続く「Sexy To Someone」は一般的なポピュラーアーティストとは異なり、ヴィンテージソウルへのクレイロの愛着が示されている。オーティス・レディングのスモーキーなR&Bを踏襲したこの曲は、アーティストの新しい音楽性が示された瞬間を捉えることができる。音作りはノーザンソウルやモータウンのサウンドを意識しているが、それらは結局、ベッドルームポップの系譜にある軽やかなボーカルによって、クラシックのテイストがモダンに変貌を遂げる。アルバムの一曲目と同じように、LPの回転数の差異で発生する音のディレイのような特殊な音響効果を活かしながら、このレコードは巧みにリスナーを現代と古典の間にある言い知れない陶酔感へといざなう。
同じように、シンセのモジュラーでドラムのビートを作り上げた「Glory Of The Snow」は、70年代の古典的なエレクトロ・ロックを踏襲し、それらをバロックポップやイエイエの音楽の系譜にある、チャームで夢見るようなオリジナルの世界を築き上げる。そして、従来のクレイロのイメージを覆し、ロックアーティストとしての姿を、その先にくっきりと浮かび上がらせる。
ジェンキンスは『My Light, My Destroyer』を、ここまでの道のりに困難がなかったわけではないという単純な真実を裏切る、安易な自信で満たしている。2021年にブレイクした『An Overview on Phenomenal Nature』を "意図した白鳥の歌 "と呼ぶ彼女は、ツアーや自身の音楽をリリースすることになれば、それをやめる覚悟はできていたと説明する。
ジェンキンスは、このアルバムにおいてニューヨークを起点に「音楽」という得難い概念を探訪しているが、Farter John Misty(ジョシュア・ティルマン)の最新作と同じように、米国の歴史の根幹を形成する一世紀の音楽が通底している。ブロードウェイのミュージカル、ジャズ、カーペンターズのような古典的なバロックポップ、ヤングのフォーク、ノーザンソウルを中心とするR&B、さらには、ニューヨークのベースメントのプロトパンクを形成するThe Velvet Underground、ルー・リードの音楽、80年代のソフィスティ・ポップ、現代のスポークンワード、アンビエントをベースとするニューエイジ、ローファイまでを隈なくポップネスに取り込む。
『My Light, My Destroyer』が何より素晴らしいのは、ミュージシャンの人生の流れが色濃く反映されていること。次いで、平均的な録音の水準を難なくクリアしているのみならず、良質なポップ、ロックを惜しみなくリスナーに提供していることである。もちろん、ジャンルを防御壁にすることなく、普遍的なメロディーを探求し、琴線に触れる音楽を把握し、プロフェッショナルなレコーディングとして完成させていることである。さらに、長所を挙げると、アルバムの13曲を聞き終えた時、また、もう一度聞き直したいという欲求を抱くかもしれない。音楽に対する欲求……、それはアルバムの持つ独自の世界に再び触れてみたいという思いでもある。
アルバムの三曲目に登場したソフィスティ・ポップ(AOR)は、続く「12- Only One」にも再登場する。この曲は、アルバムの中では唯一、R&Bの影響がわずかに感じられ、清涼感があり聞きやすい2020年代らしいポピュラーソングに昇華されている。ダンサンブルな側面はもちろんのこと、ソフィスティ・ポップの次世代の象徴であるThe 1975、Japanese Houseの系譜にあるポップソングは、あまり音楽に詳しくないリスナーにもカタルシスをもたらす可能性が高い。
Michael Kinuwaka(マイケル・キワヌーカ)が新曲「Floating Parade」を発表した。このイギリス人ソングライターは、デンジャー・マウスと頻繁にコラボレートしているインフロと共にこの曲を制作した。以下よりご視聴ください。
「Floating Parade」は、2021年にNetflixのドキュメンタリー映画『Convergence』のために「Beautiful Life」をリリースして以来、キワヌカにとって初めての新曲となる。「Courage in a Crisis」である。マーキュリー賞を受賞した3枚目のアルバム『KIWANUKA』は2019年に到着した。
米国のシンガーソングライター、Meernaaがニューシングル「Make It Rain」をリリースした。シンセによるホーンセクションとピアノを含めるクラシカルなポップソング。ビリー・ジョエルの古典的なバラードソングをアメリカーナと融合させ、ロマンティックな雰囲気を作り出す。シークエンスの途中に取り入れられるエレクトリックピアノがR&Bのメロウなテイストを醸し出す。
