Album Review Pixies 「Live From the Gorge Amphitheater」

 

 

Pixies


 

Pixiesは、アメリカで80−90年代に最も栄えたオルタナティヴロックの先駆者、あるいは代名詞的な存在として語られる最早説明不要のバンドである。

 

 

このpixiesの発起人、中心人物で、ギター・ボーカルをつとめるブラック・フランシスは、このバンドを立ち上げようとした際、マサチューセッツ大学の学生であったが、ある時、うろおぼえではあるものの夏の休暇であったか、フランシスは悩んだという。ハレー彗星を見にオーストラリアに行くべきか、また、あるいは、大学にとどまり、おとなしく講義を受け続けるべきなのか? 

 

 

そんなふうに悩んだ末、一大決心をしたフランシスは、ハレー彗星を観に向かう。これはまさしく、彼のロマンチストとしての姿が垣間見えるような、ロックシーンでも珍しく示唆に富んだエピソードのひとつ。そして、ピクシーズの音楽には、奇妙なほどの奥行きがあり、宇宙をはじめとする底知れない大いなる存在への憧れの気配、独特なロマンチシズムと耽美性が宿っている。それらのピクシーズの音楽の礎を築き上げている精神的な概念は、大学をやめて、ハレー彗星を思い切って見に行くという、無謀にも思えるフランシスの音楽を始める際の動機から引き出されているのである。

 

 

この一大決断が、ブラック・フランシスのその後の人生を180度一変させたことは事実である。この後、フランシスは、マサチューセッツ大学を退学し、同級生のサンティアゴ(ルームメイトであったという噂もある)をバンドメンバーとして引き入れ、その後、メンバー募集を介し、このバンドのもうひとりの中心的なメンバー、キム・ディールという素晴らしい知己を得た。

 

 

その後、御存知の通り、ピクシーズは、イギリスの名門4ADと契約し、このレーベルの代名詞的な存在となり、オルタナティヴ・ロックの礎を築き上げた。そして、「Surfer Rosa」「Bossanova」をはじめ、数々の名作をリリースし、ブラック・フランシスは、「オルタナ界のゴッドファーザー」と称すべき存在となった。カート・コバーンやトム・ヨークをはじめ、彼の音楽から重要な影響を受けたミュージシャンも多い。もちろん、八十年代は、インディーズらしいコアなロックバンドではあったものの、今や、世界的なロック・バンドとして認められるようになった。

 

 

一度は、解散をするものの、2004年にリユニオンを果たす。その後、2014年、このバンドの中心的な存在、ベースボーカルのキム・ディールが脱退し、代役として、The Muffsというグランジ寄りのバンドのベーシスト、キム・シャタックがツアーメンバーとして一時的に加入するが、一年をまたずして解雇された。それから、キム・シャタックの後任として、スマッシング・パンプキンズのビリー・コーガンとZwanで活動したパズ・レンチャンティンがベーシストとして加入し、現在のピクシーズの編成に至る。2013年から、それまで多くのレコードリリースを行ってきた4AD を離れ、自前のレーベル「Pixies Music」からリリースを行うようになった。

 

 

年々、ピクシーズとしての売上や知名度が高まっていく反面、結成当初からきわめて強いインディー体質の活動スタイルを徹底する硬派のロック・バンドである。2021年9月から、アメリカを皮切りに世界規模のツアーが予定されている。最初のニューヨーク公演は、すでにソールドアウトとなっている。





 

 

Pixiesのツアー日程については 以下、公式HPをご確認下さい。



https://www.pixiesmusic.com/ 

 

 

 

「Live From the Gorge Amphitheatre,George,Wa,May 28th」2021

 

 

 

 

 

 Tracklists

 

 

1. In Heaven (Live from the Gorge Amphitheatre, George, WA. May 28th, 2005)

2. Wave of Mutilation (UK Surf) [Live from the Gorge Amphitheatre, George, WA. May 28th, 2005] 3. Where Is My Mind (Live from the Gorge Amphitheatre, George, WA. May 28th, 2005)
4. Nimrod’s Son (Live from the Gorge Amphitheatre, George, WA. May 28th, 2005)
5. Mr. Grieves (Live from the Gorge Amphitheatre, George, WA. May 28th, 2005)
6. Holiday Song (Live from the Gorge Amphitheatre, George, WA. May 28th, 2005)
7. I’m Amazed (Live from the Gorge Amphitheatre, George, WA. May 28th, 2005)
8. Ed Is Dead (Live from the Gorge Amphitheatre, George, WA. May 28th, 2005)
9. Bone Machine (Live from the Gorge Amphitheatre, George, WA. May 28th, 2005)
10. Cactus (Live from the Gorge Amphitheatre, George, WA. May 28th, 2005)
11. I Bleed (Live from the Gorge Amphitheatre, George, WA. May 28th, 2005)
12. Crackity Jones (Live from the Gorge Amphitheatre, George, WA. May 28th, 2005)
13. Isla De Encanta (Live from the Gorge Amphitheatre, George, WA. May 28th, 2005)
14. U-Mass (Live from the Gorge Amphitheatre, George, WA. May 28th, 2005)
15. Velouria (Live from the Gorge Amphitheatre, George, WA. May 28th, 2005)
16. Caribou (Live from the Gorge Amphitheatre, George, WA. May 28th, 2005)
17. Gouge Away (Live from the Gorge Amphitheatre, George, WA. May 28th, 2005)
18. The Sad Punk (Live from the Gorge Amphitheatre, George, WA. May 28th, 2005)
19. Hey (Live from the Gorge Amphitheatre, George, WA. May 28th, 2005)
20. Gigantic (Live from the Gorge Amphitheatre, George, WA. May 28th, 2005)
21. Monkey Gone to Heaven (Live from the Gorge Amphitheatre, George, WA. May 28th, 2005)
22. Wave of Mutilation (Live from the Gorge Amphitheatre, George, WA. May 28th, 2005)
23. Vamos (Live from the Gorge Amphitheatre, George, WA. May 28th, 2005)
24. Debaser (Live from the Gorge Amphitheatre, George, WA. May 28th, 2005)

