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 Pearl Jam  『Dark Matter』

 


 

Label: Republic/ Universal Music

Release: 2024/04/20

 

 

Review    


-シアトルの伝説の華麗なる復活-

 

 

90年代のグランジシーンを牽引した偉大なロックバンド、Pearl Jamの待望の新作アルバム『Dark Matter』のプロディースは、アンドリュー・ワットが手掛けている。ワットは、マイリー・サイラス、ポスト・マローン、そして、オジー・オズボーンの作品に関わった敏腕プロデューサーだ。バンドのギタリストのマイク・マクレディは、新作アルバムに関して、アンドリュー・ワットの貢献が大きかったと明かしている。「この一年、彼と一緒にスタジオにいた時、彼は僕らの尻を蹴り上げ、集中させ、そして矢継ぎ早に曲を演奏させた」とマクレディは語る。

 

「そして、アンドリューは、わたしたちにこんなふうに言った。”君たちはレコードを作るのに時間がかかるだろう? 今すぐこれを仕上げようじゃないか”って」また、マクレディは、この復活作についてパール・ジャムのデビュー当時のエネルギーが存在し、それはほかでもないアンドリューのお陰であると述べている。「このアルバムには最初の2作のアルバムのエネルギーがある。アンドリューは、わたしたちが長年そうしてきたように、ハードでメロディアスで思慮深いプレイができるよう、わたしたちを後押ししてくれた」と、マクレディは述べた上で、次のように補足している。「マット・キャメロンのドラミングに注目してほしい。このアルバムの音楽には、彼がサウンドガーデンでやっていたことと同じ魅力が込められているんだ」


実際、彼らの新作『Dark Matterのサウンドに耳を傾けてみると、『TEN』の時代のパワフルなハードロックやグランジの魅力が蘇っていることに気づく。そして同時に音楽性としてドラマティックな要素が加わり、ハリウッド映画のような大スペクタルのハードロックサウンドが構築されている。アルバムにはロック・ミュージックの普遍的な魅力があり、パール・ジャムはそれを彼らのスタイルで奏でる。バンドの唯一無二の強固なサウンドを組み上げているのだ。

 

アルバムのオープニング「Scared Of Fear」にはドゥームサウンドや映画「インディペンデンス・デイ」を思わせるアンビエント風のイントロに続いて、乾いた質感を持つロックンロールサウンドが繰り広げられる。エディ・ヴェーダーのボーカルにはデビュー当時の勢いがあり、熟練のバンドマンとしてのプライドがある。そして、そこにはサウンドガーデンのクリス・コーネルのような哀愁、フー・ファイターズのデイヴ・グロールを思わせるパワフルさが加わった。まさにアルバムの一曲目でパール・ジャムは”グランジとは何か?”というその核心の概念を示す。確かにこの曲には、現代の世界の社会情勢にまつわるメッセージも含まれているのかもしれないが、パール・ジャムはその現状に対し、勇敢に立ち向かうことを示唆するのである。


以後、バンドはグランジにとどまらず、USハードロックの醍醐味を再訪する。「React, Respond」ではドラムのダイナミクスの強調やクランチなギター、分厚いグルーブを作り出すベースライン、ヴェーダーのワイルドな空気感のあるボーカルと、このバンドの持ち味が遺憾なく発揮されている。そこにあらためてハードロックの持つパワフルなサウンドを蘇らせる。これらのサウンドには一点の曇りもない。いや、それどころか、パールジャムが現在進行系のバンドであることを象徴付ける。もちろん彼らの最大の魅力であるシアトルサウンドを通してだ。


パール・ジャムのロックは必ずしもラウド性だけに焦点が置かれているわけではない。これはクリス・コーネル率いるサウンドガーデンと同様である。続く「Wreckage」では、フォーク/カントリーを中心とする現代のオルタナティヴサウンドに呼応する形で、ロックサウンドを展開させる。この曲には、CSN&Yのような回顧的なフォーク・ミュージックが織り交ぜられている。それのみならず、Guided By Voicesのようなオルタナティヴロックの前夜の80年代後半のサウンドがスタイリッシュに展開される。背後のフォークロックのサウンドに呼応する形で歌われるエディー・ヴェーダーのボーカルには普遍的なロックを伝えようという意図も感じられる。この曲にはオルタネイトな要素もありながら、80年代のスタンダードなハードロックサウンドのニュアンスもある。ロックソングのスタンダードな魅力を堪能することが出来るはずだ。

 

 

 

メタリカのラーズ・ウィリッヒのプレイを思わせるキャメロンのダイナミックなタム回しで始まる「Dark Matter」はパール・ジャムのサウンドがロックにとどまらず、ヘヴィメタルの要素が併存していることを象徴付けている。タイトル曲で、パールジャムは「TEN」の時代のハードロッキングなサウンドを蘇らせ、アンドリュー・ワットのプロデュースの助力を借り、そこにモダンな印象を付け加える。90年代の彼らのジャンプアップするようなギターサウンドはもちろん、それを支えるマット・キャメロンのドラムが絶妙な均衡を取り、シンセサイザーのアレンジを交え、エディ・ヴェーダーは”最もワイルドなロックソングとは何か?”を探求する。ここには90年代のミクスチャーロックの要素もあり、ホワイト・ゾンビを思わせる横乗りのサウンドが貫かれている。ロック・ミュージックのダンサンブルな要素を探求しているといえる。


アルバムの中盤ではこのバンドの最大の魅力ともいえる緩急のあるサウンドが際立っている。例えば、「Won't Tell」ではグランジのジャンルのバラードの要素を再提示し、それをやはりモダンな印象を持つサウンドに組み替えている。この曲には80年代のメタル・バラードの泣きの要素と共鳴するエモーションが含まれている。さらに続く「Upper Hand」では、エレクトロニックの要素を追加し、ヴェーダーの哀愁のあるボーカルを介し、王道のスタジアムロックソングを書いている。あらためてこのバンドが、フー・ファイターズと全くおなじように、スノビズムにかぶれるのではなく、大衆に支持されるロックナンバーを重視してきたことがうかがえる。続く「Wait For Steve」は、90年代のパール・ジャムの作風と盟友であるクリス・コーネルのソングライティング性を継承し、それらを親しみやすいロックソングとして昇華させている。


もうひとつ、『Dark Matter』のリスニングの際に抑えておくべき点を上げるとするなら、ストーナーとグランジの中間にあるオルタネイトなロックを、このアルバムの中でパール・ジャムは探求していることに尽きるだろう。「Running」は、Nivanaが登場する以前のグランジの最盛期のサウンドを思わせる。また、Melvins、Kyuss、Fu Manchu、最初期のQOTSAのようなストーナーのラウド性が含まれている。全体的なサウンドは、クリス・ノヴォセリックのプレイを思わせる分厚さと疾走感のあるベースラインを中心に構成される。それらをグリーン・デイのようなダイナミックなロックサウンドに昇華させているのは本当に見事であり、ほとんど離れ業とも言える。このあたりにもアンドリュー・ワットの敏腕プロデュースの成果が見受けられる。

 

パール・ジャムの90年代のサウンドの魅力はヘヴィーさにあったのは事実だが、もう一つ忘れてはならない点がある。それは「Something Special」に見出される叙情性と、アメリカーナの要素で、パールジャムの場合はメタリカの96年の『Road』のように、バーボンやウイスキーに代表されるアウトサイダーの雰囲気にある。この曲ではあらためてフォークやカントリーの要素を通じて、それらがワイルドな風味を持つアメリカン・ロックとしてアウトプットされる。 

 

特に叙情性という要素に関しては、続く「Got To Give」にも明瞭に感じられる。この曲では、ワイルドな雰囲気を込め、パールジャムらしいハードロックなバラードが展開される。そして、後者のアメリカーナ、フォークバラードという要素はアルバムのクライマックスに登場する。

 

本作のクローズ曲「Setting Sun」が果たしてサウンドガーデンのボーカルであるクリス・コーネルに因んだものなのかは定かではない。しかし、少なくとも、この曲が「Black Hole Sun」のレクイエムの意味を持つ曲であったとしても不思議ではない。パール・ジャムのアルバムに最初に触れたのは多分、2000年代だったと思う。もちろん、それは、Green River,Mother Love Bone,そしてMelvinsと共にあったのだ。あれから長い時間が流れたけれど、今、考えると、このバンドの音楽に親しんでいたことに、ある種の愉悦を覚えている。素晴らしいロックアルバム。

 


92/100

 

Best Track- 「Scared To Fear」


 

Peral Jamの『Dark Matter』は日本国内ではユニバーサル・ミュージックより発売中です。公式ストアはこちらから。



 

Disney+は、ザ・ビートルズを描いたオリジナル映画『Let It Be』を独占配信することを発表した。5月8日から配信予定。


1970年5月、マイケル・リンゼイ=ホッグ監督によって初めて公開され、ビートルズ解散の渦中にあった『レット・イット・ビー』は、今やバンドの歴史において重要な位置を占めている。


『レット・イット・ビー』には、『ゲット・バック』では紹介されなかった映像が収録されており、1969年1月、ビリー・プレストンが加わったザ・ビートルズがグラミー賞を受賞したアルバム『レット・イット・ビー』の作曲とレコーディングを行うスタジオやアップル・コープスのロンドンの屋上に視聴者を誘う。


マイケル・リンゼイ=ホッグは、この映像に関して述べている。「『レット・イット・ビー』は1969年10月から11月にかけて準備が整っていたが、発売されたのは1970年4月だった。発売の1ヵ月前、ビートルズは正式に解散した。だから、人々は『レット・イット・ビー』を観に行ったんだ」


「『もう二度とビートルズの共演は観られない。もう二度とあの喜びを味わうことはできないのだ』と思い、この映画の印象を非常に暗くした。しかし、実際、これほどの大物アーティストたちが、頭で聞いたことを曲にするために協力し合う姿を見る機会はそうそうないだろう」


「そして屋上で、グループとして再び一緒に演奏する彼らの興奮(注: ルーフトップ・コンサートのこと。正真正銘のビートルズのラストライブ。アップル・コア本社の屋上で行われた40分の演奏)、仲間意識、純粋な喜びを目の当たりにし、それが最後であったことを知る。私が50年前に撮影したすべての映像を使って、ピーターが『Get Back』でできたことに私は打ちのめされた」


