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現在、最新アルバムのツアーを行っているニューヨークのソングライター、MitskiがSpotify Singlesシリーズの新曲を発表した。


そのうちの1曲は、ピーター・ラファージュが書いたがピート・シーガーが広めた「Coyote, My Little Brother」のカバーである。もう1曲は、ミツキの7枚目のスタジオ・アルバム『The Land Is Inhospitable And So Are We』に収録されている「Buffalo Replaced」の新曲だ。


スポティファイ・シングル・バージョンの「Buffalo Replaced」では、貨物列車の鳴き声が、長い間姿を消していたバッファローの振動に置き換わっている。


"ここでは、希望そのものが擬人化され、眠っている生き物に擬人化され、この曲の語り手は、彼女がいなければ人生はもっと楽になるのだろうかと考える"


ミツキの『The Land Is Inhospitable And So Are We』ツアーはシカゴで再開され、3月21日から24日まで4公演行われる。シカゴ公演と同時に、ミツキはHere On Earthを発表した。書店''Exile In Bookville''とのコラボレーションによるシカゴ・ギャラリーとポップアップ・ショップ。この4日間のポップアップでは、フォトグラファー、Ebru Yildizのキュレーションによる『The Land Is Inhospitable And So Are We』の写真セレクションが展示される。


Spotifyのストリーミングはこちらから。

 

 

最新作 『The Land Is Inhospitable And So Are We』は、旧来のシンセ・ポップのスタイルから脱却を試み、ポピュラーミュージックの流れに変化を及ぼした。アーティストはアメリカのルーツに迫り、カントリー、フォーク音楽のスタンダードを映画音楽やポップ、ミュージカルと結びつけた。後半部では特に日本的なルーツに迫る箇所があった。アルバムの収録曲でハイライトでもある「My Love All Mine」はストリーミングでも好調な再生数を記録した。リリース後、Clairoがこの曲をカバーした。 『The Land Is Inhospitable And So Are We』は、Boygeniusとともに2024年度のMusic Tribuneのアルバムオブザイヤーを見事獲得した。


 

©Devyn Galindo


レイナ・トロピカル(Reyna Tropical)は、3月29日にリリースされるデビューアルバム『Malegría』から軽快なディープハウスのトラック「Conexión Ancestral」を発表した。コンゴ、ペルー、クンビアのリズムやメ キシコ人ギタリストでシンガーのChavela Vargasからの音楽と文化的伝統から大きな影響を受けて現在に継承したファビ・レイナによるプロジェクト。

 

「"Conexión Ancestral”は、私の祖先の別の部分と関係を持つための旅を始めることについて歌っている "とトロピカルは声明で説明した。

 

「私にとって、それは先住民の祖先とつながることであり、土地とその本来の管理者たち、ひいては私自身と私のコミュニティへの愛と傾聴を通して、私が受け継いできた知識とつながることだ。それは、地球と互恵的な信頼関係を築くチャンスのため、私がこれまで知っていたすべてを犠牲にすることを厭わないということで、その関係が私の帰属への道しるべとなることを認めるということ」


「私たちの土地、歴史、物語、コミュニティから切り離された私たちの人々は、何世代にもわたって、どこに行けばいいのかわからなくなっている」とレイナは説明する。「ステージでは、自分の動きが自分の動きでないと感じることがある。ステージ上では、自分の動きが自分の動きではないと感じることがある。私の祖先がそこにいるとき、決断が私たちであるとき、私は自分の体でわかるのです」



「Conexión Ancestral」

 

 

 

 Reyna Tropical『Malegría』

https://www.inpartmaint.com/wp-content/uploads/2024/02/PSY040-scaled.jpg 

 

Tracklist:


1. Aquí Te Cuido
2. Radio Esperanza
3. Cartagena 03:32
4. Goosebumps
5. Lo Siento
6. Singing
7. Conocerla
8. Movimiento
9. Suavecito
10. Ñeke
11. La Mamá
12. Malegría
13. Pajarito
14. Puerto Rico
15. Mestizaje
16. Cuaji
17. Queer Love & Afro-Mexico
18. Conexión Ancestral
19. Guitarra
20. Huītzilin 

 Kim Gordon 『The Collective』



 

Label: Matador

Release: 2023/03/08


Listen/ Stream



【Review】

 


ニューヨークのアンダーグランドシーンの大御所のジョン・ケールがソロ・アルバムをリリースしたとなれば、手をこまねいているわけにはいかなかったのだろう。ノイズロックとアートロックを融合させた『No Home Record』に続く『The Collective』は、ボーカリストーーキム・ゴードンがいまだ芸術的な感性を失わず、先鋭的なアヴァンギャルド性とアイデンティティを内側に秘めていることを明らかにする。

 

キム・ゴードンはこのアルバムを通して、ヤー・ヤー・ヤーズ(YYY’s)、リル・ヨッティ(Lil Yachty)、Charli XCX,イヴ・トゥモア(Yves Tumor)といった現代のポピュラーシーンに一家言を持つバンドやアーティストとコラボレーションを行い、同じように、一家言を持つレコードを制作したということになる。


アルバムの冒頭を飾る「BYE BYE」ではNYドリルが炸裂し、不敵なスポークンワードが披露される。ノイズロックとオルトロックを通過した、いかにもこのアーティストらしいナンバーは、ソニック・ユース時代からの定番のノイズ・ギターによって絡め取られる。そんな中、縦横無尽に張り巡らされた蜘蛛の巣を縫うかのように、スタイリッシュかつパンチ力のあるボーカルを披露する。ロックシンガー、そしてラッパーでもあるキム・ゴードンは、それらの合間のアンビバレントな領域を探ろうと試みる。


このレコードは率直に言えば、旧来のロックという文脈からしばし離れ、ハイパーポップの領域へと歩みを進めたことを示唆している。アプローチが多少遊び心に満ちているとは言え、ゴードンのボーカルは従来と変わらず緊張感があり、リスニングに際して程よいストレスを生じさせる。それはつまり、このレコードがヘヴィネスの切り口から制作されていることを示すのである。


二曲目の「The Candy House」では、NYドリルとトラップをかけあわせた前衛的なスタイルを介し、JPEGMAFIA、Billy Woods、Armand Hammerといった米国のアブストラクトヒップホップシーンの最前線にいる、いかにもやばげなラッパーの感性を吸収しようとする。


''甦るロックとラップの吸血鬼''ーーそんな呼称がふさわしいかは定かではないが、実際のところ、ニューヨークのアンダーグランドの気風を吸い込んだロックとラップの融合は、先鋭的な気風を持ち合わせている。

 

最初期のソニック・ユースの象徴的なサウンドと言えばメタルに近い硬質なノイズギターが挙げられるが、サーストン・ムーアが不在だとしても、3曲目「I Don't Miss A Mind」では文字通り、それらの原初的なノイズ性(アーティストが持つスピリット)を未だに失っていないことを示唆している。


インダストリアル・ロック風の苛烈なノイズに支えられ、NYドリルの先鋭的なリズムを交え、”ノイズ・ラップ”とも称すべきスタイルにより、JPEGMAFIAのアブストラクト・ヒップホップに肉薄していこうとする。


トラックに乗せられるライオットガールを基調としたアジテーションに富むゴードンのボーカル。そこに加えられるわずかなメロディー、セント・ヴィンセントのシンセポップの風味。これらは、この数年間、ゴードンが現代のミュージックシーンに無関心ではなかったことを象徴付けている。そして、改めてアーティストが知る最もクールな手法でそれらを体現させている。

 

ラップとノイズの融合性は、続く「I'm A Man」により、最高潮に達する。アーティストは、現代的なノンバイナリーの感覚や、トランスジェンダーの感覚を聡く捉えながら、まるで秘められた内的な男性性、獣的な感性を外側に開放するかのように、ワイルドで迫力のあるボーカルを披露する。

 

シネマティックなサウンドはビートの実験性と結びつくこともある。「Tropies」では、ハリウッド映画のアクションシーン等で使用されるオーケストラ・ヒットをラップのドリルから解釈し、前衛的なリズムを生み出す。そして、ゴードンは、ハリウッドスターやムービースターに与えられる栄誉に対し、若干のシニカルな眼差しを向ける。


それはゴードンによる「横目の疑いの眼差し」とも呼ぶべきものである。そのトロフィーは墓場に持っていくほど価値のあるものなのか、というような現代的な虚栄に対する内在的な指摘は、ライオット・ガールの範疇にあるボーカルという表現を以て昇華される。そして、そこには確かに華美なアワードやレセプションに見いだせる虚偽への皮肉や揶揄が含まれている。これが奇妙な共感やカタルシスを呼び起こす。

