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R.E.M


・カレッジロックの原点 ジョージアの大学のラジオ局

 

カレッジロックとは1980年代にアメリカやカナダで発生したカルチャーを意味する。明確な音楽的な特徴こそ存在しないが、大学のキャンバスの中にあるラジオ局でオンエアされたロックである。

 

このジャンルは90年代のオルトロックのブームへの流れを作った。カレッジロックは、マサチューセッツ、ミネソタ、ジョージア等がカレッジロックのシーンの出発点に挙げられる。最も最初の原点を辿ると、ローリング・ストーンが指摘しているジョージア州のアテネの大学ラジオ局に求められる。これらのラジオ局では、Sonic Youth等、ニューヨークのプロトパンクバンドの楽曲もオンエアされたが、 特にミネソタのバンドを中心にそれまで脚光を浴びてこなかった地域の魅力的なバンドをプッシュする効果があった。

 

カレッジロックは、実際に大学の寮のパーティー等で学生の間で親しまれることになったが、特にコマーシャリズムや商業主義に反する音楽を紹介する傾向にあった。特にインディペンデントでの活動を行うバンドを中心にプッシュすることが多かった。これは後に、リプレイスメンツやスミス等がメジャーレーベルからリリースを行うようになると、当初のインディーズのスノビズムの意義は薄れていくことになる。特に、R.E.M、リプレイスメンツやスミスは、ヒットチャートで上位を獲得したことがあるため、インディーズバンドというにはあまりにも有名すぎるのである。


現時点から見ると、インディーズミュージックというのは一昔前に比べると、本来の意義を失っているのは事実である。というのも、90年代以前にはインディーズレーベルが米国にはほとんど存在せず、カレッジラジオの曲のオンエアがレーベルの紹介やリリースの代役を果たしていたからである。そもそも、カレッジロックでオンエアされる音楽がすべて現在のストリーミングのように、リスナーが簡単に入手出来るとも限らなかったはずである。そこで、カレッジロックは、次世代の音楽シーンの橋渡しのような役割を担った。そして、この動きに続いて、サブ・ポップがシングル・コレクション(今も現役)等を通じて、アンダーグラウンドのバンドを紹介し、のちの世代のグランジやオルトロックへと繋がっていく。

 


・カレッジロックはオルトロックの原点なのか?

 

もしカレッジロックが一般的に大学生や若い世代に普及していなければ、その後の90年代のオルタナやミクスチャーロックは存在しなかったはずである。なぜなら、このラジオ曲のオンエアの中にはニルヴァーナやRHCP(マザーズ・ミルク等)の最初期の音楽もオンエアされていたからである。


当時、ラジオ曲を聴いたり、学生寮のパーティー等でこれらの音楽を自然に聴いていた学生が数年後、音楽を始め、それらのムーブメントを担っていったと考えるのが妥当である。また反商業主義的な音楽の宣伝と同時に、このカレッジロックというジャンルには何らかの音楽的な共通項がある。

 

演奏が上手いとは言えないが、ザラザラとしたギター、ときにエモの原点となる音楽的な叙情性、粗野なボーカル、そして音質こそ良くないが、純粋なエネルギーがこもっているということ。これらの長所と短所を兼ね備えたロックは、当時の若者の心を奮い立たせる効果があったかもしれない。そして、演奏がベテランバンドのように上手くなかったことも、当時のティーンネイジャー等に大きな触発を与えたものと思われる。そこには専門性の欠落という瑕疵こそあれ、これだったら自分でも演奏できるかもしれない、と思わせることはかなり重要だったのである。

 

カレッジ・ロックは1980年代からおよそ数年間でそのムーブメントの役割を終える。ある意味、オルト・ロックに飲み込まれていったのである。厳密に言えば、カレッジ・ロックが終わったのは92年で、これはその代表的なバンドのR.E.Mが商業的な成功を収めはじめ、ほとんどシアトルのバンドがメインストリームに引き上げられた年代と時を同じくしている。これらの対抗勢力として、アンダーグランドでは、スロウコアやオルトフォークがミレニアムの時代に向けての醸成期間を形成する。最初のオルトフォークの立役者は間違いなくエリオット・スミスである。

 

1992年以降、カレッジ・ロックが以前のような影響力を失い、宣伝力や求心力を急速に失った要因としては、アメリカのNPRなど次世代のラジオメディアが台頭し、前の世代のカレッジ・ラジオの文化観を塗り替えたことが要因に挙げられる。90年代の後半になると、依然として大学のラジオの影響下にあるインディーズバンドは数多く台頭し、その一派は、パンクという形で、または、エモという形で、これらのUSオルトを受け継いでいく。カレッジ・ロックは、インターネットの一般普及により、デジタルカルチャーの一貫として組み込まれることになる。


その後のインターネットの普及により、2000年前後からブログメディアが誕生し、かつてのカレッジ・ラジオのような影響力を持つに至る。それらが一般的となり、デジタルに勝機があるとみるや、それを大手企業のメディアも追従するという構図が作られた。以後の時代の音楽文化の宣伝はSNSやソーシャルという形に変わるが、以降の20年間は、その延長線上にあると言っても過言ではなく、それらの基礎はすべて90年代後半から00年代初頭にかけて構築されていった。

 

 


・カレッジロックの代表的なバンドとその音楽



・R.E.M

 



 

R.E.M.(アール・イー・エム)は、カレッジ・ロックの象徴的なバンドで大きな成功を収めた。米国、ジョージア州アセンズ出身のロック・バンド。1980年結成。2011年9月21日解散。バンド名はレム睡眠時の眼球運動(Rapid Eye Movement)に由来すると言われているが、本人らは明言しておらず諸説ある。

 

アメリカのインディ・レーベルIRSよりデビュー。6枚目のアルバム『グリーン』よりワーナーへと移籍。以後、現在に至るまでオルタナティブ・ロックの代表的なバンドの一つとして活動を続けている。


高い音楽性、歌詞にこめられたメッセージ性から「世界で最も重要なロックバンド」と称されることもある。デビュー当時は4人組のバンドだったが、1997年にドラムのビル・ベリーが健康上の理由により脱退。以後はメンバーを追加することなく3人で活動している。 2007年、ロックの殿堂入りを果たした。

 

 

 


・Sonic Youth

 



写真が大学生っぽいのは置いておくが、ソニック・ユース (Sonic Youth) は1981年に結成されたニューヨーク出身のバンド。1970年代後半から活動を開始する。現代音楽家グレン・ブランカが主宰するギター・オーケストレーションのグループでサーストン・ムーアとリー・ラナルドが出会いサーストンの彼女のキムを誘いソニックユースの原型が誕生した。ごく初期の数年間、ドラムにはあまり恵まれず、実力不足で何回か交代している。

 

グループ名は元MC5のギタリスト、フレッド “ソニック” スミス(パティ・スミスの亡き夫)が好きだったのと、サーストンが好きなレゲエのアーティストに”ユース”という言葉の付いた者が多かったので思いついた名前。本人曰くあまり意味は無いらしい。バンド名を変えてアルバムを出すことも多かったことから、それほどバンド名に執着は無い様子でもある。


ジャンルとしてはノイズロック、グランジ、オルタナに分類される。サーストン・ムーアは「エレキ・ギターを聞くということはノイズを聞くこと」との持論があり、ギターノイズだけの曲、リーディング・ポエトリーのような曲、実験的な曲も多い。自分でオリジナルのコードや変則的チューニングを考えたこともある。


当初、アメリカで人気が出ず、当時ニューウェイブが全盛期だったイギリスを始めとするヨーロッパで評価された。長年インディーズ・レーベルで活動。しかしアルバム「デイドリーム・ネイション」が傑作と評されメジャーへの足がかりとなる。自分たちがメジャーシーンに移行することでオルタナ全体の過小評価を上げたいとの思いが強かった。しかし「無冠の帝王」などと揶揄されることもあり、売れることより実験性を重んじるようなところがある。


メンバーであるスティーブ・シェリーは自主レーベル、スメルズ・ライク・レコードを運営するなどアンダー・グラウンドへ目を向け有能なアーティストをオーバー・グラウンドへ紹介することもあり「ソニック・ユースがお気に入りにあげている」といった冠詞はよく目にするものである。ニルヴァーナやダイナソーJr.といったバンドもソニック・ユースに見初められたバンドである。

 

 

 

 

 

・Husker Du(-Sugar)

 



 

Hüsker Dü(ハスカー・ドゥ)は、1979年アメリカ・ミネアポリスで結成されたハードコアバンド。Germs、Black Flag,X、Misfitsと並んで、USパンク/ハードコアの最重要バンドである。のちのALL、Discendentsを始めとするカルフォルニアのパンクの一部を形成している。

 

オルタナティヴ・シーンに強い影響を与えた最重要バンドとして知られる。バンド名はスウェーデンのボード・ゲームから。81年、地元で行われたライブ音源をCD化したアルバム『ランド・スピード・レコード(Land Speed Record)』でデビュー。

 

ロサンゼルス以外の北米パンク/ハードコアを吸収し、UKテイストをミックスしたサウンドである。初期の彼らはこういったカラーが濃く、とにかく「速い・やかましい・短い」の強行突破ぶりを見せつけていた。その後、激しい演奏にとことん美しいメロディと非反逆的な歌詞を乗せるという「脱・ハードコア」スタイルにシフト・チェンジする。楽曲の数々は、爆発と沈降を繰り返しながら、オーディエンスの支持を増やしていった。

 

だが、バンドの中心人物であったボヴ・モウルド(vo&g)が、「勢いで燃え尽きてしまったバンド」と自ら語っている通り、 87年のアルバム『ウェアハウス:ソングス・アンド・ストーリーズ』を最後に(86年にメジャーに移籍したばかりだった)、彼らは活動にピリオドを打った。

 

その後、ボブ・モールドはソロを通過してシュガー(Sugar)を結成、グラント・ハート(vo&dr)もソロを経てノヴァ・モヴで活動している。ソロ転向後は、スタンダードなロックに転じ、メロディック性が強まり、モールドのソングライターとしての性質が強まった。

 

  

 



・The Replacements

 


 

リプレイスメンツはミネソタ州ミネアポリスのバンドで、ハスカー・ドゥとともに中西部の最初のミュージック・シーンの立役者である。その野生味のあるロックサウンドは現在もなお得意な煌めきを放つ。

 

当初は荒削りなハードコアパンクやガレージロックを主体としていたが、84年の『Let It Be』からスイング・ジャズやロックンロール等多彩なジャンルを織り交ぜるようになった。バンドの商業的な成功はゲフィンからリリースされた「Don’t Tell A Soul」で訪れる。


以後、フロントマンのポール・ウェスターバーグのソングライティング性を押し出すようになり、インディーフォークやカントリーなどを音楽性の中心に据えるようになった。91年の解散後、ポール・ウェスターバーグはソロアーティストとして、カントリー/フォークロックの象徴的なアーティストとして目されるようになった。

 

 

 

 

・Pixies (-Breeders,Amps)

 

旧ラインナップ

ピクシーズ(Pixies)は、1985年に結成されたアメリカ合衆国のロックバンドである。初期オルタナティブ・ロックシーンに活躍したバンドのひとつであり、乾いた轟音ギターにブラック・フランシスの絶叫ボーカルが重なったサウンドは、後のインディーズミュージシャンに影響を与えた。


バンド名は、ギターのジョーイ・サンティアゴが適当に辞書を引いたところが「pixies」だったため。このバンドの正式名称は "Pixies in Panoply"であり、略してPixiesと読んでいる。
ピクシーズに影響を受けたバンドは数多く、ニルヴァーナのカート・コバーン、U2のボノ、ウィーザー、ブラー、レディオヘッド、ストロークス、the pillows、ナンバーガールなどが挙げられる。特にカート・コバーンがピクシーズを崇拝していたのは有名な話で、ニルヴァーナの代表曲ともいえる「スメルズ・ライク・ティーンスピリット」は、カート・コバーンがピクシーズの曲("Debaser"とも"WhereIs My Mind?"とも言われる)をコピーしている時に出来た曲だといわれている。