「マイケルの映画『レット・イット・ビー』が修復され、何十年もの間入手不可能だったものがついに再公開されることになり、本当に感激している」と、『ゲット・バック』の監督兼修復者であるピーター・ジャクソンは語る。

 

「『ゲット・バック』のためにマイケルのNG集を入手できたのは本当に幸運だったし、『ゲット・バック』の物語を完結させるためには『レット・イット・ビー』が必要だとずっと思っていた。


3部構成で、マイケルとビートルズが画期的な新しいドキュメンタリーを撮影しているところを見せたが、「レット・イット・ビー」はそのドキュメンタリー、つまり1970年に公開された映画だ。私は今、50年の時を経てようやく完成した、ひとつの壮大な物語だと考えている。


『レット・イット・ビー』は『ゲット・バック』のクライマックスであり、『ゲット・バック』は『レット・イット・ビー』に欠けていた重要な文脈を提供する。マイケル・リンゼイ=ホッグは、私が『ゲット・バック』を制作している間、たゆまぬ協力と寛大な心で見守ってくれた。

 The Libertines 『All Quiet On The Eastern Esplanade』

 

 

Label: Universal Music

Release: 2024/04/05



Review  -20年以上の歳月の重み-

 

 

2002年のデビュー・アルバムからおよそ23年の月日が流れた。リバティーンズは一時、フロントマンの二人のホテルでの機材の所有のトラブルが原因で空中分解することになった。これは音楽雑誌のバックナンバーを探ってもらいたい。以後、ピート・ドハーティのドラッグの問題等もファンの念頭にはあった。もちろん、カール・バラーの精神的な落ち込みについてはいわずもがなである。

 

以後、UKの音楽シーンを象徴するロックバンドでありながら、沈黙を守り続けていた。2000年代、ガレージロックリバイバルの流れに乗って登場したリバティーンズだが、結局のところ、このバンドは他のバンドと同じようにプリミティヴなロックのテイストを漂わせつつも、明確に異なる何かが存在した。いわば、リバティーンズはいつも”スペシャル・ワン”の存在だった。

 

音楽のシーンというのは、単一の存在から作られるものではない。誰かが何もない土壌に種を撒き、そしてその土壌から生育した穀物を摘み取る。しかし、その一連の作業は一つのバンドだけで行われるものではない。昨日、誰かがそれをやり、そして、次の日には別の人がそれを続ける。その連続性がその土地の音楽のカルチャーを形成する。つまり、何らかの系譜が存在し、どのようなビックスターもその流れの中で生き、音楽の作品をファンの元に届けるのである。

 

ザ・リバティーンズのアウトサイダー的な立ち位置、デビュー当初のアルバムジャケットの左翼的、あるいは急進的とも言うべきバンドの表立ったイメージ、そしてチープ・トリックの『Standing On The Edge』のアルバムジャケットの青を赤に変えた反体制的なパンクバンドとしての性質は、たとえ本作がイギリス国内だけで録音されたものではないことを加味したとしても、完全に薄れたわけではない。

 

例えば、バンドは先行シングルとして公開され、アルバムのオープニングを飾る「Run Run Run」においてチャールズ・ブコウスキーの文学性を取り込み、それらを痛快なロックサウンドとしてアウトプットする。ピカレスク小説のようなワイルドなイメージ、それは信じがたいけれど、20年以上の歳月を経て、「悪童」のイメージから「紳士的なアウトサイダー」の印象へと驚くべき変化をみせた。そして何かバンドには、この20年間のゴシップ的な出来事を超越し、吹っ切れたような感覚すら読み取れなくもない。特に、サビの部分でのタイトルのフレーズをカール・バラーが歌う時、あるいは、2002年のときと同じようにマイクにかなり近い距離で、ピート・ドハーティがツインボーカルのような形でコーラスに加わる時、すでに彼らは何かを乗り越えた、というイメージが滲む。そして2002年のロックスタイルを踏まえた上で、より渋さのある音楽性が加わった。これは旧来のファンにとっては無上の喜びであったのである。

 

リバティーンズは、以前にはなかったブルースの要素を少し付け加えて、そして旧来のおどけたようなロックソングを三曲目の「I Have A Friend」で提供する。2010年代にはリバティーンズであることに疑心暗鬼となっていた彼らだったが、少なくともこの曲において彼らが気恥ずかしさや気後れ、遠慮を見せることはない。現代のどのバンドよりも単純明快にロックソングの核を叩きつける。彼らのロックソングは古びたのだろうか? いや、たぶんそうではない。

 

リバティーンズのスタンダードなロックソングは、今なお普遍的な輝きに満ち溢れ、そして今ではクラシックな「オールド・イングリッシュ・ロックソング」へと生まれ変わったのだ。もちろん、そこにバンドらしいペーソスや哀愁をそっと添えていることは言うまでもない。これはバンドのアンセムソングでライブの定番曲「Don’t Look Back In The Sun」の時代から普遍のものである。マイナー調のロックバラードは続く「Man With A Melody」にも見出すことができる。


 

もうひとつ、音楽性のバリエーションという点で、長年、リバティーンズや主要メンバーは何か苦悩してきたようなイメージがあったが、この最新作では、オールドスタイルのフォーク・ミュージックをロックソングの中にこっそりと忍ばせているのが、とてもユニークと言えるだろう。「Man With A Melody」では、ジョージ・ハリスンやビートルズが書くようなフォークソングを体現し、「Night Of The Hunter」では往年の名ロックバンドと同様にイギリスの音楽がどこかでアイルランドやスコットランドと繋がっていることを思わせる。ここには世界市民としてのリバティーンズの姿に加え、イギリスのデーン人としての深いルーツの探求の意味がある。あたり一面のヒースの茂る草原、玄武岩の突き出た海岸筋、そして、その向こうに広がる大洋、そういった詩情性が彼らのフォークバラードには明確に反映されている気がする。そして、それらのイギリスのロマンチシズムは、彼らのいるリゾート地からその望郷の念が歌われる。これはウェラーのJamの「English Rose」の中に見られる哀愁にもよく似たものなのだ。

 

リバティーンズは、デビュー当初、間違いなくThe Clashの再来と目されていたと思う。実際、もうひとつのダブやレゲエ的なアクセントは続く「Baron's Clow」に見出すことができるはずである。ここには「Rock The Casbah」の時代のジョー・ストラマーの亡霊がどこかに存在するように感じられる。なおかつリバティーンズの曲も同様にワイルドさと哀愁というストラマーの系譜に存在する。また、70年代のUKパンクの多彩性を24年に体現しているとも明言できるのだ。


彼らは間違いなくこのアルバムで復活のヒントを掴んだはずである。「Oh Shit」はリバティーンズが正真正銘のライブバンドであることのステートメント代わりであり、また「Be Young」は今なお彼らがパンクであることを示唆している。アルバムのクローズ「Songs That Never Play On The Radio」では、あえて古びたポピュラー音楽の魅力を再訪する。20年以上の歳月が流れた。しかしまだ、リバティーンズはUKのロックシーンに対して投げかけるべき言葉を持っている。今でも思い出すのが、バンドの登場時、意外にも、Radioheadとよく比較されていたことである。

 

 

80/100

 



Best Track- 「Run Run Run」

 


リバプールのロックバンド、The Zutonsが16年ぶりのアルバム『The Big Decider』を4月26日にICEPOPからリリースする。 3枚目のシングルとなるタイトル曲「The Big Decider」が公開。また、19年ぶりとなる本格的な全米ツアーも発表された。


ズートンズは、デイヴ・マッケイブ(ギター、リード・ヴォーカル)、アビ・ハーディング(サックス、ヴォーカル)、ショーン・ペイン(ドラムス、ヴォーカル)の3人組。

 

バンドは3年前に再結成し、シックの共同創設者であるナイル・ロジャースのプロデュースによる新作をレコーディングする意向を発表した。バンドはこのアルバムをアビーロード・スタジオでレコーディングし、オリジナル・プロデューサーのイアン・ブルーディーとも仕事をした。


『The Big Decider』について、デイヴ・マッケイブは次のように語っている。「イアン・ブルーディーは、"Big Decider "のデモを聴いて涙が出たと言っていた。この曲は、アルバムのために最初に書いた曲のひとつだったから、イアンからこのような反応をもらったとき、自分たちが何か正しいことをしている気がした。この曲は、人生においてチャンスが巡ってきたときにそれをものにすること、そして同時に、慎重になること、過去の失敗から学ぶことを歌っている。僕にとっては、ベガスへの公平な乗り物のようなもので、最後に勝てればいいなと思うよ」


以前、バンドは『The Big Decider』から「Creeping on the Dancefloor」「Pauline」を先行公開している。

 


「The Big Decider」

 


テネシーのロックバンド、Kings Of Leon(キングス・オブ・レオン)がニューシングル「Split Screen」をリリースした。このシングルは、リードシングル「Mustang」に続き、近日リリース予定のアルバム『Can We Please Have Fun』に収録される。以下よりチェックしてみよう。


「この曲は気に入っている。ファンにも気に入ってもらえると思っている。Split Screen』は、『Mustang』を聴いた後に聴くと、アルバムの奥深さを少しわかってもらえるかもしれないね」


Kings Of Leonによる『Can We Please Have Fun』は5月10日にCapital Recordsからリリースされる。


「Spilit Screen」

アルバムのジャケットより

バーナード・バトラーは、ブリットポップのレジェンド、スウェード(Suede)の最初の2枚のアルバムでギタリストを務め、マカルモント&バトラーなどのプロジェクトにも参加していた。バトラーは25年ぶりの新作ソロアルバム『Good Grief』を発表、ファースト・シングル 「Camber Sands」を公開した。『Good Grief』は355 Recordingsから5月31日にリリースされる。


2022年、バトラーは高名な女優ジェシー・バックリーと組み、アルバム『For All Our Days That Tear The Heart』を発表した。

 

彼はスウェードの創設メンバーであり、1993年のセルフタイトル・デビュー作と1994年のオールタイム・クラシック『Dog Man Star』(そして当時の彼らの素晴らしいB面曲の数々)に参加した。

 

スウェードを脱退した後、彼はシンガーのデヴィッド・マカルモントとともに音楽デュオ、マカルモント&バトラーの一員として2枚のアルバムをリリースした。

 

2004年、バトラーはスウェードのブレット・アンダーソンと再結成し、ザ・ティアーズを結成、2005年のアルバム『Here Come the Tears』をリリースした。また、プロデューサーとしても様々なアーティストと仕事をしている。