 

 

 

 

 

 

 

 

♫ Disc Review 

 

 

 

これまで数多くの傑作スタジオ・アルバムを残してきたピクシーズ。しかし、ディスク盤としては決定的なライブ公演を収録した作品がこれまでのカタログの中に、いまいち見当たらないような気がしていた。

 

 

もちろん、DVD作品として、Pixiesの2004年のリユニオンツアーを収録した「SELL OUT 2004 REUNION TOUR」が現時点においては、ピクシーズのライブ作品のマストアイテムではあるが、ただ、これはあくまで映像作品なので、補足的なファン向けの宝物アイテムといえる。

 

 

もしかすると、ピクシーズの最良のライブ盤は出ないのだろうか?  このあたりの往年のファンの懸念を払拭するべく、2020年の11月、自前のレーベル「Pixies Music」からライブ盤が続々とリリースされている。その総数、驚くべきことに、な、なんと、16作!?にも及び、逐一チェックするのは少し面倒ではあるものの、中には、イギリスのブリクストンアカデミーでのライブ音源もリリースされており、往年のファンとして、感涙にむせばずにはいられない出来事である。

 

 

今、まさに、ピクシーズのマスタークラスに上り詰める機会が到来しているといえ、ファンとしたら、このチャンスを逃すわけにはいきませんよ。ちなみに、この連続リリースされているライブ盤は、2004、5年のツアー、91,2年にかけての世界規模のツアーのライブ音源が収録されている。もちろん、ベースボーカルを務めているのは、旧メンバー、キム・ディールである。

 

 

そして、「ここに、ピクシーズの伝説的ライブ決定盤がついにリリース!!」と、大見得を切って言っても差し支えないかもしれない音源が誕生しました。今回、8月6日にリリースされたばかりの音源、アメリカのワシントン州にある野外コンサート会場、「ゴージアンフィシアター」での公演は、これまでの十六作のライブ盤の中で最も聴き応えのある作品となっています。

 

 

この作品は、アコースティック、エレクトリックの双方のピクシーズサウンドが体感出来、また、収録されている楽曲も「River Euphrates」以外は完全に網羅。もちろん、ライブサウンドとして、そこまで広がりすぎず、シンプルに纏まっており、バンドサウンドとしての生音のタイトさという面でもずば抜けている。とりわけ、ドラムのタムのヌケの良さ、そして、ブラック・フランシス、キム・ディールの両者のボーカルというのも、既にリリースされているライブ盤に比べ、妙な渋みと、みずみずしさ、そして、色気のようなものが感じられるという気がします。

 

 

分けても、この2005年のライブ盤では、ブラック・フランシスのボーカルに妙なソウルフルな質感が込められているという面で、他のバージョンよりすぐれている。このアルバムの中での聴きどころと言える彼等の代表的な名曲「Wave Of Mutilation」は、アコースティックとエレクトリックに分けられて二度、演奏されている、特に、UK Surf Versionのブラック・フランシスとキム・ディールの間合いの取れたボーカルというのは、ほとんど、シンクロ的な雰囲気をなしているといえ、美麗であり、切なく、ほとんど涙を誘うようなロマンチシズムに彩られています。

 

 

また、その他の名曲「I Bleed」で、サンティアゴがイントロを入りを間違えていたりするのもライブならではのご愛嬌として楽しめるはず。

 

 

ブラッド・ピット主演の「ファイトクラブ」のエンディング曲として使用されている「Where Is My Mind」をはじめ、「Bone Machine」「Gigantic」「Monkey Gone to Heaven」での キム・ディールの声の存在感、張りというのが際立っており、これまでなぜ、ディールの声質がコケティッシュと呼ばれる理由が、このあたりの曲を聴いてみれば、明瞭に理解いただけると思います。

 


また、きわめつけは、アルバムの最後に収録されている「Debaser」。ここでは、初期のブラック・フランシスの独特で特異な絶叫系のボーカル、当時、下宿していた一階の花屋のタイ人の呼び込みに霊感を受けたという奇妙なスクリームが心ゆくまで味わえるでしょう。また、「Caribou」や「Hey」といった、エキゾチズムに彩られた楽曲が、このアルバム全体に落ち着きをもたらしている。

 

 

ここでの、ジョーイ・サンティアゴのフェーザーを噛ませたギターの渋い音色、あるいはフランシスの渋みのある唸るようなボーカルというのは、往年の名作スタジオ・アルバムよりはるかにブルージーな香りに満ちあふれ、そして、深い味わいがこもっている。ここでは、最初のハレー彗星のエピソードから引き出されるロマンチシズム性が十分体感できるように思えます。


ピクシーズという数奇な存在がなぜ、ここまでリスナーからも、また有名なミュージシャンから絶大な支持を受け続けて来たのか、このワシントン州の野外コンサート会場「ゴージアンフィシアター」でのライブ盤においてその理由が示されている。このライブ盤は、十数年前からのファンとしては感慨深く、涙を誘うような淡い情緒のある作品です。オルタナという微妙な線引きのあるジャンルの音楽についてご存じない方は、このライブアルバムの二曲目に収録されている「Wave of Mutilation」(UK Surf)だけでも、是非、一度、聞いてみて下さい。ロックバンド、ピクシーズの偉大さ、アメリカのオルタナティヴロックの本当の凄さが分かっていただけると思いますよ。

 

Happy listening!!


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