Feature Artist アイスランドのエレクトロユニット Kiasmos

 Kiasoms

 

キアスモスは、アイスランド、レイキャビクのテクノユニット。

 

ポスト・クラシカルシーンでの活躍目覚ましい、既に英国アカデミー賞のテレビドラマ部門での最優秀賞、「Another Happy Day」「Gimmie Shelter」のサウンドトラックも手掛けるオーラブル・アルノルズ、同郷レイキャビクのエレクトロミュージシャン、ヤヌス・ラスムッセンの二人によって2009年に結成されている。


オーラブル・アルノルズ、アコースティック・ピアノを下地に、ヤヌス・ラスムッセンのシンセサイザー、二人のアーティストの持つ音楽性を見事にかけ合わせた秀逸なエレクトロ・ポップを体現し、銘々のソロアーティストとしての作品とはまた異なる妙味を生み出す。


キアスモスは、2009年にファーストリリースのEP「65/Milo」を電子音楽を専門にリリースする英国のインディーレーベル、Erased Tapesから発表する。2014年にはファースト・アルバム「 Kiasoms」を同レーベルから発表し、高い評価を受けている。


この1stアルバム「Kiasmos」は、オーラブル・アルノルズがレイキャビクに設立したサウンドスタジオで制作された作品。


楽曲の大部分は、ドラム、生演奏の弦楽四重奏を音響機器を使用して録音し、そして、トラックの上に、ドラムマシン、テープディレイを多重録音した作品。この作品で、オーラブル・アルナルズがグランドピアノを演奏し、ヤヌス・ラスムッセンがその演奏に同期する形で、ビート、グリッチ、オフフィールドと様々な音色とリズムを電子楽器により実験的に生み出す。


2015年11月には、ベルリンのスタジオでパーカッションとシンセサイザーの生演奏を実験的に融合したEP作品「Swept」を同Erased Tapesからリリース。この年から、キアスモスは、世界ツアーを行うようになり、エレクトロニックアーティストとして知られていく。


2017年には、ブレイクビーツ、チルアウトシーンで名高いミュージシャン、サウンドプロデューサーとして活躍するBonobo、サイモン・グリーン。そして、ドイツのエレクトロミュージシャン、サウンドプロディーサー、Stimmmingがリミックスを手掛けた「Bluerred」をリリース。エレクトロシーンで大きな注目を集めるようになっている。


Kiasmosの音楽性は、イギリスのエレクトロ、アメリカのハウスシーンとは異なり、レイキャビクのアーティストらしい美麗な感性によって華麗に彩られている。アイスランド、レイキャビクで盛んなエレクトロニック、弦楽器などのオーケストラ楽器を交えたフォークトロニカやトイトロニカともまたひと味異なる雰囲気を持った音楽性がこのユニットの最大の強みといえるだろうか。一貫した冷徹性、それと相反する熱狂性をさながらトラックメイクでのLRのPan振りのように変幻自在に生み出すのが醍醐味だ。

キアスモスの楽曲は、このユニットの壮大な音楽実験というように称せる。独特な清涼感を滲ませ、二人の秀逸な音楽家の紡ぎ出すミニマルフレーズを緻密かつ立体的に組み合わせていくことにより、徐々に、渦巻くようなエナジーを発生させ、楽曲の終わりにかけ、イントロには見られなかった凄まじい化学反応、大きなケミストリーを発生させる。


アイスランド、レイキャビクのアーティストらしいと称するべき個性的な音楽性、世界観を擁した独特な音楽を生み出すクールなユニットで、創造性においても他のアーティストに比べて群を抜いている。今、最も注目すべきエレクトロアーティスト、ユニットと呼ぶことが出来るだろう。 

 

kiasmos

"kiasmos" by Mai Le is licensed under CC BY-NC 2.0


 

 

 

 Kiasmosの主要作品



「Kiasmos」 2014 Erased Tapes



 
 


1.Lit
2.Held
3.Looped
4.Swayed
5.Thrown
6.Dragged
7.Bent 
8.Burnt



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以前に先行リリースされた「Looped」に加え、新たな作品を再録した作品。

 

今作を聴くと分かる通り、北欧のエレクトロには英国のアーティストと異なる音楽性が感じられる。そこには何か、英国よりも寒々しいアイスランドの風景が連想されるが、厳しい雰囲気の中にもきわめて知的な創造性というのがなんとなく見い出すことができる。


そして、このアーノルズ、ラスムッセンという同郷のユニットの独特な作曲法、近年流行りのミニマルという手法もまた英国のアーティストの作風と性質が異なり、ひたすら静かなエナジーが内側にひたひたと向かっていく。


興味深いことに、その核心とも呼ぶべき中心点に達した瞬間、冷やかかな感慨が反転し、異質なほどの奇妙な熱量、エネルギーを発生させる。アーノルズの紡ぎ出すシンセサイザーのフレーズは、徹底して冷静かつ叙情的ですが、他方、ラスムッセンの生み出すリズムというのは奇妙な熱を帯びているのだ。


それは、「Thrown」「Looped」という秀逸な楽曲に見られる顕著な特質。つまり、この二人の相反するような性質が絶妙な具合に科学的融合を果たし、上質な電子音楽、言ってみれば、これまで存在しえなかったレイキャビク特有のエレクトロが発生する。