ナイマ・ボックは2018年にGoat Girlを脱退した後、ソロシンガーとしてのキャリアを開始した。2021年には「30 Degrees」の発表と共にSub Popと契約。翌年にはデビューアルバム『Giant Palm』をリリースした。このアルバムはNew York Times、Stereogum、CLASHを始めとする国内外の有力メディアから高評価を獲得した。
「Further Away」
Naima Bock 『Below a Massive Dark Land』
Label: Sub Pop/Memorials of Distinction
Release: 2024年9月27日
Tracklist:
1. Gentle
2. Kaley
3. Feed My Release
4. My Sweet Body
5. Lines
6. Further Away
7. Takes One
8. Age
9. Moving
10. Star
今日、ナイマ・ボックは2024年の夏と秋に「Below a Massive Dark Land」を宣伝する海外ツアーの日程も発表した。デビュー作『Giant Palm』の成功により、大規模ツアーが始まった。シンガーは、ロンドンのEartHを含むヘッドライン・ツアーや、A. Savage、J Mascis、Squid、Rodrigo Amarante、Arab Strap、Katy J Pearson、This is the Kitなどのアーティストのサポート・ショーを行ってきた。
Tour:
Wed. Aug. 14 - St. Malo, FR - La Route Du Rock +
Thu. Aug. 22 - Los Angeles, CA - Barnsdall Gallery Theatre ^
Sat. Aug. 24 - Ojai, CA - TBA
Sun. Sep. 08 - Portland, OR - Music Millennium (instore)
Fri. Sep. 13 - Walla Walla, WA - Billsville West
Sun. Sep. 15 - Seattle, WA - The Rabbit Box
Mon. Oct. 21 - Boston, MA - Warehouse XI
Wed. Oct. 23 - Philadelphia, PA - The Parish Room (First Unitarian Church
Fri. Oct. 25 - Brooklyn, NY - Union Pool
Wed. Nov. 06 - London, UK - St. Pancras Old Church +
Thu. Nov. 07 - Bristol, UK - Jam Jar *
Fri. Nov. 08 - Liverpool, UK - Leaf *
Sat. Nov. 09 - Newcastle, UK - Cumberland Arms *
Sun. Nov. 10 - Glasgow, UK - McChuills *
Tue. Nov. 12 - Leeds, UK - Hyde Park Book Club *
Wed. Nov. 13 - Manchester, UK - Deaf Institute *
Thu. Nov. 14 - Cambridge, UK - Storey’s Field Centre *
Sat. Nov. 16 - Falmouth, UK - The Cornish Bank *
Sun. Nov. 17 - Frome, UK - The Tree House *
Mon. Nov. 18 - Exeter, UK - Cavern Club *
Wed. Nov. 20 - Ipswich, UK - St Stephens Church *
Thu. Nov. 21 - London, UK - The Ivy House *
Tue. Dec. 03 - Lille, FR - L ‘Aéronef *
Wed. Dec. 04 - Brugge, BE - Cactus Café *
Fri. Dec. 06 - Haldern, DE - Pop Bar *
Sat. Dec. 07 - Hamburg, DE - Nachstasyl *
