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ロカビリーの後継者 サイコビリーの面妖な世界

 

サイコビリーは1980年代、ロカビリー音楽の後継者としてイギリスのシーンに誕生した。そのカルチャーとしての始まりは、イギリスのThe Meteorsというパンク・ロックバンドにある。また、このジャンルを一番最初の音楽として確立したのは、アメリカのNYを拠点に活動していたThe Crampsである。

 

The Cramps at Mabuhay Gardens in 1978


New Wave Punkの後に誕生したこのサイコビリーは、パンクロックのジャンルの系譜に属するものの、音楽性としては、ハンク・ウィリアムズやジョニー・キャッシュのロカビリーの延長線上にあたる大人向けの激渋サウンドにより彩られている。


実際の演奏にも特徴があり、メテオーズのベーシストは最初期にウッドベースを使用し、スラップ奏法(指で弦をびんと弾く)により軽快なビートを生み出す。


また、ギターの演奏としても面白い特徴があり、グレッチを始めとするネオアコを使用、ピックアップにはハウリングに強いEMGが使用され、リバーブを効かせたような独特な音色を特色とし、ロカビリー音楽の基本的な音楽の要素、ホットリックと呼ばれるギャロップ奏法を用いたりもする。


サイコビリーの音楽性のルーツは、「ロカビリー」、さらには、その祖先に当たる「ヒルビリー」という音楽にあるようだ。このヒルビリーというのは、アメリカの二十世紀の初頭、 アメリカのアパラチア、オザークという山間部で盛んだった音楽である。この周辺は、おそらく二十世紀初めに、アパラッチ、つまり、ネイティヴアメリカンが多く住んでいた地域であると思われる。


そして、この山間部で発生した音楽、これは、アパラチアン・ミュージック、マウンテン・ミュージックと呼ばれ、その後、アメリカのカントリー・ミュージックの一部として吸収されていく。それほど、学のない、山出しのワイルドな白人の男達の奏でるナチュラルで陽気な音楽が、アメリカのカントリー音楽の地盤を作り、その後、ハンク・ウイリアムズやジョニー・キャッシュといった、幾らか都会的に洗練された雰囲気を持つミュージシャンに引き継がれゆくようになる。その後、これらのカントリーやブラックミュージックの融合体として、ロックンロールというジャンルを、リトル・リチャーズやエルヴィス・プレスリーが完成させたのである。


その後、Rock 'n Rollというジャンルは複雑に分岐していき、その本来の「踊れる音楽」という要素は、その後、70年代、80年代になると、失われていき、ロールの要素は失われ、ロックのみとなり、ロックンルールのリズムとしての特徴が徐々に失われ、メロディーに重きを置く音楽性が主流となっていく。


そして、このサイコビリー/パンカビリーというジャンルに属するバンドは、アンダーグラウンドシーンにおいて、古い時代のカントリーやロカビリーに内在する踊れる要素を抽出し、そのマテリアルを追求し、さらにそれを1980年代のロンドンで復刻しようと試みた。そして、サイコビリーシーンの中心地は、ロンドンの”Klub Foot”というナイトクラブを中心に発展し、1980年初めから終わりにかけて、このシーンは盛り上がりを見せた。 


サイコビリーのファッション

 

サイコビリーのファッションについては、以前のロンドンのパンクロックと親和性が高い。それ以前のオールドスクールパンクに流行したスタイルを引き継ぎ、トップだけを残し、サイドを刈り上げたカラフルで過激なモヒカンヘアはサイコ刈りという名称で親しまれている。


また、鋲を打ったレザージャケットを身につけるという面では、DischargeやGBHあたりのイギリスのハードコア・パンクのファッション性を継承している。オーバーオールを着たりもするのは、カントリーの影響が垣間見える。


そして、もう一つ、このサイコビリーファッションには面白い特徴がある。ゴシックロックの風味が付け加えられ、けばけばしく、毒々しい印象のある雰囲気が見受けられる。これらはJoy Division、Bauhausのようなゴシック的な世界観、もしくは、スージー・アンド・ザ・バンシーズのような暗鬱なグラムロック的な世界観が絶妙に合わさって出来上がったように思われる。


それは、アメリカンコミック、SFの往年の同人ファンジンで描かれるようなコミカルなキャラクター、 もしくは、B級ホラー映画からそのまま飛び出してきたような色物的な雰囲気がある。このゴシック的な要素は、サイコビリーの後のジャンル、ゴスビリーというのに引き継がれていった。


このサイコビリーというジャンルには、ライブパフォーマンスにおける観客同士の音楽に合わせて殴りあいのような過激なスタイルがある。俗に”レッキング”と呼ばれ、笑顔で殴り合うという互いの親しみを込めた雰囲気と言える。このレッキングの生みの親The Meteorsのライブ会場における観客の激しい踊り、これが音楽フェスティヴァルで有名な”モッシュピット”の始まりであると言われている。


又、これらのバンドは、表面上では、コミカルでユニークなイメージを持ち合わせているが、その核心には強固な概念があり、レイシズムに対し反駁を唱える政治的主張を持ち合わせている。


音楽としては、エルヴィス・プレスリーやリトル・リチャーズ時代を彷彿とさせるコテコテの味の濃いお好み焼きのようなロックンロールだが、往年のコンフリクトやザ・クラスのように、それまでのタブーに対する挑戦、社会通念や固定観念の打破といった、いかにもパンクロック・バンドらしいスピリットを持ち合わせているのが特徴である。 

 


サイコビリーの名盤


1.The Meteors

 

後に、サイコビリーの代名詞のような存在となり、イギリスでのその地位を不動のものとするメテオーズである。活動期間は現在まで41年にも渡るわけで、このロックバンドの胆力には本当に頭が下がる。


メテオーズの最初期の出発は、The DamedやUK Subsのような荒削りなロンドンパンクフォロワーとしてであった。


つまり、1970年代終盤から隆盛をきわめた当世風のパンクバンドとして出発したメテオーズは、徐々にロカビリー色を打ち出し、他のバンドとの差別化を図っていく。一作目はどちらかというなら、Eddie&The Hot RodsやThe Skullsのような、激渋のパブロックサウンドに近い音の方向性ではあったが、二作目「Stampede!」から、ギターにリバーブを効かせた独特の唯一無二のサイコビリーサウンドを確立。


メテオーズのサウンドの醍醐味は、ウッドベースと、シンプルではあるが妙に癖になるギターのギャロップ奏法である。実際のライブはかなり過激な要素を呈し、血の気の多いパンクスが彼らの活動を支えている。 


 

「The Lost Album」

 

 


メテオーズの名盤はその活動期が長いがゆえに多い。おそらくサイコビリー愛好家ならすべてコレクトせずには済まされないだろうが、純粋に、ロカビリー、パンカビリー、サイコビリーのサウンドの雰囲気を掴みたいのなら2007年の「The Lost Album」をレコメンドしておきたい。

 

ここには、ウッドベースの軽快なスラップ、やボーカルのスタイル、ギターのジャンク感の中に全て50、60年代のロカビリーサウンドの旨みが凝縮されている。ギャロップのような飛び跳ねるようなリズムも痛快で、なんだか踊りだしたく鳴るような衝動に駆られるはずだ。


既に見向きもされなくなったエルビス・プレスリーの音楽性を蘇らせてみせた物好きな連中で、なんともカウボーイのようなダンディさ。いやはや、メテオーズの意気込みに敬服するよりほかなし!!


