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 実存主義とニヒリズムの美学 Gothicの系譜 

 

 ゴシックロックとは、1970年代から80年代にかけて隆盛を極めたロックミュージックで、それ自体が英国の若者のカルチャー、ファッションと結び付けられる場合もある。 1970年代、実際、最初のゴシックという文化がどこから生じたのか、これは多くの文献を辿らなければわからない。一例では、オーストラリアのニック・ケイヴを擁するバースデイ・パーティの音楽を、音楽ジャーナリスト、サイモン・レイノズが「ゴシック」というように評した。これが音楽におけるゴシックという概念の初出となる。

 

ファッションや1つのニヒリズムに象徴されるように、ゴシックは思想的な側面とも全く無関係ではないものの、音楽という側面から語るのならば、この音楽の最初の下地を作ったのは、ジョイ・デイヴィジョン、そしてこのバンドのフロントマン、イアン・カーティスのキャラクター性にあると思われる。モノクロのアーティスト写真、そして、モノクロのアートワークというその時代性から逆行するような印象を掲げ、マンチェスターのシーンに登場したイアン・カーティス及びバンドだったが、これらのゴシック性は、ポスト・パンクの文脈から生まれでたものであることは疑いない。彼らのファッション自体も素朴でありながら、パンクロックの系譜にあるモノクロの概念によって彩られていた。

 

 これらのゴシック性(ゴス性)は、イアン・カーティスのニヒリズム、実存主義的な歌詞、歌唱法によって、さらにそのイメージが強化され、のちのイギリス国内のゴシックムーブメントに引き継がれていく。ジョイ・デイヴィジョンの後続のロックバンドの多くは、New York Dolls、T-Rexのマーク・ボラン、デヴィッド・ボウイのようなグラム・ロックの中性的なメイクを施していることから、以前の1970年代に隆盛したグリーター・ロックと密接な関係を持つ。

 

これらのイギリスのバンドの流れを汲んだ後、1990年代に入ると、この建築用語に根ざしたゴシック文化は、以前のパンクカルチャーと同じように、音楽の文脈のみで語られるものではなくなっていく。以後は、その他地域でもファッションの中に普通に取り入れられるようになり、米国でもこれらの暗鬱な雰囲気をキャラクター化したMisfitsのようなホラーパンクバンド、トレント・レズナー擁するNIN、過激なステージ・パフォーマンスで常に物議を醸し出すマリリン・マンソン、その他、ロブ・ゾンビ率いるWhite Zombieのようなそれに付随するインダストリアル・ロックの系譜に当たるセンセーショナルなバンドが、これらのゴシック文化の影響を受け、ミュージック・シーンに続々と登場し始めていた。2000年代に差し掛かると、このゴシックカルチャーは、ファッションとしても導入されるようになり、メインストリームに押し上げられたため、アーティストたちが率先して取り入れる必要もなくなり、ゴシック・メタルなどのバンドのキャラクター性として取り入れられていたものの、ミュージックシーンとししてアンダーグランドに潜りつづけた。しかし、近年、再び、ミュージシャンのキャラクター性の中に取り入れられるようになっている。例えば、イタリアのマネスキン、イギリスのペール・ウェイヴズらも、これらのゴシック・カルチャーに影響を受けたバンドとして位置づけられる。

 

 一体、この英国のマンチェスターという港湾都市、工業都市、建築的にも古い歴史を持つ由緒ある土地で生まれたモノクロの色彩に彩られた「ゴシック」という概念の本質とは何なのだろう?? ここではその答えまでは言及することを避けたいが、少なくともそれは、カルチャーを代表するアーティストの姿に身近に接し、さらにその音楽に耳を傾けることでより鮮明となるはずである。

 

常に、文化というのは、常に、ひとつずつ人の手作業によって積み上げられ、組み上げられていくものなのである。言い換えれば、文化ーーカルチャーーは、決してそれを誰か高尚な専門家が定義づけることによって生み出されるわけではなく、その時代の生きた人々の軌跡を何らかの形で表した一般的な概念を大衆が肯定的にそれと認めたものである。今回の名盤特集は、これらのゴシック・ロックのオリジネーターたちの傑作群にスポットライトを当てていこう。




Joy Division 





「Unknown Pleasure」1979

 


当時、公務員とミュージシャン、二足の草鞋を履いていたイアン・カーティスにとってゴシックなる概念は念頭になかった。カーティスは、その前の時代のパンク・ロックを引き継いだポスト・パンクの台頭を告げたイギリス国内の現代のミュージックシーンを語る上で欠かすことの出来ない人物となる。

 

しかし、この前身をナチスの喜び組を意味する”Warsaw”というパンクバンドにまつわる暗鬱でいかがわげなイメージ、Factoryを中心とするインディペンデントのライブ会場を中心に活動していたせいもあり、それほど大きなライブ会場ではライブを数多く行わなかったこと、そしてアルバムアートワークやアーティスト写真が一貫してモノクロであったことが、ゴシック・ロックの先駆者としてふさわしく、また、このミュージシャンの姿をより魅力的にしているのは事実である。

 

彼らの記念すべきデビュー・アルバム『Unknown Pleasure」は、以後のマッドチェスターのミュージックシーンは、後のバンド、ストーン・ローゼズ、アークティック・モンキーズのような、ダンスとロックの融合というテーマを、あろうことか1979年に先んじて提示している。ポストパンクの金字塔『Unknown Pleasure」の魅力は、テクノをどのようにロックとして解釈するのかを究明し、無機質なマシンビートの反復のドラム、ソリッドなギター、低いトーンで理知的に歌うイアン・カーティスの暗鬱なボーカルが合わさり、空前絶後の音楽が生み出されていることである。

 

「Unknown Pleasure--知られざる喜び」は、その時代のポスト・パンク・シーンの呼び声を上げる作品となったにとどまらず、その翌年、台頭するゴシック・ロックの誕生をすでに予見していた。これらの本来そぐわないと思われていた、エレクトロとロックの融合という主題は、イギリス国内のメインカルチャーの基礎を形成に繋がり、イアン・カーティスの死後、残りのメンバーによって結成されたュー・オーダーに引き継がれ、1つの集大成を迎えるに至る。

 

他にもアルバムに収録されなかったシングル「Atmosphere」、ニュー・オーダー名義でしか公式リリースされなかった「Ceremony」といった名曲も必聴となる。

 

 

 

Bauhaus 






「The Bela Session」EP  2018

 


上記のジョイ・デイヴィジョンがもしエレクトロをロックの領域に持ち込んだ先駆者とするなら、バウハウスはダブをロックの中に最初に導入した画期的なロックバンドに挙げられる。そして、ゴシック・ロックの最初の体現者であり、ゴシック・カルチャーの先駆者でもある。もちろん、バウハウスも上記のジョン・デイヴィジョンと同じように、1970年代後半のポスト・パンクの文脈の流れを受け登場したバンドであり、実際の歌詞の中で、物語として寓喩化されていてそのことは歌われないが、反体勢的なバンドに位置づけられても差し支えないだろう。


現在でいうビジュアル系アーティストの先駆者は、このバンドではないかと思わせるキャラクター性のアクの強さのため、アンダーグランドのバンドとして見なされる場合もある。

 

しかし、実際の音楽を聴けば分かる通り、バウハウスは、硬派のロックバンドに位置づけられる。ポスト・パンクの影響が強いデビューアルバム「In The Flat Field」も名盤の呼び声高いが、ゴス/ゴシックという雰囲気を掴むためには、シングル「Bela Is Dead」、「She's In Party」が収録されたアルバムが最適だ。「The Bela Session」EPでのボーカルの暗鬱さ、厳かさ、執拗なアナログループは、ゴシックの特徴でもあるホラー的な雰囲気を漂わせている。また入門編として、最初期のスタジオ・アルバムに加えて、シングルを収録した「Singles」もおすすめしたい。

 

 


 

The Birthday Party 





 

  「Hee Haw」 1979

 


 

バースデイ・パーティーは、現在、俳優や脚本家としても活躍目覚ましいニック・ケイヴが在籍したオーストラリアの伝説的なポスト・パンクバンドでブルース、フリージャズ、ロカビリーを一緒くたにしたアヴァンギャルドなロックバンドである。1977から1983年までの短期間で解散している。


近年のニック・ケイヴのどちらかと言えば紳士然とした佇まいからは想像できないが、このシンガーソングライターは本来オーストラリアのアンダーグランドの最暗部から登場したロックシンガーである。

 