 

しかし、バトラーのソロ・アルバムは1998年の『People Move On』と1999年の『Friends and Lovers』の2枚しかない。


バーナード・バトラーは声明の中で、このアルバムについてこう語っています。「しばらくの間、私は傷つき、怯えていた。私は多くの音楽に夢中になり、喜びを感じていた。ただそこにいることが、自分が望んでいた以上のことだと気づいた」

 

「私は他の人々に多くを与えたが、私の物語は、私が何であるかよりも、むしろ私が何であったかによって定義されることに気づいた。私は自分自身に、控えめな商業的目標と、期待に満ちた創造的目標を設定した」

 

 

「Camber Sands」





Bernard Butler 『Good Grief』

 


Label: 355 Recordings

Release: 2024/05/31


Tracklist:


1. Camber Sands

2. Deep Emotions

3. Living the Dream

4. Preaching to the Choir

5. Pretty D

6. The Forty Foo”

7. London Snow

8. Clean

9. The Wind

 


西アフリカのトゥアレグ族のハードロックグループ、Mdou Moctarがニューシングル「Imouhar」をリリースした。この曲は、近日発売予定のアルバム『Funeral For Justice』の最新シングル。


西アフリカのニジェールでは、2000年頃から携帯電話が普及し、市民の間でごく普通に音楽がデバイスでやりとりされるようになった。Mdou Moctorはそんな現代化と都市化が進むニジェールの中で、国際的な流れの中に文化性が飲み込まれていくことを危惧している。そのうちに彼らの言語性が奪いとられ、最終的には民族衣装をもどこかに消え去っていくのではないかと。

 

ニューシングル「Imouhar」は、バンドが属するトゥアレグ族のタマシェク語を守りぬくよう全体に呼びかけている。タマシェク語は消滅の危機に瀕しており、モクターは彼のコミュニティの中で数少ないタマシェク語の語法を知っている。そして言語性の消去はとりも直さず、国民性の消去でもある。彼らが行うのは、それを音楽という形で次の世代に伝えることなのである。


「ここの人たちはフランス語ばかり使っている。自分たちの言葉を忘れ始めているんだ。100年後には誰もタマシェク語をうまく話せなくなるような気がして、それは私たちにとってとても怖いことなのです」

 


「Imouhar」

 


ヘヴィなカムバック・シングル 「Dark Matter」で複数のビルボード・ロック・チャートのトップを飾ったオルタナのボス、パール・ジャムが、ラウドでファストでパンキーな 「Running」をリリースした。


このナンバーには、独特のチャント調のギャング・ヴォーカル・コーラスがあり、そのリフはベーシストのジェフ・アメントが作った。


「ギタリストのストーン・ゴッサードは、SPIN誌にこう語っている。「ブリッジが大好きなんだ。マクレディが弾いているコードが一体何なのかわからないけど、オリジナルなものに聞こえるんだ」


「Running」は、ロサンゼルスのリック・ルービンのシャングリ・ラ・スタジオで、プロデューサーのアンドリュー・ワットと録音した最後の曲。「もう1曲アップテンポの曲を作るのは楽しかった」とゴッサードは語り、フロントマンのエディ・ヴェダーの 「ここぞという箇所のヴォーカルの器用さ、そしてアルバムの他のいくつかの箇所でのヴォーカルは本当に見事だ」と付け加えた。


ヴェダーは今週ロンドンを訪れ、長年続いているティーンエイジ・キャンサー・トラストのベネフィット・コンサート・シリーズの一環としてザ・フーと歌った。木曜日(3/21)、彼はロンドンで招待客を前に『Dark Matter』を初披露した。2月にロサンゼルスのトルバドールで開かれたリスニング・パーティーと同じように、彼は、午後の観客にテキーラのショットを注いだ。


2ndアルバムは2020年の『Gigaton』の続編。5月4日のバンクーバーを皮切りにマルチレッグのインターナショナル・ツアーが予定されている。






後日掲載されたアルバムのレビューは下記よりお読み下さい。




 


ニック・ケイヴ&ザ・バッド・シーズがニューアルバム『Wild God』を発表し、ファースト・シングルとなるタイトル曲 を公開した。『Wild God』は8月30日にバッド・シード/プレイ・イット・アゲイン・サムからリリースされる。


ケイヴとバンドメイトのウォーレン・エリスがプロデュースし、デヴィッド・フリードマンがミックスを担当した。


ケイヴは2023年の元旦からアルバムを書き始め、フランスのプロヴァンスにあるミラヴァル・スタジオとイギリスのロンドンにあるサウンドツリー・スタジオでレコーディング・セッションが行われた。


ニック・ケイヴ&ザ・バッド・シーズは、ケイヴ、エリス、トーマス・ワイドラー、マーティン・ケイシー、ジム・スクラヴノス、ジョージ・ヴィジェスティカの6人。このアルバムには、レディオヘッドのコリン・グリーンウッド(ベースを担当)とルイス・アルマウ(ナイロン弦ギターとアコースティック・ギター)も参加している。


「このアルバムが、私に与えたような影響をリスナーにもたらしてくれることを願っている」とケイヴはプレスリリースで語っている。


「このアルバムはスピーカーから飛び出してきて、私はそれに飲み込まれてしまう。このアルバムは複雑なレコードだが、同時に深く、楽しくもある。私たちがレコードを作るとき、決してマスタープランはない。レコードはむしろ、それを演奏した作家やミュージシャンの感情の状態を反映するものなのだ。これを聴いていると、どうだろう、私たちは幸せなんだと思えるよ」


ケイヴはこう付け加えた。 「ワイルド・ゴッド......このレコードにはふざけたところはない。ヒットしたら、ヒットする。それはあなたを持ち上げる。感動させてくれる。それが大好きなのさ」



Nick  Cave  & Bad Seeds  『Wild God』




Tracklist:


1. Song of the Lake

2. Wild God

3. Frogs

4. Joy

5. Final Rescue Attempt

6. Conversion

7. Cinnamon Horses

8. Long Dark Night

9. O Wow O Wow (How Wonderful She Is)

10. As the Waters Cover the Sea

Bleachers 『Bleachers』


 

Label: Dirty Hit

Release: 2024/03/10

 

Purchase

 



 

デビュー・アルバムのアートワークがその多くを物語っているのではないだろうか。モノトーンのフォトグラフィ、ジョージ・ルーカスの傑作『アメリカン・グラフィティ』に登場するようなクラシックカー、そして、ニュージャージー郊外にあるような家、さらには、そのクラシックカーに寄りかかり、ナイスガイの微笑みを浮かべるアントノフ。テイラー・スウィフトのプロデューサーという音楽界の成功者の栄誉から脱却し、ロックグループとして活動を始めたアントノフの意図は火を見るよりも明らかである。アントノフが志すのは、米国のポピュラー音楽の復権であり、現代的なシンセポップやソフト・ロックの継承である。そしてなにより、空白の90年代のアメリカンロックの時間を顧みるかのような音楽がこのデビューアルバムを貫く。

 

ブリーチャーズのサウンドを解題する上で、アメリカン・ロックのボスとして名高いブルース・スプリングスティーンが少し前、後悔を交えて語っていたことを思い出す必要がある。ボスは80年代に『Born In The USA』で商業的な成功を収め、アメリカンロックの象徴として音楽シーンに君臨するに至る。しかし、スプリングスティーンのファンはご存知の通り、ボスは90年代にそれほど象徴的なアルバムをリリースしなかった経緯がある。本人曰く、実は結構、録り溜めていた録音こそあったのだったが、それが結局世に出ずじまいだったというのだ。


しかし、音楽的な傾向として見ると、現在は、むしろ80年代のソフト・ロックやAOR、そして、それより前の時代のニューウェイブに依拠したサウンドの方が隆盛である。そして、アントノフのブリーチャーズは、改めて90年代以降に軽視されがちだった80年代のスタンダードで健全なアメリカンロックに焦点を絞り、それをサックスを中心とする金管楽器の華やかな編成を交えたロックで新しいシーンに一石を投ずるのである。アントノフのサウンドは、ブルース・スプリングスティーン、ビリー・ジョエルのロックソング、フィル・コリンズのソフト・ロック、ジョージ・ベンソンやダイアナ・ロスのロックにかぎりなく近いR&B/ファンクとアーティストの並々ならぬ音楽への愛着が凝縮され、それがプロデューサー的なサウンドに構築されている。


 以前、アルバム発売前にアントノフがバンドとともに米国のテレビ番組に出演した時、アントノフはヴォーカルを披露しながら、自分でボーカルループのエフェクターを楽しそうに操作していた。ボーカルの編集的なプロダクションをライブで披露するという点では、カナダのアーケイド・ファイアと同じ実験的なロックサウンドを彼は志向している。それはプロデューサーとしては世界的に活躍しながらも、ミュージシャンとして表舞台に戻ってこれたことに対する抑えきれない喜びが感じられる。アントノフはプロデューサーになる前からバンド活動を行ってきたのだから、演奏者としての原点に戻ってこれたことに歓喜を覚えているはずなのである。なぜなら彼は、過去のグラミー賞の授賞式で次のような趣旨の発言を行った。「グラミー賞の栄誉に預かるのは、人生のどこかで、すべてを投げ捨てる覚悟で頑張ってきた者に限られる」と。おそらくアントノフもそういった覚悟でプロデューサーとしての道のりを歩んできた。


 

ということで、このアルバムはプロデューサーではなく、バンドマンとしての喜びが凝縮されている。本作の冒頭を飾る「I Am Right On Time」はニューウェイブ系のサウンドに照準を絞り、ミニマルなテクノサウンドを基調にしたロックが展開される。アントノフのボーカルはサブ・ポップからもう間もなくデビューアルバムをリリースする''Boeckner''のような抑えがたい熱狂性が迸る。アントノフは意外にも、JAPAN、Joy Divisionの系譜にあるロートーンのボーカルを披露し、トラックの背景のミニマルなループをベースにしたサウンドに色彩的な変化を及ぼそうとする。サビでは、今年のグラミー賞の成功例に即し、boygeniusのゴスペルからの影響を交え、魅惑的な瞬間を呼び起こそうとする。曲全体を大きな枠組みから俯瞰する才覚は、プロデューサーの時代に培われたもので、構成的にもソングライティングの狙いが顕著なのが素晴らしい。

 

