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Pain Gainは、オーストリア出身の新進気鋭のエレクトロポップグループで、クロエ・カウル(Kllo)、ハミッシュ・ルフェーブル(SWIM)、サミュエル・クック(CRUSH3d)による新たなコラボレーション・プロジェクト。モジュラーシンセを織り交ぜた新感覚のポップサウンドが特徴である。
Pain Gainは、セルフタイトルの制作を機にそれぞれの確立されたエレクトロニック・ミュージシャンとしてのアイデンティティから意図的に距離を置くことから始まった。彼らはギター、モジュラーシンセ、テープレコーダーを車に積み込み、オーストラリア南部の海辺の森へと籠もった。1週間にわたる隔離生活の中で、当初は単なる逃避だったものが、はるかに深遠なものへと変化していった。それは、サウンドと制作プロセスそのものを根本から再構築する体験だった。
痛みには教訓があり、さらには変容をもたらす力さえある――というこの哲学は、ペイン・ゲインの作品全体に貫かれている。触覚的で不完全な制作プロセスを積極的に取り入れ、バンドはワンテイク録音やアナログによる実験、そしてミスから生まれる偶然の美しさを重視した。楽曲は有機的に生まれ出た。キッチンでの会話の中に漂うメロディー、深夜の思索によって形作られる歌詞、そして生き生きとしたスタジオと化した家の中で部屋から部屋へと滲み出るアイデア。
インディー・ロックの激しさと壮大なポップ・バラードの間を自在に行き来するこのトリオは、ジャンルの枠に囚われることなく、感情の真実を追求している。本作全体を通じて、ボーカリストのクロエ・カウルは心に深く刺さる歌詞を歌い上げ、個人的な激動を揺るぎない誠実さで掘り下げている。一方、バンドの協働的なダイナミクスにより、特定の声が支配することはなく、各メンバーが同等の重みと意図を持って音楽を形作っている。それは、3つの異なる声が、脆弱さと共有された経験の中で一体感を見出している。
アルバムの注目のトラック『Turning Point』は、その形成期のセッションで最初に完成した楽曲であり、このプロジェクトの感情的かつ音響的な基礎となっている。不気味で渦巻くようなシンセと、メトロノームのように安定したビートを基盤に、どん底と向き合うカウルの魅惑的なボーカルを際立たせている。この楽曲のミュージックビデオは、バンドによって2部構成として構想され、映画監督のジョーイ・クラフとアンジー・キルズビーが監督を務めた。これは、「戦うか、それとも逃げるか」という決断が分岐する二つの道を映し出している。オーストラリア南部で2日間にわたって撮影されたこのミュージックビデオは、ペイン・ゲインのビジュアル・ストーリーテリングを率直かつ生々しく初披露するものであり、このデビューシングルの幽玄で、ほとんど幽霊のようなサウンドを豊かに生き生きと表現している。この曲は断絶について歌ったものであると同時に、明快さについても歌っている。バンドは次のように説明している。
「『Turning Point』は、すべてが変化する瞬間に立ち向かうことについて歌った曲です。私たちにとって、それは新しい制作方法、新しいサウンド、そして新しい感覚の発見でした。この曲を初めて作った時、3人で何時間も繰り返し聴き続けました。これを世界への最初の贈り物にしたいと、ずっと前から決めていたのです」
Pain Gainのメンバーは、それぞれ個々としても世界的に確固たる音楽的な評価を確立している。ボーカリストのクロエ・カウルは、Klloの片割れとして世界的な称賛を獲得し、数百万回に及ぶストリーミング再生回数を記録、米国、英国、ヨーロッパ、アジアで大規模なツアーを行い、Pitchforkをはじめとするメディアから称賛を受け、BBC Radio 1のサポートも得ている。また、増え続けるソロ作品を通じて、自身の音楽世界を拡大し続けている。
ハミッシュ・ルフェーブルは、SWIMとして世界的な名声を築き上げてきた。エレクトロニック・ミュージック界の独立系アーティストとして、リリースはARIAダンス・チャートやビニール・チャートで1位を獲得し、メルボルンのフォーラム・シアターからロンドンのKOKOに至るまで、象徴的な会場を次々とソールドアウトさせ、絶え間ないツアー活動と豊富な作品群を通じて世界中に熱狂的なファン層を築き上げてきた。
さらに、サミュエル・クックは、CRUSH3dとして、オーストラリアのクラブミュージックの新潮流を代表する存在として台頭している。彼の特徴的なプロダクション、オーストラリア、アジア、ヨーロッパ各地での完売ツアー、そしてインパクトのあるリリースと予測不能で必見のライブセットによって築き上げられたカルト的な評判で知られている。
Pain Gain 『Pain Gain』- PIAS
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オーストラリア出身のインディーポップグループ、Pain Gainの最新作は、一言ではいいあらわしがたい不思議な魅力を持つアルバムとなっている。そのサウンドは憂いや不安の領域から徐々に羽ばたいていき、より明るく晴れやかな領域へと向かうプロセスが描かれているかのようだ。このバンドの音楽は、2020年代のニューウェイブが現代的なアプローチで展開される。
