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New Album Review:     Susanne Darre   『Travel Back』EP  

 

Label: Fluttery Records

Release: 2025年5月16日

 

Review

 

ピアノ曲の小品を主要な作風とするモダン・クラシックの一派は、これまでアイスランドのレイキャビクやイギリス/ドイツのアーティストを中心に作り上げられてきた。スザンヌ・ダールはこの次の世代の音楽家であり、メロディーの良さに重点を置いた感傷的なピアノの良曲を書いている。

 

5月16日にリリース予定のEP『Travel Back』は、ノルウェーのミュージシャン、Susanne Darre(スザンネ・ダール)による2024年のアルバム『Fragile』に続く作品となる。サンフランシスコのレーベル、Flutteryからのリリース。


スザンネ・ダールのピアノ音楽は、聴きやすく、琴線に触れる切ない旋律が特徴となっている。例えば、アイスランドのオーラヴル・アルナルズ、アイディス・イーヴェンセン、日本の高木正勝、坂本龍一、小瀬村晶、アメリカのキース・ケニフ(Goldmund)の音楽性を彷彿とさせる。あるいは、イージーなリスニングを意識した、静かでささやかなピアノの小品集としても楽しめる。カフェやレストランなど商業的な店舗のBGMとしてもオススメしたい。

 

近年のピアノ曲は、従来より音楽自体がポピュラー化している。ときに、それは旋律を口ずさめるという要素も込められているかもしれない。そして和声や楽曲の構造も簡素化に拍車がかかっている。これは近代以降、ミュージックセリエルなどの無調音楽が優勢になったことへの「反動」のようなものである。

 

結局のところ、ストラヴィンスキーやラヴェルなどの無調音楽に近い和声を多用した音楽家、そして、以降のジョン・アダムスですら調性を完全には放棄していない。彼らは、「調性の中の無調」というJSバッハの平均律の要素を異なる形で追求していた。いよいよ現代音楽そのものが形骸化しつつあり、内輪向けのものに変わりつつある中で、「無調の音楽をやる意味は何なのか?」という迷宮のような問いに対して、あっけないほど簡潔な答えを出したのが、2010年前後のドイツ/ベルリンのニルス・フラームであった。ロマン派の影響を交えたピアノ音楽は、ある意味では、それまでの現代音楽の作曲家とは別軸の答えを出したのだった。それは、結局のところ、ミニマリズムの範疇にある「音楽の簡潔化」という趣旨であった。クラシックは、つまり、ポピュラー、そしてイージーリスニングやアンビエントの範疇にあるBGMのような音楽の要素と結びついて、2010年代以降、以前とはまた別の形で蘇ったのである。だから、アンビエントプロデューサーの主催するレーベルから、このような音楽がリリースされるというのもうなずける話だ。それは別の形で音楽が繰り広げられるに過ぎないのかもしれない。

 

 

アートワークに象徴されるように、スカンジナビアの美しい風景を想起させるピアノ曲が中心となっている。それは、無限の時間と個人的な追憶という、2つの概念を原動力にして、伴奏と主旋律というシンプルな構成のピアノのパッセージが緩やかに流れていく。性急さとは無縁の落ち着き、静けさ、それは例えば、忙しい時間の中に生じる休息、そして、思い出の感傷的なエレジーのような雰囲気を持つに至る。「1-Nostalgia」はその象徴的な楽曲で、繊細でセンチメンタルな感覚を呼び覚ましてくれる。音の追憶の底に揺らめく安らぎ、時の流れが持つ美しさを感じ取ることも難しくはない。

 

「2-Picture」では、ニルス・フラームの最初期のようなイージーリスニングとモダンクラシックの中間にあるミステリアスな音楽を提供している。しかし、幾つかの下地やヒントがあるとはいえ、北欧のスカンジナビアの冬の雪の光景を思わせるような幻想的なサウンドスケープが施され、シンプルなピアノ音楽の中に神秘的な雰囲気と北欧神話のような幻想性を付け加えている。北欧的な神話の幻想性というのは、このノルウェーの作曲家の独創性の一つであり、最大の美点である。ぼんやり聴き始めると、いつの間にか終わってしまう。BGMのような性質を持つ、客観的な音楽である。