「Modern Girl」は近年の米国の懐古的な音楽シーンに倣い、 ホーンセクションをイントロに配し、ビリー・ジョエルやブルース・スプリングスティーン、ジョージ・ベンソンのようなR&Bとロックの中間にあるアプローチを図る。Dirty Hitのプレスリリースでは、結婚式のようなシチュエーションで流れる陽気なサウンドとの説明があり、そういったキャッチコピーがふさわしい。華やかなサウンドとノスタルジックなサウンドの融合は、ブリーチャーズの真骨頂となるサウンドである。そこにブライアン・アダムスを彷彿とさせるアメリカン・ロックの爽快な色合いが加えられると、軽妙なドライブ感のあるナンバーに変化する。コーラスにも力が入っており、テイラー作品とは別の硬派なアントノフのイメージがどこからともなく浮かび上がってくる。


 

ニューウェイブからの影響は、続く「Jesus Is Dead」に反映されている。ドライブ感のあるシンセがループサウンドの形を取ってトラック全体に敷き詰められ、 ぼやくように歌うアントノフのボーカルには現代社会に対する風刺が込められている。ただ、それほど過激なサウンドになることはなく、The1975のようなダンサンブルなロックの範疇に収められている。バッキングギターとベースの土台の中で、シンセのシークエンスの抜き差しを行いつつ、曲そのものにメリハリをもたらす。このあたりにも名プロデューサーとしてのセンスが余すところなく発揮される。

 

続く「Me Before You」は、ドン・ヘンリーのAORサウンドを織り交ぜた、バラードともチルウェイブとも付かない淡いエモーションが独特な雰囲気を生み出す。現代的なポピュラーバラードではありながら、その中に微妙な和音のポイントをシンセとバンドアンサンブルの中に作り出し、繊細な感覚を作り出そうとしている。また80年代のソフトロックをベースにしつつも、アルト/テナーサックスの編集的なプロダクションをディレイとリバーブを交えて、曲の中盤にコラージュのように織り交ながら、実験的なポップの方向性を探ろうとする。しかし、アントノフのプロダクションの技術は曲の雰囲気を壊すほどではない。ムードやアトモスフィアを活かすために使用される。アンサンブルの個性を尊重するという点では、ジョン・コングルトンの考えに近い。このあたりにも、良質なプロデューサーとしてのセンスが発揮されている。

 

先行シングルとして公開された「Alma Mater」は、解釈次第ではテイラー・スティフト的なトラックと言える。ただもちろん、テイラーのボーカルは登場せず、そのことがイントロで暗示的に留められているに過ぎない。イントロのあと、雰囲気は一変し、渋さと深みを兼ね備えたR&B風のポップスへと変遷を辿る。ボーカルのミックス/マスターにアントノフのこだわりがあり、音の位相と音像の視点からボーカルテクスチャーをどのように配置するのか、設計的な側面に力が注がれている。実際に、それらの緻密なプロダクションの成果は淡いエモーションを生み出す。そして色彩的な音楽性も発揮され、それらはダブルのサックスの対旋律的な効果によりもたらされる。曲の後半では確かにレセプションのような華やかな空気感が作り出される。

 

 「Tiny Moves」はジョージ・ベンソンを彷彿とさせるアーバンコンテンポラリー/ブラックコンテンポラリーを下地に古典的なゴスペル風のゴージャスなコーラスをセンスよく融合させる。この曲は本作の中でもハイライトを形作り、アートワークのクラシックカーや、アメリカの黄金期、そしてナイスガイなイメージを音楽的に巧みに織り交ぜる。リスナーはアメリカン・グラフィティの時代のサウンドトラックのようなノスタルジックな感覚に憧れすら覚えるだろう。


「Isimo」は映画好きとしてのアントノフの嗜好性が反映され、実際にシネマティックなポップが構築されている。ブリーチャーズが表現しようとするもの、それは現代の米国のポップシーンの系譜に位置し、アメリカのロマンス、そして黄金期の時代の夢想的な感覚である。それらは実際に夢があり、気持ちを沸き立たせるものがある。そしてここでも80年代のマライア・キャリー、ホイットニー・ヒューストンのようなダイナミックなポピュラー・ソングをバンドアンサンブルとして再解釈し、あらためてMTVの最盛期の音楽の普遍性を追求しようとしている。

 

アルバムは後半部に差し掛かると、いきなり、クラシックな音楽からモダンな音楽へとヴァージョンアップするのが特に心惹かれる点である。#8「Woke Up Today」はバンジョーのようなアコースティックギターの演奏を生かしたフォークソングだ。 この曲で、ブリーチャーズはやはりアパラチアフォークや教会音楽のゴスペルといったアメリカの文化性の源泉に迫り、 ニューイングランドの気風を音楽的な側面から探求する。ゴスペル風のコーラスにこだわりがあり、それが吟遊詩人的なアパラチア・フォークの要素で包み込まれる。草原の上に座りこみ、アコースティックを奏でるような開放感、ブルースの源流をなすプランテーション・ソングを高らかにアントノフは歌う。それは19~20世紀初頭の鉄道員のワークソングのような一体感のある雰囲気を生み出す。続く「Self Respect」でもミニマル・ミュージック/テクノを下地にし、パルス状のシンセをベースに、USAの文化の原点に敬意を表す。そして、敬意と愛、そして慈愛に根ざした感覚は、ゴスペルの先にある「New Gospel」という現代的な音楽を作り出す契機となる。

 

ジミ・ヘンドリックスの名曲に因んだ「Hey Joe」ではアコースティック・ブルースの要素が現れる。アントノフとブリーチャーズはジョン・リー・フッカーやロバート・ジョンスンよりもさらに奥深いブルースソングに迫り、それを現代的に変化させ、聞きやすいように昇華させる。それらの音楽的な礎石の上に、アントノフは現代的な語りのスポークンワードを対比させる。ロックやブルースへのアントノフやバンドの愛着が凝縮されているが、それは決して時代錯誤とはならず、徹底して新しい音楽や未来の音楽に彼らは視線を向け、それを生み出そうとする。



アルバムの残りの4曲はジョン・バティステのような現代の象徴的なR&B、オートチューンをかけたシーランのようなポピュラーソングが付属的に収録されている。アルバムを聴いてくれたリスナーへのねぎらいとも取れるが、その中にも次なるサウンドへの足がかりとなる要素も見いだせる。


例えば、「Call Me AfterMidnight」はクインシー・ジョーンズのアーバン・コンテンポラリーを受け継ぎ、そのサウンドをAOR/ソフト・ロックの文脈から解釈している。その他にも、「We' Gonna Know Each Other Forever」は友情ソングともいえ、それは映画のクライマックスを彩るエンディングのようなダイナミックなスケールを持つポピュラーバラードの手法が選ばれている。

 

「Ordinary Heaven」でもアルバムの冒頭と同様にゴスペル風のコーラスワークを交えてポピュラーソングの理想形を作り出そうと試みる。クローズ「The Waiter」はオートチューンのボーカルを駆使し、2010年代のシーランのポピュラー性を回顧しようとしている。思っていた以上に聴きごたえがある。


『Bleachers』の序盤には、アントノフとバンドの才覚の煌めきも見えるが、アルバムの終盤が冗長なのがちょっとだけ難点で、既存のサウンドの繰り返しになり、反復が変化の呼び水になっていないことがこのアルバムの唯一の懸念事項といえるかもしれない。ただ、デビュー作して考えると、注目すべき良質なポップナンバーが複数収録されている。本作をじっくり聴いてみると、アントノフ率いるブリーチャーズが何を志すのかありありと伝わってくるはずである。

 

 

 

Best Track- 「Tiny Moves」

 




82/100




Bleachers:




明るくソウルフルなテクニカラーに彩られた「Bleachers」では、バンドのサウンドに豊かな深みがある。このアルバムは、フロントマンのアントノフが、現代生活の奇妙な感覚的矛盾や、文化における自分の立場、そして自分が大切にしているものについて、ニュージャージーならではの視点で表現したものだ。


サウンド的には、悲しく、楽しく、ハイウェイをドライブしたり、泣いたり、結婚式で踊ったりするための音楽だ。クレイジーな時代にあっても、大切なものは忘れないという、その心強さと具体的な感情に触れることができる。


2014年にデビュー・アルバム「Strange Desire」をリリースしたバンドは、3枚のスタジオ・アルバムで熱狂的な支持を集め、印象的なライヴ・ショーと感染力のある仲間意識で有名になった。前作「Take the Sadness Out of Saturday Night」では、アントノフの没入感のあるソングライティングと、Variety誌が証言するように「個人的なストーリーを、より大きなポップ・アンセムに超大型化する」生来のスキルが披露され、バンドは新たな高みへと到達した。


ブリーチャーズでも、ソングライター、プロデューサーとしても、2021年にBBCから「ポップ・ミュージックを再定義した」と評価されたアントノフは、テイラー・スウィフト、ラナ・デル・レイ、ザ・1975、ダイアナ・ロス、ローデ、セント・ヴィンセント、フローレンス+ザ・マシーン、ケヴィン・アブストラクト等とコラボレートしてきた。

 『Liam Gallagher & John Squire』

 

Label: Warner Music UK

Release: 2024/ 03/ 01



Review  



元オアシスのリアム・ギャラガーと元ストーン・ローゼズのジョン・スクワイアによるコラボレーション・アルバムは、予想以上の良作である。もちろん、このアルバムは両バンドのファンにとって納得の出来と言える。ビートルズ、ザ・フー、ローリング・ストーンズといったUKロックの代表格に加え、ブルース・ロックやウェストコーストロックの影響も感じさせるアルバムだ。


近年、リアム・ギャラガーは90年代のUKロックをベースにしたロックソングをソロ作の重要な根幹に据えていたが、今作はその延長線上にある作品と言える。ジョン・スクワイアはソロ・アルバムの音楽性にブルース・ロックという意外な要素を加えている。しかし、実はこれはストーンローゼズのクラブミュージックとサイケロックの融合という皮相の音楽性に隠されていたものだ。今回、ローゼズのファンはこのバンドの隠れた原石を発見することが出来るかも知れない。


オアシスやそれ以後のソロ作品において、ギャラガーは一般的にスタンダードなロックソングの面白さを追求してきたように感じられる。それはノエル・ギャラガーの良質なポップミュージックを追求するという考えとは対照的である。しかし、両者の考えにはマリアナ海溝のような深い隔たりがあるように思えるが、ロックとポップ、実はこの違いしか存在しないのである。


