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 サウスロンドンのシンガー、Matt Malteseは昨年、インディペンデントレーベルを立ち上げたばかりである。


その出発点として、ポートランドのシンガーソングライター、Searows(アレック・ダッカート)のシングル「Older」をリリースした。続いて、マット・マルテーゼはアレック・ダッカートと組み、ニール・ヤングの「Philadelphia」のカバーに取組んでいる。古典的なフォークミュージックとメロウなマルテーゼのソウル、フォークに対する愛着が見事なカバーソングとして昇華されている。両ミュージシャンによる息の取れた美麗なデュエットは人を酔わせる力がある。

 

 

「Philadelphia」-Best New Tracks

 

 

Matt Malteseは、3月8日にカバーを中心に構成されるニューアルバム『Songs That Aren't Mine』のリリースを発表した。アルバムはNettwerkから発売予定。収録曲は現時点で非公開。

 

シックスペンス・ノーン・ザ・リッチャーの曲で有名な「Kiss Me」は、アルバムのファースト・シングルで、本作には、様々な音楽のインスピレーションを受けた曲が収録されている。

 

昨年、マット・マルテーゼは、バロックポップ風のノスタルジアを込めたアルバム『Driving Just To Drive』 をリリースした。


 

Matt Maltese 『Songs That Aren't Mine』


 

マット・マルテーゼの新しい解釈は、2月13日にリーズで幕を開け、14カ国を回る、これまでで最大規模の2024年春のワールド・ツアーと時を同じくしている。

 

このツアーには、ロンドンのブリクストン・エレクトリックとロサンゼルスのウィルターンでのソールドアウト・ヘッドライン・ライヴや、ボナルー、ロック・ウェルチター、ヴィダ・フェストなどのフェスティバルでのパフォーマンスも含まれる。

 

アルバムの概要についてマルテーゼは次のように述べている。

 

「”Songs That Aren't Mine”は、子供の頃から好きだった曲ばかりを集めたアルバムで、昨年友人たちと自宅でレコーディングした。去年の夏の初めに、初めて一緒に仕事をしたプロデューサー、アレックス・ビュレーと再会して、他人の曲のヴァージョンを作って遊び始めたんだ。それは、アルバム制作のサイクルからの逃避のようなものだった」

 

「Kiss Me」


def.fo(トム・パウエルによるプロジェクト)が本日ニューシングル「Autumn Leaves」を発表した。ラップ、ファンク、R&B,ポップスをクロスオーバーするプロジェクトによる「Godly」に続く最新シングル。ベル・アンド・セバスチャンのクリス・ゲッデスが鍵盤で参加しているのに注目。


前作のシングル「Godly」とは異なり、def.foが柔らかなギターポップへとドラスティックな転換を図ったニューシングル。今週のベスト・トラックとしてご紹介します。



「Autumn Leaves」は、ソウルフルで爽やかなポップ・フォークの傑作である。この曲は、作り手にも聴き手にも安らぎと安心感を与えてくれる。太陽に照らされた霜のように輝き、内省的な歌詞が暖かな希望の毛布を織りなしているように、私たちはどのような逆境を乗り越えられ、どんなに暗い時でも明るい日がやってくることを教え諭してくれる。朗らかな春は必ずやってくる。さあ、刻々と変化する人生の季節を心を込めて振り返る素晴らしい旅に出てみよう!!



この曲では、トム・パウエル(マイケル・ヘッド・アンド・ザ・レッド・エラスティック・バンド)がヴォーカル、ギター、ベースを担当。彼の隣には、尊敬するミュージシャン、フィル・マーフィー(マイケル・ヘッド・アンド・ザ・レッド・エラスティック・バンド、ビル・ライダー・ジョーンズ)のドラム、クリス・ゲッデス(ベル・アンド・セバスチャン)の鍵盤が並び、全員が曲のダイナミックな深みに貢献している。



プロダクションは、トム・パウエルとスティーヴ・パウエル(ザ・ストランズ、ジョン・パワー、ザ・ステアーズ)のシームレスなコラボレーションで、情緒的で安心感のあるサウンドスケープを実現している。ミックスはロイ・マーチャント(オマー、M.I.A.、イグザンプル)が担当し、マスタリング/エンジニアのハウィー・ワインバーグ(ジェフ・バックリー、PJハーヴェイ、シェリル・クロウ)が魔法のようなタッチで仕上げている。

 

 ニューシングル『Autumn Leaves」は2023年12月1日により発売。def.foのニューアルバム『Eternity』の最終シングルである。新作アルバムのプリオーダーはこちら

 

 

def.fo (a project by Tom Powell) announces its new single "Autumn Leaves". This is the latest single from the artist who crosses over rap, funk, and pop music, following "Godly".

Autumn Leaves" is a soulful, breezy pop-folk masterpiece. Carefully crafted, the song offers comfort and reassurance to both the creator and the listener. Glistening like frost in the sun, the introspective lyrics weave a warm blanket of hope, reminding us that adversity can be overcome and that even in the darkest of times, brighter days will surely come. Spring will always come. Let us embark on a journey to reflect wholeheartedly on the ever-changing seasons of life.

Tom Powell (Michael Head and the Red Elastic Band) provides vocals, guitar, and bass on this song. Alongside him are respected musicians Phil Murphy (Michael Head and the Red Elastic Band, Bill Ryder Jones) on drums and Chris Geddes (Belle and Sebastian) on keys, all contributing to the song's dynamic depth.

Production is a seamless collaboration between Tom Powell and Steve Powell (The Strands, John Power, The Stairs), resulting in an emotional and reassuring soundscape. Mixed by Roy Merchant (Omar, M.I.A., Ixample), mastering engineer Howie Weinberg (Jeff Buckley, PJ Harvey, Sheryl Crow) adds his magical touch.

The new single "Autumn Leaves" is released by December 1, 2023 and is the final single from def.fo's EP "Eternity". Pre-order the album here.




