Album Of The Year 2025 Vol.1
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毎年のようにアルバムオブザイヤーのリストを眺めていますと、年々、目録そのものが膨大になり、内容もまた濃密になっているという気が致します。私自身もすべてを把握しているというわけではございませんが、今年の音楽の流れを見ていると、ジャンルを問わず、全体的にポップ化しているという印象を受けます。ポップ化というのは、音楽が一般化されるということで、より多くのリスナーを獲得したいというミュージシャン側の意図も読み解くことができます。
日に日に、ジャンルそのものは多様化し、細分化しているため、以前のようなロックやポップという大まかなジャンルというのはさほど意味をなさなくなってきています。それが全体的なクロスオーバーの流れを象徴づけており、ポップアーティストがロックに傾倒したり、対照的にロックアーティストがポップソングを制作したりというように、音楽そのものはより多様化しています。これもまた、イギリスやアメリカといった音楽の主要な産業地の特色です。なおかつ、今年はこれまであまり大きな注目を受けてこなかった地域のアーティストの活躍が目立ちました。
アフリカ圏のミュージシャンが音楽産業の主要地のレーベルから登場した事例や、イスラム圏の音楽家の活躍も目立ち始めています。また、ドイツのミュージシャンの活躍も際立っていました。今までワールドミュージックとして認識されてきた地域の音楽がメインストリームに現れたことに加え、音楽という分野が往古から栄えてきた地域で復興運動が沸き起こっています。これを音楽のルネッサンス運動とまでは明言することは出来かねますが、面白い流れが見出せます。
今日のグローバル化した世界はさまざまな人種や文化を内包させながら、変化していくなさかにある。我々の時代は次なる段階を迎えつつあり、雑多な文化を取り込み、明日の世界は形作られていく。世界的な文化観が形成されていく中で、同時に、もう一つカウンター的な流れを捉えることも出来ます。それが独自のローカライゼーション(地域化)に注目するグループであり、これは''その土地の特性や風土を生かした音楽を打ち出す''というスタイルに他なりません。
従来の世界において音楽という分野は社会と連動してきた経緯があります。なぜなら、音楽という行為は、大小を問わず、個人や大衆の社会の姿を映し出すものであり、世界そのものだからです。結局のところ、グローバル/ローカルという分極化こそ、2025年のミュージックシーンの核心でもありました。また、それこそが今日の社会における課題ともなっています。その二つの潮流を捉えきれなかった場合は、音楽シーン全体がきわめて混雑した印象を覚えたのではないかと思います。惜しくもここで紹介することが出来なかったアルバムもいくつかありますが、何卒ご了承下さい。
いずれにせよ、例年より強力なベストアルバムリストを年末年始の休暇にお楽しみください。リストは基本的に発売順で順不同です。
▪️EN
Every year as I look through the lists of Albums of the Year, I feel that the catalog itself grows more enormous and its content more dense with each passing year. While I don't claim to be familiar with everything myself, observing this year's musical trends gives me the impression that, regardless of genre, there's an overall shift towards pop. This pop-oriented trend signifies music becoming more mainstream, and I can also discern the musicians' intention to reach a wider audience.
Day by day, genres themselves are diversifying and becoming more fragmented, making broad categories like rock or pop less meaningful than before. This symbolizes the overall crossover trend, where music itself is becoming more diverse—pop artists leaning into rock, or conversely, rock artists creating pop songs. This is also characteristic of major music industry hubs like the UK and the US.Furthermore, this year saw notable success from artists in regions that haven't received much significant attention until now.
Examples include African musicians emerging on major labels in key music industry hubs, and the growing prominence of musicians from Islamic regions. German musicians also stood out significantly.Beyond the emergence of music from regions previously categorized as "world music" into the mainstream, a revival movement is stirring in areas where music has flourished since ancient times. While it may be premature to explicitly call this a musical renaissance, an intriguing trend is certainly emerging.