 

キム・ゴードンは根幹となる音楽観こそ持つけれど、決して決め打ちはしない。アルバムの中に見えるノイズロック、ヒップホップという2つの両極的な性質は、常にせめぎ合い、収録曲ごとにどちら側に傾くのか全然分からない。いわば、曲の再生をしてみないと、どちらの方向にかたむくのか分からないという「シュレディンガーの猫」のような同時性とパラレルの面白みがある。


続く「I’m A Dark Inside」では、ブレイクビーツの手法を選び、ノイズと融合させる。音が次の瞬間に飛ぶようなトリッピーな感覚を活かし、Yves Tumorのデビューアルバムに近い音楽の方向性を選んでいる。それに「No New York」の頃の前衛性とサイケデリアの要素を加えているが、それは最終的に「ハイパーポップのノイズ性」というフィルターを通してアウトプットされる。


また、方法論的なディレクションが全面的なレコードの印象を作るが、感覚的で抽象的な音楽も収録される。「Pychedelic Orgasm」ではアーティストの中に棲まう2つの人格を対比させながら、ソニック・ユース時代から培われたスポークンワードに近いクールなボーカルで表現しようとする。


音楽表現という範疇に収まらず、ボーカルアート、パフォーミングアートという切り口からゴードンは語りを解釈し、2つの性質を持ち合わせたボーカルを対角線上に交差させる。そして、その2つの別の性質を持つエネルギーを掛け合わせ、中心点に別の異なるエネルギーを生じさせる。これは平均的な歌手ではなしえない神業で、新しいボーカル・パフォーマンスの手法が示されたと見て良い。ここにも音楽的な蓄積を重ねてきたゴードンの真骨頂が垣間見える。

 

ヒップホップのドリルという比較的オーバーグラウンドに位置する音楽スタイルを選ぼうとも、その表現性がNYのアンダーグラウンドの系譜の属するのは、ゴードンが平凡なミュージシャンでないことの証である。

 

「Tree House」では、アーティストが知りうるかぎりのアヴァン・ロックの手法が示されている。ガレージロック、「No New York」のノーウェイヴ、ドイツのインダストリアルロックがカオスに混ざり合いながら、アナログレコードの向こうから流れてくるかのようだ。レコードの回転数を変えるかのように、ローファイな質感を持つこともある。この曲には、10年どころか、いや、それ以上の時間の流れていて、30年、40年のアヴァン・ロックの音楽が追憶の形式をとり、かすかに立ち上ってくる。


終盤でも、ゴードンがソニック・ユースやソロ活動を通して表現しようとしてきたことの集大成が構築されている。そこには一部の隙もなければ、遠慮会釈もない。「Shelf Warmer」では、ロンドンのドリルに近い手法が示される。しかし、オーバーグラウンドの音楽に属するとはいえども、商業主義やコマーシャリズムに一切媚びることなく、絶妙なラインを探っている。続く「The Believer」は、インダストリアル・ノイズに精妙な感覚を織り交ぜたワイアードなサウンドである。

 

クローズでは、Sleaford Modsの英国のポストパンク(当局が宣伝するものとは異なる)を吸収して、ゴツゴツとした硬派な感覚のあるアプローチを図る。そこに、盟友のYYY'sのサイケ・ガレージの色合いを添えていることは言うまでもない。『The Collective』はロサンゼルスでレコーディングされたアルバム。にもかかわらず、驚くほどニューヨークの香りが漂う作品なのである。



80/100

 


Best Track‐ 「Dream Dollar」

Bleachers 『Bleachers』


 

Label: Dirty Hit

Release: 2024/03/10

 

Purchase

 



 

デビュー・アルバムのアートワークがその多くを物語っているのではないだろうか。モノトーンのフォトグラフィ、ジョージ・ルーカスの傑作『アメリカン・グラフィティ』に登場するようなクラシックカー、そして、ニュージャージー郊外にあるような家、さらには、そのクラシックカーに寄りかかり、ナイスガイの微笑みを浮かべるアントノフ。テイラー・スウィフトのプロデューサーという音楽界の成功者の栄誉から脱却し、ロックグループとして活動を始めたアントノフの意図は火を見るよりも明らかである。アントノフが志すのは、米国のポピュラー音楽の復権であり、現代的なシンセポップやソフト・ロックの継承である。そしてなにより、空白の90年代のアメリカンロックの時間を顧みるかのような音楽がこのデビューアルバムを貫く。

 

ブリーチャーズのサウンドを解題する上で、アメリカン・ロックのボスとして名高いブルース・スプリングスティーンが少し前、後悔を交えて語っていたことを思い出す必要がある。ボスは80年代に『Born In The USA』で商業的な成功を収め、アメリカンロックの象徴として音楽シーンに君臨するに至る。しかし、スプリングスティーンのファンはご存知の通り、ボスは90年代にそれほど象徴的なアルバムをリリースしなかった経緯がある。本人曰く、実は結構、録り溜めていた録音こそあったのだったが、それが結局世に出ずじまいだったというのだ。


しかし、音楽的な傾向として見ると、現在は、むしろ80年代のソフト・ロックやAOR、そして、それより前の時代のニューウェイブに依拠したサウンドの方が隆盛である。そして、アントノフのブリーチャーズは、改めて90年代以降に軽視されがちだった80年代のスタンダードで健全なアメリカンロックに焦点を絞り、それをサックスを中心とする金管楽器の華やかな編成を交えたロックで新しいシーンに一石を投ずるのである。アントノフのサウンドは、ブルース・スプリングスティーン、ビリー・ジョエルのロックソング、フィル・コリンズのソフト・ロック、ジョージ・ベンソンやダイアナ・ロスのロックにかぎりなく近いR&B/ファンクとアーティストの並々ならぬ音楽への愛着が凝縮され、それがプロデューサー的なサウンドに構築されている。


 以前、アルバム発売前にアントノフがバンドとともに米国のテレビ番組に出演した時、アントノフはヴォーカルを披露しながら、自分でボーカルループのエフェクターを楽しそうに操作していた。ボーカルの編集的なプロダクションをライブで披露するという点では、カナダのアーケイド・ファイアと同じ実験的なロックサウンドを彼は志向している。それはプロデューサーとしては世界的に活躍しながらも、ミュージシャンとして表舞台に戻ってこれたことに対する抑えきれない喜びが感じられる。アントノフはプロデューサーになる前からバンド活動を行ってきたのだから、演奏者としての原点に戻ってこれたことに歓喜を覚えているはずなのである。なぜなら彼は、過去のグラミー賞の授賞式で次のような趣旨の発言を行った。「グラミー賞の栄誉に預かるのは、人生のどこかで、すべてを投げ捨てる覚悟で頑張ってきた者に限られる」と。おそらくアントノフもそういった覚悟でプロデューサーとしての道のりを歩んできた。


 

ということで、このアルバムはプロデューサーではなく、バンドマンとしての喜びが凝縮されている。本作の冒頭を飾る「I Am Right On Time」はニューウェイブ系のサウンドに照準を絞り、ミニマルなテクノサウンドを基調にしたロックが展開される。アントノフのボーカルはサブ・ポップからもう間もなくデビューアルバムをリリースする''Boeckner''のような抑えがたい熱狂性が迸る。アントノフは意外にも、JAPAN、Joy Divisionの系譜にあるロートーンのボーカルを披露し、トラックの背景のミニマルなループをベースにしたサウンドに色彩的な変化を及ぼそうとする。サビでは、今年のグラミー賞の成功例に即し、boygeniusのゴスペルからの影響を交え、魅惑的な瞬間を呼び起こそうとする。曲全体を大きな枠組みから俯瞰する才覚は、プロデューサーの時代に培われたもので、構成的にもソングライティングの狙いが顕著なのが素晴らしい。

 

「Modern Girl」は近年の米国の懐古的な音楽シーンに倣い、 ホーンセクションをイントロに配し、ビリー・ジョエルやブルース・スプリングスティーン、ジョージ・ベンソンのようなR&Bとロックの中間にあるアプローチを図る。Dirty Hitのプレスリリースでは、結婚式のようなシチュエーションで流れる陽気なサウンドとの説明があり、そういったキャッチコピーがふさわしい。華やかなサウンドとノスタルジックなサウンドの融合は、ブリーチャーズの真骨頂となるサウンドである。そこにブライアン・アダムスを彷彿とさせるアメリカン・ロックの爽快な色合いが加えられると、軽妙なドライブ感のあるナンバーに変化する。コーラスにも力が入っており、テイラー作品とは別の硬派なアントノフのイメージがどこからともなく浮かび上がってくる。


