ラベル ECM Catalogue の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル ECM Catalogue の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

 Steve Tibbetts


 

スティーヴ・チベッツは、アメリカのギタリスト兼作曲家。アートスクールに在学していた時代からギターの多重録音に夢中になり、その後、ドイツのECMと契約を交わし、これまで多数の作品をECMからリリースしている。

 

スティーヴ・チベッツは、レコーディングスタジオをサウンドを作成するためのツールとみなしている。チベッツの楽曲は、ニューエイジ、アンビエント、ワールド・ミュージック、実験音楽と、幅広いサウンドの特徴を持つ。

 

特に、チベッツの楽曲性として顕著なのは、ギターの多重録音である。複雑なループディレイ、ディケイのサウンド処理を施した録音の素材を幾重にもダビングさせ、独特なミニマル色の強いギター音楽へ昇華する。彼のギター演奏が特異なのは、ライブの演奏のためでなく、それをレコーディング、完成されたプロダクションのためにループエフェクトをプログラミングとして用いていることである。

 

スティーヴ・チベッツは、自身の楽曲について「ポストモダンのネオプリミティヴィズム」と称している。ギターのチョーキングを駆使し、周囲のサウンドスケープと電気的な歪みを交互に繰り返しながら、インドの民族楽器”サーランギー”のようなサウンドを生み出す。 また、スティーヴ・チベッツはギターの他に、ケンダンやカリンバといった民族楽器を演奏することでも知られている。

 


 

1999 Choying and Steve, Walker Art Center
 

 

 

 

Steve Tibbettsの主要作品

 

 

 

・「Northern Song」1981    

 

 

 


スティーヴ・チベッツの最初期の名盤として挙げられる。1981年のノルウェー、オスロでエンジニアにヤン・エリック・コングショーマンを迎えて録音が行われた作品。彼のアコースティックギタリストとしての才覚が花開いたECMと契約を結んで最初にリリースされた作品である。

 

このスタジオ・アルバムで、スティーヴ・チベッツこれまでのアコースティックギターの可能性を押し広げている。

 

弾くというより、撫でるような繊細なギターのフィンガーピッキングの演奏に加え、詩的でナチュラルなアコースティックギターの演奏を堪能できる作品。チベッツは、フォーク音楽の革新性をワールド・ミュージック寄りのアプローチを行うことにより、楽曲をアンビエントに近い領域まで推し進めている。

 

1981年という年代には、ギターアンビエントというジャンルが存在しなかったはずだが、その音楽性をここでスティーヴ・チベッツは世界で初めて取り入れていることに驚かずにはいられない。

 

スティーヴ・チベッツの生み出すギター音楽は、瞑想的であり、沈思的であり、独創性に飛んでいる。最後に収録されている「Nine Doors/ Breaking Space」は、ギター演奏のミュートのニュアンスを徹底的に突き詰めていった民族音楽の色合いが強く引き出された楽曲であるが、それと同時に、Fenneszのようなアンビエントギターを世界に先駆けて発明した伝説的な名曲でもある。




   

 

 

 

・「Safe Journey」 1983


 

 


上記の「Northern Song」が、もしかりに地ベッツのアコースティックギタリストとしての傑作だとするなら、「Safe Journey」はエレクトリックギタリストとしての名盤として挙げられる。

 

この作品においてチベッツは、エレクトリック・ギターのテープループを用いた多重録音、コンガ、カリンバ、スチールドラムといった民族音楽をリズム的に取り入れることにより、これまでに存在しなかった電子音楽寄りの民族音楽を生み出している。

 

このアルバムでのスティーブ・チベッツの速弾きのテクニックは、ハードロック色を感じさせる熱狂性が込められていることはよく指摘される。これは「The Fall of Us」から突き進めてきたエレクトリックギタリストとしての完成形、究極形が提示されている。

 