Today's globalized world is in a state of flux, encompassing diverse races and cultures. Our era is approaching the next stage, incorporating varied cultures to shape tomorrow's world.Amidst the formation of a global cultural perspective, we can simultaneously discern another counter-current. This involves groups focusing on unique localization, which is nothing less than a style that "produces music utilizing the characteristics and climate of the land."
Historically, music has been intertwined with society. This is because music, regardless of scale, reflects the social reality of individuals and the masses—it is the world itself. Ultimately, this dichotomy of global versus local was at the core of the 2025 music scene. Moreover, it represents a major societal challenge today. Without recognizing these two currents, the entire music scene might have seemed overwhelmingly crowded. Unfortunately, there are some albums we were unable to feature here, but we kindly ask for your understanding.
In any case, please enjoy our year-end holiday with a best albums list that's stronger than ever!!
1. Moonchild Sanelly 『Full Moon』- Transgressive (Album Of The Year 2025)
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南アフリカのダンスミュージック、アマピアノ、Gqomから 「フューチャー・ゲットー・ファンク」と呼ばれる彼女自身の先駆的なスタイルまで、南アフリカの固有ジャンルを多数網羅したディスコグラフィーを擁する。ムーンチャイルド・サネリーは、ビヨンセやティエラ・ワック、ゴリラズ、スティーヴ・アオキなどのアーティストとコラボレートしてきた南アフリカのスーパースター。
エレクトロニック、アフロ・パンク、エッジの効いたポップ、クワイト、ヒップホップの感性の間を揺れ動くクラブビートなど、音楽的には際限がなく、幅広いアプローチが取り入れられている。サネリーは、サウンド面でも独自のスタイルを確立しており、オリジナルファンから愛されてやまないアマピアノと並び、南アフリカが提供する多彩なテックハウスのグルーヴを強調付けている。サネリーのスタジオでの目標は、ライブの観客と本能的なコネクションを持てるような曲を制作することである。さらに、彼女は観客に一緒に歌ってもらいたいと考えている。
最新アルバム『Full Moon』において、サネリーは自分自身と他者の両方を手放し、受容という芸術をテーマに選んだ。曲作りの過程では、彼女は自己と自己愛への旅に焦点を絞り、スタジオはこれらの物語を共有し、創造的で個人的な空間を許容するための場所の役割を担った。
彼女が伝えたいことは、外側にあるものだけとは限らず内的な感覚を共有したいと願ってやまない。それは音楽だけでしか伝えづらいことは明らかだろう。「私の音楽は身体と解放について歌っている。自分を愛していないと感じることを誰もOKにはしてくれない」と彼女は説明する。BBCの音楽番組で放映された「Do My Dance」は、最高の陽気なクラブビート。同時に、アルバムの後半に収録されている「Mintanami」もアフリカンポップの名曲に挙げられる。