 

「3-Travel Back」は、ささやかであるが、センチメンタルで感傷的なピアノ曲である。イントロはドビュッシーの「亜麻色の髪の乙女」を彷彿とさせる、閃きのある単旋律を導入音として引き伸ばし、その後、淡々と短調を中心とするピアノのパッセージが続いている。この曲は、EPの楽曲構成の中で最も感傷的なイメージを持つ。 ピアノに深いリバーヴを施し、独特なアンビエンスを形成するという側面では、近年のモダンクラシックの流れに依拠している。


そして、同時に、何らかのサウンドスケープを呼び覚ます力があり、アルバムの全体的なイメージである、冬のスカンジナビアの海岸の光景や、その幻想性を想起させる。また、マスタリングのサウンド処理で、あえて高音部にエフェクトを施し、アンティークのピアノのような音色を作り出す。このあたりの残響を生かしたアトモスフェリックなサウンドは、アイスランドのオーラヴル・アルナルズに近い感覚がある。追憶の底にある懐かしさのような瞬間が演奏で表現される。聞き手は、その追憶という名の果てなき迷宮に迷いこまざるを得ない。

 

 

クローズを飾る「Hap」 EPの中で最も力が込められているように感じる。実際的に素晴らしい一曲である。この曲はミュージシャンが住むノルウェーの冬、雪深い風景という映像的なモチーフが、ピアノの麗しいパッセージによって、最も荘厳な美麗さを帯びる。アトモスフェリックなシークエンスを背景に繰り広げられる、アルバムに通底するマイナー調のピアノ曲は、冬の寒さ、儚さ、生命の気配に乏しい感覚を呼び起こすが、しかし、そこにしっかり息づく生命の神秘的な力を感じさせる。このピアノ曲は、クライマックスにかけて、幻想性が強まり、アートワークにリンクするかのように、神妙なエンディングを迎える。そこには、厳しさと慈しみを併せ持つ自然の崇高性に相対する時の人間の姿が、印象派の絵画のように、ものの見事に活写される。

 

ノルウェーの音楽家、スザンネ・ダールの描く音楽の世界は、追憶を元にした感傷的なエレジーのようだ。しかし、同時に、その最後には、感嘆すべきことに、神秘的な生命の力強さを得るに至る。『Travel Back』は、ミュージシャンの人生を見つめる力、そして、その端的な審美眼が作り出した、モダン・クラシックの美しき結晶である。

 

 

 

  

 

 

  

 Susanne Darre  :

 


ノルウェー出身の作曲家でピアニストのスザンネ・ダールは、ノルウェー北部の自宅でモダン・クラシック音楽を創作している。


ピアノへの生涯の情熱が彼女の創造性を刺激し、独自のメロディーを作曲、演奏している。音楽一家に育ったスザンネは、音楽とギター、そして膨大なレコード・コレクションを愛する父親の影響を深く受けた。


スザンヌは一人で音楽の制作、レコーディング、ミキシングをこなす。ヴィンテージ・ピアノのアコースティックな響きが好きで、歴史的建造物の中で音楽を創作するのが好きなスザンヌは、過去と現在の楽しいコントラストを生み出し、彼女の作曲に深みと個性を加えている。さらに、アンビエントなサウンドスケープや電子音とモダン・クラシック・ピアノ音楽の融合を探求し、伝統的な作曲の限界を押し広げている。


さらに、彼女の芸術的ビジョンは音楽だけにとどまらず、自然の風景の息をのむような美しさをとらえた写真にも及んでいる。スザンネ・ダールは、北ノルウェーの素晴らしさの真髄をとらえ、その静謐な風景と情感豊かなメロディーの感覚的探求へと誘う。

 

©︎ Shannon Marks

 

