Weekly Music Feature ‐ Lucy Blue  『Unsent Letters』  



ルーシー・ブルー(ルーシー・マクドネル)はダブリン出身のアイルランド人シンガー、ソングライター、プロデューサー。17歳の時、音楽を追求するために大学を中退し、2020年にPromised Land Recordingsと契約した。


シングル「See You Later」(2021年)でデビュー、同年末にセカンド・シングル「Your Brother's Friend」(2021年)をリリース。2021年6月18日にファーストEP『FISHBOWL』をリリース。セカンドEP『Suburban Hollywood』は2022年1月21日にリリースされた。 2020年9月、ロンドンを訪れていたルーシーは、この街でインスピレーションを受け、現在もまだロンドンを離れていない。


ルーシー・ブルーは、フランク・オーシャン、PJハーヴェイ、スケートのバイブル『Thrasher Magazine』など、幅広い影響から独自の音楽世界を構築する。映画界のアイドル、ハーモニー・コリン(Harmony Korine)の初期の作品に似ていないこともないが、ルーシーの野心的な青春ポップは、アウトサイダー精神と、ティーンエイジャーが自分の道を見つけることの弱さを楽しんでいる。


ルーシーは非常に視覚的な人物でもある。シンガー、ソングライター、プロデューサーである彼女は、曲を作るたびに、その曲が存在する空間を見ている。ある時は部屋(東京のカラオケ・バー、母親の居間)、ある時は、夜のサイクリング、ある時は水に浮かぶユリの花でいっぱいの不吉な暗い場所さえも。ソフトなダブリン訛りのルーシーは、曲作りの際にこれらのイメージがどのように引き継がれるかを説明する。


「音楽制作にとても役立っている」とルーシーは言う。「聴いているものをイメージと結びつける必要があるの。それが私の脳を助けてくれる」


同年代の仲間たちの感情的なストーリーを受け止め、それをポジティブなものにアレンジする才能を持つルーシー・ブルーは、音楽界にとって欠かせない声であり、また、今後のベッドルームポップ・シーンにおいて象徴的な存在となっても不思議ではない。


 

 

 『Unsent Letters』 Promised Land


Lucy Blue(ルーシー・ブルー)は、21歳のシンガーで、2021年頃、NMEとCLASHが新世代のポップアーティストとして注目し、リリース情報を紹介している。

 

『Unsent Letters』は、アーティストにとって実質的なデビュー作となるようだが、現代の他の駆け出しのミュージシャンの例と違わず、現時点ではフィジカル盤では発売が確認できていない。Spotify、Deezer、Youtube Musicのみの配信となっている。


ルーシー・ブルーのソングライティングはベッドルームポップ志向で、Clairo、Holly Humberstoneのアプローチにも親和性がある。ギターのシンプルな弾き語りに加え、ピアノを演奏する。ときにシンセが入ることもある。ソングライティングの核心には、エド・シーランのように率直さがある。難解なコード進行を用いず、場合によっては、カデンツァのみによって構成されているケースも有る。オルタナのようにトライトーンを用いることはなく、デミニッシュを頻繁に用いることもない。Ⅰ、Ⅳ、Ⅴ、Ⅵといった基礎的な和音しか使用していない。それにも関わらず、驚くべきことに、ルーシー・ブルーの曲は、今年度のポップスの中でも群を抜いて華やか。その軽やかなポピュラー・ミュージックは長く聴いていても、それほど耳が疲れることもない。

 

サウンド・プロダクションに関しては、多少、エド・シーランの楽曲に用いられるようなピッチシフター、ボコーダーが多少掛けられているのかもしれない。しかし、シンプルなアコースティック・ギター(エレアコ)、ピアノの弾き語りを中心とする彼女のアルバムには、現代のポピュラーミュージックの欠点である過剰さ、射幸性というのが内在する余地がない。ただ、歌手自身や同年代の音楽ファンのため、曲を制作し、ただ、その人々のために楽器を演奏し、歌うというだけなのだ。このアルバムには、複雑性がほとんど存在せず、簡素さに焦点が絞られている。シンプルで朴訥であるがゆえに心を打つ。それがルーシー・ブルーの音楽の魅力なのだ。