特に一曲目の「Test」では、ヴァン・ヘイレン、ヘンドリックスに引けを取らない凄まじいギターテクニックがインドの打楽器タブラとともに狂乱的に繰り広げられる様はほとんど圧巻というよりほかない。その他にも、「Version」「Any Minute」といった民族音楽の色合いが強い独特な楽曲が収録されている。彼の作品の中では特に民族音楽の性格が絶妙に引き出された作品である。




 

 



 

・「A Man About A Horse」2001

 

 

 


スティーヴ・チベッツの作品の中では、最高傑作のひとつに挙げられることが多い作品である。

 

アルバムジャケットの海に釣り上げられたバクバイプが燃やされた象徴的なアートワークも衝撃的であり、実際の音楽性についても独特や特異といった性質を越えた前衛音楽をスティーヴ・チベッツは生み出している。これまで、アフリカ、インドといった様々な民族音楽を取り入れてきたチベッツは、この作品において、自身の活動名の由来であるチベットの宗教音楽へと踏み入れている。

 

「A Man About A Horse」には、チベット地域の宗教音楽を特異なアンビエンスとして取り入れた楽曲が数多く収録されている。マントラをはじめとする、チベット高地発祥の宗教音楽を、アンビエントという側面から西洋的解釈を試み、そこに彼らしいギター音楽に昇華した作品である。

 

「Burning Temple」に代表されるように、東洋と西洋の概念を融合させたような楽曲がこのスタジオ・アルバムには多数収められており、アンビエント音楽とチベット密教の宗教音楽を融合させた静謐な楽曲群は、これまでにないジャンルがこの世に生み落とされた瞬間と言えるかもしれない。「A Man About A Horse」に収録されている楽曲は当時、ニューエイジという名で呼ばれていたようだが、そういった枠組みで収まりきる音楽ではなく、精神的な音楽といえる。

 

また、最終曲の「Koshala」での、静と動、緩急をまじえた楽曲、最終盤部でのタブラの狂気的なパーカッション、チベットボウル、ほとんど鬼気迫る勢いで繰り広げられるギター演奏のミニマリズムがかけあわさることにより,独特な内向きの渦のような凄まじいエネルギーが生み出される。

 

2002年というリリースされた年代を考えると、「A Man About A Horse」は、虐げられるチベットの民族、それから、チベット密教へのギター音楽を通しての「精神的な讃歌」ともとれなくもない。






・この作品の他にも、Steve Tibbettsがチベット仏教の尼僧Choying Drolmとコラボレーションを行った1997年の「Cho」では、Nagi寺院の尼僧たちのチベット語による美しい歌声を聴くことが出来る。

 

昨今のチベット・ウイグル自治区の情勢を鑑みると、今後、重要な歴史的資料ともなりえるかもしれない。

 

チベット周辺の文化の研究を行っている方には、密教のマントラのミュージックライブラリーと合わせて是非聴いてみていただきたい作品である。「Cho」は、Rikodiscというワーナー傘下のレーベル”Rhino"からリリースであるため、ここでは、取り上げないことをお許し願いたい。


 Enrico Rava

 

 

エンリコ・ラヴァは、1939年、イタリア、トリエステ生まれのトランペット奏者。最早トランペットの巨匠といっても差し支えないアーティスト。


Enrico Rava.com

 

マイルス・デイヴィスの影響下にある枯れた渋みのあるミュート、対象的な華やかなブレスのニュアンスを押し出したトランペット界の大御所プレイヤー。1960年代からアーティストとして活動をおこなっています。元々、トロンボーン奏者としてキャリアをあゆみはじめたエンリコ・ラヴァは、マイルス・デイビスの音楽性に触発され、トランペット奏者に転向する。

 

エンリコ・ラヴァのキャリアは、ガトー・バルビエリのイタリアン・クインテットのメンバーとして始まった。1960年には、スティーヴ・レイシーのメンバーとして活躍。1967年に、 エンリコ・ラバは活動の拠点をイタリアからニューヨークに移し、ソロトランペッターとして活動を行っています。



 