 「Autumn Leaves」

 


グラミー賞の主要部門にノミネートされたboygenius(ボーイ・ジーニアス)が、アイルランドのフォークデュオ、Ye Vagabons(イェ・バガボンズ)と組み、故シネイド・オコナーがレコーディングしたアイルランドとスコットランドの伝統的な曲「The Parting Glass」を演奏した。


この曲の全収益は、ダブリンの恵まれない子供たちや若者たちのために活動するエイスリング・プロジェクトに寄付されるという。アイスリング・プロジェクトは、5つの異なる場所で150人以上の若者に温かい夕食と放課後のサポートを提供し、彼らが歓迎され、安全で、大切にされていると感じられる環境で、様々な活動に参加できるようにしている。


「boygeniusがこのリリースの収益をエイスリング・プロジェクトに寄付することを選んでくれて、本当に感激しています。シネイド・オコナーへの驚くほど美しいオマージュに関わることができるのは絶対的な特権であり、ボーイ・ジニアスに感謝してもしきれません」


 

©Chris Phelps

米国のカントリー・シンガー、Margo Priceは、再構成アルバムである『Strays II』から3曲のシングルを同時公開した。先日、「Malibu」が最初のシングルとして先行公開されている。

 

カントリー・シンガーのマーゴ・プライスは、このアルバムを3回に分けてリリースする予定で、第1幕ではビック・シーフのギタリスト、バック・ミークとジョナサン・ウィルソンとのコラボレーションをフィーチャーしている。第2幕、『Mind Travel』には、夫でシンガーソングライターのジェレミー・アイヴィーと共作した「Black Wolf Blues」と「Mind Travel」、そしてマイク・キャンベルとのコラボ曲「Unoriginal Sin」が収録されている。試聴は以下から。


マーゴ・プライスは新曲について次のように語っている。


サイケデリックな旅は、時間と空間のぼんやりとしたウサギの穴に続いている。マイク・キャンベルに「Unoriginal Sin」というダークなロッカーを共作してもらえたのは幸運だった。彼との作業は、曲作りのマスタークラスを受けたようなものだった。時には、しばらく探っていなかった暗いコーナーがあるものだが、それを掃除するのはいいことだ。


「Mind Travel」は、私が書いた曲の中で最も奇妙な歌詞の曲のひとつだ。ジェレミーとサウスカロライナで書いたんだ。シロシビンで体外離脱を体験したことが影響している。私たち2人は、死を受け入れること、そしてすべてがいかに早く過ぎていくかを思い知ることについて、信じられないような突破口を開いたんだ。過去にとらわれない限り、反省したり過去を思い出したりしてもいいんだ。旅のこの部分は、現在に満足することを学ぶ場所なんだ。


これらの曲がどのように組み合わされたのかが好きだ。特に「Black Wolf Blues」は、ジェレミーが私の視点から歌詞を書き始めたんだ。私の祖先、祖父母(ポール&メアリー・プライス)、そして彼らの愛と、干ばつで農場を失ったにもかかわらず、それがどのように育っていったかを振り返っている自分に気づいたんだ。私はコードとメロディーを書き、詩とコーラスの仕上げを手伝った。この曲には甘さとノスタルジックさがあるけれど、そこには迫り来る闇がある。アルバム全体を通して、迷子のように目を光らせ、道を切り開いてきたオオカミがいる。彼を探して。目に見えない疫病が宙を漂っているようなもので、スーツを着てネクタイを締めた男が、まっすぐな白い歯を見せて嘘をついているのだ。彼は物陰に隠れている。


昨年の『Strays』に続く『Strays II』は、10月12日にLoma Vistaからリリースされる。

 

「Black Wolf Blues」  

「Mind Travel」  

「Unoriginal Sin」

Buck Meek  『Haunted Mountain』 

 

 

Label: 4AD

Release: 2023/8/25



Review



ビッグ・シーフのギタリストとして知られるバック・ミークのソロ・アーティストとして通算3作目のフルアルバム。バック・ミークは、オルト・フォークの世界的なバンドとして知られるメイン・プロジェクトとは少し異なる音楽性に取り組んでいる。ただもちろん、バック・ミークの重要なルーツであるカントリー/フォークの性格は本作の音楽性の根底に据えられている。

 

アルバムを聴いていると、エイドリアン・レンカーのボーカルを取り払ったビッグ・シーフの奥深いルーツが、ぼんやり浮かび上がってくる気がする。ミークは、実質的な表向きの音楽性というよりもムードやアンビエンスを強く意識している。それは、バック・ミーク自身のボーカルにも同様のことが言える。歌を意識するというより、カントリー/ウェスタンをローファイの側面から解釈したトラックに、器楽的なバック・ミークのヴォーカルがふんわりと乗せられる。その場の空間の雰囲気をできるだけ損ねぬよう、ミークは優しく和らいだ感じの歌をうたうのだ。


バック・ミークのソングライティング性には、サイモン&ガーファンクル、レナード・コーエンのような古き良きフォーク・ミュージックの影響が伺える。どちらかと言えば、中性的なフォークの性質が、このアルバムの核心にはある。バック・ミークの深いアメリカーナへの愛着が余すことなく示され、それは70年代のポピュラー・ソングへの憧憬にも似た感慨が滲んでいる。


ここには、彼の得意とするアコースティック・ギターのアルペジオ、ペダル・スティールや、グロッケンシュピール、そして声をわざと裏返すボーカルライン、ミュートを掛けたドラムといった複数のカントリー音楽の鍵となる要素を変幻自在に散りばめることにより、淡さと深さを兼ね備えた極上のフォーク・ミュージックが誕生している。音楽性の手法は、きわめて現代的で、”モダン”とも称せる。歌声は、中性的な感性に満ちあふれている。しかし、バック・ミークの音楽は、上部だけをすくったカントリーに堕することはない。時には、ハンク・ウィリアムズのような、奥深いアメリカの源流に接近する場合もある。表向きの幕の裏側にある秘密に迫れるかどうかが、このアルバムを解き明かすために最重要視すべき点といえるかもしれない。

 

アルバムのオープニングを飾る「Mood Ring」は、現代的な4ADのサウンドの性質に縁取られている。たとえば、Golden Dregsの最新作『On Grace & Dignity』にも比する、渋さのある雰囲気に浸されている。しかし、バック・ミークの場合、それらのフォーク音楽の要素は、70年代の米国のアナログのポピュラー音楽と結びついて、控えめなノスタルジアを生み出す。


サビは、わかりやすい形では存在しないように思えるが、リズム・トラックと重なり合うようにして、部分的なフレーズとして紡がれる。それがインディーロック風のギターと重なり合った時、バック・ミークの恬淡とした歌が激しいエモーションを帯びる。さらに曲の終盤では、パーカッションに導かれるように、シンセのシークエンスが広がっていき、アンビエントともサイケとも付かない抽象的な音像を楔とし、再度、モチーフのフレーズが舞い戻ってくる。淡々とはしているが、これらの構造的な要素は、イントロダクションにミステリアスな雰囲気を及ぼしている。

 