2.The Cramps 

 

B級ホラー映画からそのまんま飛び出してきたようなキャラクター性、世界のロックシーンを見渡しても一、二を争うくらいのアクの強さを誇るザ・クランプス。サイコビリーはこのバンドを聴かずしては何も始まらない。

 

このクランプスの強烈なバンドカラーを支えているのは、このバンドの発起人でもある世界でもっとも個性的といえるラックスインテリア(Vo)、そしてポイズン・アイビー(Gu)という謎めいたステージネームを掲げる仲良し夫婦の存在である。ゴシック的な趣味を打ち出し、息の長い活動を続け、世の中の悪趣味さを凝縮した世界観を追求しつづけてきたクランプス、それは夫婦の互いの悪趣味さを認め合っていからこそこういった素晴らしいサウンドが生み出し得た。残念ながら2009年に、ラックス・インテリアは62歳でなくなり、バンドは解散を余儀なくされた。


しかし、あらためて、このロカビリーとホラーをかけ合わせた独特なサウンドの魅力は再評価されるべきだろう。ロンドンパンク、New WaveあたりはThe Adictsや X Ray Specsなど独特なサイコビリーに近いバンドキャラクターを持つロックバンドがいたが、正直、このクランプスの個性を前にしては手も足もでない。50.60年のロカビリーサウンドをあろうことか80年代になって誰よりも深く追求した夫婦。上記のメテオーズと同じようにその時代を逆行する抜群のセンスには脱帽するよりほかない。 

 


「Phycedelic Jungle」

 

 

 

クランプスのアルバムの中で最も有名なのは、デビュー・アルバム「SongsThe Lord Tought Us」もしくは「A Date With Elvis」、「Stay Sick」を挙げておきたいところだが、サイコビリーとしての名盤としては1981年の「Phychedelic Jungle」をオススメしておきたい。アルバムの中の「Voodoo Idol」「Can't Find My Mind」の未だ色褪せない格好良さは何だろう。


これらの楽曲は、サイコビリーというジャンルが、音楽的にはサイケデリックとロカビリーの融合体として発生したものであると証明付けているかのよう。他にも、アルバムのラストに収録されている妙に落ち着いたロカビリー曲「Green Door」も独特な格好良さがある。言葉では表せない変態性を追求しつくしたからこそ生まれた隠れた名ロックバンドのひとつだ。この夫婦の持つ独特なクールさのあるホラーチックな森の中に迷い込んだら最後、二度と抜け出ることは出来ない!!

 


3.BatMobile

 

バットモービルもまたメテオーズと共にサイコビリー界で最も長い活躍をしているロックバンドである。


1983年Jeroen Haamers,Eric Haamers、Johnny Zudihofによって結成。オランダのアムステルダムで結成され、 イギリス、ロンドンの”Klub Foot”というサイコビリーシーンの最重要拠点で最初にライブを行ったロックバンドとしても知られている。


バットモービルは、チャック・ベリー、エルビス、ジェーン・ヴィンセントからそのまま影響を受けたド直球サウンドを特徴とする。最初期は、モーターヘッドのAce Of Spadesのカバーをリリースしていたりとガレージロックの荒削りさも持ち合わせている。そこに、ロンドンのニューウェイブシーンのロックバンドに代表されるひねくれたようなポップセンスが加わったという印象。 

 

「Bail Set At $6,000,000」

 

 

 

バットモービルのB級感のあるロカビリーサウンドを体感できる一枚として、「Bail Set Art $6,000,000」1988を挙げておきたい。


アルバムジャケットのアホらしい感じもまさにB級感満載。実際のサウンドもそれに違わず、愛すべきB級感が漂いまくっている。本作では、特にごきげんなチャック・ベリー直系のロカビリーサウンドが味わえる。Jeroren Hammersのギタープレイも意外に冴え渡っており、通好みにはたまらない。


ハマーズのボーカルというのもユニークさ、滑稽みがたっぷりで味がある。難しいことは考えずただ陽気に踊れ、そんな単純な音楽性が最大の魅力といいたい。また、最奥には、奇妙なパブロックのような激渋さも滲んでおり、何となく抜けさがなさが込められている秀逸なスタジオアルバムである。

 


4.Horrorpops   

 

ホラーポップスは、デンマークコペンハーゲンにて1996年に結成。エピタフレコードを中心に作品リリースを行っている。


これまで、サイコビリーの大御所、ネクロマンティックスやタイガーズアーミと共同作品をリリースしている。紅一点のベースボーカルのパトリカ・デイのキャラクター性はクランプスのイメージをそのまま継承したものであるが、ポイズン・アイビーとは異なるクールさを持ちあわせている。


ホラーポップスのバンドサウンドの特徴としては、疾走感のあるパンカビリーにライオット・ガール風のガレージロックの荒削りさが加味されたとような印象である。つまり、ロカビリーといよりは、エピタフ所属のバンドであることからも分かる通り、ストレートなパンクロック寄りのバンドといえるだろう。また、ロカビリー色だけではなく、シンガロング性の色濃い、ライブパフォーマンス向きの迫力もこのロックバンドの魅力である。キャッチーではあるものの、ウッドベースのブンブン唸るスラップベースがこのバンドのサウンドのクールな醍醐味のひとつ。

 


「Hell Yeah!」

 

 

 

ホラーポップスの作品の中で聴き逃がせないのが2004年の「Hell Yeah!」である。パワーコードを特徴としたドロップキック・マーフィーズのようなシンガロングの魅力もさることながら、パトリカ・デイのボーカルの妙感じが前面に出た良作である。


アルバム全編を通して体現されるのは痛快な疾走感のあるパンクサウンド。ここで体感できるライオット・ガール風のサウンドはパンカビリー、サイコビリーの先を行くネオ・サイコビリー/ロカビリーといえるはず。


また、「Girl in a Cage」ではスカ寄りのサウンドを追求。サイコビリーの雰囲気を持ってはいるが、一つのジャンルに固執せず、非常にバラエティに富んだどことなく清々しさのあるパンクロックバンドだ。 

 


5.The Hillbilly Moon Explosion 

 

他のサイコビリーバンドに比べると、かなり最近のアーティストと言っても良さそうなヒルビリー・ムーンエクス・プロージョン。このバンドは、スイスのチューリッヒで、1998年に結成された。


ロカビリーサウンドに奇妙な現代的な洗練性、オシャレさを付け加えたようなロックサウンドが特徴である。


まさに、ジョニー・キャッシュのようなロカビリーサウンドをそのまま現代に蘇らせてみせたような激渋な感じ。ただ、イタリア系スイス人のオリーバ・バローニの本格派のシンガーとしての特徴があるゆえか、あまりB級然とした雰囲気が漂ってこない。これまでヨーロッパツアーを敢行、ドイツ、フランス、スペイン、イタリア、フィンランド、クロアチア、ハンガリー、スロヴェニア、ポーランド、オーストリア、UKといった国々を回っている。

 

一応、サイコビリーに位置づけられるロックバンドではあるものの、音楽性のバックグランドは幅広く、ロカビリーのみならず、ブルース、カントリー、スイング・ジャズを下地とし、どことなく哀愁のや漂うロックサウンドが魅力だ。その中にも、ギターサウンドはサーフ・ロックのような雰囲気もあり、エレクトーンが曲中に取り入れられている。ボーカルは男女のツインボーカル形式を取り、そのあたりの一風異なる風味にもわずかに哀愁が込められている。こういったロックバンドが、スイスから出てくるのは興味深いように思える。 

 

「Buy,Beg or Steel」


 

 

The Hillbilly Moon Explosionの推薦盤としてはロックサウンドとしての真骨頂である2016年の「With Monsters And Gods」に収録されている「Desperation」というのが名曲で、まずこの楽曲を挙げておきたい。


しかし、サイコビリーとしてのオススメは、2011年の「Buy,Beg And Steel」が最適といえるはず。ここでの渋みのあるロカビリーサウンドは時を忘れされる力があ。アルバムの全体の印象としては、古い時代に立ち戻ったかのような懐古風サウンドで、そこにはサーフロックのようなトレモロを効かせたギターサウンドというのも魅力。特に、「My Love For Everyone」のカントリー、ロカビリーに傾倒した激渋なサウンドは聞き逃がせない。


また、このアルバム「Buy,Beg Or Steel」で、歌物としての魅力が感じられる楽曲がいくつかある。それが「Natascia」や「Imagine a World」である。


ここでは、独特なエスニック的な和音進行に彩られた音楽が味わえる。古い、スパニッシュ、フラメンコ、あるいは、ジプシーサウンド風の哀愁が滲んでいる。スイス人のアーティストであることを忘れさせ、無国籍のロカビリーアーティストのような雰囲気が漂う。トレンドに背を向け、独自色を突き出す格好良さというのは筆舌に尽くしがたい。サイコビリーのシーンにおいて再注目のアーティストとして是非オススメしておきたい。 