Sun. Dec. 08 - Berlin, DE - Neu Zunkunft *
Tue. Dec. 10 - Cologne, DE - Subway *
Wed. Dec. 11 - Amsterdam, NL - Paradiso *
Thu. Dec. 12 - Brussels, BE - Botanique *
Fri. Dec. 13 - Paris, FR - La Boule Noire *
^ w/ Angelo de Augustine
* Full band show
+ Duo with Oliver Hamilton
デビュー当時、”アデル再来の予感”と噂され、TikTokのカバー動画が瞬く間に話題となり、弱冠18歳にして今や世界中に110万人以上のフォロワーを誇る日系アメリカ人シンガーソングライター、ハナ・エフロン。4作目のシングル「Every Time You Call Me」は、パーソナルな恋愛をかたどったシンプルで切ないラブソング。そこにはもどかしさという普遍的な感覚が反映されている。
「#1 God Made Me Do It(don't ask me again」は、シンセ、ギター、ドラムを組み合わせたモダンなポピュラー音楽として楽しめる。旧来になくケールのメロディアスな才覚がほとばしり、彼自身のコーラスワークを配置し、夢想的なテイストを散りばめる。エレクトロニックとポピュラーを組み合わせ、摩訶不思議な安らぎーーポプティカル・イリュージョンーーを生み出す。
続く「#2 Davies and Wales」は、70年代のニューウェイブや80年代のAORに依拠したポピュラーソングで、エレクトリックピアノが小気味よいビートを刻み、組み合わされるシンセベースがグルーブ感を生み出す。負けじと、ケールはハリのある歌声を披露する。彼のボーカルは軽やかで、高い精妙な感覚を維持している。そしてタイトルのフレーズの部分では、コーラスを織り交ぜながらアンセミックなフェーズを作り出す。ソングライターとしての蓄積が曲に色濃く反映され、どのようにしてサビを形成するポピュラリティを作り出すか、大まかなプロセスが示される。この曲にも、ケール氏のポピュラー音楽に対する考えがしっかりと反映されている。自分の好きなものを追求した上で、それらにどのようにして広告性と商業性を付与するのか。
続く「#3 Calling You Out」は、ジャンルというステレオタイプの言葉ではなかなか言い表しづらいものがある。男性シンガーとしての内省的センチメンタルな感覚をエレクトロニックで表現し、それをジャズのテイストで包み込む。
かつて、60年代後半に無名だったVUの音楽に理解を示してくれたファンがいたことと同様に、ジョン・ケール自身のこれらの新たな表現性に対する理解や肯定、あるいは次にやってくる潮流に対する期待感は、本作の中盤の流れを決定付ける「#4 Edge Of Reason」において、シカゴ・ドリル/ニューヨーク・ドリルの系譜にあるリズムトラックというカタチで明瞭に反映される。
「#5 I'm Angry」のイントロは、アンビエントがいまだアンダーグラウンドのチルウェイブの一貫として勃興した時代の作風を彷彿とさせる。オルガンの演奏に合わせてコール・アンド・レスポンスの形で歌い上げられるケールのボーカルはタイトルとは正反対である。フレーズを繰り返すうち生み出される怒りを冷静さや慈しみで包みこむ感じは、直情的な感覚とは対極に位置している。それに続く「#6 How We See The Light」は、連曲のようなニュアンスが含まれる。ダンサンブルなリズムとシンセ・ポップを組み合わせ、ボウイの系譜にあるナンバーを作り出す。
続く「#7 Company Commander」は、アルバムのアートワークに象徴づけられるコラージュのサウンド、ミュージック・コンクレートを導入している。2010年代のアイスランドのエレクトロニカ、ニュアンスとスポークンワードの中間にあるケイルのボーカルは、「Abstract Pop」という、ニューヨークの最前線のヒップホップシーンへのオマージュの考えも垣間見ることが出来る。
ただ、「All To The Good」、「Laughing In My Soup」とユニークな印象がある軽快なダンスポップが続いた後、シンセピアノを活かした美しいバラードがクライマックスを飾る。クローズ曲「#13 There Will Be No River」は、ビートルズのような古典的なテイストを放つ。シンセサイザーのストリングスを込めたミニマル音楽を基にしたバラードは、シンプルであるがゆえ心に残る。
