New Album Review / Big Thief 「Dragon New Warm Mountain I Believe In You」

Big Thief

 

 

ビック・シーフは、NY州ブルックリン出身のインディーロックバンド。エイドリアン・レンカー、バック・ミーク、マックス・オレアルチック、ジェームス・クリヴチュニアにより2015年に結成された。

 

 

注目のインディー・ロックバンドとして現代アメリカのミュージックシーンに華々しく台頭し、「Masterpiece」、「Two Hands」をはじめとする、これまでに五作のスタジオ・アルバムを残している。次世代のフォーク・ロックを担う若手バンドとして注目を浴びている現在最もホットなロックバンドの一つで、バンドとしての主体的なアプローチの一つであるフォークバラードの他にも北欧トイトロニカにも似た実験的なポップソングを生み出すことでも知られている。

 

2016年のデビュー・アルバム「Masterpiece」が話題を呼び、インディーロック/フォークの気鋭として目される。2017年には、二作目のアルバム「Capacity」を発表する。その後、2019年にはイギリスの名門4ADとの契約を結び、「U.F.O.F」、また同年「Two Hands」をリリースしている。またこの二作はバンドの世界的な知名度を押し上げた出世作として数えられ、「U.F.O.F」はグラミー賞のオルタナティヴ・ミュージック・アルバム部門にノミネートされている。

 

 

 

「Dragon New Warm Mountain I Believe In You」 4AD

 


 

 

Scoring 


Tracklisting

1.Change

2.Time Escaping

3.Spud Infinity

4.Certainly

5.Dragon New Warm Mountain I Believe In You

6.Sparrow

7.Little Things

8.Heavy Bend

9.Flower of Blood

10.Blurred View

11.Red Moon

12.Dried Roses

13.No Reason

14.Wake Me Up to Drive

15.Promise Is a Pendulum

16.12,000 Lines

17.Simulation Swarm

18.Love Love Love

19.The Only Place

20.Blue Lightning

 



ビックシーフの新作アルバム「Dragon New Warm Mountain I Believe In You」は豪華二枚組の構成の凄まじいヴォリュームによって多くのインディーロックファンを活気づけてくれている。この作品がリリースされた瞬間から、いや、それ以前から、海外の音楽メディアでは軒並み最高評価か、それに次ぐ目覚ましい評価を与えられた先週リリースされた作品の中でも最注目のアルバムである。にしても、僅か五ヶ月間のレコーディング期間で、20曲もの楽曲を生み出したこのバンドのクリエイティヴィティの高さにまずは称賛と敬意の念を送っておきたいところである。

 

今回の通算五作目となるビックシーフのアルバムは、ドラマーのジェイムス・ クリヴチュニアのアイディアが元になって制作されている。そこにはこれまでのこのバンドのフォーク・ロックの主体的なアプローチに加えて、打楽器的な実験音楽の要素が付け加えられているあたりがこのアルバムに大きな遊び心を感じさせる。先行シングルとしてリリースされた美しいフォーク音楽「Simulation Swarm」 をはじめとするやさしげな印象を持った聞かせる楽曲に加えて、これらのトイトロニカに近い雰囲気を持つ実験音楽よりの楽曲がアルバム構成全体にヴァリエーションをもたせている。

 

この聴きやすさと音楽家としての創造性の高さという2つの要素が絶妙に相まったことにより、この二枚組の作品を多くのファンにとって長く聴くに足る記念碑的なアルバムとすることだろう。


この作品は4つ、正確に言えば5つのスタジオをまたいで録音されている。NY北部、カルフォルニ州トパンガキャニオン 、アリゾナ州ソノラ砂漠、コロラド山脈、そして、マサチューセッツ州のウェストハンプトンのエルフィン、とアメリカの北部から南部にかけてのスタジオで録音され、それぞれのスタジオで別のエンジニアを起用していることにも注目である。今作は表向きには二枚組の作品ではあるが、ややもすると、4つの短いセクションで構成される四枚組のアルバムと称せなくもない。そして、別の土地で録音されたことにより、その土地の風土というか風合いというか、そういったどこか見知らぬ土地を旅したときのように、それぞれ異なる楽曲において、聞き手に新鮮な風景を音楽によって見せてくれる、そんな作品とも呼べるのである。

 

ジェイムス・クリヴチュニアは、このバンドの楽曲の主なソングライティングを手掛け、またシンガーでもあるエイドリアン・レンカーの作詞、作曲のおける草案ともいうべきものをいかに作品として落とし込むかに専心し、20もの長大なフォーク音楽の叙事詩を生み出すべく知恵を凝らしている。ジェイムス・クリヴチュニアは、アルバム全体のメロディーの良さそのものにリズム的な効果を与え、そして、フォーク音楽でありながらグルーブという概念を付加することに成功している。つまりこの作品は往年のアメリカのフォークロックの懐かしげな色合いを保ちながら、さらにそこに現代的なビートのノリが加わった無敵のアルバムともいえるのである。

 

レコーディング中に、ビックシーフは、Covid-19のパンデミックの結果、2020年の7月にバーモントの森で二週間の隔離を余儀なくされた。しかし、それでもこの隔離という出来事が、ソングライティングの面で、深い瞑想性、内省的な個性を楽曲そのものにもたらした。バンドはこの一種の運命の悪戯ともいうべき出来事を上手く操り、ブラスのエナジーとして昇華することに成功したのである。


それから、NY、アリゾナ、カルフォルニア、そして、コロラドのロッキー山脈、というように、いくつかのスタジオでセッションを重ねながら生み出された苦心作といえるかもしれない。このビックシーフの最新作には、このバンドが2020年にいくつかのアメリカの土地を旅する過程で見た美しい風景が音楽として叙情的に表現されている。それは、このバンドが、往年の古典的なフォーク音楽に対する深いリスペクトを表しているとも言える。いずれにしても、4ADからリリースされたビックシーフの最新作は、これまでのバンドのリリースの中で記念碑としての意味あいを持つ。幾度も聴き込むたび、深く、渋い味わいが滲み出てくる作品かもしれない。

 

 

 

 

 

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