ECM Catalogue  Enrico Rava イタリアンバラードを紡ぎだす名トランペット奏者

 Enrico Rava

 

 

エンリコ・ラヴァは、1939年、イタリア、トリエステ生まれのトランペット奏者。最早トランペットの巨匠といっても差し支えないアーティスト。


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マイルス・デイヴィスの影響下にある枯れた渋みのあるミュート、対象的な華やかなブレスのニュアンスを押し出したトランペット界の大御所プレイヤー。1960年代からアーティストとして活動をおこなっています。元々、トロンボーン奏者としてキャリアをあゆみはじめたエンリコ・ラヴァは、マイルス・デイビスの音楽性に触発され、トランペット奏者に転向する。

 

エンリコ・ラヴァのキャリアは、ガトー・バルビエリのイタリアン・クインテットのメンバーとして始まった。1960年には、スティーヴ・レイシーのメンバーとして活躍。1967年に、 エンリコ・ラバは活動の拠点をイタリアからニューヨークに移し、ソロトランペッターとして活動を行っています。



 

 取り分け、エンリコ・ラヴァのトランペットプレイヤーとしての最盛期は1960年代から70年だいにかけて訪れました。ジョン・アバークロンビー、ギル・エヴァンス、パット・メセニー、ミロス、ヴィトウス、またポール・モチアンといったECMに所属するジャズ界の大御所との仕事が有名。

 

また、イタリア、ペルージャで開催される「ウンブリア・ジャズ・フェスティヴァル」でのジャズ教育の20周年記念としてバークリー音楽大学から名誉博士号を授与されています。

 

 

 

 

 

・Enric Ravaの主要作品


トランペット奏者としての最盛期は他の時代に求められるかもしれませんが、ジャズのコンポーザーとしての最盛期はむしろ1990年代から2000年代にかけての作品に多く見いだされる遅咲きのトランペット奏者。マイルス・デイヴィス直系の枯れた渋みのあるミュートブレスが特徴のイタリアの哀愁を見事に表現するプレイヤー、ほかにも、「Italian Ballad」等、イタリアのトラディショナル音楽の名トランペットカバー作品をリリースしているラヴァ。ここで列挙する作品はプレイヤー、そしてコンポーザーとして最盛期を迎えた2000年代のジャズの名作群に焦点を当てていきます。



 

 

「Easy Living」2004  ECM Records

 

 

 

1.Cromomi

2.Drops

3.Sand

4.Easy LIving

5.Algir Dalbughi

6.Blancasnow

7.Traveling Night

8.Hornette And The Drums Thing

9.Rain


 

 

それまでビバップ・ジャズ、アヴァンギャルド・ジャズといった様々な実験性を見せてきたエンリコ・ラヴァではありますが、意外に自身のイタリアンバラッドとも呼べる独自の作風を確立したのは六十を過ぎてから、2000年代、つまり、ドイツのECMからリリースを行うようになってからといえるかもしれません。全盛期の華美なトランペットの奏法を踏襲しつつ、枯れた渋みのあるミュートブレスを演奏上の特質としたプレイをこの年代から追求していくようになりました。これは彼の最初の原点ともいいえるマイルスのジャズの歴代で見ても屈指の大傑作「Kind Of Blue」時代のジャズ・トランペットの原点ともいえる基本的技法に立ちかえり、そして、それを自身のルーツ、イタリアの伝統音楽の持つ独特な哀愁とも呼ぶべき風味をそっと添え、エンリコ・ラヴァらしい作風を、この作品において確立したといっても差し支えないでしょう。



 

特に、エンリコ・ラヴァの代名詞的な一曲「Blancasonow」はこの後の「New York Days」で再録されより甘美な演奏となってアレンジメントされていますが、アルバム全体としてみても、エンリコ・ラヴァらしいバラッド、それが非常にゴージャスかつ上質な雰囲気が漂っている傑作の一つです。これ以前の「Italian Ballad」でのバラッド曲の影響下にある枯れた渋みのある独特な演奏を味わえる作品。非常に落ち着いた作風であり、この年代にして備わったトランペッターとしての貫禄は他のプレイヤーには見出しづらい。

 

長年、アヴァンギャルド奏法をたゆまず追求してきたからこそ生み出されたトランペットの装飾音、独特な駆け上がりの技法の凄さは筆舌に尽くしがたいものがあります。既に技法をひけらかすという領域は越えており、楽曲の良さを生み出すためにそれらのアバンギャルドな技法が駆使されているあたりも、まさに「Easy Living」というタイトルにあらわされているとおり、大御所エンリコ・ラヴァの貫禄、余裕ともいうべきもの。楽曲としてのおしゃれさ、そしてBGMのような聞き方も出来る作品のひとつです。