追記


今回、なぜ、サイコビリーの名盤を紹介しようと思ったかは謎めいてます。昔、中古レコード屋でパンクのいちジャンルわけに属していたこのジャンル。実は、ちょっと怖いイメージがあったので、ザ・クランプス以外は購入しませんでした。けれども、そういったコアで、アングラで、ミステリアスな感じが、このサイコビリーの最大な魅力。このあたりの音楽にピンと来た方は、是非、他にも、Peacocksや、Necromatrixといったサイコビリー関連の名パンク・ロックバンドも聴いてみて下さい。

Touch and Go Records

 

 
米、イリノイ州シカゴに本拠を置くレコード会社「TOUCH&GO」は、歴史のある老舗インディーレーベル。元々、独立ファンジンを発行していたテスコ・ヴィーとデイヴ・ステムソンにより1981年に設立されました。
 
 
このレーベルは、ニューヨークの「Matador」、シアトルの「Sub Pop」と共に、1980年代から米国のインディーズの音楽シーンを牽引してきた存在といえるでしょう。

 

イギリスの名門レーベル「ラフ・トレード」「4AD」と同じく、その影響というのはアンダーグラウンドシーンにとどまらないで、メインストリームのミュージックシーンに新鮮な息吹をもたらしたレコード会社です。

 

レーベル設立当初の最初期の1980年代は、Necros、Die Kreuzen、Negative Appriachを始め、ハードコアパンクバンドのリリースを主として行っていましたが、徐々にアーティストの方向性を広め、多岐に渡るジャンルの作品リリースを推進していくようになります。

 

このインディーレーベルの主な功績としては、ポストロックというジャンル概念を生み出したことにあります。

 

2000年代から、世界的に流行るようになったPost RockーMath Rock(”数学的”で複雑な音楽構成をなすことから、この呼称が付けられた)というジャンルの概念を生み、その近辺の音楽性を持つアーティストを、いち早く世に送り出していったのがタッチ・アンド・ゴーなのです。

 

その後、1990年代に入ってから、シカゴ界隈の音楽シーンは盛り上がりを見せ、様々な人種の織りなす多種多様な文化概念を反映したミュージックシーンを形成していく。

 

元々このシカゴという地域がハウス・ミュージックの発祥で、ニューオーリンズのように、音楽そのものが街の生活の一部として染みついているからこそこういったシーンが生まれたのでしょう。

 

その後、1990年代から2000年代に差し掛かり、シカゴ音響派という造語も出来、音楽の聖地としてのシカゴ、そんなふうに呼び習わしても言い過ぎでない流れが出てくるようになりました。 

 

この四十年にも及ぶ「Touch and GO」のリリースカタログから見いだせる特徴は、パンク、オルタナティヴ、ダンス、ポストロック、マスロックといったコアなミュージシャンを輩出するにとどまらず、Battlesの前身Don Cabalello、TV on the Radio、Yeah Yeah Yeahs、Blonde Redhead、というように世界的な知名度を持つメジャーバンドも続々とシーンに送り出し続けています。

 

そもそも、このタッチ・アンド・ゴーは、才覚ある若手バンドの潜在能力を見抜くスカウト能力が、他のレーベルに比べて抜群に際立っていて、荒削りでありながら異彩を放つ若手アーティストを積極的に発掘して、作品リリースを重ねながら育てていくというのがこのレーベルの特色です。

 

2000年代に入り、経営難に陥り、2009年には新たなリリースを停止しているのは残念ですが、米国のミュージックカルチャーの土壌を耕し、育て、盛り上げていくコーチ的役割も担ってきたのがタッチアンドゴーの偉大さです。是非、中古レコード屋、あるいは気に入った作品があれば、購入してもらいたいと思います。今後のレーベル運営のモチベーションとなるはずです。


今回、個人的に強い思い入れのある「Touch and Go」の四十年近いレーベルの歴史の中から、選りすぐりの名盤をいくつかピックアップしていきましょう。 

 

 


 

Touch And Go Recordsの名盤 

 

 


Slint 

 

「Spiderland」 1991 

 

  


この作品は、タッチアンドゴーレコードの代表的な名盤というに留まらず、ミュージックシーンを完全に塗り替えてしまったといえる歴史的な名盤。 

 

驚くべきなのは、この数奇な音楽が、十代の少年たちが家のガレージで長年にわたりジャムセッションを胆力をもって続ける上で生み出された青春の産物であるということ。 この後、無数のポストロック、マスロックのフォロワーを生み出していながら、彼等の存在を超えるアーティストはいまだ出てきていない。気の遠くなるような時間を音楽のミューズに捧げつくしたからこそ生まれた必然の産物といえ、学業やその他の学生生活、または恋愛に向けられるべき情熱を全て音楽に捧げた結果なのでしょう。

 

もちろん、この作品「spiderland」が音楽としてリリースされた頃には、スリントのメンバー四人は、ティーンネイジャーではなくなっていますが、アルバムの最後に収録されているロック史の伝説、英国の詩人、サミュエル・テイラー・コールリッジの詩に音楽をつけた「Good morning, captain」の構想は、彼等のドキュメンタリーを見るかぎり、十代の頃出来上がっていたものと思われます。 

 

スリントの四人が湖で立ち泳ぎをしながら顔を突き出した写真というのも非常に印象的である。そして、その音楽性についてもきわめて先鋭的、個性的であり、どこから影響を受けて生まれ出たのかよくわからない。

 

ましてや、どういった意図を持って作られた音楽なのか解せないような作品が、たった四人のティーンネイジャーによって生み出されてしまうのが実に信じがたいものがあります。これは日本やイギリスといった土地では生まれ出ない、これぞアメリカといったロック音楽。これはまた、米国のガレージ文化が生み出したモンスターアルバム。  

 

静と動の織りなす激烈な曲展開、そこにクールに乗せられる、一貫して冷ややかなポエトリーリーディングを思わせるボーカルスタイル。それが、曲の展開に、一瞬にして激情的なスクリームに変貌してしまうありさま。これはまるで、ルー・リードの時代に返ったかのような姿勢であり、時代の流行り廃りから完全に背を向けているからこそ、生み出しえた数奇な表現といえるでしょう。 

 

さながら何十年もスタジオミュージシャンと務めてきたような風格のある職人的なタメの効いたドラミング、ノンエフェクトからの狂気的に歪んだギターのディストーションへの移行。そして、その土台を支えるきわめてシンプルなベースライン。これら三要素が一体となってがっちりと組み合わされているのがスリントの音楽性の特色です。

 

このアルバムには、その後のグランジムーヴメントを予見させるような雰囲気も滲んでいて、アメリカの表の音楽世界とはまたひと味ニュアンスの違った裏側の音楽世界が広がっている。 

 

この作品が後世のロックミュージシャンに与えた影響というのは計りしれず、日本のToeやLiteといったポストロック、マスロックも、このバンドなしには成り立たなかった伝説的な存在。ポストロックの原型を形作ったのがスリントという数奇なロックバンドといえ、全ロックファン必聴の一作。  

 


 

 

Don Caballero

 

「American Don」2000

 

 

 

ドン・キャバレロは、1991年、デイモン・チェを中心としてピッツバーグにて結成。のちのバトルスのギタリストとして活躍するイアン・ウィリアムズも在籍していたバンド。

 

このバンドの音楽というのは、アメリカのインテリジェンス性の飛び抜けて高い大学生が、数学的な頭脳を駆使し、実験的な音に取り組んだという印象。 キャバレロを聴くと、あらためて作曲をするのに最も必要なのは、数学的な才覚であると分かります。

 

ここには、後のバトルスの完成度高いダンスミュージックへの布石も感じられる。このバンドは、二千年代以降のポストロック・マスロックの流行りの型を作ったという功績は無視できず、音楽史に果たした役割というのは大きい。