バック・ミークのボヘミアンのごとく寛いだ性格は、アルバムのタイトルトラック「Haunted Mountain」でさらに鮮明になる。アコースティック・ギターの軽妙で流れるようなストロークで始まるこの曲は、ガット・ギターのしなるような音色に導かれるようにして、米国南部に代表される、山岳地帯のフォーク・ミュージックの源流に迫ろうとしている。主なイメージとしては、夏の盛りの青空の下、山岳の中腹をオープン・カーで疾走しながら、山頂に向けて上っていく……。そんな爽快な感覚に満たされている。アコースティック・ギターの背後に導入されるバンジョーの演奏は、この曲のロマンティックな印象を強化している。ミークのファルセットを駆使したボーカルも軽やかな印象を付与している。後半では、ペダル・スティールが導入され、ウェスタン調の音楽に変遷を辿り、ご機嫌な雰囲気が最高潮に達する。この曲から、テキサスのカウボーイ・ハットやテキーラを想像することは、それほど難しいことではない。

 

「Paradise」

 


#3「Paradise」はメロウな雰囲気のフォーク・バラードで、アルバムの中でもハイライトと称すべき素晴らしいトラックである。ギターラインは、例えば、Jeff Parker(Tortoise)が好むようなジャジーな音色で、ムードを引き立てている。それらの芳醇なギター・ラインに乗せられるミークのソフトなボーカルが優しげな表情を形作っている。アルバムの序盤とは異なり、夜の雰囲気にまみれた大人のバラードで、ボーカルラインは、サイモン&ガーファンクルの懐古的なフォーク・バラードを彷彿とさせる。特に、2分22秒以後のメイン・ボーカルとコーラスのファルセットを交えたハーモニーに、息を呑むような美麗な瞬間が現れる。ペダル・スティールやクランチなギターが主要なフレーズを演出しているのは前曲と同様だが、それは全く異なる内省的な印象に彩られている。同じようなものが別に見えるのはどういうことだろう?


#4「Cyclade」は、現代的なフォーク・ロックとも解せる。アルバムの序盤では最もアップテンポのナンバーではあるが、ここでは、序盤のガーファンクルというよりも、ボブ・ディランへの傾倒が伺えるような気がする。ただ、ディランの最初期のフォーク時代ではなくて、ロックの巨人としてのディランに対する最大限のリスペクトが込められているとも解釈できる。しかし、やはり、バック・ミーク特有の独特なアメリカーナのファルセットが異彩を放つ。これらのアンビバレントな感性は、これらの旧来の音楽に慣れ親しんでいるリスナーを懐古的な気分に浸らせ、実際的に、フォーク音楽の未来が抽象的に示されていると解釈することができる。 

 

 

「Secret  Side」

 

もちろん、バック・ミークは、多分、このソロ・プロジェクトをビッグ・シーフの延長線上にある音楽性として捉えているのかもしれない。#5「Secret Side」では、ファンに対してささやかなプレゼントが捧げられている。ビッグ・シーフの最新作や、Floristの最新作にも似た可愛らしいナチュラルなフォーク音楽の良さを全体に詰め込み、それをアメリカーナへの弛まぬ愛情によって包み込む。3分半の曲に及ぶ素朴で優しげな曲の表情は、時には、Niel Young(ニール・ヤング)の「Harvest Moon」を彷彿とさせる瞬間もあり、穏やかなピアノのフレーズやアコースティック・ギター、ロマンティックなヴィブラフォンによってロマンティックな雰囲気が引き立てられている。聴いていると、どのような険しい表情も綻び、笑顔になるような一曲だ。

 

同様に、#6「Didn't Know You Then」は、素朴なロックソングとして楽しめる。ここでは、オーケストラのクレスタを効果的に用い、Buddy Holly(バディ・ホリー)/The Crickets(ザ・クリケッツ)が名曲「Everyday」で示したロックンロールの原初的な魅力に光を当てようとしている。ただ、バック・ミークの手に掛かるやいなや、古典的な形式がインディー・フォーク調のモダンな音楽性に変化してしまうのに大きな驚きをおぼえる。しかし、この曲がトレンドのモダンのフォーク音楽を意識しつつも、それが決して軽薄なものにならないのは理由があり、旧来の時代への深い文化的な理解がソングライティングに通底しているからだろう。


ただ、これらのBig Thefの延長線上にある音楽性を第一義として捉えながらも、遊び心や冒険心にあふれている点が、このアルバム、ひいてはバック・ミークの凄さではないだろうか。#7「Undae Dunes」では、イントロにおいて、ブレイクビーツ的な手法を用いたり、ネオ・ソウルへの愛着を滲ませたりと、アーティストの意外な一面が伺える。そして、その後は、フォークの要素を絡めたダンサンブルなロックに挑んでいる。ザ・キラーズにも近い冒険心溢れる音楽性は、ソロ・プロジェクトであるからこそ実現したとも言えるのではないか。

 

#8「Where You're Coming From」のイントロは、ディランの名曲「Don't Think Twice~」(邦題:くよくよするな)に対する最高のオマージュとなっているのではないか。表向きのワイルドなイメージとは正反対の内省的な一面を示した繊細なギターのアルペジオに象徴されるこの曲は、ベトナム戦争時代、戦地に赴かねばならぬ米国の若者を勇気づけ、その肩を支えるための意義深いフォーク・ソングだった。この形式をバック・ミークは受け継ごうとしている。


果たして、これがどの人々への賛歌であるかまでは推測しかねる。しかし、イントロの悲しみは、サビにかけて、和らいだ優しさへと変化していく。これらの印象の変化、あるいは変遷は、バック・ミークのソングライティングの想像性の豊かさを象徴づけている。イントロのアコースティック・ギターが印象的なナンバーは、さらに中盤にかけて、インディーロック/フォーク・ロック調の明るいエネルギーに満ち溢れた曲調に変遷を辿っていく。部分的には、ギルバート・オサリバンのような良質なソングライティング性も内包される。他方、アメリカーナのファルセットを下地にした歌声は、ミークの唯一無二の個性的な音楽性を確立させている。何らかの影響こそ受けているものの、完全なオリジナルとして昇華されているのが素晴らしい。

 

#9「Lullabies」は、タイトルに見える通り、アイリッシュ・フォークの哀愁を漂わせる一曲となっている。ただ、曲の終盤ではブルースのギターラインが顔をのぞかせる。しかし、日常の暮らしを送る人々への勇気づけや細やかな楽しみを与えるために生み出された「ララバイ」なる形式は、ミークの極上の手腕により、弱い人々の肩を支える力強い曲として存在感を放つ。ときに、人生の中には落胆や失望がつきものだが、そういった沼からこの曲は救い出してくれる力がある。

