【Weekly Music Feature】 The Belair Lip Bombs 『Again』

Bridie Fizgerald
 

ビクトリア州の海岸沿いの町/フランクストン出身の4人の友人(メイジー、マイク、ジミー、デヴ)で構成されるザ・ベレア・リップ・ボムズは、グループの強い絆と友情によって結ばれた、心温まるキャッチーなインディーロックソングを紡ぎ出す。オーストラリアの最重要グループだ。


メイジー・エヴァレット(ボーカル、ギター)を中心に2017年に結成。この頃まだ彼らは学校を卒業したばかりだった。メルボルンで活動を開始し、テレヴィジョンやローリング・ストーンズの古典的なロックを参照しながら、現代のインディーロックの要素と融合させ、独自のサウンドを追求してきた。ライブ活動を通じて、レディホーク、スペイシー・ジェーン、スローリー・スローリー、タイアード・ライオン、ティーン・ジーザス・アンド・ジーン・ティーザーズ、ブリティッシュ・インディアなど地元アーティストのサポートを務め、支持を集めた。


2018年にはデビュー作となるセルフタイトルをリリース。6曲収録のEPは、ラウドロックの影響と90年代グランジのギターサウンドが特徴だった。2019年には『Songs to Do Your Laundry To』でサウンドを拡大。3曲構成のこのEPでは、インディーロックとポップのサウンドを探求している。すでに現在のリップ・ボムズのサウンドの萌芽をこの時代に捉えることが出来る。


2020年を通じてサウンドを洗練させたザ・ベレア・リップ・ボムズは、初期の傑作トラック「Blah Blah Blah」と「Golden  Skin」の成功を受け、2021年にシングル「Out of Here」を発表した。切実で恋患いのロックソングは、キャッチーで洗練され、誠実なポップソングを書くタレントを象徴づけていた。サウンド的に多様で刺激的な初期活動で経験を積んだ彼らは、2023年の『Lush Life』で決定的な声明をおおやけにした。この作品は、憧れ、新たな地平の探求、満足と自己実現への新たな道発見といった物語を、喚起力ある探求で紡ぎ出す。 デビューアルバムが入り口、第一印象となるなら、ザ・ベレア・リップ・ボムズの初作品は、バンドが真に自らの音を見出していく過程を、鮮やかで情感豊かな肖像画として描き出している。


当初オーストラリアのレーベル、Cousin Will Recordsからリリースされた『Lush Life』は、海を渡り、米国のジャック・ホワイトのThird Man Recordsを通じて再発され、同レーベル初のオーストラリア作品となるだけでなく、バンドとレーベル間の新しい関係の始まりを告げた。ボーカルのメイジーは、「他のレーベルはストリーミング再生数を尊重するが、Third Manはそうではなかった」と語る。バンドの本質的な魅力を見抜いたレーベルへ尊敬を示している。


『Lush Life』リリース後、バンドはオースティンのSXSWフェスティバルや英国のThe Great Escapeなど、世界中でパフォーマンスを披露した。 オーストラリア国内では2024年、ザ・ベレア・リップ・ボンブスはレーンウェイ・フェスティバルやゴールデン・プレインズに出演した。さらに、ホッケー・ダッド、ミリタリー・ガン、ブロンズシェルらをサポートする全国ツアーも実施した。また、オーストラリア、ニュージーランド、英国/EUでのヘッドラインツアーを多数展開し、ロンドン、メルボルン、ブリスベンなどでソールドアウト公演を達成している。


現在、ザ・ベレア・リップ・ボムズは、ギタリスト/ボーカリストのメイジー・エヴァレット(パンクトリオ「CLAMM」ではベースも担当)、ギタリストのマイク・ブラドヴィカ、ベーシストのジミー・ドラウトン、ドラマーのリアム・デ・ブルイン(自身の名義でメルボルンのレーベル「Heard & Felt」からエレクトロニックミュージックもリリース)で構成されている。


本日、Third Manより発売される待望の二作目のアルバム『Again』は、「パンチのある、フック満載のロック・レコード…。サウンドはストレートだが、その構築はほとんど完璧である」とガーディアンに評されたデビューアルバムに続く作品である。 『Again』は、オーストラリアの隠れた名物的なバンドにとって新たな章の始まりとなる。結成8年目を迎えた彼らは、真摯な姿勢と強烈に耳に残るパワーポップの楽曲構成で、地元に確固たるファン層を築いてきた。