 

ニルヴァーナやナンバーガールといったバンドの特徴でもある、AメロやBメロは静かに、そしてサビ部分で絶叫というボーカルスタイルは彼らが発祥である。1曲1曲は短く、2分もない曲も多い。




・Throwing Muses

 



Throwing Musesはニューポートのバンドで、現在のオルトロックの源流を形成している。

 

同じ高校の同級生であり、異父姉妹でもあるクリスティン・ハーシュとタニヤ・ドネリーを中心に結成された。当初のバンド名は「Kristin Hersh and the Muses」だったという。その後ベーシストにエレイン・アダムデス、ドラマーにベッカ・ブルーメンが加入するが1983年に脱退。新ベーシストにレスリー・ランストン、新ドラマーにデヴィッド・ナルシーゾが加入した。


1984年に自主レーベルよりEP『Stand Up』をリリースしデビュー。その後バンドはアメリカのバンドとして初めて4ADと契約する。1986年にギル・ノートンプロデュースのセルフタイトルの1stアルバムをリリース。続けて1988年に2ndアルバム『ハウス・トルネード』をサイアー・レコードからリリース。1989年に3rdアルバム『Hunkpapa』を発表後、1990年にベーシストのランストンが脱退。新しくフレッド・アボンが加入し4枚目のアルバム『リアル・ラモーナ』を1991年にリリースするが、ドネリーがブリーダーズでの活動に専念するため脱退。


1992年にバンドは新ベーシストのバーナード・ジョージズを迎え5枚目のアルバム『レッド・ヘヴン』をリリース。アルバムには元ハスカー・ドゥのボブ・モールドがデュエット参加している[1]。1994年にハーシュはソロ・アルバム『Hips and Makers』を発表した。1995年発表の6枚目のアルバム『ユニヴァーシティ』の内容はプレスから賞賛されるが売れ行きは思わしくなく、その後サイアーを解雇される。

 

1996年に7枚目のアルバム『リンボー』をライコディスクよりリリース。1997年にバンドは解散し、ハーシュはソロ活動を本格化させる2003年にバンドは再結成を発表、同時期に8枚目のアルバム『スローイング・ミュージズ』をリリース。タニヤ・ドネリーもコーラスで参加した。2013年に10年ぶり9枚目のアルバム『Purgatory / Paradise』を発表した。 






・Guided By Voices

 




オハイオ州デイトン市の中学教師だったRobert Pollard率いるGuided By Voicesは、レコーディングに着手して以来大量の音楽を産み出してきた。

 

「ローファイ」というレッテルを貼られたおかげで、彼らの音楽が売上を伸ばしたことは間違いないが、彼らがほとんどの作品を安い機材で録音してきたのは、趣味の問題であると同時に予算の制約があったからだ。メジャー・レーベルと協力関係にあるインディー・レーベルから作品を発表するようになってからも、彼らは一貫してこの「ローファイ」というコンセプトにこだわっている。彼らのようなアンダーグラウンドのはぐれ者にとって、メインストリームでの成功は価値がないようだ。Pollardはつねに、現実のロックスターであるより、彼の空想のなかでロックスターであることを選んできた。

 

『Box』というそっけないタイトルの5枚組ボックス CDは、彼らの初期の作品を収録している。しかし、ほとんどの曲は、焦点が定まっていない。『King Shit And The Golden Boys』と題された付録CDは未発表作品を集めたものだが、このカルトバンドの未発表曲を聴きたいと待ち焦がれていたファンがそれほど大勢いたのだろうか。


なんらかの意味でPollardがポップの高みに達したのは、'92年の『Propeller』からである。このアルバムの数曲は、暗闇の前方に'60年代のハーモニーとパワーポップへの圧倒的な愛情が垣間見える。彼らは(と言っても、正式メンバー以外につねに何人かの酔っ払いが群がっているようだ・・・)『Vampire On Titus』をリリースすべくScat Recordsと契約した。しかし、そのように認知されただけで、Pollardは動揺した。彼は再び、AMラジオの夢の国というお得意のコンセプトで曲を作り出した。

 

それ以後Guided By Voicesがリリースした数枚のアルバムは、'60年代ポップ世界の再構築に関心がある者にとって貴重である。全米ツアーでの、Pollardと仲間たちは、歌の合間にビールを飲んでいた。ライヴが2時間に及ぶ頃には、彼らはたいてい出来あがっていて、最後にPollardが観客からリクエスト曲を募ったり、その場で曲を作ったりしていた。'96年には、Pollardと(元)メンバーのTobin Sproutがそれぞれソロアルバムを発表。'97年、Pollardは、クリーヴランド出身のロッカーCobra Verdeを新メンバーに迎え、『Mag Earwhig!』をリリースした。バンドは昨年、最新アルバム『Nowhere To Go But Up』をリリースし、変わらぬ健在ぶりをみせた。

 

 

 

 

・Superchunk

 


        

1989年にノースカロライナ州チャペル・ヒルで結成されたスーパー・チャンクは、マック・マコーガン(ギター、ヴォーカル)、ジム・ウィルバー(ギター、バッキング・ヴォーカル)、ジョン・ウースター(ドラムス、バッキング・ヴォーカル)、ローラ・バランス(ベース、バッキング・ヴォーカル)の4人組。

 

1989年に最初の7インチをリリースして以来、スーパーシャンクは、初期のパンク・ロック・ストンプ、キャリア中期の洗練された傑作、瑞々しく冒険的なカーブボールなど、さまざまなマイルストーンアルバムを発表してきた。 

 

Superchunkはピクシーズとともに90年代以降のオルタナティヴロックに強い影響を及ぼしている。また2000年代以降のメロディック・パンクバンドにも影響を及ぼしたという指摘もある。彼らの音楽の中には、現在のアメリカーナ、パンク、そしてロック、ポップに至るまですべてが凝縮されている。


 

 

・Dinosaur Jr.

 


 

 

Dinosaur Jrは1983年、マサチューセッツ州アムハーストにて、Deep Woundというハードコア・パンクバンドをやっていたJ Mascis(G/Vo)と、ハイスクールのクラスメートだったLou Barlow(B)により結成され、その後すぐに、Murph (Emmet Patrick Murphy/Dr)がメンバーに加わった。


Country Joe and The Fish、Jeffeson Airplaneの元メンバーのバンドがThe Dinosaurと名乗っており、法に抵触する可能性があったため、デビューアルバムである『Dinasour』(1985年)を発表後すぐに、バンド名を変えている(少なくとも1987年までは、Dinosaurの名前を使っていた。

 

1987年、彼らはSonic YouthからのすすめでSST Recordsと契約、彼らのベスト作とされている『Your' re Living All Over Me』をリリースした。次の年には『Bug』を発表する。イギリスで『Bug』は、Sonic YouthやBig Black、Butthole SurfersらのレーベルであったPaul SmithのBlast First Recordsからリリースされた。この時期、彼らは大音量のライブをやるバンドとして知られるようになった。

 

大きな商業的な成功はなかったものの、カルト的な熱狂を獲得していた。『Freak Scene』と『Just Like Heaven』の成功は、Sonic YouthやNirvanaと仲がよかったことも相まって、結果的にWarner Brothersとの契約に結びつくことになった。彼らの曲はギターノイズに包まれ、メロディックで構成も単純であったため、同時代のPixiesとともに、その後に登場してくるNirvanaに大きな影響を与えている。以後、『Green Mind』でようやく商業的な成功を収める。


面白いことに、ルー・バーロウとJ・マシスの音楽性はすべて1987年の「Little Funny Things」で完成されており、のちの商業的な成功はその付加物でしかないように思える。バンドの音楽は当初サイケデリックロックやフォークの融合という形で登場したが、それをよりスタンダードな音楽性へと変化させていった。


「Green Mind」の商業的な成功はその時代のグランジの影響下にあった。もちろん、「Flying Cloud」でのインディーフォークのアプローチや、「Muck」のサイケとファンク、そしてカレッジロックの融合というセンスの良さがあるとしてもである。それでも、やはり、Jマシスのギタリストとしての凄さは最初期や90年代にかけての音源にはっきりと見出すことが出来る。



                                  

 


・Built to Spill

 



                
Built to Spillはアイダホ州ボイシを拠点に活動するインディーロックバンド。キャッチーなギター・フックとフロントマンDoug Martschのユニークな歌声で有名だ。


元Treepeopleのフロントマンだったダグ・マートシュは、1992年にブレット・ネットソン、ラルフ・ユーツと共にビルト・トゥ・スピルを結成。GBVと並んで、オルタナティヴロックの源流にあるバンド。

 

当時のSpin誌のインタビューで、ダグ・マートシュは「アルバムの度にバンドのラインナップを変えるつもりだった」と語っている。


マートシュは唯一のパーマネント・メンバーだった。バンドのファースト・アルバムバンドのファースト・アルバム『アルティメット・オルタナティヴ・ウェイヴァーズ』(1993年)の後、ラインナップを変えるという考えは真実となった。ネッツォンとユッツの後任にブレットNelson(Netsonではない)とAndy Cappsに交代し、1994年の『There's Nothing Wrong With Love』をリリースした。コンピレーション・アルバム『The Normal Years、 というコンピレーション・アルバムが1996年にリリースされた。1995年のアルバム録音の合間に、バンドは ロラパルーザ・ツアーに参加。マーシュは1995年、ビルト・トゥ・スピルとワーナー・ブラザースと契約。


1997年、『Perfect From Now On』で初のメジャー・レーベルからのリリースを果たした。この時、バンドはマートシュ、ネルソン、ネットソン、スコット・プルーフで構成されていた。Perfect From Now On』は批評家からも高評価を受け、ビルト・トゥ・スピルはアメリカで最もステディなインディーロックバンドのひとつとなった。

 



・Sebadoh




Dinosaur.Jrに在籍していたルー・バーロウとエリック・ガフニーとの宅録テープ交換から生まれたバンド。ダイナソー脱退後、ルーはSebadohを中心とするソロ活動に専念するようになった。

 

安い機材でのレコーディングにこだわり、PavementやBeat Happening同様に、ロー・ファイを確立した重要なバンドと言われている。80年代前半から後半の宅録テープをリリースした後、92年からSUB POPに在籍。ルーのワンマンバンドというわけではなく、ルー以外のメンバーの曲も多い。メンバーチェンジを繰り返しながらも4枚のアルバムをリリースしている。

 

ルー・バーロウはSentridoやFolk Implosion 、ソロ名義などSebadoh以外のプロジェクトでも活動的だった。Sebadohは2000年頃に終止符が打たれ、ルーは他のプロジェクトに力を注ぐようになった。

 

2005年にはDinosaur Jrが再結成、2007年にはエリックを含むオリジナルラインナップでのSebadohでツアーをすると宣言。現在、ルーのメインバンドはDinosaur Jrのようだが、合間を縫って様々な活動を展開中らしい。

 

 

 

・上記で紹介したバンドのほか、カレッジロックの最重要バンドとして、Soul Asylum、The Smithereens、Buffalo Tomが挙げられる。他にも米国のラジオではUKロックがオンエアされており、その中にはThe La's,The Smith,The Cureといったバンドの楽曲がプッシュされていた。