そして今までオアシスやソロアルバムでは一貫して英国のロックを追求してきたウィリアム・ジョン・ポール・ギャラガーであるが、今回は必ずしもイギリスという括りにこだわっていないように思える。

 

長くも短くもなく、日曜の午後のように快活に過ぎ去っていくアルバムの10曲には、モッズ・ロックや、ビートルズ時代のバロック・ポップ、そして、90年代の宣伝用に作られた架空のジャンルである「ブリット・ポップ」の要素に加えて、アメリカの西海岸のロック、どちらかと言えば、ステッペンウルフのようなワイルドさを擁するロックソングが展開される。その中には、ストーンズのブギーやホンキー・トンクの影響下にあるロックの中核にある渋いリフが演奏されるが、これが表面的なロックソングに鋭いアクセントを与えている。表向きに歌われるメロディー性は、やはりオアシスやソロ・アルバムの系譜にあるが、そこにはロックの歴史の源流を辿るような意味合いが込められている。あらためて両者のミュージシャンは、ロックソングを誰よりもこよなく愛していることがわかるし、この音楽の魅力を誰よりも真摯に掘り下げようとしている。ギャラガーとスクワイアは間違いなく「現代のロックの伝道師」なのである。

 

昨年末、このアルバムの発表を事前にリークした時、リアム・ギャラガーは「リボルバー以来の傑作」とソーシャルで宣伝していた。しかし、このアルバムには、ビートルズの最初期の音楽性を想起させる「I'm So Bored」において、ビートルズの『Revolver』に収録されている「She Said She Said」に象徴されるようなマージービートという古典的なロックのスタイルを図っているのを除けば、明らかにローリングストーンズの影響下にあるアルバムである。次いで、言えば、このアルバムは、オアシスのようなアンセミックなフレーズ、そして清涼感のある音楽性を除けば、「Let It Bleed」のようなブルースの要素を前面に押し出した作品に位置づけられる。

 

今回のコラボレーション・アルバムで、ギャラガーはジョン・スクワイアのギターを徹底してフィーチャーすることを制作の条件にしたという。そのことがユニットという形であるにも関わらず、バンドセッションのような精細感をもたらす瞬間もある。スクワイアのギタープレイは、ブルースロックの要素をもたらしているが、それはジェフ・ベックやクラブトンといった、UKの伝説的なギタリストのラフなプレイの系譜に属している。そして、驚くべきことに、ジョン・スクワイアは、ストーン・ローゼズのエキセントリックな音楽性に隠れていたが、ジェフ・ベックやクラプトンに匹敵するブルース・ギタリストだったという事実が明らかになった。

  

このコラボレーションアルバムは、少なくとも両者の嗜好に根ざした日曜大工のような職人的な音楽の方式を取りながら、リズム、音階、構成、これらの3つの要素をどれひとつも軽視していないことは明確である。それはたしかに全盛期のように先鋭的ではないものの、あえて理想的な音楽の基本的な形に立ち返ったとも考えられる。また、若いミュージシャンを見るに見かねて、ある程度憎まれ役になるのを見越した上で、教則本のようなアルバムをリリースしたとも言える。


このアルバムは、先鋭的な創造性という側面では、中盤に少しだけ陰りが見られるが、全体的なアルバムとしては、いくつか傾聴すべきポイントが含まれている。また、本作は、古き良き時代を回想することだとか、古い時代への逃避を意味していない。前の時代の基本的な事例を示しながら、音楽とは何かを表そうとしているのである。この音楽を古びたものとか、そういうふうに考える事自体がナンセンスなのであり、もし、そんなことを考えるとすれば、それは音楽を堕落させる不逞の輩なのであり、考えられる限りにおいて最も愚鈍としか言いようがない。

 

アルバムには二人のミュージシャンの音楽的な語法を元に、ある意味では二人が理想とするスタイルが貫かれている。「Raise Your Hands」は、ギャラガーの生命力のある歌唱や、スクワイアの経験豊富なギターの組み合わせにより、理想的なロックミュージックの型を作り出す。この曲は、聞き手の心を鼓舞させ、音楽が人を消沈させたり悩ませたりするものではないことを表している。ギャラガーの音楽性は、お世辞にも新しいものとは言えまいが、それでも、この音楽の中には融和があり、愛がある。そして何より、音楽とは、人を怖がらせる化け物でもなく、また人を脅すものでもなく、聞き手にそっと寄り添うものであるということを示唆している。 

 

 

 「Mars To Liverpool」

 

 

 

理想的な音楽の形を示しながらも、リアムとジョンは、人間的な感覚をいまだに大切にしている。「Mars To Liverpool」は、彼らの住む場所を与えられたこと、ひいては生きていることへの感謝である。かつて若い頃は、「そういったことがわからず、家に閉じこもってばかりいた」と話すギャラガーは、彼が日課とする「愛犬との公園での散歩」という日常的なテーマに基づいて、最も良いメロディーを書こうとしている。


そこにスパイスを与えるのがスクワイアだ。二人の演奏の息はぴったり合っていて、根源的な融和という考えを導こうとしている。人種や政治、現代的な社会情勢を引き合いに出さずとも、こういった高らかな音楽を作ることは可能なのである。「過去へのララバイ」とも称せる「One Day At A Time」はノスタルジックなイントロを起点に驚くほど爽快なロックソングへと移行する。オアシスやソロ・アルバムで使い古された手法ではあるものの、こういったスタンダーなロックソングは複雑化しすぎ、怪奇的な気風すら漂う現代的な音楽の避暑地ともなりえる。


「I'm A Wheel」では、ジョン・スクワイアのブルースギタリストの才質が光る。ジョン・リー・フッカー、バディ・ガイのような硬派なブルースのリフを通じて、そこから飛び上がるように、お馴染みのリアム・ギャラガーが得意とするサビへと移行していく。シンプルでわかりやすい構成を通じて、BBCの「Top Of The Pops」の時代の親しみやすい音楽へと変遷を辿る。アウトロは、キース・リチャーズの得意とするような、渋みのあるリフでフェードアウトしていく。この音楽には、他にも英国のパブ・カルチャーへの親しみが込められているように思える。曲を聴けば自ずと、地下にある暗い空間、その先にある歓楽的な歓声が浮かび上がってくる。

 

年明けにリリースされた先行シングル「Just Another Rainbow」(MV)は、UKシングルチャートで見事一位を獲得した。


ストーン・ローゼズの「Waterfall」を思い起こさせる曲で、ギターラインはフェーザーのトーンのゆらぎを強調し、ニューウェイブの範疇にある手の込んだ音作りとなっている。そこにギャラガーは、ザ・スミスを彷彿とさせる瞑想的なフレーズをみずからの歌により紡いでいく。この曲は、ジョン・スクワイアのセルフカバーとも言えるが、「Waterfall」に対するオマージュは、ベースのスケールの進行にも見出せる。これらのストーン・ローゼズのカバーのような志向性は、しかし、やはりギャラガーの手にかかると、オリジナルのものに変わる。

 

アルバムの序盤では、驚くほどビートルズの要素は薄いが、「Love You Forever」 ではわずかにフォロワー的な音楽性が顕現する。ブルース・ロックをベースとし、シンコペーションを多用したロックソングが展開される。特に、楽節の延長を形作るのが、スクワイアのギターソロである。ここでは、ジャズのコール・アンド・レスポンスのように、ギャラガーのボーカル、スクワイアのギターによる音楽的な対話を重ねている。ギャラガーのボーカルが主役になったかと思えば、スクワイアのギターが主役になる、という面白い構成だ。音楽的な語法は、古典的なブルース・ロックやジョージ・ハリソンが好むような渋いロックソングとなっているが、その中に現代的な音楽の要素、主役を決めずに、語り手となる登場人物が切り替わる、演劇のようなスタイルが取り入れられている。この曲はまさに新旧のイギリスの音楽を咀嚼した内容である。

 

「Make It Up As You Go Along」は、キース・リチャーズがゲスト参加したと錯覚させるほどの見事なギターの模倣となっている。ストーンズの曲でもお馴染みのホンキー・トンク風のギターで始まり、TVドラマのエンディングのような雰囲気の曲調へと変遷していく。しかし、その後はビートルズのレノンが得意とする同音反復を強調するボーカルの形式を踏襲している。これらは、すでに存在する型を踏まえたものに過ぎないが、ポップ・ミュージックの理想的な形をどこかに留めている。この曲にある温和さや穏やかさはときに緊張感の欠いたものになる場合もあるが、アルバムを全体的な構成の中では、骨休みのような意味合いが込められている。つまり、崇高性や完璧主義とは別軸の音楽の魅力があり、また、少し気を緩めるような効果がある。


「You're Not The Only One」のイントロでは、New York Dolls、Sladeを思わせるブギーを主体にした呆れるほどシンプルなロックンロールに転じる。「You're Not The Only One」の場合は、少しクールというか気障なスタイルを採っている。この中に流動的なスクワイアのギター、そして、ストーンズのように4(8)拍を強調するピアノ、Led Zeppelinの「Rock N' Roll」の70年代のハードロックの要素が渾然一体となり、Zeppelinのバンドマークの要素を作り出す。これらは最近、ポストロックという形で薄められてしまったロックンロールの魅力を再発見することが出来る。


ロールとは、ダンスミュージックの転がすようなリズムを意味し、そもそもロックは、Little Richards,Chuck Berry、Bo Diddlyの代表的な音楽を聴くとわかる通り、ダンスの一貫として作られた音楽であることをありありと思い起こさせる。最近のロックは踊りの要素が乏しいが、本来はダンスミュージックとして編み出された音楽であるということをこの曲で再確認出来る。

 

「リボルバー以来の傑作」という制作者自身の言葉は、作品全体には当てはまらないかもしれないが、「I'm So Bored」には、お誂え向きのキャッチフレーズだ。イントロでは、ビートルズの初期から中期の音楽へのオマージュを示し、その後、ソロ・アルバムで追求してきた新しいロックの形を通じて、曲の節々に、ビートルズのマージービートのフレーズをたくみに散りばめている。