シカゴを拠点に活動するマルチインストゥルメンタリスト、コンポーザー、ソングライターのMacie Stewart(メーシー・スティワート)は、スペンサー・トゥイーディのバンドでの演奏からSZAのインストゥルメンタル・アレンジまで、他のアーティストとの共同作業に多くの時間を費やしている。 


フィノムのメンバーは、ジャズとエクスペリメンタルのレーベル、インターナショナル・アンセムから3月21日にリリースされるニューアルバム『When The Distance Is Blue』の詳細を明らかにし、リードシングル「Spring Becomes You, Spring Becomes New」がリリースされた。


『When The Distance Is Blue』は、完全インストゥルメンタルの「組曲」と銘打たれている。 このアルバムでピアノとヴァイオリンを演奏しているスチュワートは、プレスリリースでこのアルバムを "私たちがその合間に過ごす瞬間へのラブレター "と表現している。 タイトルは、レベッカ・ソルニットの優れたエッセイ集『A Field Guide To Getting Lost』に由来する。


ピアノ・フォワードの「Spring Becomes You, Spring Becomes New」について、スチュワートはこう付け加えている。「この曲は、様々な景色や風景の中を列車で横断することを思い起こさせる。 窓の外を通り過ぎるすべてを目撃しているときの感覚だ。 マイケル・パトリック・エイヴリーによるこの曲のミュージックビデオと、アルバムの全トラックリストは以下を参照。

 


「Spring Becomes You, Spring Becomes New」



Macie Stewart 『When The Distance Is Blue』


Label: Internatonal Anthem

Release: 2025年3月21日

 

 Tracklist:

1.I Forget How To Remember My Dreams(Feat. Lia Kohl)

2 Tsukiji

3 Murmuration/Memorization

4 Spring Becomes You, Spring Becomes New

5 Stairwell (Before And After)

6 What Fills You Up Won’t Leave An Empty Cup

7 In Between

8 Disintegration

 

「二十四節気」をテーマにした冥丁のミニマル・ピアノ・アンビエント作品『室礼』が限定12インチ・ホワイト・ヴァイナルとしてKITCHEN. LABELより3月7日にリリースされる。本作はデジタルバージョンの配信に留まっていた。

 

日本古来の印象をモチーフにしたサウンドで脚光を浴びる音楽家・冥丁が、古(いにしへ)の文化を現代の音として訳し、その概念を届ける”WARA”のために制作した楽曲集。ポストクラシカル、アンビエントはもちろん、エレクトロニカ/トイトロニカファンに推薦したいアルバムです。

 

広島の音楽家/冥丁が、日本の伝統と感性を反映させた世界を創作する”WARA”を体現する音楽として制作した『室礼』(しつらひ)。日本の四季をさらに6つに分け、「二十四節気」の「立春」「立夏」「立秋」「立冬」をテーマに縁取り、時の移ろいを描いた抒情作品である。

 

タイトルの由来となった言葉「室礼」(※しつらひ: 飾りつけること、設け整えること)の概念を体現するため、間(ま)に重きを置きながら、冥丁自らがピアノを演奏、録音、そして細心の注意を払ったアレンジメントによって仕上げられた。ピアノサウンド、自然音、エレクトロニクス、多種多様で創意工夫に富んだテクスチャーが施された4つのトラックは、15分という短い時間の中で、小さな変化を繰り返しながら際限のない小宇宙のように広がる。また、本作のピアノは、季節が変わるごとに新しい環境に囲まれる冥丁自身の実存のメタファーとしての役割も司る。

 

四季折々のサイクルの中で、自己という存在がどんなふうに移ろい変わっていくのか。外側の景色は変わりつづけるが、彼はその中に普遍的な何かがあることを見つける。あるいは見つけようとする。外側の変化に揺り動かされない何かを発見したときが、彼の音楽に最も近づけたと思う瞬間である。

 

