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サウスロンドン発、Dub Step

2000年、英国のアンダーグラウンドミュージックシーンでは、一体、何が起きていたか?

ダブステップは、九十年代後半にサウスロンドンのクラブミュージックとして誕生し、今日まで根強い人気を誇る音楽ジャンルだ。現在では、英国だけではなく、米国でも人気のあるジャンルといえる。

元、この音楽は、UKグライム、2ステップ、というサンプリングを多用したジャンルの流れを引き継いでいる。ダブステップのBPM(テンポ)は、基本的に140前後といわれ、ジャングル、あるいは、ブレイクビーツをはじめとするシンコペーションを多用した複雑で不規則なリズム性を持っている。ときに、そのリズム性が希薄となり、アンビエント・ドローン寄りのアプローチに踏み入れていく場合もある。一般的には、ダブステップという音楽の発祥は、2 Steps recordsのコンピレーションのB面に収録されていたダブリミックスが元祖であると言われている。*1 

これも、コカ・コーラという飲料が、最初は、薬品開発をしていた際に誤ってその原型が偶然発明されたのと同じように、このダブステップという音楽も、アーティストがサンプリングやリミックスを行っていた際、誤って、グライム寄りの音楽が作られた、つまり、偶然の産物であるといえる。このエピソードは、ダブという音楽にも近い雰囲気があり、元々、このダブというのも、リントン・クェシ・ジョンソン、マッド・プロフェッサー、リー・”スクラッチ”・ペリーが、元あるサンプリングネタをダビングし、それをトラックとして繋ぎ合わせることにより、ジャマイカ発祥のレゲエ/スカの影響下にある独特なブレイクビーツに似たクラブミュージックを発明したのと同じようなもの。そして、これは概して、英国を中心にして発展していったジャンルで、アメリカのヒップホップとは異なるイギリス流のサンプリング音楽ともいえる。 

2000年代に入り、ロンドン南部のクロイドンにある、レコードショップ”Big Apple records”(Gary Hughes とSteve Robersonによって設立)を中心として、ダブステップのアンダーグラウンドシーンが徐々に形成されていく。*2   




 ”ロンドン南部、クレイトンにある「Big Apple Records 」引用:big apple records facebook

                          

当初、このダブステップ音楽を、一般的に英国全土に普及させていったのは、海賊ラジオ局であるらしい。そのため、特異なデンジャラスな匂いを持った、英エレクトロ、クラブミュージック界隈で”最もコアな”クラブ音楽の一つになっていく。その後、UKの有名音楽雑誌「Wire」が2002年になって、この「ダブステップ」というジャンルを紙面で紹介したことにより、一般的な認知度はより高まる。それに引き続いて、BBCのラジオ番組でも、このダブステップを扱うスペシャルコーナーが設けられたことにより、俄然、この周辺の音楽シーンは活気づいて来た。

2021年の現時点で、このダブステップは、かなり広範なジャンルの定義づけがなされるようになっている。

中には、オーバーグラウンドミュージック寄りの比較的ポピュラーなクラブミュージックもあり、その界隈のアーティストを紹介するサイトは多いものの、このダブステップというジャンルの本質は、サンプリングやヒップホップのターンテーブルのスクラッチに似た手法にあるともいえるが、あくまで私見として述べておきたいのは、往年のブリクストルのクラブシーンのサウンド、どことなく、ダークで、アングラであり、ロンドンの都会的な退廃の雰囲気を持ったマニアむけの音楽性こそ、この音楽のオリジナルのダブと異なる魅力といえるかもしれない。

もちろん、ベースラインが、エレクトロよりも強調されたり、複雑怪奇なサンプリングをトラックに施したり、シンコペーションを多用し、リズムを徐々に後ろにずらしていくような特殊な技法も、この音楽の重要な要素といえるものの、やはり、マッシヴ・アタックや、トリッキー、ポーティス・ヘッドに代表されるロンドン、ブリクストル界隈のクラブでしか聴くことの出来ない、ダークで、アンニュイ、そしてまた、危なげなアトモスフェールに満ち、不気味な前衛性が、このダブステップという音楽には不可欠である。つまり、近年のオーバーグラウンドのロックミュージックに失われた要素が、このダブステップという地下音楽の骨格を成している。