懐古的なアプローチが目立つ中、この曲は古びた感覚がない。それはスタンダードであり、またロックの核心を突いたものであるがゆえなのだ。ギターの録音のミックスもローファイな感覚が押し出され、モダンな雰囲気がある。その中にはザ・フーのタウンゼントに近いギターフレーズも見いだせる。UKロックのおさらいのような意味を持つのが上記の2曲である。ここには現代的な録音へのチャレンジもあり、ザ・スマイルが最新作『Wall Of Eyes』(リリース情報を読む)で徹底して追求したボーカルのディレイ、リバーブで、音像を拡大させるという手法も披露されている。

 

正直に言うと、コラボアルバムが発表された時、それほど大きな期待をしていなかった。それは単なる過去へのオマージュや回想の域を出ないことが予測されたからである。しかし、実際に聴いてみると、期待以上の出来栄えで、少なくとも、ローリンズ・ストーンズの『Hackney Diamonds』(リリース情報を読む)に匹敵するアルバムである。ここには、ロック・ミュージックの魅力がダイアモンドの原石のように散りばめられていて、商業音楽の理想形が示唆されている。それはやはり、分かりやすいメロディー、リズム、曲の構成という音楽を構成する基本的な要素が礎となっている。

 

最後にいうと、小さい子に聞かせることが出来ないタイプの商業音楽は、最良の選択とは言いがたい。その点、このアルバムは小さい子だって安心して楽しめる。もしかすると、犬でも猫でも楽しむことができるかも知れない。それは言い換えると、最良の音楽である証でもあるのだ。


アルバムのクローズ「Mother Nation's Song」では、他の曲では封印されていたフォークロックの雄大な性質が顕となる。 スクワイアのギターは全盛期のキース・リチャーズに匹敵し、円熟期を越え、マスタークラスの領域に達している。


リアム・ギャラガーは直近のインタビューで、若いミュージシャンが怠惰であることをやんわりと指摘していたが、このアルバムを聴くと分かる通り、どのような分野にも近道はないということが痛感出来る。少なくとも、ギャラガーとスクワイアは、今日までの道のりを一歩ずつ上ってきたのであり、その間、ひとつも近道をしようとしなかったことがわかる。彼らはいつも、正しい道を誰よりも実直に歩んできたのであり、少なくともそれは今後も同じなのだろう。

 


 

90/100 
 




Best Track 『I'm So Bored」

 


ズートンズが16年ぶりのニューアルバム『The Big Decider』を4月26日にICEPOPからリリースする。彼らは 「Creeping on the Dancefloor」に続いて、セカンド・シングル「Pauline」を公開した。ナイル・ロジャースとスタジオでレコーディングした映像も公開。試聴と視聴は以下から。


ズートンズは、デイヴ・マッケイブ(ギター、リード・ヴォーカル)、アビ・ハーディング(サックス、ヴォーカル)、ショーン・ペイン(ドラムス、ヴォーカル)。


マッケイブはプレスリリースで 「Pauline」についてこう語っている。


「数年前、バンドの休暇でパームスプリングスに行ったんだ。マッシュルームも食べたし、人生で最高の日だった。その数ヵ月後にこの曲を書いた。「Pauline」は、バンドとしてアルバムのために取り組んだ最初の曲だったから、勢いがついたんだ。この曲を書いた当時、僕はホット・チョコレートをたくさん聴いていたんだけど、それが表れていると思う。この曲はツアーでも好評で、すでにライブの人気曲になっている。"観客からのフィードバックはいつだって素晴らしい。


ズートンズは3年前に再結成し、伝説的アーティストでシックの共同創設者であるナイル・ロジャースのプロデュースによるニュー・アルバムをレコーディングする意向を発表した。


バンドはこのアルバムをアビーロード・スタジオでレコーディングし、ロジャースだけでなく、オリジナル・プロデューサーのイアン・ブルーディーとも仕事をした。


マッケイブは2人のプロデューサーとのレコーディングについてこう語っている。「ナイルとの仕事は素晴らしい経験で、レコードを作る前に感じたことのない自信を与えてくれた。彼はとてものんびりした人で、聞き上手なんだ。


「Disappear」という曲で、私はザ・ズートンズが星や銀河を旅して、宇宙で最も強力な質問である "なぜ?"を問いかけるという内容のスポークン・ワードを書いた。私はナイルに、曲の終わりの部分でそれを読み上げてくれないかと頼んだ。でも、彼は首にチェーンをかけ、サングラスをかけたままボーカルブースに飛び込んで、20テイクほど、自分自身のスタイルを変えて歌ったんだ。度肝を抜かれたよ!まるで彼が本当に宇宙船に乗って宇宙を旅していて、暇さえあれば音楽を作っているかのようだった。彼は私が今まで会った中で最もクールな人の一人だ。


「このアルバムでイアン・ブルーディーと再会できたのも素晴らしかった。彼は「Big Decider」のデモを聴いて涙が出たと言ってくれた。この曲はアルバムのために最初に書いた曲のひとつだったから、イアンからそのような反応をもらうと、自分たちが何か正しいことをしているような気がした。この曲はそれ自体を物語っていた」






 

©Ebru Yildiz

西アフリカのトゥアレグ族から登場したハードロックバンド、Mdou Moctar(エムドゥー・モクター)が三作目のアルバム『Funeral For Justice』を発表した。

 

このアルバムは、2021年にリリースされ、大ブレイクした『Afrique Victime』のリリース後、世界中をツアーした2年間の締めくくりとしてレコーディングされた。アルバムは5月3日にMatadorから発売される。


『Funeral For Justice』は西アフリカの政治的な背景が反映されている。完成後の2023年7月、ニジェールの民主的選挙で選ばれた政府は軍事クーデターにより退陣。大統領は軟禁され、国家は混乱と不安のどん底に陥った。フランスは撤退。以降、この地域はテロの脅威にさらされ続けている。当時アメリカツアー中だったバンドは、しばらくの間、家族のもとに帰ることができなかったのだ。


「もちろん、私はクーデターを支持しているわけではありません。フランスやフランス人が嫌いなわけでも、アメリカ人が嫌いなわけでもありませんが、アフリカで彼らがやっているような人を操るような政策は支持できません。2023年、私たちは自由でありたいし、微笑む必要がある」


「このアルバムは、僕にとって本当に変わったものなんだ」と、バンドのシンガーであり、名前の由来であり、そして紛れもなく象徴的なギタリストであるモクターは説明する。「今、アフリカではテロによる暴力の問題がより深刻になっています。アメリカやヨーロッパがここに来たとき、彼らは私たちを助けると言った。彼らは決して解決策を見つける手助けはしてくれないんだ」


アフリカ大陸はコートジボワールの象牙海岸を始め、ヨーロッパの列強、とりわけフランスの植民地として長年辛酸を舐めてきた。「Mdou Moctarは、私が参加して以来、強力な反植民地バンドなのです」と、2017年からMoctarで活動しているプロデューサー兼ベーシストのMikey Coltunは言う。「フランスがやってきて、この国をむちゃくちゃにし、それから "お前たちは自由だ "なんて言った。しかし彼らはそうなっていない。"Oh France "という曲は、このことに正面から取り組んでいます。フランスはその行為を残酷さのベールに包んでいるんだ」


このカルテットは、カルフォルニアのコーチェラへの出演を控えている。他にも、ヨーロッパ、イギリスのツアーを敢行する。7月3日のエレクトリック・ブリクストン、8月のEnd Of The Roadフェスティバルを含め、この夏、UKでヘッドラインとフェスティバルを行う予定だ。

 

 

Mdou Moctor 『Funeral For Justice』


 Label:Matador

Release: 2024/05/03

 


Tracklist:


Funeral For Justice

Imouhar

Takoba

Sousoume

Imagerhan

Tchinta

Djallo #1

Oh France

Modern Slaves


Pre-order(INT):

https://mdoumoctar.ffm.to/funeralforjustice

 



「Funeral For Justice」

  



・Mdou Moctor 『Funeral For Justice』 US & UK& Europe Tour

 




Sunday, April 14 Coachella, Indio CA
Sunday, April 21 Coachella, Indio CA
Wednesday, June 5 Anchor Rock Club, Atlantic City NJ
Thursday, June 6 The Abbey Bar at ABC, Harrisburg PA
Friday, June 7 Friday Cheers Brown’s Island
Saturday, June 8 Haw River Ballroom, Saxapahaw NC
Sunday, June 9 The Orange Peel, Asheville NC
Tuesday, June 11 Pour House, Charleston SC
Wednesday, June 12 Saturn, Birmingham AL
Thursday, June 13 Terminal West, Atlanta GA
Friday, June 14 Bonnaroo, Manchester TN
Saturday, June 15 The Hi-Fi, Indianapolis IN
Tuesday, June 18 Thalia Hall, Chicago IL
Wednesday, June 19 Magic Bag, Detroit MI
Thursday, June 20 Beachland Ballroom, Cleveland OH
Friday, June 21 Asbury Hall, Buffalo NY
Saturday, June 22 Green River Music Festival, Greenfield MA
Sunday, June 23 Paradise Rock Club, Boston MA
Wednesday, June 26 Warsaw, Brooklyn NY
Thursday, June 27 9:30 Club, Washington DC
Friday, June 28 Union Transfer, Philadelphia PA
Wednesday, July 3 Electric Brixton, London UK
Sunday, July 7 Down The Rabbit Hole, Beuningen NL
Monday, August 19 Festaal Kreuzberg, Berlin DE
Tuesday, August 20 UT Kreuzberg, Leipzig DE
Wednesday, August 21 Ampere, Munich DE
Thursday, August 22 Magnolia Summerstage, Milan IT
Sunday, August 25 Petit Bain, Paris FR
Monday, August 26 OLT Revierenhof, Antwerp BE
Tuesday, August 27 Paradiso, Amsterdam NL
Friday, August 30 End of the Road Festival, Dorset UK
Saturday, August 31 Manchester Psych Fest, Manchester UK
Sunday, September 1 Moseley Folk Festival, Birmingham UK
Monday, September 2 Saint Luke’s, Glasgow UK
Tuesday, September 3 Boiler Shop, Newcastle UK
Wednesday, September 4 The Brudenell Social Club, Leeds UK


Tour Ticket:(INT):

https://www.mdoumoctar.com/tour

 



イギリスを代表するミュージシャン、ポール・ウェラーがニューアルバム『66』を発表しました。新作アルバムはポリドールから5月24日にリリースされる。発表と同時にファーストシングル「Soul Wandering」を公開しました。「Soul Wandering」のリリック・ビデオは以下から、アルバムのトラックリストとジャケット・アートワークは以下からご覧下さい。

 