冥丁のモチーフであり現時点のライフワークでもある「失日本」ーー失われつつある日本の情緒を再解釈しようと試みるーーは、この静けさに充ちた味わい深いアルバムにおいても通奏低音のように鳴りわたる。他方、本作では、従来の作品とは異なる新鮮な視点から、冥丁らしい緻密な音楽の世界が築き上げられている。マスタリングは、田辺 玄(Studio Camel House)が担当した。

 

 

 



[アルバム情報]    

 

冥丁 『室礼』

 


 

発売日: 2025年3月7日(金)

アーティスト:冥丁

タイトル:室礼(読み仮名:しつらひ)

フォーマット: 国内流通盤12インチ

本体価格 : 4,400円(税込)

レーベル:KITCHEN. LABEL
   流通 : p*dis / Inpartmaint Inc.

*限定700枚プレス

*カラーヴァイナル(ホワイト)

 

◆デジタルは2023年2月4日に各主要プラットフォームでリリース

 

視聴予約: https://kitchenlabel.lnk.to/6rP8pFyR

 

 

昨年の全国ツアーに続いて、今年度のライブの日程がアナウンスされた。 『室礼』のリリースを記念するツアーで、現在、京都、東京の二箇所でのライブが決定している。東京公演では、ジム・オルークと石橋英子と出演する。日程の詳細は下記の通りとなっている。ツアーのポスターとともにチェックしてみよう。

 

 

 【京都公演】

 
■日時:2025年3月8日(土)開場 17:30 / 開演 18:00
■会場:京都文化博物館 別館ホール(京都市中京区三条高倉)
■料金:前売 ¥5,000 / 当日 ¥5,500 (全席自由/税込)
■出演:冥丁


 
■チケット販売


LivePocket : https://t.livepocket.jp/e/20250308_meitei
 
 

■主催・お問い合わせ:

 

night cruising: https://nightcruising.jp/

 
E-Mail: info@nightcruising.jp
Tel: 050-3631-2006(平日12:00-18:00)


 
【東京公演】冥丁/ジム・オルークx石橋英子 -a part of ”室礼” Tour-






http://wallwall.tokyo/schedule/20250309_meitei_jimorourke_ishibashieiko/

■日時:2025年3月9日(日)開場 17:30 / 開演 18:30


■会場:WALL&WALL(東京都港区南青山3-18-19フェスタ表参道ビルB1)


■料金:
前売 ¥4,000 +1drink ¥700[販売期間:3/8 18:00まで]
当日 ¥5,000 +1drink ¥700[販売期間:3/9 17:30〜]


■出演:冥丁 / ジム・オルークx石橋英子


 
■チケット販売


e+(イープラス)
https://eplus.jp/sf/detail/4258470001-P0030001

 

■主催・お問い合わせ:WALL&WALL 


http://wallwall.tokyo/
E-MAIL : info@wallwall.tokyo
TEL:03-6438-9240

 

[PROFILE]

 
冥丁(メイテイ):

 
日本の文化から徐々に失われつつある、過去の時代の雰囲気を「失日本」と呼び、現代的なサウンドテクニックで日本古来の印象を融合させた私的でコンセプチュアルな音楽を生み出す広島在住の作曲家。


エレクトロニック、アンビエント、ヒップホップ、エクスペリメンタルを融合させた音楽で、過去と現在の狭間にある音楽芸術を創作している。


これまでに「怪談」(Evening Chants)、「小町」(Métron Records)、「古風」(Part Ⅰ,Ⅱ&Ⅲ)(KITCHEN.LABEL) など、独自の音楽テーマとエネルギーを持った画期的な三部作シリーズを海外の様々なレーベルから発表し、冥丁は世界的にも急速に近年のアンビエント・ミュージックの特異点となった。

 

日本の文化と豊かな歴史の持つ多様性を音楽表現とした発信により、The Wire、Pitchforkから高い評価を受け、MUTEK Barcelona 2020、コロナ禍を経て、SWEET LOVE SHOWER SPRING 2022、朝霧JAM 2023などの音楽フェスティバルに出演し、ヨーロッパ、シンガポール、台湾などを含む海外ツアーも成功させた。
 