 

ニューウェイブからの影響は、続く「Jesus Is Dead」に反映されている。ドライブ感のあるシンセがループサウンドの形を取ってトラック全体に敷き詰められ、 ぼやくように歌うアントノフのボーカルには現代社会に対する風刺が込められている。ただ、それほど過激なサウンドになることはなく、The1975のようなダンサンブルなロックの範疇に収められている。バッキングギターとベースの土台の中で、シンセのシークエンスの抜き差しを行いつつ、曲そのものにメリハリをもたらす。このあたりにも名プロデューサーとしてのセンスが余すところなく発揮される。

 

続く「Me Before You」は、ドン・ヘンリーのAORサウンドを織り交ぜた、バラードともチルウェイブとも付かない淡いエモーションが独特な雰囲気を生み出す。現代的なポピュラーバラードではありながら、その中に微妙な和音のポイントをシンセとバンドアンサンブルの中に作り出し、繊細な感覚を作り出そうとしている。また80年代のソフトロックをベースにしつつも、アルト/テナーサックスの編集的なプロダクションをディレイとリバーブを交えて、曲の中盤にコラージュのように織り交ながら、実験的なポップの方向性を探ろうとする。しかし、アントノフのプロダクションの技術は曲の雰囲気を壊すほどではない。ムードやアトモスフィアを活かすために使用される。アンサンブルの個性を尊重するという点では、ジョン・コングルトンの考えに近い。このあたりにも、良質なプロデューサーとしてのセンスが発揮されている。

 

先行シングルとして公開された「Alma Mater」は、解釈次第ではテイラー・スティフト的なトラックと言える。ただもちろん、テイラーのボーカルは登場せず、そのことがイントロで暗示的に留められているに過ぎない。イントロのあと、雰囲気は一変し、渋さと深みを兼ね備えたR&B風のポップスへと変遷を辿る。ボーカルのミックス/マスターにアントノフのこだわりがあり、音の位相と音像の視点からボーカルテクスチャーをどのように配置するのか、設計的な側面に力が注がれている。実際に、それらの緻密なプロダクションの成果は淡いエモーションを生み出す。そして色彩的な音楽性も発揮され、それらはダブルのサックスの対旋律的な効果によりもたらされる。曲の後半では確かにレセプションのような華やかな空気感が作り出される。

 

 「Tiny Moves」はジョージ・ベンソンを彷彿とさせるアーバンコンテンポラリー/ブラックコンテンポラリーを下地に古典的なゴスペル風のゴージャスなコーラスをセンスよく融合させる。この曲は本作の中でもハイライトを形作り、アートワークのクラシックカーや、アメリカの黄金期、そしてナイスガイなイメージを音楽的に巧みに織り交ぜる。リスナーはアメリカン・グラフィティの時代のサウンドトラックのようなノスタルジックな感覚に憧れすら覚えるだろう。


「Isimo」は映画好きとしてのアントノフの嗜好性が反映され、実際にシネマティックなポップが構築されている。ブリーチャーズが表現しようとするもの、それは現代の米国のポップシーンの系譜に位置し、アメリカのロマンス、そして黄金期の時代の夢想的な感覚である。それらは実際に夢があり、気持ちを沸き立たせるものがある。そしてここでも80年代のマライア・キャリー、ホイットニー・ヒューストンのようなダイナミックなポピュラー・ソングをバンドアンサンブルとして再解釈し、あらためてMTVの最盛期の音楽の普遍性を追求しようとしている。

 

アルバムは後半部に差し掛かると、いきなり、クラシックな音楽からモダンな音楽へとヴァージョンアップするのが特に心惹かれる点である。#8「Woke Up Today」はバンジョーのようなアコースティックギターの演奏を生かしたフォークソングだ。 この曲で、ブリーチャーズはやはりアパラチアフォークや教会音楽のゴスペルといったアメリカの文化性の源泉に迫り、 ニューイングランドの気風を音楽的な側面から探求する。ゴスペル風のコーラスにこだわりがあり、それが吟遊詩人的なアパラチア・フォークの要素で包み込まれる。草原の上に座りこみ、アコースティックを奏でるような開放感、ブルースの源流をなすプランテーション・ソングを高らかにアントノフは歌う。それは19~20世紀初頭の鉄道員のワークソングのような一体感のある雰囲気を生み出す。続く「Self Respect」でもミニマル・ミュージック/テクノを下地にし、パルス状のシンセをベースに、USAの文化の原点に敬意を表す。そして、敬意と愛、そして慈愛に根ざした感覚は、ゴスペルの先にある「New Gospel」という現代的な音楽を作り出す契機となる。

 

ジミ・ヘンドリックスの名曲に因んだ「Hey Joe」ではアコースティック・ブルースの要素が現れる。アントノフとブリーチャーズはジョン・リー・フッカーやロバート・ジョンスンよりもさらに奥深いブルースソングに迫り、それを現代的に変化させ、聞きやすいように昇華させる。それらの音楽的な礎石の上に、アントノフは現代的な語りのスポークンワードを対比させる。ロックやブルースへのアントノフやバンドの愛着が凝縮されているが、それは決して時代錯誤とはならず、徹底して新しい音楽や未来の音楽に彼らは視線を向け、それを生み出そうとする。



アルバムの残りの4曲はジョン・バティステのような現代の象徴的なR&B、オートチューンをかけたシーランのようなポピュラーソングが付属的に収録されている。アルバムを聴いてくれたリスナーへのねぎらいとも取れるが、その中にも次なるサウンドへの足がかりとなる要素も見いだせる。


例えば、「Call Me AfterMidnight」はクインシー・ジョーンズのアーバン・コンテンポラリーを受け継ぎ、そのサウンドをAOR/ソフト・ロックの文脈から解釈している。その他にも、「We' Gonna Know Each Other Forever」は友情ソングともいえ、それは映画のクライマックスを彩るエンディングのようなダイナミックなスケールを持つポピュラーバラードの手法が選ばれている。

 

「Ordinary Heaven」でもアルバムの冒頭と同様にゴスペル風のコーラスワークを交えてポピュラーソングの理想形を作り出そうと試みる。クローズ「The Waiter」はオートチューンのボーカルを駆使し、2010年代のシーランのポピュラー性を回顧しようとしている。思っていた以上に聴きごたえがある。


『Bleachers』の序盤には、アントノフとバンドの才覚の煌めきも見えるが、アルバムの終盤が冗長なのがちょっとだけ難点で、既存のサウンドの繰り返しになり、反復が変化の呼び水になっていないことがこのアルバムの唯一の懸念事項といえるかもしれない。ただ、デビュー作して考えると、注目すべき良質なポップナンバーが複数収録されている。本作をじっくり聴いてみると、アントノフ率いるブリーチャーズが何を志すのかありありと伝わってくるはずである。

 

 

 

Best Track- 「Tiny Moves」

 




82/100




Bleachers:




明るくソウルフルなテクニカラーに彩られた「Bleachers」では、バンドのサウンドに豊かな深みがある。このアルバムは、フロントマンのアントノフが、現代生活の奇妙な感覚的矛盾や、文化における自分の立場、そして自分が大切にしているものについて、ニュージャージーならではの視点で表現したものだ。


サウンド的には、悲しく、楽しく、ハイウェイをドライブしたり、泣いたり、結婚式で踊ったりするための音楽だ。クレイジーな時代にあっても、大切なものは忘れないという、その心強さと具体的な感情に触れることができる。


2014年にデビュー・アルバム「Strange Desire」をリリースしたバンドは、3枚のスタジオ・アルバムで熱狂的な支持を集め、印象的なライヴ・ショーと感染力のある仲間意識で有名になった。前作「Take the Sadness Out of Saturday Night」では、アントノフの没入感のあるソングライティングと、Variety誌が証言するように「個人的なストーリーを、より大きなポップ・アンセムに超大型化する」生来のスキルが披露され、バンドは新たな高みへと到達した。


ブリーチャーズでも、ソングライター、プロデューサーとしても、2021年にBBCから「ポップ・ミュージックを再定義した」と評価されたアントノフは、テイラー・スウィフト、ラナ・デル・レイ、ザ・1975、ダイアナ・ロス、ローデ、セント・ヴィンセント、フローレンス+ザ・マシーン、ケヴィン・アブストラクト等とコラボレートしてきた。