 取り分け、エンリコ・ラヴァのトランペットプレイヤーとしての最盛期は1960年代から70年だいにかけて訪れました。ジョン・アバークロンビー、ギル・エヴァンス、パット・メセニー、ミロス、ヴィトウス、またポール・モチアンといったECMに所属するジャズ界の大御所との仕事が有名。

 

また、イタリア、ペルージャで開催される「ウンブリア・ジャズ・フェスティヴァル」でのジャズ教育の20周年記念としてバークリー音楽大学から名誉博士号を授与されています。

 

 

 

 

 

・Enric Ravaの主要作品


トランペット奏者としての最盛期は他の時代に求められるかもしれませんが、ジャズのコンポーザーとしての最盛期はむしろ1990年代から2000年代にかけての作品に多く見いだされる遅咲きのトランペット奏者。マイルス・デイヴィス直系の枯れた渋みのあるミュートブレスが特徴のイタリアの哀愁を見事に表現するプレイヤー、ほかにも、「Italian Ballad」等、イタリアのトラディショナル音楽の名トランペットカバー作品をリリースしているラヴァ。ここで列挙する作品はプレイヤー、そしてコンポーザーとして最盛期を迎えた2000年代のジャズの名作群に焦点を当てていきます。



 

 

「Easy Living」2004  ECM Records

 

 

 

1.Cromomi

2.Drops

3.Sand

4.Easy LIving

5.Algir Dalbughi

6.Blancasnow

7.Traveling Night

8.Hornette And The Drums Thing

9.Rain


 

 

それまでビバップ・ジャズ、アヴァンギャルド・ジャズといった様々な実験性を見せてきたエンリコ・ラヴァではありますが、意外に自身のイタリアンバラッドとも呼べる独自の作風を確立したのは六十を過ぎてから、2000年代、つまり、ドイツのECMからリリースを行うようになってからといえるかもしれません。全盛期の華美なトランペットの奏法を踏襲しつつ、枯れた渋みのあるミュートブレスを演奏上の特質としたプレイをこの年代から追求していくようになりました。これは彼の最初の原点ともいいえるマイルスのジャズの歴代で見ても屈指の大傑作「Kind Of Blue」時代のジャズ・トランペットの原点ともいえる基本的技法に立ちかえり、そして、それを自身のルーツ、イタリアの伝統音楽の持つ独特な哀愁とも呼ぶべき風味をそっと添え、エンリコ・ラヴァらしい作風を、この作品において確立したといっても差し支えないでしょう。



 

特に、エンリコ・ラヴァの代名詞的な一曲「Blancasonow」はこの後の「New York Days」で再録されより甘美な演奏となってアレンジメントされていますが、アルバム全体としてみても、エンリコ・ラヴァらしいバラッド、それが非常にゴージャスかつ上質な雰囲気が漂っている傑作の一つです。これ以前の「Italian Ballad」でのバラッド曲の影響下にある枯れた渋みのある独特な演奏を味わえる作品。非常に落ち着いた作風であり、この年代にして備わったトランペッターとしての貫禄は他のプレイヤーには見出しづらい。

 

長年、アヴァンギャルド奏法をたゆまず追求してきたからこそ生み出されたトランペットの装飾音、独特な駆け上がりの技法の凄さは筆舌に尽くしがたいものがあります。既に技法をひけらかすという領域は越えており、楽曲の良さを生み出すためにそれらのアバンギャルドな技法が駆使されているあたりも、まさに「Easy Living」というタイトルにあらわされているとおり、大御所エンリコ・ラヴァの貫禄、余裕ともいうべきもの。楽曲としてのおしゃれさ、そしてBGMのような聞き方も出来る作品のひとつです。



 

 

 「Tati」2008 ECM Records

 

 

 

 

 

1.The Man I Love

2.Birdsong

3.Tati

4.Casa di bambola

5."E lucevan le stelle"

6.Mirrors

7.Jessica Too

8.Golden Eyes

9.Fantasm

10.Cornettology

11.Overboard

12.Gang Of 5

 

 