ソロ活動の傍ら、一流ファッションブランドや化粧品の宣伝音楽を手掛けている。Cartier、資生堂IPSA、MERRELL、Nike Jordan、HOMME PLISSÉ ISSEY MIYAKEなど世界に名だたるブランドからの依頼を受け、イベントやキャンペーンのためのオリジナル楽曲の制作も担当している。

 


WARA(ワラ):

 
“余白をしつらふ”を合言葉に表現活動を行う。わらに触れることで瞑想に近い感覚を覚える。日本の文化や季節の移ろいを背景に心の奥底に焦点を合わせ 唯一無二の世界観を創作。 稲わら用いたしめ縄や関守石の作品制作を軸に古(いにしへ)の文化を現代に訳す空間演出を手がける。



[関連情報]

冥丁の『古風』編三部作の最終章となるアルバム『古風 Ⅲ』の発売を記念した国内ツアーが全国11都市で開催!

 

Henning Schmiedt

 

ドイツ/ベルリンのピアニスト、Henning Schmiedt(ヘニング・シュミート)が待望の新作「Orange」の制作を発表しました。 本作は10月30日にFLAUからCD/LPの2形式で発売されます。

 

長らく静かで落ち着いたピアノ曲を提供してきたヘニング・シュミートのリードシングル「Speal Softly」にも注目です。洗練性と叙情性を兼ね備えたピアノ曲。日曜の午後のやすらぎを思わせる素晴らしいポストクラシカルの登場。Olafur Arnolds、Nils Frahm、Library Tapes、Goldmund(キース・ケニフ),高木正勝、小瀬村晶がお好きなリスナーにおすすめです。


7年ぶりの来日公演も話題となったヘニング・シュミート、久々の新作は前2作のインティメイトなアップライトピアノと名作「Spazieren」のポジティブな暖かさを掛け合わせた、優しくもフレッシュなピアノ・ソロ作!


旧東ドイツ出身のピアニスト、Henning Schmiedt(ヘニング・シュミート)の最新ソロ・ピアノ・アルバムは、ミュートしたアップライト・ピアノとグランド・ピアノの両方で演奏された16曲で構成された小品集。

 

オレンジの持つ創造性、新鮮さをインスピレーションとした本作は、繊細で温かみのあるエレクトロニック・テクスチャーが効果的に使用され、エモーショナルに時に叙情的に、優しくささやくような感覚を呼び起こす。


「私にとってオレンジは色以上のもの。それは香りであり、暖かさ、バランス、そして創造への欲求を感じさせる。夏らしい暖かさ、フルーティーな輝き、オレンジの癒しの黄金の光を体現しています。それは創造性と幸福の活動的な状態を表し、森の湖で爽やかに泳ぐような、暖かくすべてを包み込む音なのです。」 - Henning Schmiedt

 

 

 


Henning Schmiedt - Orange



タイトル:Orange

アーティスト:Henning Schmiedt

発売日:2024年10月30日


tracklist:

1. tell me about

2. joie de vivre

3. don’t worry

4. glitzern

5. on my way home

6. cumulus

7. ebb and flow

8. koi

9. afloat

10. hide and seek

11. melancholy

12. orange sunset

13. stay

14. bittersweet

15. lullaby

16. speak softly


Henning Schmiedt

 

ドイツ・ベルリンのピアニスト、作曲家、編曲家。ジャズ、クラシック、ワールドミュージックなどジャンルの壁を超えた活動を先駆的に展開し、ギリシャにおける20世紀最大の作曲家と言われるミキス・テオドラキス)から絶大な信頼を受け、長年にわたり音楽監督、編曲を務めた。

 

Marie Séférianとのnousや、ausとのHAU、他Tara Nome Doyle、Christoph Bergとのコラボレーションも幅広く行う。今月Each Storyで7年ぶりの来日、来年2月にはジャパンツアーを予定している。