アルバムはある種の憂鬱感を表すかのようなアコースティックギターとボーカルを中心とするオープナー「Only Nothing」で幕を開ける。全体的なサウンドのテイストとしてはドリームポップの雰囲気も感じられる。ペイン・ゲインは、コクトー・ツインズのようなサウンドを2020年代の現代的なポップソングの形に置き換え、このジャンルが決して古びたわけではなく、現代にも通じるなにかがあることを示す。しかし、オセアニア圏にちなんで言えば、Fazerdazeのようなドリームポップの範疇にあるサウンドは、いかにもインディーズな感じがするアコースティックギターのリズム的な影響を受けながら、ふんわりとして心地よいウンドを導き出す。
実際に聴いてみるとわかるように、全体的にはシューゲイズ風のサウンドの影響が捉えられる。しかし、旧来のドリームポップの形に現代的な印象を添えるのがエレクトロポップの打ち込みのビートであり、これが曲全体に迫力と脈動のような規則的なパルスを添えるのである。ボーカルのクロエ・カウルは、Klloというエレクトロ・ポップのデュオとして活動してきたことから分かる通り、これらのインディーポップのアプローチにどんな主旋律を歌えば良いのか経験則で把握している。まるで海の中を漂うかのようなアンニュイなボーカルは間違いなく、ペイン・ゲインというプロジェクトの重要なアクセントになっていることがわかるとおもう。曲の初めは落ち着いた静かなサウンドであるが、中盤からはロック寄りの激したサウンドへと移り変わっていく。これらのダイナミズムの変化についてもぜひ聴く上で確認してみてもらいたい。
オーストラリアのバンドは全般的にカルフォルニアのような雄大さを思わせるサウンドが滲み出てくることがある。「The Fame」は同じように現代的なインディーポップやドリームポップの普遍的なアプローチを通じて、どことなく雄大な感じを持つ楽曲に昇華されている。ペイン・ゲインの音楽は、どこかで聴いたことがあるような既視感もあるが、オートチューンなど現代的なプロデュース/マスターの手法を通じて、ボーカルのピッチや音階を暈しつつ、揺れ動くような流動的なボーカルの旋律を作り上げている。これらが楽曲全体に遊び心をもたらし、このトリオ特有の浮遊感のあるふんわりとしたサウンドにアクセントを付け加える。アルバムの冒頭は暗鬱とした感じで始まるが、少しずつ明るさが差し込んでくるような印象をもたらす。
「The Fame」
これらの人間的な感覚を的確に音楽性に落とし込む力にも注目しておきたい。ボーカルのフレーズにも親しみやすさがあるほか、アコースティックギターによるリズム、そしてオーケストラヒットのような壮大なドラム、そしてダンスミュージックの範疇にあるエレクトロポップのビートと重なり合い、まさしくエレクトロポップトリオとしての協和的なサウンドが生み出される。これらの曲を聞く限り、このトリオはリズムやビートを最優先しながら、メロディーを乗せ、つかみどころのある、俗に言われるフックのあるインディーポップサウンドの醸成する。こういったサウンドは、例えば以前、MEWのようなグループが得意としていて、北欧のエレクトロ・ポップとして親しまれていたが、現在はまた少し違ったサウンドが台頭してきている。
こういった中で、ペイン・ゲインに大きな可能性を感じさせるのが、目の覚めるような楽曲を書き上げる力量を持つという点である。「Turning Point」は、イントロから何かを感じさせ、興味をひきつける。イントロはシンセのアタックから音が引き伸ばされ、それが持続していく。一見すると、なんの変哲もないフレーズのように感じられるが、これらは続くボーカルの入る箇所の導入部となっているだけでなく、楽曲全体の構造を巧みに引き出すことに成功している。例えば、音楽的なアプローチとしては、Nation of Languageにも似ているが、ユーロビートやレイヴのようなヨーロッパのEDMのシンセサイザーのパッドの出力の影響を交えて、なにか賛美歌やコラールのような荘厳な趣を持つポップサウンドを導き出す。EDMというと、一般的にノイジーな印象を抱くかもしれないが、この音楽の持つ静けさという側面に焦点を当て、ボーカルメロディーを強調し、全体的に聞かせるポップソングを生み出しているのが見事である。
「Turning Point」
ペイン・ゲインは、琴線に触れるような叙情的なメロディーを書く才能があり、それらがダンスミュージック的なアプローチと合致し、新しい時代のダンス・ポップ/エレクトロ・ポップの形が導き出されている。特に速いBPMを避けて、ゆったりとしたテンポを活かしながら、メロディーに配慮している。リズムの使い方も素晴らしい感じで、多次元的なリズムを打ち込みで織り交ぜながら、単調なサウンドを遠ざけ、メロディーと連動しながら飽きさせないサウンドを作り上げている。これらは以前のバンドでの経験が生きてきたという感じで、つまりこのグループのメンバーは、熟練した音楽家のように、出すべき音とそうでない音を熟知しているのである。結果、生み出されたインディーポップの黄金率はアルバムのハイライトを形作っている。