最新アルバム『Unsent Letters』は、リリース情報として公式に説明されているわけではないが、ホリデー・ソングやクリスマス・ソングにも近い空気感に縁取られているという印象を持った。さらに、タイトルにあるように、これまで振り返ることがなかった過去の人生の地点にある歌手の心情をポップス、フォークという観点を通して描写するというような感覚である。そのことは、アルバムの序盤では分からないけれど、終盤になるにつれてだんだんと明らかになる。

 

オープニングを飾る「Say It and Mean It」は、このポップ・アルバムの壮大な序曲ともいえ、ボレロのような形式で、ひとつずつ各楽器のパートが代わる代わる登場し、アルバム全体の器楽的な種明かしをするかのようである。ルーシー・ブルー自身によるエレアコギターのささやかな弾き語りという形で始まり、シンセの付属的なアルペジエーターが加わる。さらに、その後、ルーシー・ブルーのボーカルが載せられたとたん、曲の雰囲気がガラリと一変するのが分かる。

 

”遠く離れた場所を見る達人”というダブリンのシンガーソングライターは、繊細さと大胆さを兼ね備えた彼女みずからの歌の力量により曲の始まりにいた場所から、予測できないような遠く離れた意外な場所へとリスナーを導いていく。曲の展開を引き伸ばしたり、もったいぶることもなく、イントロから、サビとも解釈出来るアンセミックなフレーズへスムースに移行する。

 

ルーシー・ブルーのボーカルは、深いリバーブの効果も相まってか、天上的な幻想性を帯びるようになる。さらにドラムが入ると、壮大なポップバンガーに変化する。フレーズの合間に導入されるギターラインも叙情的だ。さらに、奥行きのある空間を生かしたプロダクションは、曲の終盤でフィルターを掛けた狭い空間処理を施すことにより、現代のトレンドのベッドルームポップ的な意味合いを帯びるようになる。さながら、ルーシー・ブルーが自認するように、異なる空間を音楽によって自在に移動するかのような完璧なサウンド・プロダクションである。

 

「Say It and Mean It」

 

 

二曲目の「I Left My Heart」に、シンガーソングライターのダブリンに対する淡い郷愁が込められていたとしてもそれほど驚きはない。この曲はまた、「十代の頃の自分に対する書かれることがなかったラブレター」と称してもそれほど違和感がない。少なくとも、ケルティックのフォーク・ミュージックの音楽性に根ざしたこの曲は、モダンなベッドルーム・ポップのサウンドプロダクションの指向性を選ぶことにより、シンガーと同世代のリスナーの心を見事に捉え、共感性を呼び覚ます。ウィスパーボイスに近いスモーキーな発声を用い、アコースティック・ギターに対するボーカルラインに切なさをもたらす。


アルバムの序盤では、ダブリナーとして故郷に対するほのかな郷愁や愛着が示されているという感があるが、「Love Hate」は、一転して歌手のロンドンのアーバンな生活が断片的に縁取られている。無数の人が行き交うロンドンの2023年の街とはかくなるものなのだろうか? そんなふうに思わせるほど、シンセサイザーの目まぐるしく移ろうフレーズをベースにし、シンガーはモダンな大都市の中に居場所を求めるかのように、軽妙でアップビートな声を披露している。


エレクトロニック、ダンス・ミュージックの範疇にあるダイナミックなシンセに対して、ルーシー・ブルーは、チャーチズ、セイント・ヴィンセントのデビュー時のようなスター性と存在感を併せ持つスタイリッシュなボーカルを披露する。ブルーのボーカルは、ロンドンのカルチャーと、それと対象的なダブリンのカルチャーの間を揺れ動きながら、愛憎せめぎ合う微細な感覚のウェイヴを、軽やかに乗りこなし、上昇していくかのようだ。シンセ・ポップをベースにある楽曲は続いて、ノイジーなハイパー・ポップへと近づくが、イントロから中盤にかけての精妙な感覚が失われることはほとんどない。

 

アルバムでは、前曲のように都会的なアーバンなサウンドスケープも垣間見えるが、一方、曲を聴いていて、海がイメージの中に浮かび上がってくる瞬間もある。続く「Graveyard」は、リスナーの想像力を喚起させ、アルバムの中で唯一、ポスト・クラシカル/モダン・クラシカルのアプローチが図られている。