 

Passepartout Duo

Passepartout Duo(パスパルトゥー・デュオ)の新しいヴィルトゥオーゾ・スタジオ・アルバムであり、4枚目のフルアルバムとなる「Argot」は、シンセサイザーを通してアコースティック・ピアノのために作曲する可能性について深く再考している。このフルレングスはスウェーデン/ストックホルムのエレクトロニック・ミュージック・スタジオでのレジデンス期間中に書かれた。


この音楽には、米国の弦楽四重奏団インヴォーク、米国のコントラバス奏者アレックス・フルニエ、日本の和太鼓奏者でフルート(和楽器)奏者の住吉佑太(Yuta Sumiyoshi)も参加している。


エレクトロニック・ミュージックとアコースティック・ミュージックの境界線を曖昧にするパスパルトゥ・デュオは、音楽テクノロジーの非定型的な会話の中に新たなヴィルトゥオーゾ的リリシズムを見出す。


パスパルトゥー・デュオの4枚目のフル・アルバムであり、私たちが電子機器とどのようにコミュニケートし、コラボレーションするのかを深く追求した『アルゴット』は、シンセサイザーを知的なおしゃべりマシーンとして再解釈した作品である。

 

アルバムの各トラックは、アコースティックなグランドピアノの表面に神秘的な電子テクスチャーが万華鏡のように映し出される。シンセのヴォイスは、古代の空気と時代を超えた瞑想の感覚を呼び起こすシンプルなハーモニーのアドリブが特徴である。典型的なリズムの裏打ちがないため、マシンの未知の言語は不正確で予測不可能。他方、アコースティック楽器は、これらの非定型的なサウンドの中にリリシズムの探求を反映し、視界から遠ざかることはほとんどない。


ストックホルムのエレクトロニック・ミュージック・スタジオでの滞在中にスタジオ・アルバムとして企画された『Argot』は、1970年代のサージ・システムで録音された。これらの作品には、音声メロディーの転写技法が多用され、ピアノ・パートに複雑で、しばしば非慣用的な出発点を与えている。


このアルバムは、風変わりなもの、ドラマチックなもの、悲しげなもの、そして甘美なものの間を行き来し、時にはペルト(Arvo Part)のようなシンプルさを呼び起こす。アンセミックで明るい、あるいは運動的な瞬間は、「Get Along」や「Imitates a Penguin」の静謐な空間とは対照的である。


デュオの過去のリリースとは異なり、『Argot』では世界各地のミュージシャンの友人たちが参加している。「Colorful Quartz」では、日本の伝統的なフルートの名人芸がシンセサイザーの俊敏さに匹敵し、その調性の不安定さを繊細に際立たせている。


曲のタイトルは、それが象徴する音楽よりも明らかにシリアスではない。音楽の言語的性質に言及したクロスワードのヒントから生まれたこのフレーズは、別の意味を取り除けば一行詩となる。

 

Passepartout Duoのニューアルバム『Argot』は11月29日にリリースされる。 デュオの最新作は『Radio Yugawara』。この作品において両者は、Inoyama Landとコラボレーションしている。



Passepartout Duo 『Argot』


 

Tracklist:  

 

1.Get Along

2.Much of a Sunflower

3.Colorful Quartz

4.Imitates a Penguin

5.Back in Time

6.Uncommon

7.Kissing in the Park, Briefly

8.It’s Just a Thought

9.Viols and Violas, in Mus. 03:



 

 

 

Passepartout Duo(パスパルトゥー・デュオ):

 

ニコレッタ・ファヴァリ(イタリア)とクリストファー・サルヴィト(イタリア/アメリカ)によって結成され、エレクトロ・アコースティックのテクスチャーと変幻自在のリズムから厳選されたパレットを作り上げるデュオ。2015 年から世界を旅して「スローミュージック」と呼ぶ創造的な楽曲を発表している。

 