同郷イタリアのジャズ・ピアニスト、ステファノ・ボラーニ、そして、こちらも伝説的なジャズドラム奏者、ポール・モチアンが参加したプレイヤーの名だけ見てもなんとも豪華な作品。ここではより前作「Easy Living」よりも抑制の聴いた叙情性溢れる素敵なジャズ作品ともいうべきでしょう。

 

特に、今回、ステファノ・ボラーニの参加は、よりエンリコ・ラヴァの作品に美しい華を添えています。特に「Bird Song」「Tati」といった楽曲では、ボラーニの演奏の美麗さが前面に引き出された作品で、そこにエンリコ・ラヴァが水晶のような輝きを持つフレージングにより、より楽曲に甘美な雰囲気をもたらす。



 

エンリコラヴァの演奏はボラーニのピアノ演奏にたおやかで深いエモーションを与える。聴いていると、なんとも、陶然とした気分になる楽曲が多く収録されている傑作。

 

モダンジャズというと、前衛的な演奏を主に思い浮かべる方もいらっしゃるかもしれません。でも、実は全然そうではなく、落ち着いた安心した雰囲気を擁する作品も多く存在するということを、今作は象徴づけています。美しいジャズ、上品なジャズをお探しの方に、ぜひおすすめしておきたい傑作です。



 

 

 

 

「New York Days」2009  ECM Records

 

 



1.Lulu

2.Improvisation Ⅰ

3.Outsider

4.Certi angori sergeti

5.Interiors

6.Thank You,Come Again

7.Count Dracula

8.Luna Urbana

9.Improvisation Ⅱ

10.Lady Orlando

11.Blancasnow



「New York Days」という2009年に発表されたエンリコ・ラヴァの集大成ともいえる作品は、ECMレコードの代表作であるばかりでなく、ジャズ史に燦然と輝く名作の一つとして紹介しても良いという気がしています。それは私が、今作を上回る甘美なジャズを聴いたことがないというごく単純な理由によります。マーク・ターナー、ラリー・グレナディア、そして、長年の盟友ともいえる、ポール・モチアンの今作品への参加というのも、この上ない豪華ラインアップを形成しています。いずれにしましても、このアルバムに収録されている「Lady Orland」という楽曲、及び、最終曲「Blancasnow」の再録は、個人的には歴代のトランペット奏者の中で唯一、マイルス・デイヴィスの「Kind Of Blue」での神がかりの領域に肩を並べたともいえる作品であり、ジャズ好きの方はぜひとも一度は聴いていただきたい傑作のひとつ。



 

もちろん、エンリコ・ラバの演奏力は、ついに70歳にして最盛期を迎えたといえ、独特なアバンギャルド的な奏法、トリルを交えた駆け上がりのような独自のアヴァンギャルド奏法が駆使された作品。

 

全体的な作風といたしましては、上掲した二作の延長線上に有り、なおかつ、そこに現代トランペッターとしての並々ならぬ覇気のようなものが宿った凄まじい雰囲気を持つアルバム。もちろん、上二曲のような甘美なモダンジャズの風味もありながら、「Outsider」において、再びアヴァンギャルドジャズに対する再挑戦を試みた前衛的なジャズも収録されているのが聞き所。

 

トランペットと、サクスフォーンのスリリングな合奏についてはマイルスの全盛期を彷彿とさせる、いや、それどころか、それを上回るほどのすさまじい熱曲的なプレイ。何をするにも、年齢というのは関係ないのだ、ということを、はっきりと若輩者として、この作品のエンリコラヴァというプレイヤーに教え諭された次第。

 

ジャズというのは、古いライブラリー音楽というように思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、この作品を聴けば、それは大きな思い違いにすぎず、今なお魅力的な現代音楽のひとつ、いまだプログレッシヴな音楽であることをエンリコ・ラバはみずからの演奏によって見事に証明づけています。何らかの評論、措定をするのが虚しくなる問答無用のモダン・ジャズの21世紀の最高傑作としてご紹介させていただきます。