 

ムスタファ・ザ・ポエットとして知られるトロントのミュージシャン、ムスタファ(Mustafa)がjagujaguwarと契約し、シングル「Imaan」をリリースした。ムスタファはイスラム圏の文化性をポピュラー音楽として世界に向けてアピールする。

 

『Imaan』は神と目的を求める2人のラブソングなんだ」とムスタファは声明で説明した。「それは、私たちが証拠を持っていないすべてへの憧れについて。2人のイスラム教徒が、国境のない西洋のイデオロギーへの愛と、それが彼らが育てられた慎みと献身とどのように矛盾するかを旅している」


スーダンの弦楽器とエジプトのウードが、アメリカの民謡のコードとドラムに織り込まれている。このタペストリーと突こそが歌であり、ロマンスであり、ムスタファという人間だ。十分ではないし、多すぎることもない。この曲は、信仰を持つ人々が生きることを恐れながらも共感するグレーの中に存在する。ムスタファとイマーンの下で、信仰がロープのように揺れ動く様子が歌われている。文化的緊張や偏見や人種差別が、どのようにロマンスに影響を与え、バラバラにしてしまうのか。


「Imaan」は、先に公開された「Name of God」とともに、まだ発表されていないムスタファのデビューアルバムに収録される。

 


「Imaan」ーBest New Tracks

 


ケヴィン・バーンズのプロジェクト、Of Montreal(オブ・モントリオール)がニューアルバム『Lady on the Cusp』の制作を発表した。

 

オブ・モントリオールはファーストシングル「Yung Hearts Bleed Free」のミュージックビデオを公開した。また、新しいツアー日程も発表された。『Lady on the Cusp』は5月17日にPolyvinylからリリースされる。

 

プレスリリースによると、バーンズは「あなたが差し出すどんな代名詞にも答える」という。1996年以来、ジョージア州アテネの音楽シーンに定着していたバーンズと彼のパートナーであるミュージシャンのクリスティーナ・シュナイダー(別名ロケテS、1)は、最近、より先進的なバーモント州へと南部を離れた。

 

この引っ越しは、バーンズが30年近くアテネで音楽を作ってきたことを振り返りながら、彼らが引っ越しの準備をしているときに書かれ、レコーディングされた新しいアルバムに影響を与えた。


『Yung Hearts Bleed Free』について、バーンズはプレスリリースで次のように語っている。

 

「レオス・カラックス監督の映画『Boy Meets Girl』、ブーツィーの『Rubber Band』、そして最近買ったヤマハのTG33とカワイのK1Mに影響を受けた。闊歩するような、セクシーで小さなバンプのような曲を作りたかったんだ」

 


Of Montreal 『Lady on the Cusp』


Label:  Polyvinyl

Release: 2024/05/17


Tracklist:


1. Music Hurts the Head

2. 2 Depressed 2 Fuck

3. Rude Girl on Rotation

4. Yung Hearts Bleed Free

5. Soporific Cell

6. I Can Read Smoke

7. PI$$ PI$$

8. Sea Mines That Mr Gone

9. Poetry Surf

10. Genius in the Wind

 

Pre-order(INT):

 

https://of-montreal.ffm.to/lady-on-the-cusp 

 

 

 「Yung Hearts Bleed Free」

 



Griff(グリフ)は新曲「Miss Me Too」を発表した。この曲は、自分自身に戻る道を見つけること、そして、年を取り賢くなったはずの自分が自信を失うという、あまり語られることのない皮肉について歌っている。


このシングルについて、グリフはこう語っている。「『Miss Me Too』は、失恋や成長の後、中途半端な自分の姿から抜け出せず、かつて世界や愛を信じていた自分の姿はどこに行ってしまったのだろうと思うことについて歌っているんだ。この曲は、新しい曲を書くために予約した小さなAirbnbのひとつで書いたんだ。『Black Hole』で一緒に仕事をした)LostboyとSIBAに場所をメールして、キッチン兼リビングルームをスタジオに改造して『Miss Me Too』を書いたんだ」。


このシングルは、グリフが最近リリースしたEP『vert1go vol.1』に続くもので、シングル "Vertigo "に先行し、コールドプレイのクリス・マーティンとのコラボ曲 "Astronaut "も収録されている。EPリリースに伴い、グリニッジ王立博物館のクイーンズ・ハウスで撮影されたライブ・ショート・パフォーマンスも公開された。



 

©︎Alex Da Corte

NYのシンセポップのスターシンガー、St.Vincent(セント・ヴィンセント)が次作アルバム『All Born Screaming』を発表した。ヴァージン・ミュージック・グループから4月26日にリリースされる。


『Daddy's Home』に続くセルフ・プロデュース・アルバムには、デイヴ・グロール、ケイト・ル・ボン、ジャスティン・メルダル=ジョンセン、ジョシュ・フリース、ステラ・モグザワ、レイチェル・エクロス、マーク・ギリアナ、デヴィッド・ラリッケが参加。リード・シングル「Broken Man」は、アレックス・ダ・コルテ監督、フィラデルフィアで撮影されたミュージック・ビデオとともに到着した。アルバムのアートワークとトラックリストは下記を参照のこと。


『All Born Screaming』は、アニー・クラーク自身がセント・ヴィンセントのアルバムを初めてプロデュースし、シアン・リオダンがミックスを担当した。ロサンゼルスのCompound Fractureスタジオ、ニューヨークのElectric Lady、シカゴのスティーヴ・アルビニのElectrical Audioでレコーディングされた。


「感情的に、自分の心が本当は何を言っているのかを知るために、一人で森の中を長く歩かなければ辿り着けない場所がある」と彼女はプレスリリースで語っている。「それが本物であるからこそ、本物らしく聞こえるのです」


レコーディングに関して、アニー・クラークは次のように語った。「このアルバムは、ポスト・ペスト・ポップだと思いたいし、天国と地獄、つまり比喩的な表現が多い。スタジオに一人で何時間も座っているのは地獄の一種と言えるから」


彼女は、このアルバムにはデイヴ・グロールーとケイト・ルボンをレコーディングに招聘すると語っている。さらに、70年代と80年代に通じるアナログ・シンセとギターロックのアプローチが強いと付け加えた。「最も苛烈なサウンドであると同時に、サウンド的に開花していると思う。杭を打つような、意図的なサウンドだと思う」


クラークは新作アルバムについて、彼女のキャリアの中で "最も笑えないアルバム "だとユーモアを交えて語っている。「前作では、私は多くの痛烈なユーモアとウィットをもってタフなテーマにアプローチしていました。このアルバムは、よりダークでハードで、骨格に迫っている」と。



St.Vincent    『All Born Screaming』


Label: Virgin Music

Release:  2024/04/26


Tracklist:

1. Hell is Near
2. Reckless
3. Broken Man
4. Flea
5. Big Time Nothing
6. Violent Times
7. The Power’s Out
8. Sweetest Fruit
9. So Many Planets
10. All Born Screaming [feat. Cate Le Bon]


Pre-order(INT)




「Broken Man」-Lead Single

 

©︎Steve Gullick

PJ Harveyはニューシングル「Seem An I)」を発表した。フルアルバムの制作を終えてなお、アーティストのクリエイティビティが旺盛であることを明確に示している。

 

「ルースと私は、クリオ・バーナード監督の映画『ダーク・リバー』で共演したことがきっかけで友達になった。ルースの役者としての仕事ぶりをずっと尊敬していたので、何らかの形でまた一緒に仕事ができたらと長い間夢見ていた」


「コルム・ベアード監督と仕事をする機会が巡ってきたとき、ルースが私と同じように高く評価している監督であることを知っていたので、彼女にこの映画に出演してもらえないかとお願いするのは正しいことだと思いました」と彼女は続ける。「出来上がった短編映画は、ルースの不思議な存在感と、コルムのユニークなビジョンによって、美しく感動的なものになったと思う」


この曲は、PJハーヴェイにとって、高評価を得た2023年のアルバム『I Inside The Old Year Dying』(Reviewを読む)以来の新曲であると共に、7年ぶりとなる北米ツアーの前哨となる。イギリスの16日間のに及ぶツアーでは、最新アルバムの全曲演奏に加え、彼女の10枚のアルバムディスコグラフィからの楽曲も披露される予定。

 