 


一転して、#10「Lagrimas」では、最初期のパット・メセニーが書いたような、米国の農場風景を思わせるフォーク音楽の源泉へと迫ろうとしている。他の曲とは別のギターで演奏していると推測できるが、ナイロンの弦のギターは、少なくとも、これらの米国のカントリーの果てなきロマンスの極地へと落着する。マーチングにも似た3拍子のドラムのリズムに支えられるようにして紡がれるギターラインは、やはりアーティストのボヘミアン的な性質が色濃く反映されている。これらの農場風景や見渡すかぎり広がる地平線のない、空が抜け落ちたかのような心象風景は、最後にバンジョーの楽しげな楽器が加わり、心楽しいクライマックスへ導かれていく。全収録曲のアメリカーナに象徴される音楽は、一面的な印象性にとどまらず、聞き手の想像力を喚起する多面性を持ち合わせている。これがこのアルバムの最も素晴らしい点だと思う。

 

 

87/100

Niel Young(ニール・ヤング)が、ニューシングル「Sedan Delivery」とともに、"失われたアルバム"『Chrome Dreams』を発表した。『Chrome Dreams』は、Reprise Recordsより8月11日にリリースされます。。

 

『Chrome Dreams』はニール・ヤングの最も個性的でパワフルなアルバムのひとつで、1974年から1976年にかけてのスタジオ録音から構成され、1977年にリリースされる予定だったが、現在まで正式発表に至らず、長年、お蔵入りしたままだった。


『Chrome Dreams』に収録されている12曲は、別の時期に別の形で存在していたかもしれないし、それも創作過程の一部である。これらの多くはオリジナルで、ヤングが最初に認識したとおりの形で今、命を吹き込まれている。アルバムには、「Pocahontas」、「Like a Hurricane」、「Powderfinger」、「Homegrown」、「Stringman」、「Look Out for My Love」が収録されている。

 

米国のフォーク・ロックのレジェンド、ニール・ヤングは去年から複数のリイシューを継続しており、その中には、『Harvest Moon』の50周年盤や『World Record』も含まれている。


「Sedan Delivery」

 

©David Cleary

マルケタ・イルグロヴァーとグレン・ハンサードは、The Swell Season(スウェル・シーズン)として10年以上ぶりとなる新曲を発表した。ダブリンのフォークロック・デュオは2005年に結成された。

 

映画『Once』の公開15周年を記念したデュオの夏のツアーに先駆けて発表された「The Answer Is Yes」は、アイスランドのマスターキー・スタジオでレコーディングされ、Sturla Mio Thorissonがプロデュースした。この曲には、度々コラボレートしているマルヤ・ゲイナーとベルトラン・ガレン、アイスランドのミュージシャン、ティナ・ディコとヘルギ・フラフン・ヨンソンがヴォーカル、Þorvaldur Þór Þorvaldssonがドラム、Guðmundur Óskar Guðmundssonがベースで参加している。


「グレンと私は、今度のアメリカ・ツアーの前に新曲をリリースしようと話していた。「毎晩一緒に歌えるような美しいデュエットを書きたかった。深く個人的でありながら、広く普遍的である。かつてあったものすべてに敬意を表し、今あるものすべてを祝福するような、過去20年の私たちの旅を要約するようなものをね」


ハンサードはこう付け加えた。「私たちは一緒になって、古い曲を通して作業しているうちに、新曲のチャンスはほとんど必然的なものになった。マルケタはクリエイティブな部分でジョニを彷彿とさせるところがある。それはとても威圧的でもあるけれど、私の作曲方法とは対照的な素晴らしいものだ。僕にとって、一緒にいるときに湧き上がってくるアイデアこそが、彼女が参加すべきものなんだ」

 

「The Answer Is Yes」

 

©︎Sanne Ahremark

オレゴン州のシンガーソングライター、M.Wardは、今週末のニューアルバム『Supernatural Thing』のリリースに先駆けて、最終シングル「too young to die」を公開しました。これまで、アメリカーナ、ロックンロールと変遷を辿ってきたWardは、3曲目のシングルで古き良きコンテンポラリー・フォークへの旅を企てている。この曲は、スウェーデンのフォーク・デュオのFirst Aid Kitがフィーチャーされ、ソダーバーグ姉妹はミュージックビデオにも出演していますよ。

 

ニューシングル「too young to die」は、メディエーション風の緩やかなフォーク・ミュージックで、ファースト・エイド・キットのボーカルの美麗なハーモニーが心に染みるナンバーで、心に静かな潤いを与えてくれます。今週最初のHot New Singlesとして読者の皆様にご紹介します。


「First Aid Kitは、ストックホルム出身の姉妹で、彼女たちが口を開くと何かすごいことが起こるんだ」M.Wardはこのコラボレーションについて話しています。

 

「ストックホルムに行き、そこで数曲レコーディングするのは、とてもスリリングなことだったね。血のつながったハーモニー・シンガーが奏でるサウンドは、他の方法では得られないものなんだ。"The Everly Brothers、The Delmores、The Louvins、The Carters、The Söderbergs、どれもボーカルに同じようなフィーリングを感じることができるはずだよ」

 

「too young to die」

 

 

ニューアルバム『Supernatural Thing』は今週金曜日、6月23日にANTI-より発売されます。先行シングルとして、タイトル曲「New Kerrang」が公開されています。 また、M.WardはTiny Desk Concertにも出演しています。また、スウェーデンのフォークデュオ、First Aid Kitは昨年、最新アルバム『Palomio』を発表しました。こちらのレビューも合わせてお読みください。

©︎Jacob  Boll

M. Wardが、ニューアルバム『Supernatural Thing』を発表しました。ANTI-から6月23日に発売される。First Aid Kit、Shovels & Rope、Scott McMicken、Neko Case、Jim Jamesがゲスト参加した作品となっています。

 

本日の発表では、アルバムのタイトル曲と、Joe Trusselが監督したビデオが公開されています。Supernatural Thingの詳細は下記をご覧ください。


私が初めてLady In Satinを聴いたのは、サンフランシスコのどこかのメガショッピングモールの中でした。私は20歳くらいで、ビリーのレコードや彼女の人生について、また彼女の声が何年もかけてどのように変化していったかについて、あまり知りませんでした。とにかく、その音はモールの反対側から聞こえてきて、私は彼女の声を美しく完璧に歪んだエレキギターと勘違いしたのを覚えています。この奇妙な哀愁のある弦の海に浮かぶ別世界のもので、私は一生夢中になることになりました。