ECM Records





ECMレコードは、1969年、ドイツ、ミュンヘン本拠のレコード会社。元々、ベルリン・フィルのコントラバス奏者であったマンフレート・アイヒャーが西ドイツ時代に設立。ユニバーサルミュージックグループの傘下に当たる。

fot. M.Zakrzewski"fot. M.Zakrzewski" by maltafestivalpoznan is licensed under CC BY-NC-ND 2.0

ECMは、元々、ジャズを中心とした作品をリリースを行っていた。しかし、近年では「NEW SERIES」という現代音楽や実験音楽を中心とするカタログもリリースされるようになった。このドイツの名門レーベルのコンセプトは、「音の静寂」にあり、レコーディングの音源として音の透明感を出すかに焦点が絞られている。また、アルバムジャケットデザインも専属のカメラマンを雇い、鑑賞者に問いかけるかのようなアート色のつよい個性的なデザインを特色とする。

ECMは、これまでの五十年以上のレーベル運営において、音楽史として欠かさざる作品を多くリリースしている。例を挙げれば枚挙にいとまがないが、キース・ジャレット、パット・メセニー、チック・コリア、ゲイリー・ピーコック、ヤン・ガルバレクといったジャズの巨匠の作品はもちろん、現代音楽作曲家の巨匠、スティーヴ・ライヒ、アルヴォ・ペルト、ヴァレンティン・シルベストロフ、カイヤ・サーリアホの音源作品、ジョン・ケージ、モートン・フェルドマンといった近代作曲家。あるいは、アンドラーシュ・シフをはじめとするクラシック音楽の著名な演奏家の作品リリースも行っている。特に、シフの作品では、これまでの近代の名ピアニストが途中で断念してきたベートーベンのピアノ・ソナタ全録音をシリーズ化してリリースしている。

つまり、ECMレコードは、ジャズの領域のみならず、民族音楽、ニューエイジ、アンビエント、クラブ・ミュージック、現代音楽、古典音楽というふうに、メインカルチャーからカウンターカルチャーに至るまで広範な歴史的文化事業を「音源の録音リリース」という側面で五十年もの間支え続けている。

厳密に言えば、この世に「音楽の博物館」というのは存在しませんが、ECMレコードはその役割を十分、いや十二分に果たしている。新旧問わず、歴史的音源を網羅してリリースを行うのが、ECMというミュンヘンのレーベルである。もちろん、その中には、クラブ・ミュージックのアーティスト、しかも、きわめて前衛的な作品リリースも含まれていることも付け加えておかねばならないはず。

この大多数のジャンルレスにも思えるECMのカタログ作品の中に通じているのが、マンフレート・アイヒャーがECMの設立時に掲げたコンセプト「澄明な静寂性」という概念。これはこの五十年、一度も覆されたことのないこのレーベルの重要なコンセプトでもある。実際に、このECMのレコーディングの音には、他のレーベルにはない雰囲気、アルヴォ・ペルトの自身の作品についての説明の半分受け売りとなってしまうが、「プリズムのような輝き」が込められている。

そして、ときに歴史的に重要な作品のリリースの際は、マンフリート・アイヒャーが直々にエグゼプティヴ・プロデューサーとして作品を手掛けている。特に、彼のベルリン・フィル時代からのレコーディングに対する知見は群を抜いており、どの場所にマイクロフォンを設置すれば、どのような音が録音出来るのか、また、どのようなエフェクト処理を施せばどのような音が表れ出るのかを熟知しているのが、レコーディング・エンジニアのマンフレート・アイヒャー。

これまでのECMカタログ中には、無数の魅力的な作品、また、あるいは歴史的な名盤が目白押しといえますが、このカタログから重要なアーティストのリリース年代に関わらず拾い上げていきたいと思います。概して、ECMレコードのリリースは、現代ジャズの入門のみならず、現代音楽、民族音楽、ニューエイジ。といった一般的にはそれほど馴染みのないジャンルへの入り口として最適です。