ドン・キャバレロの作風としては、セッションの延長線上にあり、ジョン・アダムスやスティーヴ・ライヒが提唱した”ミニマル・ミュージック”(短い楽節を変奏を繰り返しながら展開していく楽曲の作風)の概念をさらに先に推し進め、それを現代的なロックの解釈としてアレンジメントした。 

 

アナログディレイの機器に、ギターやベースからシールドによって配線をつなぎ、電子の弦楽器をシンセサイザーのような使用法をしている。そして、ベースの出音をあえて早めることにより、ドリルのような連続的クラスター音を発生させている。いかにも、その音の構成というのはシュトックハウゼンから引き継がれたものをロックでやってのけてしまったという革新性。

 

ディレイという装置の細かな時間のタイムラグをうまく駆使することにより、細かな音をつなぎわせ、アンビエントの境地にまで運んでいってしまったのが、このバンドの凄まじい特徴です。

 

このアルバム「American Don」は、ライブセッションのようなみずみずしい彼等の演奏が聴く事が出来、ひとつの完成形を見たという印象。ここでめくるめくような形で展開されるのはロックとしてのフリージャズ。

二曲目収録の「Peter Cris Jazz」は、彼等の美麗なメロディセンスが発揮された名曲。ここで繰り広げられるベースのドリル音のようなサウンド処理というのは音楽の革命といえるでしょう。

 

あらためて、ロック音楽の中には、知的なバンドも中には存在するのだという好例を、彼等はこの作品で見せてくれている。いわゆるミュージシャンの参考になるアーティスト、決して聞きやすい音楽性ではありませんが、既存のロックに飽きてしまった人には目から鱗と言える奇跡的傑作。  

 

 

 


Big Black 

 

「RICHMAN'S EIGHT TRACK TAPE」1987 

 

  


ビッグ・ブラックは、オルタナティヴ界の裏の帝王ともいえる鬼才スティーブ・アルビニの激烈な宅録テクノ・ハードコアバンド。 のちに、アルビニがニルヴァーナの「イン・ユーテロ」の作品を手掛け、世界的なプロデューサーとなるのはまだ数年後まで待たねばならない。

 

さらに、そのまたのちに、ジミーペイジ&ロバート・プラントの作品のエンジニアをつとめるようになるなんて大それた話は、少なくとも彼の最初のミュージシャンとしての活動形態、このビッグ・ブラックを聴くかぎりでは全然想像出来ないでしょう。

 

ビック・ブラックの活動というのは太く短くといった表現が相応しく、スタジオ・アルバムを二枚リリースしているのみ、後はライブ・アルバムや、細々としたサイドリリースとなっています。

 

この「RICHMAN'S EIGHT TRACK TAPE」は、いわばビッグブラックのベスト盤的な意味合いのある作品。

 

この宅録ハードコアバンドの主要な楽曲を網羅し、そして、初期のレアトラックを集めた、スティーヴ・アルビニの若き日の音楽に対する情熱がたっぷりギュウギュウに詰まった作品。

 

この作品において見られる、古いMTR(マルチトラックレコーダー)の8トラックで、少ないトラック制限がある中、音を丹念に重ねて録音し、入念にマスタリングをしていくというきわめて初歩的なレコーディングの手法が、後のスティーヴ・アルビニの天才的エンジニアとしての素地、またその有り余るほどの鮮烈な才覚の芽生えが顕著に見えることでしょう。

 

ビック・ブラッグの音楽性についてはストイック、ハードコア・パンクを下地にしながらライムの風味すら感じられる硬派なギャングスターハードコア。精密で冷ややかなマシンビートが刻まれる中、のちのアルビニサウンドの原型をなす、硬質な鉄のようなギターサウンドの際立った存在感、そして、アルビニのすさまじい猛獣のような咆哮、奇妙な色気のあるシャウト、コテコテのお好み焼きのような要素がギュウギュウ詰めになっています。年若い、アルビニ青年のありあまるほどの音楽への情熱が感じられる、比類なきハードコア世界の深みを形成しています。

 

ここには、およそアメリカの最深部の音楽世界が深く充ち広がっており、その海底に入り込んだら抜け出せなくなるような危なっかしい魅力が満載。スティーヴ・アルビニのプロデューサーとして性格だけでなく、ミュージシャンとしての表情が垣間見える貴重な作品となっていて、このアルビニ・ワールドというのは、さらに、その後の彼の活動、RapemanからShellacの系譜へ引き継がれていきます。  

 


Black Heart Procession

 

「Amore del Tropico」2002

 


40年という長きに渡るTouch and Goのリリースカタログ中でも、際立って風変わりなアーティストと呼べるBlack Heart Procession。カルフォルニアのサンティエゴ出身のロックバンドです。 

このアルバムは、キャッチーでポップ性が高いとはいえません。しかし、それでも、ここには、独特なダンディーでクールな渋い漢の世界が広がっている。スパニッシュ風の音の雰囲気が心なしか漂っており、ブエナビスタ・ソシアルクラブやジプシー・キングスのような民族音楽、エスニック色が滲んだ渋みある作風です。

 

表題がイタリア語であることから、何かしら、名画「ゴッドファーザー」に対する憧憬も感じられ、イタリアンマフィアのダンディズムに満ちた世界観ともいうべき概念が音楽によって入念に組み立てられている。

 

また、ここには、一貫してストーリ性のようなものが貫かれており、映画のサウンドトラックの影響を感じる、SEのような楽曲もあり、映像シーンのひとこまを音によって印象的に彩るようなロックソングもありと、彼等の多彩な付け焼き刃でない音楽の広範なバックグラウンドが伺えます。

 

ブラック・ハート・プロセッションの曲調というのは、「Tropics of Love」をはじめとして、短調の曲が多く、明るさの感じられる作風ではありませんが、ここで展開されている癖になるリズムと、女性のバックコーラスの味わいは、独特な渋みが見いだせる。

 

名曲「The One who has Disappeared」では、古いトラッドなアメリカンフォーク、ジョニー・キャッシュを彷彿とさせる楽曲もあり、それほど知られていないバンドが、こういった良質な曲をさらりと書いてしまうあたり、アメリカの音楽文化の奥行き、ロックと言う音楽の幅広さ、深みのようなものを感じずにはいられません。

 

 

 

Blonde Redhead 

 

「Melody Of Certain Damaged Lemons」2000 

 

  

 

イタリア人兄弟、日本人移民カズ・マキノによって、NYで結成された前衛ロックバンド、ブロンド・レッドヘッド。

音楽性としては、ジャズ、ダンス、そして、古典音楽のエッセンスを織り交ぜ、ロック音楽として昇華しているのが主な特徴といえるでしょう。

彼等の楽曲の雰囲気は一貫してアンニュイで、女性らしからぬ激情性が感じられる辺りが、妖艶な華やかさをこのバンドの全面的な印象に添えています。

紅一点の女性ボーカル、カズ・マキノが、ライオット・ガールのように華やかなフロントマンとして君臨し、実験的、前衛的な不協和音を前面に押し出した音を奏でるという点では、同郷、ソニック・ユースに比するものがあり、彼等三人の音楽というのはメロディに重きを置いているのが特色。

 

通算五作目となるアルバム「Melody of Certain Damaged Lemons」は、次作からイギリスの名門「4AD」に移籍する直前の、最もブロンド・レッドヘッドの勢いのある瞬間を捉えた名作で、三人のこの後の音楽の方向性を明瞭に決定づけた作品でもあります。

 

ここに現れ出ているイタリアバロック音楽あたりからの色濃い影響を受けた性質はこの次の「Misery Is A Butterfly」でいよいよ大輪の花を咲かせます。

 

このアルバムは彼等の活動の分岐点ともいえ、最初期からのノーニューヨークを現代に蘇らせたような激しいノイズロック色の強い実験的な音楽、さらに、この後に引き継がれていく古典音楽からの要素が見事に融合しているのが際立った特徴でしょう。

 

ビートルズの「Because」を彷彿とさせる「Loved Despite of Great Faults」、古典音楽の影響を色濃く感じさせる「For the Dameged」。またその続曲「For The Damaged Coda」あたりに、カズ・マキノしか紡ぎ出しえない特異な詩情、男性のダンディズムと対極にある女性の”レディズム”ともいえる概念が引き出され、音楽史上において異質な輝きを放っています。 