それから10年後の2006年、私はアルバム『Post-War』のために「I'm A Fool To Want You」のエレキギター・インストゥルメンタルバージョンをレコーディングしました。2018年、私はLA.で『Lady In Satin』の全曲をクインテットで演奏し、このアルバム『Think of Spring』にまとめられた録音のためのギターアレンジの準備を始めた。タイトルは、ジェーン・ブラウン=トンプソンが1924年に書いた詩に由来し、やがて1938年に「I Get Along Without You Very Well」となり、ここでの1曲目となりました。


Think of Springのコンセプトは、Lady In Satinの曲とストリングスを、様々なオルタネイト・チューニングと最小限のテクスチャーとスタジオ操作で、1本のアコースティック・ギターでフィルターすることです。


Think of Springは、Billie Holiday、Ray Ellis、J.J. Johnson、John Fahey、Robert Johnsonからインスピレーションを受けています。


このレコードからの収益は、Inner-City Arts & DonorsChoose via PLUS1 for Black Lives Fundに寄付されます。


 

 




M.Ward 『Supernatural Thing』

 


Label: ANTI-

Release: 2023/6/23


Tracklist:


1. lifeline


2. too young to die [feat. First Aid Kit]


3. supernatural thing


4. new kerrang [feat. Scott McMicken]


5. dedication hour [feat. Neko Case]


6. i can’t give everything away [feat. Jim James]


7. engine 5 [feat. First Aid Kit]


8. mr. dixon [feat. Shovels & Rope]


9. for good [feat. Kelly Pratt]


10. story of an artist

 

©Shervin Lainez


アメリカーナのニュースター、Madison Cunningham(マディソン・カニンガム)は、アルバム「Revealer」のデラックスエディションを発表しました。5月5日にVerve Forecastから発売される予定。


アルバムの収録曲は、「Who Are You Now」と「Life According to Raechel」のデモ、Remi Wolfをフィーチャーした「Hospital」の新バージョン、そして未発表曲「Inventing the Wheel」で、現在リリースされています。以下、ご視聴ください。

 

マディソン・カニンガムは「Inventing the Wheel」について次のように語っています。「この曲は、一度実現したら、自分で書くことができるような曲のひとつだった」

 

この曲は、自分の外側に目を向けたときに起こる啓示のようなもので、自分の感情の幅に限界を感じているのは、自分が最初でも最後でもないことがわかると思う。そして、その啓示によって、仲間、家族、アイドル、敵、すべてがゼロ地点に立ち、同じ問いを掻き立てながら見上げているのがわかるのです。「Revealer」では喪失感という考え方に重きを置いていて、この曲は私の中でその考えを何らかの形で完成させてくれたんだ。

 

 Lankum  『False Lankum』

 

 

Label: Rough Trade

Release Date: 2023年3月24日



Review

 

アイルランド/ダブリンの四人組フォークグループ、Lankumは先週末4作目のフルアルバム『False Lankum』をリリースした。現代の音楽の主流のコンテクストから見ると、フォーク・ミュージックはポップネスやオルタナティヴロックと融合し、その原初的な音楽を核心に置くグループは年々少なくなってきているように思える。しかしながら、ダブリンの四人組はこのフォーク-つまり、民謡の源流を辿り、再びアイルランド地方の歴史性、そして文化性に脚光を当てようとしている。


バンドは、この4作目のアルバムを制作するに際して、かなり古いアイルランド民謡のアーカイブを丹念に調査し、そして実際の楽譜や歌詞を読み込み、それらを組み直している。このアルバムに収録されている曲の多くは、米国にもイングランドにも存在しえないアイルランド固有の音楽でもある。そして、アイルランド民謡が祭礼的な音楽として出発したという歴史的な事実を現代のアーティストとして再考するという意味が込められている。


例えば、オープニングトラック「Go Dig My Grave」は、そのタイトルの通り、葬儀における祭礼的な音楽として生み出された。そして、キリスト教のカソリックの葬儀の祭礼で演奏された宗教音楽やバラッドの幻影をランカムは辿っている。「Go Dig My Grave」は、ランカムのレイディ・ピートが1963年にアルバム『Jean Ritchie and Doc Watson at Folk City』に収録したジーン・リッチーの歌声からアルバムに収録されている特定のヴァージョンを発見したことに端を発する。この曲は、元々様々なバラッドのスタンザ(押韻構成のこと)として作曲された、いわゆる「浮遊詩」で構成されている曲の一つで、17世紀にそのルーツが求められる。

 

この曲は死者との交信といういくらか霊的な要素を備えており、ボーカルとアイルランドの民族楽器の融合は、悠久の歴史のロマンへの扉を開くかのようである。歴史家が古代の遺跡の探査にロマンチシズムを覚えるように、この曲には、アイルランドの歴史的なロマンと憧憬すら見出すことが出来る。そして複数の民族楽器の融合は、死靈へ祈りとも言いかえられ、曲の中盤から終盤にかけて独特な高揚感をもたらす。これはクラブミュージックともロック・ミュージックとも異なるフォーク・ミュージック特有の祈りに充ちた器楽的な抑揚が表現されている。

 

同じく、先行シングルとして公開された8曲目の「New York Trader」は、2021年一月に制作が開始された。

 

この曲はバンドがリングゼンド出身のルーク・チーヴァースから教わったという。この曲はまた19世紀にイギリスのブロードサイドに印刷された人気曲で、その後、20世紀ウィルトシャー、ノーフォーク、ノバスコシアでバージョンが集められた。渋さとダイナミックさを兼ね備えたバラードは、淡い哀愁に満ちており、舟歌としてのバラッドがどのようなものであるのかを再確認することが出来る。

 

アルバム発売前の最終シングルとしてリリースされた「New Castle」は、他の先行シングルと同様に17世紀のフォークミュージックを再考したものである。この曲については、The DeadliansのSeán Fitzgeraldから学びんだという。