10年の記念すべき節目を迎えるにあたって、ザ・ベレア・リップ・ボムズは情熱的でキレのあるシングル曲を通じて、ボーカル兼ギタリストのメイジーが「恋慕ロック」と表現する独自の美学を磨き上げている。『Again』の制作にさいして、バンドはこれまで以上に個々の影響を融合させ、スキップなしのストレートなインディーロック・アンセム集を創り上げた。 10曲の躍動感あふれる新曲群は、バンドのDIYインディーロックスタイルを力強く洗練させている。


セカンドアルバム『Again』はバンド自身のメンバーに加え、ナオ・アンザイ(ザ・テスキー・ブラザーズ)、ジョー・ホワイト(ローリング・ブラックアウト・コースト・フィーバー)がプロデュースを担当した。ベルエア・リップ・ボンブスがプロデューサーと初めてタッグを組んだ作品となった。



 The Belair Lip Bombs 『Again』- Third Man 



The Belair Lips Bombs(べレア・リップ・ボムズ)のセカンド・アルバム『Again』は、気軽に楽しめるインディーロックアルバムで、比較的多くのリスナーに支持されそうな気配がある。音楽性こそ異なるが、このレーベルのボスのホワイト・ストライプスのデビュー当時のようなシンプルなロックの魅力を伝えるバンドでもある。セカンド・アルバムの音楽は、同じくオセアニア圏のThe Bethのスタイルに近似するが、べレア・リップ・ボムズの場合はよりポップソングに傾倒している。そのサウンドの中には、パンクやパワー・ポップの要素も含まれているが、ボーカルそのものはかなり現代の米国のポップの主流アーティストに近く、サブリナ・カーペンターのようなトレンドのポップソングを思い浮かばせる。また、その中には、それ以前の2000-2010年代のポップソングの影響もあるかもしれない。いずれにしても、そのサウンドには、Yumi Zouma、Middle Kidsのようなキャッチーなサウンドが織り交ぜられている。

 

しかし、このバンドのサウンドの最も個性的な箇所は、スコットランドの民謡の要素にある。メイジー・エヴァレットはスコットランドにルーツを持つらしく、ケルト民謡の要素が、フィドルの弦楽器の断片的な影響や実際的な演奏で明らかにされる。 これらは、ボストンなどの地域では、Dropkick Murphysのような豪快なパンクハードコアと融合されるわけなのだが、べレア・リップ・ボムズの場合は、少なくとも、ポップロックやポップパンクの要素が強調されている。

 

そのサウンドの中には、米国西海岸の2000年代のNew Found Glory、あるいは、南部のテキサスのBowling For Soupからのメロディックパンクの影響も感じられるが、疾走感は全体的に抑えめで、ミドルテンポの楽曲が多いため、ハードロックやパワー・ポップの印象が強い。べレア・リップ・ボムズのロックソングのスタイルは、ギターソロが明確に強調される場合もあるため、Goo Goo Dolls、Bryan Adamsといった、いわゆる北米のロックの代表格の音楽に準じたシンプルな内容である。これらは楽曲そのものの掴みやすさをもたらす一方で、彼らのオルタナティヴからの影響、グランジやパワーポップからの影響が、コアでニッチなリスナーにも共鳴するサウンドを発現させるのである。また、同時に、そのロックサウンドには網羅性があり、ペット・ショップ・ボーイズのようなシンセ・ポップの要素も含まれている。これらの多彩な音楽性が結びつき、現在のべレア・リップ・ボムズの音楽性が成立している。また、ヤング兄弟ほど天才的ではないにせよ、AC/DCの系譜にあるブギーのギターリフ、それからロカビリーとパンクが結びつくと、Social Distortionのような硬派なパンクソングに変化することもある。

 

「最近まであまりメルボルンの音楽は世界的に紹介されてこなかった」と不満をあらわにするボーカリスト、メイジーであるが、同時に、最近では、パンク勢を中心に世界的な知名度を持つバンドも出てきた。Amyl & The Sniffers、Middle Kids、Coutney Bournettに続く存在が彼らであり、ジャック・ホワイトのサードマンからのリリースによりワールドワイドなバンドとなるチャンスをつかもうとしている。このセカンドアルバムは、その可能性を十分にはらんでいる。現在、絶対的な存在が不在の中、キャッチーなインディーロックソング、時折、キャンディーのように甘い感じを持つ恋愛を中心にしたロックソングは若い世代の心を捉えそうだ。

 

