Album Review Alex Turner「Submarine」

 Alex Turner

 

アレックス・ターナーは説明不要、アークティック・モンキーズのリードシンガーにして、フロントマンを務めるイギリスのロックアーティスト。シェフィールドの高校で、ドラマー、マット・ヘルダースと出会い、アークティック・モンキーズを結成、現在までロックミュージックシーンの最前線を走り続けている。

 

 

アークティック・モンキーズのデビューアルバム「Whatever People Say I Am,That What I'm Not」2006で鮮烈的なデビューを飾る。荒削りではありながら、往年のガレージロックを彷彿とさせる若々しいロックンロールを体現し、イギリスのロック・ミュージック界に旋風を巻き起こし、2000年代のガレージロック・リバイバルムーブメントを、LibertinesやWhite Stripes、Strokesらと共に牽引。その後、2ndアルバム「Favorite Worst Nightmare」2007ではダンス・ロックというジャンルを確立、イギリスのロックシーンでの人気を不動のものとしていく。


 

このアークティック・モンキーズのアレックス・ターナーは、非常に女性に人気のあるミュージシャンで、常にガールフレンドの報道にさらされているミュージシャン。NMEでは「The Coolman Of The Planet」に選出されている。

 

 

しかし、どうも、このあたりから、プライベート性というものを要視し、公にはメディアを避けるようになった。ガールフレンドが誰なのかを常にパパラッチに追求されるのに辟易としたみたいです。しかし、それでも、このあたりに、アレックス・ターナーのミュージシャンとしてのプロフェッショナル性があり、見かけのクールさではなく、ロックバンドとしてのクールさを評価してもらいたいという気持ちが垣間見れるようです。


 

リードシンガーとしてのアレックス・ターナーは既に不動の評価を獲得している。それまでのロックミュージックに、早口でまくしたてるような、これまでにない英語詞の歌唱法を確立。このあたりは80年代のブリットポップの新たな解釈を2000年代に試みたと言え、クラブミュージックやヒップホップのライムのような影響を、正統派のロックとして体現してみせたのがアレックス・ターナーの凄さで、アークティック・モンキーズの主要な音楽性の重要な肝といえるでしょう。

 

 

確かに、アークティック・モンキーズのアレックス・ターナーの歌い方というのはなんとなく映画俳優のような無理をして頑張るような格好良さがあります。しかし、それは多分このアーティストの一面に過ぎないのかなという気もしている。

 

 

それはアレックス・ターナーが、ソロ作品において、肩の力の抜けた、穏やかなフォークシンガーとしての実力を発揮しているからです。今回、アルバム・レビューとして御紹介させていただくのは、ロックミュージシャンとしてではなく、フォークアーティストとしてのクールな一面が楽しめるEPで、これからの季節、秋の夜長に、ひとりでじっくり聴き耽りたいような秀逸な作品です。

 




 「Submarine」Alex Turner  2011


  

1.Stuck on the Puzzle-intro

2.Hiding Tonight

3.Glass in the park

4.It's hard to get around the wind

5.Stuck on the puzzle

6.Piledriver waltz

 

この「サブマリン」というのは映像作品で、これまでアークティックモンキーズのMVを手掛けてきた盟友といえるリチャード・アイオアディ監督のロマンス映画です。ジョー・ダンソンの小説を映画化した作品のサウンドトラックです。 

 

つまり、これまでプロモーションを手掛けてくれた友人に対するお礼と感謝のために制作されたアレックス・ターナーの返報代わりのEP作品といえなくもないかもしれません。サウンドトラック作品としてのリリースは、アークティック・モンキーズのアルバム「Stuck it and see」の数ヶ月前に発表されていることから、アークティック・モンキーズのスタジオアルバム制作の合間をぬって録音された作品です。 

 

そして、「Sumarine」では、アレックス・ターナーのロックミュージシャンとしてはまた別の魅力的なボーカルの雰囲気が味わえる作品となっています。音源作品としては、アークティック・モンキーズのオリジナルアルバムほどには話題にならず、イギリスでもチャートの最高位が33位と驚くほど話題性に欠ける作品ですが、ここでアレックス・ターナーはアークティック・モンキーズのギラギラしたボーカルとは又異なる新境地を開拓しようと試みているように思えます。

 

このサウンドトラックの表題曲とも言える「Stuck on the puzzle」は、フォークバージョンとクラブミュージック寄りのアレンジバージョンが今作には、二パターン収録されています。そして、ここではアークティック・モンキーズでは出来ない音楽性を試みたのではないかと思える。サブマリン全体の印象としては、#3「Glass in the park」に代表されるボブ・ディランのようなフォーク寄りの音楽性で、アコースティックの指引きのアルペジオの美しさ、嫋やかさ、そして、やさしく手を差し伸べるような心に染みる歌声を、ここでアレックス・ターナーは披露する。

 

もちろん、真夜中のアンニュイな雰囲気に満ちたアークティック・モンキーズのロックのムード、またあるいは、陶酔したような現代的なR&Bバラード色を引き継いだ上で、夜中にひとり、口笛を朗らかに吹くかのごときダンディズム性のある歌声が聞き所といえるでしょう。

 

 

それはちょっとした瞬間、心からふと、こぼれ落ちる哀しみであり、涙であり、寂しさ。それらがこのEP作品の多くの楽曲には人間味のある深い情感として素直に表現されている。その上で、そういった哀しみ、涙、寂しさを、朗らかに笑い飛ばすような雰囲気が醸し出されているように思える。

 

つまり、ロマンス映像作品としてのサントラと言う面ではコレ以上はないハマり具合といえる。

 

これまでアレックス・ターナーは、一度もサントラを手掛けたことがないのに、映像と音楽の情感の合致を完全に成功させているのは驚きですが、その辺の器用さは音楽家として生来の天才性に恵まれているからこそ。

 

そして、また、アークティック・モンキーズと決定的に異なるのは、アレックス・ターナーの歌声です。アークティック・モンキーズでは何かしら切迫したような歌い方をするシンガーなんですが、ここでは、囁くというか、ボソッと呟く、嘯くような歌い方で、これもまたメインプロジェクトと異なるダンディズム、ブルーズのクールな質感が醸し出されている。このダンディズム性が何か楽曲の良さと相まって、ホロリとさせるような、やさしげな情感があって非常に素敵です。

 

この作品「Submarine」では、コレまで自身の映像作品を手掛けてきた盟友、リチャード・アイアディへの友情ともいうべきものが功を奏したというべきでしょう。メインプロジェクト、アークティック・モンキーズの作品の重圧、スターミュージシャンでなければいけないという若い頃からの厳しい柵から解き放たれ、アレックス・ターナーの歌声の本来の魅力が存分に引き出されている。

 

少し、弱気なところもあるけれど、いや、でもそれこそ、このリードシンガーの自然な美しさが宿っているように思えます。それは肩肘を張ったスターロックミュージシャンとしてでなく、等身大のアレックス・ターナーの姿がここに表現されている。そしてまた、こシンガーの自然体の歌声が聴くことができるのは、多分これまでのキャリアの中、このEP作品だけかもしれません。

 

六曲収録の少アルバムの形式ですが、コンパクトなスタイルの作品ゆえ、殆ど助長なところがなく、捨て曲なし。全体的な構成としても引き締まった名作です。そして、ロックバンドとしてはこれまで表現しえなかった、アレックス・ターナーのフォーク音楽に対する深い造詣が味わえる作品となっています。