New Album Review: Deb Never 『Arcade』

Deb Never 『Arcade』


Label: Giant Music

Release: 2026年5月8日

 

 

Review

 

デブ・ネヴァーは、グランジ、エレクトロ、エモ、ポップをかけ合わせたニューオルタナティヴとして近年シーンで注目を集めつつある。ガレージバンドでの音楽制作から始まったアーティストで、徐々に音楽性に磨きをかけてきた。基本的にはギターを中心とするソングライティングに根ざしている。最新アルバムは、全体的に、ポップソングに根ざした音楽性が際立つ。ただ、近年のポップアーティストと同様に、リサンプリング的な処理が施されることもある。

 

一曲目「are you out of your mind?」はアンビエント風のシークエンスで始まり、その後、心地よいインディーポップソングへと移行していく。未知のリスナーに語りかけるかのようなボーカルが特徴で、それらがこのアーティストのルーツでもある教会音楽のようなゴスペル風のサウンドがメインである。それらをヒップホップ風のブレイクビーツのビートが牽引していく。またシンセストリングスがリズム的な効果を発揮し、全体的なグルーブのようなものを形成していく。現代的なポップソングといえば、それまでだが、その音楽には静かに耳を傾けるべき何かがある。例えば、全体的にはヴァースとサビの対比で構成されるが、サビのフレーズでは美麗なストリングスに導かれるようにして、精妙な音楽性が立ち上ってくることがある。また、現代的なポップネスを踏襲しつつも、バロックポップのような旋律が光るタイトル曲は素晴らしい一曲である。カーペンターズのようなメロディセンスを、ヒップホップやチルウェイブ、あるいはローファイのようなリズムと結びつけ、モダンなポップソングを抽出している。この曲の優しげで包み込むようなボーカルは、アルバムの序盤の聞き所となるに違いない。

 

Deb Neverのサウンドはエモポップとも称されることがある。「Blue」のような曲は、シンセ・ポップのような音楽性に導かれるようにして、どことなくエモーショナルな雰囲気が立ち上る。現代的な西海岸のヨットロックのような音楽性を踏襲し、それらをセンス溢れるサウンドに仕上げている。 また比較的アップテンポな音楽性だけではなく、ネオソウルのように静かで聴かせる箇所も含まれている。こういったメリハリのあるソングライティングが本作の魅力でもある。ローファイの音楽性を、ギターロックの観点から解釈した「all the time」も独特なデモソングのような雰囲気を放つ。しかし、一貫して心地よい感じのソングライティングが続く。

 

アルバムの中盤には、「Design」と称されたピアノバラードも収録されている。基本的にピアノとユニゾンで紡がれるボーカルはセンチメンタルな響きがある。また、オートチューンを通過したインディーポップソングをバラードソングという旧来のスタイルと融合を図った一曲でもある。「i need more」はアルバムの一曲目と同様、アンビエント風のシークエンスからフォークポップへと移行していく。 アコースティックギターをミュージック・コンクレートのように配し、そしてコラージュ的なボーカルをメインボーカルと並置したりしている。こういった曲は、今や2020年代のポップソングには不可欠な王道の音楽性になりつつあるのを感じる。

 

このアルバムではシンセポップの音楽性がこういったモダンなベッドルームポップに紛れ込んでいる。「Another Life」のような曲は、Deb Neverのメロディの側面のセンスが遺憾なく発揮された瞬間である。 テクノのようなリズムトラックに、Ashnikkoのようなキュートなインディーポップサウンドが乗せられる。現代的なポップサウンドの象徴とも言える曲である。また、西海岸のヨットロック/チルアウト的なサウンドは「Heavensake」で最高潮に達する。風景的なロマンティックな雰囲気は『Arcade』の象徴的なサウンドと言える。また、この曲には、ジャズ/ファンクの要素が付加されている。ボーカルだけではなくベースにも注目したい。アルバムのベストトラックは、タイトル曲とならんで、「Not In Love」ということになるだろう。ヨットロックのようなサウンドとDeb Neverの持つギターロックのセンスが融合した、聴き応え十分の曲となっている。

 

 

あえて核心から外し、少し本題から遠ざかるようなインディーポップサウンドが主な特徴である。こういったぼかしたような抽象的なサウンドもまた、現代的なアーティストの主題でもある。また、Deb NeverはR&B風のポップサウンドに傾倒することもある。アルバムの最後を飾る「KNOW ME BETTER」はシンガーとしての本格的な存在感を感じさせる力強い楽曲である。

 

 

78/100 

 

 

「Not In Love」

 

 

LISTEN/STREAM : Deb Never 『Arcade』