラン・バンドらしい渋さのあるアメリカン・ロックサウンドもタイトル曲「Come on Heartache」を通じて体感することが出来る。特に、後者ではDon Henleyのようなソフト・ロックサウンドにも挑戦していることは驚きだ。表向きにはロックであるが、ジャンルに囚われず、良質なUSロックを追求していこうとするザ・メンジンガーズのスタンスを、これらの収録曲に感じ取ることが出来る。そして、タイトルこそ差し迫った現代的な社会の危機、及び、個人的な問題にまつわる危機が符牒のように取り入れられているが、一方、全体にはそれとは対象的に、爽快なエバーグリーンなパンクロックサウンドの片鱗が随所に散りばめられる。「Ultraviolet」では、結成時代に立ち返ったかのように、純粋で精細感溢れるロックサウンドを示し、旧来のファンを大いに驚かせる。ここには、重ねた年は関係なく、現実をリアルに愛らしく生きている人々に、青春という賜物が訪れることが表されている。

 

もうひとつ、音楽的なアプローチとは別に、ロックサウンドそのものから滲み出る哀愁もまたアルバムの主要なイメージを形成している。彼らのパンクロックは、長い時間、陽の光にさらされた紙のように少し黄ばんで、味のあるページへと変化をしていくようなものなのだ。またメンジンガーズのパンクロックは、ブルース・スプリングスティーンが年を重ねるごとに、そのサウンドも渋みのある内容となっていったのと同じように、「Take It To Heart」を始めとする曲では、ブルージーな味わいに加えて、ロックサウンドに強かな印象と精彩な感覚をもたらしている。同時に、歌声にはティーンネイジャー・パンクよりも若々しい感性が見出される瞬間もある。渋さの中にある若さ、もしくは若さの中に漂う渋さ、なんとでも言いようがあるが、それは実際、精細感のあるミドルテンポのパンクロックサウンドという形で昇華されているのだ。

 

アルバムの終盤にも懐かしさのある曲が収録されている。「Love Of The End」では、ボーカルの質感こそ異なるが、クラッシュのジョー・ストラマーが体現しようとしていたフォークロックとパンクの絶妙な融合を図り、「Alone In Dublin」でも、ブライアン・アダムスに代表されるUSロックの核心にある男らしさやワイルドさを探求している。こういったサウンドは確かに現代のグローバリズム・サウンドに辟易してやまないリスナーにとっては、信頼感と癒やしを感じさせる。他にも、ジョニー・キャッシュの影響下にある、古典的なフォーク・ロックの源流の音楽性を「High Low」でパンクというフィルターで示したかと思えば、「I Didn't Miss You」では再びアメリカン・ロックの南部的なロマンに迫る。アルバムの最後では、米国南部のアメリカーナを内包させたロックサウンドを示した上で、彼らは次なるステップへと歩みを進めている。

 

ザ・メンジンガーズの新作は新しくも画期的でもない。にもかかわらず、普遍的なアメリカン・ロックに大きなロマンチシズムを覚えてしまう。果たして、それは気のせいなのだろうか??



78/100