「Do My Dance」
2.Mogwai 『The Bad Fire』- Rock Action
この数年、スコットランドのモグワイは、2020年のEP『Take Side』を除いては、その仕事の多くがリミックスや映像作品のサウンドトラックのリリースに限定されていた。見方によってはスタジオミュージシャンに近い形で活動を行っていた。
『The Bad Fire』は、四人組にとって久しぶりの復帰作となる。以前はポストロックの代表的な存在として活躍したばかりではない。モグワイは音響派の称号を得て、オリジナリティの高いサウンドを構築してきた。
『The Bad Fire』は、”労働者階級の地獄”という意味であるらしい。これらは従来のモグワイの作品よりも社会的な意味があり、世相を反映した内容となっている。モグワイのサウンドは、シューゲイズのような轟音サウンド、そして反復構造を用いたミニマリズム、それから70年代のハードロックの血脈を受け継ぎ、それらを新しい世代のロックへと組み替えることにあった。ミニマリズムをベースにしたロックは、現代の多くのバンドの一つのテーマともいえるが、モグワイのサウンドは単なる反復ではなく、渦巻くようなグルーブ感と恍惚とした音の雰囲気にあり、アンビエントのように、その音像をどこまで拡張していけるのかという実験でもあった。
それらは彼らの代表的な90年代のカタログで聴くことができる。そして、この最新作に関して言えば、モグワイのサウンドはレディオヘッドの2000年代始めの作品と同様に、イギリスの二つの時代の音楽を組み合わせ、新しいハイブリッドの音楽を生み出すことにあった。エレクトロニックとハードロック。これらは、彼らがイギリスのミュージック・シーンに台頭した90年代より以前のおよそ二十年の音楽シーンを俯瞰して解釈したものであったというわけなのだ。復活という言葉が最適かはわからない。しかし、モグワイのサウンドは、依然としてクラシック音楽のように、ロックの伝統に定着しており、鮮烈な印象をもって心を捉えてやまない
「What Kind of Mix Is This?」
3.Lambrini Girls 『Who Let The Dog Out』- City Slang
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ランブリーニ・ガールズはブライトンを拠点に活動するヴォーカリスト/ギタリストのフィービー・ルニーとベーシストのリリー・マキーラによるデュオ。
ランブリーニ・ガールズは、ライオット・ガールパンクの先駆者的な存在、Bikini Kllを聴いて大きな触発を受けたという。そして、彼女たちもまた、次世代のライオット・ガールのアティテュードを受け継いでいるのは間違いない。今年、グラストンベリー・フェスティバルに出演し、話題を呼んだ。記念すべきデビュー・アルバムは、痛撃なハードコア・パンクアルバムである。ユニットという最小限の編成ではありながら、かなり音圧には迫力がある。このアルバムで、ランブリーニ・ガールズは、有害な男らしさについて言及し、痛撃に批判している。
実際的に、ランブリーニ・ガールズのボーカル(実際にはスポークンワードとスクリームによる咆哮)にはっきりと乗り移り、すさまじい嵐のようなハードコアサウンドが疾駆する。実際的には、ランブリーニガールズのパンクは、現在のポスト・パンクの影響がないとも言いがたいが、Gorlilla Biscuits、Agnostic Frontといった、ニューヨークのストレート・エッジがベースにありそうだ。アルバムの中では「You're Not From Around Here」がとてもかっこよかった。
「You're Not From Around Here」
4.Franz Ferdinand 『The Human Fear』- Domino
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本当に良かったと思うのが、フランツ・フェルディナンドの音楽がいまだに古びず、鮮烈な印象を擁していたことである。アークティック・モンキーズやホワイト・ストライプスと並んで、2000年代のロックリバイバルをリードしたのがフランツ・フェルディナンドであった。
彼らはライブ・バンドとしての威厳を示し、そしてレコーディングでもいまだにリアルタイムのバンドとしての存在感を示している。このアルバムは、2013年の『Right Thoughts, Right Words, Right Action』でバンドと仕事をしたマーク・ラルフがプロデュースした。