 

さらには、初期からのバンドの前衛性を引き継いだ「Mother」の激烈なクールさというのもニューヨークのバンドならではといえます。

 

また、近年のこのバンドの主な音楽性を形作っているダンス・ミュージック色の強い名曲「This is Not」。このファッショナブルな雰囲気のあるポップソングというのも聴き逃がせません。  

 


 

 

TV On The Radio 

 

「Desperate Youth, Blood Thirsty Babes」2004 

 

 

その後、世界的な活躍を見せるようになるニューヨーク、ブルックリンの四人組バンド、TV on The Radioの鮮烈なデビュー作。

 

このバンドの音楽性の特徴というのは、ブラック・ミュージックをドリーム・ポップ的な雰囲気を交え、クールに解釈した辺りがみずみずしい輝きを放っています。 

 

彼等の音楽は、ヒップホップとまではいわないまでも、近現代のソウルミュージックの奥深い音楽性をしっかりと受け継ぎ、現代的なポップ、ロックという形で表現。ブラック・ミュージック性を誇り高く打ち出して、ロックを新しい時代に推し進めた先駆的存在です。

 

このアルバムでは、実験的な音楽を奏でていますが、ここには、ダンスミュージックとして聴いても秀逸な魅力が感じられ、ボーカルのトゥンデ・アデビンペのボーカルスタイルの純粋なクールさというのも際立っています。

 

このアルバム二曲目に収録されている「Staring at the Sun」は、インディーロック史に語り継がれるべき名曲といえ、二千十年代になってMyspaceで愛好家の間で話題を呼んでいた楽曲。

 

シンセサイザーのベース的なフレージング、サンプラーのビート、ギターカッティング、また、このボーカルスタイルの洗練された革新性の空気が漂う。そして、このスタジオアルバム全体には都会的なスタイリッシュな雰囲気も漂い、そこが新鮮かつクールに感じられるはず。

 




Brainiac 

 

「Electro Shock for President」1997

 

  

 

後、ダフト・パンクの築き上げたなSci-fiロックともいうべき、革新的なジャンルを打ち立てて見せたブレイニアック。

 

 タッチアンドゴーのポストロック色の強いリリースからするとかなり異端的存在といえるでしょう。

 

このアルバムは、EP「Internationale」に比べ、より主体となる音楽性が明瞭となり、この後の方向性であるギターサウンドを前面に打ち出していき、音楽としてのSF色をさらに強めていくようになるブレイニアックの作風の契機ともなった重要な作品です。

 

翌年の名作「Hissing Pigs in static Couture」に比べ、ダンスフロアで鳴らされることを想定したような趣のあるクラブミュージックよりの音楽。

 

一曲目からUKのプライマル・スクリームの傑作、「Kill All Hippies」を彷彿とさせるエレクトロの楽曲からしてクールとしかいいようがなく、アメリカのバンドとして異質な雰囲気が滲んでおり、アメリカのクラブシーンというよりかは、UKのロンドンやブリストルのダンスフロアシーンに対しての反応、それをアメリカらしい多様性によって独特にアレンジしたような楽曲です。

 

「Flash Ram」に代表されるヴォコーダーを活用したクラフト・ヴェルクのドイツの電子音楽に対する現代的回答もあり、このあたりがブレイニアックのクラブミュージックに対する深い造詣が伺える。

 

「Fashion 500」 「The Turnover」では、グリッチに対する接近も見られ、一辺倒にも思える作品全体に非常に異質な、通好みにはたまらない雰囲気を醸し出すことに成功しています。 

また、「Mr.Fingers」で繰り広げられるような荒々しいプリミティヴなガレージロック風味のあるブレイクビーツスタイルも、新しいジャンルを確立したといっても過言ではないはずです。 

 

ここには、クラブミュージックとロックンロールを融合、それをさらに、未来に進化させたSci-fiロックの究極型がダフト・パンクとは異なるアプローチによって見事に展開されています。  

 


 

 

YEAH YEAH YEAHS

 

 「Yeah Yeah Yeahs」 2002

 

   

 

数々のミュージックアウォードの受賞実績を誇り、名実ともにタッチアンドゴー出身のバンドとしては一番の出世頭ともいえるヤー・ヤー・ヤーズ。 

 

00年代からのガレージロックリバイバルのシーンの流れにおいて見過ごすことのできない最重要アーティストといえ、ストロークス、ホワイト・ストライプスの系譜にあるスタイリッシュなガレージロックバンド。

 

このデビューEPは、ヤー・ヤー・ヤーズのフレッシュな初期衝動が発揮された名作、彼等のその後の洗練された作品とまた異なるプリミティブな魅力がたっぷり味わいつくせるはず。 

 

このロックバンドのとくに目を惹く特徴は、ライオット・ガールとしてフロントマンに君臨するカレン・Oのキュートな華やかさ、そして、ボーカリストとしての比類なき力強さにあるでしょう。 

 

一曲目の「Bang」からして、フルテンの直アンから出力したような轟音ギターサウンド。往年のガレージロックバンド、The Sonicsを彷彿とさせるような、荒々しくプリミティブなド直球のストレートなロックンロール。

 

また、ここには、スリーピースバンドとしての音のバランスの良さ、そして、ベルヴェット・アンダーグラウンドやストゥージズから引き継がれるクールでスタイリッシュな音楽性を引き継いで、それがダンサンブルな掴みやすい楽曲として昇華されている。 

 

四曲目収録の「Miles Away」は、往年のNYロックンロールの真髄を知る者にこそ生み出しうるヒットナンバー。「Art Star」は、カレン・Oがスクリーモに果敢に挑戦しているのも聞き所。

 

アルバム全体の雰囲気には、その後の彼等の華々しい活躍と成功が想像でき、そして、また、その後の完成形の萌芽といえる荒削りな音楽フリーク的な彼等の趣向を見いだせる。全編通して妥協なしの十三分。再生を始めると、嵐のようにヒットチューンが目の前をすまじい早さで通り過ぎていく。

 

 

 

 

Dirty Three 

 

「Whatever You Love,You Are」2000 

 

  

 

この名盤紹介において最後に挙げておきたいのは、オーストラリア出身の三人衆、ダーティー・スリーです。

 

タッチ・アンド・ゴー・レコードの四十年というリリースにおいて、レーベルの芸術的な性格を最も特色づけているアーティスト。

 

ギター、弦楽器、ドラムというトリオ編成で、弦楽器をジャズフュージョンのようにバンド編成中に取り入れた硬派で前衛派の音楽グループ。他のポスト・ロックバンドに比べ、彼等の音楽性の特異なのは、ドラムやギターが脇役であり、弦楽器のハーモニーが主役とはっきり主張している。

 

この後、スコットランドのモグワイ、カナダのゴッド・スピード・ユー・ブラック・エンペラーがロック音楽に弦楽器を本格的な導入を試みて成功し、弦楽奏者をバンド内で演奏させるスタイルが今日においては自然な形として確立された感があります。

 

レビュー誌などでは上記のバンドが先駆者としてよく挙げられますけれども、知るかぎりにおいて、世界で一番最初に弦楽合奏をロック音楽として取り入れたのは、間違いなくこのオーストラリアの前衛派のバンド、ダーティー・スリーでした。

 

今作「Whatever You Love,You Are」は、通算二作目となるスタジオ・アルバム。デビュー作「Ocean Songs」に比べ、弦楽のハーモニクスの美麗さが際立ち、楽曲の良さと魅力が分かりやすく引き出されたという理由で、彼等の名作に挙げておきたい。

 

特にこのアルバムの特異なのは、バイオリンのピチカート奏法の多用を、はじめてロック音楽として取り入れている点。なおかつ、その音楽性というのも、ジプシーが流浪のはての街頭で奏でるような哀愁あるバイオリンのパッセージ、そして、その心細さを支えているのが、ギターのシンプルで飾り気のない質素なアルペジオ、さらに、ドラムのジャズ的なフレージング。これらが組み合うことにより、このバンドの音楽の全体的な音の厚みを形成しています。 