アルバムの冒頭を飾る「Again and Again」はイントロはロカビリー風のパンクで、ローファイな感じに満ちたサウンドで始まるが、その後、スコットランド民謡を元にした祝祭的なロックソングが始まりを告げる。AC/DCがボン・スコット在籍時のデビューアルバムの「It's A Long Way To The Top」において明確にスコットランドのバグパイプのサウンドを強調付けたように、どことなくイギリス的な風土の雰囲気を簡素なロックソングを通じて強調させる。 これらは華やかな印象を持って、イギリスからの移民の多いオーストラリアの文化性を象徴付ける。しかし、従来の男臭い感じのロックのスタイルは時代の変遷を経て、よりフェミニンなロックのスタイルへと変貌している。また、同時に、この曲に個性味をもたらしているのが、フォーク・ソングやロカビリーの要素である。厳密に、オーストラリアにフォークソングが存在するのかは不明であるが、これらの音楽的な性質が、どことなく泥臭く渋い音楽性を発露させる。しかし、一貫して、ボーカルのメロディーはポップで、一般受けをする内容となっている。

 

正確に言えば、デビューしたてのロックバンドとは言えないかもしれないが、アメリカでの最初のデビューということもあり、鮮烈なイメージに満ち溢れた楽曲が中心となっている。その中には、ウルル(エアーズ・ロック)のような雄大な印象に満ちたロックサウンドもあり、時々、今や解散してしまった、Camp Copeのような哀愁を漂わせることもある。アメリカナイズされていないとはいえないし、イギリスからの影響もないわけではないが、べレア・リップ・ボムズの主要なサウンドには、”オーストラリアのバンド”としての矜持を見出すことが出来るのである。ジャグリーなロックソングはその後も続き、心地よいエナジーを発生させる。「Don't Let Them Tell You」では、このバンドの最初の出発点である、ローリング・ストーンズやテレヴィジョンといったブルースロック/ブギーロックのサウンド、あるいはニューヨークのプロトパンクやガレージロックの原点をなすラフなサウンドを参照しつつ、カラフルな印象に満ちたロックソングを提供している。特に、ブルースのギタリストとしては(現在も)世界最高峰であるキース・リチャーズのリフからの影響がひときわ強いことは、この曲のギターリフを聞いていただければ、瞭然ではないだろうか。これらは、ごきげんな感じのブギー・ロックの系譜にあり、奥深い箇所では、ブルース・ロックの要素がどこかで共鳴していることがわかる。しかし、全体的なサウンドとしては、チープであるがユニークな印象を与えるシンセ、それから対旋律的な効果をもたらすベースなど、全体的なロックソングの枠組みの中で、多角的な音楽的要素が混在している。また、これらのバンド・アンサンブルは、曲の終わりまで性急になることなく、丹念に作り込まれており、バンド全体で心地よいサウンドの公約数が導き出される。おのずとボーカルにせよ、リズムにせよ、全体的なアンサンブルにせよ、小気味良いサウンドが構築される。勿論、現在のべレア・リップ・ボムズの温和な空気感も一つの醍醐味となる。

 

 「Don't Let Them Tell You」

 


イントロにおけるベースとギターのフィードバックノイズが強固な印象を持つ「Another World」は、このアルバムの序盤の収録曲のハイライトの一つ。オセアニア圏のThe Beths、カナダのAlvvaysのような現代的なポップ・パンク/オルタナティヴロックのサウンドとも共鳴しながら、このバンドしか持ち得ないオリジナリティを探る。ギターはドラムとユニゾンを描き、裏拍のリズムを強調させるが、一方でベースは2つのパートとは異なる独立した旋律を象りながら、ボーカルのフレーズを強調付ける直前で同じユニゾンを形成する。これらは簡単なようでいて、相当緻密に作り込まれたサウンドである。しかし、そういった難易度を感じさせない、ボーカルの気さくな親しみやすいポップソングを基調としたフレーズが、この曲の完成度を高めている。ヴァースの箇所では、職人的なサウンドを構築するが、サビ/コーラスは、それらの玄人好みのサウンドを封印し、どこまでも純粋で澄んだポップパンクへと変化する。これらの玄人性と素人性を相携えたサウンドは、バンドとしての練度や高い潜在力を感じさせる。こういったサウンドを制作するのには、やはり10年くらいは必要となるか。特に、この曲のギターワークには素晴らしい箇所があり、哀愁のあるメロディアスなサウンドを作り上げている。これらはロック、メタル、パンクなどジャンルを問わず、多くのファンの心を掴みそうだ。

 