このフォークバラッドは、『The English Dancing Master』1651年)という媒体に初めて掲載されたのが初出となる。一方、この曲の歌詞は、1620年に印刷された「The contented Couckould, Or a pleasant new Songe of a New-Castle man whose wife being gon from him,shewing how he came to London to her, and when he found her carried her backee again to New-Castle Towne」というタイトルのバラッドと何らかの関連があるかもしれないという。いくらか宗教的なバラッドとしてアクの強さすら感じられるフォーク・ミュージックの中にあって、最もハートフルで、聞きやすい曲として楽しむことが出来る。爽やかで自然味溢れるフォークソングは、バンドがアイルランドの名曲を発掘した瞬間とも言える。それらをランカムは、ノスタルジアたっぷりに、そして現代の音楽ファンにもわかりやすい形で土地の伝統性を伝えようとしている。それはアイルランド地方の自然や、その土地に暮らす人々への温かな讃歌とも称することが出来るかもしれない。

 

 

4作目のアルバム『False Lankum』では、古典音楽の一であるフーガ形式の3つの曲を取り巻くようにして、ロマンチックかつダイナミックなアイルランドのフォークバラッドの世界が飽くなき形で追求されている。あらためてアイルランド民謡の醍醐味に触れるのにうってつけの作品といえ、最終的に、本作の音楽はランカムのメンバーのこの土地の文化への類稀なる愛着という形で結実を果たす。上記に挙げた曲と合わせて、クライマックスを飾る「The Turn」には、これまでのランカムとはひと味異なるフォーク・バラッドの集大成を見出すことが出来るはずだ。

 

 

78/100

 

 

 Featured Track  「New Castle」

 

©Ellius Grace

 

アイルランド出身の4人組、Lankumは、今週金曜日(3月24日)にRough Tradeからリリースされるアルバム「False Lankum」から最終シングル「Newcastle」を発表した。この曲は、前回の「Go Dig My Grave」「The New York Trader」に続くシングルです。以下、ご視聴下さい。

 

この新作アルバム『False Lankum』はアイルランド民謡を再構築するというコンセプトで制作された。先行曲と同様、3rdシングルも17世紀のフォークミュージックが下地になっている。「私たちはこの曲をThe DeadliansのSeán Fitzgeraldから学びました、彼の母Paulineは、子供の頃彼にそれを歌いました」とバンドは声明を通じてこのシングルの制作について説明している。

 

「この曲は”The English Dancing Master”(1651年)に初めて掲載された。シンプルに「Newcastle」と題されている。一方、歌詞は1620年に印刷された「The contented Couckould, Or a pleasant new Songe of a New-Castle man whose wife being gon from him, shewing how he came to London to her, and when he found her carried her backee again to New-Castle Towne」というタイトルのバラッドと何らかの関連があるかもしれない。」

 

「Newcastle」

 Sandrayati 『Safe Ground』

 



 

Label: Decca/Universal Music

Release Date: 2023年3月17日

 


 

 

Review

 

インドネシアのサンドラヤティは、今後世界的な活躍が期待されるシンガーソングライターである。


米国人とフィリピン人の両親を持つ歌手、サンドラヤティは、既に最初のアルバム『Bahasa Hati』をリリースしているが、自主レーベルからイギリスの大手レーベルのDeccaへ移籍しての記念すべき第一作となる。元々、英国の名指揮者とロンドン交響楽団のリリースを始め、クラシック音楽の印象が強いデッカではあるものの、サンドラヤティはソフトなポピュラーシンガーに属している。いかにこのシンガーに対するレーベルの期待が大きいか伺えるようである。

 

説明しておくと、サンドラヤティは、メジャー移籍後の2ndアルバムにおいて自身のルーツを音楽を通じて探求している。東インドネシアの固有の民族であるモロ族から特殊なインスピレーションを受けて制作された。

 

彼女の2つのルーツ、英語とインドネシアの言語を融合させ、コンテンポラリー・フォークとポピュラー・ミュージックの中間点に位置するリラックスした音楽性を提示している。サンドラヤティの音楽は、南アジアの青く美しい海、そして自然と開放感に溢れた情景を聞き手の脳裏に呼び覚ますことになるだろう。そして、サンドラヤティの慈しみ溢れる歌声、温かな文学的な眼差しは、インドネシアの先住民の文化性、また、土地と家の関係や父祖の年代との関係、それから、近年の環境破壊へと注がれる。彼女は、COP26で代表としてパフォーマンスを行っているように、ある地域にある美しさ、それは人工物ではなく、以前からそこに存在していた文化に潜む重要性を今作で見出そうとしているように思える。そして、曲中に稀に現れるインドネシアの民族的な音階と独特な歌唱法は、そのことを明かし立てている。穏やかな歌声と和やかなアコースティックギターを基調にした麗しい楽曲の数々は、普遍的な音楽の良さを追求したものであるともいえるかもしれない。

 

オープニングの「Easy Quiet」から最後までサンドラヤティの音楽は終始一貫している。繊細なアコースティックギターをバックに、その演奏に馴染むような形で、雰囲気を尊重した柔らかな感じのボーカルが紡がれていく。英語とインドネシア語の混交はある意味では、このアーティストのルーツを象徴づけるものといえそうだが、一方で、実際にこのアルバムにゲスト参加しているアイスランドのアーティスト、ジョフリズール・アーカドッティルと同じように、アイスランドのフォークミュージックに近い雰囲気も感じ取ることが出来る。地域性を重んじた上で、そして、その中にしか存在しえぬ概念をサンドラヤティは抽出し、それらの要素を介し、やさしく語りかけるようなボーカルを交え、純粋で聞きやすいフォーク・ミュージックを提示するのである。


サンドラヤティのフォーク・ミュージックは、東南アジアとヨーロッパ、あるいは、米国といった他地域の間を繊細に揺れ動いていくが、中盤に収録されている「Saura Dunia」ではインドネシア語のルーツに重点を置き、モロ族の民族音楽的な音響性を親しみやすい音楽として伝えようとする。特に音楽的に言えば、アイスランドの音楽にも親和性のある開放的で伸びやかな彼女の歌声、そして、この民族音楽の特有の独特なビブラートは他のどの地域にも見出すことが叶わない。地上の音楽というより、天上にある祝福的な音楽とも称せるこの曲は、実際の音楽に触れてみなければ、その音の持つ核心に迫ることは難しいだろう。


他にも「Vast」では、ピアノとストリングスとボーカルの融合させたサウンドトラックのような壮大な音楽性を楽しむ事ができる。しかし、一見して映画のBGMなどではお馴染みの形式は、決して古びたものになっていないことに気がつく。サンドラヤティという歌手の繊細なトーンの変化や、そのボーカルスタイルの変化があり、清新な印象を聞き手に与える場合もある。コラボレーターのアイスランドのオーラブル・アーノルズのピアノは絶妙にシンガーの歌声を抒情的に強化し、繊細かつダイナミックな喚起力を呼び覚ますことに成功している。