「Seem An I」


 



イギリスを代表するミュージシャン、ポール・ウェラーがニューアルバム『66』を発表しました。新作アルバムはポリドールから5月24日にリリースされる。発表と同時にファーストシングル「Soul Wandering」を公開しました。「Soul Wandering」のリリック・ビデオは以下から、アルバムのトラックリストとジャケット・アートワークは以下からご覧下さい。

 

アルバムのタイトルは、ウェラーがアルバムの前日に66歳を迎えたことを記念して名づけられました。


ウェラーはもちろん、ザ・ジャムとスタイル・カウンシルの両方に在籍していたが、ソロとしても数十年のキャリアを持つ。『66』は、イギリスのサリー州にある自身のスタジオ、ブラック・バーンで3年かけてレコーディングされた。アルバムには、マッドネスのサグス、オアシスのノエル・ギャラガー、プライマル・スクリームのボビー・ガレスピーが作詞に参加しています。

 

Say She She、ドクター・ロバート、リチャード・ホーリー、スティーヴ・ブルックス、マックス・ビーズリーもアルバムの制作に貢献しています。サー・ピーター・ブレイクがアルバムのアートワークを手がけています。ウェラーとは1995年の『Stanley Road』以来の共同作業となった。


 

 こちらの記事もおすすめです:      ザ・スタイル・カウンシルの名曲「MY EVER CHANGING MOODS」 フォークランド紛争の時代におけるジャーナルの視点 



Paul Weller 『66』


Label: Polydor

Release: 2024/05/24

 

Tracklist:


1. Ship of Fools

2. Flying Fish

3. Jumble Queen

4. Nothing

5. My Best Friend’s Coat

6. Rise Up Singing

7. I Woke Up

8. A Glimpse of You

9. Sleepy Hollow

10. In Full Flight

11. Soul Wandering

12. Burn Out


Pre-order(INT): 

 

https://paulweller.lnk.to/66AlbumYT



「Soul Wandering」

 



新時代のポップスター、ダブリンのシンガーソングライター、ルーシー・ブルーが昨年末のフルアルバム以来のニューシングルでカムバックを果たした。一点の曇りもない天才シンガーの登場。


22歳のシンガーソングライターは、黙示録的な写真撮影、火山でのセッション、そして2月の春をフィーチャーし、"私たちは皆、世界の終わりから電話1本で行けるところにいる "と、無邪気な終焉のイメージを描いている。



ダブリン出身で、パンデミック(世界的大流行)の最中にデビューしたこの若きヴォーカリストは、フランク・オーシャンやPJハーヴェイから影響を受けながら、ユニークで個性的なサウンドを完成させるのにそれほど時間を費やさなかった。野心的な青春ポップ・トラックは、ブルーの独創性と信頼性を完璧に表現している。


「世界の果てがどこであろうと、あなたが踊っていることを願っています」とシンガーは自身のインスタグラムに書いている。



「End of  The World」

 


ジャスティン・ティンバーレイクが、近日発売予定のアルバム『Everything I Thought It Was』からの新曲「Drown」を公開しました。


アルバム発表時に配信されたリード曲「Selfish」に続くこの曲は、ティンバーレイク、ルイス・ベル、ヘンリー・ウォルター、エイミー・アレン、ケニオン・ディクソンが作曲し、ベルとサークットと共にプロデュースした。以下からチェックしてみよう。


『Everything I Thought It Was』は3月15日にRCAからリリースされます。ティンバーレイクは先月、サタデー・ナイト・ライブでトビー・ンウィグウェをフィーチャーした新曲「Sanctified」を初披露しています。


Colouring


「僕はかねてから音楽の中で自分の人生を正直に語るよりも、シナリオを作る側にいた」と、ジャック・ケンワーシーはベラ・ユニオンから発売されるセカンド・アルバム『Love To You, Mate』について語る。「自分の物語じゃないから、怖くなくなった。それは本来、共有すべきものなんだから」


ノッティンガムを拠点に活動するソングライター兼プロデューサーの人生は、デビュー・アルバム『Wake』のリリースを数ヵ月後に控えた2021年2月、義理の弟グレッグ・ベイカーがステージ4のガンと診断されたことで一変した。その後の人生は、一人の青年の人生を分断させることに執念を燃やしているように思えた。彼は、結婚したパートナー、ヘレンを支える柱になる必要があると特に自覚していたが、逆境に直面した家族が共に歩む道のりは、残酷でありながら美しいものであった。


「もちろん、私たちはとても怖かった」とケンワーシーは、アルバムのタイトル・トラックに刻まれた、病院で過ごした次のクリスマスについて回想している。「それでも、彼らはとても前向きで、優しくて、感動的な人々で、すべてを投げつけられて、信じられないような一体感と精神でそれに対処していた。私たちは皆、彼が私たちの人生にいてくれたことにとても感謝している」


Colouringは『Wake』以来ソロ・プロジェクトとして活動しており、このアルバムは00年代のポスト・ブリットポップの大御所たち(初期のコールドプレイ、エルボー)と並んでブルーナイルの影響を受けつつ、レディオヘッドやジェイムス・ブレイクからエレクトロニックとリズムのヒントを得ている。もともとはゴールドスミス在学中に4人の友人で結成されたバンドだったが、2019年に自然消滅した。バンドは2017年にEPをリリースした際に、ダーティーヒットの看板アーティスト、The 1975、ジャパニーズハウスとライブで共演した。特にこのとき、ケンワーシーはThe 1975のことを褒め讃え、学ぶべき点があったと語った。


2020年初頭、ケンワーシーの長年のコラボレーターであるジャンルカ・ブチェラーティ(アーロ・パークス)が、彼がプロジェクトを畳むという考えを一笑に付したおかげで踏ん切りがつき、ケンワーシーは普段しているように、栄養補給と逃避の手段として強迫的に作曲にのめりこむようになった。


グレッグが病気で倒れた頃、ジャックは「新しい音のパレット」を作っていた。「ただ書きたいことを書けばいい、何でも好きに言えばいい。問題が有れば後で歌詞を変えればいいんだから。その1年間、家族からのあるフレーズが彼の頭の中にこびりつくことになる。"どうしてこんなにリアルになったの?"とヘレンに言われたこともあった。「そして何かを書いているうちに、結果的にそういった感じの曲になってしまった」  激動の時代についてアルバムを作ろうという「本当の意図はなかった」ものの、「なんとなくそうなった」のだとか。



『Love To You,Mate』- Bella Union


Colouringこと、ジャック・ケンワーシーは元々は同名のバンドで活動していたが、2019年を境にソロ活動に転じている。彼はボン・イヴェールの次世代のポピュラーシンガーで、同時にエド・シーランのようなクリアなイメージを持つ歌唱力を持つ。彼が音楽的な影響に挙げるのは、ニール・ヤング、ジョニ・ミッチェルといった古典的なポピュラー、フォークシンガー。それに加えて、イヴェールのような編集的なプロダクションについては、エラード・ネグロとも共通項が見いだせる。ただケンワーシーの主要なソングライティングは、Jamie xxのようなエレクトロニックの影響下にあると思うが、それほど癖はない。つまり、カラーリングの曲は、どこまでも素直で、シーランのようであるのはもちろん、ルーシー・ブルーのような聞きやすさがある。

 

ケンワーシーは義理の弟の病の体験をもとにして、みずからの家庭の妻ヘレンとの関係、そしてそれらがどのような家族の関係を築き上げるのかを体験し、そこから逃げたりすることはなかった。誰かに押し付ける事もできたかもしれない。自分とは無関係と責任を放棄することもできただろう。それでも、結局、かれは、人間の生命の本質がどのように変わっていくのか、その核心に触れたことにより、実際にアウトプットされる音楽にも深みがもたらされた。がんになると、人間は驚くほど、その風貌が一変してしまうものだ。そして一般的に、その様子を見ると、自らの中のその人物の記憶がそもそも誤謬であったのではないかとすら思うこともある。


つまり、それは記憶の中にいる人物がだんだんと消し去られていくことを意味する。がんになった親戚がどのように元気だった頃に比べ、見る影もないほど窶れていく様子を見たことがあったけれど、それは悲しいことであるのと同時に、人間の生命の本質に迫るものである。つまり、どのような生命も永遠であるものはなく、必ずどこかで衰退がやってくるということなのだろう。それは生命だけにとどまらない、万物には、栄枯盛衰があり、栄えたものはどこかで衰える運命にある。世界には、不老不死や若返りを望む人々は多い。それは、有史以来、秦の始皇帝も望んでいたことだ。けれども、言ってみれば、それは生きることの本質から目を背けることである。そこで、人は気づく時が来る。どのような命も永遠ではないということ思うのだ。