今週はかなり多くの注目のリリースがありました。マーキュリー賞の受賞者、リトル・シムズの前作アルバムに続くサプライズリリースを行い、ラップファンを驚かせました。さらにスウェーデンのポップスター、ザラ・ラーソン、ブライトンのポストパンクバンド、プロジェクターズ、スウェーデンのドローン・ミュージックの音楽家、カリ・マローン、そしてブルーノートからもジョエル・ロスという才覚のあるジャズマンの新作が登場しました。「Kerrang!」のカバーアートを飾ったハイパーポップ/ゴシックポップの新星、チェルシー・ウルフにも注目です。

 


 


Zara Larsson 「Venus」


スウェーデンのシンガー、ザラ・ラーションのポップはどこまで世界を席巻するのか。「Venus」の制作過程は2021年6月頃に始まり、ラーションは自身のソーシャルメディアを通じて「アルバム3番のスタジオに戻る」というキャプションとともに自身の写真を投稿し、新しい時代の始まりを予告した。


その投稿からほぼ1年後、NMEとのインタビューで、アーティストはポスター・ガールの後継作が半分完成していることを明らかにしただけでなく、このプロジェクトが2023年初めにリリースされることも明らかにした。彼女は、サウンドはまだポップが中心だが、少しダークさもあり、傷つきやすさや恋にまつわるテーマもあると付け加えた。


2022年6月8日、彼女はTEN Music GroupのCEOであるOla Håkanssonとの合意により、自身の全音楽カタログを正式に買い戻したと発表した。この発表はまた、Epic Records(アメリカ)およびSony Music(スウェーデン)との提携による自身のレコードレーベルSommer Houseの立ち上げと同時に行われた。


プレスリリースの中で、レーベルのディレクターとザラは、この契約についてそれぞれの考えを語っている。


「アーティストとしてブレイクする機会を与えてくれ、私のキャリアをスタートさせてくれたオラとTENのみんなに本当にありがとうと言いたい。TENの皆さんは、音楽業界の女性にとってとてもとても稀なこと、つまり自分のカタログを持てるということを実現させてくれています。そうなれば、私が自分のレコード会社を立ち上げるのも納得がいく。自分の将来と、ソニーとの継続的なコラボレーションがとても楽しみです」


「これは、ザラの音楽キャリアにおける自然でエキサイティングな展開です。私たちは10年以上一緒に仕事をしてきましたが、ザラは若いにもかかわらず、今日の国際的な音楽シーンで豊富な経験を持ち、定評のある国際的なアーティストです。ザラの音楽キャリアを追うのはとてもエキサイティングなことでしょう。私は彼女の幸運を祈るとともに、彼女がすべての音楽的夢を達成し、その素晴らしい芸術性を世界最大の舞台で披露することを確信している」



 

Steaming Link:

https://zaralarsson.lnk.to/VENUS_preorder 

 

 

 

Little Simz 『Drop 7』 EP



一昨年、マーキュリー賞を受賞したイギリスのラッパー、リトル・シムズが1年以上ぶりにEPをリリース。今週初め、彼女のインスタグラムでトラックリストとスニペットで「Drop 7」を予告していたが、7曲入りのフル・プロジェクトが今、私たちの手の中にあると、この新作を予告した。


常に2歩先を行く未来志向のラッパーは、常にサウンドを進化させ、プロジェクトの度にファンに予想外のものを提示している。


このEPでリトル・シムズは、彼女のトレードマークである内省的なリリックを、これまでの彼女の作品の中で最も実験的でクラブ・インフューズされたビートの迷宮に通している。このEPは、シムズが2021年のシングル「Rollin Stone」、2015年の「Time Capsule」、「Devour」などで過去に何度か一緒に仕事をしているプロデューサーのJakwobとのコラボレーションの成果である。


ペーシーでハードなオープニングの「Mood Swings」から、レゲトンにインスパイアされた「Fever」、ダークでささやくような「I Ain't Feeling It」まで、「Drop 7」の各トラックは独自のサウンド領域で独立している。


「Drop 7」に収録されている曲は、1曲を除いてすべて、ほとんど閉所恐怖症のような急速なプロダクションを特徴としている。シムズは、EPの最終トラックであるピアノを中心としたジャズ調の「Far Away」では、特別な繋がりを失ったことを嘆きながら、バターのようなヴォーカルにスポットライトを当てている。 

 


Steaming Link:

https://littlesimz.ffm.to/drop7



Kali Malone 『All Life Long』



スウェーデンの実験音楽家、カリ・マローンのニュー・アルバム『オール・ライフ・ロング』は、マローン作曲のパイプオルガン、聖歌隊、金管五重奏のための楽曲集で、2020年~2023年の作品。


合唱曲はマカダム・アンサンブルにより演奏され、エティエンヌ・フェルショーがナントのノートルダム・ド・L'Immaculée-Conception礼拝堂で指揮。金管五重奏曲をアニマ・ブラスがニューヨークのザ・バンカー・スタジオで演奏。ローザンヌのサン・フランソワ教会、アムステルダムのオルゴールパーク、スウェーデンのマルメ・コンストミュージアムで、カリ・マローンとスティーブン・オマレーが歴史的なミーントーン・テンパー式パイプオルガンでオルガン音楽を演奏。


カリ・マローンは、稀に見る明晰なヴィジョンで作曲を行う。彼女の音楽は忍耐強く集中力があり、潜在的な感情的共鳴を引き出す進化する和声サイクルを土台としている。時間は極めて重要な要素であり、持続時間や広がりへの期待を手放すことで、内省と瞑想の空間を見出すチャンスを与えてくれる。


彼女の手にかかると、何世紀も前のポリフォニックな作曲法を実験的に再解釈したものが、音、構造、内省の新しい捉え方への入り口となる。畏敬の念を抱かせるような範囲ではあるが、マローンの音楽で最も注目すべき点は、それが促す耳を澄ませることによってかき立てられる親密さ。


2020年から2023年にかけて制作された『オール・ライフ・ロング』では、2019年の画期的なアルバム『ザ・サクリファイス・コード』以来となるオルガンのための作曲を、マカダム・アンサンブルとアニマ・ブラスが演奏する声楽と金管のための相互に関連する作品とともに紹介している。


12曲の作品の中で、和声的なテーマやパターンが、形を変え、さまざまな楽器のために繰り返し提示される。それらは、かつての自分のこだまのように現れては消え、見慣れたものを不気味なものにしていく。


ベローズやオシレーターではなく、ブレスによって推進されるマローンの合唱と金管楽器のための作品は、彼女の作品を定義してきた厳格さを複雑にする表現力を持ち、機械的なプロセスによって推進されてきた音楽に叙情性と人間の誤謬の美しさをもたらす。15世紀から17世紀にかけて製作された4つの異なるオルガンで、マローンがスティーヴン・オマリーの伴奏を加えて演奏する。

 


Steaming Link:

 

https://kalimalone.bandcamp.com/album/all-life-long 



Helado Negro 「Phasor」


『PHASOR』はランゲの最もタイトなコレクションで、深く、雰囲気があり、綿密に実行されている。 2019年の『This Is How You Smile』では、より前面に出たドラムとベース、集中したグルーヴを取り入れた。  


2021年のアルバム『Far In』では、部屋の向こう側ではなく、Zoomを通して母親と話すという隔離された状態に焦点を当てた。  『PHASOR』は、再び外に出ることへのオマージュである。  太陽がどんな風に感じるかを思い出し、肌を温めることで、人生を取り戻すためのレコードなのだ。


PHASORの種の一部は、2019年のランゲの39歳の誕生日に、イリノイ大学にあるサルバトーレ・マティラーノのSAL MARマシンを5時間見学した後に植え付けられた。このマシンは、ヴィンテージのスーパーコンピューターの頭脳とアナログオシレーターでジェネレーティブに音楽を作り出す複雑なシンセサイザー。  サウンド・シーケンスに無限の可能性を生み出すことができる。  「私はそれに魅了されました」とランゲは振り返る。SAL MARの経験がPHASORの基礎となった。サルマーの経験は、ランゲに自分自身について多くのことを教え、彼のクリエイティブ・プロセスの中心となった。  


「何が私を刺激するのか、特別な洞察を与えてくれた」とランゲは説明する。  「プロセスと結果における絶え間ない好奇心の追求なんだ。  曲は果実だけれども、私は土の下にあるものが大好きなのさ。 目に見えない魔法のようなプロセス。誰もがそれを見たいと思っているわけではないからだ。ただ果実を求める人もいる。 私はそうだ。 私は実も育てたいんだ」


ファー・インの後、ランゲはノースカロライナ州アッシュビルに移り住み、雲母が点在する結晶のような山々、野生のブルーベリーの茂み、そして漆黒の土が常に表面を覆っている風景が制作に欠かせないものとなった。  このコレクションは彼の妻でアルバム・アート・ドローイングを手がけたコラボレーター、クリスティ・ソードのスタジオの向かいにある彼のスタジオで制作された。

 



Steaming Link:

https://heladonegro.ffm.to/phasor 

 

 

Madi Diaz 「Weird Faith」


『Weird Faith』で、マディ・ディアスは、「ほんの少しの時間と空間があれば、どんなに揺るぎない感情さえも開かせる」(ピッチフォーク)。ディアスにとってその答えは、不安を探ることだった。


ディアスは2000年代後半からレコードを作り、プロとして曲を書いてきたが、2021年の『History Of A Feeling』をリリースするまで、彼女が広く知られるようになったと感じることはなかった。デビューアルバムではなかったが、確かにそう感じた。彼女は昼と夜のテレビデビューを果たし、2014年以来のソロツアーに乗り出し、ワクサハッチーやエンジェル・オルセンのツアーをサポート、レコードでは彼らとコラボレートした。ハリー・スタイルズは、ディアスを北米のアリーナやスタジアムでの前座に抜擢し、彼女の魅惑的なライブ・ショーに魅了され、彼のツアー・バンドのメンバーとして、ヨーロッパとイギリス全土で彼と共に歌い、さらに様々な都市でショーの前座を続けるよう依頼した。国際的なツアーを3ヶ月間行った後、ディアスはナッシュビルに戻り、ニュー・アルバム『Weird Faith』のリリースに向けて準備を進めている。

 

前作『History of a Feeling』でディアスは、長い交際の解消と微妙な別れに直面した。「あのアルバムを書くのは、感情のダーツ盤にダーツを投げるようなものだった」と彼女は言う。自分自身の悲しみを処理すること以外には何の目的もなく、自分が感じていることの核心に近づこうとしていた。その感情を消費するために外に出すのは怖かったが、ディアスはこのレコードをツアーに出す過程で不思議な癒しを感じた。ファンは彼女のセットに合わせて叫び、ウェンブリー・スタジアムのような場所で自分の言葉が反響してくるのを聞く力は、彼女を肯定するものだった。「女の子たちが思い切り大きな声で叫んでいるのを聞いて、部屋に立っていると力が湧いてくるの」と彼女は言う。


ケシャやリトル・ビッグ・タウンなどのアーティストのために曲を書く一方で、ツアー中の時間は、ディアス自身のプロジェクトや物語に対する興奮を新たにした。  

 

『Weird Faith』では、ディアスは再びロマンチックなパートナーシップについて考察している。今回は誰かを好きになること、そして新しい関係が引き起こす終わりのない自問自答について歌っている。


「このアルバムは、愛によって本当に火傷を負った後、勇気を出して再挑戦することを歌っている。勇気を出して、もう一度やってみること。そうやって勇気を出そうとするのは、私たちの本性なの。交通事故が起こるのは見えている。そうならないかもしれないけれど、とにかくそれに備えようとするの」


新しい恋の渦中で、彼女は繰り返し同じ疑問にぶつかった。「私はこの準備ができているのだろうか?自分にできるのだろうか?良いことと悪いことの区別がつく自分を信じていいのだろうか?