もちろん、このダブステップの音楽性というのは、お世辞にも、メジャーな音楽でないかもしれない。それは例えば、食通の、珍味好き、というように喩えられるかもしれないが、少なくとも、上記に列挙したような要素に乏しいアーティストは、ダブステップの本流には当たらない。一応、念のため、言い添えておくと、それは、この”Dub Step”という、インディーズ・ジャンルが、正規のラジオ局でなく、海賊ラジオ局を介して、2000年前後に浸透していった、つまり、正真正銘の「アンダーグラウンドの音楽」として普及していった経緯を持つからである。

今回は、この英国だけでなく、米国でも根強い人気を誇る”ダブステップ”というジャンルをよく知るためのアーティスト、そして、現在も活躍中のアーティストの名盤を探っていこうと思います。                


ダブステップを知るための名盤6選


1.Burial 「Burial」 2006

   

 

 

最初のダブステップブームの立役者ともいえるBurial。ロンドン出身のウィリアム・ヴィアンのソロ・プロジェクト。Burialは、その後、ダブステップのアーティストを数多く輩出するようになる”Hyperdub”からこのレコードをリリースしている。発表当初から評価が高く、ガーディアン紙のレビューで満点を獲得している。

今作、ブリアルのデビュー作「Burial」は、2006年のリリースではあるものの、今でも全く色褪せない英エレクトロの名作であることに変わりない。楽曲のサンプリングとして、コナミの”メタルギアソリッド”のサウンドが取り入れられている。ここには、ダブステップらしいリズム、ロンドンの夜を思いこさせるような空気もあり、さらに、蠱惑的な怪しげな雰囲気に充ちている。

名曲「Distant Lights」「Southern Comfort」に代表されるような裏拍の強いブレイクビーツの前のめりなリズム、低音がばきばき出まくるベースライン、ブリアルにしか出し得ない独自の都会的なクールさ。それがダウナーというべきか、冷ややかなストイックさによってアルバム全体が彩られている。

この何故か、ぞくっとするような奇妙な格好良さがブリアルのダブステップの特長である。明らかにクラブフロアで鳴らされることを想定した低音の出の強いサウンドで、大音量のスピーカーで鳴らしてこそ真価を発揮する音楽といえる。

「Forgive」では、逆再生のリミックス処理を施すことにより、アンビエントドローンの領域に当時としては一番のりで到達している。

「Southern Comfort」に象徴される野性味もある反面、「Forgive」のような知性も持ち合わせているのが、英国の音楽雑誌ガーディアン誌から大きな賞賛を受けた主な理由のように思われる。  

ブリアルのサウンドの特異な点として挙げられるのは、ハイハットのナイフがかち合うような、「カチャカチャ、シャリシャリ」とした鋭利なサウンド処理であり、これも、当時としてかなり革新的だったように思える。無論、現在でも、このように、極めてドープなリミックス処理をトラックに施すアーティストを探すのは、世界のダンスフロアを見渡しても、そう容易いことではない。

ブリアルは、往年のロンドンやブリストルのエレクトロアーティスト、マッシブ・アタックやポーティスヘッドの音楽性の流れを受け継ぎ、また、そこには、これらのアーティストと同じように、英国の夜の雰囲気、どんよりして、雨がしとしとと降り注ぐような、異質なほど暗鬱なアトモスフェールに彩られている。

後には、レディオ・ヘッドのトム・ヨーク、フォー・テットと2020年にコラボレートしたシングル「Her Revolution/His rope」をリリース、最早すでに英エレクトロ界の大御所といっても差し支えないアーティスト。ダブステップの入門編、いや、登竜門として、まず熱烈に推薦しておきたいところです。

  

2.Andy Stott 「We Stay Together」 2011


 

  

アンディ・ストットは、マンチェスターを拠点に活動するアーティストで、良質なダブステップアーティストを数多く輩出してきている”Modern Love”レーベルから全ての作品をリリースしている。 