1979年発表の「Hee Haw」は『Prayer On Fire』とともにこのバンドの数少ないアーカイブとして必聴の一枚となる。スカ、ダブ、ロカビリー、インダストリアルを飲みつくしたメチャクチャとしか例えようのないアバンギャルドなサウンド、ニック・ケイヴの獣にも似た咆哮は、LAのヘンリー・ロリンズにも引けを取らないどころか、奇抜さにおいて勝る部分もある。ゴシックという文脈からいっても、暗鬱さ、異質さ、奇抜さ、これらのサブカルチャーの基礎を築き上げたバンドとして多くの人の記憶に残るべき存在である。ジョイ・デイヴィジョンとは別軸のゴス/ゴシックという概念を確立したアンダーグランド・ミュージックの傑作に挙げられる。



 

 

Siouxsie And The Banshees  

 

Ray Stevenson

 

 

「The Scream」1978

 



一般的にはジョイ・デイヴィジョンがゴシックの先駆けというのが通説となっている。しかし、登場した年代の早さという面では、このスージー・アンド・ザ・バンシーズのほうが先である。ただ、ゴシックというバンドで語ることに否定的な見解を示す音楽評論家もいることは付け加えておきたい。

 

スージー・アンド・ザ・バンシーズは活動最初期の作品がゴシックとしてのくくりで語られる場合がある。特に1978年の「The Scream(香港の庭)」は、このバンドの最初期の傑作であるにとどまらず、パンクロックの名盤として挙げられる。フロントパーソンのスージー・スーのキャラクター性を押し出したTelevisionに近いポスト・パンクの流れを汲んだギターロックサウンドが特徴で、パティ・スミスのような文学性を漂わせる作風となっている。上記のバンドのような暗鬱さは薄く、音楽的に明確にゴシックというジャンルに該当するのは「Pure」「Jigsaw Feeling」となるだろう。 

 

スージー・アンド・ザ・バンシーズはビートルズの親衛隊として立ち上がっただけあり、スタンダードなロックの要素が強く、このデビュー作も同様である。ただ、奇妙な暗鬱さは後のドリームポップ勢にも通じるものがある。さらにこのバンドのビジュアルは明らかにゴシックとして位置づけられる。


 

 

The Cure 

 


 

 

「Wish」1992

 



イギリスのクローリー出身のザ・キュアーは、ゴシック・ロックの最大の知名度を持つバンドに挙げられる。最初期は、上記のバンドと同様、ポスト・パンクの文脈から出てきたグループで、スージー・アンド・ザ・バンシーズとも深い関わりが持っていた。しかし、彼らの功績は、それらの最初期のサウンドではなく、普遍的なロック/ポップの良さを世界に広めたことにある。バンドメンバーのメイクについては上記のバンドのようにグリッターロック、ゴシックの系譜にあるけばけばしさだが、そのサウンドはどこまでも純粋なポピュラー・ソングとして楽しむことが出来る。

 

1979年のデビュー・アルバム「Three Imaginary Boys」に象徴されるように、最初期は他のバンドの影響もあってポスト・パンクの流れを汲んだサウンドを特徴としていたが、いくつかの変革期(三回)を経て、ゴシック・ロックより大衆にとって親しみやすいサウンドへ変化させていき、このバンドのハイキャリアを形作ったのが全英チャート一位に輝いた1992年の「Wish」となる。アルバムの中の収録曲「Friday I'm In Love」は、ザ・キュアーの最大の名曲の1つに挙げられる。他にも、この傑作には素晴らしいバラードソングが収録されている。

 




グリッチ音楽について

 

グリッチ音楽は、電子音楽や実験音楽のサブジャンルのひとつで、テクノ、エレクトロニカとして分類される。

 

このグリッチノイズを制作するためには、アナログ、デジタルのオーディオの誤作動の音が使用される。サウンドには、CD,レコードのスキップ、スターター、歪み、サーキットペンディングと呼ばれるノイズ、そしてソフトウェアのクラッシュが音楽として取り入れられるのが特徴です。


当初、グリッチにおける美学は、エレクトロニカ、アバンギャルド界隈のアーティストにより生み出された。新たにコンピューター・テクノロジーにより生み出されたグリッチノイズ(ホワイトノイズの一種)を駆使し、90年代以前のミニマル音楽と融合させ、独特なテクノ音楽として昇華していくようになります。

 

グリッチミュージックの最初のシーンに登場したアーティストは、誤作動を起こしたオーディオテクノロジーを肯定的に解釈し、オーディシステムの信号を意図的に変化させ、特異なサウンドを生み出しました。最近では、プロデューサーは、ソフトウェアを介して、グリッチサンプルから生み出されたパーカッシヴな要素を楽曲の中に積極的に取り入れるようになっています。

 

 

グリッチの起源


グリッチは、最初の発明以来、ヒップホップ、EDMのサウンドを融合させ、音楽にイノベーションをもたらしてきました。グリッチの起源は、1980年代にさかのぼり、日本とドイツの前衛音楽家たちがこの音楽に率先して取り組み、オーディオテクノロジーにおける音の建築的な響きを追求します。


先駆的なアーティストに挙げられるのが、ドイツのOvalです。彼らはグリッチオーディオの処理されたサンプルを抽出し、作品として録音を開始した。さらに、現在、パリを拠点に活動する日本の電子音楽家、池田亮司もグリッチの先駆者に数えられます。彼は元々最初期にはモダンクラシカルの音楽に取り組んでいたが、徐々に電子音楽の領域へと踏み込んでいきました。池田亮司は、人間の聴覚の境界またそれを超越した音を生じさせ、グリッチと周囲の空間的なノイズのサウンドスケープ、さらに、視覚芸術のインスタレーションを同期させた音楽形式を生み出しています。

 

さらにその後、登場したイギリスの電子音楽デュオ、Autechre(オウテカ)は、1994年のシングルで「Glitch」という言葉を使い、それから一般的にグリッチというジャンルが一般的に浸透していくようになりました。

 

 

 

 グリッチ・ミュージックの特徴

 

1.グリッチ

 

グリッチの音はスキップ、ハードウェアノイズ、システム上のクラッシュなどの聴覚的なエラーとして定義されます。これらの実際の音は「カチ、カチ」という何かを引っ掻くような音(ノイズ)として人間の聴覚に反映されます。そのノイズを断続的に組み合わせることにより、独特のグルーブ、ダンス・ミュージックでいうところの「ノリ」を電子音楽にもたらします。


2.構造 

 

グリッチの美学は、様々な構成に適用出来ます。ドイツのOVALのようなエレクトロニカアーティストは、シンセサイザーそのものをグリッチに置換し、アンビエントの新しい領域を切り開いてみせています。さらに、日本の実験音楽家、刀根康尚は、 CDのデジタル情報を読み取るコンパクト・ディスクプレイヤーを活用し、パワフルで強烈なサウンドスケープを完成させています。


3,その後の音楽シーンへの影響


これらの革新的なグリッチミュージックは、その後、EDMシーン、及び、ヒップホップシーンの方向性に強い影響を及ぼし、今日の電子音楽家の多くがそのことを意図するか否かにかかわらず、このグリッチノイズを取り入れるようになっています。

 

 

 

Minimal/Glitch Essential Disc Guide 

 

 

さて、今回は、 このミニマル/グリッチの名盤にスポットライトを当て、このシーンの象徴的な名盤を特集致します。

 

以下、挙げるのは、このミニマル/グリッチシーンを表面的に網羅した、ほんの一部の入門編に過ぎません。これらのポピュラーなグリッチ/ミニマルの入門編を聴いた後に、より高度なグリッチ・アーティスト、池田亮司、アルヴァ・ノトをはじめとする前衛的な作品を聴いてみるのをおすすめします。言うまでもなく、この他にも、世の中には数多くの傑作があると思いますので、是非、このディスクガイドを基本として素晴らしい作品を探しだす手がかりにしていただければ僥倖です。

 

 

 

Oval 『Dok』 1998

 


 

Oval(オーヴァル)は、ドイツの電子音楽グループであり、最初期のグリッチの概念を形成した。1991年、マーカス・ポップ、セバスチャン・オーシャッツ、フランク・メッツガーにより結成された。1995年以降は、セバスチャン、フランクが脱退、実質的にはマーカス・ポップのソロプロジェクトとなった。

 

1998年に発表された「Dok」では、アンビエント、グリッチの中間にある音楽を楽しむ事ができる。無機質で理知的な構成を持ち、最初期のグリッチシーンの実験性を試した作品となる。

 

クラウト・ロックやジャーマン・テクノの実験性を引き継いだ上、アンビエントの要素が付け加えられていることに注目したい。グリッチノイズとは何かを知る上で欠かすことの出来ない傑作。


