Weekly Recommend Lord Huron 「Long Lost」2021

 

Lord Huron

 

ロード・ヒューロンは、Ben Schneiderを中心に2010年に結成され、現在、ロサンゼルスを拠点に活動する四人組インディー・ロックバンドである。

 

このバンドの成り立ちの逸話には面白いエピソードがあり、それは、今から、十一年前に遡らなければならない。

 

なんでも、ロード・ヒューロンの中心人物であるベン・シュナイダーが、LAからミシガン北部に旅行した際に、アメリカの五大湖の一つ、ヒューロン湖において、最初のEP作品「Into The  Sun」の楽曲の着想を得たことからすべては始まったのだという。

 

このヒューロンという湖は、面白い魚が数多く生息している場所であるが、ベン・シュナイダーは、この海の雰囲気に非常によく似た地質形状を持つヒューロン湖の風光明媚な景色に心を打たれて、音楽という形で、心象風景、又は、純粋な感動を、ギターやヴォーカルで表したいと考えたのかもしれない。

 

つまり、このどことなくドラマティックなエピソードから引き出される「ロード・ヒューロン=ヒューロンの神様」というバンド名には重要な意味が込められている。このミシガンの湖の自然の恩恵に対するシュナイダー自身の感謝を表しているのかもしれない。

 

その後、そして、その奇妙な小旅行の後、LAに戻ったベン・シュナイダーは、時を経ずして、デビュー作となった三曲入りEP作品「Into The Sun」のレコーディング作業に入った。この作品は、当時のヒューロン湖でのシュナイダーの数奇な体験をモチーフにした自然を賞賛するような開放感にあふれたデビュー作で、独特な雰囲気を持つインディー/ローファイの名盤といえるはず。

 

そして、また、同年にリリースされた「Mighty」の2つは、信じがたいことに、このベン・シュナイダーが全部の楽器のパートを自身で演奏、録音しているという。それから、ベン・シュナイダーは、その後、古くからの幼馴染だったマーク・バーリーをメンバーとして引き入れた。それから、他の二人のメンバー、ミゲル・ブリセーニョ、トム・レナルドを招き入れ、現在のLord Huronのバンドとしての体制が整えられた。


 

 

ロード・ヒューロンの音楽性自体も、ヒューロン湖で楽曲の着想を得たというエピソードに違わぬもので、ナチュラリストとしての音楽と形容すべきか、ハワイアン、スペインのジプシー音楽、果ては、インドネシアのガムランと、実に多種多様な民族音楽の要素を取り入れつつ、アメリカの古いタイプ、それも、戦後間もない時代のカントリー/フォーク音楽をバンドサウンドの背骨にしている。すべての存在を温かく包み込むような大きさが彼等のサウンドの特長である。

 

もちろん、ロード・ヒューロンの音楽は、古い時代の音楽に主題を取るからといって、アナクロニズムに堕することはない。そこには現代的な電子音楽的なアプローチも多分に施されている。ラップトップのマスタリングを介し、絶妙なノイズのニュアンスを紡ぎ出し、リバーブにより奥行きのある空気感を生み出すことにより、現代的なサウンドアプローチとしての古典カントリー/フォークを、ものの見事に現代のサウンドとして蘇らせることにあっけなく成功している。そして、このバンドの中心人物、ベン・シュナイダーが生み出す楽曲には、さらに昔の時代の音楽への興味、モータウン・レコードのアーティスト、または、ブラック・ミュージックの元祖スター、サム・クックの楽曲に見られるような奇妙なほど強い存在感が宿っているように思える。  

 


そして、新たなインディー・ロックの名盤の誕生の瞬間というように言ってもいいように思えるのが、今週御紹介する、Lord Huronの最新スタジオ・アルバム「Long Lost」である。

 

 

 

「Long Lust」 2021

 


 

 

 

 

1.The Moon Doesn't Mind

2.Mine Forever

3.(One Hellluva Performer)

4.Love Me Like You Used To

5.Meet Me in the City

6.(SIng For Us Tonight)

7.Long Lust

8.Twenty Long Years

9.Drops In The Lake

10.Where Did the Time Go

11.Not Dead Yet

12.(Deep Down Inside Ya)

13.I Lied(with Allison Ponthier)

14.At Sea

15.What Do It Mean

16.Time's Blur



Listen on Apple Music

 

 

 

このアルバムリリースの前から、ロード・ヒューロンは「Not Dead Yet」を皮切りとして、四つのシングル盤をリリースしている。

 

そして、先行の4つのシングルのアルバム・ジャケットを見ても分かる通り、ルネ・マグリットのようなジャケットデザインの雰囲気が、このスタジオ・アルバム「Long Lost」発売以前のシングル盤に見られていたが、このアルバムもそのスタイルを受け継ぎ、ルネ・マグリットのシュールレアリスムの絵画のような印象を受ける、きわめて魅力的なアルバムアートワークである。

