Paint It Black 『Famine』/ New Album Review

 Paint It Black 『Famine』

 

 

Label: Revelation

Release: 2023/11/3


Review


フィラデルフィアのハードコア・アウトフィット、Paint It Blackは、Kid Dynamite/Lifetimeのメンバーとして知られるDanが所属しているという。意外にも長いキャリアを持つバンドらしいが、今作では、USハードコアの王道を行くパンク性により、パンクキッズをノックアウトする。

 

Kid Dynamite,Lifetime、Dag Nasty周辺を彷彿とさせる硬派なボーカルスタイルやハードコアの方向性には、Discordを中心とするDCのハードコアやストレイト・エッジのオールドスクール性が漂うが、一方、グルーブ感を生かしたニュースクールのリズムと鋭いエッジを擁するギターやドラム、無骨なボーカルスタイルが特徴である。さらに、Paint It Blackの音楽性にはニューメタルやメタルコア等の影響も滲んでいる。アルバムの蓋を開けば、怒涛のノイジーさとアジテーションの応酬に塗れること必至だが、他方、Converge以後のニュースクール・ハードコアのスタイルの中には、奇妙な説得力や深みがノイジーさの向こう側に浮かび上がってくる瞬間がある。つまり、プレスリリースで説明されているとおり、「ハードコア・パンクの最も強力なリリースは、弱さ、正直さ、信憑性の空間から生まれるものであることを証明するもの」なのである。

 

そのことはオープニング「Famine」において示されている。フックやエッジの聴いたギターラインと屈強なリズムとバンドのフロントマンの咆哮にも近いスクリーモの影響を絡めた痛撃なハードコアサウンドは、バンドがこれまでどのような考えを持ち、活動を行ってきたのかを示している。ノイジーなサウンドの中核を担うのは、オールドスクールのDCハードコア、そしてFiddleheadに近いモダニズムである。他方、ヨーロッパのニュースクール・ハードコア/ポスト・ハードコアの独特な哀愁も漂う。それは、イタリア/フォルリの伝説、La Quiete、フランスのDaitro、スウェーデンのSuis La Luneのポストハードコアバンドと比べても何ら遜色がないことがわかる。

 

さらに、彼らはパンクバンドとしてのNOFXのようにメッセージ性もさりげなく取り入れている。前回の米大統領選に公平性に関する疑惑を歌った「Dominion」では、大型の戦車が走り回り、すべての草木をなぎ倒していくかのような怒涛の疾走感とパワフルさをサウンドに搭載し、理想的なハードコアパンクとは何かをみずからのアティテュードで示す。ミリタリーの性質があるのは瞭然で、このあたりは80年代のボストン・ハードコアや、以後のニューヨークのAgnostic Frontを思わせるものがある。

 

特に、エッジの効いたベースラインについては、バンドの最大の長所と言える。「Safe」ではオーバードライブを搭載した屈強なベースラインでパンクキッズを完全にノックアウトしにかかる。メタルコアやラップにも近いボーカルラインが加わることで、エクストリームなサウンドが生み出される。さらに、そのモダンなハードコアサウンドの中に、Dropkick Murphysのような古典的なパンクのギターソロを中盤で披露することにより、曲そのものに変化を与えている。ライブを意識した痛撃なサウンドはもちろん、パンクファンの心を鼓舞するためのものであるが、一方、その中にもDag Nasty/Lifetimeのようにじっくりと聴かせるなにかが備わっていることがよくわかる。

 

もちろん、疾走感や無骨さだけが、Paint It Blackの魅力なのではない。「Explotation In Period」では、イギリスのNew WaveやニューヨークのNo Waveを系譜にあるアヴァンギャルド音楽をポスト・ハードコアという形に落とし込んでいるのが美点である。これらの前衛性は、彼らがパンク・スピリットとは何かという原義的なものを探し続けた来た結果が示されていると言える。そして、実際、アルバムの全体的な音響性の中に面白い印象の変化をもたらしている。

 

ハードコアパンク・サウンドの中にある多彩さというのは、本作の最大の強みとなっている。 「Serf City, USA」では、Kid Dynamiteを思わせるメロディック・ハードコアのアプローチを選んでいる。ストップ・アンド・ゴーを多用したパンクサウンドはアンサンブルの深い理解に基づいており、Paint It Blackのバンドとしての経験豊富さやソングライティングにおける引き出しの多さを伺わせる。ダブル・ボーカルに関しても苛烈で痛撃な印象を及ぼし、もちろんハードコア・パンクファンの新たなアンセムと言って良く、拳を突き上げてシンガロングするよりほかない。

 

Paint It Blackは、このアルバムを通じて、パンクロックそのものの最大の魅力である簡潔性や衝動性に重点を置いている。それはその後も続いている。


「The Unreasonable Silence」では、レボリューション・サマーの時代のOne Last Wish、Fugaziの系譜にあるアヴァンギャルドなロックへの展開していく。さらに、Minor Threat、Teen Idlesを思わせる「Namesake」では、ストレイト・エッジを、近年のConvergeのように、ポストハードコアの側面から再解釈しようとしている。表向きにはきわめてノイジーなのに、内側に不思議にも奇妙な静寂が感じられるのは、La Quieteと同様である。クローズ曲「City Of Dead」では、王者の威風堂々たる雰囲気すら漂う。最後の曲では、暗示的に政治不安や暗黒時代の何かが歌われているのだろうか。そこまではわからないことだとしても、アルバムの全般を通じて、フィラデルフィアのPaint It Blackは現代のハードコアパンクの未来がどうあるべきなのか、その模範を断片的に示そうとしている。

 

 

86/100