 

 



 Isan  『Plans Drawn In Pencil』 2006

 

 

 

Isan(アイサン)は、 Anthony Ryan(アンソニー・ライアン)とRobin Saville(ロビン・サビル)によって結成されたテクノ/エレクトロニカデュオである。


ISANとは、"Integrated Services Analogue Network"の略称で、"ISDN"のDigitalの部分をAnalogueに変更。イギリスのダンス/エレクトロニックの名門Warp Recordsとも関わりがあり、複数の作品にリミックスで参加している。

 

「Plans Drawn In Pencil」は、OVALや最初期のAuthcreよりも遥かに聞きやすいグリッチテクノである。このジャンルに初めて接するというリスナーに強く推薦しておきたい。アイサンの提供する内省的なグリッチテクノは、耳障りがよく、聞きやすさがある。このアルバムには、「Ships」を初め、メロディーが秀逸で叙情性を兼ね備えた曲が収録されている。アイサンのグリッチテクノには、涼し気な響きが込められている。今のような暑い季節に聴くのに最適なアルバムとなる。また理知的な音楽であるため、作業中のBGMとしても最高の効果を発する。 

 

 

 



Caribou 『Start Breaking My Heart』 2001


 


 

最近、このプロジェクト、Caribouと合わせてDaphniとしての活動も行っているカナダの電子音楽家のダン・スナイス。テクノ好きならばきっとこのアルバムを彼の最高傑作として挙げるのではないか。

 

ダン・スナイスの音楽のアプローチは彼自身が数学の専門的な勉強を重ねたこともあり、きわめて理知的かつ論理性に富んでいる。ダン・スナイスの生み出すグリッチは、まさに数学の数式のように美しく、なおかつ仄かな叙情性も感じられる。

 

この作品『Start Breaking My Heart』においても、それまでと同様に、 スタイリッシュかつアーティスティックな楽曲の中にグリッチの技術が取り入れられている。アイサンに比べると、モダンジャズの要素が強く、ダンス・ミュージック寄りでグルーブ感が強いのも一つの特徴となる。

 

 

 

 

 

 

Kettel  『Miya James, Pt.1』 2008


 

 

Kettelはオランダのエレクトロニカミュージシャン、Reimer Eisingのソロ・プロジェクト。上記のアーティスト、グループに比べれば、グリッチ色が薄く、EDMのジャンルに該当する。しかし、ゲーム音楽を土台にしたチップチューンのような音楽もこのアーティストの最大な特徴と言えるかもしれない。

 

「Myam James Part 1」は、Kettelの初期の代表作のひとつに挙げられる。チップ・チューン、テクノ、グリッチの要素とクロスオーバーミュージックの趣もあるが、このアーティストらしい独特な世界観がこの作品で完成している。 アンビエントでもあり、テクノでもあり、EDMの王道を行くような作風でもある。特に、このアルバムに収録されている「Shimamoto」という曲では顕著な形でグリッチノイズの雰囲気を楽しめる。そのほかにも、「Fishfred」ではフロアシーン寄りのミニマル/グリッチが展開される。ゲーム音楽のサウンドトラックのようなチップチューン寄りのエレクトロニカをお探しの方に最適の一枚と言えるだろうか。 

 

 

 

 

 

 

Kim Horthoy 「Melke』 2002

 

 


キム・ヨーソイは北欧エレクトロニカシーンの傑出したプロデューサーである。ノルウェー出身のエレクトロニカミュージシャンで、電子音楽家として活動する他、映画監督、イラストレイターとしても活躍する多彩でマルチな才能を持ったアーティスト。00年代までは上記のような主業の傍ら、サイドプロジェクトとして素晴らしい音源を生み出している。しかし、現在、新しいリリースが途絶えているのを見ると、ミュージシャンの活動を休止しているのかもしれない。


キム・ヨーソイの最高傑作に挙げられるのが「Melke」である。ここでは、北欧エレクトロニカの代表的な名曲「On Sunday」という一曲が収められていて外すことは出来ない。本作では、イラストレーター、映画監督、マルチな才覚を有するアーティストの視覚的なテクノが展開される。その他、金管楽器を取り入れたりと、アイスランドのMumに近いアプローチも導入される。

 

 



 

Aeroc 『Viscous Solid』  2004

 




Aerocは、アメリカの電子音楽家、Geoff White(ジェフ・ホワイト)によるソロ・プロジェクト。最初期はGhostlyから音源をリリースしている。アメリカの最初期のグリッチ/ミニマルの音楽家である。その後、ジェフ・ホワイトはデビューアルバムの製作時ーアメリカからスペインのバルセロナに移住し、レコーディングを行ったという。

 

ジェフ・ホワイトのデビュー作品『Viscous Solid』では、アンビエント、テクノ、ミニマル、グリッチを自由に往来しつつ、そこにスペイン音楽の雰囲気が付け加えられ、個性的な電子音楽が展開される。

 

ダブのようなゆっくりとしたリズムの中に、グリッチノイズが薄く乗り、そこに独特なグルーヴ感が生み出される。ダンスフロアやクラブシーンに根ざした音楽ではありながら、アンビエント、IDMのような知性もほんのり漂っている。電子音楽ではあるものの、他とは異なる異質なロマンチシズム、ノスタルジアに彩られた一枚となる。 

 





I Am Robot And Proud 『THE CATCH &SUMMER AUTUMN WINTER』2001


 

I am robot And Proudは、カナダ・トロント生まれの音楽家のシャウハン・リームによるソロ・プロジェクト、時々、デュオとして活動する場合もある。元々、シャウハン・リームは、幼い時代かピアノを学習していて、鍵盤奏者らしいテクノ/エレクトロニカが魅力である。他のテクノアーティストに比べ、コミカルな楽曲を作る才覚にかけては、Isanと肩を並べるような存在といえる。

 

I am robot And Proudの実質的なデビュー・アルバムが『THE CATCHING SUMMER AUTUMN WINTER』である。シャウハン・リームは、ドイツのソフトウェア会社「Native Instruments」のバンドル、Absynthで見られるようなシンプルな音色を駆使し、独特なエモーション溢れる楽曲に仕上げている。


この作品では、青春時代のジレンマのような感覚が内省的なテクノ音楽として彩られているように伺えます。厳密にいえば、グリッチには該当しない作品ではないかもしれませんが、擬似的なグリッチとしての雰囲気が十分味わえる。特に、「Eyes Closed Hopefully」、「The Satellite Kids」は、この電子音楽家のメロディーセンスの高さが表れ出たテクノシーンきっての名曲である。


 

 



 Manual『Until Tomorrow』2001

 

 


 

Manualは、デンマークのOnas Munk Jensenによるソロ・プロジェクト。2003年からグリッチとは全く別の路線に進んだ印象もあるManualの「Until Tomorrow」は、初期のグリッチシーンの代表的な傑作。2001年、世界的なエレクトロニカレーベルとして名を馳せるmorr musicからデビューを飾った。

 

すべての楽曲を見渡すと、少し物足りない印象もあるが、オープニングを飾る「Nova」は、グリッチの代表的な名曲で、グリッチ音楽を知るための最上の手がかりとなる。上記のアーティストのように、コンピューター・テクノロジーを最大限に活かしながらも叙情性を併せ持つという点では、テクノロジーの革新性と人間の感情を秤にかけるかのような意図も見受けられる。

 

2000年代前後の時代から、コンピュター・テクノロジーは、一般的のユーザーにも広がっていった。「Until Tomorrow」は、そういった時代を反映一枚と言えるのかもしれない。ギターをサンプリングとして活用し、現在のローファイ・ヒップホップのような手法として昇華している。この作品で見受けられる宇宙的な壮大さ、それはこのアルバムで人間の内向性と相まって特異な音楽として昇華されている。ブレイクビーツも取り入れられていたり、かなり意欲的な作品。ここには新しい時代を予見させるようなワクワクした感覚が見いだされる。


 

 




ポスト・パンクは、現在も英国のロンドン、リーズ、ブライトン等を中心に根強い人気を誇るジャンルの一つです。

 

これらの先駆者たちは、1970年代に英国、ロンドンを中心に、セックス・ピストルズ、ダムド、ザ・クラッシュといった偉大なロンドンパンクのあとを引き継いで登場したため、この一連のムーブメントのこと「Post-Punk(次世代のパンク)」と呼ぶようになった。最初のロンドンパンク勢が、EMIを始めとするメジャーレーベルと次々と契約し、最初のパンクバンドとしての勢いを失っていく中で、この次の世代に登場したポストパンクバンドGOFを始めとするバンドは、ハードコアムーブメントと連動しながら、旧態依然としたパンクに一石を投じていました。