カラーリングのアルバムは、しかし、そういった複雑な音楽的な背景があるのは事実なのに、そういった悲哀や憂鬱さを感じさせないのは驚異的である。もっと言えば、エド・シーランの曲のように、感情表現が純粋であり、淀みや濁りがほとんどない。アルバムの全体を通して、リスナーはカラーリングの音楽がさっぱりしていて、執着もなく、後腐れもないことを発見するはずだ。崇高とまでは言えまいが、ケンワーシーが現実とは異なる領域にある神々しさに触れられた要因は、彼が音楽を心から愛していること、それを単なる商業的なプロダクションとみなしていないこと、そして、2017年頃に彼自身が言った通り、「普遍的な愛がどこかにある」ということを信じて、それを探し求めたということである。ベラ・ユニオンのプレスリリースに書かれている通り、彼は音楽というもう一つの現実を持っていた。そして、ジャックはそれをみずからの音楽的な蓄積により、素晴らしいポピュラー・プロダクションを作り上げたのだ。

 

推測するに、ここ数年のジャック・ケンワーシーの私生活は、何らかの家族という関係に絡め取られていたものと思われる。それはときに、苦悩をもたらし、停滞を起こし、そして時には、耐えがたいほどのカオスを出来させたはずである。しかし、とくに素晴らしいと思うのは、彼はそれらのことを悔やんだり、恨みつらみで返すわけではなく、ひとつのプロセスとし、その出来事を体験し、咀嚼し、それらを最終的にクリアなポピュラー音楽として昇華させる。


アルバムの全体を聴くと分かるとおり、『Love To You, Mate』は最初から最後までひとつの直線が通っている。停滞もなければ、大きな目眩ましのような仕掛けもない。数年の出来事と経験をケンワーシーは噛み締め、どこまでも純粋なポピュラー音楽として歌おうとしている。彼の普遍的な愛の解釈に誤謬は存在しない。それは誰にでもあり、どこにでも存在する。つけくわえておくと、愛とは、偏愛とはまったく異なる。それは誰にでも注がれているものなのである。

 

結局のところ、そのすべてがアーティスト自身の言葉によって語られずとも、音楽そのものがその制作者の人生を反映していることがある。このアルバムからなんとなく伝わってきたのは、彼は学んだ本当の愛ーーそれは苦さや切なさを伴うーーを誰かと共有したかったのではないだろうか。そして、それはひとつの潜在的なストーリー、もうひとつのリアリティーとして続く。

 

「For You」はその序章であり、オープニングである。このアルバムの音楽は基本的にヒップホップのブレイクビーツを背景に、シーランを思わせるジャック・ケンワーシーの軽やかなボーカルが披露される。さらに、彼のボーカルに深みを与えているのが、ジェイムス・ブレイクのような最初期のネオソウルを介したポップスのアプローチである。オープナーは、驚くほど軽快に過ぎ去っていく。ピアノとギターのスニペットを導入することで、 深みをもたらすが、それは冗長さとか複雑さとは無縁である。どこまでもさっぱりとした簡潔なサウンドが貫かれる。

 

「I Don' t Want You To See You Like That」は ブレイクビーツやサンプリングを元にしたドラムのシャッフル・ビートを展開させる。オープナーと同じように、ジェイムス・ブレイクの影響下にあるネオソウル調のポップが続く。編集的なプロダクションはボン・イヴェールに近いものを感じるが、一方で、きちんとサビを用意し、シーランのようなアンセミックな展開を設けている。繊細なブリッジはピアノのアレンジやしなるドラム、北欧のエレクトロニカを思わせる叙情的なシンセにより美麗なイメージが引き上げられる。大げさなサビのパートを設けるのではなく、曲の始まりから終わりまで、なだらかな感情がゆったりと流れていくような感覚がある。

 

アルバムに内在するストーリーは、純粋なその時々の制作者のシンプルな反応が示されている。「How 'd It Get So Real」では戸惑いの感覚が織り交ぜられているが、しかし、その中でジャックは戸惑いながらも前に進む。冒頭の2曲と同じように、ブレイクビーツのビートを交えながら、なぜ、このようなことが起こったのか、というようなケンワーシーの戸惑いの声が聞こえて来そうである。それらが暗鬱になったり落胆したりしないのは、彼が未来に進もうとしているから。つまり、その瞬間、それはすべて背後に過ぎ去ったものとなる。この曲でも、サビの旋律の跳ね上がりの瞬間、言い知れないカタルシスを得ることが出来る。そして曲の中盤では、すでにそれらは彼の背後に過ぎ去ったものになる。そのとき、現実の中にある戸惑いや苦悩を乗り越えたことに気づく。そして、アウトロではやはり、ケンワーシーのコーラスとともに、ピアノの清涼感のあるフレーズが加わると、最初のイメージが一変していることに気づく。

 

 ポスト・ブリット・ポップの影響は続く「Lune」に反映されている。ここではコールドプレイを思わせる清涼感のある旋律に、ボン・イヴェールの編集的なプロデュースの手法を加え、モダンなUKポップスの理想像を描こうとする。シンガーの高音部のファルセットに近いメロディーが示された時、奇妙なカタルシスが得られる。続いて、ピアノのきらびやかなアレンジが夢想的な感覚を段階的に引き上げる。これらの独創的な高揚感は、フェードアウトに直結している。最近、意外とフェードアウトを用いるケースが少ないが、曲がまとまりづらくなったときのため、このプロデュースの手法を頭の片隅に置いておくべきかもしれない。実際、フェードアウトは感覚的な余韻を残させる効果があり、この曲では、その効果が最大限に発揮されている。 

 

 「Lune」

 

 

ジャック・ケンワーシーは、ジェイムス・ブレイク、トム・ヨークに近い作曲も行う。イギリスらしいアーティストと言えるが、彼はもうひとつの音楽的な引き出しを持っている。それがアイスランドのポップスで、続く「A Wish」ではアコースティックピアノを中心として、ポスト・クラシカル/モダン・コンテンポラリーの影響下にあるポピュラーミュージックを展開させる。


ピアノの演奏についてはニューヨークでモデルをした後に音楽家に転向したEydis Evensen(アイディス・イーヴェンセン)と、Asgeir(アウスゲイル)の中間にあるようなアプローチである。氷の結晶のように澄んだピアノに加え、ネオソウルの影響下にあるボーカルが清涼感を生み出す。


複雑な展開を避け、メロを1つのブリッジとしてすぐにサビに移行する。サビが終わると、イントロの静かなモチーフへと舞い戻る。最近、曲の構成が複雑化していることが多いが、音楽のシンプルさが重要であるのかをこの曲は教えてくれる。サビの段階では、エド・シーランに近い印象を覚えるが、ジャック・ケンワーシーの歌唱には驚くほど深みがある。それらを支えるのが祝福的な金管楽器のレガート、そして、ディレイを加えた編集的なプロダクションである。

 

素晴らしい曲が2曲続く。「This Light」は、エレクトロニックサウンドを基調としたポップで、ケンワーシーのボーカルはスポークンワードに近いボーカルを披露する。表向きの声にはゴールデン・ドレッグスのベンジャミン・ウッズのような人生の苦味を反映させた枯れた感じの渋さがあるが、サビでは、やはり祝福されたような高らかな感覚が生み出される。しかし、ある種、高揚感に近いテンションは、喧噪や狂乱には陥らず、すぐに静謐で落ち着いた展開へと戻る。ここにソングライターとしての円熟味、人間としての成長ともいうべき瞬間を見いだせる。最も理想的な音楽とは、狂乱を第一義に置くべきではなく、常に地に足がついた表現であるべきだ。そして、歌手の心のウェイヴを表現するように、ジャックのボーカルのメロディーの周りをシンセのアルペジエーターが取り巻き、彼のリードボーカルの感情性を高めていく。

 