アナログ電子回路や従来のパーカッションを使って小さなテキスタイル・インスタレーションからファウンド・オブジェまで様々な手作り楽器を駆使して専門的かつ進化するエコシステムを開発し続ける。著名なアーティスト・レジデンスのゲストや文化スペースでのライブ・パフォーマンスなどカテゴライズされる事なく活動。ウォーターミル・センター(米国)、スウォッチ・アート・ピース・ホテル(中国)、ロジャース・アート・ロフト(米国)、外国芸術家大使館(スイス)など世界各地で数多くのアーティスト・レジデンスの機会を得ている。また 2023 年には中之条ビエンナーレに参加し、4 月には”Daisy Holiday! 細野晴臣”に出演。2024 年には”ゆいぽーと”のアーティスト・イン・レジデンスとして来日し東北・北海道を訪れています。

©︎ Rahi  Rezvani


音楽ビジネスで成功するためには、才能、タイミング、運の3つが必要だと言われる。それに加えて、注目されるためのプラスアルファが必要だ。ユップ・ベヴィン(Joep Beving)には、その4つがすべて備わっている。

ワイルドな髪に流れるようなあごひげ、身長180センチ近いオランダ人ピアニストは、まるで童話に出てくる親しみやすい巨人のようだ。しかし、彼の演奏は、控えめで、心に染み入るような、メランコリックなもので、巨人の中でも最も優しく、その繊細なメロディーは、この困難な時代に魂を癒してくれる。

「今、世界は慌ただしい。私は、基本的な人間的なレベルで人々と再びつながりたいという深い衝動を感じている。世界共通語である音楽には団結する力がある。文化の違いに関係なく、私たちは人間であることの意味を生得的に理解していると思う。私たちには、それを示す感覚がある」

ユップの音楽は、不安と恐怖に満ちた慌ただしい世界への解毒剤であり、より優しく希望に満ちた未来へのサウンドトラックである。

「かなりエモーショナルなものなんだ。私はこれを "複雑な感情のためのシンプルな音楽 "と呼んでいる。イメージを引き立てる音楽であり、観客が自分の想像力でギャップを埋められるような空間を作り出す音楽なんだ」


ユップ・ベヴィンの物語は、幸運とタイミングに恵まれたものだ。ヨープ(「ユップ」と発音)は14歳で初めてバンドを結成し、地元のジャズフェスティバルでライブデビューを果たした。彼は音楽の道か行政の道かで悩みながら学校を去った。手首の負傷によりコンセルヴァトワールでのピアノの勉強を断念し、経済学の学位取得に専念することを余儀なくされたとき、音楽の損失は公務員の利益になるものと思われた。

しかし、彼にとって音楽の魅力はあまりにも強かった。「音楽は常に私の心の中にありました」と彼は言う。相反する2つの道の妥協点にたどり着いた彼は、10年間、成功した企業でマッチングやブランド音楽の制作に携わった。「しかし、私は常に広告と愛憎関係にあった。必要のないものを売りつけるために音楽を使うのは、決して心地よいものではなかった」

余暇には、成功したオランダのニュージャズ集団、ザ・スカリーマティック・オーケストラや自称 "エレクトロソウルホップジャズ集団 "のムーディー・アレンでキーボードを演奏し、ワンマン・プロジェクトのアイ・アー・ジャイアントでエレクトロニカに手を出していた。しかし、彼自身はこんなふうに認めている。「それは自分ではなかった。自分の声を見つけられなかったんだ」




それが変わり始めたのは、広告界のアカデミー賞と呼ばれるライオンズ・フェスティバルのためにカンヌを訪れたときのことだった。「自分の音楽が聴衆に感情的な影響を与えることを目の当たりにしたのは、そのときが初めてだった」

その反響に勇気づけられたユップは、アムステルダムの自宅で親しい友人たちを招いてディナー・パーティーを開き、2009年に亡き祖母が遺したピアノで自分の曲を演奏した。「友人たちが、リビングルームの外で聴くべきだと思う音楽を私が演奏するのを聴いたのは、そのときが初めてだった。自分の楽器だけでソロ・アルバムを出すという夢を追い求める後押しになったんだ」