 

また、アルバムの最後に収録されている「Holding Will Do」ではゴスペルに近いアーティストのソロボーカルを楽しめる。ピアノのフレーズと共に、ジャズ・ボーカルの影響を受けた曲で、アルバムのクライマックスに仄かな余韻を添える。最後には、語りに近いスタイルに変化するが、これで終わりではなく、次作アルバムへとこれらのテーマが持ち越されていきそうな期待感がある。

 

サンドラヤティの2ndアルバム『Safe Ground』には、インドネシアやバリ島、ジャワ島、それらの土地にゆかりを持つアーティストの人生観が温和なポピュラーミュージックの中に取り入れられている。アーティストは、これらの10曲を通じて、安全な地帯を見出そうと努めているように思える。そして、それらの表現はロジカルな音楽ではなく、詩情を織り交ぜた感覚的な音楽として紡がれてゆく。最初から完成しているものを小分けにして示すというわけではなく、各々のトラックを通じて、何らかの道筋を作りながら、最後に完成品に徐々に変化していくとも捉えることが出来る。


セカンドアルバムで、サンドラヤティの語るべきことが語り尽くされたとまでは言いがたいが、しかし、一方で、シンガーの歌の卓越性の一端に触れる事が出来る。本作は、週末をゆったり過ごしたいとお考えの方に潤沢な時間を授けてくれると思われる。



86/100





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ニューオーリンズのカントリーシンガー、Esther Rose(エスター・ローズ)は、4月21日にNew West Recordsからリリースされるアルバム『Safe to Run』のタイトル曲を公開しました。Hurray for the Riff RaffのAlynda Segarraとのデュエットで、この曲はアルバムのリードシングル「Chet Baker」に続く。


2021年の『How Many Times』の次作『Safe to Run』は、ロス・ファーベがプロデュースした。

 

「ソニック的に、ロスと私はこの曲にあらゆるアイデアを投げかけ、まるでこのメガパワーのある容器のようにすべてを吸収した」と、ローズは声明で「Safe to Run」について述べている。

 

「私たちはアウトロにたくさんのレイヤーを作り上げました。ロスがメロトロンで奏でるカウンターメロディと、彼が『天使たち』と呼ぶ高音1音のシンセドローンが大好きです。ベイエリアのデスメタルバンドCormorantのNick Cohonは、上昇するギターのアウトロをアレンジして破滅をもたらしました。アリンダ・セガラとのコラボレーションはとても有意義で、曲が飛び始めるのを聞くことができた。アリンダの声は、この巧みに調整された筋肉のようなもので、彼らが歌うと、すべてを感じることができます」


「Safe to Run」

©Kristin Cofer

 

La LuzのShana Clevelandがニューシングル「Walking Through Morning Dew」をリリースしました。前作「Faces in the Firelight」「A Ghost」に続くシングルとなります。下記からチェックしてみて下さい。


「Walking Through Morning Dew 」についてシャナ・クリーブランドは次のように説明しています。「これは春と再生についての曲なんだ。カリフォルニアでは、春は自然が家の中に入ってくる季節なんだ。家の中は突然変な虫でいっぱいになる。この曲の一節に、このアルバムが凝縮されている。"すべてがまばゆく咲き誇っている 」


Shana Clevelandのニュー・アルバム『Manzanita』は3月10日にHardly Artから発売される。


 

©Brandon Soder


ニューオリンズのカントリーシンガー、Esther Rose(エスター・ローズ)は、『Safe to Run』というタイトルのニューアルバムを発表した。2021年の『How Many Times』に続くこの11曲入りの新作アルバムは、New West Recordsから4月23日にリリースされる予定です。

 

シンガーソングライターは、この発表に合わせてリード・シングル「Chet Baker」と、Joshua Shoemakerが監督したビデオを公開しました。また、Safe to Runのカバーアートとトラックリストは下記より御覧下さい。


「Chet Baker」について、Roseは声明の中で次のように語っている。

 

「”誰かが私にDMを送ってきて、"私を覚えていますか?"と聞いてきた。私は10年前の記憶の中に連れて行かれた。危険な大学進学準備のクルーとの奇妙な週末、車の事故。この曲は、アナーバーの街での私の生活について書かれた短編です。この曲を書いているとき、あの無謀な時間を生き延びた自分がいかに幸運だったかを思い知らされた。若い頃の自分に大丈夫、あなたは23歳だったんだから、と共感したかった。大丈夫、あなたは23歳だったんだから、制御不能だったんだよ。もう大丈夫。もう大丈夫だ」


『Safe to Run』は、ロス・ファーベがニューオーリンズ(LA)とプラシタス(ニューメキシコ)で制作しました。ローズの長年のコラボレーターであるファーベとライル・ワーナー、ニューオリンズを拠点とするバンド、シルバー・シンセティック、デスロンデスのキャメロン・スナイダー、そしてタイトル曲にはハレー・フォー・ザ・リフ・ラフのアリンダ・セガーラが参加しています。


ペンを取るたびに挑戦したのは、「もう失恋ソングなんていらない、周りを見てみよう、ということでした」とローズは説明します。

 

「今まで探求したことのない深みから書き、時には気が狂いそうになりながら、柔らかさが広がっていく。私は混沌とした過渡的な場所から抜け出しました。もう逃げたりはしない。このアルバムは、私にとって、それ以前に作ったものすべてと異なっているように感じる。でも、誰がわかる?ハリケーンを山火事と交換したんだ」

 

 

「Chet Baker」



Esther Rose 『Safe to Run』
 
 
Label: New West Records
 
Release Date: 2023年4月23日 


Tracklist:

1. Stay
2. Chet Baker
3. Spider
4. Safe to Run (feat. Hurray For The Riff Raff)
5. St. Francis Waltz
6. New Magic II
7. Dream Girl
8. Insecure
9. Levee Song
10. Full Value
11. Arm’s Length

 


注目のダブリナーズ、Lankumは『False Lankum』をRough Tradeから2023年3月24日にリリースすることを発表した。アルバムの到着に先駆けて、バンドは、ファースト・シングル「Go Dig My Grave」をPeadar Gillによるビデオとともに公開している。

 

彼らはアイリッシュ・フォークの神秘性とスピリチュアルな観点を交えて新しいフォークミュージックを生み出そうと試みている。アルバムの中には、19世紀の魔術師アレイスター・クロウリーを題材にとったらしき曲も収録されている。