 

このポスト・パンクムーブメントは、やがて、ロンドン、英国全体に波及し、海を越えてアメリカ、日本にも及んでいく。これらのポスト・パンク勢は、ロック、そのものの要素に加え、ダンスミュージック、SFの要素、また、その他にも様々なジャンルを取り入れ、新鮮なロックンロールを提示した。その影響は、ワシントンDCのハードコアシーン、オーバーグラウンドでは、レッド・ホット・チリ・ペッパーズ、また、ルイビル、シカゴのポストロックシーンにとどまらず、2020年代のの英国のポストパンク勢が力強い存在感を放つ世代に引き継がれている。

 

今回の久しぶりの特集は、英国をはじめとする魅力的なオリジナル世代のポストパンクバンドの名盤を以下にご紹介します。

 

 

 

 NEU 「NEU ’75」

 


 

NEU!は、クラフトワークから枝分かれした、旧西ドイツの実験音楽集団です。いわゆる最初期のロンドンパンクは、このバンドがいなければ存在しなかったかもしれない。それくらいパンクカルチャーを語る上で欠かせないバンドです。音楽的にはパンクの祖でもあり、またポストパンクバンドに近い音楽性を併せ持つ。ジョン・ライドンのシニカルな歌唱法は、このアルバムの「Heros」のドイツ語的な固い響きに依拠しており、また、ファースト・アルバムの「NEU」では、アナログのテープの逆回転を通して前衛的な電子音楽を生み出したりもしています。

 

ノイ!の通算三作目のアルバム「’75」は、これらの前衛性とポピュラー性が絶妙に合致した傑作です。テクノ・ムーブメントの幕開けを告げる前衛的な手法を世界に提示した「ISI」、イーノのアンビエントの手法に近い、海のさざ波のSEを取り入れた美しい「Seeland」。ロンドンパンクの誕生を予感させる「Hero」が収録。このアルバム「’75」が、以後の世代のアーティストに与えた影響ははかりしれない。トム・ヨークの音楽観に強い影響を与えただけでなく、ピクシーズと共に1990年代の「オルタナティヴロック」の根幹をなす重要な要素を形作った。パンク、オルタナ、ノイズ、アバンギャルドという概念を語る上で欠かすことが出来ないグループです。 

 

 

 

 

 

Gang Of Four「Entertainment!」 1979

 

 

 

例えばの話、レッド・ホット・チリペッパーズのフリーのスラップ奏法が好きなリスナーがいたとして、その人が、この中国の文化大革命に因んで名付けられた英国のバンド、Gang Of Fourの「entertainment」を聴いたことがないとしたらとても惜しいことです。なぜなら、フリーのベースの奏法、また、最初期のレッチリの音楽性に強い影響を及ぼしたのがGang Of Fourだからです。

 

もちろん、Gang Of Fourの魅力は、ロック音楽に最初に強いジェイムス・ブラウンのファンクの要素を取り入れたという功績だけにはとどまりません。アンディ・ギルのソリッドなジャキジャキとした鋭さのあるギタープレイは、ソニック・ユースに代表されるオルタナティヴを予見したものである。ボーカルは、ファンクだけではなく、ヒップホップ的な役割を演奏の中で果たしている。デビュー作「Entertainment!」は、きわめて痛烈なインパクトを英国内外のシーンにもたらしたニューウェイヴ/ポストパンクの音楽性を象徴づける伝説的な名盤に挙げられる。 

 

 

 

 Public Image Limited 「Public Image」 1978

 

 

 

ジョニー・ロットンがピストルズの解散のあとに結成したPILは、パンク的でありながら、アヴァンギャルドの色合いを持ち合わせています。

 

以前の活動とは裏腹に、ジョニー・ロットンの意外な本来の芸術家、あるいは思想家としての表情が垣間見えるバンド。デビューアルバム「Public Image」は、セックス・ピストルズの音楽性を引き継いだ上、そこに、ドラムのビートマシンを導入したり、「Religion」では以前にはなかったジョニー・ロットンのインテリジェンスが表されている。その他にも、ルー・リードの英国版ともいうべきスポークンワードに近い語り口にも挑戦し、英国スタイルのヒップホップがここにクールに誕生している。表題曲「Public Image」はピストルズから引き継がれたポピュラー性が込められていて、歌い方については、ジョニー・ロットンらしさが引き出された一枚です。 

 


 

 

Stranglers  「Black and White」 1978


 

 

当時の人気とは反比例して、時を経るごとに徐々に一般的な知名度がなくなりつつある感のあるザ・ストラングラーズ。このバンドの魅力はパンク・ロックというよりパブロックに近い渋みのあるロックサウンド、それにシンセサイザーを加えたプログレッシブ・ロックに近いアプローチにあった。1970年代としてはこのサウンドは相当奇抜なものに聴こえたように思えます。

 

他のパンクロック、ポスト・パンクバンド勢のようなガツンとしたスパイスこそないように思えるが、ザ・ストラングラーズの代表作「Black And White」は、シンセサイザーとパンクが見事な融合を果たした当時としては前衛的な作品で、YMOに近いサウンドを導入した面白さのある楽曲も幾つか収録されている。本作は、ポスト・パンクという音楽が何かを説明する上で理解しやすい一枚であることに疑いはありません。1978年の「No mOre Heros」も佳作としておすすめです。実は、ザ・ストラングラーズは2022年現在も活動中のロックバンドです。 

 

 

 

 

Wire 「Pink Flag」 1977


 

 

オリジナル世代のポスト・パンクシーンの中でも屈指の名盤に挙げられるのが「Pink Wire」です。Wireは、後にメジャーレーベルと契約を結んだバンドであり、およそパンクバンドというのが惜しいくらいで、王道のロックバンドとして見なしても良いかもしれません。ミドルテンポのゆったりした迫力あるアートロックソングから、性急なパンクビートに至るまで、すべてパンクという側面をほとんどスリーコードだけでこの代表的な名盤において追求しつくしているのが驚きです。

 

特に、アルバムの最後に収録されている「12xu」は、ワシントンDCのマイナー・スレットにもカバーされたのは有名、その後のUSハードコアの源流がこのアルバム「Pink Wire」に求められます。

 

 

 

 

Killing Joke 「Killing Joke」1980

 

 

キリング・ジョークは、1978年にロンドンのノッティング・ヒルで結成されたポストパンクバンド。

 

パンクの色合いに加え、メタル、インダストリアル系に近い質感を持った独特なロックバンドで、後の1990年代のUSオルタナティヴ、HelmetやNine Inch Nailsの源流をなす元祖ミクスチャーサウンドといっても良いのではないでしょうか。Killing Jokeの記念すべきデビュー作は、1980年代のUKハードコアを予見するようなアルバムアートワークの印象に加え、どことなく金属的(メタリック)な響きを持つスタンダードなロックナンバーがずらりと並んでいる。「Change」では、時代に先んじてロックサウンドにダブの実験性を取り入れているのにも注目したい。よくハードコア、オルタナティヴ、インダストリアルバンドとしても紹介されるが、このデビュー作「Killing Joke」はスタンダードなロックンロールとしても十分に楽しめるはずです。

 


 

 

X Ray Spex 「Germ From Adolescents」1978

 

 

 

The Slitsとほぼ同年代に登場したX Ray Spexは、女性ヴォーカリストを擁するロンドンのパンクバンド。

 

ソリッドなロックンロールに加え、サックスフォンのきらびやかな響きが融合を果たし、独特なキャラクター性を持つ。五枚のシングルに加え、上記のアルバムのリリースだけで解散してしまったのが悔やまれる。Kim Gordon,Yeah Yeah Yeahsを始めとするライオットガールの先駆的なポスト・パンクバンド。「Germ From Adolescents」は、ジョン・ライドンに近いヴォーカル、そしてスムーズで華やかな雰囲気を持つ魅力的なロックナンバーが多数収録されています。

 

 

 


The Boys 「The Boys」 1977

 

 

 

ニューウェイヴ・ポスト・パンクのオルタナティヴなバンドが目立つ中で、ド直球の痛快なガレージロック/ロックンロールをぶちかましているのが、ザ・ボーイズです。エッジの効いた通好みのギターリフに、程よいスピードチューンが満載のアルバム。まるで、オープンクラシックカーに乗り、街中を走り回るような爽快さ。ニューヨークのデッド・ボーイズや日本のギターウルフにも近い豪快なロックバンドで、UKポップス、アイルランドのUndertonesのような青春の雰囲気が漂っている。2003年に人気絶頂のさなか惜しくも解散した日本の伝説的なガレージ・ロックバンド、Thee Michelle Gun Elephantの音楽性に影響を与えた。日本の伝説的なギタープレイヤー、故アベ・フトシのセンス抜群のギターブレイの源流がこのアルバムの随所に見いだせる。