「『Gaza is Calling』は、私が初めて経験した友情における失恋について歌っています。11歳のとき、ガザから来た少年と出会いました。私たちは切っても切れない関係だった。彼はトロントの住宅街で私と一緒に育った。そして、この愛さえも、我々が直面した暴力には勝てなかった。新しい家での暴力、ガザから冷たい風のように彼を追いかけてきた暴力......」とムスタファ。
ここには、ビョークが最新アルバムで見落としたポピュラーの理想的なモダニズムが構築されている。アルバムの冒頭部「Into This, Called Lonelines」にはこのことが色濃く反映されている。音楽的には、北ヨーロッパのフォークミュージックを踏まえ、それらを柔らかい質感を持つポップスとして昇華させる。
いわば、アルバムのオープナーは、未知の扉を開くような雰囲気に縁取られている。アルバムの中には、サンプリングの導入によってストーリーが描かれるが、それらは多くの場合、他の曲と繋がることが非常に少なく、分離した状態のままにとどまってしまっている。しかし、このアルバムはその限りではなく、「The Bell Tower」は、木目を踏みしめる足音と教会の鐘の音のサンプリングを組み合わせ、次の曲の導入部の役割を担う。まるで、音楽の次のページをめくったり、次の物語の扉を開けるかのように、はっきりと次の音楽の雰囲気の予兆となっている。
「Life of Forbidden」は、北欧ポップスの王道にあるナンバーで、この音楽の象徴的な特徴である清涼感を味える。構成にはコールアンドレスポンスの技法が取り入れられ、北欧の言語やフォーク・ミュージックにだけ見出される特性ーー喉を細かく震わせるようなファルセットとビブラートの中間にある特異な発声法ーーがわかりやすく披露されている。この曲は、単なるフォーク・ミュージックやポピュラー・ソングという意味で屹立するのではなく、上記の対談で語られた伝達や受動とは異なり、その中間域にある別の伝達手段としてボーカルが機能している。
優しげな響きを持つ「Turn To Stone」もソングライター/ボーカリストとしての力量が表れている。ピアノのシンプルな弾き語り、そしてやはり北欧の言語のイントネーションを活かした精妙なハーモニーをメインのボーカルと交互に出現させ、柔らかく開けたような感覚を体現させる。その後、「Tenderfoot」では、スティール弦の硬質なアコースティックギターのアルペジオを活かして、やはり緩やかで落ち着いたフォーク・ミュージックを堪能出来る。それほど難しい演奏ではないと思うが、ギターと対比的に歌われるコネリーのボーカルがエンヤのような癒やしを生み出す。この曲でも、ボーカルをテクスチャーのように解釈し、それらをカウンターポイント(対位法)のように組み合わせることで、制作者が上記のWarpの対談で述べたように、「願望的な静寂」に導かれる。これはまた深層の領域にある自己との出会いを意味し、聞き手にもそのような自らの原初的な自己を気づかせるようなきっかけをもたらすかもしれない。
アルバムは意外にも大掛かりな脚色を避けて、シンプルな着地をしている。クローズ「S,O,S Song of The Sword」は、編集的なサウンドはイントロだけにとどめられていて、演出的なサウンドの向こうからシンプルな歌声が現れるのが素敵だと思う。これらの10曲は、表面的な華美なサウンドを避けていて、音楽の奥深くに踏み入れていくような楽しさに満ちあふれている。
82/100
「Life of The Forbidden」
ビリー・アイリッシュが新しいビデオを公開した。これは『HIT ME HARD AND SOFT』からのカットである「CHIHIRO」の自主制作映像。このアルバムは、フィニアスと共作・プロデュースされ、先月、Darkroom/Interscope/Polydor Recordsから発売されたばかりである。
・アルフィー・テンプルマンのニューシングル「Just a Dance feat. Nile Rodgers」が本日リリース ナイル・ロジャースをフィーチャー
楽曲の総再生回数は3億回を超える、シンガーソングライター、マルチインストゥルメンタリストであり音楽の才人でもあるアルフィー・テンプルマンが、「Just a Dance feat. Nile Rodgers」をリリースしました。「Eyes Wide Shut」、タイトル曲「Radiosoul」、「Hello Lonely」に続くシングルです。