タイトル曲「Love To You, Mate」は、ケンワーシーが古典的なポピュラー・バラードに挑戦したナンバーである。このトラックは、とくに義弟の病と家族の関係について書かれているようだが、それは先週のアイドルズの『Tangk』と同じように愛について歌ったもの。しかし、そのアプローチは対極にある。ジャックは一年の思い出、そして次のクリスマスへの思いをほろ苦い感覚を交え、回想するように歌う。しかし、彼は、それがどのようにほろ苦く、切なく、胸を掻きむしるようなものであろうとも、最終的には、それをシンプルな愛情で包み込もうとする。かつて、キース・ジャレットが『I Love You, Porgy』で、献身的に看病してくれた最愛の妻に対し、最大の感謝をジャズ・ピアノで示したように、ケンワーシーはポップ・バラードという形でそれらの思いに報いようとしている。その明るい気持ちが聞き手に温かい感情をもたらす。

 

「Coda」は、クラシック音楽の用語で「作曲家が最後に言い残したことを補足的に伝える」という意味がある。「A Wish」と同じように、アイスランドのポスト・クラシカルに根ざした流麗なピアノ曲のアルペジオを通して、ジャック・ケンワーシーは過去にある家族との思い出に美しい花を添える。花を添えるとは惜別であり、彼の一年間やそれ以上の期間との思い出に対する別れを意味する。この曲では簡潔でスムーズな展開を通して、歌手としての真骨頂が立ち現れる。とくに、ジャックのファルセットによる歌声は、ボーイ・ソプラノのようなクリアな領域に達する。この瞬間に真善美というべきなのか、最も美しい瞬間が訪れる。それは息を飲むような緊迫感を覚えるのと同時に、程よい力の抜けたようなリラックスした感覚が溢れ出す。


アンビエント風の実験的なインストゥルメンタル「small miracles」を挟んで、続く「For Life」では再び軽快なポップに還っていく。この曲では、アルバムの序盤と同様に、トラックにブレイクビーツの処理が施されているが、ケンワーシーのボーカルの性質はジェイムス・ブレイクというより、「KID A」の時代のトム・ヨークの影響下にある。独特なトーンを揺らすような歌唱法は、現代的なベッドルームポップ/インディーポップのアプローチと結びついて、ドイツの同ジャンルのアーティスト、クリス・ジェームスの主要曲のような軽やかさと疾走感をもたらす。


同じように、「Big Boots」の軽快なインディーポップソングで、アルバムは終わる。しかし、聞き終えた後、驚くほど後味が残らず、清々しい感じがある。それはまさしく、ジャック・ケンワーシーが過去の人生の苦みを噛み締めた上で、明るい未来に向けて進み始めている証拠である。

 

 

92/100

 

 

 「Coda」

 

先週のWEFは以下よりお読みください:

 


ナターシャ・カーンは、5月31日にMercury KXからリリースされるBat For Lashes(バット・フォー・ラッシーズ)の6枚目のアルバム『The Dream Of Delphi』を発表しました。


このアルバムは、2020年の夏に生まれた娘の名前にちなんだもので、カーンの音楽に対する予期せぬインスピレーションとなった。「母になったことで、私は自分のアートから遠ざかってしまうと思っていたのですが、この巨大な世界が開かれたのです」とカーンは言う。


『デルフィの夢』は、"霊性、先祖、民間伝承についての献身的な愛の歌 "を通して、母性について歌ったコンセプト・アルバム。メアリー・ラティモアがカウライターとして名を連ね、バット・フォー・ラッシズらしく、ナターシャ曰く "アルバムのマニフェスト "である、うねるようなスロー・ビルドの美しさを持つタイトル・トラックで幕を開けます。


カーンはこう続けています。「まるで魔法をかけられたみたい。呪文を唱え、顕現させ、エーテルからデルフィを引き寄せる。これは私が彼女の魂に呼びかけたもの。星に上り、同時に冥界に下るということ、天界と深い小声のサウンドがどのように一緒になるのか、それがどのように私の旅路を反映するのかということ。肉体的にも、精神的にも、そして膣内でも引き伸ばされたときに何が起こるか、ということなんだ」


「母親になって、私も謙虚になったと思う。今まで感じたことがないほど、傷つきやすくなった。でも、より人間らしく、より体現していると感じる。以前のように美しいものを作ることで、人生から逃れることはできない。でも、今は自分の死に対する美しさのようなものがある」



Bat For Lashes  『The Dream of Delphi』




Tracklist:


1. The Dream Of Delphi

2. Christmas Day

3. Letter To My Daughter

4. At Your Feet

5. The Midwives Have Left

6. Home

7. Breaking Up

8. Delphi Dancing

9. Her First Morning

10. Waking Up

11. The Dream of Delphi (Bonus Extended Strings Version)

 

 

 「The Dream of Delphi」

 

©Lola Banet


DJ/ソングライター、Nia Archieves(ニア・アーカイヴス)は、デビューアルバム『Silence Is Loud』を発表しました。4月12日にHIJINXX/Island Recordsから発売されます。


先行シングル「Crowded Roomz」に続き、タイトル・トラックを公開しました。アルバムのジャケットとトラックリストは以下の通りです。


ニア・アーカイヴスは、FKA TwigsやDavid Byrne(デヴィッド・バーン)との仕事で知られるソングライター兼プロデューサーのイーサン・P・フリンと新譜の制作に取り組みました。「より歌に焦点を当て、ジャングルに面白いサウンドを乗せるものを作るつもりだった」と述べています。 

 

 

『Silence Is Loud』



Nia Archives 『Silence Is Loud』


Label: HIJINXX/Island Records

Release: 2024/04/12

 

Tracklist:


1. Silence Is Loud

2. Cards On The Table

3. Unfinished Business

4. Crowded Roomz

5. Forbidden Feelingz

6. Blind Devotion

7. Tell Me What It’s Like

8. Nightmares

9. F.A.M.I.L.Y

10. Out Of Options

11. Silence Is Loud (Reprise)

12. Killjoy !

13. So Tell Me…

 


ロンドンのシンガーソングライター、Holly Humberstone(ホリー・ハンバーストーン)が、新曲「Dive」とともに「Work in Progress EP」の詳細を発表しました。EPは3月15日に発売されます。アーティストはつい最近、東京に滞在し、ミュージックビデオを撮影したのは記憶に新しい。

 

2023年のデビュー・アルバム『Paint My Bedroom Black』に続くこの4曲入りコレクションは、長年のコラボレーターであるロブ・ミルトン、ソングライターのベン・レフトウィッチと共に2022年に書き下ろされたもので、フライテのウィル・テイラーとプロデューサーのアンドリュー・サルロとの新たなコラボレーションをフィーチャーしています。「Dive」の試聴は以下からどうぞ。


「すべての曲は、進行中の作業として始まる。ある曲はデモやアイデアとして残り、またある曲はプロダクションによって新たな生命を見出す」ハンバーストーンは声明でこう語っています。

 

「アーカイブをさかのぼっていくと、失われた昔の自分と今の自分が混在しているのを発見したんです。デビュー・アルバムをリリースし、ツアーを再開した今年、ファンのために進行中の作品としてリリースしたかったのです。私はとても現在進行形だし、この作品群は衝動的であって、むしろ意識の流れのように感じられると思います」

 

「"Dive”は今日ドロップする最初の曲よ」とハンバーストンは続けました。「この曲は数年前、ある男性に私と関わらないように、という警告として書きました。彼を傷つけてしまうんじゃないかってとても心配でした。過去と現在の恋愛の山あり谷ありについて考えるたびに、人生は常に進化していて、予測できない形で変化していくものだ、ということを思い出させてくれました」

 

 

「Dive」



12月、ホリー・ハンバーストーンはMUNAと組み、「Into Your Room」の新バージョンを発表した。



Holly Humberstone 『Work in Progress』


Tracklist:


1. Dive

2. Work In Progress

3. Down Swinging

4. Easy Tiger

 

Tour Schedule:


FEBRUARY


13 Trabendo, Paris
14 Melkweg MAX, Amsterdam
16 DR Studie 2, Copenhagen
17 Fryshuset (Klubben), Stockholm
18 Knust, Hamburg
20 Hole44, Berlin
21 MeetFactory, Prague
22 Simmcity, Vienna
24 Strom, Munich
25 Mascotte, Zurich
27 Rockhal, Luxembourg
28 Gebäude 9, Cologne
29 Trix Hall, Antwerp

MARCH


8 Albert Hall, Manchester
9 Queen’s Hall, Edinburgh
10 The Engine Shed, Lincoln
12 O2 Academy, Leicester
13 Eventim Apollo, London
15 Beacon, Bristol
16 Academy, Dublin

 