ルーシー・ブルーは、ロンドンから離れ、アイルランドに近い風景のイメージへと移行する。シンプルなピアノの演奏については、ポーランドの演奏家、マンチェスターの”Gondwana”に所属するHania Rani(ハニャ・ラニ)の品格のあるクラシカルへの傾倒を彷彿とさせる。ピアノのフレーズはすごくシンプルであるのだが、ルーシー・ブルーのボーカルが入ると、音楽の向こうに神妙な風景が浮かび上がってくる。それはまた、幻想的な映画のワンシーンを想起させる。



「Graveyard」

 

 

その後も曲のイメージは緩やかに変化していき、「Do Nothing」では、ベッドルームポップの音楽性に回帰する。このジャンルの最も重要な点をあげるとすれば、それはソロアーティストがホームレコーディングを主体とするプロダクションの中で、キュートさやスマートさを重視していりというポイントにある。その点、ルーシー・ブルーは、ClairoやGirl In Red、Holly Humberstoneといったこのジャンルの主要なアーティストと同じように、2020年代のメインストリームにある音楽性の核心を端的に捉えた上で、それを同年代のそれほど詳しくない音楽ファンや、彼女の年代とは離れた年代にも自らの理想とする音楽をわかりやすく示そうとしている。


この曲に現代のベッドルーム・ポップと明らかな相違があるとすれば、バロック・ポップの作曲の技法が取り入れていること。ビートルズが楽曲の中で好んで取り入れていたメロトロンの音色は、現代的なシンセの音色という形に変わり、2023年のポピュラー・ソングの中に取り入れられている。ジョニ・ミッチェル、ヴァン・モリソンをはじめとするSSWからの影響は、アウトプットされる形こそ違えど、この曲の現代的なポピュラー音楽の中に、したたかに継承されている。


そして、古典的なポピュラー音楽からの強い触発こそが、この曲に聴きごたえをもたらしている。特に若い世代のシンガーに顕著なのは、自分の生きている年代よりも前の世代の音楽に強いリスペクトを示していることである。ご多分に漏れず、ルーシー・ブルーは自分よりも前の時代の音楽をどのような形で現代のポップスとして昇華するのか、その理想形を示唆している。

 

 

12月1日に発表された『Unsent Letters』には、年末の時宜にかなった音楽性も含まれている。これはアーティストによるサプライズの一貫とも考えられ、アルバムの中の重要なハイライトを形成している。「Deserve You」では、古典的なソングライティングとエド・シーランのような現代的なポップスの型を組みわせて、2023年を象徴する珠玉のバラードソングを誕生させている。ピアノの伴奏を元にしたシンプルなバラードソングは、難しいコードやスケールを一切用いず、ポピュラー・ミュージックの王道を行く。ときには繊細でナイーブなストリングのレガートや、ピチカートをピアノとボーカルの合間に取り入れたり、クリスマスの到来を思わせるシンセの音色を取り入れながら、ルーシー・ブルーのポピュラー・ミュージックは中盤から終盤にかけてゆるやかに上昇していき、涙を誘う切ないアウトロに繋がっている。


アルバムの終盤では、アーティストは序盤よりもフォーク・ミュージックに対する傾倒をみせる。「Butterfly」は、上昇の後の余韻でもあり、また、魂の安寧の場の探求でもある。サウンドホールの音響を活かし、それらをケイト・ル・ボンに象徴されるコラージュ的なサウンドプロダクションを加え、止まりかけていた印象のあるベッドルームポップの時計の針を次に推し進めている。ボーカルのキュートさが光るイントロとは対象的に、曲の中盤には賛美歌のような神妙かつ壮大なポピュラー・ワールドに直結している。特に、アコースティックギターの弾き語りというベッドルームポップの主要なスタイルに加え、それとは対比的な壮大なトラックのミックス/マスタリングが施されている。これが、メジャーアーティストともインディーアーティストともつかない、アンビバレントな感覚を付与し、一定のイメージからルーシー・ブルーを脱却させ、現在のジャンル分けや、シーンというラベリングから逃れさせている要因でもある。

 

アルバムのクローズ「Happy Birthday Jesus」ではクリスマスに向けて、神さまへの祝福が示されている。しかし、宗教的にも概念的にもならず、単なるアガペーが歌われており、そして、それが万人に親しめるフォークミュージックという形として表に現れたことに、今作の最大の魅力がある。

 

 

90/100 

 

 

「Deserve You」- Weekend Featured Track

 

 

 

Lucy Blueのニューアルバム『Unsent Letetrs』はPromised Land Recordingsから発売中です。デジタルストリーミングのみ視聴可能。ストリーミングはこちらから。




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