New Album Review: Sports Team  『Boys These Days』

 Sports Team  『Boys These Days』

 

 

Label: Bright Antenna & Distiller

Release: 2025年5月23日

 

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Review

 

イギリスの5人組ロックバンド、スポーツ・チームは前作でニューウェイブ/ポスト・パンク風の音楽アプローチをベースにしていたが、本作『Boys These Days』では大幅に作風を転じている。今作ではバブリーな音楽性を選び、ダンスポップ/ディスコポップ、ソフィスティポップ(AOR)、ローリング・ストーンズの『Tatto You』時代の80年代のロック、そしてソウルなど多角的な楽しさを織り込んでいる。スポーツ・チームの新しいフェーズが示された作品である。もちろん、5人組という分厚いメンバーがプロジェクトのために一丸となっているのも美点だ。

 

本作の冒頭を飾り、先行シングルとして公開された「I'm in Love(Subaru)」を聞くかぎり、最早スポーツチームに”ポスト・パンク”という常套句は通用しないことがわかる。ダンサンブルなポピュラーセンスを発揮し、サックスフォンの高らかな演奏を背景に、キーボード(ベン)、ドラム(グリーンウッド)、ベース(デュードニー)を中心に、重厚なバンドアンサンブルを構築し、アレックス・ライスのソウルフルでパワフルなボーカルがバンド全体をリードする。

 

楽曲全体のメロディアスな印象はもちろん、バンドアンサンブルのハーモニーが絶妙である。80年代のディスコ、ソウル、そしてソフィスティポップやヨットロック等を巧みに吸収し、親しみやすいポップソングに仕上げている。この曲に満ちわたる多幸感は、軽薄さで帳消しになることはない。バンドアンサンブルの集中力がこの曲を巧緻にリードし、そして、爽快感を維持させている。この曲でサビを中心に、バンドとしてのポップセンスをいかんなく発揮している。

 

前作『Gulp!』にも見いだせたスポーツチームの音楽的なユニークさは続く「Boys These Days』に受け継がれている。ポール・ウェラー/スタイル・カウンシル風のモッズ・サウンドを下地にして、スポーツ・チームらしいカラフルなダンスロックを展開する。シンセ、ボーカル、そして、弦楽器のアレンジが縦横無尽に駆けめぐり、見事なアンサンブルを構成している。 半音階ずつ下がる音階進行、それからブリット・ポップ風のゴージャスなアレンジが、この曲にエンターテイメント性を付与する。また、全体的なソングライティングの質の高さが傑出している。それを楽曲として再現させる演奏力をメンバーの全員が持ち合わせているのは言わずもがな。

 

 

このアルバムでは、副次的にソウル/R&Bの音楽テーマが追求されている。それはポップ、ロックを始めとする様々な形で出現する。「Moving Together」 はその象徴だろう。ジャクソン5やデ・ラ・ソウルのサンプリングのように始まり、ソウルミュージックの果てなき幻惑の底に誘う。その後、ロック調に変化し、ワイルドな質感を持つボーカルが全面に出てくる。続いて、硬質なギター、シンセの演奏が絡み合いながら、重層的なファンクロックが作り上げられる。


このアルバムでは歌いやすさが重視され、前作よりもはるかにサビの箇所のポピュラリティに焦点が置かれている。そして実際的に、英語の短いセンテンスとして聴くと、歌いやすく捉えやすい万国共通のサウンドが構築されていることがよくわかる。「Moving Together」のフレーズの部分で思わず口ずさみたくなるのはきっと私だけではないはずだ(実際に口ずさんだ)。この曲では、ボーカリストとしての表現力が前作よりも著しく成長したアレックス・ライスのボーカルが別人のように聞こえる。彼の声にはエナジー、パワー、そしてスピリットが宿っている。

 

 

こうした中で、ローリング・ストーンズの系譜にある曲が続いている。「Condensation」では、『Tatoo You』時代のダンスロックを受け継ぎ、バブリーな雰囲気、ブルース性、それからソウルからの影響を活かし、アグレッシヴな印象を持つロックソングを完成させている。ライブを意識した動きのあるナンバーとして楽しめる。何より前曲と合わせてR&Bからのリズムの引用や全体的なハーモニーが甲高いボーカルやストリングスのアレンジと絡み合い、独特な多幸感を生み出す。いや、多幸感というより、ロックソングの至福のひと時がこの曲には内包される。


こうした一般性やポピュラリティを維持した上で、ボブ・ディラン風のフォーク・ロックへと進む「Sensible」は、このアルバムの中で最も渋く、ペールエールのような味わい深さを持ちあわせている。ボウイ、ルー・リードのような硬いボーカルの節回しを受け継ぎ、新しいフォーク・ロックを追求している。しかし、相変わらずサビではきらびやかな雰囲気が色濃くなる。ソウルフルなライスの歌唱がバンド全体をリードし、フロントマンとしての圧倒的な才覚の片鱗を見せる。特に、2分すぎのコーラスは圧巻で、バンドの最もパワフルな瞬間を録音として収めている。この曲に充溢する抑えがたい若々しいエナジーはこのバンドの持つ最高の魅力だ。

 

『Boys These Days』の最大の魅力は、音楽的な寄り道をすことがあり、直線上には進まないことである。それは、スポーツ・チームの全体的な人生観のようなものを示しているとも言える。

 

「Planned Obsolescence」はアルトなフォークロックで、「Sweet Jane」や「Walk On Wildside」の系譜を受け継いでいる。曲の中での口笛も朗らかで和平的なイメージに縁取られている。音楽的には一つのリフレインをバンドサウンドの起点として、どのように変化していくのかをアンサンブルとして試しているように思えた。2分以降のアンセミックな雰囲気はその成果とも言えよう。さらにスポーツ・チームの寄り道は続く。「Bang Bang Bang」ではロカビリー/パンカビリー風の渋いロックソングを書いている。カントリーをベースに旧来のエルヴィス風のロックンロールを結び付ける。最近のロックバンドには乏しいロールーーダンスの要素を付加している。同じように、「Head To Space」もカントリーを下地にしているが、決して古びた印象を与えない。ボーカルのソウルフルな歌唱がバンド全体をリードし、曲にフックを与えているのだ。

 

こうした中で、ストーン・ローゼズ、ヴァーヴの系譜に属するイギリス仕込みのダンスロックでこのアルバムは決定的になる。バンガー「I'm in Love(Subaru)」をしっかりと用意した上で、終盤にも「Bonnie」が収録されていることは、アルバム全体に安心感や安定感を及ぼす。これぞまさしく、スバル・ブランドならぬ、スポーツチーム・ブランドとも呼ぶべき卓越性。結局のところは、バンドの演奏力の全体的な底上げ、ソングライティングの向上、そして何より、ボーカルの技術の蓄積がこういった聴き応え十分の作品を生み出すことになった要因なのだろう。

 

ただ、それはおそらく最短距離では進まなかったのではないかと思える。だからこそ説得力がある。全体的にはバンドとしての楽しい瞬間が録音に刻みこまれ、それが全体的な印象をファニーにしている。たとえ、バラードを書いても、スポーツチームらしさが満載である。「Maybe When We're 30」は珍しくダブルボーカルの曲で、もうひとつの重要なハイライト曲。ライブのアンコールで演奏されるに相応しい、繊細さと力強さを兼ね備えた素晴らしいクローズで終わる。

 

 

 

85/100

 

 

 


 

Best Track- 「I'm in Love(Subaru)」