©︎Kelly Christine Sutton


Kacey Musgraves(ケーシー・マスグレイヴス)がニューアルバム『Deeper Well』を発表した。2021年の『star-crossed』に続くこのアルバムは、3月15日にリリースされる予定だ。本日の発表では、タイトル曲と、ハンナ・ラックス・デイヴィスが監督したミュージックビデオが公開された。


このニュー・シングルについて、マスグレイヴスは声明の中でこう語っている。「時には岐路に立つこともある。風向きが変わる。かつて惹かれたと感じたものが同じ魅力を持たず、コースから外れても、やがて自分の足元を見つけ、新たなインスピレーション、新たな洞察、より深い愛を別の場所で探し求める」


マスグレイヴスはこの新作を、長年のコラボレーターであるダニエル・タシアンとイアン・フィチュックと共同プロデュースし、その大半をニューヨークのエレクトリック・レディ・スタジオでレコーディングした。「エレクトリック・レディは最高のモジョを持っている。「素晴らしいゴーストたちよ」。マスグレイヴスはまた、彼女の最初の2枚のレコードを手がけたシェーン・マカナリーとジョシュ・オズボーンとも「The Architect」という曲で再会した。


「Deeper Well」



Kacey Musgraves 『Deeper Well』



Tracklist:


1. Cardinal

2. Deeper Well

3. Too Good to be True

4. Moving Out

5. Giver / Taker

6. Sway

7. Dinner with Friends

8. Heart of the Woods

9. Jade Green

10. The Architect

11. Lonely Millionaire

12. Heaven Is

13. Anime Eyes

14. Nothing to be Scared Of

 


米国きっての実力派シンガーソングライター、マギー・ロジャースが、4月12日にサード・アルバム『Don't Forget Me』をポリドール・レコードからリリースすることを発表した。


このアルバムは、彼女の2019年のデビュー作「Heard It In A Past Life」と2022年の「Surrender」に続くもので、新譜に期待される最初のプレビューは、高らかに歌い上げるフォーク調のタイトル・トラック。マギーは「Don't Forget Me」の制作過程を説明した手紙を公開している。


『ドント・フォーゲット・ミー』の制作について、マギーはこう語っている。


このアルバムの制作は、どの段階でもとても楽しかった。曲の中にそれが表れていると思う。それが、このアルバム制作を成功させるための重要な要素なんだ。


2022年12月に3日間、2023年1月に2日間。時系列順に書かれた。アルバムに収録されているストーリーのいくつかは私自身のものだ。そして本当に初めて、そうでないものもある。大学時代の思い出や、18歳、22歳、28歳(現在29歳)の頃の詳細が垣間見える。アルバムを順次書いていくうちに、ある時点でキャラクターが浮かび上がってきた。


アメリカ南部と西部をロードトリップする女の子の姿を思い浮かべ始めたんだ。若いテルマ&ルイーズのようなキャラクターで、家を出て人間関係から離れ、声を大にして処理し、友人たちや新しい街や風景の中に慰めを見出している。


私は、リンダ・マッカートニーの写真のような親密さで、彼女の人生をとらえようとした。彼女はやり直し、人生の新しい章のページをめくっている。


曲中のストーリーや詳細は、友人やニュースから得たものもある。完全に作り上げたというか、私の中から飛び出してきたものもある。ペンを紙に。完全な形で。そこにあった。こうすることで、私の現在に関する最も深い真実のいくつかが前に出てくることができたと思う。


私はそれらを探したり、掘り起こしたりして、それらが完全に成長する前にその物語を収穫したのではない。私の人生についての真実は、私の最も深い直感から生まれた。自分自身では口に出して言う準備ができていなかったが、音楽の中に居場所を見つけたのだ。



『Don't Forget Me』





Maggie Rogers 『Don't Forget Me』



Label: Polydor

Release: 2024/04/12


Tracklist:

1. It Was Coming All Along
2. Drunk
3. So Sick of Dreaming
4. The Kill
5. If Now Was Then
6. I Still Do
7. On & On & On
8. Never Going Home
9. All The Same
10. Don’t Forget Me


Pre-order(INT):



 

©︎Netti Habel

先週、予告されていた通り、ポーティスヘッドのボーカリスト、ベス・ギボンズが待望のアルバム『Lives Outgrown』でソロ・デビューを果たす。5月17日にDominoからリリースされる。


ギボンズとジェームス・フォードが共同プロデュースし、トーク・トークのリー・ハリスがプロデュースを担当。アルバムには、10年間に渡ってレコーディングされた10曲が収録されている。トニー・アウスラーによる新曲「Floating on a Moment」のビデオを以下よりご覧下さい。


『Lives Outgrow』の収録曲の中でギボンズは、自らの人生についての考察を的確に交え、とくにそれは内的な感覚が年齢を重ねるごとにどう変化していくのか、その飽くなき音楽家としての真摯な眼差しで捉えようとする。普通の人ならば見過ごしてしまうか、目をそらしてしまうテーマ、誰もが持っている人生の主題を的確な視点から捉え、ーー不安、母性、死ーーを音楽によって表現しようとする。あるいはアーティストにとって、それは内側に秘めたままではいられぬものでもある。

 

ギボンズは声明の中で、「私は希望がない人生がどのようなものかを悟りました。そして、それは、私が感じたことのない悲しみだった。以前は、自分の未来を変えることができた。でも、自分の体と向き合ったとき、体が望んでいないことをさせることはできないことがわかったんです」


このアルバムはまた、"数多くの別れの時期 "から生まれた、とギボンズは述べている。「人が死にはじめたと私は悟った。若いときは、未来の結末なんてちっともわからないのだし、どうなるかなんて皆目見当もつかない。私たちは、たぶん、これを乗り越えられるだろうし。きっと良くなるのだ、と。それでも、生きていると、消化するのが難しいような結末もある......。今、私はもう一つの終わりから抜け出して、勇気を出さなければならないときが来たんだと思う」


「Floating on a Moment」のビジュアルについて、監督のトニー・アウスラーはこうコメントしている。


「''Floating On A Moment "を初めて聴いたとき、文字通り、私をあちこちに連れて行き、万華鏡のような多彩な感情とビジョンで満たしてくれました。可能であれば、このビデオによってその精神的な流動性のようなものを捉えたかった。そもそも、ベスの作品はとてもパワフルなのです。私たちを人生の森や火の中へと導き、可能性のある未来を垣間見せてくれます。そのような声と音楽があるのならば、オープンで、どことなく思索的な映像を作らなければと思っていた」

 

「Floating on a Moment」



今作にはシンガーソングライターとしてのキボンズの性質が反映されている。加えて、近年、ヘンリク・グレツキの交響曲、ケンドリック・ラマーの「Mother I Sober』など現代音楽やスポークンワードにも取り組んできたギボンズの音楽的な蓄積がどのように表れるかに着目したい。



Beth Gibbons 『Live Outgrown』


Label :  Domino

Release: 2024/05/17

 

Tracklist:


1. Tell Me Who You Are Today

2. Floating On A Moment

3. Burden Of Life

4. Lost Changes

5. Rewind

6. Reaching Out

7. Oceans

8. For Sale

9. Beyond The Sun

10. Whispering Love


Beth Gibbons 2024 Tour Dates:


May 27 – Paris, FR – La Salle Pleyel

May 28 – Zürich, CH – Theater 11

May 30 – Barcelona, ES – Primavera Sound Festival

May 31 – Lyon, FR – La Bourse Du Travail

Jun 2 – Berlin, DE – Verti Music Hall

Jun 3 – Copenhagen, DK – Falkonersalen

Jun 5 – Utrecht, NL – Tivoli Vredenburg

Jun 6 – Brussels, BE – Cirque Royal

Jun 9 – London, UK – The Barbican Centre

Jun 10 – Manchester, UK – Albert Hall

Jun 11 – Edinburgh, UK – Usher Hall

 


ブルックリン出身のシンガー、キャロライン・ポラチェクが、『Desire, I Want to Turn Into You(Reviewを読む)の収録曲「Butterfly Net」の新バージョンでウェイズ・ブラッドとタッグを組んだ。


2人のアーティストは昨年、グラストンベリーやフジロックなど、何度か大型フェスでこの曲をライブで共演している。特にフジロックで両アーティストは親しくしている様子が確認されている。


10月、ポラチェクは『Desire, I Want to Turn Into You』のレコーディングセッションから抜粋したトラック「Dang」を公開した。彼女はまた、『The Late Show With Stephen Colbert』でこの曲を披露した。最新アルバムはグラミー賞にも見事選出され、シンガーはLAの授賞式に出席している。