 

『Weird Faith』を書いているとき、ディアスは昔からソングライターを悩ませてきた問題に直面した。感傷的になったり、陳腐になったり、偽物になったりせず、ロマンスや愛について書くにはどうすればいいのか? ディアスにとってその答えは、恋に落ちるということが、屈辱的とまではいかずとも、いかに不安を誘うものであるかを探求することだった。『Weird Faith』はこれらの疑問に率直に応えている。ディアスはアルバムについて、「新しい恋愛の記録であると同時に、自分自身との新しい恋愛の記録でもある」と語っている。このアルバムは、あなたが「I Love You」と言ってから、相手が言い返す(あるいは言い返さない)までの合間に存在する。

 

 

 

Streaming Link:

https://madidiaz.ffm.to/weirdfaith



Projector 「Now We When Talk Violence」




2018年の結成以来、PROJECTORは、頑なに独自の道を歩んできた。フックのあるオルタナティヴロックに鋭利なインダストリアル・ドラム・マシン、そしてロンドンのシーンに触発された熱狂的なポストパンクにみずみずしいメロディを持ち込む。バンドはサウンドの幅広さとポップに対する実験的な姿勢をデビュー時から保持している。トリオはロック界の巨人、クレオパトリック(Cleopatrick)とヨーロッパツアーを行い、BBCラジオ6のスティーヴ・ラマック/エイミー・ラメの番組でオンエアされるようになった。それはこのクラフトに対する自信の賜物だった。


PROJECTORのサウンドを聴けば、現代のポストパンクがどうあるべきなのか、そして何をアウトプットすべきかを熟知しているかは瞭然だ。表現の微妙なニュアンス、現代生活、精神、政治の真の狂気と厳しさについて言及している。(彼らは歌詞について話したがらない)。レコーディングに対して一貫した姿勢を貫いてきたPROJECTORはこの数年、独力でプロデュースとレコーディングを行うことで、クリエイティブなアウトプットの手綱をしっかりと握っている。


PROJECTORのデビューアルバム「NOW WHEN WE TALK IT'S VIOLENCE」は2月9日に自主レーベルから発売。三者三様の芸術的な錯乱、鋭い攻撃性を持ち寄り、そして、バンドがメインストリームのロック・シーンに殴り込みをかける。ポップなフックの間を軽やかに行き来する。


ある時は、ジョイ・ディヴィジョン/インターポールを想起させるダークでインダストリアルなブルータリズムに染め上げられたかと思えば、またある時は、Squid風味のハイパーアクティブなラントポップのスペクタクルを織りなす。アルバムのクライマックスは、ドラムマシーンとみずみずしいハーモニーで歪んだアシッドに侵食されたカントリーに傾き、ラナ・デル・レイ風味のコーラスに乗せ、『Incesticide』時代のパラノイアなグランジ・ロックへと飛躍してゆく。


男女の双方のメインボーカルの個性が苛烈なポストパンク性、それとは対照的な内省的なオルトロック性を生み出す。ボーカルにはリアム・ギャラガーのようなフックと親しみやすさがある。かと思えば、対照的にアンダーグラウンドなカルト的な雰囲気を擁する。それはロックの持つ原初的な危険性である。なにより、バンドのテンションが、ピクシーズの初期のような奇妙な熱気を持ち、曲全般をリードする。それは彼らのライブのリアルなエネルギーを力強く反映している。

 


 

Steaming Link:

https://www.projectorprojector.co.uk/



Sonic Youth 「Wall Have Eyes」


このレジェンダリーなブートレグは、1985年のエポック的なツアーで行われた3つの重要なイギリス公演の録音をもとに制作された。1983年に英国を訪れたソニックユースは、耳を劈くような音量で会場をクリアにし、音楽プレスから賞賛を浴びた。2年後に再び訪れた1985年のツアーは、ソニック・ユースと英国との関係を確固たるものにし、永続的な影響力を持つことが証明された。


2月9日に発売される「Walls Have Ears」は、様々なブートレグで長期間入手困難だったライヴ音源を、原音に忠実に再現している。ソニック・ユースのドラマー、スティーヴ・シェリーがテープの入手に協力し、完全な形でリリースされることになった。


「Walls Have Ears」は、二枚組のヴァイナル、CD、カセット、デジタル・ダウンロードで入手可能だ。ファンに人気の「Expressway To Yr.Skull」が収録。長らくソニック・ユースのライヴ・セットで戦力となってきたこのヴァージョンは、荒々しく、縛られておらず、完全にストレートだ。





Streaming Link:

https://sonicyouth.bandcamp.com/album/walls-have-ears




Chelsea  Wolfe 「She Reaches Out To She Reaches Out To She」

 



ゴシック的な雰囲気を放つハイパーポップのニューフェイス、チェルシー・ウルフをご存じか。ウルフは、マルチ・インストゥルメンタリストのベン・チショルム、ドラマーのジェス・ゴウリー、ギタリストのブライアン・トゥーラオといういつものコラボレーターと曲作りに取り組み、2022年初頭にはプロデューサーのデイヴ・アンドリュー・シテックも参加した。ショーン・エヴェレットがミックスを担当し、エンジニアのヘバ・カドリーがマスタリングを行った。


アルバムについてウルフは、「過去の自分が現在の自分に手を差し伸べ、未来の自分に手を差し伸べて、変化、成長、導きを呼び起こすというレコード。自分を縛り付けている状況やパターンから解放され、自己啓発するための物語だ。自分らしさに踏み出すための招待状」と述べている。


チェルシー・ウルフの最新のソロ・スタジオ・アルバム『Birth of Violence』は2019年にリリースされた。2022年にはA24の映画『X』のサウンドトラックを手がけた。ダークなハイパーポップの新境地を切り開く。 
 
 


Streaming Link:




Joel Ross 「nublues」



「ナブルス」の起源は2020年に遡る。コヴィッド・パンデミックの最中、ライブ・パフォーマンスが閉鎖されたため、ジョエル・ロスは学位を取得するためにニュー・スクールに戻った。


アルト・サックス奏者のダリウス・ジョーンズが教えていた授業のひとつで、彼は学生にブルースの歴史を掘り下げるよう促した。


ロスは、ブルースとはどういうものなのか、単なる12小節の形式ではないと思い知らされた。単なる12小節の形式ではなかった。「これは精神やエネルギーのようなものなんだ」とロスは言う。「感情であり、表現だ。でも私たちがすでに発展させてきたリズムのアイデアに忠実でありたいとも思っている」


アルバムのリード・シングルとしてリリースされたタイトル曲「nublues」は、ブルースの精神とフリー・ジャズの奔放さを融合させている。「私はバンドにどう演奏するかは指示しない」とロスは言う。「僕が彼らに言っているのは、常につながっていること、そして僕らがやることすべてを互いに関連させることだ。そして、それがどうであれ、ブルースを演奏することだ」


そう考えると、「nublues」はさまざまな入り口がある広大なレコードであり、自分で冒険を選ぶように誘う。このLPで何を伝えたいのかと聞かれると、ロスは躊躇したのちにこう語った。「私の個人的な体験が、人々がそれを体験しているときに考えていることであってほしくないのです」と彼は言う。「音楽を聴きに来て、それぞれ自分のレンズを通して解釈してほしいんだ」


「ブルースについて学び、ブルースの歴史を理解し、バンドのサウンドとバンド構成を発展させることに集中する旅を楽しんでいた。私にとっては、あらゆる情報に触れ、それがどうあるべきかを見極めることから生まれる旅のようなものだった。それは常に続いている。これまでと同じことを続けてきて、それがどのように変化してきたかを知るためのスナップショットなんだ」

 




Streaming Link:

https://joelross.lnk.to/nublues

 

Donny Hathaway

 

現代のラップ/ヒップホップやネオソウルが政治的な主張、よりミクロな視点で見るなら、内的な問題の主張という内在的なテーマがあるように、R&Bミュージックが政治的な主張を持たぬ時代を見つけるほうが困難かもしれない。そもそもR&Bに関しては、公民権運動やブラックパンサー党の活動等の前の時代からブラックミュージックという音楽に乗せてミュージシャンが何らかの主張を交えるということは、それほどめずらしくはなかった。それは基本的に社会的な主張が許されなかった時代であるからこそ、有意義なメッセージを発信することが出来たのである。

 

R&Bは80年代に入ると、政治的な主張性における首座を、アイス・キューブを筆頭とするギャングスタ・ラップ勢に象徴される西海岸のグループに譲り、白人のロックやAORとの融合を試みた通称”ブラコン”(ブラック・コンテンポラリー)というジャンルが主流派となっていった。現地名ではUrban Contemporary(アーバン・コンテンポラリー)とも呼ばれている。


R&Bで「アーバンなサウンド」とよく評されるのは、このジャンルの余波を受けた評論用語と思われる。モータウン・サウンド等に象徴されるノーザン・ソウル、そして公民権運動に象徴されるニューソウルと呼ばれる、60年代と70年代にかけての動きの後に、黒人としての主張性が薄められ、ポピュラーなサウンドが主流となっていったのが80年代のR&Bであったらしい。

 

その時代、R&Bは死語になりつつあったが、このジャンルを節目に復活する。80年代のR&Bは日本では「ブラコン(ブラック・コンテンポラリーの略)」という名称で親しまれたのは有名で、スティービー・ワンダー、マイケル・ジャクソン、クインシー・ジョーンズ、マーヴィン・ゲイ、ダイアナ・ロスを始めとするミュージシャンがその代表的なアーティストに挙げられる。

 

上記のミュージシャンに共通するのは、それ以前の時代にジャクソン5としてニューソウルの運動の中心的な存在であったジャクソンを除いては、ポピュラー音楽との融合というテーマを持っていたことである。それは後にAORやソフト・ロックと合わさり、より軽やかなR&Bという形でメインストリームを席巻する。これらをプロモーションとして後押ししたのはMTVで、この放送局は24時間流行りの音楽をオンエアし続けていた。

 

やがて、R&Bはワンダーをはじめグラミー賞に多数のシンガーを送り出し、文字通り、スターシステムの中に組み込まれていったのは周知の通り。以後、R&Bはチャカ・カーンに代表されるようにプロデュース的なサウンドに発展し、また、90年代に入ると、ヒップホップとクロスオーバーが隆盛となる。その合間の世代にはDR. Dreなどの象徴的なミュージシャンも登場した。

 

2020年代のソウル・ミュージックを見ると、AORやジャズの影響を交えたR&Bが登場している。黒人のミュージシャンのみならず白人のアーティストにも好意的に受け入れられ、その影響を絡めたネオソウルというジャンルが2020年代のメインストリームを形成している。70、80年代のR&Bと現代のネオソウルは上辺だけ解釈してみると全然違うように聞こえるかも知れないが、実はそうではない。ブラックコンテンポラリーと現在のネオソウルの相違点を挙げるなら、現代的なポップス、テクノ、ハウスといったクラブミュージックの影響が含まれているか否かの違いしかない。そして、現代的なポップスとは、すでにハサウェイやチャカ・カーンが代表曲「Feel For You」で明示していたプロデュース的な視点を持つサウンドなのである。

 

リバイバルが発生するのは、何もロックやパンクだけにはとどまらない。スタイリッシュでアーバン、比較的、ライトな印象のあるブラック・ミュージックのジャンルが、2020年代中盤のR&Bに重要なエフェクトを及ぼす可能性は少なくない。ジェシー・ウェアをはじめとするアーティストにディスコサウンドの影響がハウスやテクノとともに含まれているのと同様である。

 

今回、ご紹介するブラック・コンテンポラリーの入門編とアーティストは、その最初期のウェイブを形成した先駆者で、80年代のR&Bシーンの音楽市場の土壌を形成した。以下のガイドは、アーバンなソウルとはどんな感じなのか、その答えを掴むための最良のヒントになるはずである。よりコアなブラコンのディスクガイドに関しては専門的な書籍を当たってみていただきたい。

 

 

