Truth Club 『Running From The Chase』/ Review

 Truth Club 『Running From The Chase』

 


Label: Double Double Whammy

Release: 2023/10/6


Review


ノースカロライナ・ローリーの四人組、Truth Club(トゥルース・クラブ)の2ndアルバム。バンドは、内省的なスロウコア、それとは対比的なシューゲイザーの轟音を飲み込み、変則的なポスト・ロックの構成を絡めている。このアルバムの音作りは、今流行りのインディーロックバンドやアーティストの作品を手掛けるAlex Farrar(アレックス・ファーラー)によるプロデュース作。今流行りのWednesdayが好きな人はぜひともチェックしておきたいバンドでしよう。

 

バンドの音楽性は、Wednesdayに近いものがあるが、その中にも変拍子を交え、テクニカルなポストロックバンドとしての表情を見せる瞬間もある。スロウコア/サッドコアのアプローチはわずかな安寧と心地よさを与えるが、意表を突く展開力は曲を聞いた時に強い印象を及ぼす。

 

このことは、オープニング「Suffer Debt」を聴くと、瞭然ではないだろうか。トゥルース・クラブが持つスロウコアの音楽性、その裏側には同時にわずかなエモーションを持ち合わせているが、その内的な幻惑の中にバンドは長くとどまることを良しとせず、時に目の覚めるようなテクニカルな展開によって束の間の休眠を破る。アルバムのサウンドの中で繰り広げられる微妙な変化は、スタンダードなスロウコアに飽食気味なリスナーに若干の驚愕を与えることだろう。ボーカリストの感情は、遣る瀬なさや内的な憂鬱という形で、かつてのエリオット・スミスのような雰囲気を漂わせ、ボーカルラインに乗り移る。同音反復的なギターラインが物憂げなボーカルと溶け合い、気だるい午後のように、または、午後の空の向こうに立ち込める蜃気楼のように、インディーロックの核心を綿密に作り上げる。しかし、「Uh Oh」のイントロにおけるダウナーな感情は徐々に変遷をたどり、シンセのフレーズやゲット・アップ・キッズのようなエモーショナルが立ち込めると、にわかに活気づくような瞬間がある。感情は下降線を辿るのだが、リズムを強調したベースを中心とするバンドサウンドに支えられるようにして、それらのダウナーな感情はある種の催眠的な効果、あるいはアンセミックな瞬間を呼び起こす。


しかしながら、スロウコア/サッドコアというジャンルの本質がそうであるように、トゥルース・クラブの音楽性に内包される感情性は下降線を辿る一方ではない。「Blue Eternal」でのバンドサウンドは、本作で最もアグレッシヴかつ才気煥発な瞬間を見せる。上記2曲とは対象的に、Foo Fightersを基調としたアメリカン・ロックサウンドで、瞑想的なサウンドの雰囲気を一挙に打ち破る。フー・ファイが好きかどうかは別として、本曲には、アメリカン・ロックの魅力が凝縮されている。そしてバンドはそれらをシューゲイズの甘いメロディーと結びつけて、新鮮なロックサウンドとしてアウトプットしている。パンキッシュなビートも掴みどころ満載だ。

 

その後、雰囲気はするりと様変わりし、ストーナー・ロックのような雰囲気を持つサウンドにシフトチェンジを果たす。しかし、Kyuss、Foo Manchuに代表される米国の砂漠地帯の轟音ロックは、トゥールース・クラブの感性のフィルターを通すと、内省的なサッドコアに近いサウンドに変化してしまう。ストーナーからガレージ・ロックの部分を削ぎ落とし、それをスマートなロックサウンドにより彩ってみせている。好き嫌いの分かれるアプローチだろうし、また、ジョッシュ・ホームは、このサウンドに関してストーナーではないと言いそうであるが、しかし意外にも、近年のQueen Of The Stone Ageにも比する哀愁のあるロックサウンドの魅力が漂う。


アルバムの序盤では、USのロックバンドらしさが満載となっているが、中盤の「Clover」では、UKロックを下地にしたポスト・パンクサウンドへと変遷していく。現実に相対するシニカルな眼差し、そして、どことなく覚めた感性を宿しながらも、Stoogesのようなプロト・パンクの熱狂性を、サウンドの中に読み解くことはそれほど難しいことではないだろう、やがて印象は変化し、それらのシニカルでどことなく覚めたような眼差しは、Strokesに近いイメージに近づいていく。ボーカルのそれらの風刺的な雰囲気も相まってか、骨格となるバンドサウンドは、グランジに近い印象性を携えて、このバンドのオリジナリティーが組み上げられていく。そして出来上がったものといえば、The Smileのポスト・パンクの轟音性を抽出したような現代的なサウンドである。クラシカルとも称すべき複数の影響を反映させながらも、こういったモダンなロックに近づけていくバンドの技術力、そしてテクニックの高さが伺える一曲となっている。

 


 

 

 

「Exit  Cycle」は、先々週に紹介したSlow Pulp(スロウ・パルプ)と同じようなメロディーの曲線を描く。ある意味では2020年代の同時代的なみずみずしい感性がはっきりとした形で示されているように思える。ただ、男性ボーカルという面で、Phoebe Bridgersのモダンなポップ性を下地にしたインディーロックサウンドの印象が、どのように変化するのかをその目で確認してもらいたい。そして、その中には、さりげなくエモからの影響も伺え、Chamberlain(Doghouseに所属)あたりのサザン・ロックに触発されたエモ・サウンドの萌芽も見て取ることも出来る。これらの多彩なアプローチは、トム・ヨーク的な感性と結びついて、「Siphon」ではエモとポスト・パンクが合致し、アンセミックな響きを持つ一曲も生み出されている。もちろん、それはサッドコアの憂鬱的な感覚に根ざしたダウナーなインディーロックの方向性が選ばれている。

 

しかし、他方、ギターやベースには、エネルギッシュな性質が反映される瞬間があり、これが現代のロックバンドとして、どのような感じでリスナーの目に映るのかという点が最重要視されるべきだろう。これらのキャッチーさとスノビズムを併せ持つ絶妙なバランス感覚を示した後、アルバムの後半部では、彼らのスロウコア/サッドコアの一面が最も色濃く表出する。「Dancing Around My Tongue」では、Bar Italiaがメインの楽曲の合間に書くようなダウナーなサウンドを反映させている。この曲には、Televisionのようなプロトパンクからの影響も伺い知ることが出来る。そして、アルバムの序盤のインディーロック・サウンドの中に見えづらい形で織り交ぜられていたThe Doorsを思わせる瞑想性は、続く、タイトル曲の前奏曲である「Chase」にて、最も痛烈な瞬間を迎える。内的な瞑想性の中に無限に漂いつづけるかのような感覚は、シンプルなギターロックサウンドと相まって、シュールレアリスティックな印象性を呼び起こす。

 

さらに、その雰囲気は続くタイトル曲「Running From The Chase」で最高潮を迎える。Strokesなのか、Lutaloなのか、Smileなのか、それとも、Bar Italiaなのか、Truth Clubは一見したところこのすべてに属するようでいて、反面、どこにも属することのないバンドでもある。バンドサウンドの中に見られるパンク・スピリットーー独立したバンドであるという表明、あるいは彼らがいかなる機構のコントロール下にもないという感覚ーーは、ポスト・ロックの影響を鏡の様に映し出した残りの2曲「Break The Stones」「Is This Working?」ではっきりと示唆されている。

 

 

78/100