アルバムのタイトルは、ウェラーがアルバムの前日に66歳を迎えたことを記念して名づけられました。


ウェラーはもちろん、ザ・ジャムとスタイル・カウンシルの両方に在籍していたが、ソロとしても数十年のキャリアを持つ。『66』は、イギリスのサリー州にある自身のスタジオ、ブラック・バーンで3年かけてレコーディングされた。アルバムには、マッドネスのサグス、オアシスのノエル・ギャラガー、プライマル・スクリームのボビー・ガレスピーが作詞に参加しています。

 

Say She She、ドクター・ロバート、リチャード・ホーリー、スティーヴ・ブルックス、マックス・ビーズリーもアルバムの制作に貢献しています。サー・ピーター・ブレイクがアルバムのアートワークを手がけています。ウェラーとは1995年の『Stanley Road』以来の共同作業となった。


 

 こちらの記事もおすすめです:      ザ・スタイル・カウンシルの名曲「MY EVER CHANGING MOODS」 フォークランド紛争の時代におけるジャーナルの視点 



Paul Weller 『66』


Label: Polydor

Release: 2024/05/24

 

Tracklist:


1. Ship of Fools

2. Flying Fish

3. Jumble Queen

4. Nothing

5. My Best Friend’s Coat

6. Rise Up Singing

7. I Woke Up

8. A Glimpse of You

9. Sleepy Hollow

10. In Full Flight

11. Soul Wandering

12. Burn Out


Pre-order(INT): 

 

https://paulweller.lnk.to/66AlbumYT



「Soul Wandering」

 

©︎Alex Lockett

グラミー賞プロデューサー、ジャック・アントノフ率いるBleachers(ブリーチャーズ)が新曲「Me Before You」を発表しました。この新曲は、セルフタイトル・アルバムに収録。以下からチェックしてみよう。

 

2024年のグラミー賞で年間最優秀プロデューサー賞(ノン・クラシック部門)を受賞したジャック・アントノフは、アップルTV+の新シリーズ「The New Look」のサウンドトラックも手がけており、フローレンス・ウェルチラナ・デル・レイパフューム・ジーニアスザ・1975などが名曲のカバーを制作している。

 

今年、ブリーチャーズはサマーソニックで来日公演を行います。 

 

 

「Me Before You」

 

 

 ニューアルバム『Bleachers』は3月8日にDirty Hitよりリリース予定です。「Alma Mater」、『Tiny Moves』、「Me Before You」「Modern Girl」が先行配信されている。




 


ストロークスのボーカリスト、ジュリアン・カサブランカス擁するロックバンド、 The Voidz(ヴォイズ)がニューシングル「All the Same」をリリースしました。


この曲は、2月23日に公開される映画『ドラッグストア・ジューン』にフィーチャーされている。ご試聴は以下から。


The Voidzの最新アルバム『Virtue』は2018年にリリースされた。昨年、彼らはシングル「Flexorcist」、「American Way」、「Prophecy of the Dragon」をシェアしています。



「All the Same」

 



 

元オアシスのシンガー、リアム・ギャラガーと元ストーン・ローゼズのギタリスト、ジョン・スクワイアが新曲「Just Another Rainbow」(MV)のため、最近タッグを組んだばかりだが、2人は続いてデビューアルバム『Liam Gallagher John Squire』を正式に発表し、続いてセカンドシングル 「Mars to Liverpool」を公開した。ミュージシャンのリバプール愛が凝縮されたナンバーである。


リアム・ギャラガーは、先日、ガーディアン誌にニューアルバムの手応えについて、「”リボルバー”以来の傑作」と打ち明けたばかりだが、プレスリリースでアルバムについてこう語っている。 「アルバムを聴いてもらうのが待ちきれないよ。ストーン・ローゼズやオアシスやその手のバンドが好きな人たちは、きっと気に入ってくれると思う。スピリチュアルで、重要なのさ」


グレッグ・カースティンは、ロサンゼルスでの3週間のセッションで新作をプロデュースし、ベースも弾いている。ジョーイ・ワロンカーがドラムを叩いている。ワロンカーはライブでもバンドと一緒にドラムを叩き、ベースにはバリ・カドガン(リトル・バリー、ポール・ウェラー)が参加する。


16歳のギャラガーは、1989年にストーン・ローゼズの "人生を変えた "ギグを目撃した。ギャラガーとスクワイアが出会ったのは、オアシスが1994年にリリースしたデビュー・アルバム『Definitely Maybe』をレコーディングしていた時だった。ストーン・ローゼズと出会ったのはその4年後であった。『Liam Gallagher John Squire』はワーナーから3月1日にリリースされる。

 



「Mars to Liverpool」

 

 


リバプール出身のロック・バンド、The Zutonsは3年前に再結成し、伝説的アーティストでシックの共同創設者であるナイル・ロジャースのプロデュースによるニューアルバムをレコーディングする意向を発表した。


アルバム『The Big Decider』はICEPOPから4月26日にリリースされる予定で、バンドはリードシングル「Creeping on the Dancefloor」を公開した。バンドの今後のUKツアー日程も発表された。


ズートンズは、デイヴ・マッケイブ(ギター、リード・ヴォーカル)、アビ・ハーディング(サックス、ヴォーカル)、ショーン・ペイン(ドラムス、ヴォーカル)の3人組。


フロントマンのデイヴ・マッケイブはプレスリリースでこのシングルについてこう語っている。

 

アビがこの家に引っ越してきて、僕ら全員が自分たちの小さなバブルの中で一緒に暮らしていた時、僕らはロックダウンされている間に "Creeping on the Dancefloor "を書いた。

 

でも、みんな家に閉じこもっていて、私は携帯電話でメロディといくつかの歌詞を歌ってた。完成したらすぐにまた聴きたくなるような曲のひとつで、それはいつもいい兆候なんだ。


バンドはこのアルバムをアビーロード・スタジオでレコーディングし、ロジャースだけでなく、オリジナル・プロデューサーのイアン・ブルーディーとも仕事をした。


マッケイブは続いて、2人のプロデューサーとのレコーディングについて次のように語っている。

 

ナイル・ロジャースとの仕事は素晴らしい経験で、レコードを作る前に感じたことのない自信を与えてくれた。彼はとてものんびりした人で、聞き上手だよ。『Disappear』という曲では、ズートンズの旅についてスポークン・ワードで書いたんだ。

 

 「Creeping on the Dancefloor」



The Zutons 『The Big Decider』

 



 



The Zutons UK Tour Dates:


Fri 12 Apr – Marble Factory, Bristol, UK

Sat 13 Apr – New Century Hall, Manchester, UK

Sun 14 Apr – Wylam Brewery, Newcastle, UK

Tue 16 Apr – XOYO, Birmingham, UK

Wed 17 Apr – Leadmill, Sheffield, UK

Thu 18 Apr – SWG3 TV Studio, Glasgow, UK

Sun 21 Apr – Engine Rooms, Southampton, UK

Mon 22 Apr – Chalk, Brighton, UK

Wed 24 Apr – Pryzm, Kingston, UK - SOLD OUT

Thu 25 Apr – O2 Academy, Oxford, UK

Fri 26 Apr – Olympia, Liverpool, UK

Sat 27 Apr - Pryzm, Kingston, UK

 The Smile  『Wall Of Eyes』

 


 

Label: XL Recordings

Release: 2024/01/26



Review 


終わりなきスマイルの音楽の旅


パンデミックのロックダウンの時期に結成されたトム・ヨーク、ジョニー・グリーンウッド、トム・スキナーによるThe Smileは、デビュー作『A Light For Attracting Attenstion』で多くのメディアから称賛を得た。

 

レディオヘッドの主要な二人のメンバーに加え、サンズ・オブ・ケメットのメンバーとして、ジャズドラムのテクニックを研鑽してきたスキナーは、バンドに新鮮な気風をもたらした。1stアルバムでは、現在のイギリスのロックシーンで隆盛をきわめるポストパンク・サウンドを基調とし、トム・ヨークの『OK Computer』や『Kid A』の時期から受け継がれる蠱惑的なソングライティングや特異なスケールが重要なポイントを形成していた。いわば、レディオヘッドとしては、限界に達しつつあったアンサンブルとしての熱狂を呼び戻そうというのが最初のアルバムの狙いでもあった。

 

続くセカンド・アルバムは、表向きには、1stアルバムの延長線上にあるサウンドである。しかし、さらにダイナミックなロックを追い求めようとしている。オックスフォードとアビーロード・スタジオで録音がなされ、ロンドン・コンテンポラリー・オーケストラをレコーディングに招聘した。


オーケストラの参加の影響は、ビートルズの「I Am The Walrus」に代表されるフィル・スペクターによるバロックポップの前衛性、ラナ・デル・レイが最新アルバム『Did You Know〜?』で示した映画音楽とポップネスのドラマティックな融合、そして、変拍子を多用したスキナーのジャズドラム、ヨークが持つ特異なソングライティング、グリーンウッドの繊細さとダイナミックス性を併せ持つギターの化学反応という、3つの点に集約されている。全8曲というきわめてコンパクトな構成ではありながら、多角的な視点から彼らの理想とするロックサウンドが追求されていることが分かる。

 

このアルバムを解題する上で、XL Recordingsのレーベルの沿革というのが影響を及ぼしていることは付記しておくべきだろう。このレーベルはレディオヘッドの最盛期を支えたことはファンであればご存知のことかもしれない。しかし、当初は、ロンドンの”Ninja Tune”のように、ダンス・ミュージックを主体とするレーベルとして発足し、90年代頃からロック・ミュージックも手掛けるようになった経緯がある。

 

最近、Burialの7インチのリリースを予定しているが、当初はダンスミュージックのコアなリリースを専門とするレーベルだった。そのことが何らかの影響を及ぼしたのか、『Wall Of Eyes』は、全体的にダブの編集プロダクションが敷かれている。リー・スクラッチ・ペリーのようなサイケデリックなダブなのか、リントン・クウェシ・ジョンソンのような英国の古典的なダブの影響なのか、それとも、傍流的なクラウト・ロックのCANや、ホルガー・シューカイの影響があるのかまでは明言出来ない。


しかし、アルバムのレコーディングの編集には、ダブのリバーブとディレイの超強力なエフェクトが施されている。実際、それは、トム・ヨークの複雑なボーカル・ループという形で複数の収録曲や、シンガーのソングライティングの重要なポイントを形成し、サイケデリックな雰囲気を生み出す。