Stevie Wonder  『Song In The Key Life』 1976




ブラックコンテンポラリーの先駆者として名高いのがご存知、スティービー・ワンダーである。モータウン時代はもとより、70年代のニューソウル運動を率い、現在でも大きな影響力を持つ。70年代のブラック・ミュージックの思想的な側面を削ぎ落とし、それらをライトで親しみやすい音楽にしたことが、ブラック・コンテンポラリーの最大の功績と言われている。

 

スティーヴィー・ワンダーといえば、ソウルバラードの達人であり、ピアノの弾き語りのイメージが強いが、このアルバムではファンクやホーンをフィーチャーしたご機嫌なファンクソウルサウンドが主体である。それはハサウェイと同じようにフュージョンジャズの音楽を取り入れている。代表曲「Sir Duke」はご機嫌なホーンのフィーチャーがマイルドなワンダーと声と見事な合致を果たしている。「I Wish」ではのちにジャクスンが80年代に試みたブラコンの商業的なイメージの萌芽を見出せる。80年代のメインストリームのR&Bの素地を作ったアルバムと見ても良さそうだ。

 

 

 


Donny Hathaway 『Extension Of a Man』 1973

 

 

ブラック・コンテンポラリーという趣旨に沿った推薦盤としては、『Robert Flick Feat. Donny Hathaway」が真っ先に挙げられることが多いのだが、ダニー・ハサウェイはやはりこのアルバムで、クロスオーバーの先駆的なアルバム。映画のような壮大なストリングスを交えたオープニング、ジャズやニューソウルの影響を交えた「Someday We'll All Be Free」はソウルミュージックの歴史的な名曲とも言えるだろう。


ファンク、フュージョン・ジャズの影響はもとより、このアルバムには、ブラジル音楽等の影響も取り入れられている。その合間に導入される現在のサンプリングやミュージックコンクレートのような手法を見る限り、現代の多くのアルバムは、今作の足元にも及ばない。発想力の豊かさ、卓越した演奏力、圧倒的な歌唱力、どれをとっても一級品であり、現在のデジタルの音質にも引けを取らない作品。ハサウェイの最高傑作と目されるのも頷けるR&Bの大作である。

 

 

 

 

Quincy Jones 『The Dude』 1981


アメリカのミュージシャン、プロデューサーのクインシー・ジョーンズによる1981年のスタジオ・アルバム。ジョーンズは多くのスタジオ・ミュージシャンを起用した。元々、トランペット奏者であったクインシーはジャズ、ソウル、ポップス、ロックと多角的な音楽性をもたらした。70年代には盛んだったクロスオーバーを洗練された音楽性へと昇華させたのがクインシーだ。元々プロデューサーとして活躍していたクインシーこそ、ブラコンの仕掛け人であるという。


『The Dude』はディスコサウンドの影響を残しながら、ポピュラー音楽寄りのアプローチをみせている。「Ai No Corrida」はどれくらいラジオやテレビでオンエアされたか計測不可能である。クインシーはこのアルバムを通じて、ロックやファンクを視点にして、グルーブ感のあるダンサンブルなソウルを追求している。AOR/ソフト・ロックに近いバラード「Velas」も必聴だ。

 

リード・シングル「Ai No Corrida」のダンス・エアプレイが多く、トップ40で28位、UKシングル・チャートで14位を記録。イギリスで11位を記録した「Razzamatazz」(パティ・オースティンがヴォーカル)も収録。同国におけるジョーンズのソロ最大のヒット曲となった。ルバム・オブ・ザ・イヤーを含むグラミー賞12部門にノミネートされ、第24回グラミー賞では3部門を受賞した。


 

 


 

Marvin Gaye 『Midnights』 1982


それまでモータウンの看板アーティストであった、マーヴィン・ゲイは、レーベルとの関係が悪化し、制作費を捻出できなったことから、いわゆるバンド主体のアプローチとは別のシンセ主体の音楽性へと突き進んだ。マーヴィンは、その後、CBSからの提案を受け入れ、コロムビアから三作のアルバムのリリースの契約を交わした。モータウンとの距離を置いたことが良い影響を及ぼし、ノーザン・ソウルから距離を置いたアーバンなソウルを生み出す契機となった。

 

享楽的ともいえるアーバンソウルの音楽には以前のマーヴィンのソウルから見ると、軽薄なニュアンスすら感じられるかもしれないが、レーベルとの契約の間で揺れ動いていたのを見ると、致し方無い部分もある。それ以前に対人のアルバムを制作したために、ファン離れを起こしていたマーヴィンはファンを取り戻すために、メインストリームの音楽を録音しようとした。前作『In Our Lifetime』のように内面に目を向けるのではなく、商業的なサウンドを追求することにした理由について、「今を逃すわけにはいかない。ヒットが必要なんだ」と語っていた。


 

 


Michael Jackson  『Off The Wall』 1971


 

 1979年の最大のベストセラーであり、ブラックコンテンポラリーの象徴的なアルバムと言われている。ソウルミュージックの評論家の中には、『Thriller』よりも高い評価を与える方もいるが、まったくの同意である。というか、マイケル・ジャクソンの最高傑作はこのアルバム。

 
『オフ・ザ・ウォール』(Off The Wall)は、1979年に発売されたマイケル・ジャクソンの5作目のオリジナル・アルバム。『ローリング・ストーン誌が選ぶオールタイム・ベストアルバム500』(2020年版)に於いて、36位にランクイン。


1979年、初めてクインシー・ジョーンズをプロデューサーに迎えて制作された。エピック・レコードからは初、モータウン・レコード時代を含めた通算では5作目のソロ・アルバム。



それまでのマイケルのソロ・アルバムは、制作サイドが主導して作られたもので、マイケルは用意された曲を歌うだけだったが、本作ではクインシーが主導権を持っていたものの、マイケルの自作曲やアイデアも随所に入れられている。ロッド・テンパートン、ポール・マッカートニー、スティーヴィー・ワンダーからの楽曲提供、バックの演奏もクインシーの息のかかった一流ミュージシャンを起用するなど、アルバムのクオリティがそれまでと比べて格段に洗練された。このアルバムから真の意味でのマイケルのソロ活動が始まったと言って良く、「『オフ・ザ・ウォール』こそ、マイケルの本当の意味でのファースト・アルバム」と言う人もいる。 




 


Whitney Houston 『Whitney Houston』 1985

 


なぜ、このアルバムを入れるのかというと、R&Bやポピュラー音楽としての影響力はもとより、現在のシンセ・ポップというジャンルにかなり深い影響を及ぼしている可能性があるということ。ホイットニー・ヒューストンは80年代の最高の歌手の一人であるが、このアルバムは基本的にはポピュラーアルバムで、ディープなソウルファンには物足りなさもあるかも知れない。


ただ、ポップスにソウルの要素をさりげなくまぶすというセンスの良さについては、現代のミュージシャンにとってヒントになりえる。アーバンソウルの都会的な雰囲気や、同年代に、ジョージ・ベンソンが試みた近未来志向のポップスという要素も散りばめられている。80年代の懐メロという印象があるかもしれないが、ケイト・ブッシュの再ヒットなどを見る限り、むしろ、現在こそ、ホイットニー・ヒューストンの再評価の機運が高まる可能性も予想される。

 

AOR/ソフト・ロック志向のR&Bポップスの名盤という意味では、ホイットニーは現代のリスナーの耳に馴染むようなアーティストと言えるのではないか。なぜなら現代のミュージックシーンはAORが重要視されているからである。ファルセットの美しさに関しては不世出のシンガーである。人を酔わせるメロディーとはいかなるものなのか、その模範的な事例がここにある。


 



Diana Ross 『Diana』 1980

 

 


 

シュープリームスを離脱後、ダイアナ・ロスはソロアーティストとして「Ain't Know Mountain High Enough」等、複数のヒット作に恵まれた。70年代には低迷期があったというダイアナ・ロスであるが、ナイル・ロジャースがプロデュースした『Diana』で第二の全盛期を迎える。反ディスコの気風の中、制作されたというが、その実、ファンクやディスコの影響も取り入れられている。それがロスの持つスタイリッシュかつアーバンな雰囲気と一致した一作だ。

 

 TV Oneの『Unsung』のエピソードでナイル・ロジャースは、曲の大半はロスとの直接の会話の後に作られたと語った。彼女はロジャースとバーナード・エドワーズに、自分のキャリアを "ひっくり返したい"、"もう一度楽しみたい "と言ったと伝えられている。結果、ロジャースとエドワーズは 「Upside Down」と 「Have Fun (Again)」を書いた。

 

クラブでダイアナ・ロスの格好をした何人かのドラッグ・クイーンに出くわしたロジャースは、「I'm Coming Out」を書いた。My Old Piano」だけが、彼らの通常の曲作りのプロセスから生まれた。「Upside Down」は全米チャート首位を獲得し、「I’m Coming Out」も5位以内にチャートインした。ロスの80年代のキャリアを決定づける傑作と言っても良いかもしれない。


 

 

Chaka Khan 『I Feel For You』 1984


 

 

今聴いても新鮮な感覚を持って耳に迫るチャカ・カーンの『I Feel For You』。カーンはルーファスのフィーチャリング・シンガーとして、70年代にヒットを飛ばしていた。ダニー・ハサウェイと同じようにゴスペルにルーツを持ちながらも、それをあまり表に出さず、叫ぶようなボーカルを特徴とするカーンのボーカルスタイルは70年代の女性シンガーに多大な影響を与えた。『I Feel For You』はプリンスのカバーで、スティーヴィー・ワンダーのハーモニカをフィーチャーしている。チャカ・カーンにとっての最大のヒット・ソングとなった。現在のプロデュース的な視点を交えたポップスに傾倒したR&Bのアルバムとして楽しむことが出来る。


現在、チャカ・カーンはローリングストーンのインタビューに答え、ツアーの引退を表明し、ガーデニングをしながら悠々自適の生活を送っている。単発のライブに関しては行う可能性があるという。





George Benson 『While The City Sleeps』 1986

 


ジョージ・ベンソンはソウル・ジャズのオルガン奏者、ジャック・マクダフとのバンドを経たギタリストで、76年にはフュージョンの先駆けのような曲「Breezin」を制作した。だが、この年代にはスティービー・ワンダーとダニー・ハサウェイの影響を受け始め、ブラックコンテンポラリーの道に入っていくことになる。

 

1986年のアルバム『While The City Sleeps』は驚くほどライトなポップで、アーティストのイメージを覆す。AOR/ソフト・ロックに、ベンソンが傾倒したことを裏付ける作品である。その中にはこのジャンルの中にある近未来的なシンセ・ポップの影響も伺い知ることが出来る。ジョージ・ベンソンというと、渋いソウルというイメージがあるが、それらのイメージを払拭するような作品である。この年代、前のニューソウルの時代から活躍していたシンガーの中で、最も時代に敏感な感覚を持つミュージシャンはこぞって、ロックやポップスとのクロスオーバーを図っていたことがわかる。今聴いても洗練されたポピュラー・アルバムと言えるのだ。 


 

 



Lionel Ritchie 『Dancing On The Ceiling』 1986



 

コモドアーズのメンバーでもあり、後にソロアーティストとして、そしてパラディ・ソウルの象徴的なシンガーに挙げられるライオネル・リッチー。彼の全盛期を知らない私のようなリスナーにとっては、ジャクソンやスティーヴィーと共演した「We Are The World」のイメージの人という感じだ。どうやら、リッチーが歌手としての実力に恵まれながらも、いまいちコアなソウルファンからの評価が芳しくないのは、白人の音楽市場に特化したことが理由であるらしい。