ストットは2006年の「Merciless」のデビューから非常に幅広い音楽性を展開してきており、ひとつのジャンルに収まりきらないアーティストといえる。これまでの十六年のキャリアにおいて、主体的な方向性のひとつのダブステップだけにとどまらず、テクノ、ハウス、エレクトロ、エクスペリメンタル、あるいは、アンビエント、というように多角的なサウンドアプローチを選んでいる。この間口の広さは、多くの電子音楽に精通しているアーティストならではといえ、現代音楽、実験音楽家としてのサウンドプログラマー的な表情をも併せ持つアーティストである。

ストットは、活動最初期は、テクノ、グリッチ寄りのアプローチを選んでいたが、徐々に方向転換を図り、低音がバシバシ出るようなり、緻密なダビング技法を施し、複雑なリズム性を孕む音楽性へと舵を切る。

2011年リリースの「Passed Me By」から、いよいよ実験音楽色が強まり、強烈なダブステップの低音の強いパワフルなエレクトロの領域に進んでいく。

そのキャリアの途上、大御所、トリッキーとの共作「Valentine」2013をリリースし、着実に英エレクトロ界で知名度を高めていった。さらに、近年では、女性ボーカルのサンプリングを活かした独特なダブサウンドを体現し、"ストット・ワールド”を全面展開している。ボーカル曲としての真骨頂は、スタジオ・アルバム、「Numb」「Faith In Strangers」において結実を見た、

その後、順調に、2016年、「Too Many Voices」、2021年の最新作「Never The Right Time」とリリースを重ね、数々のエクスペリメンタル、エレクトロ界にその名を轟かせている。

アンディ・ストットの推薦盤として、

「Faith in Strangers」、「Numb」、最新作「Never The Right Time」 といった完成度の高い作品を挙げておきたいところではあるものの、これらの作品は、ストレートなダブステップ作品として見ると、少しだけ亜流といえるため、ここでは、「We Stay Together」2011をお勧めしておきたい。

今作は、前のリリース「Passed Me By」での大胆な方向転換の流れを引き継いだダブステップの極北ともいえるサウンドを展開、ダブサウンドも極北まで行き着いたという印象を受ける。トラック全体は、一貫してゆったりしたBPMの楽曲で占められ、曲調も、他のストットのアルバム作品に比べ、バリエーションに富んでいるわけでないけれども、この泥臭いともいうべき、徹底して抑制の聴いたフィルター処理を効かせたダブサウンドの旨みが凝縮された作品である。表向きには地味な印象を受けるが、聴き込んでいくたび、リズムの深みというのが味わえる通好みの快作だ。

 

この一旦終結したかに思えたストットの作品の方向性は、後年「It Should Be Us」になって、さらに究極の形で推し進められていった。実験音楽寄りの作品であるものの、ダブステップをさらに進化させたポストダブステップを堪能することが出来るはず。この作品でダブステップとしての完成形を提示したストットが、ボーカルトラックとしてのダブサウンドを追究していったのも宜なるかなという気がします。 

 

3. Laurel Halo 「Dust」 2017

 

 

  

ローレル・ヘイローは、デビュー作「Quarantine」で、会田誠の極めて過激なセンシティヴな作品をアートワークに選んだことでも知られている。ここで、アルバムジャケットを掲載するのは遠慮しておきたいが、イラストにしても、相当エグい作品である。他にも、会田誠の作品は驚くような作品が多いものの、しかし、このアートワークは、見る人の内面にある悪辣さを直視させるような独特なアートワークである。会田誠の作品には、見る人の中に、ある真実を呼び覚ますような力が気がしてなりません。しかし、この作風を、単なる悪辣な趣味ととるべきなのか、前衛芸術としてとるべきなのかは微妙なところで、一概に決めつけられないところなのかもしれません。

そして、そういった表向きのセンセーション性だけにとどまらず、実際のデビュー作品としても多くの反響をもたらしたローラル・ヘイローは、ドイツ、ベルリンを拠点に活動する現在最も勢いのあるダブステップ・アーティストです。