Vol.1  Arvo Part


ECMレコードの設立者、マンフリート・アイヒャーの長年の盟友のひとりであるアルヴォ・ペルト。

Arvo Part"Arvo Part" by Woesinger is licensed under CC BY-SA 2.0


御存知の通り、説明不要の現代音楽家の巨匠であり、高松宮殿下記念世界賞も与えられている作曲家、アルヴォ・ペルトは、エストニアの現代作曲家であり、ミニマリズムの学派に属しています。若い時代からタリン音楽院で学び、非常に多作な作曲家だったようです。その後、正教会のキリスト教の信仰に目覚め、独特な作風を確立する。特に、聖歌や教会でのミサ曲などを中心に作曲を行っている。

基本的には、ミニマリズムの学派としての作風でありながら、グレゴリオや古楽の楽譜を専門的に研究し、作曲中にも原始的な教会旋法が取り入れられており、アントニオ・ヴィヴァルディに代表されるイタリア古楽との親和性も見いだされる作風。ペルトの主要な交響曲、合唱曲、ミサ曲においてはロシア正教の形式に則ってラテン語が使用されている。アルヴォ・ペルトは、これまでの自身の作風について、「プリズムの反射」というように説明しており、和声的な作曲法でなくて、ポリフォニー的な作曲法を中心に据えている。フーガ形式、あるいはアントン・ブルックナーのような単一の楽節の反復性、さらにいえば、それらの楽節の要素を最小限まで縮小したミニマルな単位(単音)が頻繁に繰り返される点がアルヴォ・ペルトの主要な作風。若い時代から、マンフレート・アイヒャーの盟友で、ECMを中心に次作の交響曲、声楽曲、弦楽曲のリリースを行っている。スティーブ・ライヒと共にECMを代表する作曲家です。



・Arvo Partの主要作品


「Arvo Part: Tabula Rasa」 1984







1.Fratress
2.Cantus In Memory Of Benjamin Britten
3.Fratress-For 12 Celli
4.Tabula Rasa Ⅰ.Ludus-Live
5.Tabula Rasa Ⅱ.Silentium-Live 



アルヴォ・ペルトが、なぜミニマリズムの学派に属するのかその理由を示し、あるいは、また、アルヴォ・ペルトという現代音楽作曲家の作風を掴むのに最も適した作品が「Tubula Rasa」です。

ここでは、ピアノとバイオリンを交えた室内楽として、この作品を楽しむ事ができます。レコーディングにはキース・ジャーレットが参加し、ピアノの演奏をしているというのも豪華。ここでは、グレゴリア聖歌からの影響、単旋法というペルトの音楽を知る上では欠かさざる要素を読み取ることが出来ます。

アルヴォ・ペルトの代表的な楽曲のひとつ「Fratres」は、弦楽としての単旋法の導入というのが現代音楽として作曲法としても弦楽技法的にも大きな革新性をもたらした傑作です。もちろん、キース・ジャレットは、バッハの平均律クラヴィーアやモーツアルトのリリースもECMから行っているように、ジャズ・ピアニストでありながら古典音楽に対する深い理解があり、ここではジャズでなく「古典音楽ピアニスト」としてのキース・ジャレットの演奏を堪能することが出来る。そして、ペルトの楽曲に高級な雰囲気を添えているのが名ヴァイオリニストのGidon Kremerです。また、これまでのキャリアの中での屈指の名曲「TubraRasa  Ⅱ.Silentium」も反復性に重点を置いたペルトらしい名曲といえ、ここでは抑制のとれたチェレスタの演奏、そしてバイオリンの芳醇な響きを味わう事が出来ます。


