新たな日が昇る HUSKER DU 「NEW DAY RISING」

HUSKER DU


Hüsker Dü (1985 SST publicity photo).jpg
By Photograph by Naomi Petersen. Distributed by SST Records. Hüsker Dü Database fansite Public Domain, Link

ザ・リプレイスメンツと同郷、ミネアポリス発、Husker Duは、ボブ・モールドを中心として結成され、八十年代全般に渡って活動した三人組で、いわゆるスリーピースと呼ばれる形態のロックバンド。後進のバンド、アメリカ国内のパンクバンドにとどまらず、ここ日本でも影響を受けたミュージシャンは少なくないはず。

 Husker Duというのはノルウェー語で「君は覚えているかい?」という意味。何かその印象深いバンド名を象徴するかのように、活動初期からメロディアスで荒削りでアップテンポのノイジーな音楽を奏でてきた経緯のあるロックバンドなんですが、どのような心変わりがあったのかしれませんが、同郷のリプレイスメンツがたどった道と同じように、活動中期から自分たちの持ち前の美麗な叙情的なメロディ性を打ち出した、じっくり聞かせる渋いロックバンドへ大変身を遂げていく。

しかし、元々は彼等の活動初期のデモやライブを集めたハスカー・ドゥのファンにとってたまらない音源集「Savege Young Du」の「Can't see you anymore」では、パンクロックバンドらしからぬ、ドウワップ風のキャッチーかつメロディアスな楽曲を演奏しており、実は、このバンドもリプレイスメンツと同じく、きわめて勝れたメロディセンスを活動初期から有していたことが分かる。

そして、粗削りで攻撃的なアップテンポのスタンダードなパンクロックから、スタンダードなロックへと音楽性の変化の分岐点ともなったのがこの「New Day Rising」というアルバムであり、また特筆すべきなのは、後のグリーンデイやNOFXに代表される、”メロコア”という音楽の土台を作った重要なアルバム。彼等のリリース作品の中で、音のバランスと言うか、パンクロック的な勢いと、その中に顕著に感じられる美しいメロディが絶妙に融合した類まれな名作である。 

 

「New Day Rising」SST Records 1985

一曲目の表題曲のイントロ、New Day Risingのドタドタという、グラント・ハートのバスとタムの迫力ある交互に叩かれる性急なリズムの上に「ビックマフ」のようなまじいファズのうねりのきいたディストーションギターが乗って来るのを聴いた時、誰もがこの音色に驚きをおぼえ、彼等の音楽の虜になることでしょう。

 

無論、ここでは、活動初期からの荒々しい音楽性が引き継がれており、前のめりの勢いのあるハードコアパンク性が現れていますが、このアルバム聴いていて純粋にかっこいいなと思うのは、ひとえにこのギターのクールで洗練されたサウンドプロダクションによるものでしょう。このギターのグワングワンに歪んだ音色というのは、当時としてはかなり画期的だったでしょう。

特に、このアルバムが一般的に彼等の代表作として挙げられる理由は、一曲目の表題曲「New Day Rising」そして、「I Apologize」「Celebrated Summer」という楽曲の出来ばえが際立っているから。

ここでは、今までのエッジの効いた勢いのある疾走性を重視ながらも、ハスカー・ドゥにはなかった要素、つまり、静と動の要素が見られており、異質なほどグワングワンに歪んだディストーションギターと、アコースティックギターの穏やかな叙情的なフレーズが対比して配置されている。

彼等ハスカー・ドゥの作品の中でも、一、二を争う珠玉の名曲、「Celebrated Summer」のアウトロのアコースティックギターの美しい響きの余韻というのは、スタンダードなフォークとしても聴くことが出来るし、ただ単なる一ジャンルの名曲として語るのが惜しい気もします。それまでのハスカー・ドゥには乏しかったメロディアス性が明瞭に押し出され、ボブ・モールドの声というのも、シャウト的な歌い方だけでなく、渋く落ち着いた歌が情感たっぷりとなっている。

何より、このアルバムのジャケットが素晴らしさについてはもう説明不要といえる。この夕日の落ちる直前の情景の美しさと逆光を浴び、浜辺にたたずんでいる二匹の犬の影のシルエットの写真は、収録されている楽曲の雰囲気をさらに魅力一杯にしている。

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