追悼 素晴らしきドラム奏者 チャーリー・ワッツ

 

 

昨日、ローリング・ストーンズのドラマー、チャーリー・ワッツがロンドンで亡くなられたとの訃報に驚いている。 

 

 

Charlie Watts"Charlie Watts" by Jonathan Bayer is licensed under CC BY-NC-SA 2.0

 

この知らせは、パブリシストのベルナルド・ドハーティのよって公式に発表されている。渋谷陽一さんによると、今年のローリング・ストーンズのツアーには体調不良のために参加しなかったようだが、予想以上に体の調子が思わしくなかったのかもしれない。

 

この知らせに、ミック・ジャガーだけでなく、サー・ポール・マッカトニー 、サー・リンゴ・スター、レニー・クラヴィッツ、また、エルトン・ジョンといったスターも追悼の意を表している。中でも、ミック・ジャガーはインスタグラムのチャーリー・ワッツのドラムを演奏する写真をアップしている。

 

 

チャールズ・ワッツのプロフィールについては、他の記事を参照してもらいたい。ここでは彼のドラミングの素晴らしさについて端的に語っておきたい。

 

元々は、シカゴブルースの影響の強いドラマーとしてこれまで五十年以上もローリング・ストーンズで活躍してきたワッツ。最初はアメリカのブルース、ジャズを介して、ワッツはドラムを学んでいった。

 

そして、ローリング・ストーンズと出会ってから、キース・リチャーズの影響により、様々な黒人音楽、ブルース、R&Bのレコードの親しむようになり、そして、自分自身の演奏にもジャズやブルースのドラムの技法を巧みに取り入れた。当時、イギリスのロック界としては、エリック・クラプトンのクリーム然り、ブラックミュージックを白人として、どのようにクールに演奏するのかを多くのロックミュージシャンは競っていた。つまり、ロック音楽というのは、白人の黒人音楽への憧憬が大いにその成立に影響している。その面では、このチャールズ・ワッツというドラマーはそのことをよく分かっていて、ブラックミュージックの影響の色濃いまさにロックンロールを体現するドラマーであった。

 

初期からのローリング・ストーンのブルージーな泥臭さにスタイリッシュな趣を添えているのは間違いなく、キース・リチャーズではなく、このワッツである。それは元々、ハローズ・アートスクール、つまりイギリスの芸術学校で学んだという経歴も少なからず影響していると思われる。

 

ローリング・ストーンズの初期作品では、ビートルズを意識していたため、アイドル的なキャラクター性の強いミック・ジャガーとブライアン・ジョーンズの存在感が際立っているが、徐々にロックスターとして数々の名盤をリリースしていくうち、キース・リチャーズとチャーリー・ワッツの存在感が前面に出てくるようになった。彼のドラミングの最ものりが感じられるのが、名作「Beggars Banquet」」や「Exzile On Main Street」「Some Girls」といった初期から中期にかけてのストーンズのあらためて説明するまでもない名作である。ここでは黒人音楽への経緯の感じられるストーンズサウンドを、チャーリー・ワッツがリズムとして強固に支えている。

 

ローリング・ストーンズとしてのワッツは、ハイハットをクローズにして裏拍の強い、シンコペーションを最大限に生かした「裏方としてのドラマー」としてこの世界的なロックバンドの音をパワフルかつスタイリッシュな響きをもたらしていた。それはミック・ジャガーとキース・リチャーズという面々では少しブルージー過ぎて泥臭くなってしまうきらいのあるバンドサウンドを、ワッツは非常にスタイリッシュなものとしていた。それは、他の2人のロックスター然としたサウンド面でのアプローチに比べ、クールなジャズマンとしての表情を覗かせるワッツという素晴らしいドラマーの存在があったからこそ、このローリング・ストーンズはビートルズとは又異なる渋い味のあるロックバンドとしてこれまで世界的な活躍を続けてこれたのだろうかと思う。

 

もちろん、ローリング・ストーンズとしてのワッツとしては、聴くべき作品は数え切れないが、ワッツというドラマーの本質を知るためには、彼のソロ作品をあらためて聴いてみていただきたいと思う。

 

2017年、ローリング・ストーンズとしてでなく、是非、チャーリー・ワッツとして発表された「Charlie Watts Meets The Danish Radio Big Band(Live At Danish Radio Concert Hall)」に注目して貰いたい。ここでは、ロックミュージシャンとしてのワッツではなく、超一流のジャズドラマーとしてのワッツの素晴らしい集大成、そして、ジャズへの愛がここに約されている。彼のドラマーとしての最高のパフォーマンスは、ストーンズももちろんだが、この作品にこそ込められている。

 

今回、チャールズ・ワッツというドラマーがどれほど英国の音楽史に深い影響を及ぼしたのか、BBCやGaurdianの報道を見て、その書きぶりの熱意、凄さに圧倒され、プロフィールについては書く気がなくなってしまった。とてもかないっこないと思ったのである。ただ、少なくとも、ひとつだけたしかなことがある。チャールズ・ワッツは、五十年もの間、イギリスの最高のロックスターで有りつづけたのだった。このことだけは間違いのないことである。あらためて、英ロック界の最高のドラマー、チャーリー・ワッツの死に深い哀悼の意を表しておきたい。

 

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