ポップアートとアンダーグラウンド THE VELVET UNDERGROUND,NICO 「The Velvet underground &Nico」

The Velvet Underground「The Velvet Underground」


ご存知、今では、その音楽自体よりもはるかに有名な印象のあるアンディー・ウォーホールが手掛けた通称、

”バナナ・アルバム”です。

 
ヴェルヴェット・アンダーグランドというバンドは、あまりに前衛的で先鋭的な音楽性ゆえ、一部の音楽愛好家しかリアルタイムではその真価を評価しなかったともいわれる伝説的な名盤。
もちろん、このアルバムは、聴いてよし。もしくは、部屋にポップアートの絵画のように飾ってもよし。言わば、音楽とアートの両極面の性格をバランス良く併せ持ったアルバムといえるでしょう。

このヴェルヴェッツという存在を唯一無比とたらしめているのは、やはり、ルー・リードという存在と、そして、ゲスト参加的な関わり方をしているニコの二人の個性が上手く合わさり、このバンドの表側の顔のようなものを形作っているところによるでしょう。
ルーの歌というのも、全体を通して、”ポエトリー・リーディング”のように、詩を朗読するように歌われていて、クールでシニカルに語りかけるような声質。それとは正反対の情緒的ではあるが、モデルらしいスタイリッシュな印象のあるニコの声質が合わさることにより、このバンドの音楽性を独立なものとしています。
そこに、ジョン・ケイルのエレクトリックビオラの奇妙な民族音楽風の響きと、粗いドラミングが合わさることによって、独特の風味を持った楽曲が生みだされていく。これは、ファクトリーという音楽工房で気の遠くなるような回数のリハーサルを繰り返したからこそ生み出された賜物といえ、ここでは、フリージャズ的な遊び心あふれるセッションの延長線上にあるような音楽性、非常におもしろい性格を持った珍しいロックミュージックが奏でられているわけです。

 
このファーストアルバムは、それぞれの持ち味を持った個性的な楽曲で埋め尽くされています。
このアルバム中で、最も秀逸な永遠のヒットナンバーともいえるのが、「Sunday Morning」でしょう。日曜の朝の起き抜けのような感覚、そこに満ちる穏やかな風景、オルゴールの優しげな音色、ルー・リードのあたたかく包み込むような歌声、これらの味が合わさって、なんとも甘美な雰囲気に満たされ、聞き手は、その穏やかな世界にずっと浸っていたいように思うことでしょう。
「Heroin」や「European Son」の曲の終わりにかけて展開されていく狂気的なフレーズに代表される難解といわれる曲も、どことなく同じような退廃美を十二分に体感できます。つまり、本来醜いはずのものを美しく見せようとする新たな音楽の形式の可能性が、このアルバムには示されていて、美という概念に対する飽くなき探求心が感じられるという点で、「耽美派の音楽」に位置づけられるのかもしれません。
 
彼等の楽曲には、ポピュラー性を有しながらも、普通の人が敬遠していしまいがちな危なげな雰囲気に充ちています。
しかし、その中にも、楽曲のメロディ自体はとても親しみやすく作られていて、そこがこのファーストアルバムの息を長くしている要因と思われます。
そして、ルー・リード一人だけだといささか粗野で素っ気ない印象を与えかねないこのアルバムに異なる彩りをくわえて、華やかにしているのが、ファッションモデルを務めていた”Nico”という存在でしょう。 
彼女がルーの担当するトラックの合間にスタイリッシュに歌うことにより、「Femme Fetale」や「All Tomorrow's Parties」のような楽曲で真価を発揮し、このアルバムに彩りある華をそっと添えています。
これらの楽曲の特徴にそれとなく垣間見えるのは、ボブ・ディランの奏でるようなフォークから、ビートルズやストーンズが奏でそうなポップソング性でしょう。
 
そして、現代音楽や、マイルスの奏でるようなニュージャズ的性格を持った実験音楽にいたるまで、実に音の多彩さという面では、現在においても他のバンドはまるで追随できないほどの高い完成度と言えます。
しかも、そういった多様性というのは、一貫した”退廃美”という概念によって貫かれているので、全くちぐはぐな印象にはなっていません。各トラックの音作りのバランスが絶妙なバランスによって保たれているため、アルバムを通して聴くと、全体の構成が非常に引き締まっている印象を受けます。
 
不思議なことに、他の音楽に慣れ親しんだ後に、しばらくしてまたベルベッド・アンダーグランドのこのバナナアルバムに戻ってくると、やはり、聴き応十分の曲ばかりで埋め尽くされているという印象をうけ、このアルバムが只のこけおどしではなく、長い年月の風化にも耐えうるような珠玉の名曲で占められているのにあらためて気付きます。
 
聴くたびに、このアルバムのそれまでとは異なる発見があるのに驚かずにはいられなく、それは深い示唆にとんだ名作古典文学を歳を重ねてから再読するのと同じようなもの、何度聴いても唸らざるをえない”何か”が込められている気がしてなりません。
 
 
このファーストアルバムだけは、何度聴いても、そのたび新たな発見があり、およそ音楽らしからぬ哲学的な性格を帯びているといえます。
最後に、ひとつだけ、忘れてはならない点を挙げておくなら、このヴェルヴェットアンダーグラウンドのファーストアルバムに貫かれている気風の中に、NY独自の音楽文化、パンクロックだけにとどまらず、ヒップホップまでにも通じる、”既成概念に対するクールな反骨精神”の源流がはっきりと垣間見えることでしょう。

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