Weekly Recommendation  Lande Hekt 『House Without A View』 

 Lande Hekt 『House Without A View』

 


Label: Get Better Records

Release: 2022年9月23日


 

Review


 今週の一枚としてご紹介するのは、元、マンシー・ガールズのメンバーとして知られるランデ・ヘクトの三作目のスタジオ・アルバム「House Without A View」となります。

 

ソロ・デビューを飾る以前、イギリスのパンクロックバンドに属し、このバンドのフロントマンとしても活動していたランデ・ヘクトは、バンドとしては政治的なメッセージを込めてソングライティングを行っていたという。

 

しかし、19年にデビュー作「Gigantic Dissapointment」、さらに、翌年に2ndアルバム「Going to Hell」をリリースするうち、次第にパワー・ポップ寄りのインディーロックに方向転換を図るようになり、最近ではスコットランド、グラスゴーの1990年代のギターロック/ネオアコースティックを彷彿とさせるオルタナティブロックを音楽性の中心に据えるに至る。また、他にも、ランデ・ヘクトの楽曲は、The Wedding Present,The Replacements,The Sunday,Sharon Van Etten,Sleeper等のアーティストが引き合いに出される場合もあるようです。


 

今年の始め、7インチ・シングルとしてリリースされたパワー・ポップ/インディーロックの名曲「Romantic」は、残念ながら、このニューアルバム『House Without A View』には収録されませんでしたが、上記のシングルの音楽観を引き継いだ、親しみやすいインディーロックが繰り広げられる。さながら、それはこのアーティストの深い内面の世界が描かれているようでもある。

 

オープニング・トラック「Half With You」、3rdトラック「Cut My Hair」で、シンプルな8ビートのインディーロックソングを提示することにより、ランデ・ヘクトは初見のリスナーのみならず、耳の肥えたリスナーの心を惹きつけてみせる。さらに、このアーティストの内面を赤裸々に告白した4thトラック「Gay Space Cadets」を始めとする楽曲では、若い時代からの自身の人生における、ジェンダーとの真摯な向き合い方、世間のマイノリティーとして生きる姿を、親しみやすいインディーロックとして反映させていることにも着目しておきたい。


アルバムの序盤において、ランデ・ヘクトは、スコットランド・グラスゴーの1990年代に隆盛したギター・ポップの系譜にあるノスタルジックなインディーロックソングを提示している。これらの楽曲は、内的感情から汲み出されたものであるため、リスナーの共感を誘うものとなっている。次いで、中盤から、序盤の力強い印象を持つ楽曲とは対象的に、落ち着いた牧歌的なインディー・フォークが展開される。さらに、終盤になると、個人的な出来事にテーマの焦点を絞り、家の飼い猫との繊細な出来事を描いた「Lola」を始めとする、爽やかなギターロック/ネオアコースティックの方向性に回帰していきます。

 

このレコードは、パンクバンドのフロント・パーソンとしてのルーツを伺わせるもので、たしかに、荒削りな部分もあり、現時点では音楽性の引出しの少なさという難点を抱えているのは事実ではありますが、何かソングライターとしてのセンスにキラリと光るものがあるだけでなく、以前の自己から脱却し、新たな姿に生まれ変わろうという、このシンガーソングライターのささやかな成長の過程も感じ取られます。


イギリス、エクセター出身のランデ・ヘクトは、ソングライターとして、自分の存在の価値をしかと認め、それをこの作品に音楽的な表現として真摯にパッケージしようと試みているのが素晴らしい。ランデ・ヘクトは、マイノリティーとして生きることがどういうことであるかを、温和な形で自然に表現しようと努めており、この素朴な表現性に、深く心打たれるものがあります。3rdアルバム『House Without A View』の全編には、総じて、そういう作者の意図もあってか、やさしく、温かく包み込むような、曰く言いがたい不思議な雰囲気が漂っています。

 

 

85/100


 

Weekend Featured Track 「Half With You」

 

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