 

 

 

Crass「The Feeling Of The 5000」1978

 

 


クラスの最初期のアルバム「The Feeling Of The 5000」は、1977年から1984年にかけて活躍したニューウェイブ/ポスト・パンクの流れを汲んで登場したアート・ロッグ・ループの初期作品です。

 

クラスの最初期の名盤として、「The Station Of Crass」「Penis Envy」と併せて取り上げられる印象があるこのアルバムは、アバギャルド、Oi-Punk、スポークンワード、その他にも、Dischargeにも比する無骨なハードコアの源流をなすヴァリエーションに富んだ楽曲が収録されています。以後のアルバムに比べると、パンキッシュな味わいが感じられる作品です。また、グループは、ラブ・アンド・ピースの概念をはじめとするコンセプトを掲げて活動を行っていた。 


 

 

 

Chrome 「Half Machine Lip Moves」1979


 

1970年代のポスト・パンク/ニューウェイブシーンに欠かすことが出来ないクローム。1976年にロサンゼルスで結成されたバンド。

 

アメリカ西海岸のヒッピー/サイケデリックムーブメントのさなか、ザ・レジデンツとほぼ同時期に登場している。ジャンク、ローファイ、インダストリアル、ガレージ、ハードコア、ノイズ、ほかにもヒップホップなどを飲み込んだUSオルタナティヴの原型を作った最重要バンドです。

 

彼らの最初期のアルバム「Half Machine Lip Moves」は、シカゴのタッチ・アンド・ゴーからオリジナル盤がリリースされている。改めて聴くと、黒板を爪でひっかくような不快なノイズ性、パプロックに近い渋さのあるロックンロール、さらに、ニルヴァーナのサブ・ポップ時代のようなグランジ性も滲んでいる。おそらしいことに、この異質なアルバムは、ソニック・ユースもグランジもオルタナティヴ、そんな概念が全く存在しなかった1979年に生み出されたことです。

 

 

 

 

This Heat 「This Heat」1978

 

 


英国カンタベリー系のクワイエットサンのドラマーチャールズ・ヘイワードが、76年に結成したトリオ、The Heatの痛烈なデビュー作は、以前、以後のどのバンドの音楽にも似ていない。喩えるなら孤絶した突然変異的なアルバムです。メロディーのようなものがあるのかはもほとんど判別できない。何か、精神的な発露を音楽として刻印したように思え、アバンギャルド、ノイズ、アート、これらの3つの領域を絶え間なくさまよう、聞いていると不安になる音楽です。

 

The Fugsの詩的なフォーク、ガスター・デル・ソルのアバンギャルド・フォーク、「No New York」のようなアート・ロックにも聴こえ、ジョン・ゾーンのアバギャルド・ジャズにも聴こえ、クラウト・ロックやインダストリアル・ロックにも聴こえなくもない。しかし、ミッシング・ファンデーションのように悪趣味を衒うわけでもない、どのジャンルにも属さない特異なアルバムです。 

 

 

 

Talking Heads 「Remain In Light」



今や、ニューヨークインディーロックの象徴的な存在ともいえるデイヴィッド・バーン擁するトーキング・ヘッズはニューウェイブの代表格である。77年のデビューアルバム「Talking Heafs '77」も欠かせないが、傑作としては「Remain In Light」の方に軍配が上がるか。このアルバムだけ80年発表ではあるが、ポストパンクの大名盤であるため、例外として皆様にはお許し願いたい。ブライアン・イーノをエンジニアに招き、ポスト・パンクのアプローチに加え、テクノ、ミニマル、ダブ的な前衛性を取り入れた画期的な作風である。「Born Under Punches(The Heat Goes On)「Once in  a Lifetime」を中心にポスト・パンクの代名詞的なトラックが目白押しとなっている。

 

Rolling Stoneが選ぶ「オールタイム・グレイテスト・ヒットアルバム500」の39位にランクインを果たしているが、2022年の現在聴いてもなお色褪せない斬新さが見受けられるアルバムです。 

 

 

 

 

Devo 「Q Are You Not Men? A:We Are Devo!」1978

 

 

 

 

一般的に、テクノなのか、ポストパンクなのか意見が分かれるバンドが、オハイオの四人組DEVOです。

 

ザ・ローリング・ストーンズのカバー「satisfaction」のテクノ寄りのカバーも最高なのは言うまでもないことで、オープニングトラックを飾る「uncontrollable Urge」は、ポスト・パンクシーンきっての名曲です。その他にも、エキセントリックでスペーシーな楽曲「Space Junk」といったディーヴォの代名詞的なトラックが多数収録。ネバタ州のハードコアバンド、7Secondsが、DEVOのファンであったのは偶然ではありません。ディーヴォは正真正銘のパンクロックバンドだった。「Q Are You Not Men? A:We Are Devo!」の奇妙でエキセントリックな概念は、ピッツバーグのドン・キャバレロの実験性に引き継がれていったのかもしれません。 

 

 

 

 

 

Suicide 「Suicide」 1977

 

 

アラン・ヴェガ擁するNYのアンダーグラウンドシーンの象徴的かつ伝説的なデュオ、Sucide。

 

狂気とヒステリーを象徴したようなサウンドは、ほとんどアナログシンセサイザーとドラムマシンのみで生み出されている。デビュー・アルバム「Suicide」は、明らかにイギー・ポップの狂気性を引き継いでおり、Siver Applesの電子音楽の品の良いアバンギャルド性を取り入れている。冷徹な4つ打ちのシンプルなマシンビートに加え、アラン・ヴェガの鋭さのあるヴォーカルが魅力。その他にも奇妙な癒やしを感じさせる「Cheree」が収録されている。ノーウェイヴを代表するSwansの傑作群とともに、ニューヨークのアンダーグラウンドシーンを象徴する伝説的傑作で、また、ギター、ベースがなくても、ロックンロールは出来ることを世界に証明してみせた歴史的なアルバム。また、スイサイドのヴォーカル、アラン・ヴェガは、2016年の6月23日に死去している。この訃報の際には多くの著名ミュージシャンによってヴェガの死が悼まれました。 

 

 



INU 「メシ喰うな! (Meshi- Kuuna!)」1981 

 


 

東京のパンクシーン「東京ロッカーズ」と同時期に生まれたのが「関西ノーウェイヴ」という魅力的なシーンでした。

 

その最深部、正真正銘のアンダーグラウンドシーンから台頭したのが、町田町蔵擁するINU。現在、日本国内で著名な作家として知られる町田氏の鋭さを持った現代詩の感覚を十二分に堪能出来るデビュー・アルバムです。

 

1981年にリリースされた「メシ喰うな!」は、フリクション、GAUZEの最初期の傑作と並んで、日本の初期パンクロック/ハードコアシーンの大名盤。北田昌宏の鋭いUKポストパンクの流れを汲んだアーティスティックなギタープレイに加え、西川成子のシンプルなベースライン、ジョン・ライドン、イギー・ポップに比するユニークさのある町田町蔵のヴォーカルがバンドサウンドとして見事な合致を果たしている。「メシ喰うな!」「つるつるの壺」、NO NEW YORKのアバンギャルドノイズに迫った「ダムダム弾」等、世界水準のパンク・ロックソングが多数収録されている。 

 

 

 

 

The Saints「Eternally Yours」1978

 

 


ザ・セインツは、Radio Birdmanと並んで、オーストラリアの初期のパンクロックシーンを牽引した伝説的なロックバンドであり、1973年にブリズベンで結成された。パンクロックという概念が誕生する以前に、ガレージロックを下地にしたパンキッシュな音楽を奏でていた特異な六人組である。

 

ザ・セインツの音楽が特異なのは、荒削りでカラフルなロックンロールの性質に加え、サックスフォーンをあろうことか1973年にバンドサウンドに時代に先んじて取り入れていたことである。その他、彼らの代表作「Eternally Yours」には、Johnny Thundersにも近いラフなロックンロールナンバーが多数収録されている。

 

彼らの最高の楽曲は「Know Your Product」に尽きるか。既に1970年初頭に、英国のニューウェイブ/ポスト・パンクに近い音楽を演奏していた、驚愕すべきバンドの決定版として、ベスト盤の「Know Your Product」と一緒におすすめしておきたい。また、追記として、Rolling Stoneが報じた通り、ヴォーカルのChris Bailey(クリス・ベイリー)は、今年の4月11日に死去している。ナルシスティックでありながら世界で最もクールなヴォーカリストだった。