『Go Dig My Grave」は、ランカムのレイディ・ピートが1963年にアルバム『Jean Ritchie and Doc Watson at Folk City』に収録したジーン・リッチーの歌声からアルバムに収録されている特定のヴァージョンを発見した。この曲は、元々様々なバラッドのスタンザ(押韻構成のこと)として作曲された、いわゆる「浮遊詩」で構成されているような曲の一つで、中には17世紀まで遡るものもある。

 

ランカムは、「伝統的な歌”Go Dig My Grave”は、悲しみという感情を中心としたもので、すべてを飲み込み、耐えがたく、絶対的です」と説明します。「曲の後半は、アイルランドに伝わるキーン(caoineadhからきている)、つまり、故人を悼む伝統的な祭礼の形式に触発された。この慣習は、死者との交信経路を開くものとして、17世紀以降、アイルランドのカソリック教会から厳しい非難を受けるようになった。」


ランカムは、彼らの4枚目、Rough Tradeからの3rdアルバム『False Lankum』が、リスナーのための旅となるように、また、完全な作品と感じられるように設計している。「このアルバムではコントラストを生み出したかった。明るい部分はほとんどスピリチュアルで、暗い部分は信じがたいほど暗く、ホラー風味である」とプレスリリースで説明されている。10曲の伝統的なアイルランド民謡の楽曲と2曲のオリジナルで構成されたこのアルバムでは、長年のプロデューサーであるJohn 'Spud' Murphyと共に、新しい色調で実験的なサウンドを作り上げている。

 

2023年5月4日のバービカンでのソールドアウト公演に続き、ランカムは12月に再びロンドンに戻り、ラウンドハウスで最大のヘッドライン・ライブを行う。4月と5月のツアーはほぼ完売しており、バンドは2023年11月にアムステルダムとベルリンに戻り、初のドイツ・ツアーを行うことを発表している。

 

 「Go Dig My Grave」

 

 

 

 Lankum 『False Lankum』

 

 

Label: Rough Trade

Release Date :2023年3月24日

 

Tracklist:

 

1.Go Dig My Brave

2.Clear Away in the Mornig

3.Fugue Ⅰ

4.Master Crowley's

5.Newcastle

6.Fugue Ⅱ

7.Netta Perseus

8.The New York Trader

9.Lord Abore and Mary Flynn

10.Fugue Ⅲ

11.On a Monday Morning

12.The Turn

©︎Kristin Cofer


La LuzのShana Clevelandは、ニューシングル「A Ghost」とそれに付随するビデオを発表した。この曲は、「Faces in the Firelight」という曲と共に発表された彼女の新しいソロアルバム「Manzanita」から収録されている。Vice Coolerが監督した「A Ghost」のビジュアルは以下よりご覧ください。


「この新曲についてクリーヴランドはプレスリリースで、「私は妊娠や出産についてあまり考えたことがなかったのですが、いざ妊娠してみると、それがいかにサイケデリックな体験であったかに驚きました。"このアルバムのサブタイトルはこうかもしれない。宇宙の神秘に心を開いたとき、何を期待するか』ということだ。家の外に座って野原を眺めていると、自分の体の化学反応や形が常に変化して、自分も周りの植物や動物と変わらないことが理解できたんだ"


Manzanita』はHardly Art Recordsから3月10日にリリース予定。


 

©︎Kristin Cofer

La LuzのShana Clevelandが2枚目のソロアルバムを発表した。2019年の『Night of the Worm Moon』に続く『Manzanita』は、Hardly Artから3月10日に発売されます。


アルバムのファースト・シングル「Faces in the Firelight」は、クリーヴランドの息子だけでなく、彼女の人生のパートナーであるウィル・スプロット(シャノン&ザ・クラムス)に宛てたものだそうです。


「この曲は、ウィルが日没後もずっと続いている巨大な焼け跡の手入れをしているのを見て、暗い野原にいる彼が、私たちの冷蔵庫に貼ってある超音波画像のように見えることに気づいたことについて歌っているのよ」とクリーヴランドは声明で説明している。「私は、最大の愛の行為は、誰かを待つことかもしれないと考えていました。あなたが終わったとき、準備ができたとき、いつでもここにいますよと言うことです」


「私たちは、これらの曲を書いた時の時間と場所の甘い奇妙さを視覚化するために、私の裏庭にファンタジーの領域を作成しました。"妊娠していて、しばしば荒野で一人である」とクリーブランドは、Two Seraphimによって作られたこのビデオについて述べています。

また、『Manzanita』については、「これはカリフォルニアの荒野を舞台にした超自然的なラブ・アルバムです。曲はすべて、私が妊娠している間(サイドA)、または息子が生まれた直後の、すべてが静かに、しかし記念碑的に変化した奇妙な状態(サイドB)に書かれた」 と語っている。  


「Faces in the Firelight」






Shana  Cleveland『Manzanita』




Label: Hardly Art

Release: 2023年3月10日


Tracklist:


1. A Ghost

2. Faces in the Firelight

3. Mystic Mine

4. Quick Winter Sun

5. Gold Tower

6. Babe

7. Ten Hour Drive Through West Coast Disaster

8. Evil Eye

9. Mayonnaise

10. Walking Through Morning Dew


 

©︎ Wyndham Garnett

King Tuffは、ニュー・アルバム『Smalltown Stardust』から3曲目のシングルとなる「Tell Me」を公開しました。この曲は、先にリリースされたシングル「Portrait of God」タイトル曲に続く作品となります。


カイル・トーマスは声明の中で、「世界中のほとんど全ての曲は愛について歌っているのに、どういうわけかまだ十分な愛の歌がない」と言う。

 

そして、もし世界中のラブソングを全部ひっかき集めて、まだ書かれていないラブ・ソングを全部足したとしても、それでもまだ足りないんだよ。もっと世界には愛が必要なのだし、もっとラブ・ソングを作る余地がある。愛は無限の水が湧き出す井戸なのであり、人間、自然、情熱、フラストレーション、と、それから、動物、喜び、狂気についてのラブソングを作ることさえ出来るはずなんだ。僕の書き上げる曲はほとんどラブソングだし、そういうのが好きだ。でも、まだまだ満足はしていない! もっと欲しい! もっと愛が欲しい! そして、あなたにももっと愛を持ってほしい! だから、それが、この「Tell Me」がラブ・ソングとなった最たる理由なんだ。


SASAMIと一緒に作曲・録音した『Smalltown Stardust』は、Sub Popから1月27日にリリースされます。