彼女の作品の世界観には、 一見、悪趣味にも思える退廃性が潜んでいるという気がする。元々は、デビュー作において、タブーに挑むような感じがあり、そのあたりのコモンセンスをぶち破るような強い迫力が音に込められていた。しかし、それが妙な心地よさをもたらすのは理解しがたいように思える。これは、フランシス・ベーコンの作品を見た際に感じる奇異な安らぎともよく似ている。奇妙奇天烈でこそあるが、なぜか、そこには得難い癒やしが感じられる。

そして、ローレル・ヘイローの重要な作品としてお勧めなのは、「Raw Silk Uncut Wood」2018ではあるものの、ダブステップとしての名盤を選ぶなら「Dust」2017の方がより最適といえるかもしれません。

この作品「Dust」は、他の彼女の一般的な作風と比べ、メロディーよりもリズムに重点が置かれている。もっというならば、リズムの前衛性に挑戦した作品で、サンプリングを配し、リズムを少しずつダブらせ、強拍を後ろに徐々にずらしていく手法が駆使されている。表面的にはヒップホップに似た風味が醸し出されている。

「Jelly」は打楽器ポンゴの音色を中心として、ローレル・ヘイローにしては珍しく、軽快なトロピカルなサウンドのニュアンスが込められている。また、「Nicht Ohne Risiko」では、木管楽器、マリンバの音を活かしたアシッド・ジャズの領域に踏み込んでいる辺りは、いかにもドイツの音楽家らしい前衛性。その中にもトラックの背後にリズムのダビングの技法が駆使されており、混沌とした雰囲気を醸し出している。

また、スタジオ・アルバム「Dust」の中では、「Do U Ever Happen」が最も傑出していて、表面的なヘイローのボーカルの快味もさることながら、リズム性においても、ダブステップを一歩先に推し進めたサウンドが展開されている。ダブステップとチルアウトを融合させた楽曲という印象を受けます。


4.Demdike Stare「Symbiosis」2009


 

 

アンディ・ストットと同じく、”Modern Love”の代名詞ともいえるデムダイク・ステアは、シーン・キャンティとマイルズ・ウィッタカーで構成されるユニットで、マンチェスターを拠点に活動している。

彼等は、ダブステップという括りにとどまらず、アンビエントドローン寄りのアプローチも図るという面で、アンディ・ストットと同じように、音楽性の間口の広さがあると言って良いだろうか。このスタジオアルバム「Symbosis」は、アートワークからして不気味でダークな感じが醸し出されているが、実際の音の印象も違わず、アングラで、ときに、ダークホラー的な音の雰囲気も感じさせる。

ダブステップの名盤として、ここで挙げておくのは、「Haxan Dub」の楽曲に象徴されるように、オリジナルダブサウンドの影響の色濃いサウンドへの回帰を果たしているから。ここでは、ジャマイカの音楽としてのダブの風味が感じられる。「Haxan」でも、ダブステップの見本のようなサウンドがエレクトロ寄りに迫力満載で展開される。この二曲は、近年の基本的な技法が満載で、教則本や制作映像を見るよりはるかに、実際のトラック制作を行う上で参考になるでしょう。

また、トラックを重層的に多重録音して、音楽自体に複雑性をもたらすというのは、近年の他の電子音楽家と同様だけれども、特に、デムダイク・ステアの個別トラックの、LRのPANの振り分けというのは職人芸。このあたりも聞き逃す事ができない。これらの楽曲は、往年のダブサウンドを通過したからこそ生み出し得る妙味。近年のダブステップに比べると、いささか地味に思えるかもしれないが、このあたりのリズムの渋さ、巧みさもデムダイク・ステアの音の醍醐味となっている。

特に、この作品が他のダブステップ界隈のアーティストと異なるのは、「Supicious Drone」「Exrwistle Hall」という二曲が収録されているから。「Suspicious Drone」は、ダークドローンの名曲のひとつに数えられる。この風の唸るような不気味さというのが感じられる秀逸なトラックです。