人類の恐怖について主題が絞られているが、それは恐れを植え付けるものではない、それとは対象的に、そこから喜びや楽しさを見出すということにある。「このアルバムの制作は、私がこれまで経験した中で最も人生を肯定する経験のひとつだった。恐怖は、自分が生きていることを思い出させてくれる。私たちは皆、恐怖が与えてくれる喧騒に何らかの形で中毒になっているのだと思う。それにどう反応するかで、人間性がわかる。だからここにあるのは、恐怖を通して人間であることのスリルを探し求める曲の数々だ。一聴しただけではわからないだろうけど」
新メンバーを加え、ダンスロック/ディスコロックの英雄は、新しい記念碑的なカタログを付け加えることに成功した。本作には混じり気のないロックソングの魅力が凝縮されているように思える。 ある意味では、フランツ・フェルディナンドというバンド名の由来に回帰するような作品である。20年経っても音楽の軸は変わらない。これはこのバンドの流儀ともいうべきもの。
「Night or Day」
5.Sam Fender 『People Watching』- Polydor (Album of The Year 2025)
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ニューカッスル出身のソングライター、サム・フェンダーはデビュー当時から、アーティストとはどのような存在であるべきか、真面目に考えてきた人物である。デビュー当時は、メンタルヘルスに問題を抱え自殺する若者など、社会的な弱者に対するロックやポップソングを提供してきた。
テーマは年代ごとに変化し、現在では、アルバムのタイトル曲のテーマである天国にいる代理母に歌を捧げた、音楽性は、デビュー当時の延長線上にあるが、より音楽はドラマティックさをまし、多くの音楽ファンの心に響く内容となった。これは、私自身の言葉ではないが、ある人物がこのように言っていた。オアシスはみんな勇気を持つようにということを歌っていたが、サム・フェンダーはできなくても良いんだと許容する存在である、と。これは、社会的な人間の役割や努力の限界性を象徴づけるものである。ロックやポップソングが時代とともにその内容も変化してきている。今作は、英国内の主要な音楽賞(マーキュリー賞)を獲得したことからも分かる通り、現代のUKロック/ポップを象徴付ける画期的な作品ともいえるかもしれない。
ニューカッスルのスタジアムの公演を前に体調不良でキャンセルしたフェンダーさんであったが、今作を期に、英国の音楽シーンをリードするトップランナーであることを再び証明している。
「Remember Me」
6.Anna B Savage 『You & I are Earth』- City Slang
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アイルランドを拠点に活動を行うAnna B Savageは、三作目のアルバムにおいて、地球や自然、そして人間たちがどのように共生すべきかをオーガニックな風合いに満ちたフォークミュージックと詩により探索している。 こういったアルバムを聴かないうちはなにもはじまらない。
音楽的な舞台はアイルランド。サヴェージと当地のつながりは、およそ10年前以上に遡り、マンチェスターの大学で詩を専攻していたときだった。「シアン・ノーの歌についてのエッセイ、カートゥーン・サルーンのものを見たり、アイルランドの神話について読んだりした」という。
以来、アンナ・B・サヴェージは多くの時間をアイルランド西海岸で過ごしている。ツアー(今年はザ・ステイヴスやセント・ヴィンセントのサポートで、以前にはファーザー・ジョン・ミスティやソン・ラックスらとツアーを行った。その合間には、故郷のドニゴール州に戻り、仕事のためにロンドンを訪れ、当地の文化的な事業に携わっている。
アイルランド/スライゴ州の森林地で撮影された写真で、サヴェージが木々を見上げ、そのフラクタルが彼女の目に映し出されている。彼女が瞑想中に感じた何かを映し出し、私たちを一回りさせる。私たちは本質的に一体で、少なくともそうあろうと努力しており、「あなたと私は地球」という感覚に立ち戻らせる。 「You & I are Earth」はその名の通り、安らぎのフォークミュージックをお探しの方に最適な一枚である。同時に、このアルバムは自然と人間の関係について深く思案させる。メッセージとしても今後の共生のあり方が、それとなく問われているのだ。
「You & I are Earth」
7.FACS 『Wish Defense』- Trouble In My Mind (Album of The Year 2025)