新旧問わず、全般的なポップグループやソロシンガーにとって、フルアルバムを制作する上で避けられないのがバラードソングを書く力量である。アップテンポな楽曲の間にある癒やしのようなポイントを作れるかが、ヒットアルバムの重要な指針であるように思われる。ペイン・ゲインはアルバムの中盤において、バラードを2つ(3つ)用意し、全体的なサウンドにアクセントを加える。しかし、その”聞かせるバラード”という点でも、音楽的なアプローチはそれぞれ異なる。「Idol」は、まるで映画のワンシーンで流れるような見事なバラードソングで、印象的なシークエンスを設ける。ピアノとシンセサイザーを中心とする良い旋律が満載で、スター歌手としてのオーラも漂う。現代的な2020年代のポップソングの基本形を踏まえながら、最適解というべきか、多くの音楽ファンに親しめるようなバラードソングを見事に制作している。
メインとなるボーカルに対して、ピアノの伴奏が出てくるとき、慈しみや優しさのような感情が溢れ出てくる。音楽が人間の感情やエネルギーを表すものという基本的な形を表している。一方で、「Prizefighter」はアンセミックな雰囲気があり、国家的な象徴性を持つバラードである。
一般的な歌手とクロエ・カウルという歌手の何が違うのかというのはわからない。しかし、ここでは、80年代以降からのR&Bの名歌手のような堂々たる雰囲気を持つ歌い方を用いて、背景となるエレクトロ・ポップやアンビエント・ポップのような抽象的な音楽の構成や枠組みを通し、見事なポップソングに昇華している。そして重要なのは、アルバムの冒頭から何らかの人生の流れのようなものが感じ取られ、憂いや不安やおそれのような領域を離れていき、より明るく清々しいような領域へと近づいていく。この曲を聴いていて感じるような雄大さや清涼感、広がっていく感覚、これこそ、現代的なポップソングに不可欠な内容になるかもしれない。何より、音楽的な効果として、聴いていると勇気付けられるような感覚があるに違いない。
「Kennety River」は一見して、ここ数年のポップアルバムのトレンドである普通のインタリュードや間奏のように思えるかもしれない。ところが、この曲はオーストラリアの自然や暮らしのような箇所を象徴する。それはまたPain Gainとしての符号や象徴にもなっていることがわかる。
短い会話のサンプリング、アンビエント風のアプローチを通して、オーストラリアの自然豊かな雰囲気を音楽的な記録として残そうとしているようにも思える。これらは実際聴いていると、清涼感があり、清々しい大気を感じるような雰囲気に満ちている。ロンドンともゆかりのあるペイン・ゲインは、ここでオーストラリアの空気感を上手く伝えている。また、それはボーカル/コーラスとピアノ、シンセというこのトリオらしいやり方で作り上げられる。その流れを引き継ぐような形で、「Got In My Way」が収録されている。この曲もまた、単に音楽を制作するという視点にとどまらず、人生の側面を何らかの形で反映させることに成功している。タイトルに象徴されるように、アンビエント・ポップやエレクトロ・ポップの形を通して、その人なりに掴んだものや手応えのようなものを音楽という無形の形で的確に落とし込んでいるのである。
再びインタリュードとして登場する「Every Other Step」は、オルガンの音色を用いた次の曲の呼び水。徐々に高揚するような感じで期待感を盛り上げ、次はどうなるという興味をもたらす。その期待に違わず、聴き応えのある2曲が続いている。「Something In The Air」はエレクトリック・ピアノを用いたポップソングで、ネオソウルのようなジャンルからの影響も捉えられる。ここでは、憂いのあるボーカルのメロディ、そしてテクノ的なリズムの効果、ゴスペルのようなR&Bのジャンルからの影響を織り交ぜて、このトリオにしかなしえない独創的な形を提示している。それはまたロンドンの音楽とも、ニューヨークの音楽とも、やはりアジアの音楽とも異なる''オセアニアのポップ''の形が確立された瞬間でもある。これらの主要な音楽地域の音楽を巧みに吸収しながら、新旧のポップソング、ダンス・ミュージック、R&Bなどを訪ねながら、2020年代後半にふさわしいポップソングの形が生み出された、といえるかもしれません。
ちょっと誇張的な表現になってしまったかもしれませんが、『Pain Gain』が何度も聴くに値する作品であることは最後の曲を見ると瞭然でしょう。「Dead Dog Dream」は、近未来的な趣を持つポップソングで臨場感を盛り上げている。ダンスミュージックをどのような形でポップソングに落とし込むかという、このバンドのおそらく、数年の試行錯誤の結果が滲み出た瞬間でもある。そして、それはアルバムの冒頭とは異なり、音楽的にとどまらず、人間的な前進を感じさせる。この曲にもまた、Pain Gainらしいかっこよさが所々に感じられる。デビューアルバムだと思いますが、セルフタイトルの印象に違わず、力感のある素晴らしい作品になっています。
86/100
「Dead Dog Dream」
・Pain Gainによるセルフタイトルアルバムは本日PIASより発売。ストリーミングはこちらから。


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