 

このスタジオアルバム「Whatever You Love,You Are」の表向きの楽曲の印象というのは、先にも言ったように、ロック音楽を聴いているというよりか、どこか、異国の街角をあてどなく歩いている際に、ふと、ジプシー民族のリアリティのある流しの演奏が耳にスッと飛び込んでくるような異国情緒があって、そのあたりにはかなげで、淡い哀愁が漂っているように思えます。

 

ときに、それは、完成された楽曲というより、即興音楽のような雰囲気を持って心にグッと迫ってくるはず。 

 

上品で洗練されたバイオリンを中心とした楽曲の世界は徹底して抑えの効いた雰囲気によって統一され、最初から最後のトラックまで、丹念に音の世界がゆったりと綿密に構成されていく。 

 

そして、このアルバム中、タッチ・アンド・ゴーの四十年という歴史で最も秀逸な楽曲のひとつ、最終トラックにエピローグのような形で有終の美を飾っている「Lullabye for Christie」。 

 

このポスト・ロック屈指の名曲は、全面的な奥行きのある音響世界が、上質で淡い弦楽器のハーモニクスを中心としてミニマルな楽節の構成によって綿密に紡がれる。アンビエントという概念が、今日のミュージックシーンにおいて安売りされすぎている感があるため、ここでは、彼等のクラシック色あふれる良質な楽曲を、そういうふうに呼ぶのを固く禁じておきたい。


最後にひとつ、このダーティー・スリーの名盤を聴かずして、タッチ・アンド・ゴーを素通りすることは出来かねると言っておきます。



 

 

・Touch And Go Records Official Site


http://www.tgrec.com/


スケート文化とポップパンク 



現在スケートボード自体は若者に根強い人気のある普遍的なストリートスポーツとして挙げられる。 

 

それは、フットボールと同じように、どのような地域であれチャレンジが出来、それは生育環境とは全然関係なく広い門戸が開かれているからである。サッカーを例として見るなら、アフリカの貧困地域でもフットボールが普及したのは、ボール一つ、そして、空き地、ある程度の人数さえ確保できればその競技が成立する、つまり、成立条件の少なさによる。


同じように、ストリートボードというスポーツも、ボードさえ手に入れば、どこでもプレイできるという面で、他のスポーツ競技よりはるかに始める際のハードルは低い。

 

もちろん、その後に、プロフェッショナルなエアーをクールに決めるためには、並々ならない鍛錬が必要だろうが、ボードをはじめる際には他のスポーツよりも気楽に取り組めるというメリットがある。

 

そして、このスケートというスポーツと、パンク・ロックという音楽は、非常に密接な関係を保持していた。

 

 米国の西海岸においては、ほとんどパンクというのはスケートボードと切っても切り離せないような存在であった。元々はハードコア・パンクの一角を形成していたのも、実は、リアルなスケートボーダーだったというのも事実である。



 

そういった意味において、ストリートボードとパンクロックというジャンルは、ストリートという一部の領域において、密接に関わりを持ちながら、若者向けの巨大カルチャーとして発展していった経緯がある。スケーター・パンク、ポップ・パンクというジャンルの発祥は、八十年代の終わりのアメリカの西海岸、北カルフォルニアに求められる。特にオレンジカウンティというロサンゼルスを南下したサンフランシスコからほど近い地域を中心として、徐々に発展していった若者向けのカルチャーであり、九十年代に最も隆盛をきわめた。当初、マニア向けの存在でしかなかった、Sucidal Tendencies、Fifteen、Descendents、といったパンク・ロックバンドがヘンリー・ロリンズ擁するブラック・フラッグが米国内のインディーズシーンを賑わせた後、このカルフォルニアの地域に台頭、スケーター・パンクの流行を後押しした。



 

それから、Sucidal Tendencies,Fifteen、Descendentsに続いて、Minor Threatのギタリストとして知られるブライアン・ベイカー(アメリカで有名なテレビマンを父親に持つ)が結成した”Bad Religion”が台頭する。

 

その後、”Fat Wreck Records”を主宰し、パンクシーンに大きな影響力を持つ”NOFX”というクールなロックバンドが、八十年代後半から九十年代にかけてシーンを活性化、米国全土にとどまらず、海外にもそのムーブメントを波及させていった。

 

さらに、スケーターパンク/ポップパンクの集大成をなすべく、グリーン・デイ、オフスプリング、ニュー・ファウンド・グローリー、Sum41といったロックバンドがアメリカビルボード・チャートで健闘し、その後のポップ・パンク、エモコア・ムーブメントの基盤を着実に築き上げていく。



 

そもそも、このスケーターパンクという音楽には、古くのサーフ・ロックに一定の共通項が見いだされる。 

 

それは、古くのビーチ・ボーイズやヴェンチャーズを始めとするサーフロックというのも、サーフィンを趣味とするミュージシャンが、そのスポーツから導きだされるイメージを、音楽として表現してみせたように、このスケーター・パンクも、スケートボードを趣味とする若者が音楽という表現にのめり込んだがゆえに生み出された音楽なのだ。

 

そのムーブメントが流行した年代というのは、実に、三十年ほどの隔たりがある。しかし、痛快で、キャッチーで、スポーティーな音楽を奏でるという側面で、相通じるものがあるはず。もちろん、その発祥地域というのも、カルフォルニアという同地域を中心として発展していったのもあながち偶然とはいえない。これは、東海岸の音楽文化とは異なる西海岸の独特なカルチャーの一つ、というように言えるかもしれない。



 


 

 

 ポップパンクの名盤

 

 

1.GREEN DAY  「Dookie」


 

 

 

既に、アルバムレビューでも最初の方に取り上げた作品ではあるものの、スケーターパンク、そしてポップ・パンクムーブメントを語る上では、まずこの世界的にメガヒットを記録した傑作を度外視することは出来ない。

 

スケーターパンクの要素及び魅力は、このアルバムの中にすべて詰まっていると言っても誇張にはならないはず、瑞々しさ、青臭さ、そして、疾走感、全て三拍子揃った素晴らしい永久不変の名盤。およそこのジャンルを知るためには、このアルバムが一番聴きやすく、音楽性が掴みやすいだろうと思う。

 

「Burnout」「Basket Case」「She」といった楽曲は、2020年代でもまだ当時の光輝を失っていない。全曲、ほとんどが2,3分のヒット・チューンが矢継ぎ早に通り過ぎていき、あっという間に聴き終えてしまうことだろう。おそらく、現代のスケーターにも共感を誘うであろう、ヤンチャでいて、若々しくフレシュな音楽性が、このアルバム、ひいては、グリーン・デイの最大の魅力だ。

 

この後、グリーン・デイは、世界的なロックバンドとして認知されるようになり、政治的なメッセージを込めた作品もリリースするようになる。しかし、この作品ではアルバム・ジャケット以外は、そういったニュアンスはさほどなく、口当たりの良い作品となっている。初期のスケーター・パンクとしての特長、そして、後のポップ・パンクとしての中間点に存在する実に痛快な一作。 

 

 



 

        



2.NOFX  「Punk In Drublic」 

 

 

 

 

いわゆるスケーターパンクというジャンル概念を、他のスイサイダル・テンデンシーズ、D.O.Aとロックバンドともに広めた功績のあるバンドがNOFXだ。 Tシャツ、短パン、そして、ド派手な髪の色(金髪、ピンク髪、青髪etc.)というスタイルは、スケーターファッションの王道を行くもの、これは、デビューから何十年経っても変わらない、彼等のお約束のスタイルでもある。

 

これまでずっと、NOFXがどれだけワールドワイドになっても、肩肘をはらないスタンスを取り、フレンドリーな姿勢を示して来た。それは、彼等四人が多くの若者の兄貴分のような存在であるから。NOFXがフランクな姿勢を取っているのはブラフであり時折、痛快なインテリジェンス性を垣間見せる。ブッシュJr,政権時代から、「War in errorism」といった作品を通して、政治的でシニカルなメッセージを込めることも厭わない。 

 