その1ヵ月後、親友が不慮の死を遂げたため、ユップは彼の葬儀のために追悼曲を作曲した。「彼の火葬で初めてその曲を演奏したんだ。その後、彼の永久的な記念になるようにと、みんなにレコーディングするよう勧められたんだ。彼は並外れた人でした」




その反応に触発されたユップは、さらに曲を書き、それから3ヶ月間、自分のキッチンで、ガールフレンドと2人の娘が寝ている間に演奏し、1テイクずつ録音した。こうして完成したのが、彼のデビュー・アルバム『Solipsism』である。

彼がアプローチした唯一のレコード・レーベルには断られたが、彼は1,500枚のレコードをプレスするために金を払い、アートワークはラヒ・レズヴァーニ(彼は「The Light She Brings」の素晴らしいビデオも制作した)が担当した。ジョエップは2015年3月、アムステルダムの注目のファッションデザイナー、ハンス・ウッビンクのスタジオでアルバム発売を演出し、そこで初披露した。

最初のプレス盤はすぐに完売し、主に友人に売られた。曲はスポティファイで即座にヒットし、ニューヨークのチームが人気の『Peaceful Piano』プレイリストに1曲「The Light She Brings」を追加した。「人々はその曲を保存し始めたので、別の曲を追加した。そして、私のアルバム全体を気に入ってくれるようになった。やがて『Solipsism』はバイラル現象となり、もう1曲の "Sleeping Lotus "のストリーミング再生回数は3,000万回を超えた。そして、両アルバムを合わせた全曲のストリーミング再生回数は1億8000万回を超えた。

ネット上での大成功の結果、ユップはオランダのゴールデンタイムのテレビ番組に出演することになった。その翌日、彼のアルバムはワン・ダイレクションをチャートのトップから叩き落とした。「そして数日後、アデルがカムバックしたんだ」と彼は笑う。

アムステルダムの有名なコンセルトヘボウでの名誉あるソロ・リサイタルを含め、コンサート・プロモーターからショーのオファーが殺到し、別の友人が地元のバーで "夜中の2時にみんながタバコを吸いながらモスコミュールを飲んでいる中で "彼のアルバムを演奏したことから、彼のアルバムはベルリンに渡ることになった。

偶然にも、その夜ふかしのひとりがドイツ・グラモフォンの重役であるクリスチャン・バドゥラだった。ネットで連絡を取り合った後、ユップがベルリンのクリストフォリ・ピアノサロンで演奏したときに2人は出会い、世界有数のクラシック・レーベルと契約を結ぶことになった。

この新しいパートナーシップの最初の成果が『Prehension』である。『Solipsism』の自然な後継作である本作は、ヨープが彼の音楽に見出した音楽的・哲学的テーマを継承している。「私は、身の回りで起こっていることの絶対的なグロテスクさに反応しているのだ。そのような状況では、取るに足らない無力感に苛まれ、現実や周囲の人々から自分を遠ざけてしまう。私はただ、美しいと思うものを書き、多くの音符を省き、楽器を通して物語を語り、シンプルで正直で美しいもので私たちをひとつにしようとしている」


ドイツ・グラモフォンからリリースされた新曲「Pax」は前作『Hermetism』の音楽性の延長戦上にある。サティを髣髴とさせる美しいピアノ曲を書き上げた作曲家は今回もミニマリズムを基底とする摩訶不思議な世界をアコースティックピアノにより表現している。

「Pax」は色彩的な和音はサティの系譜にあるが、楽曲構成や作風はベートーヴェンの「Moonlight」を思わせる。今回のピアノのサウンドデザインも現在のポストクラシカルを踏襲し、ハンマーや鍵盤の音響を生かしながらも、その音階の連なりはダイヤモンドのごとき高貴な輝きを放ってやまない。


「Pax」