ダニー・ハサウェイのような黒人としてのアイデンティティ云々という要素は乏しいが、現在、メロウなポップスやAORというジャンルが取りざたされるのを見ると、今、まさに聴くべきアーティストなのではないかというのが印象である。確かにヒット曲でさえもその曲調はいくらか古びてしまったが、今なお彼の卓越した歌唱力、メロウな音の運びは現代的なリスナーにも親しまれる可能性を秘めている。『Can’t Slow Down』とともにリッチーの代表作に挙げられる。

 





Prince  『1999』  1982

 


 

プリンスといえば真っ先に『Purple Rain』のヒットにより、スターミュージシャンの仲間入りを果たした。ノーザンとサザン、サウスで別れていたR&Bの勢力図をスライ・ザ・ファミリーとともに塗り替えた。彼は10代の頃からすでにバンドにおいて、ダンスソウルの音楽性、そしてマルチインストゥルメンタリストとしての演奏力に磨きを掛けてきたが、その後のレコード契約、ひいてはスターミュージシャンとしての道のりはある意味では、付加物のようなものだったと思われる。


革新的とされたファンク・ソウルやシンセサイザーをフィーチャーしたスタイルは、それ以前の80年代にすでに行われていたものだったというが、彼のサウンドはエキセントリックかつエポックメイキングであるにとどまらず、現在のハイパーポップやエクスペリメンタルポップというジャンルの先駆者である。つまり、R&Bというのはプリンスにとって1つの装置のようなもので、その影響をもとに、様々な要素を取り入れ、それらの実験的でカラフルなイメージを持つポップスとして組み上げていった。

 

『1999』は今聴いても新鮮なアルバム。解釈によってはロジャー・プリンスの全盛期をかたどったアルバムと言えるだろうが、ボーカルから立ち上るスター性や独特な艶気はシアトリカルな要素を込めた「総合芸術としてのライブエンターテイメント」の始まりではなかったかと思われる。





 

2010年代のシンセポップ/エレクトロニックポップのミュージック・シーンの席巻から10年を経て、いよいよポップスのクロスオーバーやジャンルレス化が顕著になってきています。


その中で台頭したのが、ベッドルーム・ポップに続いて、ハイパー・ポップ、エクスペリメンタル・ポップという、ワイアードなジャンルです。これらのシーン/ウェイブに属するアーティストは、エレクトロニック、ヒップホップ、メタル、ネオソウル、パンク、コンテンポラリー・クラシカル、ゲーム音楽、それから無数のサブジャンルに至るまですべてを吸収し、それらをモダンなポピュラーミュージックとして昇華させています。2010年代以前のポピュラー音楽と2020年代以降のハイパーポップ/エクスペリメンタルポップの音楽の何が異なるのかについて言及すると、以前は耳障りの良い曲の構成やメロディーを擁するのがポピュラーとしての定義であったが、2020年代以後は必ずしもそうとは言いきれません。ときには、ノイズやアヴァンギャルドミュージックを取り入れ、かなりマニアックな音楽性を選ぶこともあるようです。


特に若い世代にかけて、さらにいえば、流行やファッション性、あるいはデジタルカルチャーに敏感な10代、20代のアーティストにこの傾向が多く見られます。若い年代において広範な音楽的な蓄積を積み重ねることはほとんど不可能であるように思えますが、ご存知の通り、サブスクリプションやストリーミング・サービスの一般的な普及により、リスナーは無数の音楽に以前より簡単にアクセス出来るようになり、それと同時に、自分の好みの音楽を瞬時にアクセス出来るようになったこと(かつての書庫のように膨大な数のレコードのラックを血眼になって探し回る必要はなくなった)、SoundcloudやYoutube、あるいは、TikTokで自らの制作した音楽を気軽にアップロード出来るようになったこと、次いで、それらのアップロード曲に関するリスナーのリアクションが可視化出来るようになったことが非常に大きいように推測されます。


これは、デビュー作をリリースしたばかりのイギリスのシンガー、Pinkpantheressも話している通りで、自分の音楽が大衆にどれくらい受け入れられるのかを推し量る「リトマス試験紙」のようになっています。つまり、こういった手段を取ることにより、ポピュラリティーと自らのマニア性のズレを見誤ることが少なくなった。つまり、多数のリスナーがどういった音楽を必要としているのか、音楽市場の需要がアーティストにも手に取るように分かるようになったのです。もちろん、あえてそのことを熟知した上で、スノビズムを押し出す場合があるにしても……。

 

そんな中、2023年は女性、あるいはこのジャンルに象徴づけられるノンバイナリーを自称するシンガーソングライターを中心に、これらのハイパーポップのリリースが盛んでした。特にハイパーポップ/エクスペリメンタルポップに属するアーティストに多く見受けられたのが、自らの独自のサブカルチャー性や嗜好性を、それらのポピュラリティーの中に取り入れるというスタイルです。音楽的に言及すれば、メタルのサブジャンルや、エレクトロニックのグリッチを普通に吸収したポップサウンドを提示するようになってきています。これはUKラップなどで普通にグリッチを取り入れることが一般的になっているのと同じように、ポピュラー・ミュージックシーンにもそれらのウェイブが普及しつつあるという動向を捉えることが出来るでしょう。

 

2023年以降のポピュラー・ミュージックシーン、特に、ハイパーポップというジャンルを見る限りでは、それらの中にどういった独自性を付け加えるのかが今後のこのジャンルの命運を分けるように思われる。


特に今年活躍が目立ったのはアジアにルーツを持つ女性、あるいはノンバイナリーのアーティストだ。必ずしも耳の肥えたリスナー、百戦錬磨のメディア関係者ですら、これらのジャンルの内奥まで理解しているとは言い難いかもしれませんが、少なくともこのジャンルの巻き起こすニューウェイブは、来年移行のミュージックシーンでも強い存在感を示し続けるに違いありません。

 

今年、登場した注目のハイパーポップ/エクスペリメンタルポップアーティスト、及びその作品を以下にご紹介していきます。

 

 

 

 

・シンガポール出身のハイパーポップの新星 Yeule  ーグリッチサウンドとサブカルチャーの融合ー

 

 

Pitchfork Musiic Festivalにも出演経験のあるYeuleは、シンガポール出身のシンガーソングライターであり、現在はLAを拠点に活動している。イエールは、日本のサブカルチャーに強い触発を受けている。

 

エヴァンゲリオンなどの映像作品の影響、次いで沢尻エリカなどのタレントからの影響と日本のカルチャーに親和性を持っている。加えて、Discordなどのソーシャルメディアの動きを敏感に捉え、自らの活動を、インターネットとリアルな空間を結びつけるための媒体と位置づける。

 

今年、Ninja Tuneから三作目のアルバム『softcars』を発表し、海外のメディアから高い評価を受けた。ベッドルームポップを基調としたドリーム・ポップ/シューゲイズの甘美なメロディー、そしてボーカルに加え、チップチューン、グリッチを擁するエレクトロニックを加えたサウンドが特徴となっている。もちろん、その音楽性の中にアジアのエキゾチズムを捉えることも難しくない。

 

 

「Softcar」ー『Softcar』に収録

 

 

 

 

・mui zyu  ー香港系イギリス人シンガーのもたらす摩訶不思議なエクスペリメンタル・ポップー

 

 



香港にルーツを持つイギリスのシンガー、mui zyuは他の移民と同じように、当初、自らの中国のルーツに違和感を覚え、それを恥ずかしいものとさえ捉えていた。ところが、ミュージシャンとしての道を歩み始めると、それらのルーツはむしろ誇るべきものと変化し、また音楽的な興味の源泉ともなったのだった。今年、Mui ZyuはFather/Daughterと契約を交わし、記念すべきアーティストのデビューフルレングス『Rotten Bun For An Eggless Century』(Reviewを読む)を発表した。

 

ファースト・アルバムを通じ、mui zyuは、パンデミック下のアジア人差別を始めとする社会的な問題にスポットライトを当て、台湾の古い時代の歌謡曲、ゲーム音楽に強い触発を受け、SFと幻想性を織り交ぜたシンセ・ポップを展開させている。他にもアーティストは、中国の古来の楽器、古箏、二胡の演奏をレコーディングの中に導入し、摩訶不思議な世界観を確立している。

 

 

「Hotel Mini Soap」ー『Rotten Bun For An Eggless Century』に収録

 

 

 

 

・Miss Grit   ーデジタル化、サイボーグ化する現代社会におけるヒューマニティーの探求ー

 



デジタル管理社会に順応出来る人々もいれば、それとは対象的に、その動きになんらかの違和感を覚える人もいる。ニューヨークを拠点に活動する韓国系アメリカ人ミュージシャン、マーガレット・ソーンは後者に属し、サイボーグ化しつつある人類、その流れの中でうごめくヒューマニティーをアーティストが得意とするシンセポップ、アートポップの領域で表現しようと試みている。


デビューアルバム『Follow the Cyborg』(Reviewを読む)をMuteから発表。『Follow the Cyborg』でソーンは、機械が、その無力な起源から自覚と解放へと向かう過程を追求している。この作品は、エレクトロニックな実験と刺激的なエレキギターが織り成す音の世界を表現している。ピッチフォークが評したように、「ミス・グリットは、彼女の曲を整然とした予測可能な形に詰め込むことを拒み、その代わりに、のびのびと裂けるように聴かせる」


ミス・グリッツがサイボーグの人生についてのアルバムを構想するきっかけとなったのは、このような機械的な存在のあり方に対する自身の関わりからきている。混血、ノンバイナリーであるソーンは、外界から押しつけられるアイデンティティの限界を頑なに拒否し、流動的で複雑な自己理解を受け入れてきた。ローリング・ストーン誌に「独創的で鋭いシンガー・ソングライター」と賞賛されたMiss Gritのプロセスは内省的で、ビジョンは正確である。ミス・グリッドは、サイボーグの人生を探求する中で、『her 世界でひとつの彼女』、『エクス・マキナ』、『攻殻機動隊』、ジア・トレンティーノのエッセイ(『Trick Mirror: Reflections on Self-Delusion』より)、ドナ・ホロウェイの『A Cyborg Manifesto』などに触発を受けている。

 


「Follow The Cyborg」ー『Follow The Cyborg』に収録

 

 

 

  Yaeji  ーXL Recordingsが送り出す新世代のエレクトロニック・ポップの新星ー




ニューヨーク出身の韓国系エレクトロニックミュージック・プロデューサーであり、DJ、さらにヴォーカリスト、Yaeji(イェジ)は、K-POPのネクスト・ウェイブの象徴的なアーティストに位置づけられる。

 

2017年のEPリリースをきっかけに世界的に高い評価を受けた後、彼女はチャーリーXCX、デュア・リパ、ロビンのリミックスを手掛け、2回のワールドツアーをソールドアウトさせ、デビュー・ミックステープ・プロジェクト『WHAT WE DREW 우리가 그려왔던』をリリースした。

 

クイーンズのフラッシングで生まれたイェジのルーツは、ソウル、アトランタ、ロングアイランドに散りばめられている。韓国のインディー・ロックやエレクトロニカ、1990年代後半から2000年代前半のヒップホップやR&Bに影響を受けており、彼女のユニークなハイブリッド・サウンドの背景ともなっている。


『With A Hammer』は、コロナウィルスの大流行による閉鎖期間中に、ニューヨーク、ソウル、ロンドンで2年間にわたって制作された。これは、アーティストの自己探求への日記的な頌歌であり、自分自身の感情と向き合う感覚、勇気を出してそうすることで可能になる変化である。

 

この場合、Yaejiは、怒りと自分の関係を検証している。これまでの作品とは一線を画している。トリップホップやロックの要素と、慣れ親しんだハウスの影響を受けたスタイルを融合させ、英語と韓国語の両方で、ダークで内省的な歌詞のテーマを扱っている。ヤエジはこのアルバムで初めて生楽器を使用し、生演奏のミュージシャンによるパッチワークのようなアンサンブルを織り交ぜ、彼女自身のギター演奏も取り入れる。「With A Hammer』では、エレクトロニック・プロデューサー、親しいコラボレーターでもあるK WataとEnayetをフィーチャーし、ロンドンのLoraine JamesとボルチモアのNourished by Timeがゲスト・ヴォーカルとして参加している。