もう一曲の「Exrwistle Hall」は、ダークホラー思いこさせるような怖さのある楽曲であり、夏のうでるような暑気を完全に吹き飛ばす納涼の雰囲気に満ちている。リズムトラックとしては、四拍子を無理やり三拍子分割した特異な太いベースラインがクールな印象を醸し出している。そこに、明確な意図を持って、女の不気味な声、挙げ句には、薄気味悪い高笑いがアンビエンス、サンプリングとして取り入れられる、これは事前情報無しに聴くと、聞き手も同じような悲鳴を上げざるを得ないものの、その反面、色物好きにはたまらない名盤のひとつといえる。

このスタジオ・アルバム「Symbosis」は、夜中に聴くと、怖くて、「ギャー!!」と震え上がことは必須なので、細心の注意を払って聴く必要がある。しかし、昼間に聴くと、妙なおかしみがあるようにも思える。これは、怪談だとか、ホラー映画鑑賞に近い音の新体験である。つまり、今年の夏は、「テキサス・チェーンソー」「シャイニング」「リング」といった名ホラー映画を再チェックしておき、そして、さらに、デムダイク・ステアの「シンボシス」で、決まり!でしょう。

 

5.Actress「Karma & Desire」2020

   

 

  

最後に、ご紹介するアクトレスは、フットボールクラブの本拠地があることで有名なウルヴァーハンプトンを拠点に活動するミュージシャン。

他の多くの電子音楽家、とりわけダブステップ勢がロンドンやマンチェスターといった大都市圏で活動しているのに対し、アクトレスだけは、都市部から離れた場所で音楽活動を行っている。

アクトレスは、上掲したアーティスト、アンディ・ストットと同じく、ダブステップの雰囲気もありながら、実験音楽性の強いアヴァンギャルド色の強い電子音楽家。エレクトロ、Idm、エクスペリメンタル、テクノ、 ダブステップと、多角的なアプローチをこれまでの作品において取り組んで来ており、電子音楽を新たな領域へ進めようと試みている前衛性の高いアーティストです。

このアルバム「Actress」は、 美麗さのあるピアノの印象が強い作風である。それは「Fire and Light」から顕著に現れており、ピアノ音楽の印象の強い電子音楽、アンビエントピアノとして聴く事も出来ると思う。他のダブステップ界隈のアーティストが都会的な音の質感を持つのに対し、ナチュラルな奥行きを感じさせるピアノ曲、ポスト・クラシカル寄りのアプローチも見受けられます。

これは、多分、あえて、大都市圏から離れた場所において、静かな制作環境を選び、トラック制作を行うからこそ生み出し得る落ち着いた音楽といえるかもしれない。「Reverend」や「Leaves Against the Sky」も、ピアノの主旋律を表向きの表情とし、ダブステップ、グリッチとしての技法も頻繁に見いだされる秀逸な楽曲。そして、この楽曲を見ると、上品さがそこはかとなく漂う作風となっています。

ここで、アクトレスは、個別のリズムトラック、タム、ハイハット、シンバルにはダビング技法を駆使せず、どちらかというなら、ピアノの音色に対して、深いリバーブ処理、DJのスクラッチ的手法を施している。確定的なことは遠慮したいものの、これが、昨今の英国のクラブミュージックの音のトレンドといえるのかも。無論、これは、すでに、ヒップホップで親しまれた技法ではあるものの、アクトレスはさらに前衛的なアプローチを図り、新たな領域に音楽を推し進めている。

また、「Public Life 」では、ポスト。クラシカル寄りの楽曲に果敢に挑戦しているのも聞き所である。

スタジオ・アルバム全体としては、エレクトロや、ダブステップ、それから、テクノ、ポスト・クラシカルといった近年流行の音楽をごった煮にしたかのような印象。このあたりが、英国の電子音楽家という感じがして、一つのジャンルに拘らず、柔軟性を持って、様々なジャンルに挑戦する素晴らしさがある。嵩じたフロア向けのクラブミュージックとしてでなく、落ち着いたIDMとして、家の中で聴くのに適した美しさのある音楽として、この作品を最後に挙げておきたいと思います。  

 

 

 

参考サイト 

 

*1. Vevelarge .com {Dubsteo} 奥が深い ダブステップの起源と歴史{徹底解説}

 https://vevelarge.com/what-is-dubstep/

  