「Te Deum」 1993




1.Te Deum

2.Silouans Song

3.Magnificat

4.Berliner Messe:Kyrie

5.Berliner Messe:Gloria

6.Berliner Messe:Ester Alleluiavers

7.Berliner Messe:Zwaiter Alleluiavers

8.Berliner Messe:Veni Sancte Spiritus

9.Berliner Messe:Credo

10.Berliner Messe:Sanctus

11.Berliner Messe:Angus Dei


そして、上記二作とは異なり、アルヴォ・ペルトの宗教曲の魅力を堪能出来るのが「Te Deum」です。ここでは聖歌の厳格な形式に則って作曲が行われています。これまでグレゴリア、教会旋法、あるいは古楽の楽譜を長年にわたって研究してきたペルトの集大成ともいえる宗教曲です。Te Deumは、イムヌスに分類されるラテン語の聖歌の一。ペルトのロシア正教の深い信仰性により、これらの楽曲は、かつてのバッハの宗教曲のような荘厳な響きを現代に復活させています。エストニア室内合唱団は、ペルトの合唱曲の多くに参加している合唱団で、ここでは深い正教の信仰性に培われた精神、概念というのが、合唱のハーモニクスにより表現されているように思えます。

「Te Deum」では、ヨハン・セバスティアン・バッハの「マタイ受難曲」にも比する荘厳な音響の世界が形作られている。しかし、それは宗教という狭い空間にとどまらず、またその他の領域にも開かれた現代的な雰囲気を持つ。

ここでペルトは、長年の正教の信仰からの精神性、古典音楽の系譜を受け継いだ上でそれを現代音楽として、あるいは現代の宗教曲として見事に体現してみせています。「Te Deum」は、ECMのカタログの中でも屈指の名作のひとつと言えるでしょう。これまでの現代音楽が無調という一般的印象を払拭し、中世のバロック音楽、それ以前の教会旋法を大胆に取り入れた作品です。


「Fur Alina」1999




1.Spiegel im Spiegel version for Violin and PIano

2.Fur Alina

3.Spiegel im Spiegel version for Cello and Piano

4.Fur Alina- Reprise

5.Spiegel im spiegel version for Violin and Piano/Reprise


アルヴォ・ペルトは、これまで、交響曲、弦楽曲、あるいはピアノ小曲集、歌曲と、古典音楽としての基本的な作法を踏襲しながら様々なジャンルの音楽を数多く残しています。そのほとんどは調性音楽で、長い古典、近代音楽史としてみてもきわめて重要な歴史に残るべき名作が多い。中でも、最もアルヴォ・ペルトらしい作風ともいえるのが、「Fur Alina」という作品です。、表題曲の「Fur Aline」はペルトのピアノ曲としては代表的作品です。

ロシア正教会の鐘の音をモチーフにしたと思われるこの楽曲「Fur Alina」はペルトの代表的なピアノ曲。これまでの古典音楽で存在しなかったタイプの楽曲で、後期フランツ・リストのような静謐さを彷彿とさせ、教会尖塔の中で響くようなアンビエンスが意図的に取り入れられています。ピアノの実際の演奏だけでなく、空間に満ちている音を際立たせるという側面ではジョン・ケージの「In a Landscape」と同じ指向性が取り入れられている。「Fur Alina」は、演奏上においても特異な特徴があり、ダンパーペダルに対する特殊指示記号がこの楽譜中に見られ、また、低音が突如として楽曲の中に現れ、低音部が高音部と対比的に配置されているのも共通点。ジョン・ケージの系譜にある「サイレンス」を活かしたピアノ曲でありながら、独特な教会旋法が取り入れられている点についてはアルヴォ・ペルトらしい作風といえるかもしれません。

また、「Spiegel im Spiegel」も、アルヴォ・ペルトの代表的な楽曲です。清涼感のある穏やかな楽曲で、癒やし効果のある名作。「Fur Alina」と同じように、初歩的な演奏能力があれば演奏出来る楽曲でありますが、説得力のある演奏をするのはきわめて至難の業という面で、ケージの「In a Landscape」と同じく難易度の高い楽曲といえるでしょう。短調の「Fur Alina」と長調の「spiegel im spiegel」は、アンビエント音楽、ポスト・クラシカルのジャンルの先駆的な意味合いを持った一曲。交響曲、宗教曲の印象が強いペルトではありますが、こういったピアノの小曲でも情感にうったえかけるような際立った楽曲を書いていることもゆめ忘れてはならないでしょう。