 

 

「easy breezy」ー『With A Hammer』に収録

 

 

 

 

yune pinku  ーロンドンのクラブカルチャーを吸収した最もコアなエレクトロ・ポップー

 



現在、サウスロンドン出身のyune pinkuは特異なルーツを持ち、アイルランドとマレーシアの双方のDNAを受け継いでいる。"post-pinkpantheress"とみなしても違和感のないシンガーソングライター。現時点では、シングルのリリースと2022年のEPのリリースを行ったのみで、その全貌は謎めいている部分もある。yuneというのは、子供の頃のニックネームに因み、10代の頃にはビージーズやキンクス、ジョニ・ミッチェルの音楽に薫陶を受けた。若い頃にパンクとインディーズカルチャーに親しみ、その後、ロンドンのクラブカルチャーでファンベースを広げた。

 

彼女の音楽には、最もコアなロンドンのクラブ・ミュージックの反映があり、そこにはUKガレージ、ダブステップ、 ハウス、ダンスミュージック全般的な実験性を読み解くことが出来る。yune pinkの生み出すエレクトロニック・ポップが斬新である理由は、その音楽に対する目が完全には開かれていないことによる。電子的な音楽を聴くのが楽しくて仕方がないらしく、「まだ電子音楽の異なるジャンルに新しい発見をしている途中なんです」とアーティストは語る。


yuneにとってダンスミュージックはまだ新しく未知なるものなのである。そのため、複数のシングルには電子音楽としてセンセーショナルな輝きに充ちている。今年、発表されたシングル「Heartbeat」は、エレクトロニックのみならず、ポピュラーミュージックとしても先鋭的な響きを持ち合わせている。今後、注目しておきたいアーティスト。

 


「Heartbeat」ーSingle

 

 

 

Saya Gray   ーCharli XCXのポスト世代に属する前衛的なポピュラー・ミュージックー




今年、Dirty Hitからアルバム『QWERTY』をリリースしたSaya Gray(サヤ・グレー)はトロント生まれ。


アレサ・フランクリン、エラ・フィッツジェラルドとも共演してきたカナダ人トランペット奏者/作曲家/エンジニアのチャーリー・グレイを父に持ち、カナダの音楽学校「Discovery Through the Arts」を設立したマドカ・ムラタを母にもつ音楽一家に育ち、幼い頃から兄のルシアン・グレイとさまざまな楽器を習得した。グレーは10代の頃にバンド活動を始め、ジャマイカのペンテコステ教会でセッションに明け暮れた。その後、ベーシストとして世界中をツアーで回るようになり、ダニエル・シーザーやウィロー・スミスの音楽監督も務めている。


サヤ・グレーの母親は浜松出身の日本人。父はスコットランド系のカナダ人である。典型的な日本人家庭で育ったというシンガーは日本のポップスの影響を受けており、それは前作『19 Masters』でひとまず完成を見た。

 

デビュー当時の音楽性に関しては、「グランジーなベッドルームポップ」とも称されていたが、二作目となる『QWENTY』では無数の実験音楽の要素がポピュラー・ミュージック下に置かれている。ラップ/ネオソウルのブレイクビーツの手法、ミュージック・コンクレートの影響を交え、エクスペリメンタルポップの領域に歩みを進め、モダンクラシカル/コンテンポラリークラシカルの音楽性も付加されている。かと思えば、その後、Aphex Twin/Squarepusherの作風に象徴づけられる細分化されたドラムンベース/ドリルンベースのビートが反映される場合もある。それはCharli XCXを始めとする現代のポピュラリティの継承の意図も込められているように思える。

 

曲の中で音楽性そのものが落ち着きなく変化していく点については、海外のメディアからも高評価を受けたハイパーポップの新星、Yves Tumorの1stアルバムの作風を彷彿とさせるものがある。サヤ・グレーの音楽はジャンルの規定を拒絶するかのようであり、クローズ「Or Furikake」ではメタル/ノイズの要素を込めたハイパーポップに転じている。また作風に関しては、極めて広範なジャンルを擁する実験的な作風が主体となっている。一般受けはしないかもしれないが、ポピュラーミュージックシーンに新風を巻き起こしそうなシンガーである。

 


 



2023年のロック・シーンも一言でいえば「盛況」だった。ブリット・ポップの伝説、ブラーの復活宣言、新作アルバムのリリース、そしてワールド・ツアーは当然のことながら、ホーキンス亡き後のフー・ファイターズの新作のリリースもあった。他にも、スラッシュ・メタルの雄、メタリカの新作も全盛期に劣らぬパワフルな内容だった。スウェーデンのガレージ・ロックの伝説、Hivesの新作リリースもあった。そして、彼らの後を追従する若い世代のパラモアもメインのロックシーンで相変わらず存在感を示してみせた。ロックとは何なのか、音楽として聴けば聴くほどわからなくなるというのが本音だが、ハイヴズがその答えを端的に示してくれている。

 

Hivesが言うように、「ロックとは成熟することを拒絶すること」なのであり、また熟達するとか洗練されることから背を向けて一歩ずつ遠ざかっていくことでもある。一般的な人々が世界的なロックバンドに快哉を叫ぶことすらあるのは、そういった人々が年々周囲に少なくなっていくことに理由がある。


すでにご承知のように、ロックとは、パンクと同じように、単なる音楽のジャンルを指すものではなく、アティテュードやスタンスを示すものなのである。そもそも、世間や共同体が大多数の市民に要請する規範や規律から距離を置くことなのであり、私達のよく見聞きする倫理や模範とかいう概念を軽々と超越することなのだ。以下、ベスト・リストとしてご紹介する、2023年度のロックバンドの人々は、おしなべてそのことを熟知しているのであり、そもそもロックが社会が要請する常識的な概念とは別の領域に存在することを教唆してくれる。人間は、年を重ね、人格的に成長すればするほど、規範や模範という概念に縛りつけられるのが常だが、どうやらここに紹介する人たちは、幸運にもそれらのスタンダードから逃れることが出来たらしい。

 

 

 

Foo Fighters  「But Here We Are」


Label: Roswell

Release : 2023/6/2

 

テイラー・ホーキンスの亡き後も、結局、フー・ファイターズは前進を止めることはなかった。『But Here We Areは表向きにはそのことは示されていないが、暗示的にホーキンスの追悼の意味が込められている収録曲もある。グランジの後の時代にヘヴィーなロック・バンドというテーゼを引っ提げて走りつづけてきたデイヴ・グロール率いるフー・ファイターズであるが、新作アルバムではアメリカン・ロックの精髄に迫ろうとしている。更にこれまで表向きには示されてこなったバンドの音楽のナイーブな一面をスタンダードなロックサウンドから読み取る事もできる。

 

そしてメインストリームで活躍するバンドでありながら、このアルバムの主要なサウンドに還流するのは、2000年代、あるいはそれ以前のUSインディーロック/カレッジロックのスピリットである。それらをライブステージに映える形の親しみやすくダイナミックなロックソングに昇華させた手腕は瞠目すべき点がある。そして、ソングライティングの全体的な印象についてはボブ・モールドのSugarのスタイルに近いものがある。オープニングを飾る「Rescued」、「Under You」はフー・ファイターズの新しいライブ・レパートリーが誕生した瞬間と言えるだろう。

 

Best Track 「Resucue」 




Paramore 「This Is Why」

 

 

Label: Atlantic

Release: 2023/2/10


今年、本国の音楽メディアにとどまらず、英国のメディアをも絶叫させた6年ぶりとなる新作アルバムを発表したパラモア。だが発売当初の熱狂ぶりはどこへやら、一ヶ月後そのお祭り騒ぎは少し収まり始めていた。しかし、落ち着いてから改めて聞き直すと、良作の部類に入るアルバムで、正直いうと、マニアックなインディーロックアルバムよりも聞き所があるかもしれない。特に「The News」はポスト・パンクとして見ると、玄人好みの一曲となっていることは確かだ。

 

『This Is Why』は現代社会についてセンセーショナルに書かれた曲が多い。タイトル曲では、インターネット/ソーシャルメディア文化の息苦しさや、公然と浴びせられる中傷について嘆きながら、苛立ちの声を上げ、「意見があるならそれを押し通すべき」と歌う。ウィリアムズの怒りと苛立ちを表現したこの曲は、Paramoreの先行アルバム『After Laughter』のダンス・ファンクにエッジを加えることに成功し、多くの人の共感を呼ぶ内容となっている。ドラマーのザックは世界的に見ても傑出した演奏者であり、彼のもたらす強固なグルーブも聴き逃がせない。

 


Best Track 「The News」

 

 

 

 Metallica 「72 Seasons」

 


 

 Label: Blackend Recordings Inc.

Release: 2023/4/14

 

一般的にいうと、大型アーティストやバンドのリリース情報というのは、レーベルのプロモーションを通じて、大手メディアなどに紹介され、順次、中型のメディア、そして零細メディアへと網の目のようにニュースが駆け巡るものである。しかし、近年、限定ウイスキーの生産及び公式販売など、サイド・ビジネスを手掛けていたメタリカの新作アルバム「72 Seasons」の発表は、ほとんどサプライズで行われた。


ドラマーのラーズ・ウィリッヒが語ったところによると、新作の情報を黙っていようとメンバー間で示し合わせていたという。そういったこともあってか、実際にサプライズ的に発表された『72 Seasons』(Reviewを読む)は多くのメタルファンに驚きを与えたものと思われる。

 

実際のアルバムの評価は、メタル・ハマーなどの主要誌を見ると、それほど絶賛というわけでもなかった。しかしながら、多くのメタルバンドが商業的に成功を収めるにつれて、バンドの核心にある重要ななにかを失っていくケースが多い中、メタリカだけではそうではないということが分かった。

 

確かに、フルレングスのアルバムとして聴くと、全盛期ほどの名盤ではないのかもしれないが、特にオープニングに収録されている「72 Seasons」LUX ÆTERNAの2曲は、スラッシュ・メタルの重要な貢献者、そしてレジェンドとしての風格をしたたかに示している。特にラーズ・ウィリッヒのドラムのスネア、タム、ハイハットの連打は、精密機械のモーターのように素早く中空で回転しながら、フロント側のヘッドフィールドのギター/ボーカル、他のサウンドを強固に支え、それらを一つにまとめ上げている。90年代のUSロックの雰囲気に加え、80年代のプログレッシヴ・メタルの影響を反映した変拍子や創造性に富んだ展開力も健在だ。

  


Best Track 「72 Seasons」

 

 

 

 

Hives  「The Death of Randy Fitzsimmons」



Label: Hives AB

Release: 2023/8/11

 

スウェーデンは90年代後半、ガレージロックやパンクが盛んであった時期があり、Backyard Babies、Hellacoptersと、かっこいいバンドが数多く活躍していた。しかし、最も人気を博したのは、ガレージ・ロックのリバイバルを合間を縫って台頭したHivesだ。デビュー当時の代表曲「Hate To Say I Told You So」はロックのスタンダード・ナンバーとして今なお鮮烈な印象を放っている。


『The Death of Randy Fitzsimmons』はコンセプチュアルな意味が込められ、さらにドラマ仕立てのジョークが込められている。なんでも、ハイヴズの曲は「ランディ・フィッツシモンズ」という謎のスヴェンガリによって書かれたと長い間言われてきたというが、一度も一般人の目に触れることはなかった。そして、つい最近になって、フィッツシモンズが "死んだ"らしく、ハイブスは彼の墓を探し回っていたところ、偶然にもデモ音源を発見し、『ランディ・フィッツシモンズの死』というタイトルにふさわしいアルバムに仕上げた(と言う設定となっている)。

