Sharon Van Etten  『We've Been Going About This All Wrong』(Deluxe Edition)が発売




昨日、米国のシンガーソングライター、Sharon Van Etten(シャロン・ヴァン・エッテン)は最新アルバム『We've Been Going About This All Wrong』のデラックス・エディションをリリースしました。アルバムのレビューは下記よりお読み下さい。

 

リリースに合わせて、このアルバムの収録曲「When I Die」のリリックビデオが公開されました。この曲のリリック・ビデオも公開されています。


Sharon Van Ettenは以前のプレスリリースで、リスナーがアルバム全体を一度に聴くことを望むことについて、次のように語っている。

 

「最初から最後まで、このアルバムは、私たちがそれぞれの方法で経験したこの2年間のジェットコースターを記録した感情の旅です。その旅に一緒に乗っていただければと思います。私の側にいてくれてありがとう」


以前、ヴァン・エッテンがアルバムの予告編を公開していた。このアルバムには彼女の2022年のシングル「Used to It」は収録されておらず、またデラックス・エディションにも収録されていない。


『We've Been Going About This All Wrong』は、Jagjaguwarから2019年にリリースされた『Remind Me Tomorrow』に続く作品である。


ヴァン・エッテンは『We've Been Going About This All Wrong』をダニエル・ノウルズと共同制作し、ロサンゼルスの実家に新設した特注スタジオでそのほとんどを自らレコーディング、エンジニアリングしている。Van Ettenはこのアルバムでギター、シンセサイザー、ピアノ、ドラムマシン、ウーリッツァー、鍵盤などを演奏していますが、ドラムにJorge Balbi、ベースにDevon Hoff、シンセサイザーとギターにライブ音楽監督のCharley Damskiという彼女の通常のツアー・バンドが参加しています。


ヴァン・エッテンは、前回のプレスリリースで、「今回のリリースでは、アルバム全体をひとつの作品として提示するために、これまでとは異なるアプローチで、意図的にファンを巻き込みたかった」と語っています。「この10曲は、希望、喪失、憧れ、回復力といったより大きな物語が語られるように、順番に、一度に聴くことができるように設計されている」


アルバム・ジャケットについて、ヴァン・エッテンはこう語っている。「必ずしも勇敢ではなく、必ずしも悲しくもなく、必ずしも幸せでもない、全てから立にち去る私をイメージして、それを伝えたかった」

 

 

 

 

 

 Sharon Van Etten  『We've Been Going About This All Wrong』 deluxe edition



 

Label: jagujaguwar

 

Release: 2022年11月11日

 


Review 

 

オリジナル盤は5月に発売され、軒並み、海外のレビューは概ね好評であったものの、傑作以上の評価まで到達したわけではなかった。この作品のレビューを飛ばしたのは、その週に多くの注目作がリリースされたことがあったのが1つ、そして音楽性の本質を掴むことが出来なかったという理由である。

 

アルバムは、ロックダウン中、LAの自宅のスタジオでレコーディングされた。5月に聴いた際には、オープンニングトラック「Darkness Fades」を始め、重苦しい雰囲気に充ちた楽曲が印象的であった。これは、シャロン・ヴァン・エッテンが、この作品に、家族との生活を通して見る、内面の探求というものがテーマに掲げられているからだと思う。このアルバムは非常に感覚的であり、抽象的な音楽性であるためか、第一印象としては影の薄い作品の一つだった。


ところが、このアルバムは聴いてすぐ分かるタイプの作品ではないのかもしれないが、少し時間を置いて改めて聞き返したとき、他のアルバムより遥かに優れた作品であることが理解出来る。アルバムの出足は鈍さと重々しさに満ちているが、徐々に作品の終盤にかけて、このシンガーの存在感が表側に出てきて、クライマックスでは、このアーティストらしい深い情緒が出てきて、その歌声に、神々しい雰囲気すら感じられるようになるのである。特に、オリジナル盤の収録曲として、#7「come back」と#8「Darkish」が際立っている。この2曲は、このアーティストのキャリアにおける最高傑作の1つと言っても差し支えなく、ダイナミックさと繊細さを兼ね備えた傑出したポップミュージックであるため、ぜひとも聞き逃さないでいただきたい。

 

しかし、全般的に高評価を与えられたにも関わらず、傑作に近い評価が出なかったのには原因があり、全体的に素晴らしい作品ではあるものの、オリジナル盤は、展開が盛り上がった来た時に、作品の世界が閉じてしまうというような、いくらか寂しさをリスナーにもたらしたのも事実だったのだろうと思われる。これらは5月の始めに聴いた時も思ったことで、オリジナル・バージョンについては作品自体が未完成品という感もあり、聞き手が、この音楽の世界にもっと浸っていたいと思わせた瞬間に、作品の世界が終わり、突如として遠ざかっていってしまったのである。つまり、この聞き手の物足りなさや寂しさを補足する役目を果たすのが、今回、4曲を新たに追加収録して同レーベルからリリースされたデラックスバージョンなのではないかと思う。

 

オリジナルアルバム発売の直前に公開された、Covid-19のロックダウン中の閉塞した精神状態からの回復について歌った「Porta」や、同じく発売以前に公開された「I Used To」といったスタイリッシュな現代的なシンセ・ポップが追加収録されている。二曲目は、曲名が似ているが、昨年リリースされたエンジェル・オルセンとのフォーク・デュエット曲「Like I Used To」とは別作品となっている。これらの曲については、アーティスト本人が、この最新アルバムの収録曲にふさわしくないと考えたかもしれない。


しかし、改めてこのデラックス・バージョンを聴くと、作品の印象が一転しているのに気がつく。不思議なことに、オリジナルバージョンでなくて、今回発売されたデラックスバージョンこそが完成品なのではないかと思えてくる。デラックスバージョンとして見ると、名盤に近い、傑出した作品である。

 


95/100

 

 

Feature Track 『Come Back』

 



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