 

 

 

 

・ニューウェイブシーンに台頭したBauhausのアルバムは今回扱いませんでしたが、また日を改めて、ゴシックのカテゴリーで取り上げる予定です。



・Patricia Wolf 

 

「I'm Looking For You In Others」

 



パトリシア・ウルフは、純粋な電子音楽家というより、シンガーソングライターとして知られるイギリス・サウスロンドンのミュージシャンです。一般的な楽器として、ウクレレ、ピアノ、ビオラを演奏しますが、電子音楽のサンプリングとクラシックを融合した独特な作風を擁するアーティストです。

 

最新アルバムにおいて、パトリシア・ウルフは、モダンアンビエントの領域を開拓しています。タイトル「あなたの中に他者を探す」という哲学的な主題が掲げられており、清涼感のあるアンビエントから暗鬱なサウンドまで、このアーティストの内面世界が電子音楽、シンセサイザーのシークエンスによって多彩に展開されていく。聞きやすいアンビエント作品としておすすめです。



 

・Suso Suiz 

 

「Just Before Silence」

 



スペイン・カディスのミニマル/アンビエントミュージシャンのSuso Suiz(スーソ・サイス)の大御所の最新作は、アンビエントの名盤として挙げても差し支えないかもしれません。クラシックという分野を、ボーカル芸術、電子音楽の切り口から開拓してみせた斬新な雰囲気を持つ作品です。

 

アンビエント音楽として抽象的な作風ではあるものの、背後に展開されるシンセサイザーのシークセンスは独特な和音を有している。奥行きを感じさせるアンビエントは、時に宇宙的な広がりを持ち、霊的な雰囲気も持ち合わせています。今年65歳になる電子音楽家が挑んだヴォーカル芸術と電子音楽の融合の極限。問答無用の大傑作です。 

 


・Alejandro Morse 

 

「Adversalial Policies」

 

 


 

アレジャンドロ・モースは、メキシコを活動拠点とするドローンアンビエント・アーティストです。

 

アレジャンドロ・モースは、昨今の平板なアンビエントとは異なり、迫力のあるアンビエントを生み出す演奏家です。表現性については、アブストラクトな色合いを持つものの、独特な低音の響きがこの作品の世界観をミステリアスなものとしています。低音域の出音、それに対比的に組み込まれる高音域のシンセサイザーのフレーズが何か聞き手に高らかな祝福のような感慨を授けてくれる作品。自然を感じさせるような楽曲から、時にはインダストリアルな雰囲気を持つ楽曲にいたるまで、幅広いアンビエントの表現がこの作品では探求されています。

 

 

 

・Messeage to Bears(Worridaboustsatan Rework)

 

「Folding Leaves」

 



Messeage to Bearsの最新作「Folding Leaves」は、荘厳なゴシック建築のような趣を持つピアノとシンセサイザーを融合した既存のアンビエントから見ると、画期的な作風です。このアルバムのオープニングを飾る「Daylight Goodbye」は、ピアノの旋律を活かすのではなく、ピアノやアコースティックギターを音響的に解釈し、それを空間的な広がりとして表現しているのが見事です。

さらにそこに、電子音楽家メッセージ・トゥ・ベアーズは、ブリストルサウンドというべきか、ブリストルのクールなダンスミュージックのグルーブ感を加味しています。また、純粋なアンビエントトラックの他にも、テクノ寄りのアプローチがあったり、さらに、フォーク寄りのサウンドを持つ秀逸なボーカルトラックがあったり、かなり幅広い柔軟な音楽性が味わえる作品です。                
 
 

 

 

・Francis Harris 

 

「Thresholds」



 

NY、ブルックリンを拠点に活動する電子音楽家、フランシス・ハリスの最新アルバム「Thresholds」は、アバンギャルドの雰囲気も持ちつつ、多種多様な電子音楽が展開されています。

 

時に、会話のサンプリングが取り入れられたり、ピアノのフレーズがアレンジに取り入れられたり、さらには、グリッチノイズをリズム代わりに表側に押し出したりと、Caribouのような実験的あるいは数学的な試みが行われています。また、ヴォーカルをダブ的に解釈を行った楽曲もあり。そういった電子音楽寄りの楽曲の合間を縫って、緩やかで穏やかな雰囲気を持つアンビエントが作品全体の強度を持ち上げています。暗鬱でぼんやりとしたドローンアンビエント、それと対比的な色合いを持つモダンテクノの風味が掛け合わされた特異な作品です。 

 

 

 

・Pan American 

 

「The Patience Fader」




Pan−Americanの他にも、ギターアンビエントに旧来から取り組んでいるアーティストとしては、坂本龍一ともコラボレーションを行っているオーストリアのFenneszが挙げられますが、パン・アメリカンの新作は、クリスティアン・フェネスほどは、実験音楽、電子音楽の色合いは薄く、心休まるような雰囲気を持っています。


この最新作におけるパン・アメリカンのエレクトリック・ギターの演奏は、スティール・ギター、ウクレレのような純朴さ、穏やかさがあり、それをこのアーティストは温かなフレージングによって紡がれてゆく。ギターによって語りかけるような情感が込められ、南国のリゾート地にやってきたような開放感にあふれる極上の作品です。 

 

 

 

・Andrew Tasselmyer


「Limits」

 

 

現行ドローンアンビエント音楽の中でも屈指の人気を誇るメリーランド州ボルチモア出身のアンドリュー・タセルマイヤーは、アンビエントだけではなくポスト・クラシカルの領域でも活躍する音楽家です。

 

このアルバムにおいて、アンドリュー・タセルマイヤーは、ロスシルや畠山地平に近いアプローチを図り、風の揺らぎのようなニュアンスをシンセサイザーのシークエンスにより探求しています。さらに、トラック全体に深いディレイエフェクトを施すことにより、プリペイドピアノのとうな音色を作ったりと、実験音楽の要素も多分に取り入れられています。作品全体には、機械的な作風であるのにも関わらず、大自然の中で呼吸するかのような安らぎが込められています。 

 

 

 

・Recent Arts、Tobias Freund&Valentina Berthelon

 

 「Hypertext」 

 


 

2022年現時点までにリリースされたアンビエント作品の中で、スペインの大御所・スーソ・サイスの「Just Before Silence」と共に注目すべき作品として挙げられるのが、Recents Artsを中心に、三者の電子音楽家がコラボレーションを行った「Hypertext」です。アルバムでは、アンビエントの先のあるSFに近い作風が取り入れられており、「SF-Ambient」とも称するべき前衛的なサウンドアプローチが生み出されています。

 

その他にも多彩な表現性が込められており、グリッチテクノに近いアプローチがあったかと思えば、モダンアヴァンギャルドの領域に踏み入れていく場合もあり、ヒップホップのサンプリングに近い雰囲気も取り入れられています。もしかすると、今後、こういった近未来を象徴するような斬新なSFアンビエントサウンドが数多く生み出されていくのではないか、そんなふうに期待させてくれる作品です。お世辞にも、聴きやすいアンビエント音楽とはいえないものの、今年までは存在しなかった音楽性が提示された、前衛的な電子音楽として、最後に挙げておきます。

 

*Ambient Music Selection 2022 2nd Halfはもし余裕があったらやります。あまり期待せずお待ち下さい。 

ポピュラー音楽におけるサイケデリックという要素は、御存知の通り、1960年代後半のアメリカの西海岸の地域、カルフォルニアやサンフランシスコを中心に花開いたカルチャーです。若者のドラッグ文化、及びヒッピームーブメントは、ロックと密接な関わりを持ちながら、メインカルチャーとして形成されていくようになりました。

 

このカルチャーの流れを汲んで、アルバムジャケットのアートワークの中にもサイケのコンセプトがアートとして取り入れられるようになりました。これらのロック・バンドとして代表的であるのが、グレイトフル・デッド、ニューウェイブシーンのバンドとして登場したザ・レジデンツ、13th Floor Elevatorといったサイケデリックの象徴的なバンド群です。グレイトフル・デッドはどちらかといえば、ジミ・ヘンドリックスに近いロックで、13th FloorElevatorは、ひときわサイケデリックの色合いが強い、このジャンルを象徴する名盤「The Psychedelic of~」の中において、サーフロックをよりマニアック音楽として提示しています。1970年代までは、サイケデリック・ロックムーブメントは、アメリカのピッピー文化を謳歌する若者を中心に盛り上がりを見せていましたが、この年代以降、1980年代からはLAのロックシーンを見ても分かる通り、商業ロックが優勢になっていったため、徐々に、このサイケデリックの旗色を掲げるバンドは少なくなり、このカルチャー自体も衰退へ向かっていくようになりました。