このアルバム「Punk in Drublic」は、そういった思想的な面は抜きにして、ポップパンクのみずみずしさが充分に味わえる作品である。

 

もちろん、今作は、彼等の代表作として知られていて、全体に展開される目くるめくスピードチューン、16ビートの典型的なリズム、そして、メロディアスなロック性というのは、スケーターパンクの基礎を形作った。本作の良さというのは、1stトラックの「Linoleum」に集約されていると、いっても過言ではない。この痛快なスピードチューンこそ、スケートパンク/ポップ・パンクの醍醐味。なんというみずみずしい青春!! ここには、甘酸っぱいパンクロックの輝きが惜しみなく詰めこまれている。 

 

 



 

 

 

3.Descendens「Milo Goes to College」1982

 

 

 

 

スケーターがよく聴くパンク・ロックとしてよく挙げられるディセンデンツ!! 痛快なキャッチーさを持つ親しみやすいパンクロックバンド。もちろん、パンク・ロック史からみても最重要なバンドで、Black Flag、Germs、Circle Jerks、X、といったバンドと共に、80年代のUSパンク/ハードコアの礎を築き上げたにとどまらず、カルフォルニア、オレンジカウンティのカルチャーに大きな貢献を果たした。彼等は、NOFXと同じくスケーターファッションを表立ったイメージとしている。

 

 

この作品は、例えば、かつて日本のレコードショップ、ディスクユニオンで、配布していたフリーペーパーのUSパンクの名盤カタログに何度も登場してきた作品である。現在、残念ながら廃盤となっているものの、USパンクを聴き込んでいく上で、この作品を避けることは出来ない。

 

ディセンデンツは、常に、アルバム・ジャケットにおいて、シンプソンズのようなユニークな人物キャラクターをモチーフとして使用し、これまでその姿勢を貫いている。角刈りのメガネをかけたユニークな存在は、ディセンデンツのアイコンのようなものだ。

 

しかし、決して、アルバム・ジャケットの愛らしいイメージに騙されてはいけない。このキュートな対象的に、実際に奏でられる音楽のスタイルは、爽快さすら感じられる男気あるド直球パンクロック。そこには、夾雑物は混ざっていない。ここにあるのは情熱だけ、ひたすらやりたい音を素直に奏でている衝動性。これこそディセンデンツの音の最大の魅力なのだ。

 

今作「Milo Goes to College」は、ハードコア・パンクに近いアプローチを図っており、USハードコアの素地をなしている名作。

 

この音楽のスタイルは、ブラック・フラッグとともに、この後の90年代のカルフォルニアの音楽文化に多大な影響を与えたはず。カルフォルニアの太陽、澄んだ青い空、そして、スケートカルチャーが生んだ、痛快でシンプルなハードコア・パンクだ。 

 

 



 

 

 

4.All 「Allroy's Revenge」


   

 

 

ディセンデンツと盟友関係にある、ALL。

 

このロックバンドの特長は、スケーター・パンクのコアな概念からは程遠いように思えるが、ポップ・パンクバンドとしては欠かすことの出来ない。そして、上記に挙げたパンクバンドに比べ、スタンダードなヘヴィ・メタルやハード・ロックよりのアプローチが感じられるバンドでもある。 

 

そして、この後の90年代のスケーター及びポップパンクに代表されるバンドの力強い音楽性の中に、甘酸っぱい、パワーポップにも似た要素が滲んでいるのは、このバンドの影響によると思われる。

 

このALLというバンドは、他のスケーター、ポップ・パンクとして聴くと、少し物足りないようなイメージを抱くかもしれないが、ポップセンスというのは一級品、しかも恋愛に絡んだラブソングを書かせると右に出る存在は皆無である。

 

今作「Allroy's Revenge」は彼等の通算三作目となる作品。このアルバムに収録されている「She's My EX」そして「Mary」という楽曲は、アメリカンパワーポップの隠れた名品。 

 

ここで表現される甘酸っぱい楽曲は、若い頃に聴いてこそ真価が感じられる楽曲といえるだろう。ちょっと青臭い感じもあるけれど、それが滅茶苦茶良い味を出している。

 

ALLの楽曲性は、九十年代に流行したポップ・パンクバンド、Sugarcult,Mest,Blink182あたりに引き継がれていった。ポップ・パンクの基礎を築いた重要なバンドとして挙げておきたい。 

 

 



 

 

 

5.Bad Religion 「Gray Race」1996


 

 

 

ロックバンドをはじめるまでは、ストリート・ボーダーであったイアン・マッケイ擁するマイナー・スレットの解散後、ギタリスト、ブライアン・ベイカーが新結成したバンドがバッド・レリジョンだ。1980年から現在に至るまでメンバーの入れ替えを行いながら、タフな活動を続けている歴史あるロサンゼルスのパンク・ロックバンドである。

 

バッド・レリジョンは、とにかく、アメリカン・ハードコア、ポップ・パンクの重要な下地を作った最初のバンドとして挙げておきたい。彼等の音楽は、硬派であり、気骨に溢れ、そして、パンク・ロックバンドとしての重要な役割である痛烈なメッセージを持つ。

 

つまり、アメリカという国土に内在する人種、宗教、政治問題にとどまらず、アメリカ文化全体への提言まで及ぶ。

 

音楽性としては、アップテンポとまではいえないが、ノリのよい疾走感あふれる軽快なナンバーが多く、それほど捻りはなく、スタンダートなロックンロールの色合いの強いパンクロックである。

 

彼等の名作としては、その活動期が四十年という長期に及ぶため、どれを選ぶかは決めがたい。 

 

ライブパフォーマンスでのシンガロング性こそバッド・レリジョンというロックバンドの真の醍醐味であり、スタジオ・アルバムと全然楽曲の雰囲気が違うので、是非、ライブ版を一度聴いてほしい。

 

彼等の名作アルバムとしては、「The Gray Race」を挙げておきたい。 

 

ここで展開されるパワフルな音楽性、強いメーセージ性あふれる歌詞にはバッド・レリジョンの本質が垣間見れる。もちろん、この中の「Punk Rock Song」こそ彼等の代表的な一曲である。

 

もちろん、このスタジオアルバムの楽曲の他、バッド・レリジョンには、”American Jesus”,”Opereation Rescure”といった、パンク史に燦然と輝く名曲があることを忘れてはいけない。これらの楽曲は「Recipe For Hate」1993、「Against The Grain」1990で聴く事ができる。 

 

 



 

 

・番外編 

 

ドキュメンタリー・フィルム「Fuck Your Heroes」関連のパンクロック・バンド

 

 

上掲したスケーター/ポップパンクバンドと名盤の他に、リアルなスケートボード文化とパンクロックの関わりをフォトとして追った伝説的な作品がある。それが「Fuck Your Heroes」という写真集である。

 

ここには、八十年代のカルフォルニアの中心とするパンク・ロックシーンがスケートボードと関連して、どんなふうに築き上げられていったのか。リアルな写真として撮影されている。



 

 

もちろん、「Fuck Your Heroes」という過激な表題に示されている通り、必ずしも上品な概念でないかもしれない。しかし、ここには、表向きのスケート文化でなく、その背後にある生々しいストリートの文化、そして、このスポーツと深い関連を持つハードコア・パンクの熱狂性がフォトグラフィーとして生々しく描かれている。そして、スケートカルチャーと、パンク・ロックという音楽が、常に連動しながら、アメリカ全土でカルチャーとして認められるように至った事実を再確認するための重要な歴史的資料。


そのあたりのリアルなストリートボードと密接な関わりのあるパンク・ロックバンドを、最後に簡単に紹介し、この記事を終えたいと思います。



 

 

 

1.Minor Threat 「First Demo Tape」 

 

 

 

このバンドの中心人物、イアン・マッケイは、まだ、ティーンネイジャーだった頃、どちらかといえば、外交的な青年とはいえなかった。

 

ところが、彼がスケートボートをはじめた瞬間から、彼の人生の意味は、まったく別の意義を持ち始め、見果てぬほどの大きな輝かしい世界が開けてきた。よもや、スケートボードを始めたときには、自分の主宰するレーベルを持つに至るなんていう考えもなかった。