しかし、アルバムアートワークからにじみ出る雰囲気とは、実際の音の印象は異なるように思える。それは、いくらかユーモラスな概念によってアートワークの意匠が手がけられているからだ。

 

「Long Lost」と銘打たれたロード・ヒューロンの新作はコンセプト・アルバムのような趣向性を持っているように思える。全体に通じて、リバーブ感の強いサウンドプロダクションによって蠱惑的に彩られている。

 

また、このスタジオ・アルバムの音楽性の中に一貫しているのは、ノスタルジックな音像の世界。そこには、近年、インディー・ロック界隈で盛んなリバイバルの要素がふんだんに取り入れられている。そして、今作もまた、最初期からの音楽性が引き継がれており、大自然の素晴らしさを寿ぐかのような温和な雰囲気が、楽曲全体にはじんわりと漂っている。しかし、ここには、蠱惑的な雰囲気もある。おそらく、聞き手は、このスタジオ・アルバムの音に耳を傾けていると、思わず、その独特な世界、ロード・ヒューロン・ワールドの中にやさしく誘われていくことだろう。

 

そして、ロード・ヒューロンの音楽には、ジョニー・キャッシュのようなダンディズム性の雰囲気は乏しいかもしれないが、反面、戦後のアメリカン・カントリーのレジェンド、レッド・フォーリーのような渋さが込められている。このあたりに、ロード・ヒューロンの強みが有り、あるいは、このバンドのフロントマンのベン・シューナイダーの通好みというか、音楽フリークとしての温かな情感が満ち溢れている。そして、それこそがこのアルバムの最大の魅力でもある。

 

また、音楽性の中にさらに踏み入れてくと、そこにはほとんど無尽蔵といえるほどの多種多様なアプローチが込められていることが理解できる。カントリー/フォークという主だった表情の裏側には、古典的なR&Bの影響もそれとなく伺える。全体のサウンドプロダクションも古い映画の中のサウンドトラックの雰囲気が滲み出ている。このあたりの一歩間違えば、古臭いともいわれかねない音楽を、実に巧みなセンスにより、ギリギリのところで均衡を保っているのが今作の凄さ。つまり、これは、往古と現代の鬩ぎ合いが極まったところにあるエクストリームなインディー音楽といえる。

 

特に、楽曲の合間には、昔のラジオから聞こえてくるようなノスタルジックなBGM(観客の拍手、あるいはラジオパーソナリティーの語り)が積極的に取り入れているのも、往年のカントリーやフォークへの深い憧憬が感じられる。そして、実際の音楽性というのも、かつてのヒップホップがそうだったように、既にあった音のフレーズを新たにデザインし直すアプローチが採られている。

 

この音楽は、けして新しくはない。しかし、新奇さばかりを追い求めることが、必ずしも有益ではないことを、ロード・ヒューロンの新作スタジオ・アルバムは教えてくれている。古いものの良い要素を未来に引き継ぐ伝統性、アメリカの古い音楽に対する深い矜持が、彼等、ロード・ヒューロンの音には徹底して貫かれる。それはアルバムを通して失われることがない醍醐味である。

 

とりわけ、このバンドの音の感性の良さというのは、#7「Long Lust」#8「Twenty Long Years」#15「What Do It Mean」#13「I Lied(with Allison Ponthier)」を聴いてもらえれば、十分理解しただけるはず。

 

また、#11「Not Dead Yet」では、エルヴィス・プレスリー5.60年代の原初的なロックンロールに、つまり、”踊り”のためのロックに、ロード・ヒューロンは回帰を果たしている。言い換えれば、これは、近年のロックに失われていた重要な魅力「Long Lost」を、彼等は再発見しようと試みているのだ。そして、このカントリー/フォーク、又は、ロックンロールの偉大な名曲は、「20年代を代表するインディー・ミュージックの名曲」と称しても差し支えないはずである。

 

ベン・シュナイダー、ひいては、ロード・ヒューロンが、とことん、良い音楽だけを追求しつくした十一年の成果が、このスタジオ・アルバムに表れているように思える。それは音というよりも、強固な概念に近いように思える。

 

そして、また、ベン・シュナイダーの最初の音楽をはじめる契機になった重要な原体験、ミシガン北部のヒューロン湖での神秘的な体験からもたらされる霊感が、今作にもしっかりと引き継がれているように思える。

 

果たして、十年前、ミシガンのヒューロン湖で、彼は、何を見、何を感じたのだろう? それは、なんらかのお告げのようなものだったのか?? その応えは、今作に表されているので、実際の音を聴いてみて頂きたいところです。とにかく、このスタジオ・アルバム「Long Lost」には、時代を問わない、音楽の本来の魅力が詰まってます。誇張なしの大傑作としてオススメします。

 

 

参考サイト

 

last.fm  Lord Huron https://www.last.fm/music/Lord+Huron