「Cinema」はシングルのB面曲のような雰囲気があるが、このアルバムの中では注目曲の一つである。ギターサウンドが曲のベースになっているが、同時にシンセ・ポップやAORのようなサウンドを参照しつつ、The 1985、The Bleachersのようなライトな感じのポップロックを提供している。しかし、同時に、このバンドは女性ボーカルにより、それらのサウンドを探求し、少しフェミニンな要素を添えるのである。それらがやや淡いエモーションに縁取られると、どことなく繊細で切ないような感覚に縁取られる。全体的には、Don Hanleyのような80年代の軽い感じのポップ・ロックが展開される中で、郊外のモーテルや海岸筋の情景のトロピカルな雰囲気など、情景を感じさせる瞬間がある。これらのバブリーな雰囲気を通じて、ハリウッドのサンセットブルバードの音楽や映画の名産地としての空気感をかたどってみせるのである。 また、同時に80年代のディスコサウンドを彷彿とさせるラグジュアリーな雰囲気もある。これらは、若い世代による過去へのノスタルジックな憧れを反映していると言えるかもしれない。

 

バンドのフロントパーソンである、メイジー・エヴァレットの歌手としての個性が花開く「Back of My Hand」を聞き逃すわけにはいかない。本作の中でも最も華々しいイメージに縁取られる。この曲には、オーストラリアのバンドらしい純粋な感じがあり、それらが軽快なロックソングとして昇華されている。Paramoreのヘイリー・ウィリアムズのようなサウンドを参照しながら、それらをジャグリーなロックソングへと変換させる。この曲に感じられるようなほどよいバンドの親近感のようなものも、このアルバムを聞くときの醍醐味に鳴るに違いない。また、現時点のところ、ストリーミング再生数で好調を維持している「Hey You」は「Another World」とならんで、このアルバムのベストトラックの一つである。この曲でもシンセの演奏を中心として、軽快でキャッチーなポップロックソングが提供されている。アンセミックでメロディアスなロックソングという、このアルバムの核心となる音楽性が味わえるはずだ。

 

 

「If You’ve Got The Time」は米国・西海岸のポップパンクやメロディックパンクとも共鳴するような一曲で、それらをよりパンクからロックの方向へと転換させている。ボーカルのメロディーの運びには既視感もあるが、それらのフレーズには、一般的な感覚があり、アンセミックな印象をもたらす場合もある。やや形骸化しつつある音楽性を参照しているのが気がかりな点ではあるが、このバンドの持ち味である純粋なエモーションがそれらの難点を帳消しにしている。これは、誰でも楽しめるような一般的なロックソングを探求した結果とも言えるだろう。「Smiling」は、バンドのメロディメイカーとしてのセンスが発揮される瞬間。中盤の楽曲に続き、恋愛をモチーフにした甘酸っぱいポップセンスは、全体的には、80年代のロックソングや、パワー・ポップ/ジャングルポップの形と結びついて、均されている。特に、他のメルボルンのバンドと同様に、サビやコーラスを大切にしているという点では、旧来の90年代のブリット・ポップ勢や、日本のJ-POPとも相通じる感覚があるかもしれない。また、オーストラリアのバンドは年代を問わずメインストリームのアーティストを良く聞いているという印象。

 

「Burning Up」はアリシア・キーズ、テイラー、サブリナへと続くポップシンガーを彷彿とさせるポップバラードで、それらをTikTokのカルチャーとクロスオーバーさせ、心地よい楽曲に昇華している。この点の言及については、まったく自信がない。 しかし、いずれにせよ、インディーズロック・バンドらしからぬ上昇志向がどのような印象をもたらすかは不明であるが、このアルバムの一つの聞き所となるのは間違いない。本作では最も感傷的でナイーブな印象を持つ楽曲で、他の曲とは異なる叙情的なポップソングで聞き手をうっとりとさせる。最初に述べた、Camp Copeのようなサウンドはアルバムの最後の収録曲に見出すことが出来る。この曲に満ち溢れる大陸的な雄大さを持った「Price Of A Man」は、彼らのアメリカでのデビュー、そして一般的な知名度を獲得するための重要な道筋となるに違いない。 パワーポップの趣を持ったロックソングであり、他の主要曲と同様、甘酸っぱい雰囲気を持ち合わせている。

 

 

80/100 

 

 

「Hey You」 

 

▪The Belair Lip Bombsのアルバム『Again』は本日、Third Manから発売。ストリーミングはこちらから。 

0 comments:

コメントを投稿