シカゴのブライアン・ケース率いる、Facsのアルバム『Wish Defense』は今年一番の衝撃だった。ポストロックやアートロックの完成形であり、アヴァンギャルドミュージックの2025年の最高傑作の一つである。アルビニのお膝元である同地の”エレクトリカル・オーディオ・スタジオ”で録音されたが、奇妙な緊張感に充ちている。例えれば真夜中のスタジオで生み出されたかのようで、人が寝静まった時間帯に人知れずレコーディングされたような作品である。トリオというシンプルな編成であるからか、ここには遠慮会釈はないし、そして独特の緊張感に満ちている。それは結局、スティーヴ・アルビニのShellac、Big Blackのアプローチと重なるのである。
さながらこのアルバムがアルビニの生前最後のプロデュースになると予測していたかのように、ブライアン・ケースを中心とするトリオはスタジオに入り、二日間で7曲をレコーディングした。生前のアルビニが残したメモを参考に、ジョン・コングルトンが完成させた。要するに、名プロデューサーのリレーによって完成に導かれた作品である。『Wish Defense』は、80年代のTouch & Goの最初期のカタログのようなアンダーグラウンド性とアヴァンギャルドな感覚に充ちている。どれにも似ていないし、まったく孤絶している。その劇的なロックサウンドは、まさしくシカゴのアヴァンギャルドミュージックの系譜を象徴づけるといえるだろう。結局、このサイトは、こういったアンダーグランドな音楽を積極的に推すために立ち上がったのだ。
「Ordinary Voice」
8.Miya Folick 『Erotica Veronica』- Nettwerk Music Group
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ロサンゼルスのシンガーソングライターのミヤ・フォリックは、2015年の『Strange Darling』と2017年の『Give It To Me EP』という2枚のEPで初めて称賛を集めた。2018年にインタースコープから発売されたデビューアルバム『Premonitions』は、NPR、GQ、Pitchfork、The FADERなど多くの批評家から称賛を浴びたほか、NPRのタイニー・デスク・コンサートに出演し、ヘッドライン・ライヴを完売させ、以降、ミヤは世界中のフェスティバルに出演してきた。
ミヤ・フォリックは、このアルバムにおいて、自身の精神的な危機を赤裸々に歌っており、それは奇異なことに、現代アメリカのファシズムに対するアンチテーゼの代用のような強烈な風刺やメッセージともなっている。アルバムの五曲目に収録されている「Fist」という曲を聞くと、見過ごせない歌詞が登場する。これは個人の実存が脅かされた時に発せられる内的な慟哭のような叫び、そして聞くだけで胸が痛くなるような叫びだ。これらは内在的に現代アメリカの社会問題を暗示させ、私達の心を捉えて離さない。時期的には新政権の時代に書かれた曲とは限らないのに、結果的には、偶然にも、現代アメリカの社会情勢と重なってしまったのである。
本作が意義深いと思う理由は、ミヤ・フォリックの他に参加したスタジオ・ミュージシャンのほとんどがメインストリームのバックミュージシャンとして活躍する人々であるということだろう。このアルバムは、確かにソロ作ではあるのだけれど、複数の秀逸なスタジオ・ミュージシャンがいなくては完成されなかったものではないかと思う。特に、 メグ・フィーのギターは圧巻の瞬間を生み出し、全般的なポピュラー・ソングにロックの側面から強い影響を及ぼしている。非常に力感を感じさせるアルバムだ。インディーロック/インディーポップのどちらとして聞いても粒ぞろいの名曲が揃っている。「Fist」、「Love Want Me Dead」は文句なしの名曲。
「Love Want Me Dead」
9.Bartees Strange 『Horror」- 4AD
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前作では「Hold The Line」という曲を中心に、黒人社会の団結を描いたバーティーズ・ストレンジ。2作目はなかなか過激なアルバムになるのではと予想していたが、意外とそうでもなかった。しかし、やはり、バーティーズ・ストレンジは、ブラックミュージックの重要な継承者だと思う。どうやら、バーティーズ・ストレンジは幼い頃、家でホラー映画を見たりして、恐怖という感覚を共有していたという。どうやら精神を鍛え上げるための訓練だったということらしい。
