University 『McCartney, It'll Be OK』
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Label: Transgressive
Release: 2025年6月20日
Review
英/クルーを拠点に活動する四人組パンクバンド、Universityの新作 『McCartney, It's OK』は彼らのデビュー・アルバムである。デビュー・アルバムということで、無謀でハチャメチャで大胆なパンクソングのアプローチが図られている。彼らのなんでも出来るという感覚は、このデビュー作の最大の武器だろう。それらが、苛烈であるが、無限のエナジーに縁取られている。エキサイティングで、アグレッシヴ、そして先の読めないハードコアタイプのパンクアルバムだ。
Universityのサウンドは、イギリスのバンドでありながら、アメリカのミッドウェストのサウンドに触発されている。このデビュー作において、四人組の志すところは、ポスト・ハードコア時代のエモであり、それはボーカリストのジョエル・スミスも明らかにしている。 彼らのサウンドは、American Footballの前身で、キンセラ兄弟を擁するCap N' Jazzのようなアンダーグランドのエモに縁取られているが、一般的なエモよりもヘヴィーな重力があることはおわかりだろう。
力強く打数の多いドラム、音を過剰なほど詰め込むギター、それに付随するベースが作り出す混沌として幻惑的なサウンド。その向こうにインディーズらしいラフなボーカルが揺らめく。それらはポストエモがイギリスの新しいインディーズミュージックの重要なイディオムであることを伺わせる。
このアルバムは、青いエナジーを凝縮させ、無謀なほどに邁進する次世代の四人組の姿を、スナップショットのような形で収めている。それは例えば、シカゴのライフガードのように洗練されたものとは言い難いが、彼らと同じように、人生の瞬間的な輝きを、ロックソングの中に凝縮している。全体的な曲想は重要ではなく、瞬間的に現れる感覚的な良いエナジーを汲み取れるかが、今作の最大の聞き所となるかもしれない。ラウドであることを恐れず、叫ぶことを恐れない。この精神は、彼らが見てくれの音楽を志すのではなく、心底から湧き出る音楽を率直に表現しようとしていることを伺わせる。コーラスも練習不足を感じさせるが、その荒削りなボーカルがラフな魅力を作り出している。不協和音とノイズを徹底的に全面に押し出したサウンドは、たしかにノイジーであるが、その向こうに、うっすらとセンシティブなエモが鳴り渡る。
ダイヤルアップの音から始まり、カオティック・ハードコアの獰猛性へと突き進む「Massive Twenty One Pilots Tattoo」で、彼らは挨拶代わりのジャブを突き出す。そして、ストップ・アンド・ゴーを駆使した嵐のように吹き荒れるノイジーな轟音サウンドの中、無謀とも言えるジョエル・スミスのボーカルが、わずかにエモーショナルな感覚を滲ませる。ダイナミックなサウンドであり、大型のライブ会場よりも、スタジオライブや小さな会場で少なからず熱狂の渦を生み出しそうな気配がある。そういったスタジオレベルでのコミュニティを意識したサウンドがアルバムの代名詞となっている。
一方、バンドアンサンブルの一体感を表した「Curwen」に少なからず期待値を見いだせる。轟音サウンドの後、エモ的な静かで奥行きのあるサウンドへ移行し、さらに変拍子を駆使して、変幻自在な音楽性へと移行していく。その後、再び疾走感のあるポスト・パンク・サウンドへと舞い戻る。これらの獰猛なサウンドは、Bad Brainsのような最初期のDCハードコアを彷彿とさせる。
「Gorilla Panic」は、 即興的なノイズサウンドの後、米国のミッドウェスト・エモに移行する。前のめりな勢いで、ドラムに先んじて他のパートの楽器が前につんのめるように演奏しているが、これらの内側から滲み出る初期衝動こそパンクロックの本意とも言えるだろう。この曲がゴリラ・ビスケッツに因んだものなのかは不明だ。ただ、スミスのボーカルは背景のアンサンブルのダイナミクスに引けを取らず、異質なほど迫力がある。3分半以降のエモーショナル・ハードコアの目眩く展開には感嘆すべきものが込められている。これらは、ユニバーシティの音楽が、シカゴのCap N' Jazzのエモの原点に接近した瞬間でもある。(* エモの歴代名盤セレクションはこちら)
ユニバーシティは、パンクにとどまらず、メタルコアに傾倒する場合もあるようだ。「Hustler's Metamorphosis」は脳天をつんざくようなハードなサウンドだ。2000年以降のニュースクールハードコアのメタルを踏襲し、重力を感じさせるヘヴィーなサウンドで縁取っている。ユニバーシティのサウンドは縦ノリのリズムだけが特色ではない。2分以降に現れる横ノリのリズムは、モッシュピットを引き起こし、熱狂を呼び起こしそうだ。内的で鋭いエナジーを持つパンクサウンドはメインストリームに飽食しきったリスナーに撃鉄を食らわすかのよう。これらのカオティック・ハードコアサウンドには稀に、CANのような実験性を見いだせることもある。
さて、ポストエモの楽曲「GTA Online」は、スタジオのジャムをそのまま楽曲にパッケージした感じ。作品として作り込みすぎず、一発録りのラフなデモソングのような感じでそのまま録音するというのが、デビューアルバムの主な指針であることを伺わせる。それはまた、商業的な指標とは異なる音楽の悦楽をはっきりと思い出させてくれる。これらの荒削りな音楽は、バンドセッションとして深い領域に達する場合がある。
この曲の2分以降の展開には、即興的な演奏からしか引き出されない偶発的なサウンドが見いだせる。2分後半以降、ジョエル・スミスのボーカルは絶叫に近くなるが、感覚的には温和な空気感が漂う。このプロフェッショナリティとは対極にあるアマチュアリズムが現時点のバンドの魅力だ。同じように、「Diamond Song」にも激情ハードコアの魅力が3倍増で濃縮されている。
終盤を飾る「History Of Iron Maiden 1-2」はどうだろう。未完成のデモをそのまま収録したような感じだ。これらの2曲にはバンドの趣味が満載となっており、それらがノイズをベースに構築される。エモ、ハードコア、ゲームのチップチューン、即興的なアートパンク……。このアルバムでは何でもありで、タブーのようなものは存在しない。先の見えない暗闇の中、音楽でしかなしえない禁忌を探る。彼らのサウンドには、音楽の無限性のようなものが潜在的に眠っている。
Best Track - 「Gorilla Panic」