 

 

 「Tati」2008 ECM Records

 

 

 

 

 

1.The Man I Love

2.Birdsong

3.Tati

4.Casa di bambola

5."E lucevan le stelle"

6.Mirrors

7.Jessica Too

8.Golden Eyes

9.Fantasm

10.Cornettology

11.Overboard

12.Gang Of 5

 

 

同郷イタリアのジャズ・ピアニスト、ステファノ・ボラーニ、そして、こちらも伝説的なジャズドラム奏者、ポール・モチアンが参加したプレイヤーの名だけ見てもなんとも豪華な作品。ここではより前作「Easy Living」よりも抑制の聴いた叙情性溢れる素敵なジャズ作品ともいうべきでしょう。

 

特に、今回、ステファノ・ボラーニの参加は、よりエンリコ・ラヴァの作品に美しい華を添えています。特に「Bird Song」「Tati」といった楽曲では、ボラーニの演奏の美麗さが前面に引き出された作品で、そこにエンリコ・ラヴァが水晶のような輝きを持つフレージングにより、より楽曲に甘美な雰囲気をもたらす。



 

エンリコラヴァの演奏はボラーニのピアノ演奏にたおやかで深いエモーションを与える。聴いていると、なんとも、陶然とした気分になる楽曲が多く収録されている傑作。

 

モダンジャズというと、前衛的な演奏を主に思い浮かべる方もいらっしゃるかもしれません。でも、実は全然そうではなく、落ち着いた安心した雰囲気を擁する作品も多く存在するということを、今作は象徴づけています。美しいジャズ、上品なジャズをお探しの方に、ぜひおすすめしておきたい傑作です。



 

 

 

 

「New York Days」2009  ECM Records

 

 



1.Lulu

2.Improvisation Ⅰ

3.Outsider

4.Certi angori sergeti

5.Interiors

6.Thank You,Come Again

7.Count Dracula

8.Luna Urbana

9.Improvisation Ⅱ

10.Lady Orlando

11.Blancasnow



「New York Days」という2009年に発表されたエンリコ・ラヴァの集大成ともいえる作品は、ECMレコードの代表作であるばかりでなく、ジャズ史に燦然と輝く名作の一つとして紹介しても良いという気がしています。それは私が、今作を上回る甘美なジャズを聴いたことがないというごく単純な理由によります。マーク・ターナー、ラリー・グレナディア、そして、長年の盟友ともいえる、ポール・モチアンの今作品への参加というのも、この上ない豪華ラインアップを形成しています。いずれにしましても、このアルバムに収録されている「Lady Orland」という楽曲、及び、最終曲「Blancasnow」の再録は、個人的には歴代のトランペット奏者の中で唯一、マイルス・デイヴィスの「Kind Of Blue」での神がかりの領域に肩を並べたともいえる作品であり、ジャズ好きの方はぜひとも一度は聴いていただきたい傑作のひとつ。



 

もちろん、エンリコ・ラバの演奏力は、ついに70歳にして最盛期を迎えたといえ、独特なアバンギャルド的な奏法、トリルを交えた駆け上がりのような独自のアヴァンギャルド奏法が駆使された作品。

 

全体的な作風といたしましては、上掲した二作の延長線上に有り、なおかつ、そこに現代トランペッターとしての並々ならぬ覇気のようなものが宿った凄まじい雰囲気を持つアルバム。もちろん、上二曲のような甘美なモダンジャズの風味もありながら、「Outsider」において、再びアヴァンギャルドジャズに対する再挑戦を試みた前衛的なジャズも収録されているのが聞き所。

 

トランペットと、サクスフォーンのスリリングな合奏についてはマイルスの全盛期を彷彿とさせる、いや、それどころか、それを上回るほどのすさまじい熱曲的なプレイ。何をするにも、年齢というのは関係ないのだ、ということを、はっきりと若輩者として、この作品のエンリコラヴァというプレイヤーに教え諭された次第。

 

ジャズというのは、古いライブラリー音楽というように思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、この作品を聴けば、それは大きな思い違いにすぎず、今なお魅力的な現代音楽のひとつ、いまだプログレッシヴな音楽であることをエンリコ・ラバはみずからの演奏によって見事に証明づけています。何らかの評論、措定をするのが虚しくなる問答無用のモダン・ジャズの21世紀の最高傑作としてご紹介させていただきます。



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