Weekly Recommendation  Julia Jacklin 『Pre Pleasure』

 Weekly Recommendation   

 

Julia Jacklin 『Pre Pleasure』

 



 

Label:  Transgressive/Polyvinyl/Liberation

Release:  2022年8月26日



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Review

 

今週の一枚として、紹介するのは、オーストラリアのシンガーソングライターのジュリア・ジャックリンの最新アルバム「Pre Pleaure」となります。既に、前二作のスタジオ・アルバムで大成功を収めたジュリア・ジャックリンは、オーストラリア国内での不動の人気ソングライターとしての地位を築きあげただけにとどまらず、国外でもその名を知られるようになってきている。

 

共同プロデューサーにマーカス・パキン(The Weather Station, The National)を迎え、モントリオールで録音された「Pre Pleasure」は、ジュリア・ジャックリンがカナダを拠点に活動しているバンド、ベーシストのベン・ホワイトリーとギタリストのウィル・キッドマン(ともにカナダのフォークバンドThe Weather Station)とチームを組んでいる。また、ドラマーのLaurie Torres、サックス奏者のAdam Kinner、プラハのフルオーケストラで録音されたOwen Pallett (Arcade Fire)のストリングスアレンジメントもいくつかの楽曲の中で取り入れられる。

 

ジュリア・ジャックリンはこのレコードの楽曲は、「書くのに三年かかったか、三分かかったかのどちらか」と報道資料を通じて説明しているが、少なくとも、彼女はここで敬愛する歌手、セリーヌ・ディオンの影響下にある心地よいポピュラーミュージックを展開している。

 

表面上では、これらの収録曲は、最近のトレンドに沿ったベッドルーム・ポップという形で提示されてはいるものの、それだけではなく、このシンガーソングライターの内面を表現するかのように、多彩な表現が込められている。そしてジャクリンは日常で体験した感情をそのまま様々なスタイル、ーーポピュラーソング、ギターロックーーとして表現している。それは時に、「Love Try~」で見られるように、重苦しいヘヴィーロックのような雰囲気を持って胸に迫ってくる楽曲もある。繊細で叙情的でありながら、ジュリア・ジャックリンの歌声、楽曲そのものは不可思議な現実感を兼ね備えている。これがなぜかについては、このシンガーソングライターの以下の言葉の中に現れている。 

 

「人生を楽しむ前に、全ての仕事をしなければならないと感じることがよくある。曲の制作であれ、セックスであれ、友情であれ、家族との関係であれ、一生懸命に取り組めば、いずれ楽しめるようになる、と思っているのかもしれない。でも、そんなことはない。全てはすべては現在進行形なのだから」

 

と語るように、ジュリア・ジャックリンは、キャッチーなポピュラー・ソングを舞台女優のように明日を夢見て歌いながら、現在に根ざした生々しい直接的な感情表現を込めており、そして、それはときにかなり苛烈な表現性になっている。 もちろん、プラハのフルオーケストラのアレンジメントはジャックリンの高い作曲能力にドラマ性、ストーリー性を付加していることは確かだ。

 

オープニング「Lydia Wears A Cross」ではベッドルームポップのスタイルを取っている。しかし、歌は、常に内面と深くリンクするような形で行われており、夢想的な雰囲気を漂わせつつも、やはりリアリズムの方に重点が置かれている。その他、内省的なポピュラー・ソングとしてアルバムの中で鮮烈な印象を放つ「Ignore Tenderness」では、ギルバート・オサリバンのようなクラシカルなポップスに重点を置いた良質な楽曲で聞き手を魅了するが、ここでも内面を抉るようなかなり強い表現が込められている。

 

アルバムの中盤を彩るのは、近年のトレンドのオルタナティヴ・フォークに触発された楽曲が中心となっており、「Less Of Stranger」、「Moviegoer」「Magic」と一連の静かで内省的で心地よい流れを形作っている。これらの曲は、アルバム序盤と終盤をつなげる連結部に近い役割をもっており、作品全体にバランス感覚を与え、終盤にかけての流れを盛り上げるための引き、言わば助走のようなセクションを設けている。

 

アルバムの終盤部を形成する「Be Careful With Yourself」では、その流れを受け、高く、そして美しく音楽が完成へと向かっていく。このシンガーソングライターの曲のひとつの核心ともいえるクランチギターが心地よいドリーム・ポップと対比をなしながら、見事な融合を果たしている。この曲において、ジュリア・ジャックリンは再度、アルバム序盤のように直情的に歌ってみせることにより、大がかりなスケールを持つインディーロックアーティストとしての真価を示している。さらに、クロージング・トラック「End Of Freindship」で、映画音楽のようなワイルドかつ叙情的な雰囲気を漂わせ、プラハのフルオーケストラのゴージャスなストリングスアレンジの力を借り、このアルバムはドラマティックかつダイナミックなエンディングを迎えるに至る。

 

 

85/100

 


Weekend Featured Track  「End of A Friendship」

 

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