 

そして、イアン・マッケイという人物の一種の自己表現の延長線上に存在したのが、このアメリカの伝説的なハードコア・パンクバンドMinor Threatである。このワシントンDCで結成されたマイナー・スレットは、三、四年の活動期間の短さにもかかわらず、後進のアメリカのインディー文化に与えた影響力というのは、すさまじいものがある。

 

四人組の年若い、二十歳にも満たない青年たちが始めたハードコア・パンクは、徐々に八十年代を通し、ワシントン州やニューヨーク州、あるいはLAを中心に大きなインディカルチャーとして発展していき、九十年代になってメインストリームで大きく花開いたといえる。



 


彼等マイナースレットのベスト盤的な意味合いでは、「First Two Seven Inches」は絶対に聴いてみてほしいと思う。このアルバムの最初の曲「Filer」で繰り広げられる痛烈な歌詞こそ、このハードコア・パンクのヒップホップにも似た魅力が潜んでいる。

 

もう一つ、おすすめしたいのが、このEP作品は彼等のデモテープを収めた作品。これは、ベスト・アルバムではない。しかし、このマイナースレットの魅力を最も理解しやすい一枚だ。 

 

アルバム全体を通し、楽曲が目の前を怒涛の嵐のごとく通り過ぎていく。言いたいことだけを核として吐きつけて歌う痛快なスタイルは、のちのラップのライムに比する雰囲気も感じられる。

 

アメリカのスケートをはじめとするインディーカルチャーを語る上でも重要な意味合いを持っている。後の世代のパンク、インディーカルチャーに与えた影響は計り知れない。。



 

 

 



 

 

2.Bad Brains「Banned in D.C」


 

 

 

アメリカで一番早く、黒人のみで結成されたバンド、それがLAのバッド・ブレインズである。 

 

その音楽性の中には、他の並み居るパンク・ロックバンドには真似できない独特な節回しというのがあり、しかも甲高い可笑しみのあるボーカルがライムのように矢継ぎ早に繰り出される。怒涛のスピードチューン、ほかのバンドにはない煌めきを現在も放ち続けている。

 

前のめりなビート、目くるめく早さのスピードチューンというのもバッド・ブレインズの最大の魅力といえるが、その他、このバンドサウンドな背景にはレゲエ・スカ音楽の影響が大きいという面で、アメリカのインディーシーンでは現在でも異彩を放っている。          

 

バッド・ブレインズの名盤としては、彼等の鮮烈なデビュー作「Banned in D.C」しか考えられない。

 

 ここでは、「Banned In D.C」「Supertouch/Shitfit」での、前にガンガンつんのめるハードコアの魅力もさることながら、「Jah Calling」での、レゲエ・スカ、ダブ風の落ち着いた楽曲がアルバムの印象にバリエーションを持たせている。激烈さもあり、渋さもあるという面で、クラッシュの「ロンドン・コーリング」のように、聴き込むたびに良さが出てくる作品だ。

 

もちろん、自身の中にある黒人のルーツを誇らしく掲げるのが、バッド・ブレインズである。

 

彼等のようなクールな存在は他に見当たらない。時代に先んじて、ロック/パンクをブラック・ミュージックとしていち早く融合してみせた四人衆。彼等は、他のNYのRUN DMCよりも早く、アメリカで、音楽としての表現を見出そうとした歴史的なロックバンドである。

 

 



 

 

3.Suicidal Tendencies 「Sucidal Tendencies」

 

 

 

リアルなストリートボーダーがパンク・ロックを奏でたらどうなるのかという実例を示して見せたバンドがスイサイダル・テンテンシーズ。このバンドは音楽だけではなく、ファッション面においてこれまで重要なリーダーシップを果たしてきたように思える。

 

音楽性としては、盟友D.O.Aと同じように、コールアンドレスポンスを多用したハードコアパンクである。 

 

スイサイダル・テンデンシーズの傑作としてはバンド名を冠した痛快なデビュー作「Suicidal Tendencies」が挙げられる。

 

所謂、スケーターパンクというジャンルを知るのに最適な一枚であるが、音楽的には後のスレイヤーに代表されるスラッシュ・メタルの要素も感じられ、どことなく、ミクスチャー、メタル・コアの先駆けとして見れるバンドかもしれない。いかにも悪辣さや皮肉を込めた音楽性であり、人を選ぶ作品であるのは確かだが、スケーター音楽として、歴史的に重要な意味合いを持つスタジオ・アルバムであることには変わりない。

 

スイサイダル・テンデンシーズの活動後期は、スケーター・パンク色が消え、代わりに、ヘヴィ・メタルへのアプローチを図るようになるが、少なくとも、デビュー作「Sucidal tendencies」は、スケーターとしてのバックグランドがしっかり感じられる貴重な作品の一つ。 

 

 



 

 

 

4.Black Flag「Damaged」

 

 


 

最後に挙げて置きたいのが、このオレンジカウンティのインディーズ・シーンを牽引してきたヘンリー・ロリンズ擁するブラック・フラッグである。 

 

このバンドの中心人物、ボーカリストのヘンリー・ロリンズという人物は、現在のアメリカのインディー界では、最早、重鎮といっても過言でない大御所ミュージシャンとなっている。ニューヨークには、イギー・ポップという伝説的なミュージシャンがいるが、一方、カルフォルニアには、ヘンリー・ロリンズがいる、というわけである。

 

そして、このブラック・フラッグはその名のとおり、アナーキズムを掲げて音楽活動を長きに渡って行ってきたロックバンドである。ちなみにいうと、活動初期には、紅一点の女性がベーシスト、キラ・ロゼラーが参加していた。これはアメリカのパンクハードコア史の中でも、一番早い女性のパンクロッカーのひとりに挙げられる。

 

ブラック・フラッグは、スケーター・パンクという概念からは程遠い存在であるかもしれない。しかし、少なくとも、一般的には、アメリカのポップ・パンク、ハードコアシーンを語る上では、上記のマイナースレートと同等、それ以上に重要視されているバンドだ。

 

ブラック・フラッグの音楽性は、きわめて苛烈である。表面的には、粗野な印象を受けるかもしれないが、ヘンリー・ロリンズの紡ぎ出す表現の思索性、そして、このバンドサウンドの中核をなす、グレッグ・ギンのソリッドなギター。これは、外側においての攻撃性の放出をしようというのでなく、内面に渦巻く暗いもうひとりの自己とのたゆまざる格闘を音楽という領域で試みようとしているのである。えてして、近現代のラッパーは、他者とラップバトルを苛烈に繰り広げてみせるが、ヘンリー・ロリンズの繰り広げるそれは一貫して、内的な”もう一人の自己”とのラップバトルなのである。

 

彼等、ブラック・フラッグの名作としては、幾つか重要な作品がある。活動初期のレア・トラックを集めた「The First Four Years」も捨てがたいが、端的にこのバンドの良さが理解できるオリジナル・アルバムとして、まず、彼等のデビュー作「Damaged」を挙げておきたい。

 

ここで展開されるオレンジカウンティ発祥のバンドと思えない暗鬱な雰囲気がある一方、ユーモラスな質感が込められているのも、このブラック・フラッグの音楽性の特長だ。一見すると、このアルバムジャケットは悪趣味なものにも見える。しかし、ここでは、映し出された鏡の中に映り込むもうひとりの自己、あくまでそれは表立った姿でなく、内面に映し出されたもう一つの自己の姿である。その姿を鏡越しに破壊するという哲学的なメタファーも、このアルバムジャケットにはあらわされているように思える。

 

ブラック・フラッグの楽曲自体は、グレック・ギンの生み出すソリッドなギターのフレーズ、そして、シンガロング性の強いシンプルなロックンロールを主体としながら、ロリンズの激烈なアジテーションが込められたボーカルスタイルが、ボクサーのジャブのように順々に繰り出されていく様は、痛快と言うしかない。そして、その奇妙な攻撃性こそ、ブラックフラッグの最大の魅力であり、これこそまさに”ハードコアの代名詞”ともいえ、誰にも真似しえないヘンリー・ロリンズのお家芸なのである。