一貫してクールでありながら熱狂性も持ち合わせている。これがアイスランドという土地の風合いなのかもしれないと感じさせる何かが、深い精神性、この土地に対する深い愛着が込められている。


電子音楽によって緻密に紡がれていくサウンドスケープ(音から想像される風景)は、本当に、容赦のないさびしさであるものの、しかしながら、その中にじんわりとした人肌の温み、胸が無性に熱くなるような雰囲気もなんとなくではあるが感じられる。


そして、この二人の音楽家の熱狂性が最高潮に達し、凄まじいスパーク、電光のようなエナジーを放つのが「Bent」「Burnt」という2曲。これらの終盤部の盛り上がりは、IDMの落ち着きがありながら、フロアの熱狂にも充分通じる奇妙な音楽性といえる。


もちろん、このデビュー作は、文句の付けようのないエレクトロの2010年代の名作。キアスモスの音の指向性は、どことなくイギリスのブレイクビーツの大御所、サイモン・グリーンの音楽性になぞらえられる。緻密さと沈着さを持ち合わすボノボよりもはるかに激しいパッション、二人の熱さが感じられるのがキアスモスの音楽。


英エレクトロと、アイスランドのフォークトロニカを融合した甘美で独特なダンスミュージックといえ、これまでのエレクトロに飽食気味という方には、願ってもみない素晴らしいギフト。

 

 

 「Blurred」2017 Erased Tapes 



 




1.Shed
2.Blurred
3.Jarred
4.Paused
5.Blurred-Bonobo Remix
6.Paused-Stimming Remix



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現在、ロサンゼルスを拠点に活動するBonoboこと、サイモン・グリーン、ドイツのサウンドプロデューサー、Stimmingのリミックス曲を追加収録したキアスモスとしては二作目のスタジオ・アルバム。


今作品「Blurred」は、前作からのミニマル的な音の立体的な構造性、そしてその内側に漂う電子音楽としての叙情性を引き継いだエレクトロの快作。

しかし、前作には、内側に渦巻くようなすさまじいエナジーが漂っていたのに対し、今作はどちらかといえば、まるでパッと霧が晴れたような爽快感のある雰囲気も揺曳している。

そのあたりの、これまでのキアスモスの作品にはなかった妙味が感じられるのが表題曲の「Blurred」。とりわけ、この作品のボノボリミックスヴァージョンは原曲とは異なるリミックス作品に仕上がっている。このあたりは、サイモングリーンのプロデューサーとしての天才的手腕が垣間見えるよう。


その他、フォークトロニカ、トイトロニカとの共通性も見出す事のできる「Shed」は朝の清涼感のある海辺の風景を思い浮かばせるような、何かキラキラした輝きを放つ、爽快感のあるエレクトロの楽曲であって、キアスモスはまだ見ぬエレクトロの境地を開拓してみせた。


もちろん、前作のようなクールな内向きなエナジーがなりを潜めたわけではなくて、今作にもその曇り空を思わせるような暗鬱かつクールなエナジー、そこから汲み出される独特で奇妙なほど癖になるエレクトロ性は、「Paused」「Jarred」といった良質な楽曲群にも引き継がれていて、前作に比べると楽曲の方向性に広がりが出たのを感ずる。


そして、この作品の肝というべきなのは「Blurred」に尽きる。この楽曲は、2010年代後半のエレクトロの最高峰の一曲と言ったとしても誇張にはならない。


極めて微細な小さな楽節を組み合わせていき、独特なエモーションに彩られた美しい電子音楽の建築物が見事なまでに築き上げられている。この楽曲、及び、リミックス作品は、アイスランドの秀逸な二人の音楽家、サイモン・グリーンの生み出した新しい「電子音楽の交響曲」にほかならない。

 

 

「Swept」 EP 2015 Erased Tapes



 



1.Drawn

2.Gaunt

3.Swept

4. Swept-Tale Of Us Remix



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そして、上記二作のスタジオ・アルバムとは少し異なるキアスモスの音楽のニュアンスを味わう事のできる快作が「Swept」である。

上記の作品に比べると、音にスタリッシュさがあり、その中にフォークトロニカ寄りのアプローチも込められてい、音作り、実際に紡がれる音にしても、精細な音の粒が感じ取られる。これはまさにこの二人の音楽家の耳の良さによるものといえる。


映画音楽、ゲームサントラ等の音楽性にも比する劇伴寄りの音楽性が感じられるのが、リードトラックの「Drawn」。クラブミュージックであり、この何かストーリテリング音楽ともいうべき、物語性を電子音によって深めていく作曲法の手腕こそ、オーラブル・アーノルズの類稀なる天才性である。

 

もちろん、ヤヌス・ラムヘッセンの生み出す独特なブレイクビーツ寄りの実験的なビートの追求性がアーノルズの生み出す音楽観を説得力溢れるものにし、さらに魅力的にしている。


二曲目に収録されている「Gaunt」は、キアスモスの音楽性の王道を行く、シリアスさ、内向きなエナジーを独特な雰囲気の漂う名曲だ。また、表題曲「Swept」はラムヘッセンの生み出す躍動的なリズム性が全面に引き出された楽曲、ゴアトランスとまではいかないけれど、フロア向けに作られた2steps寄りのクールなダンス・ミュージックとして必聴である。



Featured  Track 「Thrown」Live On KEXP


https://m.youtube.com/watch?v=FhJuLSuKrMo