 

ところが、2000年代に入ってからというもの、特に、2010年代からアメリカの西海岸、カルフォルニアを中心に、これらのサイケデリックを聞きやすいポピュラー音楽として再定義するバンド、あるいはホームレコーディングのアーティストが徐々にインディーシーンに台頭してくるようになりました。この地域では、特に、マック・デマルコに象徴されるように、ダンスミュージックとサイケの概念を絶妙に融合した魅力的なアーティストが数多く活躍しています。また、これらのバンドは、既に、古びてしまったように思えるサイケの概念の文脈をより親しみやすいものに変え、新たにポピュラー音楽として提示する。

 

その中には、往年のサイケデリックロックに加え、ディスコサウンド、ヒップホップのサンプリングカルチャーの中に見られるローファイという概念を取り入れたり、あるいはアシッド・ハウスに見られるような蠱惑的な電子音楽の雰囲気を取り入れ、現代的な質感をレコーディングやDTMにおいて追求し、スタイリッシュなサウンドをこれらのバンドは提示することに成功しています。

 

今回、かなり久しぶりになってしまい恐縮ですが、近年のアメリカ西海岸のバンド、アーティストを中心に、世界の魅力的なサイケデリック・ローファイの名盤を以下に取り上げていきます!!

 

 

Connan Mochasin 「Jassbusters Two」





コナン・モカシンはメキシコのソロアーティスト・コナン・ハスフォードのソロプロジェクトで、サイケデリックシーンの鬼才ともいうべきミュージシャン/ギタリストです。このアーティストの楽曲は独特で、デチューンのエフェクターを用いギターのトーンを揺らすことにより、音調を敢えてずらすという試みを行っています。

 

2018年の代表作「Jassbusters」の連作のニュアンスを持つこのアルバム「Jassbusters Two」では、往年のエリック・クラプトンに近いギター演奏のアプローチを試み、サイケ色溢れる作風を提示しています。

 

コテコテのサイケデリックロックではなく、エレアコサウンドに近い落ち着きのある内的な心理の揺らぎとよぶべき繊細な感覚を、コナン・モカシンはこの作品において表現しています。特に、4曲目の「In Tune 」はサイケでありながら、奇妙な癒やしの質感に彩られた通好みのギターロックです。


 




Ariel Pink 「Dedicated to Bobby Jameson」




 

 アリエル・ピンクは、LAを拠点にするアーティストで、西海岸のサイケデリック/ローファイシーンを牽引してきた存在で、アニマル・コレクティヴとも深いかかわりを持ってきているようです。アイエル・ピンクのサウンドはホームレコーディングによって生み出されるジャンクな雰囲気が漂う。

 

「Dedicated to Bobby Jameson」では独特なシンセポップをホームレコーディングによって生み出しています。印象としてはシドバレット在籍時のピンクフロイドにも似ているかもしれません。基本的にはダサいんだけれど、なんだか妙にカッコいいという、いかにもサイケの二元性を象徴するような作品で、宅録ソロアーティストとして活躍するパート・タイムにも近い音楽性を持つ。70年代のフォーク、ポップ、ロックの音楽へのノスタルジアを感じさせるシンセ・ポップは、ニューヨークの「ソロ・ニュー・オーダー」と称されるソロアーティスト、ブラック・マーブルとも親和性が高いようです。このあたりのマニアックな感じに共鳴するかが、このアーティストの作品と相性が合うかのスレスレの境目となるでしょう。


 


Part Time 「P.D.A」

 


上記のアリエル・ピンクとパートタイムが異なるのは、ロック性が滲んでいるかどうか。特に、サンフランシスコのパートタイムは自身のメロディーセンスを生かして、ジャンク感あふれるシンセポップに取り組んでいます。時に、そのメロディーの雰囲気はザ・スミスに近い哀愁も漂う場合もある。 


パートタイムの名盤は、他にも「It's Elizabeth」が収録された「Virgo's Maze」も捨てがたくあるものの、ここでは、シンセポップのアンセムソング「Night Drive」が収録された「P.D.A」を取り上げておきます。トーンを意図的にずらしたシンセの音色、よくも悪くも気の抜けたようなデビット・ブラウンのボーカルもマニア心をくすぐるものがある。特に、このアーティストは、ビニール盤でそのローファイの真価を味わえるアーティストとして御紹介します。


 



Deerhunter 「Microcastle」




ディア・ハンターは現代的なロックの文脈において、サイケデリック/ローファイというジャンルを再定義しようと試みるバンド。アリエル・ピンクとともにこの辺りのシーンの象徴的なバンドに挙げられるでしょう。

 

2008年にリリースされた「Macrocastle」はストロークスのような、まったりとした雰囲気を持つローファイサウンドが魅力です。このジャンルに馴染みのないリスナーにとってもとっつきやすさのあるサウンド。1970年代のポピュラー・ミュージックの良いとこ取りをしたような作風で、ディスコサウンドに対する傾倒が見られるノスタルジアに塗れたインディーロック作品です。 


 


Mild High Club 「Skiptracing」

 


カルフォルニアを拠点に活動するマイルド・ハイ・クラブが他のバンドやアーティストと異なるのは、R&Bという文脈からこのサイケデリック/ローファイというジャンルに脚光を当てようとしている点にあります。

 

このバンドは、特に、ディスコサウンドや古典的なR&Bに強い自負心を持っており、レコードから流れてくるサウンドをレコーディングやライブにおいてどこまでそれを現代的な感性で再現し、新たなサウンドとして再定義するかという意図を持って作品制作を行っているように思えます。いわば、レコード通としての矜持のようなものを掲げてソングライティングやレコーディグを行うバンドです。

 

King Gizzard&The Lizard Wizardとの共作「Sketch of Brunswick East」も代表作としてあげておきたいところですが、ここでは2016年の「Skiptracing」を取り上げておきます。このアルバムでは、近年のカルフォルニアのサイケ/ローファイらしいサウンドが掲げられ、R&B,シンセ・ポップ、オルタナ・ポップを自由自在に往来し、独特なマニア向けのサウンドが展開されていますよ。


 

 


坂本慎太郎 「できれば愛を」





ゆらゆら帝国からサイケデリック・ロックの質感を自身の重要な音楽性のひとつに掲げてきた坂本慎太郎。最早、多くの説明は不要、実は、アメリカのインディレーベルからも作品をリリースしたことがあります。

 

親しみやすさのある音楽性、それと裏腹にドキリとするような社会への風刺を込めるのがこのアーティストの魅力で、そこに肩肘をはらない等身大の姿、ありのままの音楽家としての姿をこれまで音楽を通して見せてくれています。

 

長らくサイケデリック音楽を追求してきた坂本慎太郎にとって、ひとつの到達点ともいえるのが、2016年の「できれば愛を」です。

 

「ラメのパンタロン」時代からの、舌っ足らずで、もったいぶったような歌いぶりは今なお健在。昨今ではさらにその歌いぶりに磨きがかかっている。アメリカのインディーレーベルとも関わりを持ちながら、英語で歌おうという概念はこのアーティストには全く存在しないのが頼もしい。日本語歌詞の独特の五感を活かし、それを、いかにクラシカルでメロウなロック、サイケサウンドを結びつけるか。その一つの解答がこの作品「できれば愛を」で顕著に提示されています。


 

 



Kikagaku Moyo 「Masaba Temple」





幾何学模様は、東京出身のサイケデリック・ロックバンド。


ポルトガルのジャズミュージシャン Bruno Pernadas をプロデューサーに迎えて制作された最新作『マサナ寺院群』は「Discogs で最も集められた日本産レコード 2018/2019前半」の首位を獲得。2019年には、アメリカ最大級の音楽フェスティバル「Bonnaroo」、ヨーロッパ3大フェスの1つ「Roskilde」の出演に加え、Gucciとのビジュアルコラボレーションも行うなど、ジャンルを超えた活動のスケールは拡大を続けている。 

 

幾何学模様のサウンドは、表向きにはサイケデリアの色彩を感じさせながらも、そこにジャズ、民族音楽の要素を織り交ぜています。特に、日本の古い民謡、童謡、歌謡曲の個性を引き継いで、そこに、現代的でスタイリッシュな質感を追求しています。その世界観は、トクマルシューゴに近い日本のフォークロアの雰囲気によって彩られている。