 

まるで墓から蘇ったかのように久しぶりのアルバムをリリースしたハイヴズ。しかし、年を経ても彼らのロックバンドとしてのやんちゃぶりは健在である。さらに、アホさ加減は現代のバンドの中でも群を抜いている。先行シングルのビデオに関しても、シュールなジョークで笑わせに来ているとしか思えない。もちろん、新作アルバムについても、シンプルな8ビートを基調としたガレージ・ロックのストレートさには、唖然とさせるものがある。そして、アルバムに充るストレートな表現やシンプル性は、複雑化し、細分化しすぎた音楽をあらためて均一化するような意味がこめられているのではないか。サビのシンガロングなコーラスワークもすでにお約束となっている。

 

「ロックとは成長するものではない!!」と豪語するハイヴズ。しかしながら、彼らの音楽が2000年代から何ひとつも変わっていないかといえば、多分そうではない。アルバムの後半では、クラフトワークのようなテクノ風の実験的なロックの作風に挑戦しているのには、少し笑ってしまった。

 

 

 Best Track 「Bogus Operandi」

 

 

 

 

 Blur  「The Ballad Of Darren」

 


Label: Warner Music

Release; 2023/7/21



オリジナル・アルバムとしては2015年以来となるブラーの『The Ballard Of Darren』。デーモン・アルバーンはこのアルバムに関して最善は尽くしたものの、現在はあまり聴いていないと明かしている。どちらかといえば、先鋭的な音楽性という面では、グラハム・コクソンの新プロジェクト、The Waeveのセルフタイトル(Reviewを読む)の方に軍配が上がったという印象もある。もちろん、音楽は優劣や相対的な評価で聴くものではないのだけれど。

 

デーモン・アルバーンはどれだけ多くのロックバンドをかき集めようとも、テイラー・スウィフト一人が生み出す巨大な富には太刀打ちできない、とも回想していた。 そんな中で、ブリット・ポップ全盛期の時代の勘のようなものを取り戻すべく苦心したというような趣旨のことも話していた。

 

今作には、彼らの代名詞であるアート・ロック、そして現代的なポストパンクの要素、それからブリットポップの探求など、様々な音楽性が取り入れられている。磨き上げられたサウンドの中には懐古的な響きとともに、現代的な音楽性も加わっている。特に、オープニング「The Ballad」はシンセ・ポップとスタイル・カウンシルの渋さが掛け合せたような一曲だ。その他、録音機材の写真を見ても、シンセ・ポップをポスト・パンク的な音響をダイレクトに合致させ、新しいサウンドを生み出そうしている。彼らの目論むすべてが完成したと見るのは早計かもしれないが、新しいブラーサウンドが出来つつある予兆を捉えることも出来る。つまり、このアルバムは、どちらかといえば結果を楽しむというより、過程を楽しむような作品に位置づけられる。

 

 

Best Track 「The Ballad」

 

  


 Queen Of The Stone Age 「In Times New Roman...」

 


 

Label: Matador 

Release: 2023/6/16

 

 ストーナーロックの元祖、砂漠の大音量のロックとも称されるKyussの主要なメンバーであるジョッシュ・オムを中心とするQOTSA。すでに多くのヒット・ソングを持ち、そのなかには「No One Knows」、「Feel Good Hit Of The Summer」など、ロックソングとして後世に語り継がれるであろう曲がある。2017年の『Villains』に続く最新アルバム『In Times New Roman...』はジョッシュ・オムの癌の闘病中に書かれ、ロックバンドの苦闘の過程を描いている。現在、オムの手術は成功したようで、ファンとしては胸をなでおろしていることだろう。

 

今作には、ガレージ・ロック調の曲で、ジョッシュ・オムが「お気に入り」と語っていた「Paper Machete」などストレートなロックソングが満載。タイトルにも見受けられる通り、何らかの米国南部の文化性もそれらのロックソングの中に込められているかもしれない。注目すべきはストーナーの系譜にある「Negative Space」など轟音ロックも収録されていることである。その中にはさらにテキサスのSpoonのように、ブギーのような古典的なロックの要素も加味されている。轟音のロックとは対象的なブルースロックも本作の重要なポイントを形成している。


 

Best Track 「Paper  Machete」

 

 

 

 

 King Gizzard & The Lizard Wizard 『The Silver Cord』



Label: KGLW

Release: 2023/10/27

 

オーストラリアのキング・ギザード&リザード・ウィザードはメタルやサイケロックを多角的にクロスオーバーし、変わらぬ創造性の高さを発揮してきた。ライブにも定評があり、バンドアンサンブルとして卓越した技術、さらに無数の観客を熱狂の渦に取り込むパワーを兼ね備えている。

 

『The Silver Chord』は、A面とB面で構成されている。後半部はリミックス。従来のメタルやサイケを中心とするアプローチから一転、テクノやハウスの要素を交え、それらを以前のメタルやサイケの要素と結びつけ、狂信的なエナジーを擁するロックを構築した。バンドから電子音楽を中心とする音楽性に変化したことで、一抹の不安があったが、予想を遥かに上回るクオリティーのアルバムをファンに提供したと言える。アンダーワールドやマッシヴ・アタックのダンス/エレクトロニックのスタイルにオマージュを示し、それを新たな形に変えようとしている。

 

 

Best Track 「Gilgamesh」

 

 

 

PJ Harvey   『I Inside The Old Year Dying』

 


 

Label: Partisan 

Release; 2023/7/7

 

 


これまでは長らく「音楽」という形式がポリー・ジーン・ハーヴェイの人生の中心にあったものと思われるが、それが近年では、ウィリアム・ブレイクのように、複数の芸術表現を探求するうち、音楽という形式が人生の中心から遠ざかりつつあるとPJ ハーヴェイは考えていたらしい。しかし、音楽というものがいまだにアーティストにとっては重要な意味を持つということが、『I Inside The Old Year Dying』を聴くと痛感出来る。一見すると遠回りにも思え、ばらばらに散在するとしか思えなかった点は、このアルバムで一つの線を描きつつある。

 

詩集『Orlam』の詩が、収録曲に取り入れられていること、近年、実際にワークショップの形で専門の指導を受けていた”ドーセット語”というイングランドの固有言語、日本ふうに言えば”方言”を歌唱の中に織り交ぜていること。この二点が本作を語る上で欠かさざるポイントとなるに違いない。

 

それらの文学に対する真摯な取り組みは、タイトルにも顕著な形で現れていて、現代詩に近い意味をもたらしている。「死せる旧い年代のなかにある私」とは、なかなか難渋な意味が込められており、息絶えた時代の英国文化に現代人として思いを馳せるとともに、実際に”ドーセット語”を通じ、旧い時代の中に入り込んでいく試みとなっている。

 

これは昨年のウェールズのシンガー、Gwenno(グウェノー)が『Tresor』(Reviewを読む)において、コーニッシュ語を歌の中に取り入れてみせたように、フォークロアという観点から制作されたアルバムとも解釈出来るだろう。この旧い時代の文化に対するノスタルジアというものが、音楽の中に顕著に反映されている。それはイギリスの土地に縁を持つか否かに関わらず、歴史のロマンチシズムを感じさせ、その中に没入させる誘引力を具えている。音楽的にはその限りではないけれど、今年発売されたアルバムの中では最も「ロック」のスピリットを感じたのも事実。

 

 

 Best Track『I Inside The Old Dying』





The Rolling Stones 『Hackney Diamonds』

 


Label: Polydor

Release: 2023/10/20

 

ローリング・ストーンズの最新アルバム『Hackney Diamonds』はチャーリー・ワッツがドラムを叩いている曲もあり、またレディーガガ、マッカートニー、エルトン・ジョンなど大御所が録音に参加している。

 

正直なところ、思い出作りのような作品なのではないか思っていたら、決してそうではなかったのだ。ミック・ジャガーも語っている通り、「曲の寄せ集めのようなアルバムにしたくなかった」というのは、ミュージシャンの本意であると思われる。


そして、産業ロックに近い音楽性もありながら、その中にはキース・リチャーズのブギーやブルース・ロックを基調とする渋いロック性も含まれている。そして最初期からそうであったように、フォークやカントリーの影響を込めた楽曲も「Depends On You」「Dream Skies」に見出すことも出来る。そして、「Jamping Jack Flash」の時代のアグレシッヴなロック性も「Bite My head Off」で堪能出来る。他にもダンスロック時代の余韻を留める「Mess It Up」も要チェックだ。



Best Track 「Whole Wide World」

 

 

 

 

Noel Gallagher’s High Flying Birds 『Council Skies』




Label: Sour Math

Release: 2023/6/2 

 

 

ノエル・ギャラガーは、2017年の『フー・ビルト・ザ・ムーン?』に続く11曲入りの新作アルバム『Council Skies』を、お馴染みのコラボレーターであるポール "ストレンジボーイ "ステイシーと共同プロデュースした。『Council Skies』には初期シングル「Pretty Boy」を含む3曲でジョニー・マーが参加している。


「初心に帰ることだよ」ノエル・ギャラガーは声明で述べた。「たとえば、白昼夢を見たり、空を見上げて、人生って何だろうと考えたり・・・。それは90年代初頭と同様に、今の僕にとっても真実なんだよ。私が貧困と失業の中で育ったとき、音楽が私をそこから連れ出してくれたんだ」「テレビ番組のトップ・オブ・ザ・ポップスは、木曜の夜をファンタジーの世界に変えてくれたが、自分の音楽もそうあるべきだと思うんだ。自分の音楽は、ある意味、気分を高揚させ、変化させるものでありたいと思う」

 

今作において、ノエル・ギャラガーはスタンダードなフォーク・ミュージックとカントリーの要素を交えつつも、ポピュラー・ミュージックの形にこだわっている。微細なギターのピッキングの手法やニュアンスの変化に到るまで、お手本のような演奏が展開されている。言い換えれば、音楽に対する深い理解を交えた作曲はもちろん、アコースティック/エレクトリックギターのこと細かな技法に至るまで徹底して研ぎ澄まされていることもわかる。どれほどの凄まじい練習量や試行錯誤がこのプロダクションの背後にあったのか、それは想像を絶するほどである。本作は、原型となるアイディアをその原型がなくなるまで徹底してストイックに磨き上げていった成果でもある。そのストイックぶりはプロのミュージシャンの最高峰に位置している。

 

「Love Is a Rich Man」ではスタンダードなロックの核心に迫り、Sladeの「Com On The Feel The Noise」(以前、オアシスとしてもカバーしている)グリッターロックの要素を交え、ポピュラー音楽の理想的な形を示そうとしている。ロックはテクニックを必要とせず、純粋に叫びさえすれば良いということは、スレイドの名曲のカバーを見ると分かるが、ノエル・ギャラガーはロックの本質を示そうとしているのかもしれない。


「Think Of A Number」では渋みのある硬派なアーティストとしての矜持を示した上で、アルバムのクライマックスを飾る「We're Gonna Get There In The End」は、ホーンセクションを交えた陽気で晴れやかでダイナミックな曲調で締めくくられる。そこには新しい音楽の形式を示しながら、アーティストが登場したブリット・ポップの時代に対する憧れも感じ取ることも出来る。


90年代の頃からノエル・ギャラガーが伝えようとすることは一貫している。最後のシングルの先行リリースでも語られていたことではあるが、「人生は良いものである」というシンプルなメッセージをフライング・バーズとして伝えようとしている。そして、何より、このアルバムが混沌とした世界への光明となることを、アーティストは心から願っているに違いあるまい。

 

 

Best Track 「I'm Not Giving Up Tonight」



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