タイトル曲では、ダブやトリップ・ホップのアンニュイな雰囲気を受け継いで、アコースティックギターの裏拍を強調したワールド・ミュージックの影響を交え、ザ・スマイルの新しいサウンドを提示している。移調を織り交ぜながらスケールの基音を絶えず入れ替え、お馴染みのヨークの亡霊的な雰囲気を持つボーカルが空間を抽象的に揺れ動く。これは、アコースティックギターとオーケストラのティンパニーの響きを意識したドラムの組わせによる、「オックスフォード・サウンド」とも称すべき未知のワールドミュージックと言えそうだ。

 

それはまた、トム・ヨークの繊細な感覚の揺れ動きを的確に表しており、不安な領域にあるかと思えば、その次には安らいだ領域を彷徨う。これらの色彩的なスケールの進行に気品とダイナミックスを添えているのが、ロンドン・コンテンポラリー・オーケストラによるゴージャスなストリングスだ。そのなかにダブステップの影響を織り交ぜ、「面妖」とも称すべき空気感を作り出している。アウトロには、Battlesの前身であるピッツバーグのポスト・ロックバンド、Don Caballeroの「The Peter Chris Jazz」のアナログ・ディレイを配した前衛的なサウンドプロダクションの影響が伺えるが、このタイトル曲では、比較的マイルドな音楽的な手法が選ばれている。無明の意識の大海の上を揺らめき、あてどなく漂流していくかのような神秘的なオープニングだ。

 

 

『KID A』で、レディオヘッドはおろか、彼らの無数のファンの時計の針は止まったままであったように思える。しかし、ヨークはおそらく、「Teleharmonic」を通じて「Idioteque」の時代で止まっていたエレクトロニックとロックの融合というモチーフを次の時代に進めることを決断したのだろう。


この曲を発表したことにより、以前の時代の作品の評価が相対的に下がる可能性もある。しかし、過去を脱却し、未来の音楽へと、彼らは歩みを進めようとしている。このことは再三再四言っているが、長い時を経て同じようなことをしたとしても、それはまったく同じ内容にはなりえない。そのことを理解した上で、James Blakeの初期から現在に掛けてのネオソウルやエレクトロニック、Burialのグライム、ダブステップの変則的なリズムやビートの影響、ワールド・ミュージックの個性的なパーカッションの要素を取り入れ、静かであるが、聴き応えのある楽曲を提供している。一度聴いただけではその内奥を捉えることが叶わない、無限の螺旋階段を最下部にむかって歩いていくかのような一曲。その先に何があるのか、それは誰にもわからない。


『Wall Of Eyes』は、ポストロックの影響が他の音楽の要素とせめぎ合うようにして混在している。3曲目「Read The Room」のイントロでは、グリーンウッドのギターが個性的な印象を擁する。

 

バロック音楽とエジプト音楽のスケールを組みわせ、Blonde Redheadの「Misery Is A Butterfly」の時期の作風を思わせる古典音楽とロックの融合に挑む。しかし、最初のモチーフに続いて、「OK Computer」の収録曲に象徴される内省的なサウンドが続くと、その印象がガラリと変化する。スキナーの卓越したドラムプレイが曲の中盤にスリリングな影響を及ぼす。そして終盤でも、ポスト・ロックに対するオマージュが示される。Slintの「Spiderland」に見受けられる荒削りな音作りが、移調を散りばめた進行と合致し、魅力的な展開を作り上げている。


それに加えて、再度、ドン・キャバレロやバトルズのミニマリズムを基調としたマス・ロックが目眩く様に展開される。これらの音楽は、同じ場所をぐるぐる回っているようなシュールな錯覚を覚えさせる。それと同様に、ポスト・ロック/マス・ロックの影響を交えた曲が後に続き、「Under Our Pillows」でも、ブロンド・レッドヘッドの「Futurism vs. Passeism Pt.2」に見受けられるように、バロック音楽のスケールをペンタトニックに織り交ぜようとしている。

 

上記の2曲はロックバンドとしての音楽的な蓄積が現れたと言えるが、少し模倣的であると共に凝りすぎているという難点があるかもしれない。もう少しだけ明快でシンプルなサウンド、ライブセッションの楽しみを追求しても面白かったのではないだろうか。

 

ただ、「Friend Of A Friend」に関しては、ポップ/ロックの歴史的な名曲であり、ザ・スマイルの代名詞的なトラックとなる可能性が高い。トム・クルーズ主演の映画「Mission Impossible」のテーマ曲と同様に、5/8(3/8 + 2/8)という複合的なリズムを主体とし、The Driftersの「Stand By Me」を思わせる、リラックスした感じのウッドベース風のベースラインが曲のモチーフとなっている。

 

5/8のイントロダクションの4拍目からボーカルがスムーズに入り、その後、楽節の繰り返しの繋ぎ目とサビの前で、ワルツのような三拍子が二回続き、これがサビの導入部のような役割を果たす。そして、6/8(3/8+3/8)というリズムで構成されるサビの終わりの部分でも、リズムにおいて仕掛けが凝らされ、最初のイントロに、なぜ3拍の休符が設けられていたのか、その理由が明らかとなる。

 

その中で、さまざまな表現方法が織り交ぜられている。旧来のレディオヘッド時代から引き継がれるトム・ヨークの本心をぼかしたような詩の面白さ、ボーカルの微細なニュアンスの変容がディレイやダビングと結びつき、また、スポークンワードのサンプリングとの掛け合い、オーケストラの演奏をフィーチャーしたフィル・スペクター風のチェンバーポップが結び付けられ、最終的には、ビートルズの「I Am The Walrus」の影響下にある、蠱惑的なロックサウンドが組み上げられていく。分けても、終盤に収録されている「Bending Hectic」と同様に、ロンドンコンテンポラリーオーケストラの演奏の素晴らしさが際立っている。アウトロでは、トム・ヨーク流のシュールな歌詞がストリングスの和音のカデンツァに溶け込んでいくかのようである。

 

 

「Friend Of A Friend」 

 

 

「I Quit」でも、「Kid A」のIDMとロックの融合に焦点が絞られているらしく、二曲目のダンスミュージックと前曲のリズム的な面白さをかけあわせている。本作の中では最もインスト曲の性質が強く、主要なミニマル・ミュージックの要素は、デビュー作の内省的なサウンド、ストリングスの美麗さと合わさり、ダイナミックな変遷を辿る。表向きにはオーケストラの印象が際立つが、グリーンウッドのギターサウンドの革新性が、実は重要なポイント。従来から実験的なサウンドを追求してきたジョニー・グリーンウッドの真骨頂となるプロダクションである。そして、控えめなインスト寄りの音楽性が、本作のもう一つのハイライトの伏線となっている。

 

「Bending Hectic」は、モントリオール・ジャズ・フェスティバルで最初に演奏された曲で、アルバムのハイライトである。英国のメディア、NMEの言葉を借りるなら、「ロックの進化が示された」といえる。

 

それと同時にロックミュージックのセンセーショナルな一側面を示している。繊細なアルペジオを基調としたポスト・ロックの静謐なサウンドが続き、その後、「Friend Of A Firend」と同じようにスペクターが得意としていたストリングスのトーンの変容を織り交ぜた前衛的なサウンドへと変遷を辿る。曲の終盤では、70年代のジミ・ヘンドリックスのハードロックサウンドに立ち返り、ヨークの狂気すれすれのボーカルのループ・エフェクトを通じて、ダイナミックなクライマックスを迎える。しかし、曲の最後がトニカ(終止形)で終了していないことからも分かる通り、アルバムには、クラシック音楽のコーダのような役割を持つトラックが追加収録されている。

 

1stアルバム『A Light For Attraction』で示唆されたヨークの新しい形のバラード「You Know Me?」は、ジェイムス・ブレイクの楽曲のようにセンシティヴだ。飛行機を乗るのはもちろん、自動車に乗るのも厭わしく考えていた90年代から00年代のトム・ヨークの音楽観の重要な核心を形成する閉塞的な雰囲気も醸し出される。しかしそのメロディーには美的な感覚が潜んでいる。

 

クローズ曲では、「Fake Plastic Tree」、「Black Star」に象徴されるヨークのソングライティングの特色である「繊細なプリズムのような輝き」が微かに甦っている。それはいわば、暗鬱さや閉塞感という表向きの印象の先にある、ソングライターとしての最も美しい純粋な感覚の結晶である。最後に本曲が収録されていることは、旧来のファンにとどまらず、ザ・スマイルの音楽を新しく知ろうとするリスナーにとっても、ささやかな楽しみのひとつになるに違いない。

 


86/100




Featured Track「Bending Hectic」







トム・ヨークがイタリアの映画監督ダニエレ・ルケッティによる新作『CONFIDENZA(コンフィデンツァ)』の音楽を担当
©︎Ed Cooke


ザ・リバティーンズがニューシングル「Shiver」をリリースした。先日、アナウンスされたばかりの新作アルバム『All Quiet On The Eastern Esplanade』のカット。3月8日にリリースされるこのアルバムは、シングル「Night Of The Hunter」「Run, Run, Run」で予告されている。メンバーが出演するモノクロトーンのクールなミュージックビデオは下記よりご覧下さい。


カール:   ピーターが曲を持っていて、僕が曲を持っていて、それをマッシュアップしてコラボレーションしたんだ。


ピーター:  というのも、僕たちふたりはこの曲ができるまでずっとその場にいたからね。本当は "The Last Dream Of Every Dying Soldier "と呼ぶべきなんだろうけど、みんな "Shiver "というタイトルが気に入ったのさ。


この曲は、ストリングスの入ったメロディックなインディー・ロックのサウンドスケープの上で、2人のギタリスト=ヴォーカリストが滑らかで熱のこもった語りかけるようなヴォーカルを披露している。アレキサンダー・ブラウンが監督したMVは、マーゲートで行われる真珠のような王の葬儀を中心に展開し、前2曲のビデオに登場した人物がニュー・アルバムのスリーブ・アートにも登場している。


2015年の「Anthems For Doomed Youth」に続く新作は、3月8日に発売される。彼らは、1月24日のストックトン・オン・ティーズから始まる親密な会場を回るUKツアーでこのアルバムをプレビューする。


「Shiver」

 

 

 

レビューは以下よりお読み下さい。
 
New Album Review-  The Libertines 『All Quiet On The Eastern Esplanade』