Pjusk&Chihei Hatakeyama 『Svaberg』

 Pjusk&Chihei Hatakeyama   『Svaberg』

 



Fnugg Fonogram


2022.7.7



『Savaberg』は、ノルウェーを拠点に置くエレクトロ・デュオ、Pjusk,そして日本のアンビエント・プロデューサー、畠山地平の三者によって生み出された。リリース元のFnugg Fonogramもノルウェーに本拠を構えるレーベルである。それほど、頻繁なリリースは行っていないし、宣伝もほとんど行っていないが、近年ではカナダのプロデューサーLoscilの作品を発表している。

 

最近、畠山地平は、中国の三国志に題材をとったアンビエント・シリーズ「Void」を連続してリリースしている。Krankyからデビューした畠山は多作なアンビエントプロデューサーであり、デビュー時から一貫してアンビエントドローンの響きを追求している。自宅に複数のアナログミキサーを配置し、アコースティックギターの多重録音により独特なシークエンスを生み出すプロデューサーである。

 

畠山の最新作『Svaberg』 は、ソロ作品の延長線上にある。もっと言えば、最新作の「Void」シリーズの方向性をそのまま受け継いだかのような作品となっている。これまでと同様、ドローンアンビエントのアプローチを図っていて、多次元的でアブストラクトな音響空間が構築されている。

 

今回のノルウェーのエレクトロデュオ、Pjuskがどの程度作品に関わっているのかまでは言及出来ないし、また、実際に合って録音をしたのか、それとも、リモートワークで録音をしたのかまでは不明である。しかし、作品を聞くかぎりでは、おそらくメインプロデューサーは畠山地平が務めているのではないかと思われる。今回の作品『Svaberg』においては、コラボレーションの相乗効果というべきか、Pjuskの作品への参加が近年の畠山の抽象的なアンビエントにタイトさを与え、4曲という少ない収録ではあるものの、ダイナミックな作品に仕上げられている。

 

畠山地平のこれまでの作風と同様、一曲目から最終曲までひとつの「組曲」のような形式で書かれているのは、このアンビエントアーティストらしい作品といえるかもしれない。以前のインタビューにおいて、サティ、ドビュッシーといった近代フランスのアンビエントの源流にある作曲家の音楽を探求している、と畠山地平は語っていたのを覚えているが、特に、クロード・ドビュッシーの後期の作風にも近い抽象性がここに電子音楽という形式を取りながら表現されている。

 

大多数のリスナーは、このクロード・ドビュッシーの前奏曲に収録されている『La cathédrale engloutie(沈める寺)』のような存在感が希薄な音楽をここに見出すと思われる。音楽的に余裕があるため、聞き手の脳裏に何らかの風景を喚起させるかもしれないし、あらかじめ製作者が意図したものではない音を発見するかもしれない。さらに、リスナーは、この作品「Svaberg」をなんらかのデバイスを通じて再生するに際して、「始まったと思ったら、いつの間にか終わっている」ことを発見するかもしれない。いずれにせよそれは、音楽のこれまでとは異なる聞き方があるのを発見することでもある。参加型の音楽ーーこれがアンビエントの最大の醍醐味と言える。

 

聞き手が音楽に従属する(ぶら下がる)のではなく、それとは正反対に音楽に参加する能動的な余地がこの作品には込められている。それは、聞き手が音楽を通して自己という存在を認識するがゆえ、聞き手に多くに安心や癒やしの効果を与える。例えば、どぎつく迫力がある強烈な印象を持つ音楽は、確かに、聞き手に、いっときの精神的高揚を与えるかもしれないが、聞きすぎたとたん、疲れる音楽に変わる。それはなぜかというと、キャラクター、存在感を突き出した音楽を聞いている際、リスナーは、その場から消えているからである。その点に関していえば、今回の三者のプロデューサーは、ブライアン・イーノと同じように、聞き手を音楽の中に参加させる余地を与えている。『Svaberg』は、近年の畠山の作風と同じく、キャラクターや存在感を主張する音楽とはおよそ対極にあるアプローチが図られていることにも着目したい。

 

 

Critical Ratings:

82/100



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