2018年にリリースされた「Masana Templle」はアジアンテイスト溢れるサイケデリックサウンドが展開されており、このバンドの魅力が引き出された一枚です。サンフランシスコ、LAとは異なるアジアのサイケデリックロックを体現した個性的な雰囲気にあふれる良盤として挙げておきたい作品です。


 

 Dischord Records

 

ディスコードレコードは、ワシントンDCの伝説的なパンクロックを専門とするレーベルである。1980年、Minor Threatのイアン・マッケイがTeen Idlesのジェフ・ネルソンとともに設立した。

 

 
 

Dischord Recordsの代名詞ともいえるMinor Threat、レーベルオーナーのイアン・マッケイ氏(前列)


 

レーベル設立当初は、DCハードコアシーンの元祖、ティーン・アイドルズのレコードの収益を元に、ワシントンDCのハードコアパンクのリリースを行うために立ち上げられたレーベルであるが、後に、Dischordは、USハードコアシーンの担い手となったのみならず、DIYの精神を掲げ1980年から長きに渡って運営されているインディーズレーベルでもある。ワシントンDCの知り合いのバンドのみをリリースするというスタイルは、今日まで貫かれているレーベルコンセプトでもある。

 

今回は、この1980年代からUSハードコアの最重要拠点となったディスコード関連の10の名盤をご紹介致します。

 

 

 

 

 1.Teen Idles

 

「Minor Distubance EP」

 

 

 

USハードコアシーンの祖、ティーン・アイドルズなくして、USハードコアを語ることは許されません。

 

イアン・マッケイ、ジェフ・ネルソンを中心にワシントンDCで結成。1980年代初頭、アメリカでドラックや暴飲といった退廃的な風潮が蔓延する中、それとは正反対の禁欲的な思想の一つ、「No Sex,No Drink,No Drug」を主張した最初のDCハードコアバンドであり、ストレイトエッジという概念を最初に生み出した伝説的ロックバンドでもある。「Minor Distubance EP」は性急なビートを打ち出した傑作で、イギリスの”Oi Punk”に近い硬派のパンクアルバムです。 

 

 

 

 

 

 

2.Minor Threat  

 

「Complete Discography」

 

 

 

イアン・マッケイ率いるMinor Threatの活動期の全音源が聴けてしまうという伝説的な名盤。初期のマッケイの激烈なテンションから、後期には、Fugaziを彷彿とさせる落ち着いたポストロック寄りのアプローチにバンドサウンドが徐々に変化していく様子が克明におさめられています。

 

マイナー・スレットという存在、このアルバムの影響力は凄まじいもの。後のSxE、ストレイトエッジ・シーンの先駆けとなり、このハードコアムーブメントは、ボストンやNYにも及んだ。「Filler」、「Minor Threat」「Straight Edge」を始め、USハードコアの伝説的な名曲が数多く収録されている。 






3.Void:Faith 

 

「Spilit」 

 

 

 

イアン・マッケイの実弟のアレックがヴォーカルを務めるFaith、そして、ワシントンDCでも最強のハードコアバンドであるVoidの痛快なスピリット作品。

 

Faithの方もシンプルなハードコアサウンドでかっこいいですが、なんと言っても注目なのはVoidです。この前のめりなヴォーカルスタイル、すさまじい勢いは歴代のハードコア・パンクの中でも随一の切れ味を持つヤバさ。USハードコアシーンの最初期の名スピリットとして挙げておきたい。

 



 

 

4.Dag Nasty

 

「Can I Say」

 

 

  

1986年発売のダグ・ナスティーのデビュー作にして歴史的傑作。どちらかと言えば、ハードコアというより、メロディックパンクの枠組みで語られるべきバンドで、LifetimeやHusker Duに近い雰囲気を持つ。

 

デビュー作「Can I Say」には、スタジオ録音に加え、四曲のライブパフォーマンスが収録されています。スタジオの録音トラックもかっこ良いが、必聴なのは、「Circles」、そして追加収録のライブの楽曲「Trying」。速い、かっこいい、エモーショナル。後の1990年代のオレンジカウンティのメロディック・パンクシーン、スケートパンクシーンの音楽性の礎となった作品です。 

 

 

 

 

 

5.Rites Of Spring

 

「End On End」 

 

 

 

 

後に、One Last Wish、Fugaziをイアン・マッケイとともに結成するガイ・ピチョトーのバンド。


激烈な叙情を突き出したサウンドは、ニュースクールハードコアの祖であるだけではなく、エモーショナル・ハードコアの元祖でもある。作品のプロデュースはイアン・マッケイが担当。  

 

 

 

 

 

 

6.One Lat Wish

 「1986」 

 

 


 

Rite Of Springの3人のメンバーとEmbaraceのMichael Hamptonによって結成されたが、わずか活動数週間に終わった幻のバンド。

 

いわゆるエモサウンドとは一線を隠すエモーショナルハードコアサウンドを特徴とする。このアルバムは十数年間お蔵入りしていたというが、1980年代のエモサウンドを一早く体現した伝説的なアルバム。エモというジャンルがハードコアパンクを始祖としていることが良く理解出来るような作品。「Three Unkind Of Silence」「Sleep Of The Stage」、表題曲「One Last Wish」と、伝説的なエモーショナルハードコアサウンドがずらりと並ぶ様はもはや圧巻です。

 

 

 

 

 

7.Fugazi

 

「13 Songs」

 

 

 

 

イアン・マッケイがマイナー・スレットを解散させた後、ガイ・ピチョトーと始動させたパンクロックバンド。

 

表向きにはパンクロックバンドとはいえども、どちらかといえば、ポストロックバンドのようなミクスチャーサウンドを志向していた。大学の構内でライブをおこなったり、手作りのバンドフライヤーを作成したりと、DIYの活動スタイルに拘りつづけた。このデビュー作の魅力はなんと言っても、「Waiting Room」のかっこよさに尽きます。パンク、レゲエ、スカ、ポップス、あらゆるジャンルを飲み込んだ扇動的なダンスロック。この後、フガジは「In On the Kill Taker」「Red Maschine」といった、ポストロック寄りのアプローチを選んでいくようになる。

 

 

 

 

 

8. Jawbox

 

「My Scrapbook Of Fatal Accidents」 


 

 

上記のDiscordのハードコア・パンクのバンドとは違い、オルタナティヴロックの要素の強いJawbox。Jay Robbins(Goverment Issue,Burning Airlines)を中心に結成。1980年代の伝説的なインディー・ロックバンドです。

 

グループ内で紅一点の女性ベーシストを擁することから、The Pixiesに近い音楽の方向性を持っている。他にも、パンクの尖り具合も持ち合わせながら、ポップスの要素の強い音楽性という面で、Jawbreakerに近い雰囲気を持つ。アルバム「My Scrapbook Of Fatal Accidents」 はDiscordの関連レーベルからリリースされたベスト・アルバムに比する編集盤。

 

「68」や「The Shave」は、アメリカのバンドの中でピクシーズのオルタナ性にいち早く肉薄した隠れたインディーロックの名曲。その他、1990年代のオルタナティヴロックを予見した「Sound On Sound」といった落ち着いたエモーショナルな名曲は、現在も特異な輝きを放ち続ける。  


 


 

9.Q And Not U

 

「Power」 

 

 

 

既に2005年に解散しているQ And Not You.並み居るDiscordサウンドの中にあって、上記のJawboxやMedicationsとともに異彩を放つロックバンド。どちらかといえば、ワシントンというより、シカゴのTouch And Go、傘下のQuartersticksに所属するバンドに近い雰囲気を持つ。

 

強いて言えば、Dismemberament Planのサウンドアプローチに近い。この作品「Power」で展開されるのは、ディスコパンク、ニューウェイヴサウンドの色合いの強いダンスロックであるが、2000年代に埋もれてしまったアルバムです。 今、聴くと、それほど悪くはない。名盤とはいえないかもしれないが、現代的なロックサウンドの雰囲気を持つ面白さのある作品です。

 

 

 

 

10.Slant 6

 

「Soda Pop Rip Off」 

 


 

 

Discordの中でもとびきり異彩を放つガールズ3ピースのロックバンド。Christina Billlotteを中心に結成。

 

ハードコアパンクというよりか、The Yeah Yeah Yaehsのようなライオット・ガールのロックサウンド、ガレージロック色の強いバンド。男顔負けの力強さのあるヴォーカルは、上記のハードコアの猛者に比べ遜色のないパワフルさを持つ。この作品「Soda Pop Rip Off」は、英国のニューウェイブのX-ray Specsのようなキラキラしたサウンドの雰囲気を感じさせる。演奏がもたもたしているのは、ドラマーが元ピアニストで、ドラムの初心者であったからというのはご愛嬌。