*2. tokyodj.jp 90年代後半 ダブステップの始まりは? 

https://tokyodj.jp/archives/1870 

 




Andy Stott「NEVER THE RIGHT TIME」

 

 

2021年リリースのAndy Stottの新譜「Never The Right Time」は、スタジオ・アルバム通算九作目となり、やはりModern Loversからのリリース。

 

 

今回のスタジオアルバムは、2014年の「Faith In Strangers」のゲスト参加していたAlisson Skidmoreを迎い入れた事実から見て分かる通り、前々作「Too Many Voices」で一時的に保留していたボーカル曲としての路線に回帰したような印象を受ける。

 

 

もちろん、アンディ・ストットは、英国のクラブミュージックの最前線を行くアーティストの一人として、今日の、あるいは、未来の先鋭的な音楽を、ファンの元に届けてくれているあたりは頼もしさを感じる。 

 

 

 

 

 

ストットの新作アルバム「NEVER THE RIGHT TIME」は、近年の前衛的なリズム性を引き継ぎつつ、新たな作品として、そしてまた聞きやすい作品として、幅広いリスナーに受け入れられるだろうと考えている。

 

 

今作を聴いてかなり驚かされたのは、これまでのアンディ・ストットにはなかったアプローチが顕著に見られることでしょう。それは、つまり、最終曲「Hard To Tell」において、ギターのフレーズがエフェクティヴに、そして、時にサイケデリックに、トラック中に見事に取り入れられている点。

 

 

元来、彼は、印象的な楽器風のベースフレーズを「Faith in strangers」において実験的に取り入れているが、これは、まだ、どことなく打ち込みらしいニュアンスを感じさせるフレージング方法だった。それが、今回、楽曲「Hard to Tell」の中にスキッドモアの艷やかなボーカルを交えて、ギターフレーズが全面的にフーチャーされているというのは、他のクラブ界隈の近年のアーティストに影響されてなのかまではわからないが、これからストットの音楽の可能性がさらに広がっていくような予感が伺える。前作において、リズムでの前衛性の限界に到達したことの反作用がこの作品をリズムではなく、構造や旋律という面でのアプローチを促したのかもしれない。

 

 

今作は、リズム的なアプローチというより、彼が名作「Faith in Stranger」で見せた自身の美麗なメロディー性、そして、その背後に広がるアンビエンスを徹底的に追求した作品といえるでしょう。ストットの音楽的な目新しさとは別に、これまで追求してきたダブステップの先鋭的なアーティストとしての矜持は、やはり、今作でも遺憾なく発揮されている。

 

 

怪しげで蠱惑的な雰囲気を伺わせる楽曲「Away not Gone」は、彼の新たな代名詞的な楽曲と称しても良いくらいの素晴らしい出来栄えといえる。イントロの初めはドローン風と思わせておきながら、アリスン・スキッドモアのボーカルが入った途端に雰囲気は一変し、この楽曲に、奇妙なほどの清涼感を与えている。これは、上手くストットのマジックに惑乱させられたという形。

 

 

全体的としては、それほど嵩じたようなテンションの曲はなく、徹底してストイックなクラブミュージックが展開される。初期の方向性への原点回帰も果たしているあたりも、これまでの方向性をこのアルバムにおいてさらに洗練させたといえるかもしれない。

 

 

これは、もしかすると、今日の世界的な情勢というのが、ストットの人生観、もしくは音楽観の中に大きな影響を与えている気配もあろうかと思う。クラブミュージシャンとしてこれからどんな音楽を追求していくのか、この作品はクラブアーティストとしての大きな声明であり、代弁であるようにも思える。それを言葉でない言語、音楽として、彼は今作で高い芸術性をもって紡ぐことに成功している。

 

 

この非常にストイックな作品「NEVER THE RIGHT TIME」から垣間見える事実は、今、アンディ・ストットは、音楽性において、重要な分岐点に差し掛かっているということだ。ストットの音楽は、基本的にはダンスフロアむけに作られているが、私見としては、今作もまた同じように自宅で静かに聴くIDM(Intelligence Dance Music)の要素も色濃く感じられるように思える。