この2ndアルバムは「Horror」というタイトルがつけられたが、さほど「ホラー」を感じさせない。つまり、このアルバムは、Misfitsのようでもなければ、White Zombieのようでもないということである。アルバムの序盤は、ラジオからふと流れてくるような懐かしい感じの音楽が多い。その中には、インディーロック、ソウル、ファンク、ヒップホップ、むしろ、そういった未知なるものの恐怖の中にある''癒やし''のような瞬間を感じさせる。
もしかすると、映画のワンシーンに流れているような、ホッと息をつける音楽に幼い頃に癒やされたのだろうか。そして、それが実現者となった今では、バーティーズがそういった次の世代に伝えるための曲を制作する順番になったというわけだ。ホラーの要素が全くないとは言えないかもしれない。それはブレイクビーツやチョップといったサンプルの技法の中に、偶発的にそれらのホラー感覚を感じさせる。たとえ、表面的な怖さがあるとしても、その内側に偏在するのは、デラソウルのような慈しみに溢れる人間的な温かさ、博愛主義者の精神の発露である。これはむしろ、ソングライターの幼少期の思い出を音楽として象ったものなのかもしれない。
『Horror』は単なる懐古主義のアルバムではないらしく、温故知新ともいうべき作品である。例えば、エレクトロニックのベースとなる曲調の中には、ダブステップの次世代に当たる''フューチャーステップ''の要素が取り入れられている。こういった次世代の音楽が過去のファンクやヒップホップ、そしてインディーロックなどを通過し、フランク・オーシャン、イヴ・トゥモールで止まりかけていた、ブラックミュージックの時計の針を未来へと進めている。おそらく、バーティーズ・ストレンジが今後目指すのは"次世代のR&B"なのかもしれない。
「Norf Gun」
10.Annie DiRusso 『Super Pedestrian』-Summer Soup Songs(Album of The Year 2025)
アルバムの中に収録されたたった一曲が、そのアルバムやアーティストのイメージを変えてしまうことがある。『Super Pedestrian』の最後に収録されている「It's Good To Be Hot In The Summer」は感動的な一曲だった。3月に発売されたアルバムだが、圧倒的に夏のイメージが強い。
ナッシュビルで活動するソングライター、アニー・デルッソ(Annie DiRusso)は、「『Super Pedestrian』は、私という人物を表現していると思うし、「It's Good To Be Hot In The Summer」は、このアルバムの趣旨をよりストレートに表現していると思う。ようするにデビューアルバムとしては、少し自己紹介のようなことをしたかったんだと思う」という。
アーティスト自身のレーベルから本日発売された『Super Pedestrian』には、デルッソが2017年から2022年にかけてリリースした12枚のシングルと、高評価を得た2023年のEP『God, I Hate This Place』で探求したディストーションとメロディの融合をベースにした切ないロックソングが11曲収録されている。 これらのレコーディングはすべてプロデューサーのジェイソン・カミングスと共に行われ、新作は2023年にミネアポリスで行われたショーの後にディルッソが出会ったケイレブ・ライト(Hippo Campus、Raffaella、Samia)が指揮を執った。
「ジェイソンとの仕事は好きだったし、長い付き合いと仕事のやり方があった。けれど、今回のフルレングスのアルバムでは、自分のサウンドをどう広げられるか、何か違うことをやってみたいと思った。いろいろなプロデューサーと話をしたんだけど、ケイレブというアイディアに戻った」
本作は2024年2月と3月にノースカロライナ州アッシュヴィルのドロップ・オブ・サン・スタジオで録音された。 『スーパー・ペデストリアン』の公演では、彼女が歌とギターを担当し、マルチインストゥルメンタリストのイーデン・ジョエルがベース、キーボード、ドラム、追加ギターなどすべての楽器を演奏した。 今作には共作者のサミア(「Back in Town」)とラストン・ケリー(「Wearing Pants Again」)がゲスト・バッキング・ヴォーカルとして参加している。アニーは、Samia、Soccer Mommyとのツアーを経験している。これからの活躍が非常に楽しみなソングライターだ。
「It's Good To Be Hot In The Summer」















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